説明

液式鉛蓄電池

【構成】
鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池で、接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下である。負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、アンチモン、ニッケル、銀、モリブデン、銅、及びテルルからなる群の少なくとも一員の元素を含有し、負極活物質、正極活物質、及び電解液での、アンチモンの含有量と、ニッケル、銀、モリブデンの含有量の10倍と、銅の含有量の5倍と、テルルの含有量の20倍との和が、負極活物質との質量比で100〜1000質量ppmである。電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有する。
【効果】
高温でも常温でもアイドリングストップ寿命性能および減液性能に優れた液式鉛蓄電池が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は液式鉛蓄電池に関し、特にアンチモンが5000質量ppm以下の鉛または鉛合金からなる接続部材を正極及び負極に用いた鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の接続部材は、一般に正極格子及び負極格子とは別の材料で構成され、特に制御弁式でない液式の鉛蓄電池では、2〜5質量%程度のアンチモンを含む鉛−アンチモン系合金で構成されるのが普通である。なお鉛蓄電池の接続部材とは、正極板群を接続する正極ストラップ、負極板群を接続する負極ストラップ、隣り合うセルの正極ストラップと負極ストラップとを隔壁を通して接続するセル間接続導体、及び鉛蓄電池の出力端子に接続された正負の極柱からなる。発明者は、鉛蓄電池でのアンチモン元素の役割に付いて検討し、接続部材でのアンチモン含有量を50〜5000質量ppmとし、正極格子と負極格子の合金をアンチモンを含まない合金とすることを提案した(特許文献1:特開2008−218258)。この鉛蓄電池では、接続部材の機械的強度が高く、電解液の減液速度が低く、充電受入性が高いため、寿命性能に優れた液式鉛蓄電池が得られる。
【0003】
自動車用の鉛蓄電池では、燃費の向上のためにアイドリングストップ性能が要求されている。この点に関して、特許文献2:特開2008−243487は、リチウムイオンとアルミニウムイオンとを鉛蓄電池の電解液に添加することを提案している。リチウムイオンは正極利用率を向上させて放電容量を増加させ、アルミニウムイオンは負極のサルフェーションを防止してアイドリングストップ寿命を向上させるとされている。なお特許文献2は液式鉛蓄電池の接続部材の材質に付いて記載していないので、接続部材は2〜5質量%程度のアンチモンを含むものと推定される。
【0004】
液式鉛蓄電池のアイドリングストップ性能に関して、電池工業会規格(SBA S 0101)が25℃での寿命性能を問題にしているなど、常温での性能が主に検討されている。しかしながら自動車のエンジンルームは一般に外気温よりも高い温度になり、特に夏期の日中に長時間自動車を運転すると、60℃以上の温度になることがある。また春秋でも、沖縄及び南九州で日中に長時間自動車を運転すると、エンジンルームは60℃程度の温度になることがある。そこで実使用時のアイドリングストップ性能を向上させるためには、高温でのアイドリングストップ寿命性能を向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−218258
【特許文献2】特開2008−243487
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の基本的課題は、高温でも常温でもアイドリングストップ寿命性能に優れた液式鉛蓄電池を提供することにある。
この発明での追加の課題は、高温でも常温でも減液速度を接続部材が2〜5質量%程度のアンチモンを含む従来の液式鉛蓄電池以下に制限することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、アンチモン、ニッケル、銀、モリブデン、銅、及びテルルからなる群の少なくとも一員の元素を含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液での、アンチモンの含有量と、ニッケル、銀、モリブデンの含有量の10倍と、銅の含有量の5倍と、テルルの含有量の20倍との和が、負極活物質との質量比で100〜1000質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする。
【0008】
またこの発明は、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、アンチモンを含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液でのアンチモンの合計含有量が、負極活物質との質量比で100〜1000質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする。
【0009】
この発明はさらに、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、ニッケル、銀、モリブデンからなる群の少なくとも一員の元素を含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液での、前記少なくとも一員の元素の合計含有量が、負極活物質との質量比で10〜100質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする。なおニッケルのみを加えても、あるいは銀のみを加えても、またモリブデンのみを加えても良い。
【0010】
この発明は、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、銅を含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液での銅の合計含有量が、負極活物質との質量比で20〜200質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする。
【0011】
この発明はまた、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、テルルを含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液でのテルルの合計含有量が、負極活物質との質量比で5〜50質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする。
【0012】
この明細書において、接続部材は正負の極柱、セル間接続導体、正負のストラップから成り、接続部材でのアンチモン含有量は0を含み、鉛中の不純物としてのアンチモン濃度が例えば5質量ppmの場合、接続部材でのアンチモン含有量は例えば5〜5000質量ppmとなる。アンチモンの不純物濃度が例えば1質量ppmの場合、接続部材でのアンチモン含有量は例えば1〜5000質量ppmとなる。アンチモン、ニッケル、銀、モリブデン、銅、及びテルルの含有量は金属換算で定め、これらの元素の添加形態は金属でも酸化物等の化合物でも良い。正極格子と負極格子は鉛−カルシウム−スズ系合金からなれば良く、従来から活物質との密着性を改善するために、正極格子の表層に鉛−アンチモン等の合金層を設ける技術があるが、アンチモンが正極格子質量に対して1000質量ppm未満であれば本発明へのこの技術の適用を排除するものではない。
【0013】
主な実施例の結果を図1〜図3に示す。各図の中央の正方形は、アンチモンを接続部材に2.5質量%含む従来例(試料A1)の性能を示し、活物質及び電解液でのアンチモン含有量は不純物濃度以下で、アルミニウムイオンもリチウムイオンも無添加である。図1では、接続部材がアンチモンを含まず、負極活物質が100質量ppmのアンチモンを含み、電解液が共に0.2mol/Lのアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含む実施例を試料A26とする。次に試料A26から負極活物質のアンチモンを除いた比較例を試料A15、アルミニウムイオンを除いた比較例を試料A11、リチウムイオンを除いた比較例を試料A7とする。また常温寿命性能はアイドリングストップ寿命試験(SBA S 0101:2006の9.5.4)を実施した際の結果を示し、高温寿命性能はこの試験を規定の周囲温度25℃ではなく、周囲温度60℃で行った際の結果を示す。さらに減液性能は減液速度の逆数の比を表したもので、試料A1の減液速度の逆数を100としたときの相対値で示し、試験温度を60℃(高温)と25℃(常温)とでアイドリングストップ寿命試験を行った際の結果である。なおこの明細書において、結果は3個の蓄電池の平均で示し、従来例の蓄電池(試料A1)の性能を100とする相対値で示す。試験条件は以下同様である。
【0014】
図1から高温寿命性能を得るには、負極活物質がアンチモンを含み、電解液がアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含むことが必要不可欠であることが分かる。常温の寿命性能では、負極活物質がアンチモンを含み、電解液がアルミニウムイオンを含めば、リチウムイオンを含まないでも、ある程度良好な結果を得ることができる。しかし高温寿命性能では、リチウムイオンを含まない蓄電池の場合、良好な結果を得ることができない。常温の減液性能では、4種類の試料A26,A25,A11,A7は類似の結果を示す。しかし高温の減液性能では、アルミニウムイオンを含まない試料A11では従来例以下の性能となり、高温での減液性能を試料A1以下に保つにはアルミニウムイオンが必要不可欠である。以上のように高温の性能と常温の性能とは異なる性能であり、高温で寿命性能が高く、かつ減液も遅くするためには、負極活物質がアンチモンを含み、電解液がアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含むことが必要である。
【0015】
図2は接続部材中のアンチモン濃度の影響を示し、接続部材中のアンチモン濃度を増すと、寿命性能が向上して減液性能が低下し(試料A34)、アンチモン濃度をさらに増すと、寿命性能も減液性能も低下する(試料A45)。図3は負極活物質中のアンチモン濃度の影響を示し、負極活物質中のアンチモン濃度を増すと、寿命性能が向上して減液性能が低下し(試料A30)、アンチモン濃度をさらに増すと、寿命性能も減液性能も低下する(試料A49)。一方負極活物質がアンチモンを含まないと、減液性能は実施例と同等であるが、良好な寿命性能が得られない(試料A15)。
【0016】
正極活物質あるいは電解液にアンチモンを添加しても、アンチモンは負極活物質に析出するので、その効果は負極活物質に添加した場合と同様である(表2)。従って、アンチモンは負極活物質、正極活物質、電解液のいずれかに添加されれば良く、その合計量が重要である。
【0017】
アンチモンは鉛よりも水素過電圧の低い元素であり、充電受入性を改善する。例えば図3で、負極活物質がアンチモンを含まない試料A15は、高温でも常温でも寿命性能が低い。アンチモンと同等の作用をする元素として、ニッケル、銀、モリブデン、銅、及びテルルがあり、これらの適正添加量はニッケル、銀、モリブデンでアンチモンの1/10、銅でアンチモンの1/5、テルルでアンチモンの1/20である。またニッケル、銀、モリブデン、銅、及びテルルでも、負極活物質の代わりに、正極活物質あるいは電解液に添加しても良い。アンチモンを活物質あるいは電解液に添加した際の結果を表1,表2に示し、ニッケル、銀、モリブデン、銅、あるいはテルルを活物質あるいは電解液に添加した際の結果を表3〜表12に示す。
【0018】
この発明では、高温でも常温でもアイドリングストップ寿命性能に優れ、かつ減液速度が接続部材が2〜5質量%程度のアンチモンを含む従来の液式鉛蓄電池以下である鉛蓄電池が得られる。
【0019】
この明細書で、アルミニウムイオン,リチウムイオンの濃度は電解液1L当たりのアルミニウムイオンとリチウムイオンの濃度(mol/L)で表す。なおアルミニウムイオンの1モルは、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)の171.05gに相当する。また活物質の組成は水と硫酸とを除いて示し、負極活物質の質量は化成後の負極板を水洗乾燥し、負極活物質と負極格子とを分離して測定する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】高温(周囲温度60℃)及び常温(周囲温度25℃)でのアイドリングストップ寿命性能と、高温と常温での減液性能を示す特性図で、表1の試料A1を標準試料とし、接続部材がアンチモンを含まず、負極活物質が100質量ppmのアンチモンを含み、電解液がアルミニウムイオンとリチウムイオンを各0.2mol/L含む試料A26(実施例)、負極活物質がアンチモンを含まない試料A15、電解液がアルミニウムイオンを含まない試料A11、及び電解液がリチウムイオンを含まない試料A7を比較例として示す。
【図2】接続部材中のアンチモン濃度を変えた際の特性を示し、実施例の試料A26(アンチモンを含まない)、実施例の試料A34(アンチモン5000質量ppm)、及び比較例の試料A45(アンチモン10000質量ppm)に付いて、高温と常温でのアイドリングストップ寿命性能と減液性能とを示す。
【図3】負極活物質中のアンチモン濃度を変えた際の特性を示し、実施例の試料A26(アンチモン100質量ppm)、実施例の試料A30(アンチモン1000質量ppm)、及び比較例の試料A15(アンチモンを含まない)と比較例の試料A49(アンチモン2000質量ppm)に付いて、高温と常温でのアイドリングストップ寿命性能と減液性能とを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0022】
鉛蓄電池の製造
JIS D 5301に準拠した55B24形の液式鉛蓄電池(公称電圧12V、5時間率定格容量は36Ah)を製造した。正極格子は0.07質量%のCaと1.5質量%のSnと不可避不純物とを含み残余がPbの合金で、負極格子は0.05質量%のCaと0.5質量%のSnと不可避不純物とを含み残余がPbの合金である。各格子はエキスパンド格子であり、サイズは共に高さが115mm、幅が100mm、厚さが1mmである。格子の形状はエキスパンド格子に限らず任意であり、また、サイズも任意である。
【0023】
負極活物質として、ボールミル法の鉛粉に、リグニン0.15質量%、カーボンブラック0.2質量%、硫酸バリウム0.5質量%、0.1質量%のアクリル繊維、及びアンチモンを含む場合には三酸化アンチモンを加え、鉛粉との合計を100質量%とした。この混合物100質量%に、水13質量%と20℃で比重1.40の希硫酸10質量%とを混合し、負極活物質とした。正極活物質として、ボールミル法の鉛粉に、0.1質量%のアクリル繊維、及びアンチモンを含む場合には三酸化アンチモンを加え、合計を100質量%とした。この混合物100質量%に、水13質量%と20℃で比重1.40の希硫酸10質量%とを混合し、正極活物質とした。なお鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良い。アクリル繊維に代えて他の合成樹脂繊維を加えても良く、また合成樹脂繊維を加えなくても良い。また、アンチモンの添加形態は三酸化アンチモンに限らず、金属アンチモンや硫酸アンチモンとして添加しても良い。正極と負極格子とに1枚当たり50gの活物質ペーストを充填し、各々50℃相対湿度50%で48時間熟成し、次いで50℃の乾燥雰囲気で24時間乾燥させ未化成の正負極板を得た。
【0024】
微孔性のポリエチレンシートを2つ折りにして両側端をメカニカルシールした袋からなるセパレータに、未化成の負極板を収容した。セパレータは、ポリエチレン以外にも硫酸中で安定で、絶縁性の素材のものであれば良い。さらにガラス繊維シートをセパレータとしても良い。セパレータは、袋状でもリーフ状のものでも良い。
【0025】
未化成の正極板7枚と未化成の負極板8枚とをセパレータを介して交互に積層し、キャストオンストラップ法(COS法)により、同極性の極板同士を接続し、ストラップとセル間接続導体及び極柱からなる接続部材を形成して極板群とした。接続部材はアンチモン含有量が0〜5000質量ppmの鉛−アンチモン合金、もしくはアンチモン含有量が0〜5000質量ppmの3成分系、もしくは4成分系等の鉛合金からなる。3成分系の鉛合金は例えば鉛−0.1質量%カルシウム−アンチモン合金、あるいは鉛−1.5質量%スズ−アンチモン合金等があり、カルシウム含有量とスズ含有量等は特に限定する必要はない。ただし、カルシウムを含有する場合は腐食しやすい金属間化合物Ca3Sb2を生成するため、接続部材のアンチモン含有量は100質量ppm以下であることが望ましい。得られた極板群を6個ポリプロピレン製の電槽に収納して直列に接続するように、セル間接続導体の位置で溶接し、蓋溶着を実施した後に正負の極柱を鉛蓄電池の出力端子に接続した。負極側の接続部材と正極側の接続部材は、アンチモン含有量が共に0〜5000質量ppmであれば、組成が異なっても良い。
【0026】
20℃で比重が1.230の希硫酸に所定量の硫酸アルミニウムと硫酸リチウムとを添加した電解液を注入し、25℃の水槽内で電槽化成を行って、55B24形の鉛蓄電池とした。電解液の量はセル当たりで、450mLであった。アルミニウム源とリチウム源は任意で、例えば水酸化アルミニウムと水酸化リチウム等の形態で添加しても良い。電解液にアンチモンを添加する場合、酸化アンチモンや硫酸アンチモン等の任意の形態で添加する。
【0027】
アンチモンに代えて、ニッケル、銀、モリブデン、銅あるいはテルルを添加しても良く、アンチモン及びこれらの元素は、負極活物質、正極活物質、電解液のいずれかに加える。添加形態は金属、酸化物、硫酸塩等任意である。これらの元素はいずれの位置に添加しても、最終的には負極活物質に析出し、最初から負極活物質に添加した場合と同様に作用する。またこれらの個別の元素の量よりも、これらの元素の合計量が重要である。以下、試作した鉛蓄電池で添加量0は各元素の濃度が不純物として含まれる濃度と同等であることを意味し、0以外の添加量の場合、添加量は不純物に由来するものも含んでいる。一般に、鉛及び鉛合金の不純物はアンチモンで30質量ppm、ニッケルで5質量ppm、銀で5質量ppm、モリブデンで5質量ppm、銅で10質量ppm、テルルで1質量ppmである。電解液中のこれらの元素の不純物濃度は一般に1mg/L以下である。負極活物質の質量は、化成後の負極板を水洗乾燥し、負極活物質と負極格子とを分離して測定する。
【0028】
試験法
各鉛蓄電池に対し、常温(25℃)でのアイドリングストップ寿命試験(SBA S 0101:2006の9.5.4)を行うと共に、周囲温度を60℃に変更してアイドリングストップ寿命試験(SBA S 0101:2006の9.5.4)を行った。試料数は各3で、結果は3個の試料の平均値を従来例の試料A1の性能を100とする相対値で示す。結果を表1〜表14に示す。
【0029】
結果
表1は負極活物質にアンチモンを添加した際の結果で、表2は負極活物質、正極活物質あるいは電解液にアンチモンを添加した際の結果である。負極活物質に添加しても、正極活物質あるいは電解液に添加しても、結果は同等である。表3、表4はニッケルを添加した際の結果で、負極活物質に添加しても、正極活物質あるいは電解液に添加しても良く、その効果はアンチモンと同等で添加量はアンチモンの場合の1/10とすると良い。表5、表6は銀を添加した際の結果で、効果はアンチモンと同等で、添加量はアンチモンの場合の1/10とすると良い。表7、表8は銅を添加した際の結果で、効果はアンチモンと同等で、添加量はアンチモンの場合の1/5とすると良い。表9、表10はモリブデンを添加した際の結果で、効果はアンチモンと同等で、添加量はアンチモンの場合の1/10とすると良い。表11、表12はテルルを添加した際の結果で、効果はアンチモンと同等で、添加量はアンチモンの場合の1/20とすると良い。銀、銅、モリブデン、テルルのいずれの場合も、負極活物質に添加するか、正極活物質に添加するか、あるいは電解液に添加するかは問題ではないことが分かる。
【0030】
アンチモン、ニッケル、銀、銅、モリブデン、テルルを組み合わせて添加した際の結果を表13に示し、アンチモン、ニッケル、銀、銅、モリブデン、テルルの合計添加量が重要で、ニッケル、銀、モリブデンの場合は添加量を10倍し、銅の場合は5倍し、テルルの場合は20倍したものをアンチモンの添加量と加算したものが意味を持つ。表14は接続部材の材質を鉛−アンチモン合金から、鉛−0.1質量%カルシウム−アンチモン合金あるいは鉛−1.5質量%スズ−アンチモン合金に変更した例を示し、接続部材が鉛−アンチモン合金か、鉛−カルシウム−アンチモン合金あるいは鉛−スズ−アンチモン合金かは問題ではないことが分かる。
【0031】
表1に戻り、各添加元素の作用を検討する。接続部材中のアンチモン濃度を低下させると、減液速度が低下する。接続部材中のアンチモン濃度を低下させ、活物質等にアンチモンを添加すると、常温でのアイドリングストップ寿命性能は向上するが、高温での減液が著しくなる。活物質等にアンチモンを添加する他に、アルミニウムイオンを電解液に添加すると常温、高温共に減液速度は試料A1以下となり、常温でのアイドリングストップ寿命性能も向上する。適正量のアルミニウムイオンを添加すると、高温での減液性能を改善し、さらに高温でも常温でもアイドリングストップ寿命性能を若干向上することができる。しかし高温でのアイドリングストップ寿命性能の改善効果は常温の場合と同等にまでは達しない。そして活物質等にアンチモンを添加する他に、アルミニウムイオンとリチウムイオンとを電解液に添加すると、高温と常温でのアイドリングストップ寿命性能に優れ、高温でも常温でも減液速度が試料A1以下となる鉛蓄電池が得られる。
【0032】
接続部材でのアンチモン濃度が10000質量ppmと過剰な場合、高温でのアイドリングストップ寿命性能と、高温及び常温での減液速度が試料A1より速くなる。負極活物質等でのアンチモン濃度が2000質量ppmと過剰な場合、高温及び常温での減液速度が試料A1より速くなる。接続部材でのアンチモン濃度が5000質量ppmと10000質量ppmとの性能差は大きく、また負極活物質等でのアンチモン濃度が1000質量ppmと2000質量ppmとでの性能差も大きい。また接続部材及び負極活物質等でのアンチモン濃度が適正でも、電解液中のアルミニウムイオンが0.3mol/Lと過剰、あるいは電解液中のリチウムイオンが0.3mol/Lと過剰な場合、高温、常温ともにアイドリングストップ寿命性能が低下する。以上のように、接続部材中のアンチモン濃度を5000質量ppm以下とし、負極活物質、正極活物質、及び電解液でのアンチモンの合計含有量を、負極活物質との質量比で100〜1000質量ppmとし、電解液中のアルミニウムイオン濃度とリチウムイオン濃度を各0.02〜0.2mol/Lとすることには相乗効果があり、この範囲内でのみ高温と常温で優れたアイドリングストップ寿命性能が得られ、高温と常温で減液速度を許容範囲内に保つことができる。これらの結果は、活物質あるいは電解液に、アンチモンに代えて、ニッケル、銀、モリブデン、銅、もしくはテルルを添加する場合も同様である。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
【表7】

【0040】
【表8】

【0041】
【表9】

【0042】
【表10】

【0043】
【表11】

【0044】
【表12】

【0045】
【表13】

【0046】
【表14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、アンチモン、ニッケル、銀、モリブデン、銅、及びテルルからなる群の少なくとも一員の元素を含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液での、アンチモンの含有量と、ニッケル、銀、モリブデンの含有量の10倍と、銅の含有量の5倍と、テルルの含有量の20倍との和が、負極活物質との質量比で100〜1000質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする、液式鉛蓄電池。
【請求項2】
鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、アンチモンを含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液でのアンチモンの合計含有量が、負極活物質との質量比で100〜1000質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする、液式鉛蓄電池。
【請求項3】
鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、ニッケル、銀、モリブデンからなる群の少なくとも一員の元素を含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液での、前記少なくとも一員の元素の合計含有量が、負極活物質との質量比で10〜100質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする、液式鉛蓄電池。
【請求項4】
鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、銅を含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液での銅の合計含有量が、負極活物質との質量比で20〜200質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする、液式鉛蓄電池。
【請求項5】
鉛−カルシウム−スズ系合金からなる正極格子、鉛−カルシウム−スズ系合金からなる負極格子、正極活物質、負極活物質、電解液、及び接続部材を備えた液式鉛蓄電池であって、
接続部材は鉛を主成分とし、かつアンチモン含有量が5000質量ppm以下で、
負極活物質、正極活物質、及び電解液の少なくともいずれかが、テルルを含有し、
負極活物質、正極活物質、及び電解液でのテルルの合計含有量が、負極活物質との質量比で5〜50質量ppmであり、
電解液はアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.02〜0.2mol/L含有することを特徴とする、液式鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−123964(P2012−123964A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272341(P2010−272341)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】