液晶シャッター装置
【課題】遮光性の良さを保ちつつ消費電力を低減し、使い勝手のよい液晶シャッター装置を提供する。
【解決手段】右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置1であって、一対のシャッター素子11a,11bと、画像表示装置による右目用画像と左目用画像の切り替えに対応して一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置2を含み、一対のシャッター素子のそれぞれは、各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子を備え、制御装置は、画像表示装置による画像表示が停止した場合に、液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断する。
【解決手段】右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置1であって、一対のシャッター素子11a,11bと、画像表示装置による右目用画像と左目用画像の切り替えに対応して一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置2を含み、一対のシャッター素子のそれぞれは、各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子を備え、制御装置は、画像表示装置による画像表示が停止した場合に、液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者が立体的な表示を感得し得るための画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平6−178325号公報(特許文献1)や特開2002−82307号公報(特許文献2)には、立体表示用の左右の画像に同期させて左右のシャッターを開閉させる液晶シャッターメガネを用いた立体表示技術について開示されている。
【0003】
特許文献1,2に代表される先行例は、液晶表示装置以外の方式の表示装置にも広く適用できる優れた技術である。しかし、特許文献1にはシャッターメガネの具体的な構成については開示されていない。同様に、特許文献2においてもシャッターメガネの具体的な構成については開示されていないが、当該文献の段落0037等における記載に鑑みると、当該シャッターメガネを構成する液晶封入ガラスの実体はTN型の液晶素子であると推測される。
【0004】
これに対して、シャッターメガネ(液晶シャッター装置)を構成する液晶素子として、垂直配向型の液晶素子を用いることも考えられる。一般に、垂直配向型の液晶素子は、非常に優れた遮光性を示し、かつその視角が非常に広いという特徴があり、立体表示用の左右の画像が混合するクロストークを生じにくいというメリットがある。
【0005】
ところで、垂直配向型の液晶素子を用い、かつその優れた遮光性を活用しようとする場合には、液晶素子へ印加する電圧をオフとしたときに遮光状態となるセッティング(いわゆるノーマリーブラック)が望ましい。しかしながら、この場合、三次元映像の鑑賞を終了した後など、液晶素子への電圧供給が停止されるとシャッターメガネが真っ暗な状態(透過率の低い状態)となるため、利用者がシャッターメガネを着用したままで座席からの移動等をしにくいという不都合が生じる。これに対して、液晶素子への電圧印加を継続すればよいという考え方もあるが、その場合、シャッターメガネの不使用時にもバッテリーを消費するという不都合がある。通常、シャッターメガネの電源としてはボタン電池、充電式電池などのバッテリーが用いられるため、消費電力を抑えることは重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−178325号公報
【特許文献2】特開2002−82307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明に係る具体的態様は、遮光性の良さを保ちつつ消費電力を低減し、使い勝手のよい液晶シャッター装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様の液晶シャッター装置は、右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置であって、(a)一対のシャッター素子と、(b)前記画像表示装置による前記右目用画像と前記左目用画像の切り替えに対応して前記一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置を含み、前記一対のシャッター素子のそれぞれは、(c)各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、(d)電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子を備え、(e)前記制御装置は、前記画像表示装置による画像表示が停止した場合に、前記液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断する、液晶シャッター装置である。
【0009】
上記の液晶シャッター装置によれば、画像表示が停止した場合に液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断することにより、液晶素子は液晶層の電圧保持特性に応じた時間だけ駆動電圧が印加された状態に近い状態を保持する。それにより、液晶シャッター装置はある程度の時間、透明またはそれに近い状態を維持する。すなわち上記の液晶シャッター装置は、画像表示時には垂直配向型の液晶素子を用いることによる優れた遮光性を発揮し、かつ液晶素子への電圧供給が停止された後しばらくは電力を消費することなく透明またはそれに近い状態を維持する。このため、消費電力が低く、かつ利用者にとって使い勝手のよい液晶シャッター装置が実現される。なお、透明またはそれに近い状態が保持される時間をより長くするには、電圧保持率がより高くなるような液晶材料、配向膜等を選択して液晶素子を構成すればよい。
【0010】
上記の制御装置は、例えば、(f)前記液晶素子の各々に駆動電圧を供給する駆動装置と、(g)前記液晶素子の各々と前記駆動装置の間に接続されたスイッチング素子と、(h)前記画像表示装置による画像表示が停止したことを検出する表示検出部と、(i)前記スイッチング素子を導通状態又は遮断状態に制御するスイッチング制御部を備える。
【0011】
また、上記の制御装置は、前記液晶素子との間を電気的に遮断した後に一定時間が経過した場合に前記液晶素子との間を電気的に接続して当該液晶素子に駆動電圧を印加することも好ましい。
【0012】
それにより、液晶シャッター素子の透過率が低下するより前に再度液晶シャッター素子を透明またはそれに近い状態にリフレッシュすることができる。
【0013】
上記の制御装置は、例えば、(j)前記スイッチング制御部により前記スイッチング素子が遮断状態に制御されたことに対応して経過時間を計測する時間計測部を更に備える。
【0014】
本発明に係る一態様の液晶シャッター装置の駆動方法は、一対のシャッター素子と当該一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置を含み、前記一対のシャッター素子のそれぞれは、各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子を備え、右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置の駆動方法であって、前記画像表示装置による画像表示が停止した場合に、前記制御装置により前記液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子と当該制御装置との間の電気的接続を遮断する、駆動方法である。
【0015】
上記の液晶シャッター装置の駆動方法によれば、画像表示が停止した場合に液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断することにより、液晶素子は液晶層の電圧保持特性に応じた時間だけ駆動電圧が印加された状態に近い状態を保持する。それにより、液晶シャッター装置はある程度の時間、透明またはそれに近い状態を維持する。すなわち、上記の液晶シャッター装置の駆動方法は、垂直配向型の液晶素子を用いることによる優れた遮光性を発揮し、かつ液晶素子への電圧供給が停止された後しばらくは電力を消費することなく透明またはそれに近い状態を維持する。このため、消費電力が低く、かつ利用者にとって使い勝手のよい液晶シャッター装置が実現される。透明またはそれに近い状態が保持される時間をより長くするには、電圧保持率がより高くなるような液晶材料、配向膜等を選択して液晶素子を構成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態の液晶シャッター装置の概略構成を示す模式的な斜視図である。
【図2】各シャッター素子の詳細構成を示す模式的な断面図である。
【図3】シャッター素子の各構成における光学軸の配置例を示す図である。
【図4】液晶シャッター装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図5】液晶シャッター装置の画像鑑賞時以外の駆動方法について示すフローチャートである。
【図6】液晶シャッター装置の制御装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図7】偏光板の透過軸の配置について説明する図である。
【図8】静電気に対する液晶層の帯電時間の電圧保持率依存性を示す図である。
【図9】配向膜のポストベーク温度と帯電時間の関係を示す図である。
【図10】配向膜のポストベーク温度と帯電時間の関係を示す図である。
【図11】配向膜の帯電時間の固形分濃度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、一実施形態の液晶シャッター装置の概略構成を示す模式的な斜視図である。図1に示す本実施形態の液晶シャッター装置1は、一対のシャッター素子11a、11bを有する。一対のシャッター素子11a、11bは、人間の両目の平均的な間隔に対応して、所定位置を挟んで一方向に並べて配置されており、例えば図1に示すようにメガネ状に構成されている。液晶シャッター装置1は、右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置3と組み合わせて用いられる。
【0019】
図2は、各シャッター素子の詳細構成を示す模式的な断面図である。各シャッター素子11a、11bは、それぞれ図2に示すように上側偏光板13、光学補償板14、液晶セル(液晶素子)15、光学補償板16、偏光板17を有して構成されている。
【0020】
上側偏光板13は、液晶セル15等を挟んで下側偏光板17と対向配置されている。この上側偏光板13は、各シャッター素子11a等が利用者に装着された際に、その視認位置を基準として当該視認位置から遠い側、換言すれば画像表示装置3に近い側に配置される。また、下側偏光板17は、各シャッター素子11a等が利用者に装着された際に、その視認位置を基準として当該視認位置に近い側、換言すれば画像表示装置3から遠い側に配置される。上側偏光板13と下側偏光板17は、各々の吸収軸が略直交するように配置される。
【0021】
光学補償板14は、上側偏光板13と液晶セル15に挟まれて配置されている。同様に、光学補償板16は、下側偏光板17と液晶セル15に挟まれて配置されている。本実施形態における各光学補償板14、16は、負の二軸光学異方性を有する光学板(二軸プレート)である。光学補償板14の面内遅相軸は、上側偏光板13の透過軸と略平行に配置される。同様に、光学補償板16の面内遅相軸は、下側偏光板17の透過軸と略平行に配置される。各光学補償板14、16は、例えば面内位相差が略45nm、厚さ方向位相差が略120nmである。
【0022】
液晶セル15は、電圧無印加時における液晶層の配向状態が略垂直な一軸配向状態を有するものである。図示のように液晶セル15は、上側基板21、上側電極22、配向膜23、下側基板24、下側電極25、配向膜26、液晶層27を含んで構成されている。
【0023】
上側基板21および下側基板24は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。プラスチック基板は、軽い、割れにくい、曲げやすい等の長所を有するので、シャッター素子11a、11bをメガネ状に形成するにあたってより好ましい。この場合には、ガスバリア層などを有するプラスチック基板がより好ましい。上側基板21と下側基板24との相互間には、スペーサー(粒状体)が分散して配置されている。これらのスペーサーにより、上側基板21と下側基板24との間隙が所定距離(例えば2.0μm程度)に保たれる。
【0024】
上側電極22は、上側基板21の一面上に設けられている。同様に、下側電極25は、下側基板24の一面上に設けられている。上側電極22および下側電極25は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0025】
配向膜23は、上側基板21の一面側に、上側電極22を覆うようにして設けられている。同様に、配向膜26は、下側基板24の一面側に、下側電極25を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、配向膜23および配向膜26としては、液晶層27の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を略垂直配向に規制するもの(垂直配向膜)が用いられている。各配向膜23、26には配向処理(例えばラビング処理)が施されている。各配向膜23、26は、液晶層27の界面付近において当該液晶層27の液晶分子にプレティルト角を与える。本実施形態では89°程度のプレティルト角が与えられる。上側基板21と下側基板24は、各配向膜23、26に対する配向処理方向(例えばラビング方向)がアンチパラレル状態となるように位置合わせされる。これにより、液晶層27は90°より小さいプレティルト角を有する略垂直配向に制御される。なお、各配向膜23、26のうちの何れか一方にのみ配向処理が施されていてもよい。また、配向処理はラビング処理に限定されず、光配向法等であってもよい。
【0026】
液晶層27は、上側基板21の上側電極22と下側基板24の下側電極25の相互間に設けられている。本実施形態においては誘電率異方性Δεが負(Δε<0)の液晶材料(ネマティック液晶材料)を用いて液晶層27が構成されている。液晶層27に図示された太線は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向(ダイレクタ)を模式的に示したものである。本実施形態の液晶表示装置においては、液晶層27の液晶分子の配向状態は初期状態(電圧無印加状態)において89°程度のプレティルト角を有する略垂直配向に設定されている。液晶層27に電圧が印加されると、液晶分子の長軸方向が電界方向と交差するように液晶層27の配向状態が変化する。液晶層27のリターデーションは略300nmである。
【0027】
図3は、シャッター素子の各構成における光学軸の配置例を示す図である。各光学軸の方位の基準(0°)は図中に示された通りである。シャッター素子11a、11bがほぼ水平方向(画像表示装置3の左右方向)に並んでいる状態を想定する。この状態は、例えば上記のようにシャッター素子11a、11bがメガネ状に構成されている場合においてはこれらを利用者がメガネと同様に装着し、かつ首を傾けずに画像表示装置3を正視した状態に相当する。
【0028】
液晶セル15は、液晶層27の層厚方向の略中央における液晶分子の配向方向が12時方向となるように配置される。なお、この液晶分子の配向方向については、左右の視角特性を重視すれば上記の12時方向または6時方向とすることが好ましいが、この限りではない。シャッター素子11aとシャッター素子11bの各液晶セル15における液晶分子の配向方向を相互に異ならせてもよい。
【0029】
上側偏光板13は、その透過軸が12時方位から反時計回りに略45°回転させた位置に配置されている。これに対して、下側偏光板17は、その透過軸が12時方位から時計回りに略45°回転させた位置に配置されている。これにより、上側偏光板13と下側偏光板17は、各々の透過軸が略直交して配置される。
【0030】
光学補償板14は、その面内遅相軸が上側偏光板13の透過軸に対して略平行となるように配置されている。これに対して、光学補償板16は、その面内遅相軸が下側偏光板17の透過軸に対して略平行となるように配置されている。図示のように、光学補償板14と光学補償板16の各々の面内遅相軸は互いに略直交するように配置される。
【0031】
なお、光学補償板14、16のいずれか一方(あるいは両方)は省略されてもよい。また、各光学補償板14、16の厚さ方向の位相差(2つ用いる場合はその合計)については、液晶セル15のリターデーションΔndに対して略0.5〜略1倍に設定することが好ましい。また、光学補償板14、16の各々の面内位相差は略30nm〜略65nmに設定することが好ましい。
【0032】
図4は、液晶シャッター装置1が備える制御装置の構成例を示す図である。制御装置2は、各シャッター素子11a、11bを制御するものであり、駆動装置12と、2つのスイッチング素子33a、33bを含んで構成されている。本実施形態における各スイッチング素子33a、33bとしては、電界効果型トランジスタが用いられている。
【0033】
駆動装置12は、画像表示装置3の画像表示タイミングに同期して所定の駆動電圧を各シャッター素子11a、11bの液晶セル15に供給する。駆動装置12は、例えば駆動周波数1000Hzの矩形波電圧を液晶セル15に供給する。駆動電圧は、例えばオフ電圧を0V、オン電圧を10Vとすることができる(スタティック駆動)。この駆動装置12はシャッター素子11a等と一体化されている。画像表示装置3と駆動装置12との間は、例えば図1に示したように電波や赤外線などによる無線通信によって接続される。なお、両者間は有線接続されてもよい。
【0034】
駆動装置12は、その内部に表示検出部30、スイッチング制御部31および時間計測部32を有する。表示検出部30は、画像表示装置3から画像表示タイミングを示す信号(一例として画像信号)が供給されているか否か、すなわち画像表示装置3による画像表示の有無を検出する判定する。スイッチング制御部31は、表示検出部30による検出結果に応じて、各スイッチング素子33a、33bの切断状態/導通状態(オンオフ状態)を制御する。時間計測部32は、スイッチング制御部31により各スイッチング素子33a、33bが遮断状態とされてから一定時間が経過したことを計測する。
【0035】
次に、本実施形態の液晶シャッター装置1の映像鑑賞時の駆動方法について例示する。上記した画像表示装置3は、立体的表示を行うために、右目用画像と左目用画像を所定周期で切り替えながら交互に表示する。表示切り替え周波数は、例えば120Hzである。この場合、約8.3ミリ秒間ごとに右目用画像と左目用画像が切り替わる。画像表示装置3がいわゆる倍速表示を行うものである場合には、表示切り替え周波数は240Hzとなる。この場合には、約4.2ミリ秒間ごとに右目用画像と左目用画像が切り替わる。
【0036】
このとき、液晶シャッター装置1は、駆動装置12が画像表示装置3の表示切り替えタイミングに対応してシャッター素子11a、11bを駆動する。例えば、右目用画像が表示されているフレームでは、利用者の右目に対応付けられたシャッター素子11bには駆動装置12からオン電圧が印加され、利用者の左目に対応付けられたシャッター素子11aには駆動部12からオフ電圧が印加される。それにより、シャッター素子11bは光透過状態となり、シャッター素子11aは遮光状態となるので、利用者は右目でのみ右目用画像を視認できる状態となる。逆に、左目用画像が表示されているフレームでは、利用者の左目に対応付けられたシャッター素子11aには駆動装置12からオン電圧が印加され、利用者の右目に対応付けられたシャッター素子11bには駆動装置12からオフ電圧が印加される。それにより、シャッター素子11aは光透過状態となり、シャッター素子11bは遮光状態となるので、利用者は左目でのみ左目用画像を視認できる状態となる。これらの動作を画像表示装置3による右目用画像と左目用画像の切り替えタイミングに同期して実行することにより、利用者は立体的な表示を視認することができる。
【0037】
次に、液晶シャッター装置1の映像鑑賞時以外の駆動方法について図5に示すフローチャートに沿って説明する。なお、液晶シャッター装置1と画像表示装置3との間は無線通信または有線通信により接続されているとする。
【0038】
画像信号が無出力状態であること、すなわち画像表示が停止したことが表示検出部30によって検出されると(ステップS11)、駆動装置12は、各シャッター素子11a、11bの液晶セル15にオン電圧を供給する(ステップS12)。なお、この時点では各スイッチング素子33a、33bは導通状態にあるものとする。
【0039】
次いで、このオン電圧の供給が保たれた状態で、スイッチング制御部31は、各スイッチング素子33a、33bを切断状態にする(ステップS13)。これにより、液晶セル15は電気的に開放された状態となり、その時点の動作状態(オン状態)が長く保持される。このため、各シャッター素子11a、11bは、しばらくの間、透過率の高い状態(透明状態)に保たれる。透明状態が維持される時間の長さは、主に液晶セル15の電圧保持率に影響を受ける。このため、液晶セル15としては、抵抗値が非常に高い液晶材料を用い、かつ配向膜として電圧保持率がより高く、かつ膜厚のより薄いものを用いることが好ましい。
【0040】
次に、駆動装置12は、液晶セル15へのオン電圧の供給を停止する(ステップS14)。
【0041】
各スイッチング素子33a、33bが切断状態に制御され、液晶セル15への電圧供給が停止してから一定時間(例えば、数分間〜数十分間)が経過したことが時間計測部32によって計測されると(ステップS15)、スイッチング制御部31は、再び各スイッチング素子33a、33bを導通状態に制御する(ステップS16)。
【0042】
以後、上記のステップS12に戻り、以降の動作が繰り返される。それにより、半永久的に各シャッター素子11a、11bを透明状態に保つことができる。しかも、液晶セル15への電極供給は間欠的であるので、消費電力は極めてわずかである。
【0043】
図6は、液晶シャッター装置の制御装置の他の構成例を示すブロック図である。図6に示す制御装置2aは、駆動装置12a、表示検出部30a、スイッチング制御部31aおよび時間計測部33aを有する。本例における表示検出部30a、スイッチング制御部31aおよび時間計測部33aは一体に構成されており、駆動装置12aとは分離されている。各部の機能については上記と同様である。このように駆動装置とそれ以外を分離した構成を採用してもよい。
【0044】
(実施例)
以下に液晶シャッター装置の実施例、特にシャッター素子11a、11bの実施例について説明する。
【0045】
まず、ガラス基板上(板厚0.7mm)に透明電極であるITO(インジウム錫酸化物)を蒸着やスパッタなどの方法により500Å〜1000Å程度の膜厚に成膜し、フォトリソ工程により所望の形状に整形した。このITO膜付きのガラス基板上に蒸着、スパッタもしくはフレキソ印刷にて所定の位置に絶縁膜を形成する。具体的には、シャッター画素部分とメインシール部分に形成し、導通部分と端子部分には形成しない。なお、この絶縁膜は必ずしも必要ではないが、上下基板間のショート防止のためには形成することが望ましい。実施例ではスパッタ法により絶縁膜を形成した。次いで、絶縁膜の上にほぼ同じパターンの垂直配向膜を形成する。これは、シャッター画素部分に形成し、メインシール部分と導通部分と端子部分には形成しない。均一なモノドメイン配向を得る手法としては、例えば特開2005−234254号公報に記載の方法を用いるとよい。実施例では市販のいくつかの配向膜材料を用いて配向膜を形成した。成膜後、160℃〜200℃で30分間〜120分間の焼成を行った。
【0046】
次に、配向処理の一つであるラビング処理を行った。ラビング処理とは布を巻いた円筒状のロールを高速に回転させ、配向膜上を擦る処理であり、これにより液晶分子を一軸に配向させることができる。実施例では、上下基板間の配向状態がアンチパラレル(反平行)状態となるようにラビング処理を行った。ラビング処理のパラメータの1つである押し込み量については、0.3mm〜0.6mm程度とした。なお、この押し込み量の数値は一例である。また、ここでは配向処理の一例としてラビング処理を挙げたが、光配向法、イオンビーム配向法、プラズマビーム配向法、斜め蒸着法などを用いてもよい。
【0047】
次に、上下基板を貼り合わせるためのシール剤を所定のパターンに印刷した。後の液晶材料を注入する工程で真空注入法を用いる場合は注入口を有するパターンとし、ODF法を用いる場合には注入口のない閉じられたパターンとされる。ここでの印刷はスクリーン印刷法を用いたが、ディスペンサなどを用いてもよい。シール剤は熱硬化性のものを用いたが、光硬化性のシール剤や光・熱併用型のシール剤などを用いてもよい。シール剤としては薄いギャップまで押し込むことが可能なタイプの材料が望ましい。このシール剤は粒径2μmのシリカボールを1−3wt%含んでいる。また、導通材として金がコーティングされたプラスチックボールを含むシール剤を所定の位置に印刷してもよい。ここでは前記と同じシール剤に粒径2μmの金コーティングされたプラスチックボールを2wt%含んだものを上下基板の電極間の導通材としてスクリーン印刷を行った。シール剤パターン(および導通材パターン)は片側の基板上のみに形成し、反対側の基板にはギャップコントロール剤を乾式散布法にて散布した。ギャップ剤は2μmのプラスチックボールを用いたが、シリカボールが用いられてもよい。ギャップ剤には液晶分子の配向を乱さないための表面処理が行われており、かつ散布後の熱処理により基板上に固着するような処理が施されているものを用いた。散布量は300〜700個/mm2程度となるようにした。
【0048】
散布後は、基板に熱処理(100℃〜150℃で30分間〜60分間)を行い、ギャップ剤を基板上に固着させた。上下基板を所定の位置で重ね合わせてセル化し、プレスした状態で熱処理によりシール剤を硬化させた。次にスクライバー装置によりガラス基板上に傷をつけ、ブレイキングにより所定の大きさ・形状に分割した。この液晶セルに真空注入法等の方法によりΔε<0の液晶材料を注入し、注入口をエンドシール剤にて封止した。その後、面取りと洗浄を行い、光学補償板付きの偏光板を上下基板のラビング方向に対して略45°となるようにクロスニコル配置にて貼り合わせ(図7参照)、垂直配向型の液晶セルを有するシャッター素子を完成させた。
【0049】
こうして作製したシャッター素子は、その液晶層にΔε<0の液晶材料が満たされており、その層厚は略2μm、Δndは略300nmに設定され、液晶層の層厚方向における略中央の液晶分子の配向方向は視角方向と同じ12時方向(図7参照)に設定されている。液晶セル外の上下にはクロスニコル配置した偏光板が配置され、上側偏光板の透過軸は、12時方向から反時計回りに45°回転させた位置に設定されている。液晶セルと上下偏光板の間にはそれぞれ視角補償板としての負の二軸光学異方性を有する光学フィルムが貼り合わされている。光学フィルムの厚さ方向位相差は略120nmとしている。なお、視角補償板は液晶セルの上面または下面のみに配置されていてもよい。上記では固定した光学フィルムのパラメータを挙げているが、適切な値としてはフィルム厚さ方向の位相差(2枚使用時はその合計)を液晶セルのΔndに対して略0.5〜略1.0倍に設定することが好ましい。また、面内位相差は略30nm〜略65nmに設定することが好ましい。
【0050】
次に、作製したシャッター素子の液晶セルの帯電時間を評価した。人体は静電気を帯びやすく比較的高い帯電状態になりやすいが、帯電電位が1kV以下ではほとんど気づくことがない。ここでは10kVと比較的に高い静電気の場合(布などでメガネを擦ることにより得ることができるレベル)について実験を行った。電気的に開放された状態にある液晶セルに静電気を静電ガンにて印加して実験を行った。静電気に対する液晶層の帯電時間の電圧保持率依存性を図8に示す。図8の横軸は相対的な電圧保持率を示し、数値が大きい方が電圧保持率が高いことを示す。図中における「PI−A」、「PI−B」、「PI−C」は配向膜の材料の違いを表す(以下でも同様)。帯電時間は電圧保持率に大きく依存することがわかる。ここでは液晶層の液晶材料は共通であるので、配向膜の材料に依存することがわかる。電圧保持率の高い条件で作製した液晶セルの場合には、2320秒間(約40分間)、シャッター素子が透明に近い状態に保たれることが確認された。また、別の実験により、5kV程度(接触放電、1秒間、1回)と比較的に低い静電気を与えた場合でも、透明に近い状態が10分間程度保たれることが確認された。また、2.5kVの静電気でも2分間程度透明に近い状態が保たれることが確認された。これらはメガネを軽く擦ったり指で触ったりするだけで得られる静電気の大きさである。すなわち、定期的にシャッター素子の一部を触れることで長期間、透明状態を保持し得ることがわかる。
【0051】
次にシャッター素子を電気的に駆動することにより透明状態を保持する場合について説明する。一例として、1/4デューティ、1/3バイアス駆動、オン電圧15V(スタティック駆動では8.5V程度に相当)の条件でオン電圧を印加後、スイッチング素子を遮断状態とすることにより液晶セルを開放状態として実験を行った。この場合、配向膜のポストベーク温度が高いほど帯電状態、すなわち液晶層が動作した状態が保持される時間が長くなることがわかった(図9、図10参照)。また、配向膜の種類によっても保持時間は異なるが、最も保持時間が短い「PI−D」であっても成膜時の固形分濃度を低くする(すなわち配向膜の膜厚を薄くする)ことによって保持時間を著しく長くすることができることがわかる(図11参照)。具体的には、配向膜の膜厚を50Å〜100Åとすることで保持時間が数十倍以上に改善している。したがって、他の配向膜であればさらに保持時間を長くすることも可能であると考えられる。具体的には、少なくとも2分間以上の保持時間を確保できると考えられる。よって、上記のように非常に低い頻度で液晶セルに電圧を印加し、その後液晶セルを開放状態とすることにより、透明な液晶シャッター装置を実現できることがわかる。なお、配向膜を非常に薄くしても液晶層の配向性にはそれほど影響がないことを確認している。この実施例では特別に液晶材料や配向膜として電圧保持率の高いものを積極的に選定して実験を行っておらず、むしろ静電気の影響を抑えるための材料を選んでいる。したがって、材料を最適化することによりさらに優れた液晶シャッター装置を実現できると考えられる。
【0052】
なお、本発明は上述した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0053】
例えば、上記した実施形態並びに実施例では液晶セルとして、90°より小さいプレティルト角を有する略垂直配向の液晶層を有するものを例示していたが、液晶素子はこれに限定されない。例えば、略90°のプレティルト角を有する垂直配向の液晶層を有し、スリットや突起部などを用いて発生させた斜め電界により配向制御を行う液晶素子が用いられてもよい。
【0054】
また、上記した実施形態並びに実施例ではシャッター素子の外形については特段に言及していなかったが、矩形状、五角形などの多角形や任意の曲線形状など所望の形状を選択することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:液晶シャッター装置
2、2a:制御装置
3:画像表示装置
11a、11b:シャッター素子
12:駆動装置
13:上側偏光板
14:光学補償板
15:液晶セル(液晶素子)
16:光学補償板
17:下側偏光板
21:上側基板
22:上側電極
23:配向膜
24:下側基板
25:下側電極
26:配向膜
27:液晶層
30、30a:表示検出部
31、31a:スイッチング制御部
32、32a:時間計測部
33a、33b:スイッチング素子(電界効果トランジスタ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者が立体的な表示を感得し得るための画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平6−178325号公報(特許文献1)や特開2002−82307号公報(特許文献2)には、立体表示用の左右の画像に同期させて左右のシャッターを開閉させる液晶シャッターメガネを用いた立体表示技術について開示されている。
【0003】
特許文献1,2に代表される先行例は、液晶表示装置以外の方式の表示装置にも広く適用できる優れた技術である。しかし、特許文献1にはシャッターメガネの具体的な構成については開示されていない。同様に、特許文献2においてもシャッターメガネの具体的な構成については開示されていないが、当該文献の段落0037等における記載に鑑みると、当該シャッターメガネを構成する液晶封入ガラスの実体はTN型の液晶素子であると推測される。
【0004】
これに対して、シャッターメガネ(液晶シャッター装置)を構成する液晶素子として、垂直配向型の液晶素子を用いることも考えられる。一般に、垂直配向型の液晶素子は、非常に優れた遮光性を示し、かつその視角が非常に広いという特徴があり、立体表示用の左右の画像が混合するクロストークを生じにくいというメリットがある。
【0005】
ところで、垂直配向型の液晶素子を用い、かつその優れた遮光性を活用しようとする場合には、液晶素子へ印加する電圧をオフとしたときに遮光状態となるセッティング(いわゆるノーマリーブラック)が望ましい。しかしながら、この場合、三次元映像の鑑賞を終了した後など、液晶素子への電圧供給が停止されるとシャッターメガネが真っ暗な状態(透過率の低い状態)となるため、利用者がシャッターメガネを着用したままで座席からの移動等をしにくいという不都合が生じる。これに対して、液晶素子への電圧印加を継続すればよいという考え方もあるが、その場合、シャッターメガネの不使用時にもバッテリーを消費するという不都合がある。通常、シャッターメガネの電源としてはボタン電池、充電式電池などのバッテリーが用いられるため、消費電力を抑えることは重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−178325号公報
【特許文献2】特開2002−82307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明に係る具体的態様は、遮光性の良さを保ちつつ消費電力を低減し、使い勝手のよい液晶シャッター装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様の液晶シャッター装置は、右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置であって、(a)一対のシャッター素子と、(b)前記画像表示装置による前記右目用画像と前記左目用画像の切り替えに対応して前記一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置を含み、前記一対のシャッター素子のそれぞれは、(c)各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、(d)電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子を備え、(e)前記制御装置は、前記画像表示装置による画像表示が停止した場合に、前記液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断する、液晶シャッター装置である。
【0009】
上記の液晶シャッター装置によれば、画像表示が停止した場合に液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断することにより、液晶素子は液晶層の電圧保持特性に応じた時間だけ駆動電圧が印加された状態に近い状態を保持する。それにより、液晶シャッター装置はある程度の時間、透明またはそれに近い状態を維持する。すなわち上記の液晶シャッター装置は、画像表示時には垂直配向型の液晶素子を用いることによる優れた遮光性を発揮し、かつ液晶素子への電圧供給が停止された後しばらくは電力を消費することなく透明またはそれに近い状態を維持する。このため、消費電力が低く、かつ利用者にとって使い勝手のよい液晶シャッター装置が実現される。なお、透明またはそれに近い状態が保持される時間をより長くするには、電圧保持率がより高くなるような液晶材料、配向膜等を選択して液晶素子を構成すればよい。
【0010】
上記の制御装置は、例えば、(f)前記液晶素子の各々に駆動電圧を供給する駆動装置と、(g)前記液晶素子の各々と前記駆動装置の間に接続されたスイッチング素子と、(h)前記画像表示装置による画像表示が停止したことを検出する表示検出部と、(i)前記スイッチング素子を導通状態又は遮断状態に制御するスイッチング制御部を備える。
【0011】
また、上記の制御装置は、前記液晶素子との間を電気的に遮断した後に一定時間が経過した場合に前記液晶素子との間を電気的に接続して当該液晶素子に駆動電圧を印加することも好ましい。
【0012】
それにより、液晶シャッター素子の透過率が低下するより前に再度液晶シャッター素子を透明またはそれに近い状態にリフレッシュすることができる。
【0013】
上記の制御装置は、例えば、(j)前記スイッチング制御部により前記スイッチング素子が遮断状態に制御されたことに対応して経過時間を計測する時間計測部を更に備える。
【0014】
本発明に係る一態様の液晶シャッター装置の駆動方法は、一対のシャッター素子と当該一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置を含み、前記一対のシャッター素子のそれぞれは、各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子を備え、右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置の駆動方法であって、前記画像表示装置による画像表示が停止した場合に、前記制御装置により前記液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子と当該制御装置との間の電気的接続を遮断する、駆動方法である。
【0015】
上記の液晶シャッター装置の駆動方法によれば、画像表示が停止した場合に液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断することにより、液晶素子は液晶層の電圧保持特性に応じた時間だけ駆動電圧が印加された状態に近い状態を保持する。それにより、液晶シャッター装置はある程度の時間、透明またはそれに近い状態を維持する。すなわち、上記の液晶シャッター装置の駆動方法は、垂直配向型の液晶素子を用いることによる優れた遮光性を発揮し、かつ液晶素子への電圧供給が停止された後しばらくは電力を消費することなく透明またはそれに近い状態を維持する。このため、消費電力が低く、かつ利用者にとって使い勝手のよい液晶シャッター装置が実現される。透明またはそれに近い状態が保持される時間をより長くするには、電圧保持率がより高くなるような液晶材料、配向膜等を選択して液晶素子を構成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態の液晶シャッター装置の概略構成を示す模式的な斜視図である。
【図2】各シャッター素子の詳細構成を示す模式的な断面図である。
【図3】シャッター素子の各構成における光学軸の配置例を示す図である。
【図4】液晶シャッター装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図5】液晶シャッター装置の画像鑑賞時以外の駆動方法について示すフローチャートである。
【図6】液晶シャッター装置の制御装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図7】偏光板の透過軸の配置について説明する図である。
【図8】静電気に対する液晶層の帯電時間の電圧保持率依存性を示す図である。
【図9】配向膜のポストベーク温度と帯電時間の関係を示す図である。
【図10】配向膜のポストベーク温度と帯電時間の関係を示す図である。
【図11】配向膜の帯電時間の固形分濃度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、一実施形態の液晶シャッター装置の概略構成を示す模式的な斜視図である。図1に示す本実施形態の液晶シャッター装置1は、一対のシャッター素子11a、11bを有する。一対のシャッター素子11a、11bは、人間の両目の平均的な間隔に対応して、所定位置を挟んで一方向に並べて配置されており、例えば図1に示すようにメガネ状に構成されている。液晶シャッター装置1は、右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置3と組み合わせて用いられる。
【0019】
図2は、各シャッター素子の詳細構成を示す模式的な断面図である。各シャッター素子11a、11bは、それぞれ図2に示すように上側偏光板13、光学補償板14、液晶セル(液晶素子)15、光学補償板16、偏光板17を有して構成されている。
【0020】
上側偏光板13は、液晶セル15等を挟んで下側偏光板17と対向配置されている。この上側偏光板13は、各シャッター素子11a等が利用者に装着された際に、その視認位置を基準として当該視認位置から遠い側、換言すれば画像表示装置3に近い側に配置される。また、下側偏光板17は、各シャッター素子11a等が利用者に装着された際に、その視認位置を基準として当該視認位置に近い側、換言すれば画像表示装置3から遠い側に配置される。上側偏光板13と下側偏光板17は、各々の吸収軸が略直交するように配置される。
【0021】
光学補償板14は、上側偏光板13と液晶セル15に挟まれて配置されている。同様に、光学補償板16は、下側偏光板17と液晶セル15に挟まれて配置されている。本実施形態における各光学補償板14、16は、負の二軸光学異方性を有する光学板(二軸プレート)である。光学補償板14の面内遅相軸は、上側偏光板13の透過軸と略平行に配置される。同様に、光学補償板16の面内遅相軸は、下側偏光板17の透過軸と略平行に配置される。各光学補償板14、16は、例えば面内位相差が略45nm、厚さ方向位相差が略120nmである。
【0022】
液晶セル15は、電圧無印加時における液晶層の配向状態が略垂直な一軸配向状態を有するものである。図示のように液晶セル15は、上側基板21、上側電極22、配向膜23、下側基板24、下側電極25、配向膜26、液晶層27を含んで構成されている。
【0023】
上側基板21および下側基板24は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。プラスチック基板は、軽い、割れにくい、曲げやすい等の長所を有するので、シャッター素子11a、11bをメガネ状に形成するにあたってより好ましい。この場合には、ガスバリア層などを有するプラスチック基板がより好ましい。上側基板21と下側基板24との相互間には、スペーサー(粒状体)が分散して配置されている。これらのスペーサーにより、上側基板21と下側基板24との間隙が所定距離(例えば2.0μm程度)に保たれる。
【0024】
上側電極22は、上側基板21の一面上に設けられている。同様に、下側電極25は、下側基板24の一面上に設けられている。上側電極22および下側電極25は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0025】
配向膜23は、上側基板21の一面側に、上側電極22を覆うようにして設けられている。同様に、配向膜26は、下側基板24の一面側に、下側電極25を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、配向膜23および配向膜26としては、液晶層27の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を略垂直配向に規制するもの(垂直配向膜)が用いられている。各配向膜23、26には配向処理(例えばラビング処理)が施されている。各配向膜23、26は、液晶層27の界面付近において当該液晶層27の液晶分子にプレティルト角を与える。本実施形態では89°程度のプレティルト角が与えられる。上側基板21と下側基板24は、各配向膜23、26に対する配向処理方向(例えばラビング方向)がアンチパラレル状態となるように位置合わせされる。これにより、液晶層27は90°より小さいプレティルト角を有する略垂直配向に制御される。なお、各配向膜23、26のうちの何れか一方にのみ配向処理が施されていてもよい。また、配向処理はラビング処理に限定されず、光配向法等であってもよい。
【0026】
液晶層27は、上側基板21の上側電極22と下側基板24の下側電極25の相互間に設けられている。本実施形態においては誘電率異方性Δεが負(Δε<0)の液晶材料(ネマティック液晶材料)を用いて液晶層27が構成されている。液晶層27に図示された太線は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向(ダイレクタ)を模式的に示したものである。本実施形態の液晶表示装置においては、液晶層27の液晶分子の配向状態は初期状態(電圧無印加状態)において89°程度のプレティルト角を有する略垂直配向に設定されている。液晶層27に電圧が印加されると、液晶分子の長軸方向が電界方向と交差するように液晶層27の配向状態が変化する。液晶層27のリターデーションは略300nmである。
【0027】
図3は、シャッター素子の各構成における光学軸の配置例を示す図である。各光学軸の方位の基準(0°)は図中に示された通りである。シャッター素子11a、11bがほぼ水平方向(画像表示装置3の左右方向)に並んでいる状態を想定する。この状態は、例えば上記のようにシャッター素子11a、11bがメガネ状に構成されている場合においてはこれらを利用者がメガネと同様に装着し、かつ首を傾けずに画像表示装置3を正視した状態に相当する。
【0028】
液晶セル15は、液晶層27の層厚方向の略中央における液晶分子の配向方向が12時方向となるように配置される。なお、この液晶分子の配向方向については、左右の視角特性を重視すれば上記の12時方向または6時方向とすることが好ましいが、この限りではない。シャッター素子11aとシャッター素子11bの各液晶セル15における液晶分子の配向方向を相互に異ならせてもよい。
【0029】
上側偏光板13は、その透過軸が12時方位から反時計回りに略45°回転させた位置に配置されている。これに対して、下側偏光板17は、その透過軸が12時方位から時計回りに略45°回転させた位置に配置されている。これにより、上側偏光板13と下側偏光板17は、各々の透過軸が略直交して配置される。
【0030】
光学補償板14は、その面内遅相軸が上側偏光板13の透過軸に対して略平行となるように配置されている。これに対して、光学補償板16は、その面内遅相軸が下側偏光板17の透過軸に対して略平行となるように配置されている。図示のように、光学補償板14と光学補償板16の各々の面内遅相軸は互いに略直交するように配置される。
【0031】
なお、光学補償板14、16のいずれか一方(あるいは両方)は省略されてもよい。また、各光学補償板14、16の厚さ方向の位相差(2つ用いる場合はその合計)については、液晶セル15のリターデーションΔndに対して略0.5〜略1倍に設定することが好ましい。また、光学補償板14、16の各々の面内位相差は略30nm〜略65nmに設定することが好ましい。
【0032】
図4は、液晶シャッター装置1が備える制御装置の構成例を示す図である。制御装置2は、各シャッター素子11a、11bを制御するものであり、駆動装置12と、2つのスイッチング素子33a、33bを含んで構成されている。本実施形態における各スイッチング素子33a、33bとしては、電界効果型トランジスタが用いられている。
【0033】
駆動装置12は、画像表示装置3の画像表示タイミングに同期して所定の駆動電圧を各シャッター素子11a、11bの液晶セル15に供給する。駆動装置12は、例えば駆動周波数1000Hzの矩形波電圧を液晶セル15に供給する。駆動電圧は、例えばオフ電圧を0V、オン電圧を10Vとすることができる(スタティック駆動)。この駆動装置12はシャッター素子11a等と一体化されている。画像表示装置3と駆動装置12との間は、例えば図1に示したように電波や赤外線などによる無線通信によって接続される。なお、両者間は有線接続されてもよい。
【0034】
駆動装置12は、その内部に表示検出部30、スイッチング制御部31および時間計測部32を有する。表示検出部30は、画像表示装置3から画像表示タイミングを示す信号(一例として画像信号)が供給されているか否か、すなわち画像表示装置3による画像表示の有無を検出する判定する。スイッチング制御部31は、表示検出部30による検出結果に応じて、各スイッチング素子33a、33bの切断状態/導通状態(オンオフ状態)を制御する。時間計測部32は、スイッチング制御部31により各スイッチング素子33a、33bが遮断状態とされてから一定時間が経過したことを計測する。
【0035】
次に、本実施形態の液晶シャッター装置1の映像鑑賞時の駆動方法について例示する。上記した画像表示装置3は、立体的表示を行うために、右目用画像と左目用画像を所定周期で切り替えながら交互に表示する。表示切り替え周波数は、例えば120Hzである。この場合、約8.3ミリ秒間ごとに右目用画像と左目用画像が切り替わる。画像表示装置3がいわゆる倍速表示を行うものである場合には、表示切り替え周波数は240Hzとなる。この場合には、約4.2ミリ秒間ごとに右目用画像と左目用画像が切り替わる。
【0036】
このとき、液晶シャッター装置1は、駆動装置12が画像表示装置3の表示切り替えタイミングに対応してシャッター素子11a、11bを駆動する。例えば、右目用画像が表示されているフレームでは、利用者の右目に対応付けられたシャッター素子11bには駆動装置12からオン電圧が印加され、利用者の左目に対応付けられたシャッター素子11aには駆動部12からオフ電圧が印加される。それにより、シャッター素子11bは光透過状態となり、シャッター素子11aは遮光状態となるので、利用者は右目でのみ右目用画像を視認できる状態となる。逆に、左目用画像が表示されているフレームでは、利用者の左目に対応付けられたシャッター素子11aには駆動装置12からオン電圧が印加され、利用者の右目に対応付けられたシャッター素子11bには駆動装置12からオフ電圧が印加される。それにより、シャッター素子11aは光透過状態となり、シャッター素子11bは遮光状態となるので、利用者は左目でのみ左目用画像を視認できる状態となる。これらの動作を画像表示装置3による右目用画像と左目用画像の切り替えタイミングに同期して実行することにより、利用者は立体的な表示を視認することができる。
【0037】
次に、液晶シャッター装置1の映像鑑賞時以外の駆動方法について図5に示すフローチャートに沿って説明する。なお、液晶シャッター装置1と画像表示装置3との間は無線通信または有線通信により接続されているとする。
【0038】
画像信号が無出力状態であること、すなわち画像表示が停止したことが表示検出部30によって検出されると(ステップS11)、駆動装置12は、各シャッター素子11a、11bの液晶セル15にオン電圧を供給する(ステップS12)。なお、この時点では各スイッチング素子33a、33bは導通状態にあるものとする。
【0039】
次いで、このオン電圧の供給が保たれた状態で、スイッチング制御部31は、各スイッチング素子33a、33bを切断状態にする(ステップS13)。これにより、液晶セル15は電気的に開放された状態となり、その時点の動作状態(オン状態)が長く保持される。このため、各シャッター素子11a、11bは、しばらくの間、透過率の高い状態(透明状態)に保たれる。透明状態が維持される時間の長さは、主に液晶セル15の電圧保持率に影響を受ける。このため、液晶セル15としては、抵抗値が非常に高い液晶材料を用い、かつ配向膜として電圧保持率がより高く、かつ膜厚のより薄いものを用いることが好ましい。
【0040】
次に、駆動装置12は、液晶セル15へのオン電圧の供給を停止する(ステップS14)。
【0041】
各スイッチング素子33a、33bが切断状態に制御され、液晶セル15への電圧供給が停止してから一定時間(例えば、数分間〜数十分間)が経過したことが時間計測部32によって計測されると(ステップS15)、スイッチング制御部31は、再び各スイッチング素子33a、33bを導通状態に制御する(ステップS16)。
【0042】
以後、上記のステップS12に戻り、以降の動作が繰り返される。それにより、半永久的に各シャッター素子11a、11bを透明状態に保つことができる。しかも、液晶セル15への電極供給は間欠的であるので、消費電力は極めてわずかである。
【0043】
図6は、液晶シャッター装置の制御装置の他の構成例を示すブロック図である。図6に示す制御装置2aは、駆動装置12a、表示検出部30a、スイッチング制御部31aおよび時間計測部33aを有する。本例における表示検出部30a、スイッチング制御部31aおよび時間計測部33aは一体に構成されており、駆動装置12aとは分離されている。各部の機能については上記と同様である。このように駆動装置とそれ以外を分離した構成を採用してもよい。
【0044】
(実施例)
以下に液晶シャッター装置の実施例、特にシャッター素子11a、11bの実施例について説明する。
【0045】
まず、ガラス基板上(板厚0.7mm)に透明電極であるITO(インジウム錫酸化物)を蒸着やスパッタなどの方法により500Å〜1000Å程度の膜厚に成膜し、フォトリソ工程により所望の形状に整形した。このITO膜付きのガラス基板上に蒸着、スパッタもしくはフレキソ印刷にて所定の位置に絶縁膜を形成する。具体的には、シャッター画素部分とメインシール部分に形成し、導通部分と端子部分には形成しない。なお、この絶縁膜は必ずしも必要ではないが、上下基板間のショート防止のためには形成することが望ましい。実施例ではスパッタ法により絶縁膜を形成した。次いで、絶縁膜の上にほぼ同じパターンの垂直配向膜を形成する。これは、シャッター画素部分に形成し、メインシール部分と導通部分と端子部分には形成しない。均一なモノドメイン配向を得る手法としては、例えば特開2005−234254号公報に記載の方法を用いるとよい。実施例では市販のいくつかの配向膜材料を用いて配向膜を形成した。成膜後、160℃〜200℃で30分間〜120分間の焼成を行った。
【0046】
次に、配向処理の一つであるラビング処理を行った。ラビング処理とは布を巻いた円筒状のロールを高速に回転させ、配向膜上を擦る処理であり、これにより液晶分子を一軸に配向させることができる。実施例では、上下基板間の配向状態がアンチパラレル(反平行)状態となるようにラビング処理を行った。ラビング処理のパラメータの1つである押し込み量については、0.3mm〜0.6mm程度とした。なお、この押し込み量の数値は一例である。また、ここでは配向処理の一例としてラビング処理を挙げたが、光配向法、イオンビーム配向法、プラズマビーム配向法、斜め蒸着法などを用いてもよい。
【0047】
次に、上下基板を貼り合わせるためのシール剤を所定のパターンに印刷した。後の液晶材料を注入する工程で真空注入法を用いる場合は注入口を有するパターンとし、ODF法を用いる場合には注入口のない閉じられたパターンとされる。ここでの印刷はスクリーン印刷法を用いたが、ディスペンサなどを用いてもよい。シール剤は熱硬化性のものを用いたが、光硬化性のシール剤や光・熱併用型のシール剤などを用いてもよい。シール剤としては薄いギャップまで押し込むことが可能なタイプの材料が望ましい。このシール剤は粒径2μmのシリカボールを1−3wt%含んでいる。また、導通材として金がコーティングされたプラスチックボールを含むシール剤を所定の位置に印刷してもよい。ここでは前記と同じシール剤に粒径2μmの金コーティングされたプラスチックボールを2wt%含んだものを上下基板の電極間の導通材としてスクリーン印刷を行った。シール剤パターン(および導通材パターン)は片側の基板上のみに形成し、反対側の基板にはギャップコントロール剤を乾式散布法にて散布した。ギャップ剤は2μmのプラスチックボールを用いたが、シリカボールが用いられてもよい。ギャップ剤には液晶分子の配向を乱さないための表面処理が行われており、かつ散布後の熱処理により基板上に固着するような処理が施されているものを用いた。散布量は300〜700個/mm2程度となるようにした。
【0048】
散布後は、基板に熱処理(100℃〜150℃で30分間〜60分間)を行い、ギャップ剤を基板上に固着させた。上下基板を所定の位置で重ね合わせてセル化し、プレスした状態で熱処理によりシール剤を硬化させた。次にスクライバー装置によりガラス基板上に傷をつけ、ブレイキングにより所定の大きさ・形状に分割した。この液晶セルに真空注入法等の方法によりΔε<0の液晶材料を注入し、注入口をエンドシール剤にて封止した。その後、面取りと洗浄を行い、光学補償板付きの偏光板を上下基板のラビング方向に対して略45°となるようにクロスニコル配置にて貼り合わせ(図7参照)、垂直配向型の液晶セルを有するシャッター素子を完成させた。
【0049】
こうして作製したシャッター素子は、その液晶層にΔε<0の液晶材料が満たされており、その層厚は略2μm、Δndは略300nmに設定され、液晶層の層厚方向における略中央の液晶分子の配向方向は視角方向と同じ12時方向(図7参照)に設定されている。液晶セル外の上下にはクロスニコル配置した偏光板が配置され、上側偏光板の透過軸は、12時方向から反時計回りに45°回転させた位置に設定されている。液晶セルと上下偏光板の間にはそれぞれ視角補償板としての負の二軸光学異方性を有する光学フィルムが貼り合わされている。光学フィルムの厚さ方向位相差は略120nmとしている。なお、視角補償板は液晶セルの上面または下面のみに配置されていてもよい。上記では固定した光学フィルムのパラメータを挙げているが、適切な値としてはフィルム厚さ方向の位相差(2枚使用時はその合計)を液晶セルのΔndに対して略0.5〜略1.0倍に設定することが好ましい。また、面内位相差は略30nm〜略65nmに設定することが好ましい。
【0050】
次に、作製したシャッター素子の液晶セルの帯電時間を評価した。人体は静電気を帯びやすく比較的高い帯電状態になりやすいが、帯電電位が1kV以下ではほとんど気づくことがない。ここでは10kVと比較的に高い静電気の場合(布などでメガネを擦ることにより得ることができるレベル)について実験を行った。電気的に開放された状態にある液晶セルに静電気を静電ガンにて印加して実験を行った。静電気に対する液晶層の帯電時間の電圧保持率依存性を図8に示す。図8の横軸は相対的な電圧保持率を示し、数値が大きい方が電圧保持率が高いことを示す。図中における「PI−A」、「PI−B」、「PI−C」は配向膜の材料の違いを表す(以下でも同様)。帯電時間は電圧保持率に大きく依存することがわかる。ここでは液晶層の液晶材料は共通であるので、配向膜の材料に依存することがわかる。電圧保持率の高い条件で作製した液晶セルの場合には、2320秒間(約40分間)、シャッター素子が透明に近い状態に保たれることが確認された。また、別の実験により、5kV程度(接触放電、1秒間、1回)と比較的に低い静電気を与えた場合でも、透明に近い状態が10分間程度保たれることが確認された。また、2.5kVの静電気でも2分間程度透明に近い状態が保たれることが確認された。これらはメガネを軽く擦ったり指で触ったりするだけで得られる静電気の大きさである。すなわち、定期的にシャッター素子の一部を触れることで長期間、透明状態を保持し得ることがわかる。
【0051】
次にシャッター素子を電気的に駆動することにより透明状態を保持する場合について説明する。一例として、1/4デューティ、1/3バイアス駆動、オン電圧15V(スタティック駆動では8.5V程度に相当)の条件でオン電圧を印加後、スイッチング素子を遮断状態とすることにより液晶セルを開放状態として実験を行った。この場合、配向膜のポストベーク温度が高いほど帯電状態、すなわち液晶層が動作した状態が保持される時間が長くなることがわかった(図9、図10参照)。また、配向膜の種類によっても保持時間は異なるが、最も保持時間が短い「PI−D」であっても成膜時の固形分濃度を低くする(すなわち配向膜の膜厚を薄くする)ことによって保持時間を著しく長くすることができることがわかる(図11参照)。具体的には、配向膜の膜厚を50Å〜100Åとすることで保持時間が数十倍以上に改善している。したがって、他の配向膜であればさらに保持時間を長くすることも可能であると考えられる。具体的には、少なくとも2分間以上の保持時間を確保できると考えられる。よって、上記のように非常に低い頻度で液晶セルに電圧を印加し、その後液晶セルを開放状態とすることにより、透明な液晶シャッター装置を実現できることがわかる。なお、配向膜を非常に薄くしても液晶層の配向性にはそれほど影響がないことを確認している。この実施例では特別に液晶材料や配向膜として電圧保持率の高いものを積極的に選定して実験を行っておらず、むしろ静電気の影響を抑えるための材料を選んでいる。したがって、材料を最適化することによりさらに優れた液晶シャッター装置を実現できると考えられる。
【0052】
なお、本発明は上述した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0053】
例えば、上記した実施形態並びに実施例では液晶セルとして、90°より小さいプレティルト角を有する略垂直配向の液晶層を有するものを例示していたが、液晶素子はこれに限定されない。例えば、略90°のプレティルト角を有する垂直配向の液晶層を有し、スリットや突起部などを用いて発生させた斜め電界により配向制御を行う液晶素子が用いられてもよい。
【0054】
また、上記した実施形態並びに実施例ではシャッター素子の外形については特段に言及していなかったが、矩形状、五角形などの多角形や任意の曲線形状など所望の形状を選択することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:液晶シャッター装置
2、2a:制御装置
3:画像表示装置
11a、11b:シャッター素子
12:駆動装置
13:上側偏光板
14:光学補償板
15:液晶セル(液晶素子)
16:光学補償板
17:下側偏光板
21:上側基板
22:上側電極
23:配向膜
24:下側基板
25:下側電極
26:配向膜
27:液晶層
30、30a:表示検出部
31、31a:スイッチング制御部
32、32a:時間計測部
33a、33b:スイッチング素子(電界効果トランジスタ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置であって、
一対のシャッター素子と、
前記画像表示装置による前記右目用画像と前記左目用画像の切り替えに対応して前記一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置、
を含み、
前記一対のシャッター素子のそれぞれは、
各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、
電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子、
を備え、
前記制御装置は、前記画像表示装置による画像表示が停止した場合に、前記液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断する、
液晶シャッター装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記液晶素子の各々に駆動電圧を供給する駆動装置と、
前記液晶素子の各々と前記駆動装置の間に接続されたスイッチング素子と、
前記画像表示装置による画像表示が停止したことを検出する表示検出部と、
前記スイッチング素子を導通状態又は遮断状態に制御するスイッチング制御部と、
を備える、請求項1に記載の液晶シャッター装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記液晶素子との間を電気的に遮断した後に一定時間が経過した場合に前記液晶素子との間を電気的に接続して当該液晶素子に駆動電圧を印加する、
請求項1又は2に記載の液晶シャッター装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記スイッチング制御部により前記スイッチング素子が遮断状態に制御されたことに対応して経過時間を計測する時間計測部、
を更に備える、請求項3に記載の液晶シャッター装置。
【請求項5】
一対のシャッター素子と当該一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置を含み、前記一対のシャッター素子のそれぞれは、各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子を備え、右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置の駆動方法であって、
前記画像表示装置による画像表示が停止した場合に、前記制御装置により前記液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子と当該制御装置との間の電気的接続を遮断する、
液晶シャッター装置の駆動方法。
【請求項1】
右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置であって、
一対のシャッター素子と、
前記画像表示装置による前記右目用画像と前記左目用画像の切り替えに対応して前記一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置、
を含み、
前記一対のシャッター素子のそれぞれは、
各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、
電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子、
を備え、
前記制御装置は、前記画像表示装置による画像表示が停止した場合に、前記液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子との間の電気的接続を遮断する、
液晶シャッター装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記液晶素子の各々に駆動電圧を供給する駆動装置と、
前記液晶素子の各々と前記駆動装置の間に接続されたスイッチング素子と、
前記画像表示装置による画像表示が停止したことを検出する表示検出部と、
前記スイッチング素子を導通状態又は遮断状態に制御するスイッチング制御部と、
を備える、請求項1に記載の液晶シャッター装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記液晶素子との間を電気的に遮断した後に一定時間が経過した場合に前記液晶素子との間を電気的に接続して当該液晶素子に駆動電圧を印加する、
請求項1又は2に記載の液晶シャッター装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記スイッチング制御部により前記スイッチング素子が遮断状態に制御されたことに対応して経過時間を計測する時間計測部、
を更に備える、請求項3に記載の液晶シャッター装置。
【請求項5】
一対のシャッター素子と当該一対のシャッター素子を選択的に動作させる制御装置を含み、前記一対のシャッター素子のそれぞれは、各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、電圧無印加時において垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子を備え、右目用画像と左目用画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる液晶シャッター装置の駆動方法であって、
前記画像表示装置による画像表示が停止した場合に、前記制御装置により前記液晶素子に駆動電圧を印加しながら当該液晶素子と当該制御装置との間の電気的接続を遮断する、
液晶シャッター装置の駆動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−127997(P2012−127997A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276799(P2010−276799)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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