液圧回転機のシリンダブロック製造方法及び液圧回転機
【課題】シリンダブロックと摺動部材における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持できる液圧回転機のシリンダブロック製造方法及び液圧回転機の提供。
【解決手段】回転軸9と、この回転軸9の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロック1と、このシリンダブロック1のシリンダ3の摺動面に摺接するピストン2とを備えた液圧回転機のシリンダブロック1の製造に際し、シリンダブロック素材1Aの所定部位に施す所定の表面処理加工は、シリンダブロック素材1Aの所定部位に対してバニシング加工を行い、塑性変形域層30を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程におけるバニシング加工によって形成された塑性変形域層30に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層27を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における窒化系熱処理によって形成された窒素化合物層27を除去する除去工程とを含む。
【解決手段】回転軸9と、この回転軸9の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロック1と、このシリンダブロック1のシリンダ3の摺動面に摺接するピストン2とを備えた液圧回転機のシリンダブロック1の製造に際し、シリンダブロック素材1Aの所定部位に施す所定の表面処理加工は、シリンダブロック素材1Aの所定部位に対してバニシング加工を行い、塑性変形域層30を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程におけるバニシング加工によって形成された塑性変形域層30に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層27を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における窒化系熱処理によって形成された窒素化合物層27を除去する除去工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックを備えた液圧回転機のシリンダブロック製造方法及び液圧回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
図12は従来の液圧回転機に備えられたピストンとシリンダとの摺動状態を説明する図、図13は図12に示すピストンが回転軸の周りにおける回転による遠心力を受けた状態を示す図である。
【0003】
一般的に、油圧ポンプ、油圧モータに代表される液圧回転機、例えば図12に示すようにアキシャルピストンポンプは、回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転するシリンダブロック1と、このシリンダブロック1の所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えている。この摺動部材は、例えばシリンダブロック1のシリンダ3に収容されるピストン2、あるいはシリンダブロック1の凹球面部5が摺接する弁板4から成り、シリンダブロック1のシリンダ3の摺動面がピストン2に摺動したり、あるいはシリンダブロック1の凹球面部5の摺動面が弁板4に摺動するようになっている。なお、シリンダブロック1には、ピストン2がシリンダ3内において往復運動することによって作動流体を吸入あるいは吐出させるシリンダポート6Aが設けられている。
【0004】
従って、シリンダブロック1の摺動面及び摺動部材は高い摺動面圧による潤滑油膜切れや制御油圧の変動による摺接状態の不安定化等の影響により、摺動面同士の焼き付きや局部的な異常摩耗等の発生リスクを有していることから、従来よりシリンダブロック1及び摺動部材は鉄鋼材、例えば鉄鋼材の中でも安価で摺動性能が高い球状黒鉛鋳鉄(FCD)から形成され、この球状黒鉛鋳鉄の構成組織としてフェライト又はパーライト、あるいはこれらの共存組織が多く用いられている。
【0005】
ここで、シリンダブロック1は、他の構成部品よりも比較的大きさが大きく素材費用が高くなるので、鋼材よりも球状黒鉛鋳鉄で作製されることが多い。しかし、この球状黒鉛鋳鉄は鋼材に比べて表面硬度が低いので、シリンダブロック1の摺動面の強度を高めるためにシリンダブロック素材の所定部位に窒化系熱処理を施し、当該所定部位を硬化させて所定の摺動面を形成することにより、シリンダブロック1にかかる摺動負荷に対する耐摩耗性能を確保している。
【0006】
このような窒化系熱処理を施したシリンダブロック1を備えた液圧回転機の従来技術の1つとして、シリンダ3の内周面が鋳鉄材質そのままもしくは窒化処理したシリンダブロック1と、このシリンダブロック1に組み合わせて使用されるピストン2であって、材質が窒化可能な鋼であり、調質して素地硬度を上げたものに窒化処理を施し、周面の硬化した表面層のうち高硬度層を除去して素地硬度よりも高い硬度層を残したものとを具備する斜板型ピストンポンプ又はモータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
すなわち、この特許文献1に開示された従来技術の斜板型ピストンポンプ又はモータでは、シリンダブロック素材の所定部位、例えばピストン2と摺動する所定の摺動面が形成されるシリンダ3、あるいは弁板4と摺動する所定の摺動面が形成される凹球面部5に対して切削もしくは総型砥石による研削によって荒加工形成した後、当該所定部位に窒化系熱処理を施して形成された窒素化合物層を仕上げ研削で除去することにより、シリンダブロック1の所定の摺動面が形成されるようになっている。
【0008】
そして、製造されたシリンダブロック1が液圧回転機に組み込まれ、回転軸と共に回転すると、ピストン2はシリンダ3内において回転軸と平行な方向に往復運動を繰り返し、シリンダポート6Aから作動流体をシリンダ3内に吸入あるいは吐出する。このとき、シリンダ3内には、ピストン2が上死点から下死点までストロークして作動流体の吸入を行うことによる負圧、及び下死点から上死点までストロークして作動流体を押し退けることによる正圧が繰り返し作用する。
【0009】
一方、シリンダ3の摺動面はピストン2に摺動することにより、シリンダ3に摺動負荷がかかるが、上述したように窒化系熱処理によってシリンダ3の耐摩耗性能が確保されているので、シリンダ3の摺動面が破損することなくピストン2に円滑に摺動するように思える。しかし、ピストン2は、図13に示すように回転軸の周りをシリンダブロック1と共に回転することによって遠心力を受けて傾くので、シリンダ3及びピストン2は互いに偏荷重を受ける。すなわち、シリンダ3の摺動面はピストン2の先端部2aと片当りしながら摺動すると共に、ピストン2の側面は、シリンダ3の開口端部3aと片当りしながら摺動し、これらの接触部位において高い摺動面圧が作用することになる。特に、この摺動面圧は、ピストン2が上死点から下死点までストロークしてシリンダ3内に作動流体を吸入する吸入工程において非常に大きくなる。
【0010】
ここで、上述したシリンダブロック素材に形成された窒素化合物層を仕上げ研削で除去した際に、シリンダブロック素材の所定部位の荒加工形成後における加工目に埋もれて視認されていなかった欠陥、及びシリンダブロック素材の窒素化合物層に対して仕上げ研削が行われる表面層の領域に潜在していた鋳造欠陥が仕上げ研削によって開口露出することにより、シリンダブロック1の摺動面上に鋳造欠陥が発現することがあり、製造されたシリンダブロック1は製造不良品として抽出され、製造歩留まりを下げる一因となる。
【0011】
そのため、シリンダ3の摺動面上に鋳造欠陥が発現した場合には、シリンダ3内において作動流体が吸入又は吐出することによる圧力変動が生じることにより、シリンダ3の摺動面上に発現した鋳造欠陥の亀裂が進展破壊したり、あるいはシリンダ3の摺動面がピストン2の先端部2aと片当りしながら摺動することにより、シリンダ3の摺動面に作用する高摺動負荷に伴う欠陥を起点とした異常損耗等が発生する虞がある。従って、シリンダブロック1の摺動面上に鋳造欠陥が発現することを防ぐ方法や鋳造欠陥が除去されたシリンダブロックが要望されている。
【0012】
そこで、このようなシリンダブロック1を含む鋳物に鋳造欠陥が発現することを防ぐ方法の従来技術の1つとして、鋳物の鋳造欠陥に、可視光又は近赤外光硬化型樹脂組成物を充填し、該充填部に可視光又は近赤外光を照射して硬化させる鋳物の欠陥補修方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−159230号公報
【特許文献2】特開2004−50277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した特許文献2に開示された鋳物の欠陥補修方法をシリンダブロックの摺動面部分に適用することにより、すなわちシリンダブロックの摺動面部分に存在する鋳造欠陥に、可視光又は近赤外光硬化型樹脂組成物を充填し、該充填部に可視光又は近赤外光を照射して硬化させることにより、シリンダブロックの摺動面部分に存在する鋳造欠陥を一時的に除去して補修することができる。しかし、特許文献2に開示された従来技術の鋳物の欠陥補修方法は、摺動面ではなく非摺動面に対して用いられるものであるので、当該方法によって補修されたシリンダブロックの摺動面が摺動部材に摺動した場合には、鋳造欠陥に充填された可視光又は近赤外光硬化型樹脂組成物がシリンダブロックの摺動面に作用する高摺動負荷によって剥離脱落し、脱落した脱落片が液圧回転機の各摺動部材に噛み込まれる虞がある。万一、脱落片が各摺動部材に噛み込まれた場合には、脱落片によって各摺動部材に損傷が発生し、各摺動部材の摺動状態が悪化することで摺動部材同士が焼き付いてしまうことが懸念されている。
【0015】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、シリンダブロック及び摺動部材における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる液圧回転機のシリンダブロック製造方法及び液圧回転機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明の液圧回転機のシリンダブロック製造方法は、回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機の前記シリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に所定の表面処理加工を施して前記所定の摺動面を形成するようにした液圧回転機のシリンダブロック製造方法において、前記所定の表面処理加工は、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における前記強ひずみ加工によって形成された前記塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における前記窒化系熱処理によって形成された前記窒素化合物層を除去する除去工程とを含むことを特徴としている。
【0017】
このように構成した本発明は、強ひずみ加工工程においてシリンダブロック素材の所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成することにより、シリンダブロック素材の所定部位の表面に存在する鋳造欠陥、及びシリンダブロック素材の所定部位の内部に潜在する鋳造欠陥を塑性変形によって予め封孔圧着して除去することができる。これにより、熱処理工程において塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成してシリンダブロック素材の所定部位における耐摩耗性能を確保した後、除去工程において窒素化合物層を除去しても、製造されたシリンダブロックの摺動面に鋳造欠陥が発現することを確実に抑制することができる。従って、シリンダブロックの摺動面が摺動部材に摺動しても封孔圧着された鋳造欠陥のない状態が保持されるので、シリンダブロック及び摺動部材における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる。
【0018】
また、本発明の液圧回転機は、回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機の前記シリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に施す所定の表面処理加工を備え、この所定の表面処理加工は、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における前記強ひずみ加工によって形成された前記塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における前記窒化系熱処理によって形成された前記窒素化合物層を除去する除去工程とを含む液圧回転機のシリンダブロック製造方法によって、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に前記所定の表面処理加工を施して前記所定の摺動面を形成して成るシリンダブロックを備えたことを特徴としている。
【0019】
このように構成した本発明は、液圧回転機に備えられたシリンダブロックは、シリンダブロック素材の所定部位に対して強ひずみ加工を行うことによって塑性変形域層を形成し、シリンダブロック素材の所定部位の鋳造欠陥を封孔圧着して除去した上で、塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行って窒素化合物層を形成した後に、窒素化合物層を除去して製造されているので、シリンダブロックの摺動面の表面、及び当該摺動面の直下に潜在する鋳造欠陥が除去されており、シリンダブロックの摺動面の硬度を向上させて高い耐摩耗性能を確保することができる。従って、液圧回転機が動作してシリンダブロックが摺動部材に摺動しても、シリンダブロックの摺動面に鋳造欠陥が発現したり、あるいは当該摺動面が損傷することを抑えることができるので、シリンダブロック及び摺動部材における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる。
【0020】
また、本発明の液圧回転機は、前記発明において、前記摺動部材はピストンから成り、前記シリンダブロックは、前記ピストンと摺動する前記所定の摺動面が形成されるシリンダを有し、前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前のシリンダの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成ることを特徴としている。このように構成すると、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される当該シリンダの内周面をバニシング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、塑性変形域層が形成されたシリンダの摺動面における表面粗さを小さく抑えることができる。また、バニシング加工を所定の摺動面が形成される前のシリンダの内周面に対して底部から開口部へ施すことにより、製造されたシリンダブロックにおけるシリンダの摺動面は、塑性変形域層における微細な各表面部分が底部から開口部に沿う一方向を向いて並設された異方性を有するので、ピストンがシリンダ内において上死点から下死点までストロークして作動流体を吸入する際に、シリンダの摺動面がピストンから受ける抵抗を減少させることができる。これにより、回転に伴う遠心力を受けて傾いたシリンダの摺動面がピストンの先端部と片当りすることによって生じる摺動面圧の負荷を大幅に軽減することができ、シリンダの摺動面のピストンに対する耐久性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の液圧回転機は、前記発明において、当該液圧回転機は液圧ポンプから構成され、前記摺動部材は弁板から成り、前記シリンダブロックは、前記弁板と摺動する前記所定の摺動面が形成される凹球面部を有し、前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前の凹球面部の表面に対して前記シリンダブロックの回転方向と反対方向へ向かって施されるバニシング加工から成ることを特徴としている。このように構成すると、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される当該凹球面部の表面をバニシング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、塑性変形域層が形成された凹球面部の摺動面における表面粗さを小さく抑えることができる。また、バニシング加工を所定の摺動面が形成される前の凹球面部に対してシリンダブロックの回転方向と反対方向へ施すことにより、製造されたシリンダブロックにおける凹球面部の摺動面は、塑性変形域層おける微細な各表面部分がシリンダブロックの回転方向と反対方向を向いて並設された異方性を有するので、液圧ポンプが動作してシリンダブロックが一定方向へ回転した場合に、凹球面部の摺動面が弁板から受ける抵抗を減少させることができる。これにより、凹球面部の摺動面に生じる摺動面圧の負荷を大幅に軽減することができ、凹球面部の摺動面の弁板に対する摺動性能を良好に保つことができる。
【0022】
また、本発明の液圧回転機は、前記発明において、前記摺動部材は弁板から成り、前記シリンダブロックは、前記弁板と摺動する前記所定の摺動面が形成される凹球面部を有し、前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前の凹球面部の表面に対して施されるショットピーニング加工から成ることを特徴としている。このように構成すると、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される当該凹球面部の表面をショットピーニング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、当該凹球面部の表面全体に対して塑性変形による加工硬化の効果を効果的かつ迅速に付与することができる。これにより、製造されたシリンダブロックにおける凹球面部の摺動面の強度及び耐久性が増すので、凹球面部の摺動面を長期に渡って弁板に円滑に摺動させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液圧回転機のシリンダブロック製造方法は、回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機のシリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成するようにしている。そして、この所定の表面処理加工は、シリンダブロック素材の所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における強ひずみ加工によって形成された塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における窒化系熱処理によって形成された窒素化合物層を除去する除去工程とを含んでいる。そのため、シリンダブロック素材の所定部位を強ひずみ加工によって封孔圧着して当該所定部位に存在する鋳造欠陥を除去できるので、窒化系熱処理によって形成された窒素化合物層を除去した際に、強ひずみ加工を行う前にシリンダブロック素材の所定部位の内部に潜在していた鋳造欠陥の発現を抑え、シリンダブロックの摺動性能を高めることができる。これにより、従来よりも摺動面に欠陥の少ない球状黒鉛鋳鉄のシリンダブロックを安定的に製造することができ、シリンダブロックの製造歩留まりを向上させることができる。
【0024】
このように、本発明の液圧回転機のシリンダブロック製造方法によって製造されたシリンダブロックを備えた液圧回転機は、動作中にシリンダブロックの摺動面が摺動部材に摺動しても封孔圧着された鋳造欠陥のない状態が保持されるので、シリンダブロック及び摺動部材における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる。従って、従来よりもシリンダブロック及び摺動部材における損傷や破損等の発生を大幅に減少させることができるので、液圧回転機に対する高い信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る液圧回転機の第1実施形態である可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態が適用されるシリンダの内周面の状態を説明する図である。
【図3】図2に示すシリンダの内周面に窒素化合物層が形成された状態を示す図である。
【図4】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【図5】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における熱処理工程及び除去工程を説明する図である。
【図6】本発明に係る液圧回転機の第1実施形態におけるシリンダの摺動面を説明する図である。
【図7】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第2実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【図8】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態が適用されるシリンダブロックの凹球面部の表面状態を説明する図である。
【図9】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【図10】本発明に係る液圧回転機の第3実施形態における凹球面部の摺動面を説明する図である。
【図11】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第4実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【図12】従来の液圧回転機に備えられたピストンとシリンダとの摺動状態を説明する図である。
【図13】図12に示すピストンが回転軸の周りにおける回転による遠心力を受けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法及び液圧回転機を実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0027】
[液圧回転機の第1実施形態]
本発明に係る液圧回転機の第1実施形態の基本構成は、前述した図12に示す液圧回転機の構成と同じである。従って、図12に示す液圧回転機と重複する部分には同一符号を付す。
【0028】
本発明に係る液圧回転機の第1実施形態は、例えば可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプに備えられる。図1に示すように、可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプ、すなわち油圧ポンプ7は、外殻を形成するケーシング8と、このケーシング8の中央部において軸線周りに回転可能に設けられた回転軸9と、この回転軸9の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロック1と、このシリンダブロック1の所定の摺動面に摺接する後述の摺動部材と、シリンダブロック1の各シリンダ3にそれぞれ収容される複数のピストン2とを備えている。ここで、本発明の液圧回転機の第1実施形態では、摺動部材は例えば上述した各ピストン2から成り、本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態は、油圧ポンプ7のシリンダブロック1の製造に際し、後述する図4〜図6に示すようにシリンダブロック素材1Aの所定部位、例えばシリンダ3に相当する部分に所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成している。
【0029】
本発明の液圧回転機の第1実施形態は、ケーシング8は、回転軸9及びシリンダブロック1等の各部材を覆う筒状のケーシング本体12と、このケーシング本体12の両端側を閉塞するフロントケーシング13及びリヤケーシング14とから成っている。そして、リヤケーシング14は、シリンダブロック1内に作動油を供給あるいは排出する一対の給排通路15A,15Bを有している。これらの給排通路15A,15Bは、作動油の吸込側及び吐出側に設けられた図示しない配管等に接続されている。
【0030】
回転軸9は、フロントケーシング13とリヤケーシング14との間に軸受16,17等を介して回転可能に支持されている。また、回転軸9は、フロントケーシング13から軸線方向に突出する突出端9Aが形成されており、この突出端9A側が、例えばディーゼルエンジン等の図示しない原動機によって回転駆動される。シリンダブロック1は、回転軸9の外周側にスプライン結合されており、回転軸9と共に一体となって回転する。そして、シリンダブロック1は、両端面のうちフロントケーシング13側の一端が後述の斜板11に対向して配置され、両端面のうちリヤケーシング14側の他端は後述の弁板4に摺接する。
【0031】
シリンダブロック1は、内部に各ピストン2を包含する上述の複数のシリンダ3を有しており、これらの各シリンダ3は、回転軸9を中心としてシリンダブロック1の軸線周りに一定の間隔をおいて離間され、シリンダブロック1の軸線方向、すなわち回転軸9の軸線方向に対して平行に配置されている。そして、各シリンダ3の一端には、後述の弁板4を介してリヤケーシング14の給排通路15A,15Bに対して間欠的に連通又は遮断されるシリンダポート6Aが形成されている。
【0032】
また、油圧ポンプ7は、各ピストン2の端部に揺動可能にそれぞれ保持され、シリンダブロック1と共に回転する複数のシュー10と、ケーシング8のうちフロントケーシング13側に傾転可能に設けられ、各シュー10が摺接する斜板11と、各シュー10を各ピストン2の押付力によって斜板11側にそれぞれ押付ける複数のシュー押え18と、フロントケーシング13に設けられ、斜板11を揺動可能に支持するクレイドル20と、ケーシング8のうちリヤケーシング14側に配置され、リヤケーシング14とシリンダブロック1との間に設けられた弁板4と、斜板11を傾転駆動する傾転アクチュエータ23,24とを備えている。
【0033】
斜板11は、クレイドル20によって傾転可能に支持される斜板本体22と、この斜板本体22の表面側に固定して設けられ、シュー10が摺動する平滑板19と、回転軸9を挿通する軸挿通穴22Aとから成っている。なお、この軸挿通穴22Aの大きさは、回転軸9を挿通した状態において回転軸9が斜板11の傾転動作の妨げとならないように設定されている。また、平滑板19は、軸挿通穴22Aと同様に中央部がくり抜かれ、回転軸9を挿通させる軸挿通穴19Aを有しており、ドーナツ型の円盤状に形成されている。
【0034】
クレイドル20は、斜板11の裏面側に配置され、ケーシング8のフロントケーシング13に固定されている。また、クレイドル20には、回転軸9を挟んで左右あるいは上下に離間した一対の傾転摺動面2が設けられており、この傾転摺動面2は、斜板11を傾転可能に支持するように凹湾曲状の円弧面に形成されている。そして、斜板本体22がフロントケーシング13側にクレイドル20の傾転摺動面2を介して傾転可能に取付けられている。また、傾転アクチュエータ23,24は、外部から傾転制御圧が給排されることにより、この傾転制御圧に応じて斜板11の傾転角を可変に制御している。
【0035】
各シュー10は、各ピストン2からの押付力でシュー押え18等を介して斜板11の平滑板19にそれぞれ押付けられた状態で保持されている。弁板4は、シリンダブロック1の両端面のうちリヤケーシング14側の端面に摺接し、シリンダブロック1を回転軸9と共に回転可能に支持している。また、弁板4には、眉形状を有する一対の給排ポート4Aが形成されており、これらの給排ポート4Aは、リヤケーシング14の給排通路15A,15Bに連通され、シリンダブロック1が回転軸9の軸線周りに回転したときに各シリンダ3のシリンダポート6Aに間欠的に連通するようになっている。
【0036】
ここで、エンジン等の原動機によって回転軸9を回転駆動させると、シリンダブロック1が回転軸9の軸線周りに回転軸9と一体となって一定方向へ回転する。このとき、斜板11は、傾転アクチュエータ23,24によってケーシング本体12に対して傾いているので、シリンダブロック1のシリンダ3内に収容されたピストン2は、シリンダブロック1の回転に伴ってシリンダ3内を上死点から下死点へ向けて摺動する吸入工程と、シリンダ3内を下死点から上死点へ向けて摺動する吐出工程とを繰り返す。従って、ピストン2の吸入工程では、例えば給排通路15Bからシリンダ3内に作動油が吸込まれ、ピストン2の吐出工程では、シリンダ3内から給排通路15Aへ作動油が高圧の圧油として吐出される。なお、回転軸9の軸線に対する斜板11の傾転角に応じてピストン2のストローク長が増減されるので、傾転アクチュエータ23,24が斜板11の傾転角を制御することにより、シリンダ3内における作動油の吸入量及び吐出量が調整される。
【0037】
次に、油圧ポンプ7に備えられる上述したシリンダブロック1は例えば以下のようにして形成される。
【0038】
図2は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態が適用されるシリンダの内周面の状態を説明する図、図3は図2に示すシリンダの内周面に窒素化合物層が形成された状態を示す図、図4は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図、図5は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における熱処理工程及び除去工程を説明する図、図6は本発明に係る液圧回転機の第1実施形態におけるシリンダの摺動面を説明する図である。
【0039】
本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態は、例えば素材である球状黒鉛鋳鉄を切削加工することにより、図2に示すようにシリンダブロック素材1Aの外径を形成する。このとき、シリンダブロック素材1Aの所定部位、例えば所定の摺動面が形成される前のシリンダ3Aの内周面部分には、表面に鋳造欠陥25が存在すると共に、内部にも鋳造欠陥26が潜在する。従って、本発明のシリンダブロック製造方法の第1実施形態は、上述した所定の表面処理加工は、図4、図5に示すようにシリンダ3Aの内周面に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層30を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における強ひずみ加工によって形成された塑性変形域層30に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層27を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における窒化系熱処理によって形成された窒素化合物層27を除去する除去工程とを含んでいる。
【0040】
具体的には、強ひずみ加工工程では、図3に示すように後述する除去工程において窒素化合物層27に加えて塑性変形域層30の表面部分を除去する際に、すなわち窒素化合物層27の表面から深さAまで除去する際に、シリンダ3Aの内周面部分に潜在する鋳造欠陥26が露出しないように強ひずみ加工工程において強ひずみ加工は当該内周面に対して十分に行われる。
【0041】
本発明のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における強ひずみ加工は、例えば図4に示すようにシリンダ3Aの内周面部分に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成っており、このバニシング加工において例えばシリンダ3Aの内径より小さい外径を有する軸28aと、この軸28aの外周面に軸線周りに一定の間隔で離隔して設けられた円筒形状の複数の転圧子28bとから成るローラバニシング工具28が用いられている。
【0042】
このローラバニシング工具28をシリンダ3Aの開口部から内側へ挿入し、各転圧子28bをシリンダ3Aの底部の内周面に押しつけて軸28aを回転させると、各転圧子28bがシリンダ3Aの内周面を加圧しながら転動するので、加圧されたシリンダ3Aの内周面の表面組織が塑性流動する。そのため、各転圧子28bによってシリンダ3Aの内周面上に存在する鋳造欠陥25が封孔されると共に、シリンダ3Aの内周面部分の内部に潜在する鋳造欠陥26も押し潰されて圧着するので、これらの鋳造欠陥25,26が除去される。
【0043】
従って、各転圧子28bがシリンダ3Aの底部の内周面を加圧した状態でローラバニシング工具28をシリンダ3Aの底部から開口部へ、すなわち矢印B方向へ持ち上げることにより、図5に示すようにシリンダ3Aの内周面部分に塑性変形域層30が形成される。このとき、ローラバニシング工具28の各転圧子28bが底部から開口部に沿ってシリンダ3Aの内周面に摺動することにより、図6に示すように形成された塑性変形域層30における微細な各表面部分30aが底部から開口部に沿った一方向を向いて並設される。
【0044】
次に、熱処理工程では、上述した強ひずみ加工工程における強ひずみ加工によって形成された塑性変形域層30に対して窒化系熱処理を行うと、図5に示すように塑性変形域層30の表面上に窒素化合物層27が形成される。この窒素化合物層27は硬質脆性であるため、仮に除去工程において窒素化合物層27が十分に除去されなかった場合には、シリンダ3Aに残った窒素化合物層27がピストン2に摺動することによって欠落し、欠落した窒素化合物層27の破片でピストン2等が破損する可能性がある。これを防止するために、除去工程において塑性変形域層30の表面上の窒素化合物層27は完全に除去される必要がある。
【0045】
そこで、除去工程では、熱処理工程において窒化系熱処理によって窒素化合物層27が形成された後、図5に示すようにシリンダ3Aの内周面上の窒素化合物層27が形成されている範囲だけでなく、窒素化合物層27の厚さを超え、その直下に形成されている塑性変形域層30の途中まで研削して除去するようにしている。すなわち、窒素化合物層27の表面から深さAまで研削し、図6に示すように窒素化合物層27が完全に除去される。
【0046】
このように構成した本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態によれば、強ひずみ加工工程においてシリンダ3Aの内周面に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層30を形成することにより、シリンダ3Aの内周面上に存在する鋳造欠陥25、及びシリンダ3Aの内周面部分の内部に潜在する鋳造欠陥26を塑性変形によって予め封孔圧着して除去することができる。そして、熱処理工程において塑性変形域層30に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層27を形成してシリンダ3Aの内周面部分における耐摩耗性能を確保した後、除去工程において窒素化合物層27の表面から深さAまで研削することにより、製造されたシリンダブロック1におけるシリンダ3の摺動面に鋳造欠陥25,26が発現することを確実に抑制することができる。また、図6に示すようにシリンダ3の摺動面に窒素化合物層27が残ることもないので、窒化系熱処理によって得られたシリンダ3Aの内周面部分における耐摩耗性能の効果を十分に発揮することができる。これにより、摺動面に欠陥の少ない球状黒鉛鋳鉄のシリンダブロック1を安定的に製造することができ、シリンダブロック1の製造歩留まりを向上させることができる。
【0047】
そして、本発明のシリンダブロック製造方法の第1実施形態によって製造されたシリンダブロック1を備えた液圧回転機の第1実施形態は、動作中にシリンダブロック1におけるシリンダ3の摺動面がピストン2に摺動しても封孔圧着された鋳造欠陥25,26のない状態が保持されるので、シリンダ3及びピストン2における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる。従って、シリンダ3及びピストン2における損傷や破損等の発生を大幅に減少させることができるので、油圧ポンプ7に対する高い信頼性を得ることができる。
【0048】
また、本発明のシリンダブロック製造方法の第1実施形態は、強ひずみ加工工程において、ローラバニシング工具28を用いてシリンダ3Aの内周面に対してバニシング加工を施すことにより、シリンダ3Aの内周面全体をバニシング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、製造されたシリンダブロック1におけるシリンダ3の摺動面の表面粗さを小さく抑えることができる。また、バニシング加工においてローラバニシング工具28の各転圧子28bをシリンダ3Aの内周面に押しつけて転動させ、ローラバニシング工具28をシリンダ3Aの内周面に対して底部から開口部へ向かって持ち上げることにより、製造されたシリンダブロック1におけるシリンダ3の摺動面は、図6に示すように塑性変形域層30における微細な各表面部分30aが底部から開口部に沿う一方向を向いて並設された異方性を有するので、ピストン2がシリンダ3内において上死点から下死点までストロークして作動油を吸入する際に、シリンダ3の摺動面がピストン2から受ける抵抗を減少させることができる。これにより、回転に伴う遠心力を受けて傾いたシリンダ3の摺動面がピストン2の先端部2aと片当りすることによって生じる摺動面圧の負荷を大幅に軽減することができ、シリンダ3の摺動面のピストン2に対する耐久性を向上させることができる。
【0049】
[液圧回転機の第2実施形態]
図7は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第2実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【0050】
本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第2実施形態が前述したシリンダブロック製造方法の第1実施形態と異なるのは、第1実施形態では、図4に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、シリンダ3が形成される前のシリンダ3Aの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成るのに対し、第2実施形態では、図7に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、例えばシリンダ3Aの内周面に対して施されるショットピーニング加工から成ることである。
【0051】
具体的には、本発明のシリンダブロック製造方法の第2実施形態における強ひずみ加工は、ショットピーニング加工において例えばシリンダ3の内径より小さい外径を有し、圧縮空気によって硬質粒子32を噴射するノズル31Aが用いられている。このノズル31Aをシリンダ3Aの開口部から内側へ挿入し、先端から硬質粒子32を噴射しながらノズル31Aを軸線周りに回転して上下に移動させることにより、噴射された硬質粒子32がシリンダ3Aの内周面に衝突し、シリンダ3Aの内周面の表面組織が塑性流動する。そのため、硬質粒子32によってシリンダ3Aの内周面上に存在する鋳造欠陥25が封孔されると共に、シリンダ3Aの内周面部分の内部に潜在する鋳造欠陥26も押し潰されて圧着するので、これらの鋳造欠陥25,26が除去される。
【0052】
従って、本発明に係る液圧回転機の第2実施形態は、本発明のシリンダブロック製造方法の第2実施形態によってシリンダ3Aの内周面に上述した所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成して成るシリンダブロック1を備えている。なお、本発明の液圧回転機の第2実施形態におけるシリンダ3の摺動面は、液圧回転機の第1実施形態において形成された塑性変形域層30における微細な各表面部分30aが底部から開口部に沿った一方向を向いて並設された異方性を有していない。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0053】
このように構成した本発明の液圧回転機の第2実施形態によれば、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施されるシリンダ3Aの内周面をショットピーニング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、シリンダ3Aの内周面部分に存在する鋳造欠陥25,26を効率的に除去し、シリンダ3Aの内周面全体に対して塑性変形による加工硬化の効果を効果的かつ迅速に付与することができる。従って、本発明の液圧回転機の第2実施形態におけるシリンダ3の摺動面は、ショットピーニング加工によって強度及び耐久性が大幅に向上しているので、長期に渡って安定した摺動性能を維持することができる。
【0054】
[液圧回転機の第3実施形態]
図8は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態が適用されるシリンダブロックの凹球面部の表面状態を説明する図、図9は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図、図10は本発明に係る液圧回転機の第3実施形態における凹球面部の摺動面を説明する図である。
【0055】
本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態が前述したシリンダブロック製造方法の第1実施形態と異なるのは、第1実施形態では、摺動部材は各ピストン2から成り、図4に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、シリンダ3が形成される前のシリンダ3Aの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成るのに対し、第3実施形態では、摺動部材は例えば弁板4から成り、図9に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、例えば所定の摺動面が形成される前の凹球面部5Aの表面に対してシリンダブロック1の回転方向と反対方向へ向かって施されるバニシング加工から成ることである。
【0056】
具体的には、本発明のシリンダブロック製造方法の第3実施形態における強ひずみ加工は、バニシング加工において例えば凹球面部5Aに対向させる湾曲面部34c1が形成された円盤34cと、この円盤34cのうち湾曲面部34c1と反対側の面の中心部に円盤34cに対して垂直に設けられた軸34aと、円盤34cの湾曲面部34c1上に円盤34cの中心軸周りに一定の間隔で離隔して設けられた円筒形状の複数の転圧子34bから成るローラバニシング工具34が用いられている。
【0057】
このローラバニシング工具34の湾曲面部34c1を凹球面部5Aに押しつけて軸34aをシリンダブロック1の回転方向と反対方向、すなわち矢印C方向へ回転させると、各転圧子34bが凹球面部5Aの表面を加圧しながら転動するので、加圧された凹球面部5Aの表面組織が塑性流動する。そのため、各転圧子34bによって図8に示す凹球面部5Aの表面上に存在する鋳造欠陥25が封孔されると共に、凹球面部5Aの内部に潜在する鋳造欠陥26も押し潰されて圧着するので、これらの鋳造欠陥25,26が図10に示すように除去される。また、ローラバニシング工具34の各転圧子34bがシリンダブロック1の回転方向と反対方向へ向かって凹球面部5Aに摺動することにより、図示されないが、形成された塑性変形域層30における微細な各表面部分がシリンダブロック1の回転方向と反対方向を向いて並設される。
【0058】
そして、本発明に係る液圧回転機の第3実施形態は、本発明のシリンダブロック製造方法の第3実施形態によって凹球面部5Aの表面に上述した所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成して成るシリンダブロック1を備えている。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0059】
このように構成した本発明の液圧回転機の第3実施形態によれば、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される凹球面部5Aの表面をバニシング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、塑性変形域層30が形成された凹球面部5Aの摺動面における表面粗さを小さく抑えることができる。また、バニシング加工においてローラバニシング工具34の湾曲面部34c1を凹球面部5Aに押しつけて軸34aをシリンダブロック1の回転方向と反対方向、すなわち矢印C方向へ回転させることにより、製造されたシリンダブロック1における凹球面部5の摺動面は、塑性変形域層30における微細な各表面部分がシリンダブロック1の回転方向と反対方向を向いて並設された異方性を有するので、油圧ポンプ7が動作してシリンダブロック1が一定方向へ回転した場合に、凹球面部5の摺動面が弁板4から受ける抵抗を減少させることができる。これにより、凹球面部5の摺動面に生じる摺動面圧の負荷を大幅に軽減することができ、凹球面部5の摺動面の弁板4に対する摺動性能を良好に保つことができる。
【0060】
[液圧回転機の第4実施形態]
図11は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第4実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【0061】
本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第4実施形態が前述したシリンダブロック製造方法の第1実施形態と異なるのは、第1実施形態では、摺動部材は各ピストン2から成り、図4に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、シリンダ3が形成される前のシリンダ3Aの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成るのに対し、第4実施形態では、摺動部材は例えば弁板4から成り、図11に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、例えば所定の摺動面が形成される前の凹球面部5Aの表面に対して施されるショットピーニング加工から成ることである。
【0062】
具体的には、本発明のシリンダブロック製造方法の第4実施形態における強ひずみ加工は、ショットピーニング加工において例えば圧縮空気によって硬質粒子32を噴射するノズル31Bが用いられている。このノズル31Bを凹球面部5Aの表面に向けて先端から硬質粒子32を噴射することにより、噴射された硬質粒子32が凹球面部5Aの表面に衝突し、凹球面部5Aの表面組織が塑性流動する。そのため、硬質粒子32によって凹球面部5Aの表面上に存在する鋳造欠陥25が封孔されると共に、凹球面部5Aの内部に潜在する鋳造欠陥26も押し潰されて圧着するので、これらの鋳造欠陥25,26が除去される。
【0063】
従って、本発明に係る液圧回転機の第4実施形態は、本発明のシリンダブロック製造方法の第4実施形態によって凹球面部5Aの表面上に上述した所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成して成るシリンダブロック1を備えている。なお、本発明の液圧回転機の第4実施形態における凹球面部5Aの摺動面は、前述した液圧回転機の第3実施形態において形成された塑性変形域層30おける微細な各表面部分がシリンダブロック1の回転方向と反対方向を向いて並設された異方性を有していない。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0064】
このように構成した本発明の液圧回転機の第4実施形態によれば、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される凹球面部5Aの表面をショットピーニング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、凹球面部5Aの表面全体に対して塑性変形による加工硬化の効果を効果的かつ迅速に付与することができる。従って、本発明の液圧回転機の第4実施形態における凹球面部5の摺動面は、耐摩耗性能を大幅に増すことができるので、弁板4に摺動することによって摩り減ることを抑えることができ、円滑な摺動動作を長期に渡って持続させることができる。
【0065】
なお、上述した本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第2、第4実施形態は、図7、図11に示すように強ひずみ加工工程のショットピーニング加工において圧縮空気によって硬質粒子32を噴射するノズル31A,31Bをそれぞれ用いた場合について説明したが、この場合に限らず、ショットピーニング加工において例えば硬質粒子をインペラにより噴投射するようにしても良い。
【0066】
また、本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1〜4実施形態は、シリンダ3Aの内周面及び凹球面部5Aの表面のうちいずれか一方に対して所定の表面処理加工を施した場合について説明したが、この場合に限らず、シリンダ3Aの内周面及び凹球面部5Aの表面の双方に対して所定の表面処理加工を施してシリンダブロックを製造しても良い。
【符号の説明】
【0067】
1 シリンダブロック
1A シリンダブロック素材
2 ピストン
2a 先端部
3,3A シリンダ
3a 開口端部
4 弁板
5,5A 凹球面部
7 油圧ポンプ
9 回転軸
11 斜板
25,26 鋳造欠陥
26 潜在欠陥
27 窒素化合物層
28,34 ローラバニシング工具
28a,34a 軸
28b,34b 転圧子
30 塑性変形域層
30a 表面部分
31A,31B ノズル
32 硬質粒子
34c 円盤
34c1 湾曲面部
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックを備えた液圧回転機のシリンダブロック製造方法及び液圧回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
図12は従来の液圧回転機に備えられたピストンとシリンダとの摺動状態を説明する図、図13は図12に示すピストンが回転軸の周りにおける回転による遠心力を受けた状態を示す図である。
【0003】
一般的に、油圧ポンプ、油圧モータに代表される液圧回転機、例えば図12に示すようにアキシャルピストンポンプは、回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転するシリンダブロック1と、このシリンダブロック1の所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えている。この摺動部材は、例えばシリンダブロック1のシリンダ3に収容されるピストン2、あるいはシリンダブロック1の凹球面部5が摺接する弁板4から成り、シリンダブロック1のシリンダ3の摺動面がピストン2に摺動したり、あるいはシリンダブロック1の凹球面部5の摺動面が弁板4に摺動するようになっている。なお、シリンダブロック1には、ピストン2がシリンダ3内において往復運動することによって作動流体を吸入あるいは吐出させるシリンダポート6Aが設けられている。
【0004】
従って、シリンダブロック1の摺動面及び摺動部材は高い摺動面圧による潤滑油膜切れや制御油圧の変動による摺接状態の不安定化等の影響により、摺動面同士の焼き付きや局部的な異常摩耗等の発生リスクを有していることから、従来よりシリンダブロック1及び摺動部材は鉄鋼材、例えば鉄鋼材の中でも安価で摺動性能が高い球状黒鉛鋳鉄(FCD)から形成され、この球状黒鉛鋳鉄の構成組織としてフェライト又はパーライト、あるいはこれらの共存組織が多く用いられている。
【0005】
ここで、シリンダブロック1は、他の構成部品よりも比較的大きさが大きく素材費用が高くなるので、鋼材よりも球状黒鉛鋳鉄で作製されることが多い。しかし、この球状黒鉛鋳鉄は鋼材に比べて表面硬度が低いので、シリンダブロック1の摺動面の強度を高めるためにシリンダブロック素材の所定部位に窒化系熱処理を施し、当該所定部位を硬化させて所定の摺動面を形成することにより、シリンダブロック1にかかる摺動負荷に対する耐摩耗性能を確保している。
【0006】
このような窒化系熱処理を施したシリンダブロック1を備えた液圧回転機の従来技術の1つとして、シリンダ3の内周面が鋳鉄材質そのままもしくは窒化処理したシリンダブロック1と、このシリンダブロック1に組み合わせて使用されるピストン2であって、材質が窒化可能な鋼であり、調質して素地硬度を上げたものに窒化処理を施し、周面の硬化した表面層のうち高硬度層を除去して素地硬度よりも高い硬度層を残したものとを具備する斜板型ピストンポンプ又はモータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
すなわち、この特許文献1に開示された従来技術の斜板型ピストンポンプ又はモータでは、シリンダブロック素材の所定部位、例えばピストン2と摺動する所定の摺動面が形成されるシリンダ3、あるいは弁板4と摺動する所定の摺動面が形成される凹球面部5に対して切削もしくは総型砥石による研削によって荒加工形成した後、当該所定部位に窒化系熱処理を施して形成された窒素化合物層を仕上げ研削で除去することにより、シリンダブロック1の所定の摺動面が形成されるようになっている。
【0008】
そして、製造されたシリンダブロック1が液圧回転機に組み込まれ、回転軸と共に回転すると、ピストン2はシリンダ3内において回転軸と平行な方向に往復運動を繰り返し、シリンダポート6Aから作動流体をシリンダ3内に吸入あるいは吐出する。このとき、シリンダ3内には、ピストン2が上死点から下死点までストロークして作動流体の吸入を行うことによる負圧、及び下死点から上死点までストロークして作動流体を押し退けることによる正圧が繰り返し作用する。
【0009】
一方、シリンダ3の摺動面はピストン2に摺動することにより、シリンダ3に摺動負荷がかかるが、上述したように窒化系熱処理によってシリンダ3の耐摩耗性能が確保されているので、シリンダ3の摺動面が破損することなくピストン2に円滑に摺動するように思える。しかし、ピストン2は、図13に示すように回転軸の周りをシリンダブロック1と共に回転することによって遠心力を受けて傾くので、シリンダ3及びピストン2は互いに偏荷重を受ける。すなわち、シリンダ3の摺動面はピストン2の先端部2aと片当りしながら摺動すると共に、ピストン2の側面は、シリンダ3の開口端部3aと片当りしながら摺動し、これらの接触部位において高い摺動面圧が作用することになる。特に、この摺動面圧は、ピストン2が上死点から下死点までストロークしてシリンダ3内に作動流体を吸入する吸入工程において非常に大きくなる。
【0010】
ここで、上述したシリンダブロック素材に形成された窒素化合物層を仕上げ研削で除去した際に、シリンダブロック素材の所定部位の荒加工形成後における加工目に埋もれて視認されていなかった欠陥、及びシリンダブロック素材の窒素化合物層に対して仕上げ研削が行われる表面層の領域に潜在していた鋳造欠陥が仕上げ研削によって開口露出することにより、シリンダブロック1の摺動面上に鋳造欠陥が発現することがあり、製造されたシリンダブロック1は製造不良品として抽出され、製造歩留まりを下げる一因となる。
【0011】
そのため、シリンダ3の摺動面上に鋳造欠陥が発現した場合には、シリンダ3内において作動流体が吸入又は吐出することによる圧力変動が生じることにより、シリンダ3の摺動面上に発現した鋳造欠陥の亀裂が進展破壊したり、あるいはシリンダ3の摺動面がピストン2の先端部2aと片当りしながら摺動することにより、シリンダ3の摺動面に作用する高摺動負荷に伴う欠陥を起点とした異常損耗等が発生する虞がある。従って、シリンダブロック1の摺動面上に鋳造欠陥が発現することを防ぐ方法や鋳造欠陥が除去されたシリンダブロックが要望されている。
【0012】
そこで、このようなシリンダブロック1を含む鋳物に鋳造欠陥が発現することを防ぐ方法の従来技術の1つとして、鋳物の鋳造欠陥に、可視光又は近赤外光硬化型樹脂組成物を充填し、該充填部に可視光又は近赤外光を照射して硬化させる鋳物の欠陥補修方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−159230号公報
【特許文献2】特開2004−50277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した特許文献2に開示された鋳物の欠陥補修方法をシリンダブロックの摺動面部分に適用することにより、すなわちシリンダブロックの摺動面部分に存在する鋳造欠陥に、可視光又は近赤外光硬化型樹脂組成物を充填し、該充填部に可視光又は近赤外光を照射して硬化させることにより、シリンダブロックの摺動面部分に存在する鋳造欠陥を一時的に除去して補修することができる。しかし、特許文献2に開示された従来技術の鋳物の欠陥補修方法は、摺動面ではなく非摺動面に対して用いられるものであるので、当該方法によって補修されたシリンダブロックの摺動面が摺動部材に摺動した場合には、鋳造欠陥に充填された可視光又は近赤外光硬化型樹脂組成物がシリンダブロックの摺動面に作用する高摺動負荷によって剥離脱落し、脱落した脱落片が液圧回転機の各摺動部材に噛み込まれる虞がある。万一、脱落片が各摺動部材に噛み込まれた場合には、脱落片によって各摺動部材に損傷が発生し、各摺動部材の摺動状態が悪化することで摺動部材同士が焼き付いてしまうことが懸念されている。
【0015】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、シリンダブロック及び摺動部材における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる液圧回転機のシリンダブロック製造方法及び液圧回転機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明の液圧回転機のシリンダブロック製造方法は、回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機の前記シリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に所定の表面処理加工を施して前記所定の摺動面を形成するようにした液圧回転機のシリンダブロック製造方法において、前記所定の表面処理加工は、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における前記強ひずみ加工によって形成された前記塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における前記窒化系熱処理によって形成された前記窒素化合物層を除去する除去工程とを含むことを特徴としている。
【0017】
このように構成した本発明は、強ひずみ加工工程においてシリンダブロック素材の所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成することにより、シリンダブロック素材の所定部位の表面に存在する鋳造欠陥、及びシリンダブロック素材の所定部位の内部に潜在する鋳造欠陥を塑性変形によって予め封孔圧着して除去することができる。これにより、熱処理工程において塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成してシリンダブロック素材の所定部位における耐摩耗性能を確保した後、除去工程において窒素化合物層を除去しても、製造されたシリンダブロックの摺動面に鋳造欠陥が発現することを確実に抑制することができる。従って、シリンダブロックの摺動面が摺動部材に摺動しても封孔圧着された鋳造欠陥のない状態が保持されるので、シリンダブロック及び摺動部材における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる。
【0018】
また、本発明の液圧回転機は、回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機の前記シリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に施す所定の表面処理加工を備え、この所定の表面処理加工は、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における前記強ひずみ加工によって形成された前記塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における前記窒化系熱処理によって形成された前記窒素化合物層を除去する除去工程とを含む液圧回転機のシリンダブロック製造方法によって、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に前記所定の表面処理加工を施して前記所定の摺動面を形成して成るシリンダブロックを備えたことを特徴としている。
【0019】
このように構成した本発明は、液圧回転機に備えられたシリンダブロックは、シリンダブロック素材の所定部位に対して強ひずみ加工を行うことによって塑性変形域層を形成し、シリンダブロック素材の所定部位の鋳造欠陥を封孔圧着して除去した上で、塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行って窒素化合物層を形成した後に、窒素化合物層を除去して製造されているので、シリンダブロックの摺動面の表面、及び当該摺動面の直下に潜在する鋳造欠陥が除去されており、シリンダブロックの摺動面の硬度を向上させて高い耐摩耗性能を確保することができる。従って、液圧回転機が動作してシリンダブロックが摺動部材に摺動しても、シリンダブロックの摺動面に鋳造欠陥が発現したり、あるいは当該摺動面が損傷することを抑えることができるので、シリンダブロック及び摺動部材における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる。
【0020】
また、本発明の液圧回転機は、前記発明において、前記摺動部材はピストンから成り、前記シリンダブロックは、前記ピストンと摺動する前記所定の摺動面が形成されるシリンダを有し、前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前のシリンダの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成ることを特徴としている。このように構成すると、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される当該シリンダの内周面をバニシング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、塑性変形域層が形成されたシリンダの摺動面における表面粗さを小さく抑えることができる。また、バニシング加工を所定の摺動面が形成される前のシリンダの内周面に対して底部から開口部へ施すことにより、製造されたシリンダブロックにおけるシリンダの摺動面は、塑性変形域層における微細な各表面部分が底部から開口部に沿う一方向を向いて並設された異方性を有するので、ピストンがシリンダ内において上死点から下死点までストロークして作動流体を吸入する際に、シリンダの摺動面がピストンから受ける抵抗を減少させることができる。これにより、回転に伴う遠心力を受けて傾いたシリンダの摺動面がピストンの先端部と片当りすることによって生じる摺動面圧の負荷を大幅に軽減することができ、シリンダの摺動面のピストンに対する耐久性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の液圧回転機は、前記発明において、当該液圧回転機は液圧ポンプから構成され、前記摺動部材は弁板から成り、前記シリンダブロックは、前記弁板と摺動する前記所定の摺動面が形成される凹球面部を有し、前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前の凹球面部の表面に対して前記シリンダブロックの回転方向と反対方向へ向かって施されるバニシング加工から成ることを特徴としている。このように構成すると、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される当該凹球面部の表面をバニシング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、塑性変形域層が形成された凹球面部の摺動面における表面粗さを小さく抑えることができる。また、バニシング加工を所定の摺動面が形成される前の凹球面部に対してシリンダブロックの回転方向と反対方向へ施すことにより、製造されたシリンダブロックにおける凹球面部の摺動面は、塑性変形域層おける微細な各表面部分がシリンダブロックの回転方向と反対方向を向いて並設された異方性を有するので、液圧ポンプが動作してシリンダブロックが一定方向へ回転した場合に、凹球面部の摺動面が弁板から受ける抵抗を減少させることができる。これにより、凹球面部の摺動面に生じる摺動面圧の負荷を大幅に軽減することができ、凹球面部の摺動面の弁板に対する摺動性能を良好に保つことができる。
【0022】
また、本発明の液圧回転機は、前記発明において、前記摺動部材は弁板から成り、前記シリンダブロックは、前記弁板と摺動する前記所定の摺動面が形成される凹球面部を有し、前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前の凹球面部の表面に対して施されるショットピーニング加工から成ることを特徴としている。このように構成すると、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される当該凹球面部の表面をショットピーニング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、当該凹球面部の表面全体に対して塑性変形による加工硬化の効果を効果的かつ迅速に付与することができる。これにより、製造されたシリンダブロックにおける凹球面部の摺動面の強度及び耐久性が増すので、凹球面部の摺動面を長期に渡って弁板に円滑に摺動させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液圧回転機のシリンダブロック製造方法は、回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機のシリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成するようにしている。そして、この所定の表面処理加工は、シリンダブロック素材の所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における強ひずみ加工によって形成された塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における窒化系熱処理によって形成された窒素化合物層を除去する除去工程とを含んでいる。そのため、シリンダブロック素材の所定部位を強ひずみ加工によって封孔圧着して当該所定部位に存在する鋳造欠陥を除去できるので、窒化系熱処理によって形成された窒素化合物層を除去した際に、強ひずみ加工を行う前にシリンダブロック素材の所定部位の内部に潜在していた鋳造欠陥の発現を抑え、シリンダブロックの摺動性能を高めることができる。これにより、従来よりも摺動面に欠陥の少ない球状黒鉛鋳鉄のシリンダブロックを安定的に製造することができ、シリンダブロックの製造歩留まりを向上させることができる。
【0024】
このように、本発明の液圧回転機のシリンダブロック製造方法によって製造されたシリンダブロックを備えた液圧回転機は、動作中にシリンダブロックの摺動面が摺動部材に摺動しても封孔圧着された鋳造欠陥のない状態が保持されるので、シリンダブロック及び摺動部材における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる。従って、従来よりもシリンダブロック及び摺動部材における損傷や破損等の発生を大幅に減少させることができるので、液圧回転機に対する高い信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る液圧回転機の第1実施形態である可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態が適用されるシリンダの内周面の状態を説明する図である。
【図3】図2に示すシリンダの内周面に窒素化合物層が形成された状態を示す図である。
【図4】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【図5】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における熱処理工程及び除去工程を説明する図である。
【図6】本発明に係る液圧回転機の第1実施形態におけるシリンダの摺動面を説明する図である。
【図7】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第2実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【図8】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態が適用されるシリンダブロックの凹球面部の表面状態を説明する図である。
【図9】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【図10】本発明に係る液圧回転機の第3実施形態における凹球面部の摺動面を説明する図である。
【図11】本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第4実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【図12】従来の液圧回転機に備えられたピストンとシリンダとの摺動状態を説明する図である。
【図13】図12に示すピストンが回転軸の周りにおける回転による遠心力を受けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法及び液圧回転機を実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0027】
[液圧回転機の第1実施形態]
本発明に係る液圧回転機の第1実施形態の基本構成は、前述した図12に示す液圧回転機の構成と同じである。従って、図12に示す液圧回転機と重複する部分には同一符号を付す。
【0028】
本発明に係る液圧回転機の第1実施形態は、例えば可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプに備えられる。図1に示すように、可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプ、すなわち油圧ポンプ7は、外殻を形成するケーシング8と、このケーシング8の中央部において軸線周りに回転可能に設けられた回転軸9と、この回転軸9の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロック1と、このシリンダブロック1の所定の摺動面に摺接する後述の摺動部材と、シリンダブロック1の各シリンダ3にそれぞれ収容される複数のピストン2とを備えている。ここで、本発明の液圧回転機の第1実施形態では、摺動部材は例えば上述した各ピストン2から成り、本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態は、油圧ポンプ7のシリンダブロック1の製造に際し、後述する図4〜図6に示すようにシリンダブロック素材1Aの所定部位、例えばシリンダ3に相当する部分に所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成している。
【0029】
本発明の液圧回転機の第1実施形態は、ケーシング8は、回転軸9及びシリンダブロック1等の各部材を覆う筒状のケーシング本体12と、このケーシング本体12の両端側を閉塞するフロントケーシング13及びリヤケーシング14とから成っている。そして、リヤケーシング14は、シリンダブロック1内に作動油を供給あるいは排出する一対の給排通路15A,15Bを有している。これらの給排通路15A,15Bは、作動油の吸込側及び吐出側に設けられた図示しない配管等に接続されている。
【0030】
回転軸9は、フロントケーシング13とリヤケーシング14との間に軸受16,17等を介して回転可能に支持されている。また、回転軸9は、フロントケーシング13から軸線方向に突出する突出端9Aが形成されており、この突出端9A側が、例えばディーゼルエンジン等の図示しない原動機によって回転駆動される。シリンダブロック1は、回転軸9の外周側にスプライン結合されており、回転軸9と共に一体となって回転する。そして、シリンダブロック1は、両端面のうちフロントケーシング13側の一端が後述の斜板11に対向して配置され、両端面のうちリヤケーシング14側の他端は後述の弁板4に摺接する。
【0031】
シリンダブロック1は、内部に各ピストン2を包含する上述の複数のシリンダ3を有しており、これらの各シリンダ3は、回転軸9を中心としてシリンダブロック1の軸線周りに一定の間隔をおいて離間され、シリンダブロック1の軸線方向、すなわち回転軸9の軸線方向に対して平行に配置されている。そして、各シリンダ3の一端には、後述の弁板4を介してリヤケーシング14の給排通路15A,15Bに対して間欠的に連通又は遮断されるシリンダポート6Aが形成されている。
【0032】
また、油圧ポンプ7は、各ピストン2の端部に揺動可能にそれぞれ保持され、シリンダブロック1と共に回転する複数のシュー10と、ケーシング8のうちフロントケーシング13側に傾転可能に設けられ、各シュー10が摺接する斜板11と、各シュー10を各ピストン2の押付力によって斜板11側にそれぞれ押付ける複数のシュー押え18と、フロントケーシング13に設けられ、斜板11を揺動可能に支持するクレイドル20と、ケーシング8のうちリヤケーシング14側に配置され、リヤケーシング14とシリンダブロック1との間に設けられた弁板4と、斜板11を傾転駆動する傾転アクチュエータ23,24とを備えている。
【0033】
斜板11は、クレイドル20によって傾転可能に支持される斜板本体22と、この斜板本体22の表面側に固定して設けられ、シュー10が摺動する平滑板19と、回転軸9を挿通する軸挿通穴22Aとから成っている。なお、この軸挿通穴22Aの大きさは、回転軸9を挿通した状態において回転軸9が斜板11の傾転動作の妨げとならないように設定されている。また、平滑板19は、軸挿通穴22Aと同様に中央部がくり抜かれ、回転軸9を挿通させる軸挿通穴19Aを有しており、ドーナツ型の円盤状に形成されている。
【0034】
クレイドル20は、斜板11の裏面側に配置され、ケーシング8のフロントケーシング13に固定されている。また、クレイドル20には、回転軸9を挟んで左右あるいは上下に離間した一対の傾転摺動面2が設けられており、この傾転摺動面2は、斜板11を傾転可能に支持するように凹湾曲状の円弧面に形成されている。そして、斜板本体22がフロントケーシング13側にクレイドル20の傾転摺動面2を介して傾転可能に取付けられている。また、傾転アクチュエータ23,24は、外部から傾転制御圧が給排されることにより、この傾転制御圧に応じて斜板11の傾転角を可変に制御している。
【0035】
各シュー10は、各ピストン2からの押付力でシュー押え18等を介して斜板11の平滑板19にそれぞれ押付けられた状態で保持されている。弁板4は、シリンダブロック1の両端面のうちリヤケーシング14側の端面に摺接し、シリンダブロック1を回転軸9と共に回転可能に支持している。また、弁板4には、眉形状を有する一対の給排ポート4Aが形成されており、これらの給排ポート4Aは、リヤケーシング14の給排通路15A,15Bに連通され、シリンダブロック1が回転軸9の軸線周りに回転したときに各シリンダ3のシリンダポート6Aに間欠的に連通するようになっている。
【0036】
ここで、エンジン等の原動機によって回転軸9を回転駆動させると、シリンダブロック1が回転軸9の軸線周りに回転軸9と一体となって一定方向へ回転する。このとき、斜板11は、傾転アクチュエータ23,24によってケーシング本体12に対して傾いているので、シリンダブロック1のシリンダ3内に収容されたピストン2は、シリンダブロック1の回転に伴ってシリンダ3内を上死点から下死点へ向けて摺動する吸入工程と、シリンダ3内を下死点から上死点へ向けて摺動する吐出工程とを繰り返す。従って、ピストン2の吸入工程では、例えば給排通路15Bからシリンダ3内に作動油が吸込まれ、ピストン2の吐出工程では、シリンダ3内から給排通路15Aへ作動油が高圧の圧油として吐出される。なお、回転軸9の軸線に対する斜板11の傾転角に応じてピストン2のストローク長が増減されるので、傾転アクチュエータ23,24が斜板11の傾転角を制御することにより、シリンダ3内における作動油の吸入量及び吐出量が調整される。
【0037】
次に、油圧ポンプ7に備えられる上述したシリンダブロック1は例えば以下のようにして形成される。
【0038】
図2は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態が適用されるシリンダの内周面の状態を説明する図、図3は図2に示すシリンダの内周面に窒素化合物層が形成された状態を示す図、図4は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図、図5は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における熱処理工程及び除去工程を説明する図、図6は本発明に係る液圧回転機の第1実施形態におけるシリンダの摺動面を説明する図である。
【0039】
本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態は、例えば素材である球状黒鉛鋳鉄を切削加工することにより、図2に示すようにシリンダブロック素材1Aの外径を形成する。このとき、シリンダブロック素材1Aの所定部位、例えば所定の摺動面が形成される前のシリンダ3Aの内周面部分には、表面に鋳造欠陥25が存在すると共に、内部にも鋳造欠陥26が潜在する。従って、本発明のシリンダブロック製造方法の第1実施形態は、上述した所定の表面処理加工は、図4、図5に示すようにシリンダ3Aの内周面に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層30を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における強ひずみ加工によって形成された塑性変形域層30に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層27を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における窒化系熱処理によって形成された窒素化合物層27を除去する除去工程とを含んでいる。
【0040】
具体的には、強ひずみ加工工程では、図3に示すように後述する除去工程において窒素化合物層27に加えて塑性変形域層30の表面部分を除去する際に、すなわち窒素化合物層27の表面から深さAまで除去する際に、シリンダ3Aの内周面部分に潜在する鋳造欠陥26が露出しないように強ひずみ加工工程において強ひずみ加工は当該内周面に対して十分に行われる。
【0041】
本発明のシリンダブロック製造方法の第1実施形態における強ひずみ加工は、例えば図4に示すようにシリンダ3Aの内周面部分に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成っており、このバニシング加工において例えばシリンダ3Aの内径より小さい外径を有する軸28aと、この軸28aの外周面に軸線周りに一定の間隔で離隔して設けられた円筒形状の複数の転圧子28bとから成るローラバニシング工具28が用いられている。
【0042】
このローラバニシング工具28をシリンダ3Aの開口部から内側へ挿入し、各転圧子28bをシリンダ3Aの底部の内周面に押しつけて軸28aを回転させると、各転圧子28bがシリンダ3Aの内周面を加圧しながら転動するので、加圧されたシリンダ3Aの内周面の表面組織が塑性流動する。そのため、各転圧子28bによってシリンダ3Aの内周面上に存在する鋳造欠陥25が封孔されると共に、シリンダ3Aの内周面部分の内部に潜在する鋳造欠陥26も押し潰されて圧着するので、これらの鋳造欠陥25,26が除去される。
【0043】
従って、各転圧子28bがシリンダ3Aの底部の内周面を加圧した状態でローラバニシング工具28をシリンダ3Aの底部から開口部へ、すなわち矢印B方向へ持ち上げることにより、図5に示すようにシリンダ3Aの内周面部分に塑性変形域層30が形成される。このとき、ローラバニシング工具28の各転圧子28bが底部から開口部に沿ってシリンダ3Aの内周面に摺動することにより、図6に示すように形成された塑性変形域層30における微細な各表面部分30aが底部から開口部に沿った一方向を向いて並設される。
【0044】
次に、熱処理工程では、上述した強ひずみ加工工程における強ひずみ加工によって形成された塑性変形域層30に対して窒化系熱処理を行うと、図5に示すように塑性変形域層30の表面上に窒素化合物層27が形成される。この窒素化合物層27は硬質脆性であるため、仮に除去工程において窒素化合物層27が十分に除去されなかった場合には、シリンダ3Aに残った窒素化合物層27がピストン2に摺動することによって欠落し、欠落した窒素化合物層27の破片でピストン2等が破損する可能性がある。これを防止するために、除去工程において塑性変形域層30の表面上の窒素化合物層27は完全に除去される必要がある。
【0045】
そこで、除去工程では、熱処理工程において窒化系熱処理によって窒素化合物層27が形成された後、図5に示すようにシリンダ3Aの内周面上の窒素化合物層27が形成されている範囲だけでなく、窒素化合物層27の厚さを超え、その直下に形成されている塑性変形域層30の途中まで研削して除去するようにしている。すなわち、窒素化合物層27の表面から深さAまで研削し、図6に示すように窒素化合物層27が完全に除去される。
【0046】
このように構成した本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1実施形態によれば、強ひずみ加工工程においてシリンダ3Aの内周面に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層30を形成することにより、シリンダ3Aの内周面上に存在する鋳造欠陥25、及びシリンダ3Aの内周面部分の内部に潜在する鋳造欠陥26を塑性変形によって予め封孔圧着して除去することができる。そして、熱処理工程において塑性変形域層30に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層27を形成してシリンダ3Aの内周面部分における耐摩耗性能を確保した後、除去工程において窒素化合物層27の表面から深さAまで研削することにより、製造されたシリンダブロック1におけるシリンダ3の摺動面に鋳造欠陥25,26が発現することを確実に抑制することができる。また、図6に示すようにシリンダ3の摺動面に窒素化合物層27が残ることもないので、窒化系熱処理によって得られたシリンダ3Aの内周面部分における耐摩耗性能の効果を十分に発揮することができる。これにより、摺動面に欠陥の少ない球状黒鉛鋳鉄のシリンダブロック1を安定的に製造することができ、シリンダブロック1の製造歩留まりを向上させることができる。
【0047】
そして、本発明のシリンダブロック製造方法の第1実施形態によって製造されたシリンダブロック1を備えた液圧回転機の第1実施形態は、動作中にシリンダブロック1におけるシリンダ3の摺動面がピストン2に摺動しても封孔圧着された鋳造欠陥25,26のない状態が保持されるので、シリンダ3及びピストン2における正常な摺動状態を実現すると共に、安定的な摺動状態を維持することができる。従って、シリンダ3及びピストン2における損傷や破損等の発生を大幅に減少させることができるので、油圧ポンプ7に対する高い信頼性を得ることができる。
【0048】
また、本発明のシリンダブロック製造方法の第1実施形態は、強ひずみ加工工程において、ローラバニシング工具28を用いてシリンダ3Aの内周面に対してバニシング加工を施すことにより、シリンダ3Aの内周面全体をバニシング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、製造されたシリンダブロック1におけるシリンダ3の摺動面の表面粗さを小さく抑えることができる。また、バニシング加工においてローラバニシング工具28の各転圧子28bをシリンダ3Aの内周面に押しつけて転動させ、ローラバニシング工具28をシリンダ3Aの内周面に対して底部から開口部へ向かって持ち上げることにより、製造されたシリンダブロック1におけるシリンダ3の摺動面は、図6に示すように塑性変形域層30における微細な各表面部分30aが底部から開口部に沿う一方向を向いて並設された異方性を有するので、ピストン2がシリンダ3内において上死点から下死点までストロークして作動油を吸入する際に、シリンダ3の摺動面がピストン2から受ける抵抗を減少させることができる。これにより、回転に伴う遠心力を受けて傾いたシリンダ3の摺動面がピストン2の先端部2aと片当りすることによって生じる摺動面圧の負荷を大幅に軽減することができ、シリンダ3の摺動面のピストン2に対する耐久性を向上させることができる。
【0049】
[液圧回転機の第2実施形態]
図7は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第2実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【0050】
本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第2実施形態が前述したシリンダブロック製造方法の第1実施形態と異なるのは、第1実施形態では、図4に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、シリンダ3が形成される前のシリンダ3Aの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成るのに対し、第2実施形態では、図7に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、例えばシリンダ3Aの内周面に対して施されるショットピーニング加工から成ることである。
【0051】
具体的には、本発明のシリンダブロック製造方法の第2実施形態における強ひずみ加工は、ショットピーニング加工において例えばシリンダ3の内径より小さい外径を有し、圧縮空気によって硬質粒子32を噴射するノズル31Aが用いられている。このノズル31Aをシリンダ3Aの開口部から内側へ挿入し、先端から硬質粒子32を噴射しながらノズル31Aを軸線周りに回転して上下に移動させることにより、噴射された硬質粒子32がシリンダ3Aの内周面に衝突し、シリンダ3Aの内周面の表面組織が塑性流動する。そのため、硬質粒子32によってシリンダ3Aの内周面上に存在する鋳造欠陥25が封孔されると共に、シリンダ3Aの内周面部分の内部に潜在する鋳造欠陥26も押し潰されて圧着するので、これらの鋳造欠陥25,26が除去される。
【0052】
従って、本発明に係る液圧回転機の第2実施形態は、本発明のシリンダブロック製造方法の第2実施形態によってシリンダ3Aの内周面に上述した所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成して成るシリンダブロック1を備えている。なお、本発明の液圧回転機の第2実施形態におけるシリンダ3の摺動面は、液圧回転機の第1実施形態において形成された塑性変形域層30における微細な各表面部分30aが底部から開口部に沿った一方向を向いて並設された異方性を有していない。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0053】
このように構成した本発明の液圧回転機の第2実施形態によれば、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施されるシリンダ3Aの内周面をショットピーニング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、シリンダ3Aの内周面部分に存在する鋳造欠陥25,26を効率的に除去し、シリンダ3Aの内周面全体に対して塑性変形による加工硬化の効果を効果的かつ迅速に付与することができる。従って、本発明の液圧回転機の第2実施形態におけるシリンダ3の摺動面は、ショットピーニング加工によって強度及び耐久性が大幅に向上しているので、長期に渡って安定した摺動性能を維持することができる。
【0054】
[液圧回転機の第3実施形態]
図8は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態が適用されるシリンダブロックの凹球面部の表面状態を説明する図、図9は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図、図10は本発明に係る液圧回転機の第3実施形態における凹球面部の摺動面を説明する図である。
【0055】
本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第3実施形態が前述したシリンダブロック製造方法の第1実施形態と異なるのは、第1実施形態では、摺動部材は各ピストン2から成り、図4に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、シリンダ3が形成される前のシリンダ3Aの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成るのに対し、第3実施形態では、摺動部材は例えば弁板4から成り、図9に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、例えば所定の摺動面が形成される前の凹球面部5Aの表面に対してシリンダブロック1の回転方向と反対方向へ向かって施されるバニシング加工から成ることである。
【0056】
具体的には、本発明のシリンダブロック製造方法の第3実施形態における強ひずみ加工は、バニシング加工において例えば凹球面部5Aに対向させる湾曲面部34c1が形成された円盤34cと、この円盤34cのうち湾曲面部34c1と反対側の面の中心部に円盤34cに対して垂直に設けられた軸34aと、円盤34cの湾曲面部34c1上に円盤34cの中心軸周りに一定の間隔で離隔して設けられた円筒形状の複数の転圧子34bから成るローラバニシング工具34が用いられている。
【0057】
このローラバニシング工具34の湾曲面部34c1を凹球面部5Aに押しつけて軸34aをシリンダブロック1の回転方向と反対方向、すなわち矢印C方向へ回転させると、各転圧子34bが凹球面部5Aの表面を加圧しながら転動するので、加圧された凹球面部5Aの表面組織が塑性流動する。そのため、各転圧子34bによって図8に示す凹球面部5Aの表面上に存在する鋳造欠陥25が封孔されると共に、凹球面部5Aの内部に潜在する鋳造欠陥26も押し潰されて圧着するので、これらの鋳造欠陥25,26が図10に示すように除去される。また、ローラバニシング工具34の各転圧子34bがシリンダブロック1の回転方向と反対方向へ向かって凹球面部5Aに摺動することにより、図示されないが、形成された塑性変形域層30における微細な各表面部分がシリンダブロック1の回転方向と反対方向を向いて並設される。
【0058】
そして、本発明に係る液圧回転機の第3実施形態は、本発明のシリンダブロック製造方法の第3実施形態によって凹球面部5Aの表面に上述した所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成して成るシリンダブロック1を備えている。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0059】
このように構成した本発明の液圧回転機の第3実施形態によれば、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される凹球面部5Aの表面をバニシング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、塑性変形域層30が形成された凹球面部5Aの摺動面における表面粗さを小さく抑えることができる。また、バニシング加工においてローラバニシング工具34の湾曲面部34c1を凹球面部5Aに押しつけて軸34aをシリンダブロック1の回転方向と反対方向、すなわち矢印C方向へ回転させることにより、製造されたシリンダブロック1における凹球面部5の摺動面は、塑性変形域層30における微細な各表面部分がシリンダブロック1の回転方向と反対方向を向いて並設された異方性を有するので、油圧ポンプ7が動作してシリンダブロック1が一定方向へ回転した場合に、凹球面部5の摺動面が弁板4から受ける抵抗を減少させることができる。これにより、凹球面部5の摺動面に生じる摺動面圧の負荷を大幅に軽減することができ、凹球面部5の摺動面の弁板4に対する摺動性能を良好に保つことができる。
【0060】
[液圧回転機の第4実施形態]
図11は本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第4実施形態における強ひずみ加工工程を説明する図である。
【0061】
本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第4実施形態が前述したシリンダブロック製造方法の第1実施形態と異なるのは、第1実施形態では、摺動部材は各ピストン2から成り、図4に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、シリンダ3が形成される前のシリンダ3Aの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成るのに対し、第4実施形態では、摺動部材は例えば弁板4から成り、図11に示すように強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が、例えば所定の摺動面が形成される前の凹球面部5Aの表面に対して施されるショットピーニング加工から成ることである。
【0062】
具体的には、本発明のシリンダブロック製造方法の第4実施形態における強ひずみ加工は、ショットピーニング加工において例えば圧縮空気によって硬質粒子32を噴射するノズル31Bが用いられている。このノズル31Bを凹球面部5Aの表面に向けて先端から硬質粒子32を噴射することにより、噴射された硬質粒子32が凹球面部5Aの表面に衝突し、凹球面部5Aの表面組織が塑性流動する。そのため、硬質粒子32によって凹球面部5Aの表面上に存在する鋳造欠陥25が封孔されると共に、凹球面部5Aの内部に潜在する鋳造欠陥26も押し潰されて圧着するので、これらの鋳造欠陥25,26が除去される。
【0063】
従って、本発明に係る液圧回転機の第4実施形態は、本発明のシリンダブロック製造方法の第4実施形態によって凹球面部5Aの表面上に上述した所定の表面処理加工を施して所定の摺動面を形成して成るシリンダブロック1を備えている。なお、本発明の液圧回転機の第4実施形態における凹球面部5Aの摺動面は、前述した液圧回転機の第3実施形態において形成された塑性変形域層30おける微細な各表面部分がシリンダブロック1の回転方向と反対方向を向いて並設された異方性を有していない。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0064】
このように構成した本発明の液圧回転機の第4実施形態によれば、強ひずみ加工工程における強ひずみ加工が施される凹球面部5Aの表面をショットピーニング加工によって効率的かつ均等に塑性変形させることができるので、凹球面部5Aの表面全体に対して塑性変形による加工硬化の効果を効果的かつ迅速に付与することができる。従って、本発明の液圧回転機の第4実施形態における凹球面部5の摺動面は、耐摩耗性能を大幅に増すことができるので、弁板4に摺動することによって摩り減ることを抑えることができ、円滑な摺動動作を長期に渡って持続させることができる。
【0065】
なお、上述した本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第2、第4実施形態は、図7、図11に示すように強ひずみ加工工程のショットピーニング加工において圧縮空気によって硬質粒子32を噴射するノズル31A,31Bをそれぞれ用いた場合について説明したが、この場合に限らず、ショットピーニング加工において例えば硬質粒子をインペラにより噴投射するようにしても良い。
【0066】
また、本発明に係る液圧回転機のシリンダブロック製造方法の第1〜4実施形態は、シリンダ3Aの内周面及び凹球面部5Aの表面のうちいずれか一方に対して所定の表面処理加工を施した場合について説明したが、この場合に限らず、シリンダ3Aの内周面及び凹球面部5Aの表面の双方に対して所定の表面処理加工を施してシリンダブロックを製造しても良い。
【符号の説明】
【0067】
1 シリンダブロック
1A シリンダブロック素材
2 ピストン
2a 先端部
3,3A シリンダ
3a 開口端部
4 弁板
5,5A 凹球面部
7 油圧ポンプ
9 回転軸
11 斜板
25,26 鋳造欠陥
26 潜在欠陥
27 窒素化合物層
28,34 ローラバニシング工具
28a,34a 軸
28b,34b 転圧子
30 塑性変形域層
30a 表面部分
31A,31B ノズル
32 硬質粒子
34c 円盤
34c1 湾曲面部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機の前記シリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に所定の表面処理加工を施して前記所定の摺動面を形成するようにした液圧回転機のシリンダブロック製造方法において、
前記所定の表面処理加工は、
前記シリンダブロック素材の前記所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、
この強ひずみ加工工程における前記強ひずみ加工によって形成された前記塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、
この熱処理工程における前記窒化系熱処理によって形成された前記窒素化合物層を除去する除去工程とを含むことを特徴とする液圧回転機のシリンダブロック製造方法。
【請求項2】
回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機の前記シリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に施す所定の表面処理加工を備え、この所定の表面処理加工は、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における前記強ひずみ加工によって形成された前記塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における前記窒化系熱処理によって形成された前記窒素化合物層を除去する除去工程とを含む液圧回転機のシリンダブロック製造方法によって、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に前記所定の表面処理加工を施して前記所定の摺動面を形成して成るシリンダブロックを備えたことを特徴とする液圧回転機。
【請求項3】
請求項2に記載の液圧回転機において、
前記摺動部材はピストンから成り、
前記シリンダブロックは、前記ピストンと摺動する前記所定の摺動面が形成されるシリンダを有し、
前記強ひずみ加工は、
前記所定の摺動面が形成される前のシリンダの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成ることを特徴とする液圧回転機。
【請求項4】
請求項2に記載の液圧回転機において、
当該液圧回転機は液圧ポンプから構成され、
前記摺動部材は弁板から成り、
前記シリンダブロックは、前記弁板と摺動する前記所定の摺動面が形成される凹球面部を有し、
前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前の凹球面部の表面に対して前記シリンダブロックの回転方向と反対方向へ向かって施されるバニシング加工から成ることを特徴とする液圧回転機。
【請求項5】
請求項2に記載の液圧回転機において、
前記摺動部材は弁板から成り、
前記シリンダブロックは、前記弁板と摺動する前記所定の摺動面が形成される凹球面部を有し、
前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前の凹球面部の表面に対して施されるショットピーニング加工から成ることを特徴とする液圧回転機。
【請求項1】
回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機の前記シリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に所定の表面処理加工を施して前記所定の摺動面を形成するようにした液圧回転機のシリンダブロック製造方法において、
前記所定の表面処理加工は、
前記シリンダブロック素材の前記所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、
この強ひずみ加工工程における前記強ひずみ加工によって形成された前記塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、
この熱処理工程における前記窒化系熱処理によって形成された前記窒素化合物層を除去する除去工程とを含むことを特徴とする液圧回転機のシリンダブロック製造方法。
【請求項2】
回転軸と、この回転軸の回転に伴って回転し、球状黒鉛鋳鉄によって形成されるシリンダブロックと、このシリンダブロックの所定の摺動面に摺接する摺動部材とを備えた液圧回転機の前記シリンダブロックの製造に際し、シリンダブロック素材の所定部位に施す所定の表面処理加工を備え、この所定の表面処理加工は、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に対して強ひずみ加工を行い、塑性変形域層を形成する強ひずみ加工工程と、この強ひずみ加工工程における前記強ひずみ加工によって形成された前記塑性変形域層に対して窒化系熱処理を行い、窒素化合物層を形成する熱処理工程と、この熱処理工程における前記窒化系熱処理によって形成された前記窒素化合物層を除去する除去工程とを含む液圧回転機のシリンダブロック製造方法によって、前記シリンダブロック素材の前記所定部位に前記所定の表面処理加工を施して前記所定の摺動面を形成して成るシリンダブロックを備えたことを特徴とする液圧回転機。
【請求項3】
請求項2に記載の液圧回転機において、
前記摺動部材はピストンから成り、
前記シリンダブロックは、前記ピストンと摺動する前記所定の摺動面が形成されるシリンダを有し、
前記強ひずみ加工は、
前記所定の摺動面が形成される前のシリンダの内周面に対して底部から開口部へ向かって施されるバニシング加工から成ることを特徴とする液圧回転機。
【請求項4】
請求項2に記載の液圧回転機において、
当該液圧回転機は液圧ポンプから構成され、
前記摺動部材は弁板から成り、
前記シリンダブロックは、前記弁板と摺動する前記所定の摺動面が形成される凹球面部を有し、
前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前の凹球面部の表面に対して前記シリンダブロックの回転方向と反対方向へ向かって施されるバニシング加工から成ることを特徴とする液圧回転機。
【請求項5】
請求項2に記載の液圧回転機において、
前記摺動部材は弁板から成り、
前記シリンダブロックは、前記弁板と摺動する前記所定の摺動面が形成される凹球面部を有し、
前記強ひずみ加工は、前記所定の摺動面が形成される前の凹球面部の表面に対して施されるショットピーニング加工から成ることを特徴とする液圧回転機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−2282(P2013−2282A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130544(P2011−130544)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
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