説明

液晶ディスプレイ

【課題】量子ドットからなる蛍光体を利用した、高効率かつ高精細の液晶ディスプレイの提供。
【解決手段】蛍光体層312には、量子ドットからなる蛍光体が封止されている。LED光源320は光を照射する。LED光源320が照射した光は、蛍光体層312に入射する。このとき、入射した光のスペクトルは、蛍光体により変更される。スペクトルが変更された光の一部は、液晶パネル210の表示面から放射される。その結果、液晶パネル210には高精細の映像が表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットからなる蛍光体を利用した、高効率かつ高精細の液晶ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、表示のために液晶組成物が使用された表示装置である。液晶ディスプレイは、多様な機器における表示装置、特に、情報表示装置、及び画像表示装置として利用されている。
【0003】
液晶ディスプレイは、電圧の印加に基づき、領域ごとに光を透過・遮断することで映像を表示する。従って、液晶ディスプレイに映像が表示されるためには、外部の光が必要となる。そのための光源として、液晶ディスプレイの背面に設けられたバックライトが利用される。バックライトには従来より冷陰極管が使用されている。最近では長寿命、発色の良さ等の理由から、冷陰極管に代わって、LED(発光ダイオード)が使用されることもある。
【0004】
ところで、近年国外のベンチャー企業を中心として、量子ドットを用いたナノサイズの蛍光体が製品化されている。
【0005】
量子ドットとは、電子を微小な空間に閉じ込めるために形成された、数十nm以下の導電性結晶である。量子ドットに閉じ込められた電子は離散的な波長の定在波としてしか存在できない。そのため、電子が取り得るエネルギーは離散的になる。
【0006】
量子ドットが光子を放出・吸収することにより、電子のエネルギー準位は変化する。また、量子ドットの結晶の大きさにより、量子ドットが放出・吸収する光子のエネルギーは変化する(量子サイズ効果)。従って、多様な蛍光色の量子ドットが製造されうる。量子ドットからなる蛍光体は、例えば、バイオテクノロジーにおける蛍光マーカーとして利用されている。
【0007】
このような、量子ドットの合成方法として、例えば、加熱帯域に配置されたリアクター内部で粒子形成用前駆体含有溶液を連続的に供給しながら、反応開始温度まで急熱し、反応を行わせたのち、急冷する方法が知られている。(例えば特許文献1,特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−225900号公報
【特許文献2】再表2005/023704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バックライト用のものをはじめ、照明用LEDの殆どは青色LEDに蛍光体を被せて蛍光させ、その蛍光を発光色としている。
【0010】
従来より、酸化物を主成分とした数〜数十μmのドープ型発光粒子が蛍光体として利用されている。、この蛍光体の粒子径は光の波長よりも長いので、粒子表面での光の散乱が起こりやすく、エネルギーの損失が発生するという問題がある。また、光波長変換に寄与する部分が蛍光体表面のみであり、蛍光体の体積に対して光変換が非効率的であるという問題もある。また、ドープ型発光粒子はドーパント(発色イオン,原子)の種類によって、発光波長、発光強度、及び温度依存性がほぼ固定されてしまうという問題がある。また、実用的な発光強度を得られる材料の種類が限定されているという問題がある。
【0011】
また、励起波長と蛍光波長とが1対1に対応しているため、1励起波長において使用可能な蛍光体が限定され、色調の自由度が低いという問題がある。例えば、青色LEDと黄色に蛍光する蛍光体との組み合わせによる擬似白色LEDが公知であり、擬似白色LEDが照射する光は、肉眼では白色と認識される。しかし、実際には青と黄色との二つの波長の光しか含まれないため、擬似白色LEDの光は演色性が低い。
【0012】
前述されたように、従来の蛍光体は光学材料として多くの問題がある。その結果、従来の蛍光体が液晶ディスプレイに対して次のような問題を惹起している。
【0013】
蛍光体における励起光と蛍光との変換効率、及び蛍光の取り出しの効率が悪いため、エネルギーの損失が大きくなる。また、液晶ディスプレイのカラーフィルタの分光特性と、蛍光の波長とが一致せず、更なるエネルギーの損失が発生する。従って、液晶ディスプレイの消費電力は大きくなる。
【0014】
また、蛍光の色調の自由度が低いため、液晶ディスプレイに表示される映像の演出にも制限がある。一方、色調を増加させるために複数色のLEDが搭載されると、液晶ディスプレイの構造は複雑になり、液晶ディスプレイの大型化を招く。
【0015】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、量子ドットからなる蛍光体を利用した、高効率かつ高精細の液晶ディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1) 本発明に係る液晶ディスプレイは、カラーフィルタを備えた液晶パネルと、LEDを光源とし、上記液晶パネルの裏面側から上記液晶パネルに光を照射するバックライトと、上記バックライトが照射する光の進路上に設けられ、量子ドットからなる蛍光体を内部に含んだ蛍光体層と、を備える。
【0017】
ここで、本発明における液晶ディスプレイには、映像信号を入力する端子を備えた独立した表示装置の他、電子機器等に組み込まれて当該電子機器の表示画面として機能するものが含まれる。
【0018】
また、本発明におけるカラーフィルタとは、上記液晶パネルにカラー映像を表示させるために上記液晶パネルの一部として積層されるものである。上記カラーフィルタは、異なる波長の光を透過させる複数種類の領域が平面上に配列されたものである。
【0019】
また、本発明における量子ドットからなる蛍光体とは、最大粒子径が50nm以下の微粒子であり、特定の波長の光子を吸収して、異なる波長の光子を放出するものである。
【0020】
また、本発明における蛍光体層とは、上記蛍光体が光の少なくとも一部を透過する封止剤により封止された層である。上記蛍光体層の膜厚は、10μm以下である。
【0021】
上記バックライトから照射された光は、上記蛍光体層に入射する。上記蛍光体層に入射した光は、上記蛍光体内部の電子を励起させる。電子が基底状態に戻る際、上記蛍光体は、その蛍光体固有の波長の光を放出する。この現象は蛍光と呼ばれる。従って、上記蛍光体層を透過した光の波長は変更される。上記蛍光体層を透過した光の一部は、上記液晶ディスプレイの表示面から放射される。それにより、上記液晶ディスプレイには映像が表示される。
【0022】
量子ドットが使用されることで、1励起波長に於いて多様な蛍光色の蛍光体が製造されうる。上記蛍光体層が含む蛍光体のバランスにより、上記蛍光体層から透過する光のスペクトルは変化する。従って、上記液晶ディスプレイの色調は容易に調整される。
【0023】
上記蛍光体層から透過する光のスペクトルは調整されるため、光の波長を上記カラーフィルタの分光特性と一致させることが可能である。それにより、上記液晶ディスプレイは高精細となる。同時に、カラーフィルタにおけるエネルギー損失は少なくなり、上記液晶ディスプレイのエネルギー効率は高くなる。
【0024】
量子ドットからなる蛍光体の最大粒子径が50nm以下であるため、粒子表面での光の散乱が少なくなる。また、上記蛍光体層は、単位体積当たりに多くの蛍光体を含むことができる。上記蛍光体の濃度が最適な値に調整されることで、上記蛍光体層における変換効率は高くなり、上記液晶ディスプレイのエネルギー効率はさらに高くなる。また、上記蛍光体層は10μm以下の薄膜として実現されるため、上記液晶ディスプレイの構造の自由度が高まる。
【0025】
(2) 本発明に係る液晶ディスプレイは、蛍光の波長が相互に異なる複数の上記蛍光体層が、上記バックライトに積層されたものであってもよい。
【0026】
上記蛍光体層が上記バックライトに積層されることで、上記バックライトは一色のLEDを光源として、複数の波長の光を出力することができる。従って、薄型で演色性の高い上記バックライトが実現される。
【0027】
(3) 本発明に係る液晶ディスプレイは、蛍光の波長が相互に異なる複数の上記蛍光体層が、上記液晶パネルに積層されたものであってもよい。
【0028】
上記蛍光体層が液晶パネルに積層されることで、上記液晶パネルは、一色のLEDを光源とするバックライトにより、高精細な映像の表示を行うことができる。
【0029】
(4) 本発明に係る液晶ディスプレイに於いて、上記蛍光体層は、蛍光色が相互に異なる複数の上記蛍光体を内部に含んだものであってもよい。
【0030】
例えば、上記蛍光体層は、蛍光色が相互に異なる2種類の上記蛍光体を内部に含んだものである。上記蛍光体には、蛍光色がそれぞれ赤色,緑色の上記蛍光体が選択される。青色LEDがバックライトとして照射されると、上記蛍光体層を透過した光は、赤色,緑色にそれぞれピークを持つスペクトルとなる。青色は、青色LEDからの光の一部が上記蛍光体層をそのまま透過することで作り出される。これにより、3色の光が効率的に作り出される。
【0031】
(5) 本発明に係る液晶ディスプレイは、量子ドットからなる蛍光体を内部に含んだ複数の蛍光体層によって被膜された蛍光フィルタを備えた液晶パネルと、LEDを光源とし、上記液晶パネルの裏面側から上記液晶パネルに光を照射するバックライトと、を備えたものであってもよい。
【0032】
ここで、本発明における蛍光フィルタとは、従来の液晶パネルのカラーフィルタに代わって使用可能なものである。また、蛍光フィルタとは、従来のカラーフィルタにおける着色剤の代わりに、上記蛍光体が使用されたものである。
【0033】
従来のカラーフィルタでは、光の約70%が失われて主に熱となっていた。即ち、入射した光のうちの約30%のみが液晶ディスプレイの輝度に寄与していた。また、従来の液晶ディスプレイでは、蛍光による光をさらにカラーフィルタに通していたため、多重のエネルギー損失が発生していた。液晶ディスプレイに蛍光フィルタが使用されることで、カラーフィルタは不要となる。それにより、上記液晶ディスプレイのエネルギー効率はさらに高くなる。
【0034】
(6) 本発明に係る液晶ディスプレイにおいて、上記蛍光フィルタは、上記液晶パネルのサブ画素に対応して、第1の領域、第2の領域、及び第3の領域の何れかに区画されており、上記第1の領域及び上記第2の領域では、光の少なくとも一部を透過する透過層が、互いに異なる蛍光色の上記蛍光体を含んだ上記蛍光体層によって被膜され、上記第3の領域では、上記透過層が、上記蛍光体層によって被膜されていないものであってもよい。
【0035】
ここで、本発明におけるサブ画素とは、上記液晶パネルにおけるRGBや、高精細化や高演色のためのその他の色のいずれかに対応する領域であり、上記液晶パネルの画素を構成するものである。
【0036】
例えば、上記第1の領域は、蛍光色が赤色である上記蛍光体を含んだ上記蛍光体層によって被膜されものである。また、上記第2の領域は、蛍光色が緑色である上記蛍光体を含んだ上記蛍光体層によって被膜されたものである。上記LEDが青色LEDであるとすると、上記第1の領域、上記第2の領域、及び上記第3の領域からは、それぞれ、赤色、緑色、青色の光が出力される。従って、一色のLEDのみを光源として、高精細な液晶ディスプレイが実現される。
【0037】
(7) 本発明に係る液晶ディスプレイに於いて、上記LEDは、青色LED,紫色LED,又は当該青色LED及び紫色LEDよりも照射する光の波長が短いLEDであってもよい。
【発明の効果】
【0038】
以上のような構成が採用されることにより、高効率かつ高精細の液晶ディスプレイが実現される。このような液晶ディスプレイは、一色のLEDのみを光源とすることができるため、構造の自由度が高く、薄型である。また、蛍光体のバランスにより、色調が自由に調整される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る液晶ディスプレイ100の外観を示した斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る液晶ディスプレイ100の構成を示した機能ブロック図である。
【図3】図3は、バックライト220の外観を示す斜視図である。
【図4】図4は、導光板310の積層構造を示す概略図である。
【図5】図5は、液晶パネル210の積層構造を示す概略図である。
【図6】図6は、本実施形態の変形例1に係る液晶パネル510の積層構造を示す概略図である。
【図7】図7は、本実施形態の変形例2に係る液晶パネル610の積層構造を示す概略図である。
【図8】図8は、本実施形態の変形例2に係る蛍光フィルタ620を正面から見た拡大図である。
【図9】図9は、本実施形態の変形例2に係る蛍光フィルタ620の積層構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、適宜図面が参照されて、本発明の好ましい実施形態が説明される。なお、以下に説明される実施形態は、本発明の一例に過ぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態が適宜変更できることは言うまでもない。
【0041】
[液晶ディスプレイ100]
【0042】
図1は、本実施形態に係る液晶ディスプレイ100の外観を示した斜視図である。本体110はスタンド120により支持されている。本体110の中央には、表示画面130が設けられている。本体110の右下には、操作ボタン140A,操作ボタン140B,操作ボタン140C,及び電源ボタン150が設けられている。本体110の裏側には、電源端子160及び映像端子170が設けられている。
【0043】
図2は、本実施形態に係る液晶ディスプレイ100の構成を示した機能ブロック図である。液晶パネル210及びバックライト220は、制御部230と電気的に接続されている。また、制御部230は、本体110の外側に設けられた操作ボタン140A,操作ボタン140B,操作ボタン140C,電源ボタン150,電源端子160及び映像端子170とも電気的に接続されている。制御部230は、映像端子170から入力された映像信号に基づき、液晶パネル210及びバックライト220を制御する。ここで、液晶パネル210の表示面が液晶ディスプレイ100の外側から確認されたものが、前述の表示画面130である。各構成要素について、詳細な説明が後述される。
【0044】
[制御部230]
【0045】
制御部230は、制御回路,ROM,及びバスから構成される。制御部230は、バスを通じて液晶パネル210及びバックライト220と電気的に接続されている。制御部230は、映像端子170から入力された映像信号に基づき、液晶パネル210を制御し、液晶パネル210に映像を表示させる。その時、液晶パネル210及びバックライト220には、電源端子160から入力された電力の一部が制御部230より供給される。
【0046】
制御部230に入力される映像信号の形式や入力端子の形状は、当業者により最適なものが選択される。例えば、信号の形式には、アナログRGB信号やデジタルRGB信号等が採用されても良い。また、制御部230は、HDCPにより暗号化された信号に対応するものであってもよい。制御部230に入力された映像信号は、制御回路及びROMに記憶された各種プログラムに基づき整形・処理されて、液晶パネル210に出力される。
【0047】
また、ROMには、操作者が表示に必要な設定を行うためのプログラムが記憶されている。操作ボタン140Aが押下されると、設定メニューが表示画面130に表示される。設定メニューに表示される項目としては、例えば、映像の表示位置,映像の縦幅・横幅,画面の明るさ,及びコントラスト等が挙げられる。
【0048】
設定メニューが表示された際、設定メニューの一番上の項目の左横にカーソルが表示されている。操作者は、操作ボタン140B,操作ボタン140Cを押下することでカーソルを別の項目に移動させ、操作ボタン140Aの押下によりその項目を選択する。例えば画面の明るさを設定する項目が選択された場合、操作者は、操作ボタン140B,操作ボタン140Cを押下することで、バックライト220が照射する光の強度を一時的に変化させることができる。それにより表示画面130の明るさが変化する。操作者は、操作ボタン140Aの押下により、その明るさを決定することができる。決定された明るさに基づき、制御部230は、ROMに設定値を記憶する。制御部230は、ROMに記憶された設定値に基づきバックライト220が照射する光の強度を制御する。その他の設定項目についても同様の設定値がROMに記憶されうる。
【0049】
操作者は、電源ボタン150を押下することで、制御部230に入力される電力の大部分を遮断し、液晶ディスプレイ100を休止状態とすることができる。また操作者は、再度電源ボタン150を押下することで、液晶ディスプレイ100を稼働状態とすることができる。
【0050】
[バックライト220]
【0051】
本体110の内部に於いて、バックライト220は、液晶パネル210の背面に設けられている。バックライト220は、制御部230の制御に基づき液晶パネル210に光を照射するものである。
【0052】
図3は、バックライト220の外観を示す斜視図である。バックライト220は、導光板310とLED光源320とにより構成される。LED光源320は、導光板310の側面に当接されている。LED光源320の内部には、図には示されない発光色が青色のLED素子が複数個設けられている。このLED素子が制御部230と電気的に接続されている。このLED素子は、紫LED、又はさらに低波長のLEDであってもよい。LED光源320は、導光板310の側面に向かって光を照射する。照射された光は、導光板310に入射する。
【0053】
図4は、導光板310の積層構造を示す概略図である。半透明のアクリル板314の上には、光の一部を透過する拡散板311が積層されている。拡散板311には、光を拡散するための拡散ドット315が複数個形成されている。さらに拡散板311の上面には、蛍光体層312が積層されている。また、アクリル板314の下には光を反射するための反射板313が積層されている。
【0054】
蛍光体層312は、樹脂等からなる数μmの薄膜である。樹脂には、例えば感光性樹脂が使用される。樹脂の内部には量子ドットからなる2種類の蛍光体(以下、ナノ蛍光体とする。)が混合された状態で封止されている。あるいは、蛍光体層312は、1種類のナノ蛍光体のみが封止された蛍光体層が2層積層されたものであってもよい。2種類のナノ蛍光体は、励起波長が同一のものが選択される。励起波長は、LED光源320が照射する光の波長に基づいて選択される。励起波長は、例えば362nmである。2種類のナノ蛍光体の蛍光色は相互に異なる。各蛍光色は、赤色、緑色である。各蛍光の波長、及びLED光源320が照射する光の波長は、カラーフィルタ430の分光特性に基づき選択される。カラーフィルタ430については後述される。蛍光のピーク波長は、例えば赤色が610nm、緑色が530nmである。
【0055】
ナノ蛍光体の粒子構造が説明される。ナノ蛍光体は、発光部としてのコアが保護膜としてのシェルにより被膜されたものである。例えば、コアにはCdSe、シェルにはZnSが使用可能である。CdSeの粒子の表面欠陥がバンドギャップの大きいZnSにより被膜されることで量子収率が向上する。また、ナノ蛍光体は、コアが第1シェル及び第2シェルにより二重に被膜されたものであってもよい。コアにはCdSe、第1シェルにはZnSe、第2シェルにはZnSが使用可能である。CdSeとZnSとの界面に、両者の中間的な格子定数を持つZnSe層がエピタキシャル的に挟み込まれている。CdSeとZnSの間の格子のミスマッチによる歪みが、亜鉛とセレンを原料としたZnSにより緩和される。それにより、ナノ蛍光体の物性が向上する。
【0056】
上述された被膜型のナノ蛍光体は、例えば特許文献2の実施例記載の方法により製造される。例えば、CdSe/ZnS構造のナノ蛍光体は以下の方法で得ることができる。まず、5mlのオクタデセンに、165μlのオクチルアミン及び26.6mgの酢酸カドミウムを添加した溶液と、25mlのトリオクチルホスフィン(TOP)に494μlのセレンを溶解させた溶液とを1:1で混合する。混合溶液をシリンジポンプに充填して275℃に加熱したマイクロ流路を通過させる。これにより、核微粒子としてのCdSe微粒子溶液(平均粒径が3nm)が得られる。
【0057】
続けて、[(CH3)2NCSS]2ZnをTOPに溶解させた溶液をシリンジポンプに充填し、得られたCdSe微粒子溶液に対して1:1(50vol%:50vol%)となるように混合器で混合し、その混合溶液を、予め180℃に加熱された内径0.2mmのマイクロ流路を通過させる。流路内でCdSeがZnSに被膜され、CdSe/ZnS構造のナノ蛍光体が得られる。このようなマイクロリアクターを用いた製造方法により、高性能のナノ蛍光体が連続的に得られる。得られたナノ蛍光体が、精製され、濃度調整され、揮発性の溶媒に分散されることでナノ蛍光体溶液となる。
【0058】
蛍光体層312は、例えば、以下の手順でアクリル板314に積層される。ナノ蛍光体溶液は、感光性樹脂と混合される。溶液中には、例えばこの場合、10wt%のナノ蛍光体が含まれている。これが感光性樹脂と混合され、この混合液から溶液の揮発性の溶媒が揮発される。続けて、混合液は拡散板311に塗布される。感光性樹脂が紫外線によりUV硬化されることで、蛍光体層312が形成される。また、感光性樹脂は、UV硬化の後に熱硬化されても良い。その結果、アクリル板314上には約10μmの蛍光体層312が形成される。この蛍光体層312には、10wt%のナノ蛍光体、つまり1cm当たり、約1015個のナノ蛍光体が含まれる。ここで使用される樹脂中の蛍光体の量は、ディスプレイの特性に応じて、0.01wt%から50wt %程度までの間で自由に調整されてもよい。また、感光性性樹脂以外にも熱硬化性や化学硬化性の樹脂等が同様に使用されうる。
【0059】
[液晶パネル210]
【0060】
図5は液晶パネル210の積層構造を示す概略図である。液晶パネル210は、TN型と呼ばれるものである。液晶450は、配光膜440,460により液晶分子が捻れた状態で挟み込まれている。図には示されないが、配光膜440,460には液晶450に電圧を印加可能な透明電極が接続され、透明電極は、その電圧を各サブ画素ごとに制御可能であるように制御部230と接続されている。配光膜440の外側には、カラーフィルタ430が設けられている。カラーフィルタ430は、各サブ画素に対応した微細な領域に区画されている。各領域には、赤色,緑色,青色のうちの何れかの光のみを透過可能であるように、着色剤が塗布されている。カラーフィルタ430上にはこの3種類の領域が規則的に配列されている。各領域は、光を透過しないブラックマトリックスにより仕切られている。相互に異なる色に着色された隣接する3つの領域が、液晶パネル210上で1画素を構成するものである。カラーフィルタ430,配光膜460の外側には、偏光フィルム(横)420,偏光フィルム(縦)470が積層されている。これらは偏光子と呼ばれ、透過する光の一方向の偏光を吸収し、一方向にそろった直線偏光を透過させるものである。偏光フィルム(横)420と偏光フィルム(縦)470とは、その偏光方向が垂直に交わるように配置されている。さらに全ての層の外側には、これらの層を保護し、光を透過可能なガラス層410,480が設けられている。ここで、配光膜440及び表示面側の透明電極は、カラーフィルタ430上に一体形成されたものであっても良い。また、配光膜460及び裏面側の透明電極は、基板上に一体形成されたものであっても良い。
【0061】
続けて、液晶パネル210に映像が表示される際の、液晶ディスプレイ100の動作が解説される。映像信号は、映像端子170より制御部230に入力される。制御部は映像信号に適切な処理を行い、液晶パネル210の各透明電極の電圧を制御する。透明電極に電圧が印可されると、液晶分子が直立して捻れが取れた状態となる。印可される電圧は階調化されており、映像信号に基づき変化する。電圧が変化するタイミングは、制御部230が生成するクロック信号に基づき決定される。
【0062】
LED光源320から照射された光は、導光板310の側面から導光板310に入射する。導光板310に入射した光は、拡散板311と反射板313との間で反射を繰り返しながら、図3中の左側に伝搬される。その際、一部の光は拡散板311を透過する。拡散板311には、拡散ドット315が形成されているため、拡散板311を透過する光は拡散されて、蛍光体層312に入射する。 蛍光体層312に入射した光は、ナノ蛍光体内部の電子を励起させ、電子が基底状態に戻ることでナノ蛍光体は発光する。2種類のナノ蛍光体の分量はそれぞれ調整されており、青色LEDからの光の一部は上記蛍光体層をそのまま透過するため、蛍光体層312を透過する光は、赤色,緑色,青色の各ピークがほぼ均等なスペクトルとなる。
【0063】
バックライト220より照射された光の一部は、液晶パネル210に入射する。入射した光は偏光フィルム(縦)470により、直線偏光となる。液晶450に電圧が印加されていないサブ画素において、光は液晶分子の捻れに沿って90度捻れるので、その偏光方向は90度変化する。続けて、光はカラーフィルタ430に入射する。カラーフィルタ430は、そのサブ画素に応じた波長の光のみを透過させる。偏光フィルム(縦)470と偏光フィルム(横)420とは、その偏光方向が垂直に交わるように配置されているため、偏光方向が変化された光は偏光フィルム(横)420を透過することができる。
【0064】
一方、液晶450に最大値の電圧が印加されたサブ画素においては、液晶分子が直立して捻れが取れた状態となっている。その場合、偏光フィルム(縦)470により直線偏光となった光は、そのまま直進するため、偏光フィルム(横)420により遮断される。透明電極に印可される電圧値に応じて液晶分子の捻れの状態は異なる。それに伴って、光の透過率が変化する。サブ画素ごとに光の透過率が異なり、光の透過率が経時的に変化する事で、液晶パネル210には映像が表示される。
【0065】
[本実施形態の効果]
【0066】
蛍光体層312が含むナノ蛍光体のバランスにより、蛍光体層312から透過する光のスペクトルは変化する。従って、液晶ディスプレイ100の色調は容易に調整されうる。
【0067】
蛍光体層312から透過する光のスペクトルは調整されうるため、光の波長をカラーフィルタ430の分光特性と一致させることが可能である。それにより、液晶ディスプレイ100は高精細となる。同時に、カラーフィルタ430におけるエネルギー損失は少なくなり、液晶ディスプレイ100のエネルギー効率は高くなる。
【0068】
ナノ蛍光体の粒子系は50nm以下であるため、粒子表面での光の散乱が少なくなる。また、ナノ蛍光体の粒子系が小さいため、蛍光体層312は、単位体積当たりに多くのナノ蛍光体を含むことができる。ナノ蛍光体の濃度が最適な値に調整されることで、蛍光体層312における変換効率は高くなり、液晶ディスプレイ100のエネルギー効率はさらに高くなる。また、蛍光体層312は数μmの薄膜として実現されるため、液晶ディスプレイ100の構造の自由度が高まる。
【0069】
蛍光体層312が上記バックライト220に積層されることで、バックライト220は一色のLEDを光源として、複数の波長の光を出力することができる。従って、薄型で演色性の高いバックライト220が実現される。
【0070】
[変形例1]
【0071】
続けて、上述の実施形態の変形例1が解説される。図6は、液晶パネル510の積層構造を示す概略図である。変形例1において、蛍光体層312は、液晶パネル510のガラス層480の内側に積層されている。一方、バックライト520には、蛍光体層312が積層されていない。液晶パネル510及びバックライト520のその他の構成は前述された実施形態と同様である。
【0072】
変形例1において、蛍光体層312は液晶パネル510に積層されている。従って、バックライト520からは、LEDによる青色の光がそのまま照射される。光のスペクトルは、光が液晶パネル510の蛍光体層312を透過する時に変更される。
【0073】
蛍光体層312が液晶パネル510に積層されているため、液晶パネル510は、一色のLEDを光源とするバックライト520により、高精細な映像の表示を行うことができる。
【0074】
[変形例2]
【0075】
続けて、上述の実施形態の変形例2が解説される。変形例2において、液晶パネル610には、前述のカラーフィルタ430に代わって、蛍光フィルタ620が使用される。蛍光フィルタ620には、カラーフィルタ430の着色剤の代わりに、ナノ蛍光体が使用されている。
【0076】
図7は、液晶パネル610の積層構造を示す概略図である。液晶パネル610には、カラーフィルタ430に代わって、蛍光フィルタ620が積層されている。液晶パネル610のその他の構成は前述された実施形態と同様である。また、バックライト520は、前述の変形例1と同じものである。
【0077】
[蛍光フィルタ620]
【0078】
図8は、蛍光フィルタ620を正面から見た拡大図である。蛍光フィルタ620には、R領域621,G領域622,B領域623が規則的に配列されている。各領域は、光を透過しないブラックマトリックス624により区画されている。隣接するR領域621,G領域622,B領域623の1セットが、液晶パネル610上で1画素を構成する。ここで、R領域621,G領域622,B領域623が、それぞれ本発明における第1の領域,第2の領域,第3の領域に相当するものである。
【0079】
図9は、蛍光フィルタ620の積層構造を示す概略図である。半透明のガラス板710上には、蛍光体層(赤)720及び蛍光体層(緑)730が積層されている。蛍光体層(赤)720及び蛍光体層(緑)730は、ブラックマトリックス624により仕切られている。ブラックマトリックス624は、例えば低反射クロムにより形成される。ここで、蛍光体層(赤)720,蛍光体層(緑)730を正面から観察したものが、それぞれ、前述のR領域621,G領域622である。また、ガラス基板710上の皮膜されていない領域が、前述のB領域623である。また、ガラス基板710が、本発明における透過層に相当するものである。
【0080】
蛍光体層(赤)720及び蛍光体層(緑)730は、それぞれ樹脂等からなる数μmの薄膜である。樹脂の内部にはナノ蛍光体が封止されている。蛍光体層(赤)720には、蛍光色が赤色のナノ蛍光体が封止されている。また、蛍光体層(緑)730には、蛍光色が緑色のナノ蛍光体が封止されている。
【0081】
蛍光体層(赤)720及び蛍光体層(緑)730の形成には、従来のカラーフィルタと同様の製造方法が使用される。上述の樹脂としては例えば感光性樹脂が使用される。ナノ蛍光体を含んだ溶液は、感光性樹脂と混合される。配合の比率は、上述の実施形態と同様である。混合液は、ブラックマトリックス624が形成されたガラス板710上に塗布される。感光性樹脂がフォトマスクを介してパターン露光されることで、感光性樹脂はUV硬化する。続けて、現像液により、感光性樹脂の不要な部分は除去され、ポストベークにて熱硬化される。以上の工程が蛍光体層(赤)720及び蛍光体層(緑)730に対して施行され、蛍光フィルタ620が製造される。生成される各蛍光体層の膜厚は、約10μmである。各蛍光体層には、1cm 当たり、約1015個のナノ蛍光体が含まれる。また、配光膜440及び表示面側の透明電極は、蛍光フィルタ620上に重ねて形成される事もできる。ここで使用される樹脂中の蛍光体の量や膜厚はディスプレイの特性に応じて自在に調整されてもよい。また、感光性樹脂以外にも熱硬化性や化学硬化性喉が同様に使用されうる。
【0082】
バックライト520から照射された光の一部は、蛍光フィルタ620に入射する。R領域621に入射した光は、ナノ蛍光体により赤色の光となり、蛍光フィルタ620を透過する。G領域622に入射した光は、ナノ蛍光体により緑色の光となり、蛍光フィルタ620を透過する。B領域623には蛍光体が含まれないため、G領域622に入射した光は、そのまま透過する。従って、R領域621,G領域622,B領域623からは、それぞれ、赤色,緑色,青色の光が放射される。各領域は液晶パネル610のサブ画素に対応しているため、液晶パネル610にはカラー映像が表示される。
【0083】
蛍光フィルタ620は、特定の波長の光をカットするものではなく、波長の変換を行うものである。蛍光フィルタ620が搭載された液晶ディスプレイは、蛍光をカラーフィルタによってカットする従来式の液晶ディスプレイよりもエネルギー効率が高く、高精細である。
【符号の説明】
【0084】
100・・・液晶ディスプレイ
210・・・液晶パネル
220・・・バックライト
312・・・蛍光体層
320・・・LED光源(LED,青色LED)
430・・・カラーフィルタ
510・・・液晶パネル
520・・・バックライト
610・・・液晶パネル
620・・・蛍光フィルタ
621・・・R領域(第1の領域)
622・・・G領域(第2の領域)
623・・・B領域(第3の領域)
710・・・ガラス板(透過層)
720・・・蛍光体層(赤)(蛍光体層)
730・・・蛍光体層(緑)(蛍光体層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラーフィルタを備えた液晶パネルと、
LEDを光源とし、上記液晶パネルの裏面側から上記液晶パネルに光を照射するバックライトと、
上記バックライトが照射する光の進路上に設けられ、量子ドットからなる蛍光体を内部に含んだ蛍光体層と、を備えた液晶ディスプレイ。
【請求項2】
蛍光の波長が相互に異なる複数の上記蛍光体層が、上記バックライトに積層された請求項1に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項3】
蛍光の波長が相互に異なる複数の上記蛍光体層が、上記液晶パネルに積層された請求項1に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項4】
上記蛍光体層は、蛍光色が相互に異なる複数の上記蛍光体を内部に含んだものである請求項1に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項5】
量子ドットからなる蛍光体を内部に含んだ複数の蛍光体層によって被膜された蛍光フィルタを備えた液晶パネルと、
LEDを光源とし、上記液晶パネルの裏面側から上記液晶パネルに光を照射するバックライトと、を備えた液晶ディスプレイ。
【請求項6】
上記蛍光フィルタは、上記液晶パネルのサブ画素に対応して、第1の領域、第2の領域、及び第3の領域の何れかに区画されており、
上記第1の領域及び上記第2の領域では、光の少なくとも一部を透過する透過層が、蛍光色が相互に異なる上記蛍光体を含んだ上記蛍光体層によって被膜され、
上記第3の領域では、上記透過層が、上記蛍光体層によって被膜されていない請求項5に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項7】
上記LEDは、青色LED,紫色LED,又は当該青色LED及び紫色LEDよりも照射する光の波長が短いLEDである請求項1から6の何れかに記載の液晶ディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−22028(P2012−22028A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157647(P2010−157647)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(507106847)NSマテリアルズ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】