説明

液圧ブースタ及びそれを用いた液圧ブレーキ装置

【課題】ブレーキ操作を助勢する液圧ブースタを還流式調圧ユニットと組み合わせて使用するときのポンプバックに起因したホイールシリンダ圧の制御精度の低下、マスタシリンダのカップの耐久性などに影響を及ぼす脈動の発生、及び操作フィーリングの悪化を抑制することを課題としている。
【解決手段】還流式調圧ユニット30を有する液圧ブレーキ装置に、補助液圧源7と、その補助液圧源から供給される液圧をブレーキ操作部材1の操作量に応じた値に調圧してブースト室3bに導入する調圧装置8と、ブースト室3bに導入された液圧を受けて助勢力を発生させてマスタピストン2aを作動させるブーストピストン3cと、ブースト室3bに連通させるダンパ室13を有する液圧ブースタを備えさせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、補助液圧源から供給される液圧を利用してブレーキ操作部材の操作量に応じた助勢力を発生させ、助勢された力をマスタシリンダに加える液圧ブースタとその液圧ブースタを備える液圧ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力駆動のポンプと蓄圧器を備えた補助液圧源から供給される液圧を、スプール弁を有する調圧装置でブレーキ操作部材の操作量に応じた値に調圧してブースト室に導入し、その液圧をブーストピストンに作用させてブレーキ操作量に応じた助勢力を発生させ、助勢された力(車両の運転者によるブレーキ操作力に助勢力を加えた力)をマスタシリンダのピストンに加える液圧ブースタの基本技術として、下記特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
また、電子制御装置からの指令に基づいてABS(アンチロック制御)やESC(車両安定化制御)を実行する還流式の調圧ユニットを備えた液圧ブレーキ装置が市場に供されている。
【0004】
還流式の調圧ユニットは、車輪速、ブレーキ操作部材の操作ストローク、ブレーキ液圧、車両の挙動などを検出する既知の各種センサからの情報に基づいて電子制御装置がホイールシリンダの減圧の必要性を判断したときに、マスタシリンダからホイールシリンダに至る液圧経路を増圧用電磁弁で遮断し、減圧用電磁弁でホイールシリンダを低圧液溜めに接続して減圧制御を行なう。
【0005】
また、この後に電子制御装置が再加圧の必要性を判断すると、動力駆動の還流用ポンプを駆動して低圧液溜め中のブレーキ液を汲み上げ、増圧用電磁弁を開き、減圧用電磁弁を閉じて汲みあげたブレーキ液をマスタシリンダからホイールシリンダに至る液圧経路に還流させる。
【0006】
この還流式調圧ユニットを採用した液圧ブレーキ装置は、還流用ポンプで汲み上げたブレーキ液がマスタシリンダからホイールシリンダに至る液圧経路に導入される位置(還流点)よりも上流側(マスタシリンダ側)に遮断弁を設置し、ABSなどの制御が実行されるときにその遮断弁を閉じるものと、上記遮断弁を設置しないものの2形態が提案されている。
【0007】
このうち、遮断弁の無い後者の形態は、還流用ポンプが汲み上げたブレーキ液がマスタシリンダに向けて逆流する(これはポンプバックと称されている。ここではその呼び名を使用する)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US4,548,037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
還流式の調圧ユニットを備える従来の液圧ブレーキ装置で、運転者のブレーキ操作を助勢するブースタを組み合わせるものは、エンジンの負圧を利用して助勢力を発生させる真空ブースタを採用していたが、吸気バルブのリフト量を連続可変とすることで吸気バルブをスロットルバルブとして機能させるバルブマチック化車両やHEV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)などではエンジンの負圧による助勢を期待できないため、液圧ブースタを組み合わせることが検討されている。その液圧ブースタは、ブースト室に導入された液圧(ブースト圧)をブーストピストンに作用させて助勢力を発
生させる。
【0010】
ところが、真空ブースタに代えて液圧ブースタを採用する場合には、ポンプバックに起因した調圧の精度低下、それによるブレーキの操作フィーリングの悪化やマスタシリンダのカップの耐久性低下などの問題を回避する策が不可欠となる。
【0011】
即ち、ポンプバックが起こると、調圧ユニットから逆流した液圧によってマスタシリンダのピストンが押し戻され、その力がブーストピストン(真空ブースタではパワーピストンと称されている)に伝わってブーストピストンも押し戻される。
【0012】
負圧室と大気室の圧力差でパワーピストンを作動させて助勢力を発生させる真空ブースタを採用した液圧ブレーキ装置では、パワーピストンが押し戻しされても、パワーピストンの変位によって圧縮されるのは大気室に封じ込められた空気であるため、大気室の圧力上昇はさほど大きくならず、ポンプバックによる影響は軽微に抑えられる。
【0013】
これに対し、液圧ブースタは、ポンプバックによるブーストピストンの押し戻しによって圧縮されるのがブースト室に封じ込められたブレーキ液であり、そのブレーキ液が非圧縮性の油であるため、ブースト室をリザーバに連通させる排出ポートが開くまでの間のブースト室の圧力上昇が無視できないものになる。
【0014】
ホイールシリンダ圧の電子制御がいわゆる差圧制御によってなされる液圧ブレーキ装置の場合、ポンプバックによるマスタシリンダ圧の上昇に見合う分の圧力上昇がブースト室に起こり、マスタシリンダ圧がブースト圧に釣り合うように上昇する。そのために、ABS制御などの信頼性を低下させるホイールシリンダ圧の制御精度の低下、マスタシリンダのカップの耐久性などに悪影響を及ぼす脈動の発生、及びこれに伴うブレーキの操作フィーリングの悪化などの問題が起こる。
【0015】
電子制御によるホイールシリンダの調圧制御がパルス制御によってなされる液圧ブレーキ装置も、増圧モードでポンプバックによるブースト圧の上昇が起こるとホイールシリンダへの液圧導入量が目標量よりも増加する。従って、差圧制御方式の液圧ブレーキ装置ほどではないが、制御の信頼性低下や操作フィーリングの悪化などが起こる。
【0016】
この発明は、液圧ブースタを還流式の調圧ユニット(ABSユニットやESCユニット)と組み合わせて使用するときのポンプバックに起因したホイールシリンダ圧の制御精度の低下、マスタシリンダのカップの耐久性などに影響を及ぼす脈動の発生、及びこれに伴うブレーキの操作フィーリングの悪化を抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下記(1)の液圧ブースタと、それを用いた下記(2)の液圧ブレーキ装置を提供する。
(1)動力駆動のポンプと蓄圧器とを有する補助液圧源と、その補助液圧源から供給される液圧をスプール弁の変位によってブレーキ操作部材の操作量に応じた値に調圧してブースト室に導入する調圧装置と、前記ブースト室に導入された液圧を受けて助勢力を発生させ、助勢された力でマスタシリンダのマスタピストンを作動させるブーストピストンとを備える液圧ブレーキ装置用の液圧ブースタであって、前記ブースト室、及びマスタシリンダの圧力室のいずれか一方又は双方に連通させるダンパ室を備える。
【0018】
(2)上記(1)の液圧ブースタと、その液圧ブースタにブレーキ操作力を加えるブレーキ操作部材と、前記液圧ブースタに助勢されてマスタピストンが作動するマスタシリンダと、そのマスタシリンダから供給される液圧で制動力を発生させるホイールシリンダと、
前記ホイールシリンダの液圧を流出させる減圧用電磁弁、そのホイールシリンダに液圧を導入する増圧用電磁弁、前記減圧用電磁弁経由で前記ホイールシリンダから流出させたブレーキ液を汲み上げて前記マスタシリンダから前記ホイールシリンダに至る液圧経路に還流させる還流用ポンプを備える還流式調圧ユニットと、
前記ホイールシリンダの減圧の必要性と再加圧の必要性を判断して前記減圧用電磁弁と増圧用電磁弁に作動指令を出す電子制御装置を組み合わせて構成される液圧ブレーキ装置。
【0019】
なお、前記液圧ブースタのダンパ室は、前記ブースト室、マスタシリンダの圧力室のいずれか一方又は双方に常時連通するように接続しておくとよい。
【0020】
前記ダンパ室は、前記ブースト室の最大容積よりも容積の大きい貯液室であるものが好ましいが、当該ダンパ室に連通した部屋の液圧を受けて変位もしくは変形してそのダンパ室の容積を増大させる部材を伴った容積可変の部屋として構成されていてもよい。
【0021】
ダンパ室の容積を変化させる前記部材は、一端がダンパ室に臨み、他端側がスプリングもしくは変形可能なゴムピースに支えられたピストンや、ダンパ室に導入された液圧を一面に受けて変形する板ばねなどが挙げられる。
【0022】
その部材として、ダンパ室の圧力を一面に受けて変形する板ばねを用いるときには、その板ばねの変形量を制限するストッパを併設することを奨める。
【0023】
なお、前記ダンパ室は、液圧ブースタのハウジングと一体に形成されたボディの内部に設けてもよいし、液圧ブースタのハウジングから独立させたボディの内部に設けてもよい。
【発明の効果】
【0024】
この発明の液圧ブースタとそれを用いた液圧ブレーキ装置は、ポンプバックによってマスタシリンダのピストンとブーストピストンが押し戻されると、マスタシリンダの圧力室やブースタのブースト室からそれらの部屋に連通したダンパ室にブレーキ液が逃げる。このために、ブースト圧の上昇、それに伴うマスタシリンダ圧の上昇が抑えられ、ホイールシリンダ圧の制御精度が安定して、ABS制御やESC制御の信頼性が向上する。
【0025】
また、マスタシリンダの圧力室やブースタのブースト室からダンパ室へのブレーキ液の逃げによって緩衝効果が生じるため、脈動の発生が抑制され、ブレーキの操作フィーリングの悪化も抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第1実施形態の概要を示す断面図
【図2】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第2実施形態の概要を示す断面図
【図3】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第3実施形態の概要を示す断面図
【図4】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第4実施形態の概要を示す断面図
【図5】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第5実施形態の概要を示す断面図
【図6】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第6実施形態の概要を示す断面図
【図7】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第7実施形態の概要を示す断面図
【図8】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第8実施形態の概要を示す断面図
【図9】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第9実施形態の概要を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面の図1〜図9に基づいて、この発明の液圧ブースタとそれを用いた液圧ブレーキ装置の実施の形態を説明する。
【0028】
図1に示す液圧ブレーキ装置(第1実施形態)は、ブレーキ操作部材(図のそれはブレーキペダル)1と、マスタシリンダ2と、液圧ブースタ3と、マスタシリンダ2から供給される液圧で制動力を発生させるホイールシリンダ4と、還流式調圧ユニット30と、電子制御装置5を組み合わせて構成されている。6は、補液源として設けられるリザーバである。電子制御装置5にホイールシリンダ4の減圧、増圧の必要性を判断する情報を流すセンサ類は図には示していない。
【0029】
マスタシリンダ2は、マスタピストン2aを推進させて圧力室2bに液圧を発生させる復帰スプリグ2cの含まれた既知のタンデム型のものを例示した。
【0030】
液圧ブースタ3は、補助液圧源7と、その補助液圧源7から供給される液圧をブレーキ操作部材1の操作量に応じた値に調圧してブースト室3bに導入する調圧装置8を有している。
【0031】
また、ブースト室3bに導入された液圧(ブースト圧)を受けて助勢力を発生させ、助勢された力(推力)でマスタシリンダ2のマスタピストン2aを作動させるブーストピストン3cと、この発明を特徴づけるダンパ室13を有している。
【0032】
補助液圧源7は、ポンプ7a、そのポンプを駆動するモータ7b、蓄圧器(アキュムレータ)7c及び圧力センサ7dを組み合わせたものであって、圧力センサ7dによる検出圧力に基づいてモータ7bをオン、オフさせ、蓄圧器7cに蓄える液圧を規定の上下限値内に保持する。
【0033】
調圧装置8は、ブレーキ操作部材1から入力される操作力を受けて変位するスプール弁8aとそのスプール弁の復帰スプリング8bを有する。また、ブーストピストン3cに形成された導入路8cと排出路8dを有する。
【0034】
その導入路8cと排出路8dは、スプール弁8aの変位によって開かれ、導入路8cが開いたときにはブースト室3bが補助液圧源7につながり、排出路8dが開いたときにはブースト室3bが液室9経由でリザーバ6につながる。
【0035】
この調圧装置8は、スプール弁8aの変位によって補助液圧源7とリザーバ6に対するブースト室3bの接続の切り換えと、補助液圧源7とリザーバ6の双方からの切り離しがなされる。この調圧装置8の働きで、補助液圧源7からブースト室3bに導入される液圧(ブースト圧)が、ブレーキ操作部材の操作量に応じた値に調圧される。その調圧のメカニズムは周知であるので、ここでの詳細説明
は省略する。
【0036】
ブーストピストン3cは、ブースト室3bのブースト圧を受けて前進し、その推力(助勢された力)が動力伝達部材10経由でマスタシリンダ2に伝達されてマスタピストン2aが作動し、圧力室2bにブレーキ液圧が発生する。タンデムマスタシリンダは、図1において右側のマスタピストン2aが作動して右側の圧力室2bに液圧が発生するとその液圧を受けて左側のマスタピストン2aも作動し、左側の圧力室2bにも右側と同圧の液圧が発生する。
【0037】
マスタシリンダの各圧力室2bに発生する圧力は、ブースト室3bのブースト圧と均衡する値となる。その圧力室2bに発生した圧力の反力が、動力伝達部材10、ゴムディスク11及びスプール弁8aを介してマスタピストン2aからブレーキ操作部材1に伝わる。ゴムディスク11は、ブレーキ操作量に応じた反力を作り出す。これは周知の好ましい要素であるが、必須ではない。
【0038】
ダンパ室13は、第1実施形態では、液圧ブースタ3のハウジング3aと一体のボディ13aを設けてそのボディ13aの内部に形成している。ボディ13aに設けた穴の開口をプラグ14で液密に封鎖してブースト室3bに連通した容積の一定したダンパ室13を作り出している。15は、プラグ固定用スプリングである。プラグ14の固定は、プラグ固定用スプリングを使用せずに、ねじ込みやかしめ固定などで行なっても構わない。
【0039】
このダンパ室13は、その容積が大きいほど、ダンパ室設置の効果が高まる。そのダンパ室の具体的な大きさは、例えば、ブースト室3bの最大容積(ブーストピストン3cがフルストロークしたときの容積)を比較の基準としてそれよりもダンパ室13の容積を大きくすることが考えられる。
【0040】
還流式調圧ユニット30は、ホイールシリンダ4の液圧を流出させる減圧用電磁弁31と、ホイールシリンダ4に液圧を導入する増圧用電磁弁32と、減圧用電磁弁31経由でホイールシリンダ4から流出させたブレーキ液を一時的に取り込む低圧液溜め33と、ホイールシリンダ4から流出させたブレーキ液を汲み上げてマスタシリンダ2からホイールシリンダ4に至る液圧経路12に還流させる還流用ポンプ34と、その還流用ポンプ34を駆動するモータ35を組み合わせた既知のユニットである。
【0041】
還流式調圧ユニット30を構成する減圧用電磁弁31と増圧用電磁弁32は、オン、オフ式の電磁弁、コイルに流す電流の大きさに応じて弁部の開度が調整される既知のリニア電磁弁のどちらであってもよい。
【0042】
このように構成した図1の液圧ブレーキ装置は、制動中に電子制御装置5からの指令で還流用ポンプ34が駆動されるとポンプバックが生じ、マスタシリンダのマスタピストン2aとブーストピストン3cが押し戻される。このとき(還流用ポンプ34が駆動される状況のとき)、ブースト室3bは、リザーバ6と補助液圧源7の双方から切り離されて封止されているが、ブーストピストン3cが押し戻されるとブースト室3b内のブレーキ液が圧縮の余裕があるダンパ室13に逃げるため、ブースト室3bの圧力上昇が抑制され、それにより、マスタシリンダ圧の上昇も抑えられてホイールシリンダ圧の制御精度が安定する。その結果、ABS制御やESC制御の信頼性が向上する。
【0043】
図2に、第2実施形態の液圧ブレーキ装置を示す。この図2の液圧ブレーキ装置は、ダンパ室13を、容積可変の部屋として構成したものであって、第1実施形態との相違は、そのダンパ室13の構成のみである。従って、ここでは、図1の第1実施形態と同一の要素は、同一符合を付して説明を省略し、第1実施形態との相違点のみについて説明を行う(後述する第3、第4実施形態も同様)。
【0044】
第2実施形態の液圧ブレーキ装置に設けたダンパ室13には、そのダンパ室に連通したブースト室3bの液圧を一端に受けて変位するピストン16と、そのピストンにリテーナ17経由で復帰力を加えるスプリング18と、スプリング18を収納した穴の開口を閉じるプラグ14を伴わせている。
【0045】
この図2のダンパ室13は、ポンプバックが生じてブーストピストン3cが押し戻されると、ピストン16がブースト室3bの液圧を一端に受けて図中左方に移動する。そのために、ダンパ室13の容積が拡大し、ブースト室3bの液圧がそのダンパ室13に逃げてブースト圧とマスタシリンダ圧の昇圧が抑制される。
【0046】
なお、スプリング18の初期荷重は、マスタシリンダ圧が、還流式調圧装置の最低作動圧(低μ路でのABS制御の最低作動圧)以下のときには圧縮変形しないように設定すると、ブースト室の圧力が不要時にダンパ室に逃げることが防止されて好ましい。
【0047】
図3は、この発明の液圧ブレーキ装置の第3実施形態である。この図3の液圧ブレーキ装置も、ダンパ室13を、容積可変の部屋として構成している。第1実施形態との相違は、第2実施形態と同様、ダンパ室13の構成のみである。従って、ここでも、第1実施形態との相違点のみについて説明を行う。
【0048】
第3実施形態の液圧ブレーキ装置は、第2実施形態のダンパ室に附属させたスプリング18をゴムピース19に、リテーナ17を当て板20にそれぞれ置き換えたものと考えてよい。21は、ピストン16を初期位置に位置決めするばねである。ゴムピース19は、初期状態では外周に逃げ代となる隙間があり、その隙間によって変形が許容される。その変形によってピストン16の図中左方への変位が許容され、ポンプバックが生じたときにブースト室3bの圧力がピストン16を変位させてダンパ室13に流れる。従って、第3実施形態の液圧ブレーキ装置も、図2の第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0049】
図4は、この発明の液圧ブレーキ装置の第4実施形態である。この図4の液圧ブレーキ装置も、ダンパ室13を、容積可変の部屋として構成している。ダンパ室13とボディ13aに形成した穴との間に、ブースト室3bからダンパ室13に導入されるブースト圧を一面に受ける板ばね22と液封用のシールリング23を配置し、さらに、ボディ13aに形成した穴にプラグ24と、板ばね22の変形量を制限するゴム製のストッパ25と、プラグ24を固定するロックねじ26を設けている。
【0050】
板ばね22は、ブースト室3bの圧力を一面に受け、ブースト圧が設定圧を上回ったときにその圧力によって鎖線で示すように変形する。その変形によりダンパ室13の容積が拡大し、ポンプバック発生時のブースト室3bの圧力上昇が抑制される。なお、ストッパ25は、板ばね22が弾性変形の限界を超えて変形することを防止するために設けた。
【0051】
この発明の液圧ブレーキ装置の第5〜第8実施形態を図5〜図8に示す。この図5〜図8の液圧ブレーキ装置は、液圧ブースタのハウジング3aから独立させたボディ13bを設けてそのボディ13bの内部にダンパ室13を設けた点、ダンパ室13をマスタシリンダの圧力室2bに連通させた点が既述の実施形態と異なる。
【0052】
図5の第5実施形態の液圧ブレーキ装置は、図1の液圧ブレーキ装置のダンパ室13をマスタシリンダの圧力室2bに連通させたもの、図6の第6実施形態の液圧ブレーキ装置は、図2の液圧ブレーキ装置のダンパ室13をマスタシリンダの圧力室2bに連通させたもの、図7の第7実施形態の液圧ブレーキ装置は、図3の液圧ブレーキ装置のダンパ室13をマスタシリンダの圧力室2bに連通させたもの、図8の第8実施形態の液圧ブレーキ装置は、図4の液圧ブレーキ装置のダンパ室13をマスタシリンダの圧力室2bに連通させたものと考えてよい。
【0053】
図5〜図8の液圧ブレーキ装置に設けたダンパ室13は、液圧ブースタのハウジング3aから独立させたボディ13bに形成したが、ボディ13bはハウジング3aと一体のものであってもよい。その他の構成は第1〜第4の実施形態と同じであるので、説明を省く。
【0054】
この第5〜第8実施形態の液圧ブレーキ装置は、ポンプバックによってマスタシリンダの圧力室2bに逆流したブレーキ液がダンパ室13に流れ、これにより、マスタピストン2aがブーストピストン3cを押し戻す力が緩和されてブースト室3bの昇圧とそれに伴うマスタシリンダ圧の昇圧が抑制される。
【0055】
この第5〜第8実施形態のように、ダンパ室13をマスタシリンダの圧力室2bに常時連通させると、通常制動の初期にマスタシリンダ2で発生させた液圧がダンパ室13にも流れる。従って、通常制動時の応答性の面では、第5〜第8実施形態よりも、ダンパ室13をブースト室3bに接続した第1〜第4実施形態が有利である。
【0056】
なお、上述したダンパ室を2つ備えさせて一方のダンパ室を液圧ブースタのブースト室に、他方のダンパ室をマスタシリンダの圧力室にそれぞれ接続する構造でもこの発明の効果が発揮される。
【0057】
図9は、この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第9実施形態である。この図9の液圧ブースタ、および液圧ブレーキ装置は、補助液圧源7の蓄圧器7cを低圧部(図はリザーバ6)に連通させる通路27を設けてその通路27にリリーフ装置28を配置している。
【0058】
リリーフ装置28は、電磁弁28aで構成される。電磁弁28aは、ここでは、差圧制御の可能な常閉型の比例電磁弁を用いている。その差圧制御の可能な常閉型の比例電磁弁としては、例えば、特開2009−63024号公報に開示された常閉型のリニアバルブがある。
【0059】
この図9の第9実施形態の液圧ブレーキ装置は、電磁弁28aを開弁させることで蓄圧器7cの液圧を低圧部に逃がして蓄圧器7c内の液圧(すなわち、補助液圧源7の液圧)を所期の液圧にまで低下させ、これにより、ペダル踏力によって調圧装置8のスプール弁8aが導入路8cを全開にし得る状況(補助液圧源7の液圧とブースト室3bの液圧とが等しい状況)を作りだし、これにより、ブースト室3bに連通した補助液圧源7の蓄圧器7cをダンパとして利用するものである。
【0060】
具体的には、ポンプバック開始前(ホイールシリンダの増圧前)のマスタシリンダ圧をモニタし、ABS制御の開始後、かつ、ポンプバック開始前に電磁弁28aを開弁させて補助液圧源7の液圧を下げ、上記「所期の液圧」になるところまで蓄圧器7cの液圧を低下させる。そして、その「所期の液圧」を維持するように電磁弁28aを制御する。電磁弁28aが図示の比例電磁弁である場合は、駆動電流を調整してその電磁弁の開度を制御することで「所期の液圧」の維持を精度よく行うことができる。
【0061】
ここで言う「所期の液圧」とは、ポンプバック開始直前のマスタシリンダ圧と釣り合うブースト圧を指す。ポンプバック発生の予告となるABS制御の開始(フラグオン)を、電磁弁28aを開かせるきっかけとする。マスタシリンダ圧のモニタ開始は、ABS制御の開始後であっても、それ以前であってもよい。いずれにしても、ABS制御の開始からポンプバック開始までの間に、上記「所期の液圧」を演算し、電磁弁28aを開弁させて演算した液圧まで補助液圧源7の液圧を低下させる。そうすることで、蓄圧器7cをダンパとして働かせてポンプバックに起因したマスタシリンダ圧、ブースト圧の異常昇圧を抑制し、ポンプバックによる脈動、その脈動によるブレーキの操作フィーリングの悪化などを抑制することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 ブレーキ操作部材
2 マスタシリンダ
2a マスタピストン
2b 圧力室
2c 復帰スプリング
3 液圧ブースタ
3a ハウジング
3b ブースト室
3c ブーストピストン
4 ホイールシリンダ
5 電子制御装置
6 リザーバ
7 補助液圧源
7a ポンプ
7b モータ
7c 蓄圧器
7d 圧力センサ
8 調圧装置
8a スプール弁
8b 復帰スプリング
8c 導入路
8d 排出路
9 液室
10 動力伝達部材
11 ゴムディスク
12 液圧経路
13 ダンパ室
13a ハウジング3aと一体のボディ
13b ハウジング3aと別体のボディ
14 プラグ
15 プラグ固定用スプリング
16 ピストン
17 リテーナ
18 スプリング
19 ゴムピース
20 当て板
21 初期位置決め用ばね
22 板ばね
23 シールリング
24 プラグ
25 ストッパ
26 ロックねじ
27 通路
28 リリーフ装置
28a 電磁弁
30 還流式調圧ユニット
31 減圧用電磁弁
32 増圧用電磁弁
33 低圧液溜め
34 還流用ポンプ
35 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力駆動のポンプ(7a)と蓄圧器(7c)とを有する補助液圧源(7)と、その補助液圧源(7)から供給される液圧をスプール弁(8a)の変位によってブレーキ操作部材(1)の操作量に応じた値に調圧してブースト室(3b)に導入する調圧装置(8)と、前記ブースト室(3b)に導入された液圧を受けて助勢力を発生させ、助勢された力でマスタシリンダ(2)のマスタピストン(2a)を作動させるブーストピストン(3c)とを備える液圧ブレーキ装置用の液圧ブースタであって、前記ブースト室(3b)、及びマスタシリンダの圧力室(2b)のいずれか一方又は双方に連通させるダンパ室(13)を備える液圧ブレーキ装置用の液圧ブースタ。
【請求項2】
請求項1に記載の液圧ブースタ(3)と、その液圧ブースタ(3)にブレーキ操作力を加えるブレーキ操作部材(1)と、前記液圧ブースタ(3)に助勢されてマスタピストン(2a)が作動するマスタシリンダ(2)と、そのマスタシリンダ(2)から供給される液圧で制動力を発生させるホイールシリンダ(4)と、
前記ホイールシリンダ(4)の液圧を流出させる減圧用電磁弁(31)、上記ホイールシリンダ(4)に液圧を導入する増圧用電磁弁(32)、前記減圧用電磁弁(31)経由で前記ホイールシリンダ(4)から流出させたブレーキ液を汲み上げて前記マスタシリンダ(2)から前記ホイールシリンダ(4)に至る液圧経路(12)に還流させる還流用ポンプ(34)を備える還流式調圧ユニット(30)と、
前記ホイールシリンダ(4)の減圧の必要性と再加圧の必要性を判断して前記減圧用電磁弁(31)と増圧用電磁弁(32)に作動指令を出す電子制御装置(5)を組み合わせて構成される液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
前記ダンパ室(13)が、前記ブースト室(3b)、前記マスタシリンダの圧力室(2b)のいずれか一方又は双方に常時連通するように接続された請求項2に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項4】
前記ダンパ室(13)が、前記ブースト室(3b)に接続された請求項3に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項5】
前記ダンパ室(13)が、前記マスタシリンダの圧力室(2b)に接続された請求項3に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項6】
前記ダンパ室(13)が、前記ブースト室(3b)の最大容積よりも容積の大きい容積一定の貯液室である請求項2〜5のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項7】
前記ダンパ室(13)が、当該ダンパ室に連通した部屋の液圧を受けて変位もしくは変形してそのダンパ室の容積を増大させる部材を伴った容積可変の部屋として構成された請求項2〜5のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項8】
前記部材が、前記ダンパ室(13)に一端が臨み、他端側がスプリング(18)もしくは変形可能なゴムピース(19)に支えられたピストン(16)である請求項7に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項9】
前記部材が、前記ダンパ室(13)に導入された液圧を一面に受けて変形する板ばね(21)であり、その板ばね(21)の変形量を制限するストッパ(25)が併設された請求項7に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項10】
前記ダンパ室(13)が、前記液圧ブースタ(3)のハウジング(3a)と一体に形成されたボディ(13a)の内部に設けられた請求項2〜9のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項11】
前記ダンパ室(13)が、前記液圧ブースタ(3)のハウジング(3a)から独立させたボディ(13b)の内部に設けられた請求項2〜9のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−206682(P2012−206682A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75531(P2011−75531)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】