説明

液晶デバイスの製造方法

【目的】 低い印加電圧で容易に画像メモリ性を持たせることができ、ポリマーの選択が容易であり、しかも、白濁状態での反射率が高くて高精彩である受光型電子ディスプレイデバイスを形成できる液晶デバイス及びその製造方法を提供する。
【構成】 使用環境温度でスメクチックA相となり、かつ、使用環境温度以上で正の誘電率異方性を示すネマチック相となる液晶相を、透明重合体相を介して2つの基板間に保持した液晶デバイスであり、上記液晶相と透明重合体相とが互いに3次元的に連結した微細構造を形成している液晶デバイス及びその製造方法である。
【効果】 50V程度の低電圧で書換えが可能であり、透明−不透明のコントラストが高く、高分解能,高精彩の画像のメモリが可能であり、紙に替わり得る廉価で柔軟性を有し、大面積化が容易な液晶デバイスを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、紙に替わり得る廉価で柔軟性を持ち、高解像度で大面積化が容易であって、メモリ性のある受光型の液晶表示と記録を行うことができる液晶デバイスに関する。
【0002】
【従来の技術】現在、オフィスにおいては、特に長期の保存を必要としない一過性の文書の量が増加し、この短期間の保存で充分な文書の一時的な保管やその処分に多大なスペースと時間とを費やし、このためにオフィスでの作業環境も次第に悪化しつつある。また、この様な大量の一過性の文書は、大量の紙の消費となり、ひいては資源となる森林の破壊、廃棄先となるゴミ捨場の枯渇、焼却による大気汚染等の地球環境の破壊や汚染の原因になる。
【0003】従って、従来、紙の上に記録し読み取っていた情報を完全に電子化することは、高度な機能を備えて空間を有効に利用できる理想的なペーパーレスオフィスやオフィス・オートメーションを実現し、消耗品としての紙の消費量を抑制して森林資源や地球環境を保全する上で非常に重要な課題である。しかしながら、現状の電子ディスプレイデバイスは、その表示品位においてハードコピーに対して未だに圧倒的に劣っており、また、価格の安さ、持運びや操作の容易さ、情報保存の容易さ等の面でも紙に比べて劣っており、せっかく電子化した情報も最終的には再びハードコピーとして出力し、利用しているのが現実である。
【0004】この様な問題を解決するためには、紙に替わり得る廉価で柔軟性を持ち、高精彩、高解像度で大面積化が容易であって、メモリ性のある受光型の液晶表示と記録を行うことができる液晶デバイスの開発が要請される。そして、この様な液晶デバイスの候補となる従来の技術としては、カプセル化した液晶をポリマー中に液晶滴として分散させてフィルム化する方法が知られている(特表昭58−501,631号公報、米国特許第4,435,047号明細書)。この技術においては、Nematic Curvilinear Aligned Phase(NCAP)中に封入された液晶は使用環境温度で正の誘電率異方性のネマチック相を示し、電界中に置かれるとその配向ベクトルが電界の方向に配列し、液晶の屈折率nO とポリマーの屈折率nP とが等しくなってフィルムは透明になり、電界が除かれた場合には、液晶はランダム配列となり、フィルム中の液晶滴の境界面で光を散乱して、透過光を遮断してフィルムは白濁し、記録情報を表示する。しかしながら、この方法においては、液晶のネマチック相を利用しているのでそれ自体としてはメモリ性がなく、メモリ性を付与するためには、ポリマーとして熱可塑性樹脂を使用し、一旦そのガラス転移点以上の温度に加熱して配向能力を消失させ、その状態で電圧をかけながらゆっくりと冷却して配向性を持たせたり(特公表63−501,512号公報)、あるいは、アゾ系色素を配合し、樹脂と液晶との界面にこのアゾ系色素を介在せしめ、シス−トランス異性化を光(可視光やUV光)で制御する(小野木、林、水嶋、山本「アゾベンゼン構造の光異性化による高分子−液晶混合系の液晶形成の制御」日本化学会誌1990年、No.8、815〜818頁)、等のメモリ性付与のための面倒な配向制御を行う必要が生じ、また、この様にして配向制御しても単純なメモリ性しか得られない。
【0005】また、特表昭63−501,512号公報や特開昭63−155,022号公報には、液晶として常温でスメクチック相を示すものを使用し、フィルムの光変調にメモリ性を付与することが開示されている。しかしながら、これらの公報記載の液晶デバイスにおいては、液晶滴がポリマー中に分散した構造になっているので、電界を印加した場合、液晶滴にはこのポリマーを介して電界が作用することになり、液晶の配列に変化をあたえるためには高い駆動電圧が必要になり、更に液晶の配列をスメクチック相で保持するためには配列に変化をあたえる以上の印加電圧(保持電界)が必要となる。このため実用上画像メモリ性をもたせるには、高圧印加時後の通電破壊の危険性、液晶層を薄くすることによるコントラストの低下等の種々の問題が生じる。また、透明な状態で十分な透過率を得るためには、液晶の屈折率とポリマーの屈折率とが近似するようにこれら液晶とポリマーの組合せを選択しなければならず、液晶デバイスの設計に制限と多大な煩わしさとがある。更に、白濁状態での後方散乱による反射光の割合が低いため、バックに光吸収層を備えた反射型のディスプレイとして用いる場合には、白濁部分が暗くなってコントラストが低下し、高精彩な表示が得難いという問題もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】これら従来の液晶デバイスにおける問題点は、柔軟性を持ち高精彩、高解像度で大面積化が容易であり、メモリ性を持つ受光型電子ディスプレイデバイスの実用化の上で大きな障害となっていた。そこで、本発明者らは、この様な問題点を解消すべく鋭意研究を重ねた結果、使用環境温度でスメクチックA相となり、かつ、使用環境温度以上で正の誘電率異方性を示すネマチック相となる液晶を使用し、液晶相と透明重合体相とが互いに3次元的に連結した微細構造を形成することにより、この様な問題を解決できる液晶デバイスが得られることを見出し、本発明を完成した。従って、本発明の目的は、低い印加電圧で容易に画像メモリ性を持たせることができ、ポリマーの選択が容易であり、しかも、白濁状態での反射率が高くて高精彩である受光型電子ディスプレイデバイスを形成できる液晶デバイス及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、使用環境温度でスメクチックA相となり、かつ、使用環境温度以上で正の誘電率異方性を示すネマチック相となる液晶相を透明重合体相を介して2つの基板間に保持した液晶デバイスであり、上記液晶相と透明重合体相とが互いに3次元的に連結した微細構造を形成している液晶デバイスである。また、本発明は、使用環境温度でスメクチックA相となり、かつ、使用環境温度以上で正の誘電率異方性を示すネマチック相となる液晶相を透明重合体相を介して2つの基板間に保持した液晶デバイスの製造方法において、液晶相を形成する液晶材料と透明重合体相を形成する重合性組成物との混合溶液を2つの基板間に介装し、この混合溶液を等方性液体状態に保ちながら混合溶液中の重合性組成物を重合させ、液晶相と透明重合体相とが互いに3次元的に連結した微細構造を形成するようにした液晶デバイスの製造方法である。
【0008】本発明で使用する重合性組成物は、重合性官能基をもつモノマー及びオリゴマーからなる重合性化合物と共に、必要に応じて反応開始剤、増感剤、連鎖移動剤等を含有しているものである。
【0009】本発明で使用し得る重合性化合物としては、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルトルエン、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、1,3−ブタジエン等のほか、置換基としてメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、アミル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−ヘキサデシル、n−オクタデシル、シクロヘキシル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、アルリル、メタリル、ラウリル、グリシジル、2−ヒドロキシエチル等の基を有するアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸等や、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン及びペンタエリストール等のモノ(メタ)アクリル酸エステル、又はポリ(メタ)アクリル酸エステルや、酢酸ビニル、酪酸ビニル又は安息香酸ビニルや、アクリロニトリル、アセチルビニルエーテル、リモネン、シクロヘキセン、ジアリルフタル酸、ジアリルイソフタル酸、2−,3−又は4−ビニルピリジンや、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド又はN−ヒドロキシエチルアクリルアミド及びそれらのアルキルエーテル化合物や、ネオペンチルグリコール又は1,6−ヘキサンジオール1モルに2モルのエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート1モルとフェニルイソシアネート若しくはn−ブチルイソシアネート1モルとの反応生成物、ジペンタエリストールのポリ(メタ)アクリレート、長鎖脂肪酸ジアクリレート、脂肪族トリアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、トリス(アクリルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリオレフィン変性ネオペンチルグリコールジアクリレート等を挙げることができる。このうち好ましいものは(メタ)アクリル系二重結合を2個以上有するものであり、例えば、ポリプロピレングリコールジアクリレート、長鎖脂肪族ジアクリレート、ペンチルグリコール・ポリプロピレングリコール変性ジアクリレート、ポリオレフィン変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリス(アクリオキシエステル)イソシアヌレート及びカプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレートである。
【0010】本発明において使用し得る重合開始剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(メルク社製「ダロキュア1173」)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・ガイギー社製「イルガキュア184」)、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン(メルク社製「ダロキュア1116」)、ベンジルジメチルケタール(チバ・ガイギー社製「イルガキュア651」)、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1(チバ・ガイギー社製「イルガキュア907」)、2,4−ジエチルチオキサントン(日本化薬社製「カヤキュアDETX」)、p−ジメチルアミノ安息香酸、(日本化薬品社製「カヤキュアEPA」)、イソプロピルチオキサントン(ワードプレキンソップ社製「カンタキュアITX」)等があげられ、このうち、液晶材料との相溶性の面から、液状である2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンが特に好ましい。
【0011】本発明において必要に応じて使用し得る連鎖移動剤の好例としては、例えば、ブタンジオールジチオプロピネート、ペンタエリストールテトラキアス(β−チオプロピネート)、トリエチレングリコールジメルカプタン等が挙げられる。
【0012】本発明において使用し得る液晶材料は、使用環境温度でスメクチックA相となり、使用環境温度以上の高温で正の誘電率異方性を示すネマチック相となる液晶であって、上記重合性組成物と相溶性のあるものであることが必要であり、好ましくはこの液晶の濃度が60重量%以上となるように重合性組成物と相溶するものである。この様な液晶材料としては、具体的には市販の液晶材料、例えば、BDH社製S1(K−SA :5、SA −N:40、N−I:43)、S2(K−SA :−1、SA −N:48、N−I:49)、S2C(K−SA :3、SA −N:45、N−I:48.1〜48.3)、S3(K−SA :0、SA −N:54.8〜55.0、N−I:58.7〜61.8)、S4(K−SA :0、SA −N:53.6〜54.2、N−I:55.2〜57.2)、S5(K−SA :1、SA −N:55.5〜55.7、N−I:57.5〜61.0)、S6(K−SA :16.1、SA −N:58.9〜59.2、N−I:59.5〜60.0)、S7(K−SA :12.1、SA −N:56.0〜56.1、N−I:56.7〜57.4)等を適宜に選択して使用してもよいし、また、Eastman Kodak社製コレステリルエルケイト(Cholesteryl Erucate)(K−S:45℃、S−I:50℃)、N−(p−シアノベンジリデン)−p−オクチロキシアニリン(CBOA)(K−S2 :73℃、S2 −S1 :83℃、S1 −I:107℃)、N,N’−ビス(4−オクチロキシベンジリデン)−p−フェニレンジアミン(OOBPD)(K−S:113℃、S−S:143℃、150℃、155℃、164℃、203℃、S−I:231℃)、ジエチル−4,4’−アゾキシジベンゾエート(K−S:113℃、S−I:123℃)及びリチウムステアレート(K−S:140℃、S−I:174℃)等や、BDH社製K24(K−SA :21.5、SA −N:33.5、N−I:40.5)、K27(K−SA :42、SA −N:48、N−I:49.5)、K30(K−SA :44、SA −I:50.5)、K36(K−S:48、S−I:58.5)、M24(K−SA :54.5、SA −N:67、N−I:80)、M27(K−SA :64、SA −N:77.5、N−I:80)、M30(K−SA :59.5、SA −I:84)、M33(K−SA :71.5、SA −I:87.5)及びM36(K−SA :70、SA −I:90)等の液晶材料を適宜に混合して使用してもよく、必要に応じてカイラルな成分を添加してもよい。
【0013】本発明においては、2枚の基板の間にスメクチック液晶材料と重合性組成物との混合溶液とを介装し、等方性液晶相に保ちながら重合性組成物を重合させることにより、液晶材料と重合組成物とが3次元的に相互に連結した微細構造を形成させる。
【0014】2枚の基板としては、例えばガラス板、プラスチックフィルム等を挙げることができ、好ましくは透明で電気絶縁性のあるポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルホン、ポリスチレンである。そして、液晶デバイスを電界で駆動する場合にはそれぞれの基板の内面に電極を形成する必要がある。また、スメクチック液晶材料と重合性組成物との混合溶液は、その前者と後者との重量比が60:40〜90:10、液晶の濃度が60重量%以上となるように好ましくは75:25〜85:15となる割合で混合したものがよい。重量比がこれらの範囲を外れると、液晶が連続した形で分離し難くなり、また、配向に必要な電圧の上昇等の問題が生じる。上記混合溶液を2枚の基板間に介在させるには、この混合溶液を2枚の基板間に注入してもよいが、一方の基板上にスピンナやバーコータ等のコータを使用して塗布し、次いで他方の基板を重ねてもよい。
【0015】この様にして液晶相を形成する液晶材料と透明重合体相を形成する重合性組成物との混合溶液を2つの基板間に介装した後、この混合溶液を等方性液体状態に保ちながら混合溶液中の重合性組成物を重合させる。混合溶液が等方性液体状態の場合、重合性化合物と液晶材料とは相溶しており、液晶分子が溶液中に均一に溶解している。混合溶液を等方性液体状態に保つには、混合溶液におけるネマチック相−等方性液体の相分離点と液晶材料におけるネマチック相−等方性液体の転移点との間の温度に維持すればよく、使用する液晶材料の種類、重合性組成物を形成する重合性化合物の種類、これら液晶材料と重合性組成物の配合重量比等により異なるが、通常N−I転換温度〜N−I転位温度−30℃の範囲で重合性組成物を重合させるのがよい。一般に、液晶分子が溶液中に均一に溶解している等方性液体状態の混合溶液を冷却して液晶材料をネマチック相へと、更にスメクチック相へと相転移させると、液晶の重合性化合物に対する溶解度は低下し、重合性化合物と液晶材料とは分離する。そして、混合溶液中においては重合性組成物が重合して相分離が進むと、混合溶液中の重合性組成物の濃度は減少し、また、混合溶液のTN-I が上昇して液晶材料がネマチック相に転移すると、液晶材料からの重合性組成物の相分離が一層促進される。すなわち、本発明においては、重合性組成物に対する液晶材料の等方性液体状態での溶解性とネマチック液晶状態での溶解性との差を利用して重合性組成物を液晶材料から相分離させつつ重合させるもので、これによって透明性固体物質と液晶とが3次元的に相互に連結した微細構造を生成する。である。
【0016】重合性組成物を硬化させるには、一定の強度の紫外線や電子線を照射してもよいし、加熱してもよく、また、必要に応じてこれら紫外線、電子線及び加熱を適宜組み合わせて適用してもよい。なお、2枚の基板となるガラス板、プラスチックフィルム等は短波長の紫外線を透過し難いため、硬化のためには300〜350nmの比較的長波長の紫外線を照射するのが好ましい。また、紫外線を照射する時には、一定強度の紫外線を基板面に対して均一に照射することが好ましい。この様な紫外線を一度だけ照射してもよいし、数回に亘って繰り返し照射してもよく、これによって透明性固体物質と液晶とが均一に3次元的に相互連結した微細構造を形成させることができる。この微細構造の大きさは0.4〜2.0μmの範囲であるのがよく、3次元的に相互に連結した微細構造を形成させることで、液晶デバイスはハイコントラストで低い駆動電圧と保持電界を現し、加熱等による書き込みにより微細構造の大きさに準じた分解能をしめす高精彩、高分解能の画像の表示及び保存が可能とななる。
【0017】本発明の液晶デバイスには、その基板上にセグメント電極、ドットマトリックス電極、加熱用電極等を設けてもよく、表示面上に紫外線カットフィルター、光表面反射防止膜等を取り付けてもよく、画素部又は表示部全体にカラーフィルタを取り付けてもよく、液晶材料に近接又は隣接した部分に光吸収層を設けてもよく、また、液晶材料や透明性固体に色素を添加してもよい。また、本発明の液晶デバイスはスメクチックA相となる温度では記録された画像は保持可能であるので大容量のメモリデバイスとしても利用可能である。
【0018】
【作用】本発明の液晶デバイスは、使用温度でスメクチックA相となるものであって、その液晶相と透明重合体相とが互いに3次元的に連結した微細構造を形成しているものであり、特に透明重合体相中に分散して互いに3次元的に連結した液晶相における分散液晶微粒子が微細であり、また、この分散液晶微粒子中に溶解している重合性化合物の割合が少なくてこれら液晶相と透明重合体相とが非常によく分離しており、熱書込みにより画像を記録する場合に画像部分と非画像部分との間に温度勾配が生じてもこれら画像部分と非画像部分との間に濃度勾配が発生せず、高分解能の二値記録が可能になる。このため、本発明の液晶デバイスは、低い印加電圧で容易に画像メモリ性をもたせることができ、重合性化合物の選択が容易であり、白濁状態での反射率が高く、高精彩な受光型電子ディスプレイデバイスを形成することができる。
【0019】
【実施例】以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】実施例1液晶材料としてシアノビフェニル系スメクチック液晶混合物(BDH社製「S1」)80重量%を使用し、重合性組成物として重合性化合物のアクリル酸−2−エチルヘキシル(関東化学製)11.6重量%及びウレタンアクリレートオリゴマー(ダイセル・ユーシービー社製「エベクリル204」)8重量%と重合開始剤の2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(メルク・ジャパン社製「ダロキュア1173」)0.4重量%との混合物を使用し、更にスペーサとして平均粒径17μmのガラスフィラーを少量加え、超音波洗浄器で10分間処理して混合し、混合溶液を調製した。得られた混合溶液は均一で透明であり、液晶材料と重合性化合物とが完全に溶解していることが確認された。次に、この混合溶液を50mm×50mmのITOガラス板の間に挿入し、ITOガラス全体を25℃に保ち、ITOガラス全体に均一に紫外線を照射して重合性組成物の硬化反応を行った。紫外線照射によりデバイスはITOガラス全面に均一に白濁不透明状態になった。
【0021】この様にして得られた液晶デバイスは、その電極間隔が20μmであり、ハロゲンランブを光源として配向前後の透過率を調べた結果、ネマチック相で50Vの交流を印加した場合、スメクチック相での白濁状態での透過率は3.5%、透明状態での透過率は76%であった。また、2枚のガラス基板の間に形成された調光層の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、1〜1.3μmの大きさの均一な3次元微細構造が認められた。
【0022】実施例2重合性化合物として1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(日本化薬社製「カヤラッドHDDA])重量15.6%とウレタンアクリレートオリゴマ(ダイセル・ユーシービー社製「エベクリル204」)重量4%とを使用した以外は、上記実施例1と同様にして混合溶液を調製し、紫外線照射により重合性組成物の硬化反応を行って液晶デバイスを作製した。この紫外線照射により液晶デバイスはITOガラス全面に均一に白濁不透明状態になった。得られた液晶デバイスを調べたところ、ネマチック相で50Vの交流を印加した場合、スメクチック相での白濁状態での透過率は5.6%、透明状態での透過率は72%であった。
【0023】実施例3重合性化合物としてネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬社製「カヤラッドNPGDA])重量17.6%とウレタンアクリレートオリゴマ(ダイセル・ユーシービー社製「エベクリル204」)重量2%とを使用し、実施例1と同様にして混合溶液を調製し、紫外線照射により重合性組成物の硬化反応を行って液晶デバイスを作製した。この紫外線照射により液晶デバイスはITOガラス全面に均一に白濁不透明状態になった。この液晶デバイスを調べたところ、ネマチック相で50Vの交流を印加した場合、スメクチック相での白濁状態での透過率は1.5%、透明状態での透過率は78%であった。
【0024】次に、この様にして製造された液晶デバイスについて、その温度−透過率曲線を求めた。結果を図1R>1に示す。この図1において、実線は駆動電圧(交流50V)を印加した時のものをしめし、点線は電界無しのときのものを示している。また、(1)はTN-I を示し、ここでのTN-I は37℃であり、混合液晶S1のみの場合の相転移温度(TN-I =41℃)とほとんど変化していない。このことから、硬化後に液晶中に溶解している重合性化合物の割合は非常に少なく、硬化により液晶と透明性固体物質とは非常によく分離していることが判明した。また、TN-I で透過率は急激に変化するが、このことは熱書き込みにより画像を記録する場合、画像部分と非画像部分の間に温度勾配が生じた場合にも画像部分と非画像部分の間に濃度勾配が発生せず、高分解能の二値記録が可能であることを示している。更に、(2)は飽和透過率Tsat でありガラス製透明性基板の透過率を示している。電界に沿って配向したネマチック相についでスメクチックA相で保持されている表示部分の透明度は透過率で見た場合78%と飽和透過率Tsat とほとんど変わっておらず、非常に高い透過率の透明状態が保持されていることが判明した。一方、無電界状態での加熱、冷却によって生じる白濁状態は2〜3%と非常に低い透過率を示している。つまり、本発明の液晶デバイスは、透過率の範囲が2〜78%とハイコントラストな透過型ディスプレイ/メモリデバイスである。このため反射でみた場合にも十分な視認性があり、優れた反射型ディスプレイ/メモリデバイスとなっている。比較例として従来技術による液滴分散型液晶デバイスのコントラストの一例を説明すると、透過率の範囲が10〜80%であってコントラストが低く、反射率コントラストは更にそれよりも低いため、反射型ディスプレイとしての視認性が低くなっている。本発明の液晶デバイスがメモリ性、透過及び反射のコントラストの点で優れていることが判明した。
【0025】また、この様にして製造された液晶デバイスに、実際に、514.5.nm発振のアルゴンレーザーを用いて露光加熱により、ベクトルスキャンで画像の書き込みを行ったところ、アルゴンレーザーのビーム径に相当する幅の線で画像が構成された。従って、画像部分と非画像部分との間に明確な輪郭が現れ、画像部分と非画像部分の濃度は各々一定であり高分解能の二値記録が行われていることが判明した。以上のことから、本発明の液晶デバイスは、従来の液滴分散型液晶デバイスでは成し遂げられなかった高精彩で高分解能の画像表示、記録を可能にした優れたものであることが判明した。
【0026】実施例4液晶材料としてシアノビフェニル系スメクチック液晶混合物(BDH社製「S2」)80重量%を使用し、重合性化合物として1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(日本化薬社製「カヤラッドHDDA])19.6重量%を使用した以外は、実施例1と同様にして混合溶液を調製し、紫外線照射により重合性組成物の硬化反応を行って液晶デバイスを作製した。この紫外線照射により液晶デバイスはITOガラス全面に均一に白濁不透明状態になった。この液晶デバイスを調べたところ、ネマチック相で50Vの交流を印加した場合、スメクティック相での白濁状態での透過率は3%、透明状態での透過率は79%であった。
【0027】実施例5液晶材料としてシアノビフェニル系スメクチック液晶混合物(BDH社製「S2」)80重量%を使用し、重合性化合物としてネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬社製「カヤラッドNPGDA])17.6重量%及びウレタンアクリレートオリゴマ(日本化薬社製「UX−2201」)2重量%を使用した以外は、実施例1と同様にして混合溶液を調製し、紫外線照射により重合性組成物の硬化反応を行って液晶デバイスを作製した。この紫外線照射により液晶デバイスはITOガラス全面に均一に白濁不透明状態になった。また、この液晶デバイスを調べたところ、ネマティック相で50Vの交流を印加した場合、スメクチック相での白濁状態での透過率は0.7%、透明状態での透過率は72%であった。
【0028】実施例6液晶材料としてシアノビフェニル系スメクチック液晶混合物(BDH社製「S2」)80重量%を使用し、重合性化合物としてアクリル酸イソボルニル(共栄社油脂製「ライトアクリレートIB−XA])15.6重量%及びウレタンアクリレートオリゴマ(日本化薬社製「UX−2201」)4重量%を使用した以外は、実施例1と同様にして混合溶液を調製し、紫外線照射により重合性組成物の硬化反応を行って液晶デバイスを作製した。この紫外線照射により液晶デバイスはITOガラス全面に均一に白濁不透明状態になった。この液晶デバイスを調べたところ、ネマチック相で50Vの交流を印加した場合、スメクチック相での白濁状態での透過率は7%、透明状態での透過率は70%であった。
【0029】実施例7液晶材料としてシアノビフェニル系スメクチック液晶混合物(BDH社製「S2」)80重量%を使用し、重合性化合物としてフェノール変性EOアクリレート(東亜合成社製「アロニックスM−102])17.6重量%及びウレタンアクリレートオリゴマ(日本化薬社製「UX−2201」)2重量%を使用した以外は、実施例1と同様にして混合溶液を調製し、紫外線照射により重合性組成物の硬化反応を行って液晶デバイスを作製した。この紫外線照射により液晶デバイスはITOガラス全面に均一に白濁不透明状態になった。この液晶デバイスを調べたところ、ネマチック相で50Vの交流を印加した場合、スメクチック相での白濁状態での透過率は0.4%、透明状態での透過率は33%であった。
【0030】
【発明の効果】本発明によれば、大面積の薄膜液晶デバイスであって、50V以下の低電圧で書換えが可能であり、透明−不透明のコントラストが高く、高分解能,高精彩の画像のメモリが可能である。従って、現在紙の上に表示、記録している高品位でありながら一過性である文書情報の取扱いが極めて容易となり、しかも、その様な液晶デバイスの製造を極めて容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は本発明の実施例3により得られた液晶デバイスの温度−光透過率の関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 使用環境温度でスメクチックA相となり、かつ、使用環境温度以上で正の誘電率異方性を示すネマチック相となる液晶相を、透明重合体相を介して2つの基板間に保持した液晶デバイスであり、上記液晶相と透明重合体相とが互いに3次元的に連結した微細構造を形成していることを特徴とする液晶デバイス。
【請求項2】 使用環境温度でスメクチックA相となり、かつ、使用環境温度以上で正の誘電率異方性を示すネマチック相となる液晶相を、透明重合体相を介して2つの基板間に保持した液晶デバイスの製造方法において、液晶相を形成する液晶材料と透明重合体相を形成する重合性組成物との混合溶液を2つの基板間に介装し、この混合溶液を等方性液体状態に保ちながら混合溶液中の重合性組成物を重合させ、液晶相と透明重合体相とが互いに3次元的に連結した微細構造を形成するようにしたことを特徴とする液晶デバイスの製造方法。
【請求項3】 混合溶液におけるネマチック相−等方性液体の相分離点と液晶材料におけるネマチック相−等方性液体の転移点との間の温度で重合性組成物を重合させる請求項2記載の液晶デバイスの製造方法。

【図1】
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