説明

液圧ブースタ及びそれを用いた液圧ブレーキ装置

【課題】ブレーキ操作を助勢する液圧ブースタを還流式調圧ユニットと組み合わせて使用するときのポンプバックに起因したホイールシリンダ圧の制御精度の低下、操作フィーリングの悪化、及びマスタシリンダのカップの耐久性などに影響を及ぼす脈動発生を抑制することを課題としている。
【解決手段】還流式調圧ユニット20を有する液圧ブレーキ装置に、補助液圧源7と、その補助液圧源から供給される液圧をブレーキ操作部材1の操作量に応じた値に調圧してブースト室3aに導入する調圧装置8と、ブースト室3aに導入された液圧を受けて助勢力を発生させてマスタピストン2aを作動させるブーストピストン3bと、マスタピストン2aの推進力を受ける位置に配置されてブーストピストンとマスタピストンとの間の伝達動力が設定値を超えたときに軸方向に縮む変位量吸収部材13を有する液圧ブースタ3を備えさせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、補助液圧源から供給される液圧を利用してブレーキ操作部材の操作量に応じた助勢力を発生させ、助勢された力をマスタシリンダに加える液圧ブースタとその液圧ブースタを備える液圧ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力駆動のポンプと蓄圧器とを備えた補助液圧源から供給される液圧を、スプール弁を有する調圧装置でブレーキ操作部材の操作量に応じた値に調圧してブースト室に導入し、その液圧をブーストピストンに作用させてブレーキ操作量に応じた助勢力を発生させ、助勢された力(車両の運転者によるブレーキ操作力に助勢力を加えた力)をマスタシリンダのピストンに加える液圧ブースタの基本技術として、下記特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
また、電子制御装置からの指令に基づいてABS(アンチロック制御)やESC(車両安定化制御)を実行する還流式の調圧ユニットを備えた液圧ブレーキ装置が市場に供されている。
【0004】
還流式の調圧ユニットは、車輪速、ブレーキ操作部材の操作ストローク、ブレーキ液圧、車両の挙動などを検出する既知の各種センサからの情報に基づいて電子制御装置がホイールシリンダの減圧の必要性を判断したときに、マスタシリンダからホイールシリンダに至る液圧経路を増圧用電磁弁で遮断し、減圧用電磁弁でホイールシリンダを低圧液溜めに接続して減圧制御を行なう。
【0005】
また、この後に電子制御装置が再加圧の必要性を判断すると、動力駆動の還流用ポンプを駆動して低圧液溜め中のブレーキ液を汲み上げ、増圧用電磁弁を開き、減圧用電磁弁を閉じて汲みあげたブレーキ液をマスタシリンダからホイールシリンダに至る液圧経路に還流させる。
【0006】
この還流式調圧ユニットを採用した液圧ブレーキ装置は、還流用ポンプで汲み上げたブレーキ液がマスタシリンダからホイールシリンダに至る液圧経路に導入される位置(還流点)よりも上流側(マスタシリンダ側)に遮断弁を設置し、ABSなどの制御が実行されるときにその遮断弁を閉じるものと、上記遮断弁を設置しないものの2形態が提案されている。
【0007】
このうち、遮断弁の無い後者の形態は、還流用ポンプが汲み上げたブレーキ液がマスタシリンダに向けて逆流する(これはポンプバックと称されている。ここではその呼び名を使用する)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US4,548,037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
還流式の調圧ユニットを備える従来の液圧ブレーキ装置で、運転者のブレーキ操作を助勢するブースタを組み合わせるものは、エンジンの負圧を利用して助勢力を発生させる真空ブースタを採用していたが、吸気バルブのリフト量を連続可変とすることで吸気バルブをスロットルバルブとして機能させるバルブマチック化車両やHEV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)などではエンジンの負圧による助勢を期待できないため、液圧ブースタを組み合わせることが検討されている。その液圧ブースタは、ブースト室に導入された液圧(ブースト圧)をブーストピストンに作用させて助勢力を発
生させる。
【0010】
ところが、真空ブースタに代えて液圧ブースタを採用する場合には、ポンプバックに起因した調圧の精度低下、それによるブレーキの操作フィーリングの悪化やマスタシリンダのカップの耐久性低下などの問題を回避する策が不可欠となる。
【0011】
即ち、ポンプバックが起こると、調圧ユニットから逆流した液圧によってマスタシリンダのピストンが押し戻され、その力がブーストピストン(真空ブースタではパワーピストンと称されている)に伝わってブーストピストンも押し戻される。
【0012】
負圧室と大気室の圧力差でパワーピストンを作動させて助勢力を発生させる真空ブースタを採用した液圧ブレーキ装置では、パワーピストンが押し戻されても、パワーピストンの変位によって圧縮されるのは大気室に封じ込められた空気であるため、大気室の圧力上昇はさほど大きくならず、ポンプバックによる影響は軽微に抑えられる。
【0013】
これに対し、液圧ブースタは、ポンプバックによるブーストピストンの押し戻しによって圧縮されるのがブースト室に封じ込められたブレーキ液であり、そのブレーキ液が非圧縮性の油であるため、ブースト室をリザーバに連通させる排出ポートが開くまでの間のブースト室の圧力上昇が無視できないものになる。
【0014】
ホイールシリンダ圧の電子制御がいわゆる差圧制御によってなされる液圧ブレーキ装置の場合、ポンプバックによるマスタシリンダ圧の上昇に見合う分の圧力上昇がブースト室に起こり、マスタシリンダ圧がブースト圧に釣り合うように上昇する。そのために、ABS制御などの信頼性を低下させるホイールシリンダ圧の制御精度の低下、ブレーキの操作フィーリングの悪化、マスタシリンダのカップの耐久性などに悪影響を及ぼす脈動発生などの問題が起こる。
【0015】
電子制御によるホイールシリンダの調圧制御がパルス制御によってなされる液圧ブレーキ装置も、増圧モードでポンプバックによるブースト圧の上昇が起こるとホイールシリンダへの液圧導入量が目標量よりも増加する。従って、差圧制御方式の液圧ブレーキ装置ほどではないが、制御の信頼性低下や操作フィーリングの悪化などが起こる。
【0016】
この発明は、液圧ブースタを還流式の調圧ユニット(ABSユニットやESCユニット)と組み合わせて使用するときのポンプバックに起因したホイールシリンダ圧の制御精度の低下、操作フィーリングの悪化、及びマスタシリンダのカップの耐久性などに影響を及ぼす脈動発生を抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下記(1)、(2)の液圧ブースタと、それを用いた下記(3)の液圧ブレーキ装置を提供する。
(1)動力駆動のポンプと蓄圧器とを有する補助液圧源、その補助液圧源から供給される液圧をスプール弁の変位によってブレーキ操作部材の操作量に応じた値に調圧してブースト室に導入する調圧装置、前記ブースト室に導入された液圧を受けて助勢力を発生させ、助勢された力でマスタシリンダのマスタピストンを作動させるブーストピストン、及び、前記マスタピストンの推進力(前進又は後進推力)を受ける位置に配置されて前記ブーストピストンと前記マスタピストンとの間の伝達動力が設定値を超えたときに軸方向に縮む変位量吸収部材を備える液圧ブレーキ装置用の液圧ブースタ。
【0018】
(2)前記ブースト室の液圧が前記補助液圧源の液圧よりも低いとき、前記変位量吸収部材の軸方向への圧縮を許容するとともに、前記ブースト室の液圧が前記補助液圧源の液圧と同じ又はこれより高いときに、前記変位量吸収部材の軸方向圧縮量の増加を規制する最大反力規制機構をさらに追加した上記(1)の液圧ブースタ。
【0019】
(3)上記(1)又は(2)の液圧ブースタと、その液圧ブースタにブレーキ操作力を加えるブレーキ操作部材と、前記液圧ブースタに助勢されてマスタピストンが作動するマスタシリンダと、そのマスタシリンダから供給される液圧で制動力を発生させるホイールシリンダと、
前記ホイールシリンダの液圧を流出させる減圧用電磁弁、そのホイールシリンダに液圧を導入する増圧用電磁弁、前記減圧用電磁弁経由で前記ホイールシリンダから流出させたブレーキ液を汲み上げて前記マスタシリンダから前記ホイールシリンダに至る液圧経路に還流させる還流用ポンプを備える還流式調圧ユニットと、
前記ホイールシリンダの減圧の必要性と再加圧の必要性を判断して前記減圧用電磁弁と増圧用電磁弁に作動指令を出す電子制御装置を組み合わせて構成される液圧ブレーキ装置。
【0020】
前記液圧ブースタの変位量吸収部材は、ブーストピストンの軸方向に圧縮可能なコイルばねやゴムなどの弾性体でよく、それを例えば、前記ブーストピストンとマスタピストンとの間の動力伝達経路(ブーストピストンとマスタピストンの対向面間)に介在することで、ポンプバック発生時に変位量吸収部材の長さが軸方向に短縮される。これにより、マスタピストンの移動量を吸収又は減少させてブーストピストンが押し戻される量を小さくすることが可能になる。
【0021】
変位量吸収部材をブーストピストンとマスタピストンとの間に設置するものは、前記マスタピストンに、前記ブーストピストンに対面する側の端面に開口するガイド孔を設けてそのガイド孔に前記ブーストピストンから動力伝達部材を経由して駆動力を受けるプランジャを軸方向摺動自在に挿入し、このプランジャと前記ガイド孔の奥端の壁面との間に変位量吸収部材を介在すると好ましい。
【0022】
また、前記変位量吸収部材として設ける弾性体の初期荷重は、マスタシリンダ圧が、還流式調圧装置の最低作動圧(低μ路でのABS制御の最低作動圧)以下のときには変位量吸収部材が圧縮されない大きさに設定すると好ましい。
【0023】
前記変位量吸収部材は、マスタシリンダの先端(マスタピストンの押し込み方向前方側)の圧力室に設置してもよいし、マスタシリンダがマスタピストンを2つ有するタンデム型である場合には、2つのマスタピストン間に設置してもよい。これらの構造でも、ポンプバックによるマスタピストンの戻り量が、変位量吸収部材が縮むことで小さくなるため、ブーストピストンが押し戻される量が小さくなって発明の目的が達成される。
【0024】
なお、ブーストピストンとマスタピストンとの間の動力伝達経路には、ブレーキ操作部材の操作量に応じた反力を作り出してブレーキ操作部材に付与するゴムディスクなどで形成される反力付与部材を介在することができる。
【0025】
その反力付与部材は、ブレーキ操作部材の操作の初期に一定のブレーキ操作力(ペダル踏力)に対してマスタシリンダ圧(すなわち反力)を急速に立ち上げる機能(ジャンピング特性)を有するものと、ジャンピング特性の無いものの2種類が考えられる。ジャンピング特性を有する反力付与部材を備えさせるものは、前記変位量吸収部材として設ける弾性体の初期荷重を、ジャンピング特性に係る急激なマスタシリンダ圧の上昇が終了する位置で得られるブレーキ操作の反力よりも大きくしておくのがよい。
【発明の効果】
【0026】
この発明の液圧ブースタとそれを用いた液圧ブレーキ装置は、ポンプバックによってマスタシリンダのマスタピストンに押し戻しの力が加わると、前記変位量吸収部材が圧縮される。このために、マスタピストンからブーストピストンに伝わるピストン変位量又はマスタピストンそのものが押し戻される量が小さくなり、マスタピストンによるブーストピストンの押し戻しの量が小さくなってブースト圧の上昇、それに伴うマスタシリンダ圧の上昇が抑えられる。その結果、ホイールシリンダ圧の制御精度が安定し、ABS制御やESC制御の信頼性が向上する。
【0027】
また、ブースト圧の上昇が抑制されることで、脈動の発生が抑制され、ブレーキの操作フィーリングの悪化も抑制される。
【0028】
なお、前記変位量吸収部材がブーストピストンの軸方向に圧縮可能な弾性体で形成されるものは、弾性体の初期荷重を適切に設定することで、マスタシリンダ圧が前記還流式調圧装置の最低作動圧以下のときに変位量吸収部材が圧縮されること、その影響が通常制動に及ぶことを回避することができる。
【0029】
また、その変位量吸収部材を、ブーストピストンとマスタピストンとの間の動力伝達経路に介在したものは、変位量吸収部材がマスタシリンダの応答性に影響を及ぼす心配がない。
【0030】
さらに、マスタピストンにガイド孔を設けてそのガイド孔にブーストピストンから動力伝達部材を経由して駆動力を受けるプランジャを挿入し、このプランジャと前記ガイド孔の奥端の壁面との間に前記変位量吸収部材を介在したものは、前記動力伝達部材を前記プランジャに径方向変位可能に当接させてその当接部に、マスタピストンとブーストピストンの軸心のずれを吸収する機能を付与することができる。
【0031】
このほか、ブーストピストンとマスタピストンとの間の動力伝達経路に、前述のジャンピング特性を有する反力付与部材を介在し、前記変位量吸収部材を、ブレーキ操作量に対するマスタシリンダ圧の比例的上昇が開始される位置で得られるブレーキ操作の反力よりも初期荷重の大きい弾性体で形成したものは、ジャンピング昇圧の終了時期が変位量吸収部材によって早められることがない。従って、ジャンピング特性の変化とそれによるブレーキの操作フィーリングの変化が起こらない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の液圧ブースタと液圧ブレーキ装置の第1実施形態の概要を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面の図1に基づいて、この発明の液圧ブースタとそれを用いた液圧ブレーキ装置の実施の形態を説明する。
【0034】
図1に示したように、この発明の液圧ブレーキ装置は、ブレーキ操作部材(図のそれはブレーキペダル)1と、マスタシリンダ2と、液圧ブースタ3と、マスタシリンダ2から供給される液圧で制動力を発生させるホイールシリンダ4と、還流式調圧ユニット20と、電子制御装置5を組み合わせて構成されている。6は、補液源として設けられるリザーバである。電子制御装置5にホイールシリンダ4の減圧、増圧の必要性を判断する情報を流すセンサ類は図には示していない。
【0035】
マスタシリンダ2は、マスタピストン2aを推進させて圧力室2bに液圧を発生させる復帰スプリング2cの含まれた既知のタンデム型のものを例示した。
【0036】
液圧ブースタ3は、補助液圧源7と、その補助液圧源7から供給される液圧をブレーキ操作部材1の操作量に応じた値に調圧してブースト室3aに導入する調圧装置8を有している。
【0037】
また、ブースト室3aに導入された液圧(ブースト圧)を受けて助勢力を発生させ、助勢された力(推力)でマスタシリンダ2のマスタピストン2aを作動させるブーストピストン3bと、この発明を特徴づける変位量吸収部材13を有している。
【0038】
補助液圧源7は、ポンプ7a、そのポンプを駆動するモータ7b、蓄圧器(アキュムレータ)7c及び圧力センサ7dを組み合わせたものであって、圧力センサ7dによる検出圧力に基づいてモータ7bをオン、オフさせ、蓄圧器7cに蓄える液圧を規定の上下限値内に保持する。
【0039】
調圧装置8は、ブレーキ操作部材1から入力される操作力を受けて変位するスプール弁8aとそのスプール弁の復帰スプリング8bを有する。また、ブーストピストン3bに形成された導入路8cと排出路8dを有する。
【0040】
その導入路8cと排出路8dは、スプール弁8aの変位によって開かれ、導入路8cが開いたときにはブースト室3aが補助液圧源7につながり、排出路8dが開いたときにはブースト室3aが液室9経由でリザーバ6につながる。
【0041】
この調圧装置8は、スプール弁8aの変位によって補助液圧源7とリザーバ6に対するブースト室3aの接続の切り換えと、補助液圧源7とリザーバ6の双方からの切り離しがなされる。この調圧装置8の働きで、補助液圧源7からブースト室3aに導入される液圧(ブースト圧)が、ブレーキ操作部材の操作量に応じた値に調圧される。その調圧のメカニズムは周知であるので、ここでの詳細説明は省略する。
【0042】
ブーストピストン3bは、ブースト室3aのブースト圧を受けて前進し、その推力(助勢された力)が動力伝達部材10経由でマスタシリンダ2に伝達されてマスタピストン2aが作動し、圧力室2bにブレーキ液圧が発生する。タンデムマスタシリンダは、図1において右側のマスタピストン2aが作動して右側の圧力室2bに液圧が発生するとその液圧を受けて左側のマスタピストン2aも作動し、左側の圧力室2bにも右側と同圧の液圧が発生する。
【0043】
マスタシリンダの各圧力室2bに発生する圧力は、ブースト室3aのブースト圧と均衡する値となる。その圧力室2bに発生した圧力の反力が、変位量吸収部材13、動力伝達部材10、反力付与部材11及びスプール弁8aを介してマスタピストン2aからブレーキ操作部材1に伝わる。
【0044】
反力付与部材11は、ゴムディスクで形成された周知の部材であり、ブレーキ操作量に応じた反力を作り出す。図示の反力付与部材11は、ブレーキ操作部材1の操作の初期に単位ブレーキ操作力(単位ペダル踏力)あたりのマスタシリンダ圧の増加量を操作後期よりも大きくするジャンピング特性を有しており、このジャンピング昇圧が終了した位置から単位ブレーキ操作量あたりのマスタシリンダ圧の増加量が小さくなるように、ブレーキ操作に応じた反力がブレーキ操作部材1に付与されるようになっている。この反力付与部材11は好ましい要素であるが、必須ではない。
【0045】
変位量吸収部材13は、コイルばねで構成されたものを図示したが、皿ばねやゴムピースなどで形成されるものも考えられる。
【0046】
その変位量吸収部材13として設けたコイルばねは、初期荷重を、ジャンピング昇圧が終了した位置で得られるブレーキ操作の反力よりも大きくしてあり、ジャンピング昇圧の終了時期(単位ブレーキ操作力あたりのマスタシリンダ圧が変化する時期)が変位量吸収部材によって変動することがない。従って、ジャンピング特性の変化とそれによるブレーキの操作フィーリングの変化が起こらない。
【0047】
変位量吸収部材13は、例示のブレーキ装置においては、マスタピストン2aに、ブーストピストン3bに対面する側の端面に開口するガイド孔14を設けてそのガイド孔14にプランジャ15を軸方向摺動自在に挿入し、このプランジャ15とガイド孔14の奥端の壁面との間にその変位量吸収部材13を介在している。そして、プランジャ15に動力伝達部材10を当接させてブーストピストン3bからの駆動力を、変位量吸収部材13を経由してマスタピストン2aに伝達するようにしている。
【0048】
このような構造であるので、ブーストピストン3bとマスタピストン2aの位置が径方向にずれたときにはプランジャ15に対する動力伝達部材10の当接部においてそのずれが吸収される。従って、ブーストピストン3bとマスタピストン2aの位置が径方向にずれた場合にも、プランジャ15がこじられて摺動し難くなることがない。
【0049】
なお、ガイド孔14の底(奥端)とプランジャ15の図中左端は、最大反力規制機構16を構成しており、プランジャ15がガイド孔14の底に突き当たった位置で変位量吸収部材13の圧縮が規制される。
【0050】
変位量吸収部材13として設けたコイルばねの初期荷重は、プランジャ15がストッパ17に当接した位置における荷重である。その初期荷重を、前記ジャンピング特性に係る急激なマスタシリンダ圧の上昇が終了する位置で得られるブレーキ操作の反力よりも大きくすることで、変位量吸収部材13が無用に圧縮されることによる耐久性の悪化を防止することができる。
【0051】
また、最大反力規制機構16を設けたことによって、急激なブレーキ操作がなされた場合など、ポンプバックによるブレーキの操作フーリング悪化を防止するよりもブレーキ力を急激に増大させることを優先する場合に、変位量吸収部材の圧縮に伴うブレーキ力増加速度の低下を防止することができる。
【0052】
なお、変位量吸収部材13は、マスタシリンダ2の先端(図中左側の圧力室2bの左端)に設置してもよい。また、マスタピストンを2つ有するタンデムマスタシリンダの場合には、2つのマスタピストン間に設置してもよい。
【0053】
変位量吸収部材13をマスタシリンダ2の先端に設置するものは、ガイド孔をマスタシリンダのハウジングに形成してそのガイド孔にプランジャを挿入し、プランジャとガイド孔の奥端との間に変位量吸収部材13を配置し、図中左方の復帰スプリング2cを前記プランジャで支えるとよい。
【0054】
また、変位量吸収部材13をタンデムマスタシリンダのマスタピストン間に設置するものは、片方の圧力室の液圧を受けて作動する図中左方のマスタピストンにガイド孔を形成してそのガイド孔にプランジャを挿入し、プランジャとガイド孔の奥端との間に変位量吸収部材13を配置し、図中右方の復帰スプリング2cを前記プランジャで支えるとよい。
【0055】
還流式調圧ユニット20は、ホイールシリンダ4の液圧を流出させる減圧用電磁弁21と、ホイールシリンダ4に液圧を導入する増圧用電磁弁22と、減圧用電磁弁21経由でホイールシリンダ4から流出させたブレーキ液を一時的に取り込む低圧液溜め23と、ホイールシリンダ4から流出させたブレーキ液を汲み上げてマスタシリンダ2からホイールシリンダ4に至る液圧経路12に還流させる還流用ポンプ24と、その還流用ポンプ24を駆動するモータ25を組み合わせた既知のユニットである。
【0056】
還流式調圧ユニット20を構成する減圧用電磁弁21と増圧用電磁弁22は、オン、オフ式の電磁弁、コイルに流す電流の大きさに応じて弁部の開度が調整される既知のリニア電磁弁のどちらであってもよい。
【0057】
このように構成した図1の液圧ブレーキ装置は、制動中に電子制御装置5からの指令で還流用ポンプ24が駆動されるとポンプバックが生じ、マスタシリンダのマスタピストン2aが押し戻される。このとき(還流用ポンプ24が駆動される状況のとき)、ブースト室3aは、リザーバ6と補助液圧源7の双方から切り離されて封止されているが、マスタピストン2aが押し戻されると変位量吸収部材13が軸方向に圧縮されるため、マスタピストン2aとブーストピストン3bが相対的に接近してブーストピストン3bが押し戻される量がマスタピストン2aが押し戻される量よりも小さくなる。このために、ブースト室3aの圧力上昇が抑制され、それにより、マスタシリンダ圧の上昇も抑えられてホイールシリンダ圧の制御精度が安定する。その結果、ABS制御やESC制御の信頼性が向上する。
【0058】
また、ブースト圧の上昇が抑制されることで、ブレーキの操作フィーリングの悪化やマスタシリンダのカップの寿命に影響を及ぼす脈動の発生も抑制される。
【0059】
なお、前記変位量吸収部材13は、図1の形態ではマスタピストン2aの後進推力を受ける位置に配置されているが、その変位量吸収部材13がマスタピストン2aの前進推力を受ける位置、すなわち、マスタシリンダの先端の圧力室や2つのマスタピストン間の圧力室に配置されるものも、ポンプバック発生時に変位量吸収部材13が圧縮されることでマスタピストン自体が押し戻される量が小さくなるため、ブーストピストンの押し戻し量が小さくなってブースト圧の上昇、それに伴うマスタシリンダ圧の上昇が抑えられる。
【符号の説明】
【0060】
1 ブレーキ操作部材
2 マスタシリンダ
2a マスタピストン
2b 圧力室
2c 復帰スプリング
3 液圧ブースタ
3a ブースト室
3b ブーストピストン
4 ホイールシリンダ
5 電子制御装置
6 リザーバ
7 補助液圧源
7a ポンプ
7b モータ
7c 蓄圧器
7d 圧力センサ
8 調圧装置
8a スプール弁
8b 復帰スプリング
8c 導入路
8d 排出路
9 液室
10 動力伝達部材
11 反力付与部材
12 液圧経路
13 変位量吸収部材
14 ガイド孔
15 プランジャ
16 最大反力規制機構
17 ストッパ
20 還流式調圧ユニット
21 減圧用電磁弁
22 増圧用電磁弁
23 低圧液溜め
24 還流用ポンプ
25 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力駆動のポンプ(7a)と蓄圧器(7c)とを有する補助液圧源(7)、その補助液圧源(7)から供給される液圧をスプール弁(8a)の変位によってブレーキ操作部材(1)の操作量に応じた値に調圧してブースト室(3a)に導入する調圧装置(8)、前記ブースト室(3a)に導入された液圧を受けて助勢力を発生させ、助勢された力でマスタシリンダ(2)のマスタピストン(2a)を作動させるブーストピストン(3b)、及び、前記マスタピストン(2a)の推進力を受ける位置に配置されて前記ブーストピストン(3b)と前記マスタピストン(2a)との間の伝達動力が設定値を超えたときに軸方向に縮む変位量吸収部材(13)を備える液圧ブレーキ装置用の液圧ブースタ。
【請求項2】
前記ブースト室(3b)の液圧が前記補助液圧源(7)の液圧よりも低いとき、前記変位量吸収部材(13)の軸方向への圧縮を許容するとともに、前記ブースト室(3b)の液圧が前記補助液圧源(7)の液圧と同じ又はこれより高いときに、前記変位量吸収部材(13)の軸方向圧縮量の増加を規制する最大反力規制機構(16)を有する請求項1に記載の液圧ブースタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液圧ブースタ(3)と、その液圧ブースタ(3)にブレーキ操作力を加えるブレーキ操作部材(1)と、前記液圧ブースタ(3)に助勢されてマスタピストン(2a)が作動するマスタシリンダ(2)と、そのマスタシリンダ(2)から供給される液圧で制動力を発生させるホイールシリンダ(4)と、
前記ホイールシリンダ(4)の液圧を流出させる減圧用電磁弁(21)、上記ホイールシリンダ(4)に液圧を導入する増圧用電磁弁(22)、前記減圧用電磁弁(21)経由で前記ホイールシリンダ(4)から流出させたブレーキ液を汲み上げて前記マスタシリンダ(2)から前記ホイールシリンダ(4)に至る液圧経路(12)に還流させる還流用ポンプ(24)を備える還流式調圧ユニット(20)と、
前記ホイールシリンダ(4)の減圧の必要性と再加圧の必要性を判断して前記減圧用電磁弁(21)と増圧用電磁弁(22)に作動指令を出す電子制御装置(5)を組み合わせて構成される液圧ブレーキ装置。
【請求項4】
前記変位量吸収部材(13)が、前記ブーストピストン(3b)の軸方向に圧縮可能な弾性体で形成された請求項3に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項5】
前記変位量吸収部材(13)として設ける弾性体の初期荷重を、マスタシリンダ圧が、前記還流式調圧装置(20)の最低作動圧以下のときには圧縮変形しない大きさに設定した請求項4に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項6】
前記変位量吸収部材(13)を、前記ブーストピストン(3b)と前記マスタピストン(2a)との間の動力伝達経路に介在した請求項3〜5のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項7】
前記マスタピストン(2a)に、前記ブーストピストン(3b)に対面する側の端面に開口するガイド孔(14)を設けてそのガイド孔(14)に前記ブーストピストン(3b)から動力伝達部材(10)を経由して駆動力を受けるプランジャ(15)を軸方向摺動自在に挿入し、このプランジャ(15)と前記ガイド孔(14)の奥端の壁面との間に前記変位量吸収部材(13)を介在した請求項6に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項8】
前記ブーストピストン(3b)とマスタピストン(2a)との間の動力伝達経路に、前記ブレーキ操作部材(1)の操作量に応じた反力を作り出してブレーキ操作部材に付与するジャンピング特性を有した反力付与部材(11)が介在され、前記変位量吸収部材(13)が、前記ジャンピング特性に係る急激なマスタシリンダ圧の上昇が終了する位置で得られるブレーキ操作の反力よりも初期荷重の大きい弾性体で形成された請求項3〜7のいずれかに記載の液圧ブレーキ装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−206686(P2012−206686A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75574(P2011−75574)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】