説明

液圧ブースタ及びそれを用いた液圧ブレーキ装置

【課題】ブレーキ操作を助勢する液圧ブースタを還流式調圧ユニットと組み合わせて使用するときのポンプバックに起因したホイールシリンダ圧の制御精度の低下、マスタシリンダのカップの耐久性などに影響を及ぼす脈動の発生及び操作フィーリングの悪化を抑制することを課題としている。
【解決手段】還流式調圧ユニット20を有する液圧ブレーキ装置に、補助液圧源9と、その補助液圧源から供給される液圧をスブレーキ操作部材1の操作量に応じた値に調圧してブースト室3aに導入する調圧装置10と、ブースト室3aに導入された液圧を受けて助勢力を発生させてマスタピストン2aを作動させるブーストピストン3bと、ブースト室3aをリザーバ6に連通させる通路14に弁部開度を調節可能な電磁弁15aを配置して構成されるリリーフ装置15とを有する液圧ブースタ3を備えさせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、補助液圧源から供給される液圧を利用してブレーキ操作部材の操作量に応じた助勢力を発生させ、助勢された力をマスタシリンダに加える液圧ブースタとその液圧ブースタを備える液圧ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力駆動のポンプと蓄圧器を備えた補助液圧源から供給される液圧を、スプール弁を有する調圧装置でブレーキ操作部材の操作量に応じた値に調圧してブースト室に導入し、その液圧をブーストピストンに作用させてブレーキ操作量に応じた助勢力を発生させ、助勢された力(車両の運転者によるブレーキ操作力に助勢力を加えた力)をマスタシリンダのピストンに加える液圧ブースタの基本技術として、下記特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
また、電子制御装置からの指令に基づいてABS(アンチロック制御)やESC(車両安定化制御)を実行する還流式の調圧ユニットを備えた液圧ブレーキ装置が市場に供されている。
【0004】
還流式の調圧ユニットは、車輪速、ブレーキ操作部材の操作ストローク、ブレーキ液圧、車両の挙動などを検出する既知の各種センサからの情報に基づいて電子制御装置がホイールシリンダの減圧の必要性を判断したときに、マスタシリンダからホイールシリンダに至る液圧経路を増圧用電磁弁で遮断し、減圧用電磁弁でホイールシリンダを低圧液溜めに接続して減圧制御を行なう。
【0005】
また、この後に電子制御装置が再加圧の必要性を判断すると、動力駆動の還流用ポンプを駆動して低圧液溜め中のブレーキ液を汲み上げ、増圧用電磁弁を開き、減圧用電磁弁を閉じて汲みあげたブレーキ液をマスタシリンダからホイールシリンダに至る液圧経路に還流させる。
【0006】
この還流式調圧ユニットを採用した液圧ブレーキ装置は、還流用ポンプで汲み上げたブレーキ液がマスタシリンダからホイールシリンダに至る液圧経路に導入される位置(還流点)よりも上流側(マスタシリンダ側)に遮断弁を設置し、ABSなどの制御が実行されるときにその遮断弁を閉じるものと、上記遮断弁を設置しないものの2形態が提案されている。
【0007】
このうち、遮断弁の無い後者の形態は、還流用ポンプが汲み上げたブレーキ液がマスタシリンダに向けて逆流する(これはポンプバックと称されている。ここではその呼び名を使用する)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US4,548,037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
還流式の調圧ユニットを備える従来の液圧ブレーキ装置で、運転者のブレーキ操作を助勢するブースタを組み合わせるものは、エンジンの負圧を利用して助勢力を発生させる真空ブースタを採用していたが、吸気バルブのリフト量を連続可変とすることで吸気バルブをスロットルバルブとして機能させるバルブマチック化車両やHEV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)などではエンジンの負圧による助勢を期待できないため、液圧ブースタを組み合わせることが検討されている。その液圧ブースタは、ブースト室に導入された液圧(ブースト圧)をブーストピストンに作用させて助勢力を発生させる。
【0010】
ところが、真空ブースタに代えて液圧ブースタを採用する場合には、ポンプバックに起因した調圧の精度低下、それによるブレーキの操作フィーリングの悪化やマスタシリンダのカップの耐久性低下などの問題を回避する策が不可欠となる。
【0011】
即ち、ポンプバックが起こると、調圧ユニットから逆流した液圧によってマスタシリンダのピストンが押し戻され、その力がブーストピストン(真空ブースタではパワーピストンと称されている)に伝わってブーストピストンも押し戻される。
【0012】
負圧室と大気室の圧力差でパワーピストンを作動させて助勢力を発生させる真空ブースタを採用した液圧ブレーキ装置では、パワーピストンが押し戻しされても、パワーピストンの変位によって圧縮されるのは大気室に封じ込められた空気であるため、大気室の圧力上昇はさほど大きくならず、ポンプバックによる影響は軽微に抑えられる。
【0013】
これに対し、液圧ブースタは、ポンプバックによるブーストピストンの押し戻しによって圧縮されるのがブースト室に封じ込められたブレーキ液であり、そのブレーキ液が非圧縮性の油であるため、ブースト室をリザーバに連通させる排出ポートが開くまでの間のブースト室の圧力上昇が無視できないものになる。
【0014】
ホイールシリンダ圧の電子制御がいわゆる差圧制御によってなされる液圧ブレーキ装置の場合、ポンプバックによるマスタシリンダ圧の上昇に見合う分の圧力上昇がブースト室に起こり、マスタシリンダ圧がブースト圧に釣り合うように上昇する。そのために、ABS制御などの信頼性を低下させるホイールシリンダ圧の制御精度の低下、ブレーキの操作フィーリングやマスタシリンダのカップの耐久性などに悪影響を及ぼす脈動発生などの問題が起こる。
【0015】
電子制御によるホイールシリンダの調圧制御がパルス制御によってなされる液圧ブレーキ装置も、増圧モードでポンプバックによるブースト圧の上昇が起こるとホイールシリンダへの液圧導入量が目標量よりも増加する。従って、差圧制御方式の液圧ブレーキ装置ほどではないが、制御の信頼性低下や操作フィーリングの悪化などが起こる。
【0016】
この発明は、液圧ブースタを還流式の調圧ユニット(ABSユニットやESCユニット)と組み合わせて使用するときのポンプバックに起因したホイールシリンダ圧の制御精度の低下、マスタシリンダのカップの耐久性などに影響を及ぼす脈動の発生及びこれに伴う操作フィーリングの悪化を抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下記(1)の液圧ブースタと、それを用いた下記(2)の液圧ブレーキ装置を提供する。
(1)動力駆動のポンプと蓄圧器とを有する補助液圧源と、
その補助液圧源から供給される液圧をスプール弁の変位によってブレーキ操作部材の操作量に応じた値に調圧してブースト室に導入する調圧装置と、
前記ブースト室に導入された液圧を受けて助勢力を発生させ、助勢された力でマスタシリンダのマスタピストンを作動させるブーストピストンと、
前記ブースト室、及びマスタシリンダの圧力室の少なくとも1つを、これ等よりも低圧の領域(大気圧のリザーバなど)に連通させる通路に、弁部開度を調節可能な電磁弁を配置して構成されるリリーフ装置、とを組み合わせて構成される液圧ブレーキ装置用の液圧ブースタ。
なお、ここで言う、低圧の領域とは、ポンプバック発生時のブースト室のブースト圧、或いはマスタシリンダ圧と比較して低圧状態が維持される領域を指す。大気圧のリザーバも同領域のひとつであるが、これに限定されるものではない。
【0018】
(2)上記(1)の液圧ブースタと、その液圧ブースタにブレーキ操作力を加えるブレーキ操作部材と、前記液圧ブースタに助勢されてマスタピストンが作動するマスタシリンダと、そのマスタシリンダから供給される液圧で制動力を発生させるホイールシリンダと、
前記ホイールシリンダの液圧を流出させる減圧用電磁弁、前記ホイールシリンダに液圧を導入する増圧用電磁弁、前記減圧用電磁弁経由で前記ホイールシリンダから流出させたブレーキ液を汲み上げて前記マスタシリンダから前記ホイールシリンダに至る液圧経路に還流させる還流用ポンプを備える還流式調圧ユニットと、
前記ホイールシリンダの減圧の必要性と再加圧の必要性を判断して前記減圧用電磁弁と増圧用電磁弁に作動指令を出す電子制御装置を組み合わせ、
前記マスタシリンダが発生させたマスタシリンダ圧又は前記ブースト室に導入されたブースト圧の少なくとも一方の圧力が所定値を越えたときにマスタシリンダ圧又はブースト圧の検出値に基づく前記電磁弁による弁部開度の調節がなされて前記リリーフ装置により所定値を越えた圧力の排出がなされるように構成された液圧ブレーキ装置。
【0019】
なお、この発明の液圧ブレーキ装置は、前記還流式調圧ユニットによる調圧制御の開始に伴って前記リリーフ装置の前記電磁弁による弁部開度の調節が開始されるようにしておくとよい。
【0020】
具体的には、前記還流式調圧ユニットの減圧用電磁弁の開弁開始にあわせてリリーフ装置の電磁弁による弁部開度の調節が開始されるようにしておくことが考えられる。
【0021】
前記リリーフ装置は、電磁弁による弁部開度の調節開始後の排出対象部の液圧と弁部開度の調節開始直前の排出対象部の液圧の差が所定範囲内に収まるように差圧制御を行なうものが好ましい。
【0022】
また、その差圧制御を行なうものは、前記電磁弁として、閉弁状態から開弁状態に切り替わる際の入力液圧(排出対象から入力される液圧)と出力液圧(低圧の領域に排出される側の液圧)の差圧の大きさを駆動電流の大きさに応じて変更可能な比例電磁弁(いわゆるリニアバルブ)を採用し、前記リリーフ装置が、前記差圧制御の開始にあわせてその比例電磁弁に一定値の電力を入力するものが好ましい。
【0023】
このほか、前記リリーフ装置が、排出対象部の液圧が所定値を上回る状態が一定時間以上継続したときに排出対象部の液圧上昇はドライバのブレーキ操作によるものと判断し、前記電磁弁による弁部開度の調節を終了してその電磁弁を閉弁させるようにしたものも好ましい。
【0024】
また、前記リリーフ装置は、前記ブースト室を前記低圧の領域に連通させる通路を設けてその通路に配置するのがよい。
【発明の効果】
【0025】
この発明の液圧ブースタとそれを用いた液圧ブレーキ装置は、ポンプバックによってマスタシリンダのマスタピストンと液圧ブースタのブーストピストンが押し戻されると、リリーフ装置が作動してブースト室やマスタシリンダの圧力室のブレーキ液を低圧領域側に排出する。このために、ブースト圧の上昇、それに伴うマスタシリンダ圧の上昇が抑えられ、ホイールシリンダ圧の制御精度が安定して、ABS制御やESC制御の信頼性が向上する。
【0026】
このように、この発明ではポンプバック発生時に上昇するマスタシリンダ圧やブースト圧をリリーフ装置によって逃がすため、ブーストピストンに加わる押し戻し力が弱められ、そのために、脈動の発生が抑制され、ブレーキの操作フィーリングの悪化も抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第1実施形態の概要を示す断面図
【図2】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第2実施形態の概要を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面の図1、図2に基づいて、この発明の液圧ブースタとそれを用いた液圧ブレーキ装置の実施の形態を説明する。
【0029】
図1に示す液圧ブレーキ装置(第1実施形態)は、ブレーキ操作部材(図のそれはブレーキペダル)1と、マスタシリンダ2と、液圧ブースタ3と、マスタシリンダ2から供給される液圧で制動力を発生させるホイールシリンダ4と、還流式調圧ユニット20と、電子制御装置5を組み合わせて構成されている。6は、補液源として設けられるリザーバ、7はマスタシリンダ圧を検出する圧力センサ、8はブースト圧を検出する圧力センサである。電子制御装置5に対してホイールシリンダ4の減圧、増圧の必要性を判断する情報を流すその他のセンサ類は図示していない。
【0030】
マスタシリンダ2は、マスタピストン2aを推進させて圧力室2bに液圧を発生させる復帰スプリング2cの含まれた既知のタンデム型のものを例示した。
【0031】
液圧ブースタ3は、補助液圧源9と、その補助液圧源9から供給される液圧をブレーキ操作部材1の操作量に応じた値に調圧してブースト室3aに導入する調圧装置10を有している。
【0032】
また、ブースト室3aに導入された液圧(ブースト圧)を受けて助勢力を発生させ、助勢された力(推力)でマスタシリンダ2のマスタピストン2aを作動させるブーストピストン3bと、この発明を特徴づけるリリーフ装置15を有している。
【0033】
補助液圧源9は、ポンプ9a、そのポンプを駆動するモータ9b、蓄圧器(アキュムレータ)9c及び圧力センサ9dを組み合わせたものであって、圧力センサ9dによる検出圧力に基づいてモータ9bをオン、オフさせ、蓄圧器9cに蓄える液圧を規定の上下限値内に保持する。
【0034】
調圧装置10は、ブレーキ操作部材1から入力される操作力を受けて変位するスプール弁10aとそのスプール弁の復帰スプリング10bを有する。また、ブーストピストン3bに形成された導入路10cと排出路10dを有する。
【0035】
その導入路10cと排出路10dは、スプール弁10aの変位によって開かれ、導入路10cが開いたときにはブースト室3aが補助液圧源9につながり、排出路10dが開いたときにはブースト室3aが液室11を経由してリザーバ6につながる。
【0036】
この調圧装置10は、スプール弁10aの変位によって補助液圧源9とリザーバ6に対するブースト室3aの接続の切り換えと、補助液圧源9とリザーバ6の双方からの切り離しがなされる。この調圧装置10の働きで、補助液圧源9からブースト室3aに導入される液圧(ブースト圧)が、ブレーキ操作部材の操作量に応じた値に調圧される。その調圧のメカニズムは周知であるので、ここでの詳細説明は省略する。
【0037】
ブーストピストン3bは、ブースト室3aのブースト圧を受けて前進し、その推力(助勢された力)が動力伝達部材12経由でマスタシリンダ2に伝達されてマスタピストン2aが作動し、圧力室2bにブレーキ液圧が発生する。タンデムマスタシリンダは、図1において右側のマスタピストン2aが作動して右側の圧力室2bに液圧が発生するとその液圧を受けて左側のマスタピストン2aも作動し、左側の圧力室2bにも右側と同圧の液圧が発生する。
【0038】
マスタシリンダの各圧力室2bに発生する圧力は、ブースト室3aのブースト圧と均衡する値となる。その圧力室2bに発生した圧力の反力が、動力伝達部材12、ゴムディスク13及びスプール弁10aを介してマスタピストン2aからブレーキ操作部材1に伝わる。ゴムディスク13は、ブレーキ操作量に応じた反力を作り出す。これは周知の好ましい要素であるが、必須ではない。
【0039】
第1実施形態では、ブースト室3aを、液室11を経由してリザーバ6に連通させる通路14を設け、その通路14の途中にリリーフ装置15を配置している。
【0040】
そのリリーフ装置15は、弁部開度を調節可能な常閉型の電磁弁15aを用いて構成されている。図1のブレーキ装置は、電磁弁15aとして、駆動電流の大きさに比例した液圧制御がなされる周知の比例電磁弁を設けている。例えば、特開2009−63024号公報に開示された常閉型のリニアバルブは、閉弁状態から開弁状態に切り替わる際の入力液圧と出力液圧の差圧の大きさを駆動電流の大きさに応じて変更することが可能であり、このような電磁弁を採用することで、入力液圧と出力液圧の差圧制御が可能となっている。
【0041】
還流式調圧ユニット20は、ホイールシリンダ4の液圧を流出させる減圧用電磁弁21と、ホイールシリンダ4に液圧を導入する増圧用電磁弁22と、減圧用電磁弁21経由でホイールシリンダ4から流出させたブレーキ液を一時的に取り込む低圧液溜め23と、ホイールシリンダ4から流出させたブレーキ液を汲み上げてマスタシリンダ2からホイールシリンダ4に至る液圧経路16に還流させる還流用ポンプ24と、その還流用ポンプ24を駆動するモータ25を組み合わせた既知のユニットである。
【0042】
還流式調圧ユニット20を構成する減圧用電磁弁21と増圧用電磁弁22は、オン、オフ式の電磁弁、駆動電流の大きさに比例して弁部の開度が調節される既知の比例電磁弁のどちらであってもよい。
【0043】
このように構成した図1の液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダ圧とブースト圧が圧力センサ7,8によって常時モニタされ(マスタシリンダ圧とブースト圧はどちらか一方の圧力から他方の圧力を換算できるので、圧力センサ7,8はどちらかひとつがあればよい)、そのデータが電子制御装置5に送り込まれる。
【0044】
この状況で制動中に電子制御装置5からの指令で還流用ポンプ24が駆動されて還流式調圧ユニット20によるホイールシリンダ圧の減圧制御が実行されると、リリーフ装置の電磁弁15aによる弁部開度の調節も開始される。
【0045】
還流式調圧ユニット20が作動する(還流用ポンプ24が駆動される)とポンプバックが生じ、マスタシリンダ圧が上昇してマスタシリンダのマスタピストン2aとブーストピストン3bが押し戻される。そのために、圧力センサ8によってモニタされているブースト圧が上昇する。
【0046】
リリーフ装置15の電磁弁(比例電磁弁)15aは、弁部開度調節開始直前のブースト圧(マスタシリンダ圧でもよいが、ここでの説明はブースト圧を例に挙げる)に対して、弁部開度調節開始後のブースト圧が所定の差圧範囲内に納まるように、差圧制御を実行する。電子制御装置5には、電磁弁15aの駆動を制御する制御回路(図示せず)が含まれており、それもリリーフ装置15の構成要素になっている。
【0047】
差圧制御が開始されると、上述した制御回路からの指令によって電磁弁15aに一定値の駆動電流が供給され、その一定値の駆動電流を電磁弁15aに供給し続けることで、差圧が設定値になったときにブースト圧を逃がすことができる。
【0048】
これにより、ポンプバックによるブースト室3aの圧力上昇が抑制され、そのために、マスタシリンダ圧の上昇も抑えられてホイールシリンダ圧の制御精度が安定する。その結果、ABS制御やESC制御の信頼性が向上する。また、ポンプバックによるブースト圧の昇圧が抑制されることで、ブレーキ操作のフィーリングも良好に保たれる。
【0049】
なお、一定値の駆動電流を電磁弁15aに供給し続けて差圧が設定値になったときにブースト圧を逃がす例示の方式は、マスタシリンダ圧やブースト圧などの検出値が所定値を超えたときにフィードバック制御を行なって弁部開度調節用の指令を出す態様(これも可)よりも、差圧変動に対する追従性に優れる。
【0050】
図1の液圧ブレーキ装置には、上記の機能のほかに、ドライバのブレーキ操作による昇圧を見分ける機能も付加されている。すなわち、ブースト室(排出対象部)の液圧が所定値を上回る状態が一定時間以上継続すると電磁弁15aによる弁部開度の調節を終了して電磁弁15aを閉弁させるように構成されている。
【0051】
ブースト室の昇圧がポンプバックでは起こり得ない時間継続したときに、そのブースト圧の上昇はドライバのブレーキ操作によるものと判断する判定回路をリリーフ装置15(電子制御装置5内の制御回路)に含ませており、ドライバのブレーキ操作による昇圧を区別して不要時のリリーフ装置による液圧の逃がしを防止することができる。
【0052】
図2は、第2実施形態の液圧ブレーキ装置である。この図2の液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダ2の圧力室2bを液室11経由でリザーバ6に連通させる通路17を設け、その通路17の途中にリリーフ装置15を配置している。
【0053】
リリーフ装置15は、第1実施形態と同様、差圧制御の可能な電磁弁(比例電磁弁)15aを用いて構成されている。
【0054】
この第2実施形態は、マスタシリンダ圧の検出データをもとに、ポンプバックが生じたときにマスタシリンダ圧をリリーフ装置15でリザーバ6に逃がしてマスタピストン2aの押し戻しを抑制するようにしており、この構造でも、ポンプバックによるブースト圧とマスタシリンダ圧の昇圧が抑制される。
【0055】
図2の第2実施形態のその他の構成は図1の第1実施形態と同時であるので、同一要素については同一符合を付して説明を省略する。
【0056】
なお、第2実施形態はマスタシリンダ2の信頼性維持のために、リリーフ装置15による圧力室2bや蓄圧器9cの圧力の逃がしが過度にならないように制限された状態でなされるようにしておくのがよく、電磁弁15aとして、上述した比例電磁弁を使用して差圧制御を実施すれば、その制限された圧力逃がしの要求に応えることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 ブレーキ操作部材
2 マスタシリンダ
2a マスタピストン
2b 圧力室
2c 復帰スプリング
3 液圧ブースタ
3a ブースト室
3b ブーストピストン
4 ホイールシリンダ
5 電子制御装置
6 リザーバ
7,8 圧力センサ
9 補助液圧源
9a ポンプ
9b モータ
9c 蓄圧器
9d 圧力センサ
10 調圧装置
10a スプール弁
10b 復帰スプリング
10c 導入路
10d 排出路
11 液室
12 動力伝達部材
13 ゴムディスク
14,17 通路
15 リリーフ装置
15a 電磁弁
16 液圧経路
20 還流式調圧ユニット
21 減圧用電磁弁
22 増圧用電磁弁
23 低圧液溜め
24 還流用ポンプ
25 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力駆動のポンプ(9a)と蓄圧器(9c)とを有する補助液圧源(9)と、
その補助液圧源(9)から供給される液圧をスプール弁(10a)の変位によってブレーキ操作部材(1)の操作量に応じた値に調圧してブースト室(3a)に導入する調圧装置(10)と、
前記ブースト室(3a)に導入された液圧を受けて助勢力を発生させ、助勢された力でマスタシリンダ(2)のマスタピストン(2a)を作動させるブーストピストン(3b)と、
前記ブースト室(3a)、及びマスタシリンダの圧力室(2b)の少なくとも1つを、これ等よりも低圧の領域に連通させる通路(14,17)に、弁部開度を調節可能な電磁弁(15a)を配置して構成されるリリーフ装置(15)とを組み合わせて構成される液圧ブレーキ装置用の液圧ブースタ。
【請求項2】
請求項1に記載の液圧ブースタ(3)と、その液圧ブースタ(3)にブレーキ操作力を加えるブレーキ操作部材(1)と、前記液圧ブースタ(3)に助勢されてマスタピストン(2b)が作動するマスタシリンダ(2)と、そのマスタシリンダ(2)から供給される液圧で制動力を発生させるホイールシリンダ(4)と、
前記ホイールシリンダ(4)の液圧を流出させる減圧用電磁弁(21)、前記ホイールシリンダ(4)に液圧を導入する増圧用電磁弁(22)、前記減圧用電磁弁(21)経由で前記ホイールシリンダ(4)から流出させたブレーキ液を汲み上げて前記マスタシリンダ(2)から前記ホイールシリンダ(4)に至る液圧経路(16)に還流させる還流用ポンプ(24)を備える還流式調圧ユニット(20)と、
前記ホイールシリンダ(4)の減圧の必要性と再加圧の必要性を判断して前記減圧用電磁弁(21)と増圧用電磁弁(22)に作動指令を出す電子制御装置(5)を組み合わせ、
前記マスタシリンダ(2)が発生させたマスタシリンダ圧又は前記ブースト室(3a)に導入されたブースト圧の少なくとも一方の圧力が所定値を越えたときにマスタシリンダ圧又はブースト圧の検出値に基づく前記電磁弁(15a)による弁部開度の調節がなされて前記リリーフ装置(15)により所定値を越えた圧力の排出がなされるように構成された液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
前記還流式調圧ユニット(20)による調圧制御の開始に伴って前記リリーフ装置(15)の前記電磁弁(15a)による弁部開度の調節が開始されるように構成された請求項2に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項4】
前記還流式調圧ユニット(20)の減圧用電磁弁(21)の開弁開始にあわせて前記リリーフ装置(15)の前記電磁弁(15a)による弁部開度の調節が開始されるように構成された請求項2に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項5】
前記リリーフ装置(15)が、前記電磁弁(15a)による弁部開度の調節開始後の排出対象部の液圧と弁部開度の調節開始直前の排出対象部の液圧の差が所定範囲内に収まるように差圧制御を行なうように構成された請求項2〜4のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項6】
前記電磁弁(15a)は、閉弁状態から開弁状態に切り替わる際の入力液圧と出力液圧の差圧の大きさを駆動電流の大きさに応じて変更可能な常閉型の比例電磁弁であり、前記リリーフ装置(15)が、前記差圧制御の開始にあわせて前記比例電磁弁に一定値の電力を入力するように構成された請求項5に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項7】
前記リリーフ装置(15)は、排出対象部の液圧が所定値を上回る状態が一定時間以上継続したときに排出対象部の液圧上昇はドライバのブレーキ操作によるものと判断し、前記電磁弁(15a)による弁部開度の調節を終了してその電磁弁(15a)を閉弁させるように構成された請求項2〜6のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項8】
前記ブースト室(3a)を前記低圧の領域に連通させる通路(14)を設けてその通路(14)に前記リリーフ装置(15)を配置した請求項2〜7のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−206683(P2012−206683A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75538(P2011−75538)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】