説明

液晶ポリエステルブレンド

【課題】高周波帯域での誘電特性に優れるとともに、衝撃強度および成形加工性に優れる液晶ポリエステルブレンドを提供する。
【解決手段】液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)のブレンド物で、(A)/(B)が重量比で99/1〜80/20。液晶ポリエステル(A):芳香族オキシカルボニル、芳香族ジオキシ、および芳香族ジカルボニル繰り返し単位からなり、全繰り返し単位中に、式(I)で表される繰り返し単位を40〜80モル%含む;液晶ポリエステル(B):全繰り返し単位中に、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を、合計量で90モル%以上含み、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位のモル比率(式(I)/式(II))が10/90〜50/50。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波帯域における誘電特性に優れ、衝撃強度および成形加工性に優れる液晶ポリエステルブレンドに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては、日常生活のマルチメディア化や、有料道路におけるETC装置やGPSに代表されるITS(高度道路交通システム、Intelligent Transport Systems)の利用が急速に進んでいる。これに伴う情報通信のトラフィックの爆発的な増加に対応するべく、情報を伝送する周波数の高周波化が進んでいる。
【0003】
このように高周波化された情報通信装置に用いられる材料としては、高周波帯域(特にギガヘルツ帯域)における誘電特性に優れ、生産性や軽量性に優れたエンジニアリングプラスチック材料が有望視されており、各種通信機器、電子デバイスなどの筐体やパッケージや誘電体デバイス等としての適用が期待されている。
【0004】
上述のエンジニアリングプラスチックの中でも、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂(以下液晶ポリエステル樹脂またはLCPと略称する)は、
(1)比誘電率(εr)が使用周波数領域帯域で一定であり、誘電正接(tanδ)が低いなど誘電特性に優れる、
(2)低膨張特性(環境寸法安定性)、耐熱性、難燃性、剛性等の機械物性など種々の物性に優れている、
(3)成形時の流動性に優れ、薄肉部、微細部を有する成形品を容易に加工できる、
などの優れた性質を有することから、高周波用途において特に期待されている材料である。
【0005】
以上説明した液晶ポリエステル樹脂の中でも、耐熱性や、誘電特性に優れることから、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰り返し単位を多量に含む液晶ポリエステルについて、近年、活発に開発が進んでいる(特許文献1〜3を参照)。
【0006】
しかし、芳香族ヒドロキシカルボン酸として6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を多量に用いた特許文献1〜3に開示される液晶ポリエステルは、誘電特性は優れるものの、衝撃強度に劣るものであり、日常の使用において落下などによる衝撃を受けやすい携帯電話などの部品には使用しにくいという問題がある。
【0007】
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸として多量の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸とともに少量のp−ヒドロキシ安息香酸をモノマーに用いた特許文献3に開示される液晶ポリエステル樹脂については、融点が高いために射出成形などにより加工しにくいという問題がある。
【0008】
これらのことから、誘電特性に優れるとともに、衝撃強度および成形加工性に優れる液晶ポリエステル樹脂が求められている。
【特許文献1】特開2004−196930号公報
【特許文献2】特開2007−154169号公報
【特許文献3】特開2002−179776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高周波帯域での誘電特性に優れるとともに、衝撃強度および成形加工性に優れる液晶ポリエステルブレンドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)を、(A)/(B)が重量比で99/1〜80/20となるよう配合して得られる液晶ポリエステルブレンドを提供する:
液晶ポリエステル(A):芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位、および芳香族ジカルボニル繰り返し単位からなり、全繰り返し単位中に、式(I)で表される繰り返し単位を40〜80モル%含む液晶ポリエステル;
液晶ポリエステル(B):全繰り返し単位中に、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を、合計量で90モル%以上含み、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位のモル比率(式(I)/式(II))が10/90〜50/50である液晶ポリエステル。
【化1】

【化2】

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の液晶ポリエステルブレンドに用いる液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルと呼ばれる異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルである。
【0012】
液晶ポリエステルの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0013】
以下、液晶ポリエステル(A)について説明する。
本発明に用いる液晶ポリエステル(A)は芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位、および芳香族ジカルボニル繰り返し単位のみから構成されるものであって、全繰り返し単位中に式(I)で表される繰り返し単位を40〜80モル%、より好ましくは45〜70モル%、特に好ましくは50〜65モル%含むものである。
【0014】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリエステルは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリエステルは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0015】
まず、芳香族オキシカルボニル繰返し単位について説明する。
本発明において用いる液晶ポリエステル(A)は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位として式(I)で表される繰返し単位を必須に含むものである。式(I)で表される繰返し単位を与える単量体としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0016】
式(I)で表される繰返し単位以外の芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0017】
液晶ポリエステル(A)において全繰返し単位中の芳香族オキシカルボニル繰返し単位の含有量は、40〜80モル%であるのが好ましく、45〜70モル%であるのがより好ましく、50〜65モル%であるのが特に好ましい。
【0018】
液晶ポリエステル(A)は好ましくは、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位として式(I)で表される繰り返し単位のみを含むものである。
【0019】
次に、芳香族ジオキシ繰返し単位について説明する。
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0020】
本発明において用いる液晶ポリエステル(A)に含まれる芳香族ジオキシ繰返し単位について、結晶融解温度などを調節しやすいことから、以上説明した単量体により与えられる芳香族ジオキシ繰返し単位のなかでも、以下の式(1)〜(3)で表される繰返し単位から選択される1種以上のものから構成されるのがよい。
【化3】

【0021】
また、液晶ポリエステル(A)に含まれる芳香族ジオキシ繰返し単位について、液晶ポリエステル(A)が耐熱性や機械的性質に優れる点で、式(1)〜(3)で表される繰返し単位から選択される1種以上のものからなるものであって、式(3)で表される繰返し単位を、芳香族ジオキシ繰返し単位の合計量に対して、50モル%以上、より好ましくは80〜99.9モル%、特に好ましくは85〜99モル%、最も好ましくは90〜98モル%含むものがさらによい。
【0022】
次に芳香族ジカルボニル繰返し単位について説明する。
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0023】
本発明において用いる液晶ポリエステル(A)としては、以上説明した単量体により与えられる芳香族ジカルボニル繰返し単位のなかでも、液晶ポリエステル(A)の機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから、以下の式(4)〜(6)で表される繰返し単位から選択される1種以上を含むものが好ましい。
【化4】

【0024】
液晶ポリエステル(A)において、全繰返し単位中の芳香族ジオキシ繰返し単位と芳香族ジカルボキシ繰返し単位のモル比率は、9/10〜10/9であるのが好ましく、95/100〜100/95であるのがより好ましい。
【0025】
本発明において用いる液晶ポリエステル(A)は、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位、および芳香族ジカルボニル繰り返し単位のみからなり、全繰り返し単位中に、式(I)で表される繰り返し単位を40〜80モル%含む液晶ポリエステルであれば、2種以上の液晶ポリエステルを別々に、あるいは溶融混練して液晶ポリエステルブレンドとしたものを用いてもよい。
【0026】
液晶ポリエステル(A)として好適な繰返し単位の組み合わせを有する液晶ポリエステルの具体例としては、以下の1)〜24)ものが挙げられる。
1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/テレフタル酸共重合体
2)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
3)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/イソフタル酸共重合体
4)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/テレフタル酸共重合体
5)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
6)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/イソフタル酸共重合体
7)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/テレフタル酸共重合体
8)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
9)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/イソフタル酸共重合体
10)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/テレフタル酸共重合体
11)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
12)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4−ヒドロキシ安息香酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/イソフタル酸共重合体
13)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
14)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体
15)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン/2,6−ナフタレンジカルボン酸/イソフタル酸共重合体
16)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
17)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体
18)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/レゾルシン/2,6−ナフタレンジカルボン酸/イソフタル酸共重合体
19)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/テレフタル酸共重合体
20)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
21)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/イソフタル酸共重合体
22)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/テレフタル酸共重合体
23)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
24)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/イソフタル酸共重合体。
【0027】
これらの中では、1)、2)、4)、7)、8)、10)、11)、23)の共重合体が好ましい。
【0028】
次に、液晶ポリエステル(B)について説明する。
本発明において用いる液晶ポリエステル(B)は、全繰り返し単位中に、芳香族オキシカルボニル繰返し単位である、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を、合計量で90モル%以上含み、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位のモル比率(式(I)/式(II))が10/90〜50/50である液晶性ポリエステルである。
【0029】
液晶ポリエステル(B)については、所定の量および比率で、式(I)で表される繰返し単位と式(II)で表される繰返し単位を含有するものであれば、液晶ポリエステル(B)を構成する繰返し単位の種類および組み合わせは特に制限されない。
【0030】
本発明において用いる液晶ポリエステル(B)は、式(I)で表される繰返し単位と式(II)で表される繰返し単位を、所定の量および比率で含んでいるものであれば、2種以上の液晶ポリエステル樹脂を別々に、あるいは溶融混練して液晶ポリエステルブレンドとしたものを用いてもよい。
【0031】
液晶ポリエステル(B)において、式(I)で表される繰返し単位と式(II)で表される繰返し単位の合計量は90〜100モル%であり、より好ましくは95〜100モル%であり、特に好ましくは100モル%である。
【0032】
液晶ポリエステル(B)において、式(I)で表される繰返し単位および式(II)で表される繰返し単位のモル比率(式(I)/式(II))が10/90〜50/50であり、より好ましくは20/80〜40/60であり、特に好ましくは25/75〜30/70である。
【0033】
本発明において用いる液晶ポリエステル(B)は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位として式(I)で表される繰返し単位および式(II)で表される繰返し単位を必須に含むものである。式(I)で表される繰返し単位を与える単量体としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。式(II)で表される繰返し単位を与える単量体としては、4−ヒドロキシ安息香酸、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0034】
本発明に用いる液晶ポリエステル(B)を構成する、式(I)で表される繰返し単位および式(II)で表される繰返し単位を除く、好適な繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。
【0035】
式(I)で表される繰返し単位および式(II)で表される繰返し単位を除く芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0036】
芳香族ジオキシ繰返し単位および芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、液晶ポリエステル(A)において挙げたものと同様である。
【0037】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステルおよび/またはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0038】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステルおよび/または形成性誘導体が挙げられる。
【0039】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0040】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0041】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリエステルを得ることができる。
【0042】
以下、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法について説明する。
本発明に用いる液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0043】
溶融アシドリシス法とは、本発明で用いる液晶ポリエステルの製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0044】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0045】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリエステルを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0046】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0047】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどのチタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0048】
触媒の使用割合は、通常モノマーに対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0049】
このようにして重縮合反応され得られた液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0050】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、所望により、耐熱性を高めるなどの目的で、真空下、または窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下において固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0051】
このようにして得られた、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工された液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて、溶融混練され本発明の液晶ポリエステルブレンドとされる。
【0052】
液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の配合比率(A)/(B)としては、重量比で99/1〜80/20が好ましく、95/5〜80/20が特に好ましく、90/10〜80/20が最も好ましい。
【0053】
(A)/(B)が99/1よりも大きい場合は、十分に流動性や低温加工性が改善されず、(A)/(B)が80/20より小さい場合は高い衝撃強度が得られないため好ましくない。
【0054】
このようにして得られた、本発明の液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)からなる液晶ポリマーブレンドは、結晶融解温度が350℃未満、より好ましくは340℃以下、特に好ましくは330℃以下であって、荷重たわみ温度が250〜310℃、より好ましくは270〜310℃、特に好ましくは280〜310℃であり、成形加工性と耐熱性のバランスに優れたものである。
【0055】
また、本発明の液晶ポリマーブレンドは、ギガヘルツ帯域の高周波領域において低い誘電正接を示すものである。具体的には1GHzの測定条件において、0.001以下、より好ましくは0.0008以下と非常に低い誘電正接を示すものである。液晶ポリマーブレンドの誘電正接については、空洞共振器摂動法によって測定することが出来る。
【0056】
さらに、本発明の液晶ポリマーブレンドは、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を用いてASTM D256に準拠して測定したIzod衝撃強度が200J/m以上、より好ましくは220J/m以上、特に好ましくは250J/m以上と非常に高く、衝撃強度に優れるものである。
【0057】
上記のようにして得られた液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)からなる液晶ポリエステルブレンドに、無機充填材および/または有機充填材を配合して、液晶ポリエステルブレンド組成物としてもよい。
【0058】
本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物に配合してもよい、無機充填材および/または有機充填材としては、たとえばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0059】
本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物における、無機充填材および/または有機充填材の配合量は、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の合計量100重量部に対して、0.1〜200重量部、好ましくは1〜100重量であるのがよい。
【0060】
前記の無機充填材および/または有機充填材の配合量が200重量部を超える場合には、成形加工性が低下したり、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる傾向がある。
【0061】
本発明の液晶ポリエステルブレンド組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは炭素原子数10〜25のものをいう)、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などから選ばれる1種または2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0062】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、本発明の液晶ポリエステルブレンドまたはその組成物を成形するに際して、予め、液晶ポリエステルブレンドまたはその組成物のペレットの表面に付着せしめてもよい。
【0063】
また、本発明の液晶ポリエステルブレンドまたはその組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、本発明の液晶ポリエステルブレンドと同様の温度域で成形加工可能である他の樹脂成分を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。他の樹脂成分の配合量は特に限定的ではなく、液晶ポリエステルブレンド組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には、本発明の液晶ポリエステルブレンドまたはその組成物中の液晶ポリエステル(A)および液晶ポエステル(B)の合計100重量部に対して、他の樹脂の合計配合量が0.1〜100重量部、特に0.1〜80重量部となる範囲で添加される。
【0064】
液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)からなる本発明の液晶ポリエステルブレンドと、無機充填材および/または有機充填材とは、所望により各種添加剤や他の樹脂成分などを組み合わせ、所定の組成で、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、液晶ポリエステルブレンド組成物とすることができる。
【0065】
これらの、無機充填材および/または有機充填材、各種添加剤や他の樹脂成分などは、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)からなる液晶ポリエステルブレンドに配合してもよく、液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)との溶融混練時に同時に配合してもよい。
【0066】
この様にして得られた、本発明の液晶ポリエステルブレンドまたは液晶ポリエステルブレンド組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって、成形品、フィルム、シート、および不織布などに加工される。
【0067】
本発明の液晶ポリエステルブレンドまたは液晶ポリエステルブレンド組成物は、高周波帯域における誘電特性に優れるとともに、衝撃強度および成形加工性に優れるため、アンテナ、コネクター、基板などの高周波用途で用いられる電子部品の材料として特に好適に用いられる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
実施例および比較例において、結晶融解温度(Tm)、荷重たわみ温度(DTUL)、引張強度、曲げ強度、Izod衝撃強度、誘電正接(tanδ)は以下の方法で測定した。
【0069】
1)結晶融解温度(Tm)
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメント株式会社製 Exstar6000を用い、液晶ポリエステルブレンドまたは液晶ポリエステルの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの融点とした。
【0070】
2)荷重たわみ温度(DTUL)
液晶ポリエステルブレンドまたは液晶ポリエステルの試料を射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片に成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で測定した。
【0071】
3)引張強度
型締め圧15トンの射出成形機(住友重機械工業株式会社製 MINIMAT M26/15)を用いてシリンダ温度350℃、金型温度70℃で射出成形し、図1の厚み2.0mmのダンベル状試験片を得た。引張試験はINSTRON5567(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、スパン間距離25.4mm、引っ張り速度5mm/minで行った。
【0072】
4)曲げ強度
型締め圧15トンの射出成形機(住友重機械工業株式会社製 MINIMAT M26/15)を用いてシリンダ温度350℃、金型温度70℃で射出成形し、12.7×127×3.2mmの短冊状曲げ試験片を得た。曲げ試験はASTM D790に従って行った。
【0073】
5)Izod衝撃強度
荷重たわみ温度測定に用いた試験片と同じ試験片を用いて、試験片の中央を長さ方向に垂直に切断し、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を得、ASTM D256に準拠して測定した。
【0074】
6)誘電正接(tanδ)
射出成形機(日精樹脂工業株式会社製 PS40)を用いて、長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を作成し、その試験片を用いて、ベクトルネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー社製)にて1GHzにおける誘電正接を空洞共振器摂動法により測定した。
【0075】
以下、合成例および実施例における略号は以下の化合物を表す。
〔液晶ポリエステル樹脂モノマー〕
BON6:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
POB:4−ヒドロキシ安息香酸
BP:4,4’−ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
【0076】
合成例1
LCP−Iの合成((液晶ポリエステル(A))
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器にBON6、BP、HQ、およびTPAを表1に示す組成比で、総量1840molとなるように仕込み、次いで酢酸カリウム7.55g(全モノマーに対して22.6ppm)および、全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0077】
表1:合成例1モノマー組成比
【表1】

【0078】
窒素ガス雰囲気下に室温〜150℃まで1時間で昇温し、同温度にて60分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、90分かけて10mmHgにまで減圧し、所定のトルクを示した時点で重合反応を終了した。反応容器からストランド状に内容物を取り出し、ストランドを切断し液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0079】
合成例2
LCP−IIの合成((液晶ポリエステル(B))
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器にPOBおよびBON6を、以下の表2に示す組成比で、総量1840molとなるように仕込み、全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0080】
表2:合成例2モノマー組成比
【表2】

【0081】
窒素ガス雰囲気下に室温〜150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、325℃まで5時間かけて昇温した後、90分かけて20mmHgにまで減圧を行ない、所定のトルクを示した時点で重合反応を終了した。反応容器からストランド状に内容物を取り出し、ストランドを切断し液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0082】
合成例3
LCP−IIIの合成
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器にBON6、POB、BP、HQおよびTPAを、表3に示す組成比で、総量1840molとなるように仕込み、全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、合成例1と同様の条件で脱酢酸重合を行い液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0083】
表3:合成例3モノマー組成比
【表3】

【0084】
合成例4
LCP−IVの合成
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器にBON6、BPおよびTPAを、表4に示す組成比で、総量1840molとなるように仕込み、次いで酢酸カリウム7.60g(全モノマーに対し22.6ppm)および、全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、合成例1と同様の条件で脱酢酸重合を行い液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0085】
表4:合成例4モノマー組成比
【表4】

【0086】
実施例1〜3、比較例1および比較例2
LCP−IおよびLCP-IIを、表5に記載の重量比となるように配合し、二軸押出機TEX−30(日本製鋼所株式会社製)を用いて、350℃にて溶融混練を行い液晶ポリエステルブレンドをペレットとして得た。
【0087】
比較例3〜6
合成例1〜4により得られた液晶ポリエステルLCP−I〜LCP−IVについて、ブレンドすることなくそれぞれ単独で、実施例1と同様にして、結晶融解温度、荷重たわみ温度、引張強度、曲げ強度、Izod衝撃強度、および誘電正接の評価を行った。
【0088】
得られた結果を表5に記す。
【0089】
表5:液晶ポリエステルブレンドおよび液晶ポリエステルの物性値
【表5】

*1:モノマー比率については、実施例1〜3、比較例1、および比較例2についてはブレンド後の比率。
*2:1GHzでの測定値。
【0090】
実施例1〜3と比較例1〜3の比較により、LCP−I(比較例3)にLCP−II(比較例4)を20wt%までのブレンド比率で配合することによって、LCP−Iの引張強度や曲げ強度などの機械物性、および低い誘電正接(tanδ)を保ったまま、Izod衝撃強度を大きく改善することができた。
【0091】
また、実施例2と比較例5の比較により、モノマーの構成比率としてはほぼ同様のものであるにもかかわらず、LCP−IとLCP−IIのブレンドによって得られた実施例2の液晶ポリエステルブレンドのほうが、比較例5の液晶ポリエステル(LCP−IV)よりも、荷重たわみ温度(耐熱性)、引張強度、曲げ強度、およびIzod衝撃強度など、何れの性質においても優れていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】引張強度試験に用いたダンベル状試験片の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)を、(A)/(B)が重量比で99/1〜80/20となるよう配合して得られる液晶ポリエステルブレンド:
液晶ポリエステル(A):芳香族オキシカルボニル繰り返し単位、芳香族ジオキシ繰り返し単位、および芳香族ジカルボニル繰り返し単位からなり、全繰り返し単位中に、式(I)で表される繰り返し単位を40〜80モル%含む液晶ポリエステル;
液晶ポリエステル(B):全繰り返し単位中に、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を、合計量で90モル%以上含み、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位のモル比率(式(I)/式(II))が10/90〜50/50である液晶ポリエステル。
【化1】

【化2】

【請求項2】
液晶ポリエステル(A)が、芳香族オキシカルボニル繰り返し単位として式(I)で表される繰り返し単位のみを含むものである、請求項1に記載の液晶ポリエステルブレンド。
【請求項3】
液晶ポリエステル(A)において、芳香族ジオキシ繰り返し単位が以下の式(1)〜(3)で表される繰り返し単位からなる群より選択される1種以上のものであり、芳香族ジカルボニル繰り返し単位が以下の式(4)〜(6)で表される繰り返し単位からなる群より選択される1種以上のものである、請求項2に記載の液晶ポリエステルブレンド。
【化3】

【請求項4】
液晶ポリエステル(B)が、全繰り返し単位中に、式(I)で表される繰り返し単位および式(II)で表される繰り返し単位を、合計量で95モル%以上含むものである、請求項1〜3の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド。
【請求項5】
示差操作熱量計により測定される結晶融解温度が350℃未満であり、荷重たわみ温度が250〜310℃である、請求項1〜4の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド。
【請求項6】
長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を用いてASTM D256に準拠して測定したIzod衝撃強度が200J/m以上である、請求項1〜5の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド。
【請求項7】
長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を用いて、1GHzにおいて測定した誘電正接が0.001以下である請求項1〜6の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド100重量部に対し、無機充填材および/または有機充填材の1種以上を0.1〜200重量部含んでなる液晶ポリエステルブレンド組成物。
【請求項9】
無機充填材および/または有機充填材が、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上のものである、請求項8に記載の液晶ポリエステルブレンド組成物。
【請求項10】
無機充填材がガラス繊維である請求項9に記載の液晶ポリエステルブレンド組成物。
【請求項11】
請求項1〜7の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンドまたは請求項8〜10の何れかに記載の液晶ポリエステルブレンド組成物を成形してなる成形品。
【請求項12】
アンテナ、コネクター、または基板である請求項11に記載の成形品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−108191(P2009−108191A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281827(P2007−281827)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】