説明

液晶シール剤及びそれを用いた液晶表示セル

【課題】光及び/又は熱によって硬化する液晶シール剤であって、低液晶汚染性に極めて優れる為、液晶表示素子の高精細化、高速応答化、低電圧駆動化、長寿命化を可能とし、さらには保存安定性にも優れる為、作業性が非常に良い液晶滴下工法用液晶シール剤を提案すること。
【解決手段】(A)硬化性樹脂、(B)熱硬化剤を含有する液晶シール剤において、成分(A)中に、(a)一分子中にアクリル基及びメタクリル基をそれぞれ1つ以上有する化合物を含有する液晶シール剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光及び/又は熱によって硬化する液晶シール剤であって、液晶滴下工法に使用される液晶シール剤に関する。より詳細には、低液晶汚染性であり、かつ保存安定性の良い液晶滴下工法用液晶シール剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の液晶表示セルの大型化に伴い、液晶表示セルの製造法として、より量産性の高い、いわゆる液晶滴下工法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。具体的には、一方の基板に形成された液晶シール剤の堰の内側に液晶を滴下した後、もう一方の基板を貼り合わせることにより液晶が封止される液晶表示セルの製造方法である。
【0003】
しかし、液晶滴下工法は、未硬化の状態の液晶シール剤が液晶に接触するため、その際に液晶シール剤の成分が液晶に溶解(溶出)して液晶の抵抗値を低下させ、シール近傍の表示不良を発生させるという問題点がある。
【0004】
この課題を解決する為、現在は液晶滴下工法用の液晶シール剤として光熱併用型のものが用いられ、実用化されている(特許文献3、4)。この液晶シール剤を使用した液晶滴下工法では、基板に挟まれた液晶シール剤に光を照射して一次硬化させた後、加熱して二次硬化させることを特徴とする。この方法によれば、未硬化の液晶シール剤を光によって速やかに硬化でき、液晶シール剤成分の液晶への溶解(溶出)を抑えることが可能である。さらに、光硬化のみでは光硬化時の硬化収縮等による接着強度不足という問題も発生するが、光熱併用型であれば加熱による二次硬化によって応力緩和効果が得られ、そういった問題も解消できるという利点を有する。
【0005】
しかしながら、近年では、液晶表示素子の小型化に伴い、液晶表示素子のアレイ基板のメタル配線部分やカラーフィルター基板のブラックマトリックス部分により液晶シール剤に光が当たらない遮光部が生じ、シール近傍の表示不良の問題が以前よりも深刻なものとなっている。すなわち、遮光部の存在によって上記光による一次硬化が不十分となり、液晶シール剤中に未硬化成分が多量に残存する。この状態で熱による二次硬化工程に進んだ場合、当該未硬化成分の液晶への溶解は、熱によって促進されてしまうという結果をもたらし、シール近傍の表示不良を引き起こす。
【0006】
この課題を解決する為には、硬化性樹脂の反応性を改善し、液晶への溶解前に硬化を進行させる手が非常に有用である。この為、熱反応性を改良する様々な検討がなされている。上記遮光部において、光によって十分に硬化していない液晶シール剤を、低温から速やかに反応させ、液晶汚染を抑えようという試みである。例えば、特許文献5、6では、熱ラジカル開始剤を用いる方法が開示されている。また、特許文献7では、硬化促進剤として多価カルボン酸を用いる方法が開示されている。
【0007】
しかし、これら熱ラジカル開始剤や多価カルボン酸のような硬化促進剤の添加は、それ自体の液晶への溶出がある為、低液晶汚染性を充分に実現できるものとは言いえない。また、これらの成分は、反応速度を速くする効果より、逆に保存安定性を悪くするといったデメリットを内包する。
【0008】
以上述べたように、液晶滴下工法用液晶シール剤の開発は非常に精力的に行われているにもかかわらず、低液晶汚染性を実現しながら、良好な保存安定性をも併せ持つ液晶シール剤は未だ実現していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−179323号公報
【特許文献2】特開平10−239694号公報
【特許文献3】特許第3583326号公報
【特許文献4】特開2004−61925号公報
【特許文献5】特開2004−126211号公報
【特許文献6】特開2009−8754号公報
【特許文献7】国際公開2008/004455号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、光及び/又は熱によって硬化する液晶シール剤に関するものであり、低液晶汚染性に極めて優れる為、液晶表示素子の高精細化、高速応答化、低電圧駆動化、長寿命化を可能とし、さらには保存安定性にも優れる為、作業性が非常に良い液晶滴下工法用液晶シール剤を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、一分子中にアクリル基及びメタクリル基をそれぞれ1つ以上有する化合物を含有する液晶シール剤が上記課題を解決するものであることを発見し、本発明に至ったものである。即ち本発明は、次の(1)〜(14)に関するものである。なお本明細書において、「(メタ)アクリル」と記載した場合には、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を意味するものとする。また同様に、「(メタ)アクリレート」と記載した場合には「アクリレート」及び/又は「メタクリレート」を、「(メタ)アクリロイル」と記載した場合には「アクリロイル」及び/又は「メタクリロイル」を意味するものとする。
【0012】
(1)(A)硬化性樹脂、(B)熱硬化剤を含有する液晶滴下工法用液晶シール剤において、成分(A)中に、(a)一分子中にアクリル基及びメタクリル基をそれぞれ1つ以上有する化合物を含有する液晶滴下工法用液晶シール剤。
(2)上記成分(a)が分子中にさらに水素結合性官能基を有する化合物である上記(1)に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(3)上記水素結合性官能基がヒドロキシ基又はアミド基である上記(2)に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(4)上記成分(a)が、(a−1)グリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応生成物及び/又は(a−2)前記(a−1)とイソシアネート化合物との反応生成物である上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(5)上記イソシアネート化合物がジイソシアネート化合物である上記(4)に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(6)上記イソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネートである上記(4)又は(5)に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(7)上記成分(a)が、上記成分(a−1)と上記成分(a−2)との混合物である上記(1)乃至(6)のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(8)上記成分(A)硬化性樹脂中に上記成分(a)を60質量%以上含有する上記(1)乃至(7)のいずれか一項に記載に液晶滴下工法用液晶シール剤。
(9)液晶シール剤の総質量中における上記成分(A)の含有量が40〜90質量%であることを特徴とする上記(1)乃至(8)のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(10)更に、(C)シランカップリング剤を含有する、上記(1)乃至(9)のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(11)更に、(D)無機フィラーを含有する上記(1)乃至(10)の何れか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(12)更に、(E)熱ラジカル重合開始剤を含有する、上記(1)乃至(11)のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(13)更に、(F)光ラジカル重合開始剤を含有する、上記(1)乃至(12)のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
(14)上記(1)に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤を硬化して得られる硬化物でシールされた液晶表示セル。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶シール剤は、液晶表示特性に与える影響が極めて小さい為、液晶表示素子の高精細化、高速応答化、低電圧駆動化、長寿命化を可能とし、さらに保存安定性に優れる為、液晶表示セルの製造の容易化に貢献するものである。また、接着強度等の硬化物特性に優れる為、信頼性の高い液晶表示素子の製造を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の液晶シール剤は、(A)硬化性樹脂を含有し、かつその硬化性樹脂は、(a)一分子中にアクリル基及びメタクリル基をそれぞれ1つ以上有する化合物を含有する。
この化合物は、アクリル基部分が良好な反応性に寄与し、メタクリル基部分が、保存安定性に寄与する。即ち、アクリル基の反応性の速さから、当該分子が光又は熱によって早期に架橋される為、液晶に溶出するのを抑えることができ、また一方で、メタクリル基を分子内に有する為、硬化反応が速くなり過ぎ、保存安定性を損なうことを抑制できる。また、メタクリル基は、緩やかに架橋を進める為、硬化収縮を抑え、接着強度等の硬化物特性をも向上させる。
【0015】
成分(a)一分子中にアクリル基及びメタクリル基をそれぞれ1つ以上有する化合物としては、例えば、グリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応、グリシジルメタクリレートとヒドロキシ基を有するアクリル樹脂(例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレート等)との反応、メタクリル酸とヒドロキシ基を有するアクリル樹脂とのエステル化反応、メタクリル酸とヒドロキシ基を有するアクリル樹脂(例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート等)とのエステル化反応等によって得ることができる。また、ヒドロキシ基を有するアクリル樹脂とヒドロキシ基を有するメタクリル樹脂、又はヒドロキシ基を有するメタクリル樹脂とヒドロキシ基を有するアクリル樹脂を、イソシアネートを介して、即ちウレタン化反応によって得ることもできる。更には、グリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応物の様に、分子内にヒドロキシ基を有する場合には、更にウレタン結合を介して、当該分子どうしを、または別のアクリル樹脂やメタクリル樹脂と結合させても良い。
【0016】
上記成分(a)としては、分子内に、更に水素結合性官能基を有する化合物であることが好ましい。水素結合性官能基とは、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、チオール基等が挙げられ、更にはヒドロキシ基及び/又はアミド基を有するものが非常に好適である。この観点から、成分(a)としては、上記化合物の例のうち、グリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応物やウレタン結合を有する化合物等が好適に用いられる。
【0017】
更に、成分(a)としては、(a−1)グリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応生成物及び/又は(a−2)上記(a−1)とイソシアネート化合物との反応生成物である場合が特に好ましく、(a−1)成分と(a−2)成分の混合物である場合が最も好ましい態様である。
【0018】
上記イソシアネートとしては、イソシアネート基を有するものであれば特に限定されず、例えば2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−メチルーメタフェニレンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、5−クロロ−2,4−トルレンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメチン−4,4'−ジイソシアネート、4,4'−ジイソシアネート3,3'−ジメチルジフェニルメタン、メタ−キシリレンジイソシアネート、4,4'−メチレン−ビス(フェニルイソシアナート)、トリレン−2,5−ジイソシアネート、1,12−ジイソシアネートドデカン,4,4'メチレンビス(2−クロロフェニルイソシアナート)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリメチル−ヘキサメチレンジイソシアネート、3,3'−ジクロロジフェニル−4,4'−ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,5−ジイソシアネート2−メチルペンタン、1,4−ジイソシアネートブタン、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1−クロロメチル−2,4−ジイソシアネートベンゼン、2,2−ビス(4−イソシアナートフェニル)ヘキサフルオロプロパンメタンジイソシアネート、1,8−ジイソシアネートクタン、オキシビス(4−フェニルイソシアネート)2,4,6−トリメチル−1,3−フェニレンジイソシアネート、2,4'−メチレンビス(フェニレンイソシアナート)を挙げることができる。このうち、ジイソシアネート化合物であるイソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,5−ジイソシアネート等が好ましく、更に好ましくはトリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,5−ジイソシアネートである。これらのイソシアネートは、市販品としては、例えばトリレンジシソシアネート(コロネート:日本ポリウレタン工業株式会社製)等を市場より入手することができる。
【0019】
下記表1〜3に成分(a)の化合物の具体例を示すが、一分子中にアクリル基及びメタクリル基をそれぞれ1つ以上有する化合物である限り、これらに限定されるものではない。
【表1】

【表2】

【表3】

【0020】
成分(a)の含有量の観点からは、上記(A)成分中、(a)成分を60質量%以上含有する場合が好ましく、更に好ましくは70質量%以上である。成分(a)の含有量が少なくなり過ぎると本願発明の効果、即ち反応性による低液晶汚染性の実現と保存安定性の両立という特性が充分に得られなくなる。
【0021】
また、成分(A)中、成分(a)を除いた残部は、成分(a)に該当しないエポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂等、またはこれらの混合物である。これらの硬化性樹脂は、何れも液晶に対する汚染性、溶解性が低いものが好ましく、好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン骨格を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂、その他、二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびそれらのハロゲン化物、水素添加物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
(メタ)アクリル樹脂としては、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸の周知の反応により得ることができるエポキシ(メタ)アクリレートが好適である。また、この場合、エポキシ基の全部を(メタ)アクリル化しても良いし、一部を(メタ)アクリル化しても良い。例えば、エポキシ樹脂に所定の当量比の(メタ)アクリル酸と触媒(例えば、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルスチビン等)と、重合防止剤(例えば、メトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、フェノチアジン、ジブチルヒドロキシトルエン等)を添加して、例えば80〜110℃でエステル化反応を行うことにより得られる。原料となるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、2官能以上のエポキシ樹脂が好ましく、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン骨格を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂、その他、二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびそれらのハロゲン化物、水素添加物などが挙げられる。これらのうち液晶汚染性の観点から、より好ましいものはビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂である。また、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基との比率は限定されるものではなく、工程適合性及び液晶汚染性の観点から適切に選択される。
【0023】
液晶シール剤総量中における成分(A)の含有量は、40〜90質量%が好ましく、更に好ましくは50〜85質量%である。
【0024】
本願発明の液晶シール剤は、成分(B)熱硬化剤を含有する。熱硬化剤としては、特に限定されるものではなく、多価アミン類、多価フェノール類、ヒドラジド化合物等を挙げる事ができるが、多価ヒドラジド化合物が特に好適に用いられる。例えば、芳香族ヒドラジドであるテレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6−ピリジンジヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド等をあげることが出来る。また、脂肪族ヒドラジド化合物であれば、例えば、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、N,N’−ヘキサメチレンビスセミカルバジド、クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン等のヒダントイン骨格、好ましくはバリンヒダントイン骨格(ヒダントイン環の炭素原子がイソプロピル基で置換された骨格)を有するジヒドラジド化合物、トリス(1−ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3−ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレート、ビス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート等をあげることができる。硬化反応性と潜在性のバランスから好ましくは、イソフタル酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、トリス(1−ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3−ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレートであり、特に好ましくはマロン酸ジヒドラジド、トリス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレートである。かかる(B)熱硬化剤の含有量としては、液晶シール剤の総量を100質量%とした場合に、0.5〜5質量%含有する場合が好ましく、更に好ましくは1〜3質量%であり、2種以上を混合して用いても良い。
【0025】
本願発明の液晶シール剤では成分(C)シランカップリング剤を用いて、接着強度向上や耐湿信頼性向上を図ることができる。シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−(2−(ビニルベンジルアミノ)エチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤(c)の液晶シール剤に占める含有量は、本発明の液晶シール剤の総量を100質量%とした場合、0.05〜3質量%が好適である。
【0026】
本発明の液晶シール剤では成分(D)無機フィラーを用いて、接着強度向上や耐湿信頼性向上を図ることができる。この(D)無機フィラーとしては、溶融シリカ、結晶シリカ、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、硝子繊維、炭素繊維、二硫化モリブデン、アスベスト等が挙げられ、好ましくは溶融シリカ、結晶シリカ、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウムであり、更に好ましくは溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、タルクである。これら無機フィラーは2種以上を混合して用いても良い。その平均粒径は、大きすぎると狭ギャップの液晶セル製造時に上下ガラス基板貼り合わせ時のギャップ形成がうまくできない等の不良要因となるため、3μm以下が適当であり、好ましくは2μm以下である。粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS−30)により測定した。
【0027】
本発明の液晶シール剤で使用しうる無機フィラー(D)の液晶シール剤中の含有量は、本発明の液晶シール剤の総量を100質量%とした場合、通常3〜60質量%、好ましくは5〜50質量%である。無機フィラーの含有量が少な過ぎる場合、ガラス基板に対する接着強度が低下し、また耐湿信頼性も劣るために、吸湿後の接着強度の低下も大きくなる場合がある。又、無機フィラーの含有量が多過ぎる場合、フィラー含有量が多すぎるため、つぶれにくく液晶セルのギャップ形成ができなくなってしまう場合がある。
【0028】
本発明の液晶シール剤では成分(E)熱ラジカル重合開始剤を用いて、熱反応性を向上させることもできる。熱ラジカル重合開始剤は、加熱によりラジカルを生じ、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、有機過酸化物、アゾ化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾピナコール等が挙げられ、ベンゾピナコールが好適に用いられる。例えば、有機過酸化物としては、カヤメックA、カヤメックM、カヤメックR、カヤメックL、カヤメックLH、カヤメックSP-30C、パードックスCH−50L、パードックスBC−FF、カドックスB−40ES、パードックス14、トリゴノックス22−70E、トリゴノックス23−C70、トリゴノックス121、トリゴノックス121−50E、トリゴノックス121−LS50E、トリゴノックス21−LS50E、トリゴノックス42、トリゴノックス42LS、カヤエステルP−70、カヤエステルTMPO−70、カヤエステルCND−C70、カヤエステルO、カヤエステO−50E、カヤエステルAN、カヤブチルB、パードックス16、カヤカルボンBIC−75、カヤカルボンAIC−75(化薬アクゾ株式会社製)、パーメックN、パーメックH、パーメックS、パーメックF、パーメックD、パーメックG、パーヘキサH、パーヘキサHC、パーヘキサTMH、パーヘキサC、パーヘキサV、パーヘキサ22、パーヘキサMC、パーキュアーAH、パーキュアーAL、パーキュアーHB、パーブチルH、パーブチルC、パーブチルND、パーブチルL、パークミルH、パークミルD、パーロイルIB、パーロイルIPP、パーオクタND、(日油株式会社製)などが市販品として入手可能である。また、アゾ化合物としては、VA−044、V−070、VPE−0201、VSP−1001等(和光純薬工業株式会社製)等が市販品として入手可能である。また、更には、反応性と液晶への溶解性の観点より、下記式(1)で表される化合物が特に好適に用いられる。
【0029】
【化1】

[式(1)中、Y、Yは各々独立して水素原子、フェニル基、又は珪素原子を表し、R〜Rは各々独立して水素原子又は炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基を示し、X〜Xは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、又はハロゲン原子を示す。但し、Y又はYにそれぞれ結合するR〜R又はR〜RはY又はYが水素原子の場合は存在しない。]
【0030】
上記式(1)において、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、フェニル基または珪素原子を示し、好ましいのは、少なくとも一方が珪素原子の場合である。本発明の式(1)において、R〜Rにおける炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基(以下単にC1〜C4アルキル基ともいう)としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、t−ブチル等を挙げることができる。また、X〜Xにおけるハロゲンとしてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。
式(1)のY又はYが水素原子以外の場合、R−又はR−は、フェニル基又は1〜3個のC1〜C4アルキル基で置換されたフェニル基、又は、ジC1〜C4アルキルシリル基又はトリC1〜C4アルキルシリル基が好ましく、より好ましくは、ジC1〜C4アルキルシリル基又はトリC1〜C4アルキルシリル基であり、更に好ましくはトリC1〜C4アルキルシリル基である。
式(1)のR−、R−におけるジ又はトリC1〜C4の直鎖又は分岐アルキルシリル基において、2個又は3個のC1〜C4アルキル基は同一でも異なってもよく、該シリル基としては例えばジメチルシリル、ジエチルシリル、メチルエチルシリル等のジC1〜C4アルキルシリル基:又は、トリメチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル等のトリC1〜C4アルキルシリル基;が挙げられる。これらの中で、トリC1〜C4アルキルシリル基が最も好ましく、より好ましくはトリメチルシリル基である。
式(1)のX〜Xは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、又はハロゲン原子を表し、好ましいのは、X〜Xが全て水素原子の場合である。
【0031】
式(1)で表される化合物として、具体的には、ベンゾピナコール、1, 2−ジメトキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1, 2−ジエトキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1, 2−ジフェノキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1, 2−ジメトキシ−1,1, 2,2−テトラ(4−メチルフェニル)エタン、1, 2−ジフェノキシ−1,1, 2,2−テトラ(4−メトキシフェニル)エタン、1, 2−ビス(トリメチルシロキシ)−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1, 2−ビス(トリエチルシロキシ)−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1, 2−ビス(t−ブチルジメチルシロキシ)−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1−ヒドロキシ−2−トリメチルシロキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1−ヒドロキシ−2−トリエチルシロキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1−ヒドロキシ−2−t−ブチルジメチルシロキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン等、が挙げられ、好ましくは1−ヒドロキシ−2−トリメチルシロキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1−ヒドロキシ−2−トリエチルシロキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1−ヒドロキシ−2−t−ブチルジメチルシロキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1, 2−ビス(トリメチルシロキシ)−1,1, 2,2−テトラフェニルエタンであり、さらに好ましくは1−ヒドロキシ−2−トリメチルシロキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタン、1, 2−ビス(トリメチルシロキシ)−1,1, 2,2−テトラフェニルエタンである。但し式(1)の構造を有する限り、これらの化合物に限定されるものではない。また2種以上を併用することも可能である。
【0032】
上記熱ラジカル重合開始剤のうち、ベンゾピナコールは東京化成工業(株)、和光純薬工業(株)等から市販されている。ベンゾピナコールのヒドロキシ基をシリルエーテル化することは、対応するベンゾピナコールと各種シリル化剤をピリジンなどの塩基性触媒下で加熱させる方法により合成して得ることができる。シリル化剤としては、一般に知られているトリメチルシリル化剤であるトリメチルクロロシラン(TMCS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)やトリエチルシリル化剤としてトリエチルクロロシラン(TECS)、t−ブチルジメチルシリル化剤としてt−ブチルメチルシラン(TBMS)などが挙げれる。これらの試薬はシリコン誘導体メーカー等の市場から容易に入手することが出来る。シリル化剤の反応量としては対象化合物のヒドロキシ基1モルに対して1.0〜5.0倍モルが好ましい。さらに好ましくは1.5〜3.0倍モルである。1.0倍モルより少ないと反応効率が悪く、反応時間が長くなるため熱分解を促進してしまう。5.0倍モルより多いと回収の際に分離が悪くなったり、精製が困難になってしまう。
【0033】
塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミンなどが挙げられる。塩基性触媒は反応時に発生する塩化水素をトラップし、反応系を塩基性下に保ったり、ヒドロキシ基の水素を引き抜き、より反応を促進させる効果がある。含有量としては対象のヒドロキシ基に対して0.5倍モル以上あればよく、溶媒として用いてもよい。
【0034】
溶媒としてはヘキサン、エーテル、トルエンなどの非極性有機溶媒は反応に関与しないため優れている。またピリジン、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)及びアセトニトリルなどの極性溶媒も好ましい。含有量としては溶質の重量濃度が5〜40%になる程度が好ましい。さらに好ましくは10〜30%が好ましい。5%より少ないと反応が遅く、熱による分解が促進され収率が落ちてしまう。40%より多いと副生成物が多くなり、収率が落ちてしまう。
【0035】
成分(E)熱ラジカル重合開始剤は粒径を細かくし、均一に分散することが好ましい。その平均粒径は、大きすぎると狭ギャップの液晶表示セル製造時に上下ガラス基板を貼り合わせ時のギャップ形成が上手くできない等の不良要因となる為、5μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以下である。また際限なく細かくしても差し支えないが、通常下限は0.1μm程度である。粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS−30)により測定できる。
【0036】
該熱ラジカル重合開始剤の含有量としては、本発明の液晶シール剤の総量を100質量%とした場合、0.0001〜10質量%であることが好ましく、更に好ましくは0.0005〜7質量%であり、0.001〜3質量%が特に好ましい。
【0037】
本発明の液晶シール剤は、光熱併用硬化型の液晶シール剤とする為に、成分(F)光ラジカル重合開始剤を含有しても良い。光ラジカル重合開始剤は、UVや可視光の照射によって、ラジカルを生じ、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジエチルチオキサントン、ベンゾフェノン、2−エチルアンスラキノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−メチル−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノ−1−プロパン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。また、液晶汚染性の観点から、分子内に(メタ)アクリル基を有するものを使用する事が好ましく、例えば2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートと1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2メチル−1−プロパン−1−オンとの反応生成物が好適に用いられる。この化合物は国際公開WO2006/027982号記載の方法にて製造して得ることができる。
【0038】
本発明の液晶シール剤で使用しうる成分(F)光重合開始剤の液晶シール剤中の含有量は、本発明の液晶シール剤の総量を100質量%とした場合、通常0.5〜20質量%、好ましくは1〜15質量%である。
【0039】
本発明の液晶シール剤には、さらに必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステルのモノマー及び/又はオリゴマーを使用しても良い。そのようなモノマー、オリゴマーとしては、例えば、ジペンタエリスリトールと(メタ)アクリル酸の反応物、ジペンタエリスリトール・カプロラクトンと(メタ)アクリル酸の反応物等が挙げられるが、液晶に対する汚染性が低いものならば特に制限されるものではない。
【0040】
本発明の液晶シール剤には、さらに必要に応じて、有機酸やイミダゾール等の硬化促進剤、有機フィラーならびに顔料、レベリング剤、消泡剤、溶剤などの添加剤を配合することができる。
【0041】
本発明の液晶シール剤を得る方法の一例としては、次に示す方法がある。まず、(a)成分に必要に応じて他の硬化性樹脂を混合し(A)成分とし、さらに必要に応じて(F)成分を加熱溶解する。次いで室温まで冷却後、(B)成分を添加し、更に必要に応じ(C)成分、(D)成分、(E)成分、並びに有機フィラー、消泡剤、及びレベリング剤、溶剤等を添加し、公知の混合装置、例えば3本ロール、サンドミル、ボールミル等により均一に混合し、金属メッシュにて濾過することにより本発明の液晶シール剤を製造することができる。
【0042】
本発明の液晶表示セルは、基板に所定の電極を形成した一対の基板を所定の間隔に対向配置し、周囲を本発明の液晶シール剤でシールし、その間隙に液晶が封入されたものである。封入される液晶の種類は特に限定されない。ここで、基板とはガラス、石英、プラスチック、シリコン等からなる少なくとも一方に光透過性がある組み合わせの基板から構成される。その製法としては、本発明の液晶シール剤に、グラスファイバー等のスペーサ(間隙制御材)を添加後、該一対の基板の一方にディスペンサー、またはスクリーン印刷装置等を用いて該液晶シール剤を塗布した後、必要に応じて、80〜120℃で仮硬化を行う。その後、該液晶シール剤の堰の内側に液晶を滴下し、真空中にてもう一方のガラス基板を重ね合わせ、ギャップ出しを行う。ギャップ形成後、90〜130℃で1〜2時間硬化することにより本発明の液晶表示セルを得ることができる。また光熱併用型として使用する場合は、紫外線照射機により液晶シール剤部に紫外線を照射させて光硬化させる。紫外線照射量は、好ましくは500〜6000mJ/cm、より好ましくは1000〜4000mJ/cmの照射量が好ましい。その後必要に応じて、90〜130℃で1〜2時間硬化することにより本発明の液晶表示セルを得ることができる。このようにして得られた本発明の液晶表示セルは、液晶汚染による表示不良が無く、接着性、耐湿信頼性に優れたものである。スペーサとしては、例えばグラスファイバー、シリカビーズ、ポリマービーズ等があげられる。その直径は、目的に応じ異なるが、通常2〜8μm、好ましくは4〜7μmである。その使用量は、本発明の液晶シール剤100質量%に対し通常0.1〜4質量%、好ましくは0.5〜2質量%、更に、好ましくは0.9〜1.5質量%程度である。
【0043】
本発明の液晶シール剤は、反応性が良好であり、光又は熱によって速やかに分子間の架橋がなされる為、構成成分の液晶への溶出も極めて少なく、液晶表示セルの表示不良を低減することが可能である。また、保存安定性にも優れる為、液晶表示セルの製造に適している。更に、その硬化物は接着強度、耐熱性、耐湿性等の各種硬化物特性にも優れる為、本発明の液晶シール剤を用いることにより、信頼性に優れる液晶表示セルを作成することが可能である。また、本発明の液晶シール剤を用いて作成した液晶表示セルは、電圧保持率が高く、イオン密度が低いという液晶表示セルとして必要な特性も充足される。
【実施例】
【0044】
以下合成例、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。尚、特別の記載のない限り、本文中「部」及び「%」とあるのは質量基準である。
【0045】
[合成例1]
グリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応生成物(上記表1中 化合物番号1)の合成
グリシジルメタクリレート(製品名:ブレンマーGH、日油株式会社製)298.2gと重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン0.9gをトルエン450gに溶解し、60℃まで昇温した。その後、エポキシ基の100%当量のアクリル酸151.2gを加え更に80℃まで昇温し、これに反応触媒であるトリメチルアンモニウムクロライド0.85gを添加して、98℃で約30時間攪拌し、反応液を得た。この反応液を水洗し、トルエンを留去することにより、目的とするグリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応生成物438gを得た。
【0046】
[合成例2]
グリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応生成物とイソシアネート化合物との反応生成物(上記表3中化合物番号8及び9の混合物)の合成
合成例1で得られたグリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応生成物200gと重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン0.13gを入れ溶解させた。次に発熱に気をつけながら徐々にトリレンジイソシアネート(製品名:コロネートT−100、日本ポリウレタン工業株式会社製)を64.5g入れ80℃で7時間攪拌し、反応液を得た。この反応液を水洗し、目的とするグリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応生成物とイソシアネート化合物との反応生成物186gを得た。
【0047】
[参考合成例1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシアクリレートの合成
ビスフェノールA型エポキシ樹脂282.5g(製品名:YD−8125、新日鉄化学株式会社製)をトルエン266.8gに溶解し、これに重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン0.8gを加え、60℃まで昇温した。その後、エポキシ基の100%当量のアクリル酸117.5gを加え更に80℃まで昇温し、これに反応触媒であるトリメチルアンモニウムクロライド0.6gを添加して、98℃で約30時間攪拌し、反応液を得た。この反応液を水洗し、トルエンを留去することにより、目的とするビスフェノールA型のエポキシアクリレート395gを得た(KAYARADRTMR−93100)。
【0048】
[参考合成例2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシメタクリレートの合成
ビスフェノールA型エポキシ樹脂282.5g(製品名:YD−8125、新日鉄化学株式会社製)をトルエン266.8gに溶解し、これに重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン0.8gを加え、60℃まで昇温した。その後、エポキシ基の100%当量のメタクリル酸140.4gを加え、更に80℃まで昇温し、これに反応触媒であるトリメチルアンモニウムクロライド0.6gを添加して、98℃で約30時間攪拌し、反応液を得た。この反応液を水洗し、トルエンを留去することにより、目的とするビスフェノールA型のエポキシアクリレート395gを得た(KAYARADRTMRM−93100)。
【0049】
[参考合成例3]
1−ヒドロキシ−2−トリメチルシロキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタンの合成
市販ベンゾピナコール(東京化成製)100部(0.28モル)をジメチルホルムアルデヒド350部に溶解させた。これに塩基触媒としてピリジン32部(0.4モル)、シリル化剤としてBSTFA(信越化学工業製)150部(0.58モル)を加え70℃まで昇温し、2時間攪拌した。得られた反応液を冷却し、攪拌しながら、水200部を入れ、生成物を沈殿させると共に未反応シリル化剤を失活させた。沈殿した生成物をろ別分離した後十分に水洗した。次いで得られた生成物をアセトンに溶解し、水を加えて再結晶させ、精製した。目的の1−ヒドロキシ−2−トリメチルシロキシ−1,1, 2,2−テトラフェニルエタンを105.6部(収率88.3%)得た。
HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析した結果、純度は99.0%(面積百分率)であった。
【0050】
(液晶滴下工法用のシール剤の調製)
[実施例1〜3、比較例1〜3]
下記表4に示す割合で各硬化性樹脂成分(成分(a)及びその他硬化性樹脂)を混合攪拌した後、90℃に加熱した。そこへ、光ラジカル重合開始剤(成分(F))を加熱溶解させた後、室温まで冷却し、シランカップリング剤(成分(C))、無機フィラー(成分(D))、熱硬化剤(成分(B))、熱ラジカル重合開始剤(成分(E))を添加し、攪拌した後、3本ロールミルにて分散させ、金属メッシュ(635メッシュ)で濾過し、液晶滴下工法用シール剤実施例1〜3を調製した。また、同様にして、下記表4に示す割合で比較例1〜3を調製した。
【0051】
(保存安定性試験)
得られた液晶シール剤の25℃における粘度変化を測定した。25℃50RH%の条件下で120時間放置した後の粘度測定を行い、初期粘度に対する粘度増加率(%)を表4に示す。粘度はE型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて測定した。
【0052】
(評価用液晶セルの作成)
透明電極付き基板に配向膜液(PIA−5540−05A;チッソ株式会社製)を塗布、焼成し、ラビング処理を施した。この基板に得られた液晶シール剤を貼り合せ後の線幅が1mmとなるようにメインシールおよびダミーシールをディスペンスし、次いで液晶(JC−5015LA;チッソ株式会社製)の微小滴をシールパターンの枠内に滴下した。更にもう一枚のラビング処理済み基板に面内スペーサ(ナトコスペーサKSEB−525F;ナトコ株式会社製;貼り合せ後のギャップ幅5μm)を散布、熱固着し、貼り合せ装置を用いて真空中で先の液晶滴下済み基板と貼り合せた。大気開放してギャップ形成した後、シールパターン枠内のみマスクをしてUV照射機により3000mJ/cmの紫外線を照射後、オーブンに投入して120℃1時間熱硬化させ評価用液晶テストセルを作成した。
【0053】
作成した評価用液晶セルのシールの耐差込み性およびシール近傍の液晶配向乱れを偏光顕微鏡にて観察し、耐差込み性及びシール近傍の液晶配向について以下に示す基準に従って評価を行った。結果を表4に示す。
【0054】
(シール近傍の液晶配向の評価)
◎:液晶の配向乱れがシールから0.2mm未満である。
○:液晶の配向乱れがシールから0.2mm以上0.4mm未満である。
△:液晶の配向乱れがシールから0.4mm以上0.6mm未満である。
×:液晶の配向乱れがシールから0.6mm以上1.0mm未満である。
××:シールが決壊しセルが形成出来ない。
【0055】
(硬化速度測試験)
得られた液晶シール剤を動的粘弾性率測定装置(Rheosol−G5000、株式会社ユービーエム製)にて複素粘性率を測定した。動的粘弾性率測定装置の設定は、以下のとおりである。コーン:直径20mmのパラレルコーン、周波数:1Hz、歪み角度:3deg.、測定温度30℃から120℃まで18℃/分の速度で昇温させ、その後120℃を維持させた。粘度が10000Pa・sに到達したときの時間を表4に示す。
【0056】
(接着強度テスト)
得られたシール剤1gにスペーサーとして5μmのグラスファイバー0.01gを添加して混合攪拌を行う。このシール剤を50mm×50mmのガラス基板上に塗布し、そのシール剤上に1.5mm×1.5mmのガラス片を貼り合わせ、3000mJ/cmのUV照射により光硬化させた後、120℃オーブンに1時間投入してさらに熱硬化させた。そのガラス片のせん断接着強度をボンドテスター(SS−30WD:西進商事株式会社製)を使用して測定した。その結果を表4に示す。
【表4】

【0057】
表4の結果より、硬化性樹脂のうちアクリル成分がエポキシアクリレートのみで構成されている比較例1は非常に保存安定性に劣る結果を示した。また硬化性樹脂のうちアクリル成分がエポキシメタクリレートのみで構成されている比較例2は、保存安定性は良好であるものの、反応が遅い為、当該樹脂が液晶へ溶出し、液晶の配向不良を引き起こしている。また、硬化性樹脂のうちアクリル成分として、エポキシアクリレートとエポキシメタクリレートを混合した比較例3では、各成分のそれぞれの短所により、保存安定性、液晶の配向不良ともに悪い結果となっている。これに比べ、本願発明の実施例1〜3は保存安定性と低液晶汚染性を両立した液晶シール剤である。さらに、実施例1、2の液晶シール剤は硬化物の接着強度にも非常に優れる。このことから、本願発明は作業性に優れ、またこれを用いた製造された液晶表示セルの信頼性も優れたものであると言える。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の液晶シール剤は、液晶表示特性に与える影響が極めて小さい為、液晶表示素子の高精細化、高速応答化、低電圧駆動化、長寿命化を可能とし、さらに保存安定性に優れる為、液晶表示セルの製造の容易化に貢献するものである。また、接着強度等の硬化物特性に優れる為、信頼性の高い液晶表示素子の製造を実現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)硬化性樹脂、(B)熱硬化剤を含有する液晶滴下工法用液晶シール剤において、成分(A)中に、(a)一分子中にアクリル基及びメタクリル基をそれぞれ1つ以上有する化合物を含有する液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項2】
前記成分(a)が分子中にさらに水素結合性官能基を有する化合物である請求項1に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項3】
前記水素結合性官能基がヒドロキシ基又はアミド基である請求項2に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項4】
前記成分(a)が、(a−1)グリシジルメタクリレートとアクリル酸の反応生成物及び/又は(a−2)前記(a−1)とイソシアネート化合物との反応生成物である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項5】
前記イソシアネート化合物がジイソシアネート化合物である請求項4に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項6】
前記イソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネートである請求項4又は5に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項7】
前記成分(a)が、前記成分(a−1)と前記成分(a−2)との混合物である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項8】
前記成分(A)硬化性樹脂中に前記成分(a)を60質量%以上含有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載に液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項9】
液晶シール剤の総質量中における前記成分(A)の含有量が40〜90質量%であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項10】
更に、(C)シランカップリング剤を含有する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項11】
更に、(D)無機フィラーを含有する請求項1乃至10の何れか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項12】
更に、(E)熱ラジカル重合開始剤を含有する、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項13】
更に、(F)光ラジカル重合開始剤を含有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項14】
請求項1に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤を硬化して得られる硬化物でシールされた液晶表示セル。





【公開番号】特開2013−25177(P2013−25177A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160892(P2011−160892)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】