説明

液晶ポリエステルブレンド組成物

【課題】チタン酸バリウム等の誘電率を高めるための充填材を含むにもかかわらず、良好な機械的性質、熱的性質および成形加工性を示し、且つ高周波帯域での誘電正接が極めて小さい液晶ポリエステルブレンド組成物を提供する。
【解決手段】6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を多量に用いた液晶ポリエステルと、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を単量体として用いて得られた液晶ポリエステルとをブレンドするに際し、少なくとも一方の液晶ポリエステルに、さらに特定量の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、または芳香族モノヒドロキシ化合物を共重合させることにより得られる液晶ポリエステルブレンドに、チタン酸カルシウムやチタン酸バリウムなどの誘電特性に優れた充填材を配合することにより得られる、機械的性質や熱的性質が低下することなく、優れた誘電特性を示す、液晶ポリエステルブレンド組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波帯域における誘電特性に優れ、衝撃強度および成形加工性に優れた液晶ポリエステルブレンド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては、日常生活のマルチメディア化や、有料道路におけるETC装置やGPSに代表されるITS(高度道路交通システム、Intelligent Transport Systems)の利用が急速に普及しており、これに伴う情報通信トラフィックの爆発的な増加に対応するべく、情報を伝送する周波数の高周波化が進んでいる。
【0003】
このように高周波化された情報通信装置に用いられる材料としては、高周波帯域(特にギガヘルツ帯域)において優れた誘電特性を有し、生産性や軽量性にも優れたエンジニアリングプラスチック材料が有望視されており、各種通信機器、電子デバイスなどの筐体やパッケージ及び誘電体デバイス等としての適用が期待されている。
【0004】
上述のエンジニアリングプラスチックの中でも、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂(以下液晶ポリエステル樹脂またはLCPと略称する)は、
(1)比誘電率(εr)が使用周波数領域帯域で一定であり、誘電正接(tanδ)が低いなど誘電特性に優れる;
(2)低膨張特性(環境寸法安定性)、耐熱性、難燃性、剛性等など種々の機械物性に優れる;
(3)成形時の流動性に優れ、薄肉部、微細部を有する成形品を容易に加工できる;
などの優れた性質を有することから、高周波用途において特に期待されている材料である。
【0005】
液晶ポリエステル樹脂の中でも、耐熱性や誘電特性に優れることから、芳香族ヒドロキシカルボン酸である6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰り返し単位を多量に含む液晶ポリエステルについて、近年、活発に開発が進んでいる。
【0006】
しかし、芳香族ヒドロキシカルボン酸として6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を多量に用いた液晶ポリエステル(特許文献1および2)は、誘電特性は優れるものの、衝撃強度に劣るものであり、日常の使用において落下などによる衝撃を受けやすい携帯電話などの部品には使用しにくいという問題があった。
【0007】
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸として多量の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸とともに少量のp−ヒドロキシ安息香酸をモノマーに用いた液晶ポリエステル樹脂(特許文献3)は、融点が高いために射出成形などでは加工しにくいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明者等が、上記の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を多量に用いた液晶ポリエステルについて検討した結果、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を多量に用いた液晶ポリエステルと、特定量のp−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を単量体として用いて得られた液晶ポリエステルとをブレンドすることによって衝撃強度および成形加工性が改良されることを見出した(特許文献4)。
【0009】
しかしながら、この液晶ポリエステルブレンドは、ガラス繊維などの充填材を配合した場合には優れた機械的性質や熱的性質を示すものの、誘電特性に優れるチタン酸カルシウム等を充填材として配合した場合、機械的性質や熱的性質が低下する傾向があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−196930号公報
【特許文献2】特開2007−154169号公報
【特許文献3】特開2002−179776号公報
【特許文献4】特開2009−108191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、誘電率を高めるためにチタン酸カルシウム等の充填材を含むにもかかわらず、良好な機械的性質、熱的性質および成形加工性を示し、且つ高周波帯域での誘電正接が極めて小さい液晶ポリエステルブレンド組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を多量に用いた液晶ポリエステルについて鋭意検討した結果、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を多量に用いた液晶ポリエステルと、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を単量体として用いて得られた液晶ポリエステルとをブレンドするに際し、これらのうち少なくとも一方の液晶ポリエステルに、さらに微量の、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、または芳香族モノヒドロキシ化合物を共重合させることにより、チタン酸カルシウムやチタン酸バリウムなどの誘電特性に優れた充填材を配合した場合であっても、機械的性質や熱的性質が低下することなく、優れた特性の液晶ポリエステルブレンド組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
以下の液晶ポリエステルブレンド、および、該液晶ポリエステルブレンド100重量部に対して、チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウム0.1〜300重量部を含む液晶ポリエステルブレンド組成物であり、
該液晶ポリエステルブレンドは、
以下の液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)を、(A)/(B)が重量比で99/1〜80/20となるよう配合することにより得られるものであり、
液晶ポリエステル(A):主たる繰り返し単位が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位および芳香族ジカルボニル繰り返し単位からなり、等モルの芳香族ジオキシ繰り返し単位と芳香族ジカルボニル繰り返し単位を含み、構造中に式(I)で表される繰り返し単位を40〜80モル%含む液晶ポリエステル;
液晶ポリエステル(B):以下の液晶ポリエステル(b−1)または(b−2)から選択され、主たる繰り返し単位の全量中に、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を、合計量で90モル%以上含み、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位のモル比率(式(I)/式(II))が10/90〜50/50である液晶ポリエステル:
液晶ポリエステル(b−1):主たる繰り返し単位が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位のみで構成される液晶ポリエステル:
液晶ポリエステル(b−2):主たる繰り返し単位が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位、および芳香族ジカルボニル繰り返し単位から構成される液晶ポリエステルであり、芳香族ジオキシ繰り返し単位と芳香族ジカルボニル繰り返し単位の量は等モルである液晶ポリエステル:
ただし、該液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)の少なくとも一方の製造工程において、その主たる繰り返し単位をもたらす主たる単量体の合計量100モル部に対して、さらに0.1〜2モル部の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、または芳香族モノヒドロキシ化合物から選択される1種または2種の微量の共重合成分を共重合させる工程を含む、液晶ポリエステルブレンド組成物、
を提供する。
【化1】

(I)
【化2】

(II)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物に含まれる液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルと呼ばれる異方性溶融相を形成する液晶ポリエステル樹脂である。
【0015】
液晶ポリエステルの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0016】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「主たる繰り返し単位」とは、液晶ポリエステル(A)および(B)を構成する全繰り返し単位から、以下に説明する「微量の共重合成分」に由来する繰り返し単位を除くものとする。
また、「主たる単量体」とは、上記の「主たる繰り返し単位」を与える単量体である。
一方、「微量の共重合成分」とは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、または芳香族モノヒドロキシ化合物から選択され、かつ、液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)の少なくとも一方の製造工程において、その主たる単量体の合計量100モル部に対して、さらに0.1〜2モル部の量にて共重合に供される成分をいう。
【0017】
以下、液晶ポリエステル(A)について説明する。
【0018】
本発明に用いる液晶ポリエステル(A)は、主たる繰り返し単位が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位、および芳香族ジカルボニル繰り返し単位から構成されるものであって、構造中に式(I)で表される繰り返し単位を40〜80モル%、好ましくは45〜70モル%、より好ましくは50〜65モル%含むものである。液晶ポリエステル(A)は、主たる繰り返し単位としての芳香族ジオキシ繰り返し単位と芳香族ジカルボニル繰り返し単位を等モル含む。
【0019】
なお、これらの条件を満たす限り、液晶ポリエステル(A)は、2種以上の液晶ポリエステルを別々に、あるいは溶融混練して液晶ポリエステルブレンドとしたものを用いてもよい。
【0020】
これらの各繰り返し単位から構成される液晶ポリエステル(A)は、構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリエステル(A)は異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0021】
まず、主たる繰り返し単位としての、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位について説明する。
本発明において用いる液晶ポリエステル(A)は、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位として式(I)で表される繰り返し単位を必須に含むものである。式(I)で表される繰り返し単位を与える主たる単量体としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0022】
式(I)で表される繰り返し単位以外の、主たる繰り返し単位としての芳香族オキシカルボニル繰り返し単位を与える主たる単量体の具体例としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0023】
液晶ポリエステル(A)において、主たる繰り返し単位の全量中の主たる繰り返し単位としての芳香族オキシカルボニル繰り返し単位の含有量は、40〜80モル%であるのが好ましく、45〜70モル%であるのがより好ましく、50〜65モル%であるのが特に好ましい。
【0024】
液晶ポリエステル(A)は、好ましくは、主たる繰り返し単位としての芳香族オキシカルボニル繰り返し単位として、式(I)で表される繰り返し単位のみを含むものである。
【0025】
次に、主たる繰り返し単位としての、芳香族ジオキシ繰り返し単位について説明する。
芳香族ジオキシ繰り返し単位を与える主たる単量体の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0026】
以上の主たる単量体により与えられる主たる繰り返し単位としての芳香族ジオキシ繰り返し単位のなかでも、結晶融解温度などを調節しやすいことから、以下の式(1)〜(3)で表される繰り返し単位から選択される1種以上のものから構成されるのがよい。さらに、液晶ポリエステル(A)が耐熱性や機械的性質に優れる点で、主たる繰り返し単位としての芳香族ジオキシ繰り返し単位の合計量に対して、式(3)で表される繰り返し単位を50モル%以上、好ましくは80〜99.9モル%、より好ましくは85〜99モル%、特に好ましくは90〜98モル%含むものがよい。
【化3】

【0027】
次に、主たる繰り返し単位としての芳香族ジカルボニル繰り返し単位について説明する。
芳香族ジカルボニル繰り返し単位を与える主たる単量体の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0028】
以上の主たる単量体により与えられる、主たる繰り返し単位としての芳香族ジカルボニル繰り返し単位のなかでも、液晶ポリエステル(A)の機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから、以下の式(4)〜(6)で表される繰り返し単位から選択される1種以上を含むものが好ましい。
【化4】

【0029】
液晶ポリエステル(A)は、主たる繰り返し単位としての、芳香族ジオキシ繰り返し単位と芳香族ジカルボニル繰り返し単位を、それぞれ等モル含むものである。
【0030】
液晶ポリエステル(A)を構成する好適な主たる繰り返し単位の組み合わせの具体例としては、以下の1)〜24)ものが挙げられる。
1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/テレフタル酸共重合体
2)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
3)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/イソフタル酸共重合体
4)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/テレフタル酸共重合体
5)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
6)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/イソフタル酸共重合体
7)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/テレフタル酸共重合体
8)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
9)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/イソフタル酸共重合体
10)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/テレフタル酸共重合体
11)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
12)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/イソフタル酸共重合体
13)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
14)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体
15)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/2,6−ナフタレンジカルボン酸/イソフタル酸共重合体
16)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
17)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体
18)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/2,6−ナフタレンジカルボン酸/イソフタル酸共重合体
19)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/テレフタル酸共重合体
20)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
21)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/イソフタル酸共重合体
22)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/テレフタル酸共重合体
23)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
24)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/イソフタル酸共重合体。
【0031】
これらの中では、1)、2)、4)、7)、8)、10)、11)および23)の共重合体が好ましい。
【0032】
次に、液晶ポリエステル(B)について説明する。
本発明において用いる液晶ポリエステル(B)は、以下の液晶ポリエステル(b−1)または(b−2)から選択され、主たる繰り返し単位の全量中に、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を、合計量で90モル%以上含み、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位のモル比率(式(I)/式(II))が10/90〜50/50である液晶ポリエステルである:
液晶ポリエステル(b−1):主たる繰り返し単位が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位のみで構成される液晶ポリエステル:
液晶ポリエステル(b−2):主たる繰り返し単位が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位、および芳香族ジカルボニル繰り返し単位から構成される液晶ポリエステルであり、芳香族ジオキシ繰り返し単位と芳香族ジカルボニル繰り返し単位の量は等モルである液晶ポリエステル。
【0033】
液晶ポリエステル(B)は、主たる繰り返し単位として、式(I)で表される繰り返し単位と式(II)で表される繰り返し単位を、所定の量および比率で含んでいるものである。液晶ポリエステル(B)が、主たる繰り返し単位として、芳香族ジオキシ繰り返し単位と芳香族ジカルボニル繰り返し単位を含む場合(即ち液晶ポリエステル(b−2)である場合)には、主たる繰り返し単位としての芳香族ジオキシ繰り返し単位と芳香族ジカルボニル繰り返し単位の量が等モルであればよい。
【0034】
なお、これらの条件を満たす限り、液晶ポリエステル(B)は、2種以上の液晶ポリエステルを別々に、あるいは溶融混練して液晶ポリエステルブレンドとしたものを用いてもよい。
【0035】
液晶ポリエステル(B)において、主たる繰り返し単位としての式(I)で表される繰り返し単位と式(II)で表される主たる繰り返し単位の合計量は、主たる繰り返し単位の合計量に対して、90〜100モル%であり、より好ましくは95〜100モル%であり、特に好ましくは100モル%である。90モル%を下回ると得られる液晶ポリエステルブレンド組成物の機械的強度、特にIzod衝撃強度が低下する傾向にある。
【0036】
液晶ポリエステル(B)において、主たる繰り返し単位としての式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位のモル比率(式(I)/式(II))は、10/90〜50/50であり、好ましくは20/80〜40/60であり、より好ましくは25/75〜30/70である。
【0037】
これらの各繰り返し単位から構成される液晶ポリエステル(B)は、構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリエステル(B)は異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0038】
液晶ポリエステル(B)は、主たる繰り返し単位としての芳香族オキシカルボニル繰り返し単位として、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を必須に含むものである。式(I)で表される繰り返し単位を与える主たる単量体としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。式(II)で表される繰り返し単位を与える主たる単量体としては、4−ヒドロキシ安息香酸、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0039】
液晶ポリエステル(B)を構成する、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を除く、主たる繰り返し単位としての芳香族オキシカルボニル繰り返し単位を与える主たる単量体の具体例としては、例えば、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0040】
液晶ポリエステル(B)における主たる繰り返し単位としての、芳香族ジオキシ繰り返し単位および芳香族ジカルボニル繰り返し単位を与える主たる単量体の具体例としては、液晶ポリエステル(A)において挙げたものと同様である。
【0041】
本発明において用いる液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、少なくとも一方が、液晶ポリエステル(A)および/または液晶ポリエステル(B)を構成する主たる単量体の合計量100モル部に対して、さらに0.1〜2モル部、好ましくは0.2〜1モル部の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、または芳香族モノヒドロキシ化合物から選択される微量の共重合成分を共重合させたものである。該共重合成分を2種共重合させる場合、該共重合成分の組合せは、芳香族ジオールおよび芳香族モノヒドロキシ化合物、または、芳香族ジカルボン酸および芳香族モノカルボン酸から選択されるのがよい。共重合成分が0.1部を下回る場合は、ブレンド時の反応抑制効果が十分に得られず、2部を上回ると、液晶ポリエステルが高分子化できず、十分な長さのポリマーが得られない。
【0042】
液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)を構成する主たる単量体に対して共重合される微量の共重合成分としての芳香族ジオールの具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられ、微量の共重合成分としての芳香族ジカルボン酸の具体例としてはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体などが挙げられ、微量の共重合成分としての芳香族モノカルボン酸としては、安息香酸、フェニル安息香酸、2−ナフトエ酸、およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体などが挙げられ、微量の共重合成分としての芳香族モノヒドロキシ化合物としては、β−ナフトール、オルトフェニルフェノール、およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0043】
これらの中では、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸または4,4’−ジヒドロキシビフェニルを、液晶ポリエステル(A)および/または液晶ポリエステル(B)を構成する主たる単量体に共重合させるのがよい。
【0044】
本発明は、液晶ポリエステル(A)および/または液晶ポリエステル(B)を製造する際に、特定量の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、または芳香族モノヒドロキシ化合物から選択される微量の共重合成分を共重合させたものを液晶ポリエステルブレンドの製造原料とする。かかる液晶ポリエステルブレンドに、チタン酸カルシウムやチタン酸バリウムなどの充填材を配合して得られる、本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物は、かかる充填剤を含むにもかかわらず、物性低下を抑制し得るという効果を奏する。
【0045】
一般に、2種の液晶ポリエステルをブレンドする場合、ブレンドによって両者が反応することによって耐熱性が低下する傾向があり、特に、チタン酸カルシウムやチタン酸バリウムなどの反応促進作用を有する充填材を配合した場合に、反応がより促進され、耐熱性が著しく低下することがある。しかしながら、本発明においては、液晶ポリエステル(A)および/または液晶ポリエステル(B)の製造の際に、特定量の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、または芳香族モノヒドロキシ化合物から選択される微量の共重合成分を共重合せしめることによって、液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)とをブレンドした際の反応が抑制され、チタン酸カルシウムやチタン酸バリウムなどを含むにもかかわらず、耐熱性が維持されるものである。
【0046】
以下、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法について説明する。
【0047】
本発明に用いる液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法に特に制限はなく、前記の主たる単量体および微量の共重合成分の組み合わせからなるエステル結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0048】
溶融アシドリシス法とは、本発明で用いる液晶ポリエステルの製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0049】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0050】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリエステルを製造する際に使用する単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0051】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリエステルの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0052】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどのチタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0053】
触媒の使用割合は、通常単量体の合計量に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0054】
このようにして重縮合反応され得られた液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0055】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、所望により、耐熱性を高めるなどの目的で、真空下、または窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下において固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0056】
このようにして得られた、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工された液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウムと共に、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて、溶融混練され本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物とされる。
【0057】
液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の配合比率(A)/(B)としては、重量比で99/1〜80/20が好ましく、95/5〜80/20がより好ましく、90/10〜80/20が特に好ましい。
【0058】
(A)/(B)が99/1よりも大きい場合は、十分に流動性や低温加工性が改善されず、(A)/(B)が80/20より小さい場合は高い衝撃強度が得られないため好ましくない。
【0059】
本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物は、チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウムを含むにもかかわらず、機械的性質や熱的性質の低下を起さず、誘電特性に優れた液晶ポリエステルブレンド組成物である。
【0060】
なお、本発明において、誘電特性が優れるとは、誘電率が高く、かつ誘電正接が低いことを意味する。
【0061】
チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウムの配合量は、液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)との合計量100重量部に対して、0.1〜300重量部、好ましくは1〜250重量部、より好ましくは10〜200重量部である。
【0062】
チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウムの配合量が300重量部を超える場合には、成形加工性が低下したり、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる傾向がある。
【0063】
また、本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物には、チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウムに加えて、さらにチタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウム以外の他の充填材を配合してもよい。
【0064】
本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物に配合してもよい、チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウム以外の他の充填材としては、例えば、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上のものが挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0065】
本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物における、チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウムと他の充填材の配合量は、液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)との合計量100重量部に対して、0.1〜400重量部、好ましくは1〜300重量部であるのがよい。
【0066】
チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウムと他の充填剤の合計量が400重量部を超える場合には、成形加工性が低下したり、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる傾向がある。
【0067】
このようにして得られた本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物は、ギガヘルツ帯域の高周波領域において、高い誘電率および低い誘電正接を示すものである。具体的には、長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を用いて、1GHzにおいて測定した誘電率が5以上、好ましくは7以上であり、また、同様の条件で測定した誘電正接(tanδ)が0.003以下、好ましくは0.0015以下である。誘電率および誘電正接は、空洞共振器摂動法によって測定することができる。
【0068】
さらに、本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物は、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を用いてASTM D256に準拠して測定したIzod衝撃強度が10J/m以上、より好ましくは15J/m以上、特に好ましくは20J/m以上と非常に高く、衝撃強度に優れるものである。
【0069】
本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは炭素原子数10〜25のものをいう)、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などから選ばれる1種または2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0070】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物を成形するに際して、予め、液晶ポリエステルブレンド組成物のペレットの表面に付着せしめてもよい。
【0071】
また、本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物と同様の温度域で成形加工可能である他の樹脂成分を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。他の樹脂成分の配合量は特に限定的ではなく、液晶ポリエステルブレンド組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には、本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物中の液晶ポリエステル(A)および液晶ポエステル(B)の合計100重量部に対して、他の樹脂の合計配合量が0.1〜100重量部、特に0.1〜80重量部となる範囲で添加される。
【0072】
このようにして得られた、本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって、成形品、フィルム、シート、および不織布などに加工される。
【0073】
本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物は、高周波帯域における誘電特性に優れるとともに、衝撃強度および成形加工性に優れるため、アンテナ、コネクター、基板などの高周波用途で用いられる電子部品の材料として特に好適に用いられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
実施例および比較例において、荷重たわみ温度(DTUL)、曲げ強度、Izod衝撃強度、誘電率、誘電正接(tanδ)は以下の方法で測定した。
【0075】
1)荷重たわみ温度(DTUL)
試料を、射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片に成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で測定した。
【0076】
2)曲げ強度
試料を、型締め圧110トンの射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて、シリンダ温度350℃、金型温度70℃で射出成形し、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を得た。曲げ試験はASTM D790に従って行った。
【0077】
3)Izod衝撃強度
荷重たわみ温度測定に用いた試験片と同じ試験片を用いて、試験片の中央を長さ方向に垂直に切断し、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を得、ASTM D256に準拠して測定した。
【0078】
4)誘電率および誘電正接(tanδ)
試料を、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製 PS40)を用いて、長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片に成形し、その試験片を用いて、ベクトルネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー社製)にて1GHzにおける誘電率および誘電正接を空洞共振器摂動法により測定した。
【0079】
以下、合成例および実施例における略号は以下の化合物を表す。
〔液晶ポリエステル樹脂モノマー〕
BON6:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
POB:4−ヒドロキシ安息香酸
BP:4,4’−ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
【0080】
合成例1
LCP−Iの合成
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器にBON6、BP、HQ、およびTPAを表1に示す組成比で、総量1840molとなるように仕込み、次いで酢酸カリウム7.55g(全モノマーに対して22.6ppm)および、全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
表1:合成例1モノマー組成比
【表1】

【0081】
合成例2
LCP−IIの合成(液晶ポリエステル(A))
合成例1の組成に対し、さらに、テレフタル酸1.5kg(合成例1のモノマー組成100モル部に対し0.5モル部)を仕込み、その過剰分に合わせて酢酸カリウム量を7.59gとした以外は合成例1と同様にして脱酢酸重合を行った。
【0082】
合成例3
LCP−IIIの合成
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器にPOBおよびBON6を、表2に示す組成比で、総量1840molとなるように仕込み、全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
表2:合成例3モノマー組成比
【表2】

【0083】
窒素ガス雰囲気下に室温〜150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、325℃まで5時間かけて昇温した後、90分かけて20mmHgにまで減圧を行ない、所定のトルクを示した時点で重合反応を終了した。反応容器からストランド状に内容物を取り出し、ストランドを切断し液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0084】
合成例4
LCP−IVの合成(液晶ポリエステル(B))
合成例3の組成に対し、さらに、テレフタル酸1.5kg(合成例1のモノマー組成100モル部に対し0.5モル部)を仕込んだ以外は合成例3と同様にして脱酢酸重合を行った。
【0085】
実施例1〜9、比較例1〜3
表3に示すように、LCP−I〜LCP-IVを所定の重量比となるようにブレンドし、さらに充填材としてチタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウムおよび/またはガラス繊維を配合して、二軸押出機TEX−30(日本製鋼所株式会社製)を用いて、350℃にて溶融混練を行い、液晶ポリエステルブレンド組成物のペレットを作製した。
【0086】
得られた各ペレットについて、荷重たわみ温度、曲げ強度、Izod衝撃強度、および 誘電率、誘電正接を測定した。
結果を表3に示す。
表3:液晶ポリエステルブレンド組成物の物性値
【表3】

※チタン酸カルシウム、チタン酸バリウムおよびガラス繊維の配合量は、LCP−1からIVの合計量100重量部に対する重量部で示す。
【0087】
実施例1〜9の液晶ポリエステルブレンド組成物は、いずれも誘電率が5以上で誘電正接が0.0015以下と誘電特性に優れると共に、荷重たわみ温度(DTUL)が220℃以上、曲げ強度が130MPa以上、Izod衝撃度が20J/m以上と、耐熱性や衝撃強度にも優れるものであった。
【0088】
一方、LCP−IとLCP−IIIのブレンドである比較例1および2は、チタン酸カルシウムを添加することにより高誘電率で低誘電正接のブレンド組成物が得られるものの、荷重たわみ温度、曲げ強度またはIzod衝撃度のいずれかが低いものであった。
【0089】
また、LCP−IIとLCP−IVのブレンドではあるが、充填材としてガラス繊維のみを添加した比較例3のブレンド組成物は、耐熱性や衝撃強度には優れるものの、誘電率が5未満で、誘電正接が0.003以上であり、誘電特性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の液晶ポリエステルブレンド、および、該液晶ポリエステルブレンド100重量部に対して、チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウム0.1〜300重量部を含む液晶ポリエステルブレンド組成物であり、
該液晶ポリエステルブレンドは、
以下の液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)を、(A)/(B)が重量比で99/1〜80/20となるよう配合することにより得られるものであり、
液晶ポリエステル(A):主たる繰り返し単位が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位および芳香族ジカルボニル繰り返し単位からなり、等モルの芳香族ジオキシ繰り返し単位と芳香族ジカルボニル繰り返し単位を含み、構造中に式(I)で表される繰り返し単位を40〜80モル%含む液晶ポリエステル;
液晶ポリエステル(B):以下の液晶ポリエステル(b−1)または(b−2)から選択され、主たる繰り返し単位の全量中に、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を、合計量で90モル%以上含み、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位のモル比率(式(I)/式(II))が10/90〜50/50である液晶ポリエステル:
液晶ポリエステル(b−1):主たる繰り返し単位が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位のみで構成される液晶ポリエステル:
液晶ポリエステル(b−2):主たる繰り返し単位が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位、および芳香族ジカルボニル繰り返し単位から構成される液晶ポリエステルであり、芳香族ジオキシ繰り返し単位と芳香族ジカルボニル繰り返し単位の量は等モルである液晶ポリエステル:
ただし、該液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)の少なくとも一方の製造工程において、その主たる繰り返し単位をもたらす主たる単量体の合計量100モル部に対して、さらに0.1〜2モル部の芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、または芳香族モノヒドロキシ化合物から選択される1種または2種の微量の共重合成分を共重合させる工程を含む、液晶ポリエステルブレンド組成物。
【化1】

(I)
【化2】

(II)
【請求項2】
液晶ポリエステル(A)が、主たる繰り返し単位である芳香族オキシカルボニル繰り返し単位として、式(I)で表される繰り返し単位のみを含むものである、請求項1に記載の液晶ポリエステルブレンド組成物。
【請求項3】
液晶ポリエステル(A)および/または液晶ポリエステル(b−2)において、主たる繰り返し単位である芳香族ジオキシ繰り返し単位が、以下の式(1)〜(3)で表される繰り返し単位からなる群より選択される1種以上のものであり、主たる繰り返し単位である芳香族ジカルボニル繰り返し単位が、以下の式(4)〜(6)で表される繰り返し単位からなる群より選択される1種以上のものである、請求項1または2に記載の液晶ポリエステルブレンド組成物。
【化3】

【化4】

【請求項4】
液晶ポリエステル(B)が、主たる繰り返し単位の合計量に対して、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を、合計量で95モル%以上含むものである、請求項1〜3の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド組成物。
【請求項5】
さらに、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上の他の充填材を含み、チタン酸カルシウムおよび/またはチタン酸バリウムと該他の充填材との合計量が、液晶ポリエステルブレンド100重量部に対して0.1〜400重量部である、請求項1〜4いずれかに記載の液晶ポリエステルブレンド組成物。
【請求項6】
他の充填材がガラス繊維である請求項5に記載の液晶ポリエステルブレンド組成物。
【請求項7】
長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を用いて、1GHzにおいて測定した誘電率が5以上である請求項1〜6の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド組成物。
【請求項8】
長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を用いて、1GHzにおいて測定した誘電正接が0.003以下である請求項1〜7の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド組成物を成形してなる成形品。
【請求項10】
アンテナ、コネクター、または基板である請求項9記載の成形品。

【公開番号】特開2011−21178(P2011−21178A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128957(P2010−128957)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】