説明

液晶ポリエステル含有液状組成物

【課題】保存中の粘度上昇を抑制した液晶ポリエステル含有液状組成物。
【解決手段】式(1)〜(3)で示される繰返し単位を有する液晶ポリエステルと、N,N−ジメチルアセトアミドおよび式(5)の化合物を含む有機溶媒と、を含む。(1)−O−Ar−CO−、(2)−CO−Ar−CO−、(3)−X−Ar−Y−、(Arは、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基を表す。Ar、Arは、それぞれフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は式(4)で表される基を表す。X、Yは、それぞれ酸素原子又はイミノ基を表す)、(4)−Ar−Z−Ar−(Ar、Arは、それぞれフェニレン基、ナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキリデン基を表す)


(R、及びRは、それぞれ水素原子、炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは1以上4以下の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルと有機溶媒とを含む液晶ポリエステル含有液状組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、耐熱性や強度が高く、吸湿性や誘電損失が低いことから、プリント配線板の絶縁層の材料として検討されている。具体的な形態としては、プリント配線板の材料として、液晶ポリエステルをシート状またはフィルム状に加工したものが用いられている。このような絶縁層に用いられる液晶ポリエステルフィルムや液晶ポリエステル含浸繊維シートを製造する方法として、液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物(以下、「液晶ポリエステル含有液状組成物」と称することがある)を用いる方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1や特許文献2には、上述したような液状組成物を支持基板上に流延した後、溶媒を除去することにより、液晶ポリエステルフィルムを製造する方法が開示されている。また、特許文献3や特許文献4には、上述したような液状組成物を繊維シートに含浸した後、溶媒を除去することにより、液晶ポリエステル含浸繊維シートを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−315678号公報
【特許文献2】特開2005−342980号公報
【特許文献3】特開2006−1959号公報
【特許文献4】特開2007−146139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術には次のような課題がある。すなわち、特許文献1から4に記載されている液晶ポリエステルと有機溶媒とを含む液状組成物は、常温で保存すると、徐々に粘度が上昇する。すると、液状組成物を使用するとき、液状組成物が保存容器から出しにくい、または、液状組成物が所望の状態に塗れ広がりにくい、といった作業上の不具合が生じる。さらに、保存が長期になると液状組成物がゲル化し、使用が困難になるという不具合も生じる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、保存中の粘度上昇を抑制した液晶ポリエステル含有液状組成物を提供することを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の液晶ポリエステル含有液状組成物は、液晶ポリエステルと有機溶媒とを含む液晶ポリエステル含有液状組成物であって、前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有し、前記有機溶媒が、N,N−ジメチルアセトアミドと、下記式(5)で表される化合物と、を含むことを特徴とする。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4−Z−Ar5
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【化1】

(式中R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは1以上4以下の整数である)
【0008】
本発明においては、前記式(5)の整数nが、2又は3であることが望ましい。
【0009】
本発明においては、前記式(5)のR及びRが、共にメチル基であることが望ましい。
【0010】
本発明においては、前記液晶ポリエステルが、自身を構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有することが望ましい。
【0011】
本発明においては、前記式(3)で示される繰返し単位において、X及びYのいずれか一方または両方が、イミノ基であることが望ましい。
【0012】
本発明においては、前記液晶ポリエステルの含有量が、前記液晶ポリエステル及び前記有機溶媒の合計量に対して、10質量%以上50質量%以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保存中の粘度上昇を抑制した液晶ポリエステル含有液状組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る液晶ポリエステル含有液状組成物について説明する。
【0015】
(液晶ポリエステル)
本実施形態で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0016】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0017】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0018】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)と、を有することがより好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0019】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個以下である。
【0020】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は好ましくは1〜10である。
【0021】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0022】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0023】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0024】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上60モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上40モル%以下である。
【0025】
同様に、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0026】
同様に、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0027】
これらは、繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、有機溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0028】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0029】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0030】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、XとYとのいずれか一方または両方がイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位と、芳香族ジアミンに由来する繰返し単位と、のいずれか一方または両方を有することが、有機溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰返し単位(3)として、XとYとのいずれか一方または両方がイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
【0031】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0032】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃以上350℃以下、さらに好ましくは260℃以上330℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、有機溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0033】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0034】
(液晶ポリエステル含有液状組成物)
本実施形態の液晶ポリエステル含有液状組成物は、前述のような液晶ポリエステルに加えて、有機溶媒を含むものである。有機溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+有機溶媒])で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0035】
そして本実施形態では、有機溶媒として、N,N−ジメチルアセトアミドと、下記式(5)で示した化合物を含む。これにより、常温で保存しても粘度が上昇し難く、取り扱い性が向上した液状組成物を得ることが出来る。
【0036】
【化2】

(式中R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは1以上4以下の整数である)
【0037】
式(5)のR、及びRの炭素数1〜3のアルキルとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。しかしながら、炭素数が多くなると疎水性が増し、液晶ポリエステルが溶解し難くなる傾向になることから、R及びRはメチル基またはエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0038】
また、式(5)中の整数nとしては、化合物の入手性が比較的容易になる観点から2以上が好ましく、3以上であると、得られる組成物の粘度上昇を一層抑えられることからより好ましい。
【0039】
式(5)の具体例としては以下の式(5−a)から(5−l)の構造を有する化合物が挙げられる。
【0040】
【化3】

【0041】
上記式(5−a)から(5−l)の構造を有する化合物の中では、一般式(5)において整数nが3以上である(5−e)〜(5−l)が好ましく、R及びRがメチル基である(5−f)、(5−j)がより好ましい。中でも、(5−f)が特に好ましい。
【0042】
式(5)の化合物を得る方法としては、公知の合成反応によって得ても良いし、又は市販のものを使用しても良い。
【0043】
また、式(5)の化合物と混合する有機溶媒は、必要に応じて2種以上の混合溶媒として用いることとしてもよい。このような有機溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性溶媒が好ましく、ハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒がより好ましい。
【0044】
非プロトン性溶媒の例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系溶媒;アセトニトリル、サクシノニトリル等のニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン系溶媒が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を混合して用いてもよい。中でも、アミド系溶媒やラクトン系溶媒が好ましく、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチルピロリドンがより好ましい。
【0045】
また、有機溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である有機溶媒が好ましく、液状組成物の流延後や含浸後に除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である有機溶媒が好ましい。
【0046】
式(5)の化合物の含有量は、N,N−ジメチルアセトアミドとの合計質量に対して、1質量%以上75質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以上50質量%以下である。一般的に、式(5)の化合物はN,N−ジメチルアセトアミドより高価であることから、コスト面から5質量%以上30質量%以下が更に好ましい。
【0047】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び有機溶媒の合計量に対して、好ましくは5質量%以上60質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上45質量%以下であり、所望の液状組成物の粘度が得られるように、また、液晶ポリエステルフィルムの製造に用いる場合は、所望のフィルム厚が得られるように、また、液晶ポリエステル含浸繊維シートの製造に用いる場合は、所望の含浸量となるように、適宜調整される。
【0048】
なお、液状組成物には、必要に応じて、液晶ポリエステル以外の樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンとの共重合体等のエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が、1種又は2種以上含まれていてもよいが、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0質量部以上20質量部以下である。
【0049】
また、液状組成物には、必要に応じて、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機フィラー;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機フィラー;カップリング剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、染料、顔料が、1種又は2種以上含まれていてもよい。
本実施形態の液晶ポリエステル含有液状組成物は、以上のような構成となっている。
【0050】
以上のような構成の液晶ポリエステル含有液状組成物は、常温で保存しても粘度が上昇し難い性質を有する。そのため、上述の液状組成物は、保存後においても容易に、液晶ポリエステルフィルムを形成するために流延塗布することや、液晶ポリエステル含浸繊維シートを製造するために繊維シートに含浸させること、ができ、これらのフィルムやシートを容易に製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
液晶ポリエステルの流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500型)を用いて測定した。液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を、流動開始温度として測定した。
【0053】
〔液晶ポリエステル含有液状組成物の粘度の測定〕
B型粘度計(東機産業(株)の「TVL−20型」)を用いて、No.21のローターにより、23℃、回転数20rpmで行った。
【0054】
〔液晶ポリエステルの製造〕
トルクメーターを有する攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。
【0055】
次いで、上記還流中に副生する酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、235℃であった。
【0056】
次いで、このプレポリマーを粉砕し粉末状としたものを、金属トレーに敷き詰め、熱風式乾燥機(エスペック社製、IPHH−201M)に入れた。窒素雰囲気下、室温から223℃まで6時間かけて昇温し、223℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、270℃であった。
【0057】
(実施例1)
〔液晶ポリエステル含有液状組成物の調製〕
液晶ポリエステル25質量部を、通風オーブンにより120℃で2時間乾燥した後、N,N−ジメチルアセトアミド64質量部、及び化合物A(1,3−ジメチルテトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン;式(5)中のR1、R共にメチル基、n=3)11質量部に加え、窒素雰囲気下、100℃で2時間加熱した後、冷却して、液晶ポリエステル溶液(液晶ポリエステル含有液状組成物)を得た。液状組成物の溶媒全量に対し、N,N−ジメチルアセトアミドは85質量%、化合物Aは15質量%であった。
【0058】
次いで、この液状組成物を110mlスクリュー瓶に入れ、23℃で粘度(初期)を測定した。その後、密栓して23℃で保存し、適宜粘度を測定した。
【0059】
(実施例2)
実施例2は、添加化合物の量を変更し、液状組成物全量に対し、N,N−ジメチルアセトアミド64質量部、及び化合物A11質量部(液状組成物の溶媒全量に対し、N,N−ジメチルアセトアミドは93質量%、化合物Aは7質量%)としたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0060】
(実施例3)
実施例3は、添加化合物を化合物B(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン;式(5)中のR1、R共にメチル基、n=2)としたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0061】
(比較例1)
比較例1は、溶媒としてジメチルアセトアミドのみを使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0062】
(比較例2)
比較例2は、溶媒として化合物Aのみを使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0063】
実施例1から3および、比較例1、2について、初期及び保存中の液状組成物の23℃における粘度を下表1に示す。下表では、ジメチルアセトアミドのことを「DMAc」と略記している。
【0064】
【表1】

【0065】
測定の結果、実施例1から3は、比較例1と比べて粘度上昇が抑制されていた。また、比較例2の結果より、添加化合物は、単独で溶媒として用いても効果はなく、N,N−ジメチルホルムアミドと併用することで、目的とする粘度上昇を抑制する効果を発現することが分かった。これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと有機溶媒とを含む液晶ポリエステル含有液状組成物であって、
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有し、
前記有機溶媒が、N,N−ジメチルアセトアミドと、下記式(5)で表される化合物と、を含むことを特徴とする液晶ポリエステル含有液状組成物。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【化1】

(式中R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは1以上4以下の整数である)
【請求項2】
前記式(5)の整数nが、2又は3であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル含有液状組成物。
【請求項3】
前記式(5)のR及びRが、共にメチル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶ポリエステル含有液状組成物。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルが、自身を構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル含有液状組成物。
【請求項5】
前記式(3)で示される繰返し単位において、X及びYのいずれか一方または両方が、イミノ基であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル含有液状組成物。
【請求項6】
前記液晶ポリエステルの含有量が、前記液晶ポリエステル及び前記有機溶媒の合計量に対して、10質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル含有液状組成物。

【公開番号】特開2012−162670(P2012−162670A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24839(P2011−24839)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】