説明

液圧転写印刷用ベースフィルム

【課題】印刷適性に優れた液圧転写印刷用ベースフィルムを提供する。
【解決手段】20℃における4重量%水溶液粘度が10〜70mPa・sの範囲内で、かつ平均ケン化度が70〜98モル%の範囲内であるポリビニルアルコール系樹脂を主成分とするフィルム形成材料からなるポリビニルアルコール系フィルムである。そして、上記ポリビニルアルコール系フィルムの動摩擦係数を0.2〜0.8の範囲内とする液圧転写印刷用ベースフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液面、とりわけ水面に浮かべて使用し、フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水圧転写印刷用ベースフィルムとしては、ポリビニルアルコール系樹脂を形成材料とするポリビニルアルコール系フィルムが用いられている。そして、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、つぎのようにして水圧転写方法に供されている。すなわち、上記ポリビニルアルコール系フィルム面に所望の意匠を印刷し、上記意匠印刷面を上方にして水面に浮かべ、フィルム上方から被転写体を意匠印刷面に押し当てて被転写体に意匠を転写させることが行われている。
【0003】
このような水圧転写方法において、例えば、ベースフィルムとして、重合度500〜3000、ケン化度80〜99.9モル%のポリビニルアルコールからなり、水分率が1.5〜4.0%であり、厚みが20〜50μm、フィルムの長手方向に50℃で8.0kg/mの張力を1分間かけた時の幅収縮率が0.01〜1.5%であるポリビニルアルコール系フィルムを用いることにより、高精細な転写印刷を可能とすることが開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−60636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1をはじめとする従来のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いた水圧転写方法では、転写に関してはある程度良好に転写できるものの、高精細印刷とりわけグラビア印刷において、ロール状のフィルムが巻き出されるときに滑り性が悪いと引っかかったり、酷くなるとブロッキングにより印刷時に断紙することがあり、イメージ通りの印刷がしづらいといった印刷適性に関して問題を有している。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、印刷適性に優れた液圧転写印刷用ベースフィルムの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このように、本発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、ベースフィルムの形成材料の主成分であるポリビニルアルコール系樹脂(A)の物性である、20℃における4重量%水溶液粘度および平均ケン化度が大きく関与するとともに、ベースフィルム自身の特性である動摩擦係数が深く関与することを突き止めた。そして、これら物性についてさらなる研究を重ねた結果、特定の粘度と平均ケン化度を有するポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とするフィルム形成材料を用いるとともに、上記フィルム形成材料にて得られた特定範囲の動摩擦係数となるベースフィルムを用いると、液圧転写方法において、印刷特性に優れ、しかも、意匠印刷過程でのベースフィルムの破断が抑制され転写特性(付き廻り性)に優れることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは、20℃における4重量%水溶液粘度が10〜70mPa・sの範囲内で、かつ平均ケン化度が70〜98モル%の範囲内であるポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とするフィルム形成材料からなるポリビニルアルコール系フィルムであって、上記ポリビニルアルコール系フィルムの動摩擦係数が0.2〜0.8の範囲内であるという構成をとる。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明は、特定のポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とするフィルム形成材料からなり、ポリビニルアルコール系フィルムの動摩擦係数が0.2〜0.8の範囲内となる液圧転写印刷用ベースフィルムである。このため、このベースフィルムに所定の意匠を印刷して液圧転写印刷に用いた際には、良好な印刷適性を有し、優れた転写時の付き廻り性を発揮するようになる。
【0009】
そして、ポリビニルアルコール系フィルムの水分率が2〜6重量%であると、より一層優れた印刷適性と転写適性が得られる。
【0010】
また、ポリビニルアルコール系フィルムのヘイズが、3〜40%の範囲内であると、印刷時の色合わせに支障をきたすことなく良好となる。
【0011】
ポリビニルアルコール系フィルムの全光線透過率が、85〜93%であると、印刷時の色合わせが良好となる。
【0012】
ポリビニルアルコール系フィルムの破断伸度が、23℃、50%RH調湿条件下において、150%以上であると、転写時の付き廻り性が向上し、印刷時の断紙の発生が抑制される。
【0013】
ポリビニルアルコール系フィルムの表面粗さにおいて、一方の面(α面)の表面粗さRa1と、他方の面(β面)の表面粗さRa2が、前記式(1)を満たすものであると、耐ブロッキング性が向上し、印刷時の柄抜けも抑制される。
【0014】
ポリビニルアルコール系フィルム形成材料として、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とし、架橋剤(B)を含有してなるものを用いると、転写時の付き廻り性が向上し、転写時の意匠の歪みが軽減される。
【0015】
ポリビニルアルコール系フィルム形成材料として、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とし、フィラー(C)を含有してなるものを用いると、使用時とりわけ印刷時の温湿度環境によりフィルムの物性変化を抑制でき、さらに耐ブロッキング性が向上する。
【0016】
ポリビニルアルコール系フィルム形成材料として、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とし、可塑剤(D)を含有してなるものを用いると、フィルムの柔軟性が付与され、印刷時の断紙を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルム(以下「ベースフィルム」と称す)は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下「PVA系樹脂」という)(A)を主成分とするフィルム形成材料を用いてフィルム状に形成されてなる。なお、本発明において、上記「主成分とする」とは、具体的には、フィルム形成材料全体の70重量%以上をPVA系樹脂で占める場合をいい、フィルム形成材料が主成分(PVA系樹脂)のみからなる場合も含める趣旨である。
【0018】
上記PVA系樹脂(A)は、単独のみならず必要に応じて2種以上混合して用いてもよい。そして、上記PVA系樹脂(A)は、特に限定されることはなく、公知の方法にて製造することができる。すなわち、ビニルエステル系化合物を重合して得られたビニルエステル系重合体をケン化することにより得られるものである。
【0019】
上記ビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられるが、実用上、酢酸ビニルが好適に用いられる。
【0020】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)は、未変性であっても変性であってもよく、変性の場合は、主鎖中に本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば10モル%以下、好ましくは7モル%以下の範囲において、他の単量体を共重合させることができる。上記他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン〔1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル〕エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、ジアクリルアセトンアミド、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等があげられる。これらの他の単量体は、単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。なお、本発明において、(メタ)アリルとはアリルあるいはメタリル、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリル、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味する。
【0021】
そして、上記ビニルエステル系化合物を用いて重合(あるいは共重合)を行うに際しては、特に制限はなく公知の重合方法が用いられるが、通常は、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が行なわれる。また、溶液重合以外に、乳化重合、懸濁重合も可能である。
【0022】
また、重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行われ、反応温度は35℃〜沸点、より好ましくは50〜80℃程度の範囲から選択される。
【0023】
つぎに、得られたビニルエステル系重合体をケン化するにあたっては、上記ビニルエステル系重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下にて行なわれる。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等があげられ、上記アルコール中のビニルエステル系共重合体の濃度は、20〜50重量%の範囲内にて適宜選択される。
【0024】
上記ケン化時のアルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートのようなアルカリ触媒を用いることができる。上記アルカリ触媒の使用量は、ビニルエステル系重合体に対して1〜100ミリモル当量の範囲内にて適宜選択すればよい。なお、場合によっては、酸触媒によりケン化することも可能である。
このようにしてPVA系樹脂が得られる。
【0025】
上記得られたPVA系樹脂(A)の20℃における4重量%水溶液の平均粘度は、10〜70mPa・sの範囲でなければならない。より好ましくは15〜60mPa・sの範囲である。すなわち、4重量%水溶液の平均粘度が上記範囲未満では、ベースフィルムに意匠(パターン,柄等)を印刷する際のフィルム強度が不足するため、印刷斑が発生したり、また、ベースフィルムの溶解が促進されて転写時間が短くなるという問題が生じたり、水に浮かべた際のフィルムに印刷された意匠が安定せず、付き廻り性が低下するからである。一方、4重量%水溶液の平均粘度が上記範囲を超えると、印刷された意匠の被転写体への転写時に被転写体と本発明のベースフィルム(意匠が印刷されたベースフィルム)との密着性が低下して、皺や剥離が発生したり、また、水面での膜の伸展を抑制することはできるが、転写時間が遅延する他に粘度が高く製膜が困難となるからである。なお、上記4重量%水溶液の20℃における平均粘度は、JIS K 6726に準じて測定される。
【0026】
さらに、上記PVA系樹脂の平均ケン化度が、70〜98モル%の範囲でなければならない。より好ましくは75〜96モル%の範囲である。すなわち、PVA系樹脂の平均ケン化度が上記範囲未満では、転写後のベースフィルムの溶解に長時間を要したり、製膜時のベルトからの剥離が困難となり、平均ケン化度が上記範囲を超えると、転写後のベースフィルムの溶解時間が遅延したり、転写時の膜強度が高いために転写時に折れ皺が発生したり、転写がなされたとしても脱膜不良となるからである。なお、上記平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定される。
【0027】
そして、ベースフィルム(ポリビニルアルコール系フィルム)のフィルム形成材料としては、先に述べたように、上記PVA系樹脂を主成分とするものであるが、このPVA系樹脂のみからなる場合以外に、このPVA系樹脂(A)に、架橋剤(B)、フィラー(C)、可塑剤(D)を適宜配合してなるものが用いられる。
【0028】
上記架橋剤(B)としては、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋反応を起こすものであれば特に限定されず、例えば、ホウ素化合物、無機塩類等をあげることができる。上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)等の他、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物等があげられる。
【0029】
また、上記無機塩類としては、(NH4 2 SO4 、Na2 SO4 、K2 SO4 、ZuSO4 、CuSO4 、FeSO4 、MgSO4 、Al2 (SO4 3 、KAl(SO4 2 、NH4 NO3 、NaNO3 、KNO3 、Al(NO3 3 、NH4 Cl、NaCl、KCl、MgCl2 、CaCl2 、Na3 PO4 、K2 CrO4 、K3 6 5 7 等があげられる。
【0030】
上記架橋剤の中でも、ホウ砂が好適に用いられる。
【0031】
上記PVA系樹脂(A)に配合される架橋剤(B)の配合量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、0.05〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部、特には好ましくは0.3〜3重量部である。すなわち、架橋剤(B)の配合量が少な過ぎると、転写時の付き廻り性が低く、転写時の意匠の歪みが大きくなる傾向にある。逆に多過ぎると、被着体への転写時に皺が発生したり、ベースフィルム製造時の溶液粘度が高くなりすぎる傾向がある。
【0032】
上記フィラー(C)としては、例えば、澱粉(各種未加工品だけでなく、エーテル化、酸化、変性品でも良い)やポリメチルメタクリレート等の有機粉末、タルク、雲母、シリカ等の無機粉末等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、澱粉が好適に用いられる。
【0033】
上記PVA系樹脂(A)に配合されるフィラー(C)の配合量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは0.3〜15重量部、特には好ましくは0.5〜10重量部である。すなわち、フィラー(C)の配合量が少な過ぎると、高精細印刷とりわけグラビア印刷において、ロール状のフィルムが巻き出されるときに滑り性が悪くなり引っかかったり、酷くなるとブロッキングにより印刷時に断紙する傾向がみられ、逆に多過ぎると、印刷時にフィルム強度が弱くなり断紙したり、ベースフィルムのヘイズが高くなり色合わせが困難になる傾向がみられる。
【0034】
上記可塑剤(D)としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピリングリコール等のアルキレングリコール類やトリメチロールプロパン等があげられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0035】
上記PVA系樹脂(A)に配合される可塑剤(D)の配合量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、5重量部以下に設定することが好ましく、0.05〜4重量部に設定することがより好ましい。すなわち、上記可塑剤(D)の配合量が少なすぎると、可塑効果が低く、得られるベースフィルムの破断の原因となる傾向があり、配合量が多すぎると、フィルム面に意匠を印刷する際の寸法安定性が悪く、高精細な印刷が困難となる傾向がみられる。
【0036】
さらに、上記フィルム形成材料には、主成分である上記PVA系樹脂(A)、架橋剤(B)、フィラー(C)および可塑剤(D)以外に、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0037】
例えば、ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上を目的として、界面活性剤を配合することができる。上記界面活性剤としては、特に限定するものではなく、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。上記界面活性剤の含有量については、特に限定されないが、PVA系樹脂(A)100重量部に対して0.01〜5重量部に設定することが好ましく、0.03〜4.5重量部に設定することがより好ましい。すなわち、上記界面活性剤の含有量が少なすぎると、製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向がみられ、逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられるからである。
【0038】
さらに、本発明の効果を妨げない範囲で、抗酸化剤(フェノール系、アミン系等)、安定剤(リン酸エステル類等)、着色料、香料、増量剤、消泡剤、防錆剤、紫外線吸収剤、さらには他の水溶性高分子化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)等の他の添加剤を添加しても差し支えない。
【0039】
本発明のベースフィルムは、例えば、つぎのようにして製造される。
まず、上記特定のPVA系樹脂(A)、架橋剤(B)、フィラー(C)、可塑剤(D)、さらには必要に応じて他の添加剤を所定の配合量にて配合しフィルム形成材料を調製する。つぎに、Tダイからフィルム形成材料を製膜ベルト上または製膜ドラム上に流延させ、乾燥させることによりフィルム状化させ、好ましくはさらに熱処理することにより製造される。
【0040】
上記熱処理の方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、熱ロール(カレンダーロールを含む)、熱風、遠赤外線、誘電加熱等の方法があげられる。また、熱処理される面は、製膜ベルトまたは製膜ドラムに接する面と反対側となる面が好ましいが、ニップしても問題はない。また、熱処理を施すフィルムの水分含有量は、通常、4〜8重量%程度であることが好ましい。さらに、熱処理された後のフィルムの水分含有量は通常、2〜6重量%であることが好ましい。
【0041】
より詳しく述べると、上記製膜ベルト、または製膜ドラムのうち製膜第一ドラムから剥離した後巻き取るまでに、表面温度50〜120℃の熱処理ロールを1本以上通すことが好ましい。ここで、上記製膜ベルトとは、一対のロール間に架け渡されて走行する無端ベルトを有し、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を無端ベルト上に流延させるとともに乾燥させるものである。上記無端ベルトは、例えば、ステンレススチールからなり、その外周表面は鏡面仕上げが施されているものが好ましい。
【0042】
また、上記製膜第一ドラムとは、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を1個以上の回転するドラム型ロール上に流延し乾燥させる製膜機における最上流側に位置するドラム型ロールである。そして、製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムから剥離した後巻き取るまでとは、Tダイ等から吐出されたフィルム形成材料が製膜ベルト上あるいは製膜第一ドラム上において乾燥されフィルム状になり、製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムから剥離され、好ましくは熱処理機を経て、巻き取り機により巻き取られるまでの過程を示す。
【0043】
上記熱処理機による熱処理は、50〜120℃で行うことが好ましく、より好ましくは60〜110℃である。すなわち、上記熱処理の温度が低すぎると、製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムに接する面のカールが強く、印刷および転写工程で不具合となる傾向がみられ、熱処理の温度が高すぎると、転写後のベースフィルムの水溶性が低下してしまう傾向がみられるからである。さらに、上記熱処理に要する時間は、熱処理ロールの表面温度にもよるが、0.5〜15秒間に設定することが好ましい。上記熱処理は、通常、フィルム乾燥のための乾燥ロール処理に引き続き、別体の熱処理ロールにして通常行われる。
【0044】
このようにして得られるベースフィルムは、特定のフィルム特性を有するものでなければならない。その特定のフィルム特性とは、動摩擦係数が0.2〜0.8の範囲であることである。特に好ましくは動摩擦係数が0.3〜0.6である。すなわち、動摩擦係数が上記範囲を超えると、ブロッキング性が上昇し、印刷時のロールにベースフィルムが引っかかることにより見当ズレや断紙が生じる。一方、上記範囲未満では、輸送時に巻きズレが発生するという問題がみられるからである。
なお、上記ベースフィルムの動摩擦係数は、23℃、50%RH調湿条件下においてASTM−D1894に準拠して測定される。
より詳しく説明すると、上記ベースフィルムを用い、ASTM−D1894に準拠してつぎのようにして測定することができる。すなわち、測定前に23℃、50%RH調湿条件下に24時間放置した後、この環境下でベースフィルムをテーブルにベルト或いはドラム面側を上にし、さらに移動重錘にはベルト或いはドラム面の反対面側を外にして、それぞれ皺が入らぬよう固定する。その後、島津製作所社製オートグラフを用いて移動重錘走行速度を150mm/分として150mm移動させ、その時の平均荷重ピーク値(g)と移動重錘の重さ(g)から動摩擦係数を求める。
【0045】
上記特定範囲の動摩擦係数を有するベースフィルムに調整する方法としては、例えば、つぎのような方法があげられる。すなわち、ベースフィルム中の可塑剤量を従来に比べて少なく調整することにより動摩擦係数を特定範囲とする方法、フィラー量を従来に比べて多く調整することにより動摩擦係数を特定範囲とする方法、あるいはこれらを適宜組み合わせることにより動摩擦係数を特定範囲とする方法などがあげられる。印刷時において寸法安定性が悪くなる要因となる可塑剤が上記特定範囲より多くなると、動摩擦係数は高くなる傾向にある。また、フィラー(C)の量は上記特定範囲がよく、上記特定範囲より少なくなると可塑剤量が多い場合と同様の傾向がある。一方、フィラー(C)が上記特定範囲より多くなると動摩擦係数が低く、フィルムの滑り性が向上するため動摩擦係数が低くなってしまう。
【0046】
上記ベースフィルムの水分率としては、2〜6重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2.3〜5.5重量%である。すなわち、水分率が低過ぎると、印刷時に断紙が発生する傾向がみられ、逆に水分率が高過ぎると、印刷時の見当ズレが生じる傾向がみられるからである。なお、ベースフィルムの水分率は、例えば、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、「MKS−210」)を用いて測定することができる。
【0047】
上記ベースフィルムの水分率の調整方法としては、例えば、下記に示す方法があげられる。すなわち、下記に示す水分率の調整方法に従い、上記範囲内のベースフィルムの水分率に設定することが可能となる。
【0048】
(1)PVA系樹脂を溶解したドープを乾燥して製膜する際の乾燥機温度を上下させてベースフィルムの加湿・除湿を行う方法により水分率の調整を行う。ドープの温度は、その温度により乾燥効率に対して影響を及ぼすため、70〜98℃の範囲内にて調整する。また、乾燥に際しては、好ましくは150〜50℃の間で、より好ましくは145〜60℃の間で温度勾配を有する少なくとも2つ以上の熱風乾燥機中にて行うことが好ましく、さらに1〜12分間、より好ましくは1〜11分間乾燥を行うことが水分調整という観点から好ましい。
【0049】
上記乾燥温度の勾配範囲が大きすぎたり、乾燥時間が長すぎたりすると、乾燥過多となる傾向があり、逆に乾燥温度の勾配範囲が小さすぎたり、乾燥時間が短すぎたりすると、乾燥不足となる傾向がある。
【0050】
上記温度勾配は、150〜50℃の間で段階的に乾燥温度を変えていくものであり、通常は、乾燥開始時から温度を徐々に上げていき、所定の含水率になるまで一旦設定した乾燥温度範囲の、最高の乾燥温度に至らせ、つぎに徐々に乾燥温度を低くすることにより最終的に目的とする含水率とすることが効果的である。これは結晶性や剥離性、生産性等を制御するために行われるものであり、例えば、120℃−130℃−115℃−100℃、130℃−120℃−110℃、115℃−120℃−110℃−90℃等の温度勾配設定があげられ、適宜選択され実施される。
【0051】
(2)ベースフィルムの巻き取り前に調湿槽に通過させることによりベースフィルムの加湿・除湿を行い、水分率の調整を行う。
【0052】
(3)ベースフィルムの巻き取り前、もしくは巻き取り後に、熱処理を行うことによりベースフィルムの除湿を行い、水分率の調整を行う。
【0053】
つぎに、上記ベースフィルムのヘイズとしては、3〜40%の範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜35%である。すなわち、ヘイズが低過ぎると、例えば、フィルム形成材料として前記フィラー(C)を用い含有させてのベルトによる製膜においてブロッキング性が上昇する傾向がみられ、逆にヘイズが高過ぎると、ベースフィルムの強度が低下したり、このベースフィルムを通して意匠を確認するため、印刷時の意匠の色合わせが困難となる傾向がみられるからである。なお、ベースフィルムのヘイズは、例えば、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH 2000)を用いて測定することができる。
【0054】
また、上記ベースフィルムの全光線透過率としては、85〜93%の範囲であることが好ましい。すなわち、全光線透過率が低過ぎると、印刷時の色合わせが困難となり、逆に全光線透過率が高過ぎると、例えば、フィルム形成材料として前記フィラー(C)を用いてのベルトによる製膜においてブロッキング性が上昇する傾向がみられるからである。なお、ベースフィルムの全光線透過率は、例えば、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH 2000)を用いて測定することができる。
【0055】
そして、上記ベースフィルムのレターデーション値としては、40nm以下であることが好ましく、さらには35nm以下が好ましい。このレターデーション値は、ベースフィルムの複屈折率と膜厚の積(複屈折率×膜厚)にて示されるものであり、上記複屈折率は、フィルムの製造工程等で付与されたフィルムの分子配向の度合いによって決定される。上記レターデーション値が高過ぎると、ベースフィルム表面に皺が形成され、印刷層の形成が阻害されたり、ベースフィルムを水面に浮かべた際に不均一な状態で伸展して印刷パターンが変形するという傾向がみられる。このように、レターデーション値を40nm以下とする方法としては、例えば、ドラム上あるいはベルト上にてベースフィルムを充分乾燥させて、その後の工程において張力をかけないようにして巻き取ることにより調整する方法があげられる。
【0056】
また、上記ベースフィルムの破断伸度としては、23℃、50%RH調湿条件下において、150%以上であることが好ましく、さらには180%以上が好ましい。すなわち、破断伸度が低過ぎると、印刷時に断紙が発生したり、転写時の付き廻り性が低下する傾向がみられるからである。なお、ベースフィルムの破断伸度は、JIS K 7127(1999年)に準拠して測定される。
【0057】
そして、上記ベースフィルムにおける表面粗さ(Ra)に関して、一方の面(α面)の表面粗さRa1と、他方の面(β面)の表面粗さRa2が、下記の式(1)を満たすことが好ましい。
Ra1≦Ra2 ・・・(1)
〔式(1)において、Ra1=0.01〜0.4μm、Ra2=0.05〜0.8μmである。〕
【0058】
このように、上記ベースフィルムにおける表面粗さ(Ra)としては、一方の面(α面)の表面粗さRa1が0.01〜0.4μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜0.3μmである。すなわち、上記α面の表面粗さRa1が低すぎると印刷前のロール保管時にブロッキングの可能性が高まる傾向があり、一方で上記α面の表面粗さRa1が高すぎると、印刷意匠の柄抜けが発生しやすくなる傾向がある。
また、他方の面(β面)の表面粗さRa2は0.05〜0.8μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜0.7μmの範囲が好ましい。すなわち、上記β面の表面粗さRa2が低すぎると印刷前のロール保管時にブロッキングの可能性が高まる傾向があり、一方で上記β面の表面粗さRa2が高すぎるとロール状態での保管時に微細な押し跡が転写して印刷時の柄抜けが発生する可能性が高まる傾向がある。
ここで、上記α面が製膜ベルトまたは製膜ドラムに接する面とし、β面が上記α面の反対面とすることが好ましい。
【0059】
上記ベースフィルムの表面粗さ(Ra)は、例えば、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、超深度形状測定顕微鏡「VK−8500」)を用いて測定することができる。そして、その測定条件は、対物レンズ50倍、厚み方向の測定ピッチは0.01μmである。
【0060】
上記ベースフィルムの表面粗さの調整方法としては、例えば、添加される前記フィラー(C)の材質、粒径を調整することにより表面粗さを特定範囲とする方法があげられる。その一例として、フィラー(C)として生澱粉(コーンスターチ等)を用いる場合、0.1重量部から20重量部程度の範囲で配合することにより表面粗さを調整することができる。また、ドープの粘度を調整することにより表面粗さを特定範囲とする方法があげられる。例えば、ドープ濃度を15%から40%の範囲内にすることにより粘度を調整し、表面粗さを特定範囲とすることができる。あるいはこれらを適宜組み合わせることにより表面粗さを特定範囲とする方法等があげられる。
【0061】
このようにして製膜し得られるベースフィルムは、液圧転写印刷としての用途を考慮した場合、厚み20〜50μmの範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは25〜45μmである。
【0062】
そして、製膜し得られたベースフィルム(原反フィルム)は、例えば、従来公知の防湿包装の処理を行い、10〜25℃の雰囲気下、宙づり状態にて保存することが好ましい。
【0063】
本発明のベースフィルムを用いた液圧転写方法としては、特に限定するものではなく、従来からの各種液圧転写方法に供される。例えば、連続方式による液圧転写方法、バッチ方式による液圧転写方法等があげられる。
【0064】
まず、上記連続方式による液圧転写方法について述べる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後、上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして、吸水後にベースフィルムが伸展し、意匠がぼけないように上記ベースフィルムの流れ方向に対し幅方向に、例えば、1.3倍以下の規制を設けて、活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべるとともに移動させる。移動する上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体表面に転写し固着することにより液圧転写印刷が行われる。そして、固着した後は、ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。
【0065】
一方、上記バッチ方式による液圧転写方法について述べる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後、上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして、上記連続方式と同様、吸水後にベースフィルムが伸展し、意匠がぼけないように上記ベースフィルムに対して縦横それぞれの方向に、例えば、1.3倍以下の縦横規制を設けて、活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべる。そして、静止状態にて上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体に転写し充分に固着することにより液圧転写印刷が行われる。固着した後は、ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。
【0066】
上記意匠印刷面に塗工する活性剤としては、特に限定するものではなく、ベースフィルム面に印刷された意匠を再活性化しうる溶剤に樹脂を添加したもの等が用いられ、さらに顔料、可塑剤、硬化剤等を適宜に添加することができる。例えば、ブチルメタクリレートに、顔料、可塑剤、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテートを混合したものが用いられる。また、上記活性剤の塗工方法としては、グラビアロールやスプレーを用いた塗布方法があげられる。
【0067】
なお、上記意匠印刷面に活性剤を塗布する工程は、ベースフィルムを液面に浮かべる前であっても、液面に浮かべた後であってもいずれでもよく、意匠が印刷されたベースフィルム上方から被転写体を押し当てる前であれば特に制限されることはない。
【0068】
また、上記連続方式およびバッチ方式による液圧転写方法以外に、つぎのような液圧転写方法があげられる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に、乾燥状態となる所定の意匠を印刷した後、光重合性モノマーを含む無溶剤タイプの紫外線または電子線硬化性樹脂組成物を塗布して、上記乾燥状態の意匠を湿潤させる。その後、湿潤した意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを水面に浮かべ、上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て、ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体表面に転写する。ついで、意匠を転写した被転写体に、紫外線または電子線を照射することにより硬化性樹脂組成物を硬化することにより、被転写体に転写した意匠を固着するという液圧転写方法があげられる。
【0069】
さらに、他の液圧転写方法として、つぎのような液圧転写方法があげられる。すなわち、上記のようにして得られたベースフィルム面に有機溶剤に溶解可能な疎水性の転写層(意匠)を形成し、さらに、この転写層上に剥離可能な剥離フィルムを積層してなる転写用フィルムを準備する。ついで、上記剥離フィルムを剥離した後、ベースフィルムを下にして水面に浮かべ、有機溶剤を用いて上記転写層を活性化する。つぎに、上記転写層に被転写体を押し当て、転写層を被転写体表面に転写した後、ベースフィルムを除去する。そして、上記転写層(意匠)を転写した被転写体に対して、紫外線や電子線の照射および加熱の少なくとも一方を施すことにより転写層(意匠)を硬化させ、被転写体に転写した意匠を固着するという液圧転写方法があげられる。
【0070】
このような工程を経由する液圧転写方法により、ベースフィルム面に印刷された意匠を、被転写体に転写することができる。なお、上記ベースフィルム面に印刷される意匠としては、特に限定するものではなく、木目調,各種柄,画像等、印刷可能なものであればいかなるものであってもよい。
【0071】
本発明のベースフィルムを用いた液圧転写方法における被転写体の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、プラスチック成形体、金属成形体、木質成形体、ガラス等の無機質成形体等を用いることができる。さらに、その形状に関しても特に限定するものではなく、平面であっても各種立体形状を有していてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中、「部」および「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0073】
〔実施例1〜7、比較例1〜4〕
下記の表1に示す物性を有するPVA系樹脂(A)100部および下記の表1に示す各成分、ならびに、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩1部を水に溶解して18%濃度の水溶液を調製した。そして、上記水溶液を用い、ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により流延製膜法に従い製膜し、温度95℃の条件で乾燥させた後、85℃の熱ロール1本に7秒間接触させることによりポリビニルアルコール系フィルム(ベースフィルム)を作製した。そして、作製したポリビニルアルコール系フィルム(ベースフィルム)の平均厚み(膜厚)をPEACOK社製 UPRIGHT DIAL GAUGEを用いて測定し、下記の表1に併せて示した。
【0074】
【表1】

【0075】
このようにして得られたポリビニルアルコール系フィルム(ベースフィルム)を用いて、下記に示す方法に従いフィルム物性・特性を測定評価した。これらの結果を後記の表2に併せて示す。
【0076】
〔動摩擦係数〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用い、ASTM−D1894に準拠して測定した。詳しくは、測定前に23℃、50%RH調湿条件下に24時間放置した後、この環境下でベースフィルムをテーブルにベルト或いはドラム面側を上にし、さらに移動重錘にはベルト或いはドラム面の反対面側を外にして、それぞれ皺が入らぬよう固定した。その後、島津製作所社製オートグラフを用いて移動重錘走行速度を150mm/分として150mm移動させ、その時の平均荷重ピーク値(g)と移動重錘の重さ(g)から動摩擦係数を求めた。
【0077】
〔水分率〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用い、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、「MKS−210」)を用いて測定した。
【0078】
〔ヘイズ〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用い、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH 2000)を用いて測定した。
【0079】
〔全光線透過率〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用い、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH 2000)を用いて測定した。
【0080】
〔レターデーション値〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用い、前述の方法に従い、自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA)を用いて測定した。
【0081】
〔破断伸度〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用い、JIS K 7127(1999年)に準拠して測定した。詳しくは、測定前に23℃、50%RH調湿条件下に24時間放置した後、この環境下でベースフィルムを、島津製作所社製のオートグラフAGS−H(解析ソフトは島津製作所社製 Factory SHiKiBU2000)を用いて引張速度200m/分で測定した(フィルム幅15mmチャック間距離50mm)。
【0082】
〔表面粗さ〕
得られたポリビニルアルコール系フィルム(ベースフィルム)を用い、その両面(α面,β面)の表面粗さ(Ra1,Ra2)をレーザー顕微鏡(キーエンス社製 超深度形状測定顕微鏡「VK−8500」)を用いて測定した。測定条件は、対物レンズ50倍、厚み方向の測定ピッチは0.01μmとした。なお、上記ベースフィルムの一方の面(α面)は、前述のベルト製製膜機の製膜ベルトに接する面とし、他方の面(β面)は上記α面の反対面とした。
【0083】
〔印刷適性〕
得られたポリビニルアルコール系フィルム(ベースフィルム)に意匠を多色印刷し、このときの印刷位置を観察して、下記の基準にて評価した。
○:印刷位置にズレが発生しなかった。もしくは、調整の範囲で印刷できた(見当ズレを起こさなかった)。
×:印刷位置にズレが発生した。もしくは、調整の範囲では印刷できなかった(見当ズレを起こした)。もしくは、印刷中にフィルムが破断した。
【0084】
〔付き廻り性〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムを直径180mmの円状に切断して試料を作製し、その上に活性剤〔ブチルメタクリレート/顔料/可塑剤/ブチルセロソルブアセテート/ブチルカルビトールアセテート(混合重量比)=8/20/20/26/26〕をスプレー塗布し、液圧転写用のベースフィルムを作製した。
【0085】
活性剤が塗布されたベースフィルム(直径180mm)を、前記記載の1.3倍枠の30℃の水温に調整した水槽に浮かべた枠内に活性剤塗工面を上にして静かに浮かべた。その後、ベースフィルムが伸展し、枠に完全に到達した後、ベースフィルムの上方より垂直の角度にて、200mm/minの速度で塩化ビニル製の円筒(直径30mm)を押し込み、上記円筒表面にベースフィルムを転写させ、着水点からベースフィルムが切れた部分までの高さを測定し、下記の基準で評価した。なお、円筒を押し込む時間は、50〜180秒までの間で、円筒を入れる際にベースフィルムが硬く折れ曲がることがなく、また円筒表面に転写されるベースフィルムが深くまで切れることなく付き廻る最適な時間で行った。
○:100mm以上であった。
×:100mm未満であった。
【0086】
【表2】

【0087】
上記結果から、特定範囲の4重量%水溶液粘度(20℃)および平均ケン化度を有するPVA系樹脂を用いて得られる、特定範囲の動摩擦係数を有する実施例品は、フィルムに意匠を多色で印刷する際に印刷位置にズレが発生することなく優れた印刷適性を有し、かつ付き廻り性に関しても良好な結果が得られ、優れた転写適性を持つものであった。
【0088】
これに対して、特定範囲の動摩擦係数を外れた比較例品及び特定範囲の粘度を外れた比較例品では、フィルムに意匠を多色で印刷する際に印刷位置にズレが発生して印刷適性に不具合を生じたり、意匠の印刷過程においてベースフィルムの破断が発生したりした。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のベースフィルムは、自動車の内外装品をはじめとして、携帯電話機の外装、各種電化製品、建材、家庭・生活用品等への液圧転写印刷用途に、幅広く適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における4重量%水溶液粘度が10〜70mPa・sの範囲内で、かつ平均ケン化度が70〜98モル%の範囲内であるポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とするフィルム形成材料からなるポリビニルアルコール系フィルムであって、上記ポリビニルアルコール系フィルムの動摩擦係数が0.2〜0.8の範囲内であることを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系フィルムの水分率が、2〜6重量%の範囲内である請求項1記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系フィルムのヘイズが、3〜40%の範囲内である請求項1または2記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系フィルムの全光線透過率が、85〜93%の範囲内である請求項1〜3のいずれか一項に記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系フィルムの厚みが、20〜50μmの範囲内である請求項1〜4のいずれか一項に記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項6】
ポリビニルアルコール系フィルムのレターデーション値が、40nm以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項7】
ポリビニルアルコール系フィルムの破断伸度が、23℃、50%RH調湿条件下において、150%以上である請求項1〜6のいずれか一項に記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項8】
ポリビニルアルコール系フィルムにおいて、一方の面(α面)の表面粗さRa1と、他方の面(β面)の表面粗さRa2が、下記の式(1)を満たすものである請求項1〜7のいずれか一項に記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
Ra1≦Ra2 ・・・(1)
〔式(1)において、Ra1=0.01〜0.4μm、Ra2=0.05〜0.8μmである。〕
【請求項9】
ポリビニルアルコール系フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とし、架橋剤(B)を含有してなるフィルム形成材料からなる請求項1〜8のいずれか一項に記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項10】
ポリビニルアルコール系フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とし、フィラー(C)を含有してなるフィルム形成材料からなる請求項1〜9のいずれか一項に記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項11】
ポリビニルアルコール系フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分とし、可塑剤(D)を含有してなるフィルム形成材料からなる請求項1〜10のいずれか一項に記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。

【公開番号】特開2009−73184(P2009−73184A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201924(P2008−201924)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】