説明

液性媒体の保持に適した固相体

【課題】液性媒体を意図した表面に均一に保持できる固相体を提供する。
【解決手段】液性媒体に関して第1の撥液性を有し、液体媒体を主として保持するための第1の領域と、第1の領域の輪郭の少なくとも一部に接して第1の撥液性よりも液性媒体に関しより低い撥液性である第2の撥液性を有する第2の領域と、を、固相体の表面に備えるようにする。こうすることで、第1の領域内の液性媒体の表面張力の少なくとも一部が第2の領域によって打ち消され、液性媒体を第1の領域内に均一に保持することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液性媒体の保持に適した固相体、当該固相体の製造方法、当該固相体を用いた反応方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スライドグラスなどの表面に緩衝液などの液性媒体を保持して反応を行うことを意図した固相体が各種知られている。例えば、スライドグラスのような固相体表面にプローブや抗原を固定化しておき、固相体表面においてハイブリダイゼーション反応や抗原抗体反応を実施することがある。固相体表面で液性の反応を生じさせるには、平面である固相体表面にいかに液体を保持するかが重要である。特に、この種の固相体は、その表面の撥液性から水溶液を安定的に保持することが困難な場合があった。液体を意図した領域内に安定して保持できない場合、反応にムラが生じてしまう。
【0003】
固相体表面に液体を保持する一つの手段は、固相体上のプローブ等が固定された反応のための領域の外周に立設される壁部を有するギャップカバーグラスなどが提供されている(非特許文献1)。こうしたギャップカバーグラスによれば、固相体表面に液体を収容するキャビティを形成することができ、液体を安定的に保持できるとともに、スライドグラスあたりに必要な薬剤の量を低減できるというメリットがある。
【0004】
また、他の一つの手段として、固相体全体を収容する凹部を有するシャーレも知られている(非特許文献2)。各凹部に反応液を供給して反応を実施することもできる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松浪硝子工業株式会社のホームページ http://www.matsunami-glass.co.jp/life/bio/data12.html
【非特許文献2】Thremo scientific社のホームページhttp://www.nuncbrand.com/en/page.aspx?id=10740
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の方法は、固相体表面に液体をおおよそ安定して保持することはできた。しかしながら、ギャップカバーグラスの使用は、操作を煩雑するとともに反応コストを向上させてしまう。凹部を有するシャーレの場合、必要な反応液量が増大してしまうとともに、本来反応液が接する必要のない、固相体の裏面や側面などにも反応液が触れてしまうため、洗浄操作を煩雑化してしまう。従来の方法の上記したデメリットは、自動化不適応の要因でもあった。
【0007】
そこで、本発明は、固相体上の意図した領域に液性媒体を簡易に安定して保持することのできる固相体及びその利用を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、固相体表面の撥液性と当該表面に供給する液性媒体と当該表面の液性媒体に対する撥液性に関し、種々の検討を行った。その結果、液性媒体を安定して保持する一つの手法として、従来にない新たな構成にいたった。すなわち、液体を保持したい領域とその外延領域とに関し、あえて、液体保持領域において液性媒体に対する親和性を低くし、外延領域においてその親和性を高くすることで、液体保持領域の全体にわたり安定して液性媒体を保持できるという知見を得た。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0009】
本発明によれば、液性媒体を保持するための固相体であって、
前記液性媒体に関して第1の撥液性を有し、前記液体媒体を主として保持するための第1の領域と、
前記第1の領域の輪郭の少なくとも一部に接して前記第1の撥液性よりも前記液性媒体に関しより低い撥液性である第2の撥液性を有する第2の領域と、
を、前記固相体の表面に備える、固相体が提供される。
【0010】
前記液性媒体は親水性媒体であってもよい。前記固相体は、DNAアレイ、プロテインアレイ、又は免疫組織染色用とすることができる。
【0011】
前記第1の領域は、二酸化ケイ素を含むガラス組成を有するガラス表面以上の撥液性を有する領域としてもよい。また、前記第2の領域は、親水性官能基又は親水性化合物を前記固相体の前記表面に有する領域であってもよい。さらに、前記第2の領域は、無機酸化物粒子を前記固相体の表面に有する領域であってもよい。
【0012】
前記第1の領域は、疎水性官能基又は疎水性化合物を前記固相体の表面に有する領域であってもよい。前記第1の領域は、アゾベンゼン基を有する光応答性成分を前記固相体表面に有する領域であってもよい。
【0013】
本発明によれば、また、液性媒体を保持するための固相体の製造方法であって、前記固相体の表面に、前記液性媒体に関し前記固相体の表面よりも低い撥液性を有する領域を前記液性媒体を保持しようとする領域の輪郭の少なくとも一部に接するように形成する工程、を備える、製造方法も提供される。また、液性媒体を保持するための固相体の製造方法であって、前記固相体の表面に、前記液性媒体に関し前記固相体の表面よりも高い撥液性を有する領域を前記液性媒体を保持しようとする領域に形成する工程、を備える、製造方法も提供される。さらに、液性媒体を保持する固相体の製造方法であって、前記液性媒体を保持しようとする領域に対して、前記液体媒体に関し第1の撥液性を付与する工程と、前記液性媒体を保持しようとする領域の輪郭の少なくとも一部に接するように、前記液性媒体を保持しようとする領域よりも前記液性媒体に関しより低い撥液性である第2の撥液性を付与する工程と、を備える、製造方法も提供される。
【0014】
本発明によれば、固相体上で液性媒体を保持させる方法であって、上記いずれかに記載の固相体の前記第1の領域に前記液性媒体を供給し保持させる工程、を備える、方法も提供される。
【0015】
本発明によれば、固相体上に保持した液性媒体中で反応させる方法であって、上記いずれかに記載の固相体の前記第1の領域に前記液性媒体を供給し保持させる工程と、前記液性媒体内において反応を実施する工程と、を備える、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】実施例におけるスライドグラス上の各種領域のレイアウトを示す図である。
【図3】スライドグラス上の抗体のスポットレイアウトを示す図である。
【図4】スライドグラス上の抗体スポットに対して滴下した抗原溶液のレイアウトを示す図である。
【図5】スライドグラスから得られたシグナルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、液性媒体の保持に適した固相担体、当該固相担体の製造方法、当該固相担体を用いた液性媒体の保持方法、当該固相担体を用いた反応方法に関する。本発明の固相担体によれば、図1に示すように、液性媒体を保持するための第1の領域よりもその外延にある第2の領域において液性媒体に対する親和性が高くなっている。本発明の固相体によれば、固相体上の意図した表面に液性媒体を簡易に安定して保持することができる。
【0018】
本発明を理論的に拘束するものではないが、本発明の固相体による効果は、以下の作用によるものと発明者らは推測している。すなわち、液性媒体には第1の領域の表面特性に基づいて表面張力が作用しているが、第1の領域の外延である第2の領域では、第2の領域の表面特性により液性媒体の表面張力の少なくとも一部が打ち消され、第2の領域においてより安定的に保持される。この結果、液性媒体を、第1の領域に安定して保持できる。また、液性媒体を、第1の領域の全体を均一に広がって保持できる。
【0019】
本発明の固相体によれば、固相体表面の表面特性の調整によって、固相体表面の意図した領域である第1の領域内に液性媒体を安定してかつ均一に保持できるようになる。このため、再現性がよく、場所等の起因する反応ムラなどや抑制又は回避された反応を実施できる固相体を提供できる。
【0020】
また、本発明の固相体によれば、必要な薬剤量、反応液量も低減できる。また、反応コストを低減できるともに、反応操作を煩雑化することもない固相体を提供できる。また、特別な装置なく簡易に液性媒体を固相体表面に保持できる。したがって、自動化に適した固相体を提供できる。
【0021】
さらにまた、液性媒体と反対の液性の媒体で液体カバースリップを用いる場合、液性媒体の外延に液体カバースリップに対して親和性の低い領域が存在することとなるので、液体カバースリップによる反応への悪影響も抑制又は回避できる固相体を提供できる。
【0022】
本発明の固相担体を用いた液性媒体の保持方法や反応方法によれば、本発明の固相体を用いることにより、上記効果が実現される。
【0023】
以下、本明細書の開示に含まれる種々の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
(固相体)
本発明の固相体は、液性媒体を保持するための固相体である。本明細書において固相体は、液性媒体をその表面に保持する程度の平面を有している。その形態は特に限定しないが、例えば、シート状体等が挙げられる。固相体を構成する材料や構造(積層)については特に限定しない。後述するように、固相体は、特定の表面特性を有して入れば足りる。典型的には、ガラス、セラミックス、プラスチック、金属等の公知の材料が用いられる。固相体は単一の材料で構成されて、当該材料が第1の領域の表面特性に寄与していてもよい。また、固相体は、積層体で構成されて基材表面に対して付与された層が、第1の領域の表面特性に寄与していてもよい。
【0025】
本明細書において液性媒体とは、単一あるいは混成の液体、溶液を含み、溶質等に依存して粘性の高い液体も含まれる。 液性媒体には、それ自体DNAやタンパク質など意図する反応に応じた反応基質が含まれていてもよい。
【0026】
液性媒体は、水、水と相溶性のある有機溶媒、これらの混液あるいはこれらを媒体とする溶液などを含む親水性の液性媒体であってもよい。こうした有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数が1〜5程度の低級アルコール、DMF、DMSO等などが挙げられる。親水性の液性媒体としては、典型的には、水、水と相溶する各種有機溶媒、これらの混液、1又は2以上の溶質を含む溶液等が挙げられる。より具体的には、水や緩衝液を含む各種塩類の溶液が挙げられる。
【0027】
液性媒体は、上記した親水性の液性媒体以外の液性媒体であってもよい。すなわち、いわゆる水と相溶しない有機溶媒、またはそれらの混液、溶質を含むそれらの溶液であってもよい。
【0028】
(第1の領域及び第2の領域)
固相体は、液性媒体に関して表面特性の異なる二つの領域を少なくとも備えている。固相体は、第1の撥液性を有し、液体媒体を主として保持するための第1の領域を有している。また、固相体は、第1の領域の輪郭の少なくとも一部に接して第1の撥液性よりも前記液性媒体に関しより低い撥液性である第2の撥液性を有する第2の領域を有している。
【0029】
(固相体上における第1の領域及び第2の領域のレイアウト)
第1の領域は、固相体上において液体を保持することを意図した領域である。第1の領域は、固相体の表面において一つののみ備えられていてもよいし、2以上備えられていてもよい。固相体上の反応のために準備に準備される領域(以下、単に反応領域という。)の個数及びその形態に応じて設けられる。自動化を考慮した場合には、固相体表面の反応可能な領域のおおよそ全体を第1の保持領域とし、その外延を第2の領域とすることが好ましい。
【0030】
固相体の表面を複数に区画して、異なる基質、異なる基質濃度、あるいは異なる媒体を用いた液性媒体を供給して保持させる場合等には、複数の第1の領域が備えられる。この場合、第1の領域は、アレイ状に多数個固相体表面に備えられていてもよい。なお、複数個の第1の領域を固相体上に備える場合には、隣接する第1の領域は、液性媒体に対して第2の領域よりも撥液性の高い領域で離隔されていることが好ましい。
【0031】
第2の領域は、固相体において、第1の領域の輪郭の少なくとも一部に接して備えられる。こうすることで、第2の領域において液性媒体は第2の領域の表面特性(第1の領域よりも液性媒体に対して撥液性が低い(より親和性である。))により、第2の領域では第1の領域におけるよりも表面張力が低減して第2の領域を濡らして保持される。液性媒体が、第1の領域の輪郭の少なくとも一部において第2の領域に安定的に保持されることにより、第2の領域がない場合よりも安定的に第1の領域に保持される。
【0032】
第2の領域は、好ましくは、第1の領域の輪郭に半分以上にわたって接して備えられる。好ましくは、第1の領域の輪郭の80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくはほぼ全体にわたって備えられる。第2の領域は、前記輪郭に沿って連続的に備えられてもよいし、断続的に備えられてもよい。第2の領域は、典型的には、図1に示すように、第1の領域の外延の全体にわたり、第1の領域を囲繞するように備えられている。
【0033】
第1の領域は典型的には、円形、正方形、長方形状を有しており、第2の領域は、こうした形状の輪郭に沿った枠状を有している。第2の領域の幅は、第1の領域の大きさや表面特性、液性媒体の種類によっても異なり、特に限定されないが、通常のサイズのスライドグラスの外枠に適用される場合には、1mm以上とすることが好ましく、より好ましくは2mm以上であり、さらに好ましくは3mm以上である。
【0034】
(第1の領域と第2の領域の撥液性)
液性媒体に対する撥液性に関し、第1の領域よりも第2の領域が低くなっている。換言すれば、液性媒体に対する親和性に関し、第1の領域よりも第2の領域が高くなっている。第1の領域と第2の領域の撥液性(親和性)の差は、用いる液性媒体によっても異なる。第1の領域において液性媒体に対して撥液性が大きければ大きいほど、第2の領域の撥液性は第1の領域よりも低くする必要がある。第1の領域によって液性媒体に作用する表面張力が大きいため、それをキャンセルして第2の領域に液性媒体を保持するには液性媒体に対する撥液性は低い必要があるからである。一方、第1の領域の液性媒体に対する撥液性がそれほど大きくなければ、第2の領域における液性媒体に対する撥液性は第1の領域に比べて少し低いだけでも十分に液性媒体に生じた表面張力を、第2の領域で液性媒体を保持できる程度にキャンセルできる。
【0035】
液性媒体が水のとき、通常のケイ酸ガラス表面を第1の領域とするとき、同一のガラス表面に良好な親水性を有する酸化ジルコニウムの粒子を付与して得られた表面を第2の領域とすることで、水を良好に第1の領域に保持できる。一方、シリコン樹脂でコートしたガラス表面を第1の領域とするとき、同一のガラス表面に酸化ジルコニウムの粒子を付与して得られた表面を第2の領域としても、水を良好に第1の領域に保持できないが、超親水性の酸化アルミニウム粒子を付与した表面を第2の領域とすると、水を良好に第1の領域に保持できるようになる。
【0036】
用いる液性媒体に対して第1の領域と第2の領域の撥液性を設定することは、当業者が必要に応じて可能である。通常、用いる液性媒体は目的から既に決定されていることが多い。また、液性媒体を保持する第1の領域の表面特性も、反応基質、例えば、DNAやタンパク質などであるが、これら基質の特性、固定化法、反応の種類等により、これもまた多くの場合自ずと決定されている。したがって、液性媒体、第1の領域の撥液性が既に設定された状態で、第1の領域の輪郭に接する第2の領域の撥液性を決定すればよい。典型的な液性媒体である水又は水溶液に対して、第1の領域よりもより撥液性が低く(親和性が高く)なるように、適宜表面処理を行うことで、適切な第2の領域の撥液性を決定できる。
【0037】
第1の領域は、例えば、二酸化ケイ素を含むケイ酸ガラスなどの各種ガラス、プラスチック、セラミックス、DLCなどの炭素材料及び金属などの材料そのもの表面のほか、適当な基材に表面処理がなされ表面であってもよい。こうした表面処理としては、特に限定しないが、公知のスライドグラス等に適用される各種の表面処理が挙げられる。例えば、アミノ基、カルボキシル基などの官能基を付与する表面処理が挙げられる。また、薄膜が付与された表面であってもよい。こうした表面の場合、薄膜の表面特性が大きく第1の領域の表面特性に寄与する。が付与されたものであってもよい。例えば、アゾベンゼン基を有するユニットを含むポリマーが挙げられる。こうしたポリマーは、アゾベンゼン基の光応答性に基づいて、光照射により物体をそのままその表面に固定化できるからである。こうしたポリマーとしては、既に特開2004−251801号公報、特開2004−329682号公報等に開示されており、当業者であれば、アゾベンゼン基を有するポリマーを基材表面に容易にコートすることができる。
【0038】
液性媒体が水又は水溶液などの親水性の液性媒体のとき、第1の領域は、ケイ酸ガラスなどのガラス表面以上の撥液性を有することが好ましい。第1の領域がこうした撥液性を有するときに、第2の領域が有効に作用するからである。
【0039】
第1の領域は、第2の領域との関係において、より液性媒体に対する撥液性が大きい。液性媒体が、水又は水溶液などの親水性であるとき、第1の領域の表面は、疎水性官能基又は当該官能基を有する疎水性化合物を固相体表面に有していてもよい。こうした疎水性官能基は、特に限定しないが、アルキル基などの炭化水素基等が挙げられ、また化合物としては、シリコン樹脂等が挙げられる。疎水性を発揮する粒子を有していてもよい。
【0040】
第2の領域は、液性媒体に対して第1の領域よりも低い撥液性に設定される。例えば、第2の領域は、液性媒体に対する撥液性を低減する(親和性を向上する)ような物質を付与したり、形状変化を付与してもよい。こうした物質や処理の種類や程度は、液性媒体の種類と第1の領域の表面特性によって設定される。
【0041】
液性媒体が水又は水溶液などの親水性の液性媒体のとき、第2の領域は、アミノ基やカルボキシル基などの親水性官能基又は当該官能基を有する親水性化合物を固相体表面に有していてもよい。また、同じ目的のために、無機酸化物粒子を固相体表面に有していてもよい。無機酸化物としては、特に限定しないで、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの各種金属酸化物が挙げられる。好ましくは酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウムであり、より好ましくは酸化アルミニウムである。また、こうした無機酸化物は、球状粒子であることが好ましく、その平均粒経は1nm以上2μm以下であることが好ましい。こうした平均粒径範囲であると、液性媒体とこうした粒子とが空気等に妨害されることなく直接接することで高い親水性を発揮するからである。より好ましくは1nm以上100nm以下である。なお、平均粒経は、動的光散乱法により日機装株式会社製粒度分布測定装置ナノトラックUPAを用いる方法あるいはそれと同等の精度と正確性を有する方法により測定するものとする。
【0042】
液性媒体が非親水性の液性媒体のときには、第1の領域はより親水性とし、第2の領域はより疎水性とする。このための手法は、液性媒体が親水性の液性媒体のときについて第2の領域と第1の領域について説明した手法をそれぞれ適用すればよい。
【0043】
本発明の固相体は、DNAアレイ、プロテインアレイ、免疫組織染色用等の各種の臨床用、研究用の固相体として用いられる。また、本発明の固相体は、第1の領域に反応基質としてのタンパク質(アミノ基が20個以下程度のペプチドも含む)、DNAなどのオリゴヌクレオチドなどが予め固定化されたものであってもよい。
【0044】
(固相体の製造方法)
本発明の固相体の製造方法は、固相体の表面に、液性媒体に関し固相体の表面よりも低い撥液性を有する領域を液性媒体を保持しようとする領域の輪郭に接するように形成する工程、を備えることができる。本方法は、例えば、固相体の表面が既に第1の領域として用いうるであって、こうした固相体表面に対して第2の領域に相当する領域を新たに形成する形態を意図している。この方法によれば、第2の領域となる処理を行うことによって、容易に、本発明の固相体を得ることができる。
【0045】
この方法は、また、例えば、第1の領域として使用できる固相体表面に、反応基質の少なくとも一つを公知の方法で固定化した後に、第2の領域を形成する工程を実施する形態としてもよい。すなわち、予め第2の領域が準備された固相体としてではなく、第2の領域を反応工程内の一部の工程として実施してもよい。例えば、実施例に示すような簡易な方法によるアルミナナノ粒子の付着による第2の領域の形成工程を実施するときには、こうした形態であってもよい。
【0046】
また、本発明の固相体の製造方法は、固相体の表面に、液性媒体に関し固相体の表面よりも高い撥液性を有する領域を液性媒体を保持しようとする領域に形成する工程を備えることができる。本方法は、例えば、固相体の表面が既に第2の領域として用いうるであって、こうした固相体表面に対して第1の領域に相当する領域を新たに形成する形態を意図している。この方法によれば、第1の領域となる処理を行うことによって、容易に、本発明の固相体を得ることができる。
【0047】
さらに、本発明の固相体の製造方法は、液性媒体を保持しようとする領域に対して、液体媒体に関し第1の撥液性を付与する工程と、液性媒体を保持しようとする領域の輪郭の少なくとも一部に接するように、液性媒体を保持しようとする領域よりも液性媒体に関しより低い撥液性である第2の撥液性を付与する工程と、を備えることができる。本方法は、例えば、固相体の表面に、新たに第1の領域を形成するとともに、第2の領域を形成する形態を意図している。この方法によれば、固相担体の表面特性をキャンセルして本発明の固相担体を製造できる。
【0048】
この形態においては、第1の領域と第2の領域とを、それぞれの最終の配置パターンに対応するように形成してもよいし、第1の領域を固相体表面に形成しておき、第1の領域に重ねて第2の領域を形成して、最終の配置のパターンとしてもよい。さらに、第2の領域を予め固相体表面に形成しておき、この第2の領域に重ねて第1の領域を形成して、最終の配置パターンとしてもよい。この形態の一例として、例えば、第1の撥液性付与工程として、固相体表面にアゾベンゼン基を有する光応答性ポリマーを付与する工程とし、前記第2の撥液性付与工程として、この第1の領域上の液性媒体を保持しようとする領域の輪郭の少なくとも一部に接するように無機酸化物粒子を付与する工程としてもよい。
【0049】
第1の領域や第2の領域の形成にあたっては、固相体表面等に、各種官能基や化合物、粒子、形状等を付与する。各種官能基を付与する方法は、固相体表面の官能基を利用して共有結合を形成したり、静電的結合を形成したりすることなどが挙げられる。化合物としてポリマーを付与するときには、ポリマーを化合物と同様にて共有結合を介して導入できる場合があるほか、ポリマーを薄膜として形成してもよい。また、粒子を付与するには、粒子の各種コーティング方法が用いられる。最も簡易には、粒子を含む溶液を表面に塗布して乾燥して固定化する方法が挙げられる。強固にこうした粒子を固着するには、可能な範囲で加熱することが好ましい。なお、官能基や化合物等の付与は、例えば、固相担体表面を薄く削るなどして表層内部にある官能基等を露出させてもよい。このとき、化合物の皮膜等は、適当なワイプ材で擦過するとその一部が崩壊脱落して皮膜の内部あるいは皮膜の下層側の官能基等が露出される。このほか、親水化や撥水化のために用いられる表面処理などの公知の技術を適用して、第1の領域及び第2の領域を形成することができる。
【0050】
(反応方法)
本発明の反応方法は、本発明の固相体の第1の領域に前記液性媒体を供給し保持させる工程と、液性媒体内において反応を実施する工程と、を備えることができる。本方法によれば、第1の領域内に液性媒体を安定してかつ均一に保持できるようになる。このため、再現性がよく、場所等の起因する反応ムラなどや抑制又は回避された反応を実施できる。また、反応操作を簡略化し、コストも低減させることができ、自動化も容易となっている。さらに、液性媒体と反対の液性の媒体で液体カバースリップを用いる場合、液体カバースリップによる反応への悪影響も抑制又は回避できる。
【0051】
なお、本発明には、本発明の固相体の第1の領域に液性媒体を供給し保持させる工程、を備える、固相体上で液性媒体を保持させる方法も提供される。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
(溶液保持性能の評価)
以下の表に示す各種スライドグラスを本発明における固相体として使用した。アゾポリマーは、特開2003−329682号公報の実施例5に開示されたアゾ色素を含むメタクリルモノマー(アミノ基とシアノ基とを含むアゾ色素を備える)を取得して、メタクリルモノマーと共重合させることにより得た。DLCは、特開2008-232877号公報の実施例に開示される方法に準じて作製した、ケイ素を含有する炭素質膜を有する基板である。第1の領域は、固相体表面そのものとし、スライドグラス表面において第1の領域と第2の領域を図2に示すレイアウトで、以下の方法で作成した。なお、アセトンによる拭き取り処理は、アゾポリマーによる表面処理を除去する目的で行った。また、アルミナは平均粒経約10〜20nmの粒子を用い、ジルコニアは、平均粒経約60〜70nmの球状粒子を用いた。
【0054】
すなわち、綿棒に第2の領域形成の溶液として準備した表に示す各種溶液を染み込ませ、図2に示すスライドグラスの外枠部分をなぞった。この操作により約3mm幅の第2の領域が形成された。このスライドグラスに対して水2mlを滴下し、第2の領域で囲繞される第1の領域内に均一に水を広げた後、1mlの水を吸い取った。なお、第2の領域を形成しない比較例も同時に作製し、同様に水を滴下した。
【0055】
評価は以下のようにして行った。2mlの水が第1の領域の全体に広がらなかった場合を×、2mlの水が第1の領域の全体に広がるが1ml吸い上げた後、その広がりが保持できなかった場合は△、吸い取った後も均一な広がりが保持できた場合は○とした。結果を併せて表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、第2の領域を形成しない比較例やアセトン処理では安定的に水が維持されなかったが、無機酸化物のナノ粒子ゾルを付与して当該粒子を有する第2の領域を形成した場合は安定的に水が維持されるようになり、アルミナナノ粒子の場合、高撥水性のシリコン加工スライドグラスにおいてもその効果を発揮した。
【0058】
以上のことから、保持領域よりもより液性媒体に対して撥液性の低い(親和性の高い)外延領域を形成することで、液性媒体を安定してかつ均一に保持領域に保持できることがわかった。
【実施例2】
【0059】
本実施例では、実施例1の固相体2(アゾポリマー)を用いて、固相体上で抗原抗体反応を実施し、その結果を評価した。操作を以下に示す。
【0060】
まず、市販の抗体A及びBを図3に示すレイアウトで固相体2(第2の領域形成前)に光固定化し抗体チップを作製した。作製した抗体チップ上にBSA/PBSを滴下し、ギャップカバーグラスをかぶせて、LEDランプにて30分光照射を行いブロッキングした。光照射を終えた抗体チップを0.01%Tween-PBSにて、5分、二回洗浄し、遠心乾燥させた。次いで、図4に示すレイアウトで各固定化抗体が認識する各種濃度の抗原溶液をスポット群上にそれぞれ滴下し固定化抗体と反応させた。
【0061】
その後、PBS-Tにて、5分、二回洗浄し、乾燥させた。実施例1と同一のアルミナナノ粒子ゾルを綿棒に含ませ、スライドグラスのスリ側と外縁をなぞり枠状の第2の領域を形成した。
【0062】
次いで、抗体チップを自動免疫染色装置(ロッシュダイアグノスティクス社ベンタナ XTシステム ディスカバリー)にセットし、その上に5%スキムミルク溶液2mlを滴下し、 自動免疫染色装置のプログラムに従い、ビオチン化抗体及びアルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを反応させた。その後、0.01%Tween-PBS洗浄液で10分、2回繰り返し洗浄した。この固相体を遠心チューブに入れ3000rpm、1分間遠心し乾燥させた後、アルカリホスファターゼの基質であるCDP−Star溶液を抗体チップに滴下し、化学発光により、Lumivisionにて検出した。結果を図5に示す。
【0063】
図5に示すように、スライドグラス全面のスポットから発光が得られ、また発光量は抗原の濃度に依存していた。このことから、スライドグラス全面に対して目的の反応が完遂しており、ビオチン化抗体溶液、アルカリホスファターゼ溶液が自動化反応においてスライドグラス全面に均一に広がっていることが分かった。このことは、アルミナナノ粒子を用いた枠処理が、上記2種類の溶液を安定的かつ均一に維持する効果を有することを示している。
【0064】
なお、従来法のシャーレでは、スライドグラス(JIS規格76×26mm)の大きさでは5mlの水溶液を要するのに対し、本法を用いることで必要量を1ml以下にすることができた。また、ロッシュダイアグノスティクス社の自動免疫染色装置で免疫の自動反応(免疫組織染色、抗体チップ反応、ハイブリダイゼーション反応を含む)について、本法を施したスライドグラスを用いて行うと、反応面にカバースリップ(油膜)が接することなくスライドグラス面全面に対して均一な反応が進行し、良好な結果が得られることもわかった。また、第2の領域を形成することで当該領域に囲繞される第1の領域全体を使うことができるので、効率的にスライドグラスを利用することができることもわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液性媒体を保持するための固相体であって、
前記液性媒体に関して第1の撥液性を有し、前記液体媒体を主として保持するための第1の領域と、
前記第1の領域の輪郭の少なくとも一部に接して前記第1の撥液性よりも前記液性媒体に関しより低い撥液性である第2の撥液性を有する第2の領域と、
を、前記固相体の表面に備える、固相体。
【請求項2】
前記液性媒体は親水性媒体である、請求項1に記載の固相体。
【請求項3】
前記第1の領域は、二酸化ケイ素を含むガラス組成を有するガラス表面以上の撥液性を有する領域である、請求項1又は2に記載の固相体。
【請求項4】
前記第2の領域は、親水性官能基又は親水性化合物を前記固相体の前記表面に有する領域である、請求項1〜3のいずれかに記載の固相体。
【請求項5】
前記第2の領域は、無機酸化物粒子を前記固相体の表面に有する領域である、請求項1〜4のいずれかに記載の固相体。
【請求項6】
前記第1の領域は、疎水性官能基又は疎水性化合物を前記固相体の表面に有する領域である、請求項1〜5のいずれかに記載の固相体。
【請求項7】
前記第1の領域は、アゾベンゼン基を有するアゾポリマーを前記固相体表面に有する領域である、請求項1〜6のいずれかに記載の固相体。
【請求項8】
前記固相体は、DNAアレイ、プロテインアレイ、又は免疫組織染色のために用いる、請求項1〜7のいずれかに記載の固相体。
【請求項9】
液性媒体を保持するための固相体の製造方法であって、
前記固相体の表面に、前記液性媒体に関し前記固相体の表面よりも低い撥液性を有する領域を前記液性媒体を保持しようとする領域の輪郭の少なくとも一部に接するように形成する工程、
を備える、製造方法。
【請求項10】
液性媒体を保持するための固相体の製造方法であって、
前記固相体の表面に、前記液性媒体に関し前記固相体の表面よりも高い撥液性を有する領域を前記液性媒体を保持しようとする領域に形成する工程、
を備える、製造方法。
【請求項11】
液性媒体を保持する固相体の製造方法であって、
前記液性媒体を保持しようとする領域に対して、前記液体媒体に関し第1の撥液性を付与する工程と、
前記液性媒体を保持しようとする領域の輪郭の少なくとも一部に接するように、前記液性媒体を保持しようとする領域よりも前記液性媒体に関しより低い撥液性である第2の撥液性を付与する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項12】
前記第1の撥液性を付与する工程は、アゾベンゼン基を有する光応答性ポリマーを、前記液性媒体を前記固相体の表面に付与する工程であり、
前記第2の撥液性を付与する工程は、前記液性媒体を保持しようとする領域の輪郭の少なくとも一部に接するように無機酸化物粒子を付与する工程である、請求項11に記載の製造方法。

【請求項13】
固相体上で液性媒体を保持させる方法であって、
請求項1〜8のいずれかに記載の固相体の前記第1の領域に前記液性媒体を供給し保持させる工程、を備える、方法。
【請求項14】
固相体上に保持した液性媒体中で反応させる方法であって、
請求項1〜8のいずれかに記載の固相体の前記第1の領域に前記液性媒体を供給し保持させる工程と、
前記液性媒体内において反応を実施する工程と、
を備える、方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−181068(P2012−181068A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43307(P2011−43307)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業(抗体チップを用いた未病検査システムの開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(509152079)株式会社ヘルスケアシステムズ (7)