説明

液晶ポリエステルの製造方法

【課題】溶融重合後、固相重合を行うことにより液晶ポリエステルを製造する際、固相重合物を容易に回収する。
【解決手段】原料モノマーを溶融重合容器内で溶融重合させて、溶融重合物を得、前記溶融重合物を前記溶融重合容器から取り出し、粒子化して、粒子化物を得、前記粒子化物を固相重合容器内で固相重合させて、固相重合物を得、前記固相重合物が入った前記固相重合容器に衝撃を与えて、前記固相重合物を前記固相重合容器から取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融重合後、固相重合を行うことにより液晶ポリエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高重合度の液晶ポリエステルを製造する方法として、原料モノマーを溶融重合させ、得られた低重合度の液晶ポリエステルを固相重合させる方法が知られている(例えば特許文献1〜3参照)。この方法は、典型的には、原料モノマーを溶融重合容器内で溶融重合させ、得られた溶融重合物を溶融重合容器から取り出し、粒子化した後、固相重合容器内で固相重合させることにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−146003号公報
【特許文献2】特開2002−302540号公報
【特許文献3】特開2005− 75843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記固相重合においては、固相重合物が固相重合容器の内壁に付着し易いため、固相重合物を掻き出す等の操作が必要となり、固相重合物の回収に手間がかかることがある。そこで、本発明の目的は、溶融重合後、固相重合を行うことにより液晶ポリエステルを製造する方法であって、固相重合物を容易に回収できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、原料モノマーを溶融重合容器内で溶融重合させて、溶融重合物を得る工程(1)と、前記溶融重合物を前記溶融重合容器から取り出し、粒子化して、粒子化物を得る工程(2)と、前記粒子化物を固相重合容器内で固相重合させて、固相重合物を得る工程(3)と、前記固相重合物が入った前記固相重合容器に衝撃を与えて、前記固相重合物を前記固相重合容器から取り出す工程(4)とを有する液晶ポリエステルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、溶融重合後、固相重合を行うことにより液晶ポリエステルを製造する際、固相重合物を容易に回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】固相重合物を固相重合容器から取り出す工程の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示すポリエステルであり、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させることや、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させることや、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させることや、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させることにより、製造できる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0009】
本発明は、原料モノマーとして、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合(重縮合)可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(1)と、芳香族ジカルボン酸及びその重合(重縮合)可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(2)と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの重合(重縮合)可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(3)とを用い、これらを重合させて、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有する液晶ポリエステルを製造する場合に、有利に採用される。
【0010】
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をエステル化(アルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換)してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロゲン化(ハロホルミル基に変換)してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシル化(アシルオキシカルボニル基に変換)してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化(アシルオキシル基に変換)してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化(アシルアミノ基に変換)してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0011】
化合物(1)としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸、及びそのヒドロキシル基をアシル化してなるものが好ましい。化合物(2)としては、芳香族ジカルボン酸が好ましい。化合物(3)としては、芳香族ジオール、及びその少なくとも1つのヒドロキシル基をアシル化してなるもの、芳香族ヒドロキシアミン、及びそのヒドロキシル基及び/又はアミノ基をアシル化してなるもの、並びに芳香族ジアミン、及びその少なくとも1つのアミノ基をアシル化してなるものが好ましい。
【0012】
また、化合物(1)〜(3)としては、それぞれ、下記式(1)〜(3)で表される化合物が好ましい。
【0013】
式(1):R11−O−Ar1−CO−R12
【0014】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。R11は、水素原子又はアシル基を表す。R12は、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0015】
式(2):R21−CO−Ar2−CO−R22
【0016】
(Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。R21及びR22は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0017】
式(3):R31−X−Ar3−Y−R32
【0018】
(Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表す。Ar3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0019】
式(4):−Ar41−Z−Ar42
【0020】
(Ar41及びAr42は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0021】
11、R31又はR32で表されるアシルオキシル基の例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基及びベンゾイル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。R12、R21又はR22で表されるアルコキシル基の例としては、メトキシル基、エトキシル基、n−プロピルオキシル基、イソプロピルオキシル基、n−ブチルオキシル基、イソブチルオキシル基、s−ブチルオキシル基、t−ブチルオキシル基、n−ヘキシルオキシル基、2−エチルヘキシルオキシル基、n−オクチルオキシル基及びn−デシルオキシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。R12、R21又はR22で表されるアリールオキシル基の例としては、フェニルオキシル基、o−トリルオキシル基、m−トリルオキシル基、p−トリルオキシル基、1−ナフチルオキシル基及び2−ナフチルオキシル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。R12、R21又はR22で表されるアシルオキシル基の例としては、ホルミルオキシル基、アセチルオキシル基、プロピオニルオキシル基及びベンゾイルオキシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。R12、R21又はR22で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0022】
Zで表されるアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0023】
Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子を置換してもよいハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子を置換してもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子を置換してもよいアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0024】
化合物(1)としては、式(1)において、Ar1がp−フェニレン基であるもの、及びAr1が2,6−ナフチレン基であるものが好ましい。また、化合物(1)としては、式(1)において、R11及びR12がそれぞれヒドロキシル基であるもの、並びにR11がアシル基であり、R12がヒドロキシル基であるものが好ましい。
【0025】
化合物(2)としては、式(2)において、Ar2がp−フェニレン基であるもの、Ar2がm−フェニレン基であるもの、及びAr2が2,6−ナフチレン基であるものが好ましい。また、化合物(2)としては、式(2)において、R21及びR22がそれぞれヒドロキシル基であるものが好ましい。
【0026】
化合物(3)としては、式(3)において、Ar3がp−フェニレン基であるもの、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるものが好ましい。また、化合物(3)としては、式(3)において、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもの、並びにXが酸素原子であり、Yがイミノ基であるものが好ましい。また、化合物(3)としては、式(3)において、R31及びR32がそれぞれ水素原子であるもの、R31が水素原子であり、R32がアシル基であるもの、R31がアシル基であり、R32が水素原子であるもの、並びにR31及びR32がそれぞれアシル基であるものが好ましい。
【0027】
化合物(1)の使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%である。化合物(2)の使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。化合物(3)の使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。化合物(1)の使用量が多いほど、液晶ポリエステルの溶融流動性や耐熱性や剛性が向上し易いが、あまり多いと、液晶ポリエステルの溶融温度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易く、また、液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0028】
化合物(2)の使用量と化合物(3)の使用量との割合は、[化合物(2)の使用量]/[化合物(3)の使用量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0029】
なお、化合物(1)〜(3)は、それぞれ独立に、2種以上用いられてもよい。また、原料モノマーとして、化合物(1)〜(3)以外の化合物を用いてもよいが、その使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0030】
前記の如き原料モノマーを、溶融重合容器内で溶融重合させて、溶融重合物を得る(工程(1))。溶融重合容器としては、溶融重合後、溶融重合物を溶融状態で溶融重合容器から抜き出すことにより取り出すことができるように、底部に抜出口を有するものが好ましく用いられる。
【0031】
本発明は、窒素原子を2個以上含む複素環式化合物を触媒に用いて溶融重合を行う場合に、有利に採用される。窒素原子を2個以上含む複素環式化合物を触媒に用いて溶融重合を行うことにより、固相重合物をより容易に回収でき、また、耐衝撃性に優れる液晶ポリエステルを生産性良く製造できる。
【0032】
窒素原子を2個以上含む複素環式化合物としては、例えば、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、ジアジン化合物、トリアジン化合物、ジピリジル化合物、フェナントロリン化合物、ジアザビシクロアルカン化合物、ジアザビシクロアルケン化合物、アミノピリジン化合物及びプリン化合物が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。中でもイミダゾール化合物が好ましい。
【0033】
イミダゾール化合物の例としては、下記式(I)で示される化合物が挙げられる。
【0034】
【化1】

【0035】
(R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
【0036】
1〜R4のいずれかで表されるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10、好ましくは1〜4である。R1〜R4のいずれかで表されるアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20、好ましくは6〜10である。R1〜R4のいずれかで表されるアラルキル基の例としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基及び3−フェニルプロピル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20、好ましくは6〜10である。
【0037】
イミダゾール化合物としては、式(I)において、R1がアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、R2〜R4がそれぞれ水素原子であるものが好ましく、R1がアルキル基であり、R2〜R4がそれぞれ水素原子であるものがより好ましい。
【0038】
トリアゾール化合物の例としては、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール及びベンゾトリアゾールが挙げられる。ジアジン化合物の例としては、ピリダジン(1,2−ジアジン)、ピリミジン(1,3−ジアジン)及びピラジン(1,4−ジアジン)が挙げられる。トリアジン化合物の例としては、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン及び1,3,5−トリアジンが挙げられる。ジピリジル化合物の例としては、2,2’−ジピリジル及び4,4’−ジピリジルが挙げられる。フェナントロリン化合物の例としては、1,7−フェナントロリン(1,5−ジアザフェナントレン)、1,10−フェナントロリン(1,5−ジアザフェナントレン)及び4,7−フェナントロリン(1,8−ジアザフェナントレン)が挙げられる。ジアザビシクロアルカン化合物の例としては、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが挙げられる。ジアザビシクロアルケン化合物の例としては、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが挙げられる。アミノピリジン化合物の例としては、N,N−ジメチルアミノピリジンの如きN,N−ジアルキルピリジンが挙げられる。プリン化合物の例としては、プリン及び7−メチルプリンの如き7−アルキルプリンが挙げられる。
【0039】
窒素原子を2個以上含む複素環式化合物の使用量は、全原料モノマーの合計に対して、通常0.002〜2モル%、好ましくは0.006〜1モル%、より好ましくは0.02〜0.6モル%である。この使用量があまり少ないと、液晶ポリエステルの耐衝撃性や生産性が不十分になり易く、あまり多いと、液晶ポリエステルが着色し易くなったり、重合を制御し難くなったりする。
【0040】
溶融重合は、得られる溶融重合物の流動開始温度が150〜320℃になるまで行うことが好ましく、200〜300℃になるまで行うことがより好ましい。溶融重合物の流動開始温度があまり高いと、溶融重合物を溶融状態で溶融重合容器から抜き出すことにより取り出す場合に、その抜出しが難しくなり、あまり低いと、次いで固相重合を行っても、得られる固相重合物の重合度が不十分になり易く、その耐熱性や剛性が不十分になり易い。
【0041】
溶融重合物の流動開始温度の調整は、原料モノマーの組成や、窒素原子を2個以上含む複素環式化合物の種類や量、添加時期等に応じて、溶融重合の温度や時間を調節することにより行うことができる。溶融重合物の流動開始温度が高めの場合は、これを下げるべく、溶融重合の最高温度を下げたり、その最高温度における保持時間を短くしたりすればよく、溶融重合物の流動開始温度が低めの場合は、これを上げるべく、溶融重合の最高温度を上げたり、その最高温度における保持時間を長くしたりすればよい。
【0042】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0043】
溶融重合後、溶融重合物を溶融重合容器から取り出し、粒子化して、粒子化物を得る(工程(2))。溶融重合物の溶融重合容器からの取出しは、溶融重合物を溶融状態で溶融重合容器から抜き出すことにより行うことが好ましい。溶融重合物の抜出しは、必要により溶融重合容器内を加圧することにより行われ、その圧力は、ゲージ圧で表して、好ましくは0.005〜0.2MPa−G、より好ましくは0.007〜0.2MPa−Gである。
【0044】
溶融重合物の粒子化は、溶融状態の溶融重合物を冷却して固化させ、得られた固形物を粉砕して、粉末(パウダー)とすることにより行ってもよいし、溶融状態の溶融重合物を冷却しつ紐状に固化させ、得られた紐状物(ストランド)を切断して、ペレットとすることにより行ってもよい。
【0045】
得られた粒子化物を、固相重合容器内で固相重合させて、固相重合物を得る(工程(3))。これにより、耐熱性や剛性に優れる液晶ポリエステルを得ることができる。固相重合容器としては、ステンレス鋼(SUS)製等の金属製のトレイが好ましく用いられる。
【0046】
固相重合は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下、180〜280℃で5分〜30時間行うことが好ましい。固相重合温度は、より好ましくは180〜240℃、さらに好ましくは200〜240℃である。固相重合温度があまり低いと、重合が進み難く、あまり高いと、固相重合物が着色し易くなる。
【0047】
固相重合は、得られる固相重合物の流動開始温度が200〜420℃になるまで行うことが好ましく、240〜400℃になるまで行うことがより好ましい。固相重合物の流動開始温度があまり高いと、溶融温度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易く、また、溶媒に対する溶解性が低くなり易く、あまり低いと、耐熱性や剛性が不十分になり易い。
【0048】
固相重合後、固相重合物を固相重合容器から取り出して、固相重合物を製品の液晶ポリエステルとして回収する(工程(4))。そして、本発明では、固相重合物の固相重合容器からの取出しを、固相重合物が入った固相重合容器に衝撃を与えることにより行う。これにより、固相重合容器の内壁に付着した固相重合物を、掻き出す等の操作を要することなく、容易に回収することができる。
【0049】
固相重合物の固相重合容器からの取出しは、固相重合物が入った固相重合容器を、その開口部を下に向け、落下させて、これに衝撃を与えることにより行うことが好ましい。
【0050】
図1は、固相重合物を固相重合容器から取り出す工程の例を模式的に示す断面図である。まず、固相重合物1が入った固相重合容器であるトレイ2を、アーム3,3により把持し、回収容器4の上部に運ぶ(図1(A))。次いで、アーム3,3の回転により、トレイ2を回転させ、トレイ2の開口部を下に向けると、固相重合物1の大部が、回収容器4の底部に落下し、回収されるが、固相重合物1の一部は、トレイ2の内壁に付着している(図1(B))。そして、アーム3,3によるトレイ2の把持を開放し、トレイ2を落下させ、回収容器4の内壁の凸部4a,4aに衝突させて、トレイ2に衝撃を与えると、トレイ2の内壁に付着した固相重合物1の一部も、回収容器4の底部に落下し、回収される(図1(C))。このように、固相重合物が入った固相重合容器に衝撃を与えることにより、固相重合物を容易に回収することができる。なお、図1の例では、落下させたトレイ2を回収容器4の内壁の凸部4a,4aに衝突させて、トレイ2に衝撃を与える例を示したが、他の例として、回収容器4の内壁に格子ないし網を水平に設置し、これに落下させたトレイ2を衝突させて、トレイ2に衝撃を与えてもよい。また、トレイ2の裏面をハンマー等で叩いて、トレイ2に衝撃を与えてもよい。
【0051】
こうして得られる液晶ポリエステルは、必要によりこれに充填材や添加剤を配合し、電気・電子部品をはじめ各種製品を製造するための成形材料として用いることができる。
【実施例】
【0052】
〔流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、試料約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、試料を溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0053】
実施例1
攪拌機、窒素ガス導入装置、温度計及び還流冷却器を備えたアシル化容器に、p−ヒドロキシ安息香酸を60モル%、テレフタル酸を15モル%、イソフタル酸を5モル%、及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルを20モル%の割合で入れると共に、アシル化剤として無水酢酸を、p−ヒドロキシ安息香酸のヒドロキシル基及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルのヒドロキシル基の合計量に対し、1.1モル倍入れた。次いで、1−メチルイミダゾールを、p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルの合計量に対し、0.019モル%入れ、アシル化容器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで30分かけて昇温し、145℃で1時間還流させることにより、アシル化を行った。
【0054】
得られたアシル化反応混合物を、これにさらに1−メチルイミダゾールを、先に用いたp−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルの合計量に対し、0.187モル%入れ、抜出口を有する溶融重合容器に移送し、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から300℃まで4時間5分かけて昇温し、300℃で20分保持することにより、溶融重合を行った。次いで、溶融重合容器の抜出口から、内容物である溶融状態の溶融重合物を抜き出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、溶融重合物の粒子化物を、粒径約0.1〜2mmの粉末として得た。この粒子化物の流動開始温度は、254℃であった。
【0055】
得られた粉末をSUS製トレイ(固相重合容器)に入れ、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で5時間保持することにより、固相重合を行った。次いで、固相重合物が入ったSUS製トレイを、その開口部を下に向け、50cm落下させて、これに衝撃を与えることにより、固相重合物をSUS製トレイから取り出し、回収した。この固相重合物の流動開始温度は、328℃であった。SUS製トレイに付着したままの固相重合物の量は、固相重合させるためにSUS製トレイに入れた前記粉末に対し、1.0質量%であった。
【0056】
実施例2
アシル化及び溶融重合の際に1−メチルイミダゾールを用いなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。溶融重合物の粒子化物の流動開始温度は、252℃であり、回収した固相重合物の流動開始温度は、330℃であった。SUS製トレイに付着したままの固相重合物の量は、固相重合させるためにSUS製トレイに入れた前記粉末に対し、5.1質量%であった。
【符号の説明】
【0057】
1・・・固相重合物、2・・・トレイ(固相重合容器)、3・・・アーム、4・・・回収容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料モノマーを溶融重合容器内で溶融重合させて、溶融重合物を得る工程(1)と、前記溶融重合物を前記溶融重合容器から取り出し、粒子化して、粒子化物を得る工程(2)と、前記粒子化物を固相重合容器内で固相重合させて、固相重合物を得る工程(3)と、前記固相重合物が入った前記固相重合容器に衝撃を与えて、前記固相重合物を前記固相重合容器から取り出す工程(4)とを有する液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記原料モノマーが、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(1)と、芳香族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(2)と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(3)とを含むモノマーである請求項1に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記化合物(1)が下記式(1)で表される化合物であり、前記化合物(2)が下記式(2)で表される化合物であり、前記化合物(3)が下記式(3)で表される化合物である請求項2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
式(1):R11−O−Ar1−CO−R12
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。R11は、水素原子又はアシル基を表す。R12は、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(2):R21−CO−Ar2−CO−R22
(Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。R21及びR22は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(3):R31−X−Ar3−Y−R32
(Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表す。Ar3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(4):−Ar41−Z−Ar42
(Ar41及びAr42は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項4】
前記溶融重合を、窒素原子を2個以上含む複素環式化合物の存在下に行う請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記複素環式化合物が、下記式(I)で表される化合物である請求項4に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【化1】

(R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)

【図1】
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【公開番号】特開2013−28746(P2013−28746A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166767(P2011−166767)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】