説明

液晶ポリエステル含浸基材の製造方法

【課題】ボイドが低減された液晶ポリエステル含浸基材を製造可能な液晶ポリエステル含浸基材の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法は、フィラーと液晶ポリエステルとを含有する液晶ポリエステル組成物を繊維基材に含浸した液晶ポリエステル含浸基材の製造方法であって、i)繊維基材の一方の表面へ、液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーすることにより、該液晶ポリエステル組成物を前記繊維基材に付着および浸透させる第一のスプレー工程と、ii)前記繊維基材の他方の表面へ、液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーすることにより、該液晶ポリエステル組成物を前記繊維基材に付着および浸透させる第二のスプレー工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーを含有する液晶ポリエステル組成物を含浸した液晶ポリエステル含浸基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維基材と無機フィラーと液晶ポリエステルから構成される液晶ポリエステル含浸基材の製造方法としては、繊維基材へ無機フィラーと液晶ポリエステルを含有する液晶ポリエステル組成物を含浸する方法が検討されている。
特許文献1には、液晶ポリエステルを溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液へ繊維基材を浸漬し、さらに該液晶ポリエステルに無機フィラーを添加した後に加熱処理する液晶ポリエステル含浸基材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−254875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、液晶ポリエステルを溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液に繊維基材を浸漬する製造方法では、繊維基材を液晶ポリエステル溶液に浸漬した際、当該繊維基材の両方の面から溶液が浸透する。そのため、当該繊維基材に含まれていた空気が両面から浸透した溶液に阻まれるため抜けにくく、製造される液晶ポリエステル含浸基材中にボイド(空隙)として残存するという問題があった。液晶ポリエステル含浸基材中にボイドが存在すると、液晶ポリエステル含浸基材の強度が低下し、また、液晶ポリエステル含浸基材を2次加工した際にボイドを起点として剥離が起こる場合がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ボイドが低減された液晶ポリエステル含浸基材を製造可能な液晶ポリエステル含浸基材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法は、フィラーと液晶ポリエステルとを含有する液晶ポリエステル組成物を繊維基材に含浸した液晶ポリエステル含浸基材の製造方法であって、
i)繊維基材の一方の表面へ、液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーすることにより、該液晶ポリエステル組成物を前記繊維基材に付着および浸透させる第一のスプレー工程と、
ii)前記繊維基材の他方の表面へ、液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーすることにより、該液晶ポリエステル組成物を前記繊維基材に付着および浸透させる第二のスプレー工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法において、前記第一のスプレー工程で使用する第一の液晶ポリエステル組成物のフィラーおよび液晶ポリエステルの含量をそれぞれM1(質量%)、P1(質量%)とし、前記第二のスプレー工程で使用する第二の液晶ポリエステル組成物のフィラーおよび液晶ポリエステルの含量をそれぞれM2(質量%)、P2(質量%)とすると、P1/(M1+P1)>P2/(M2+P2)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ボイドが低減された液晶ポリエステル含浸基材を製造可能な液晶ポリエステル含浸基材の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法は、フィラーと液晶ポリエステルとを含有する液晶ポリエステル組成物を繊維基材に含浸した液晶ポリエステル含浸基材の製造方法であって、
i)繊維基材の一方の表面へ、液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーすることにより、該液晶ポリエステル組成物を前記繊維基材に付着および浸透させる第一のスプレー工程と、
ii)前記繊維基材の他方の表面へ、液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーすることにより、該液晶ポリエステル組成物を前記繊維基材に付着および浸透させる第二のスプレー工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
まず、本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法に用いる液晶ポリエステル組成物および繊維基材について説明する。
【0011】
[液晶ポリエステル組成物]
本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法に用いる液晶ポリエステル組成物は、フィラーと、液晶ポリエステルとを少なくとも含んでなる。液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させた液状組成物に、フィラーを添加して構成されることがより好ましい。
【0012】
(液晶ポリエステル)
本実施形態で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0013】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0014】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0015】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0016】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
【0017】
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し;Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基を表し;X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表し;Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0018】
(4)−Ar−Z−Ar
【0019】
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0020】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、2個以下であることが好ましく、1個以下であることがより好ましい。
【0021】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0022】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0023】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0024】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0025】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは30〜60モル%、特に好ましくは30〜40モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0026】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0027】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0028】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、溶媒に対する溶解性に優れた液晶ポリエステルとなる。
【0029】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0030】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃〜350℃、さらに好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、流動開始温度があまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易く、液状組成物の粘度が高くなり易い。
【0031】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0032】
(フィラー)
フィラーは、製造される液晶ポリエステル含浸基材の剛性や耐熱性を高めたり、誘電率や線膨張係数(CTE)の調整のために添加されるものである。フィラーは、液晶ポリエステル及び液晶ポリエステル中に含まれる溶媒に溶解せず、且つ、繊維基材を通り抜けない形状のものが適用可能である。
本発明に用いられるフィラーとしては、無機フィラーおよび有機フィラーのいずれでもよいが、製造される液晶ポリエステル含浸基材の寸法安定性を向上させる観点から、液晶ポリエステルよりも熱膨張係数(CTE)が小さいものが好ましい。
フィラーとしては、液晶ポリエステルよりも熱膨張係数が小さいため、無機フィラーが好適である。
無機フィラーの例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0033】
液晶ポリエステル組成物中のフィラーの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、10〜200質量部であることが好ましく、20〜175質量部であることがより好ましく、30〜165質量部であることがさらに好ましい。
フィラーの形状は、球状、板状など如何なる形状のものも使用可能であり、中でも、液晶ポリエステル組成物中における分散性の観点から粒径0.1〜5μmのものが好ましい。
【0034】
(溶媒)
液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させた液状組成物に、フィラーを添加して構成されることがより好ましい。
前記液状組成物中の溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒])で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0035】
溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;トリエチルアミン等のアミン系溶媒;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物系溶媒;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;テトラメチル尿素等の尿素化合物系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物系溶媒が挙げられる。また、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましい。溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。また、前記非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒を用いることが好ましい。
【0037】
また、溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましい。溶媒全体に占める双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。本発明においては、特に、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることが好ましい。
【0038】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0039】
液晶ポリエステルおよび溶媒で構成される液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び溶媒の合計量に対して、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは15〜45質量%であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、適宜調整される。
【0040】
本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法に用いる液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステルとフィラーを含有し、好ましくはさらに溶剤を含有するが、このほか必要に応じて、レべリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤などの添加剤を配合してもよい。
【0041】
本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法に用いる液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステル、フィラー、好ましくはさらに溶媒、及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより調製することができる。ここで、本発明においては、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させて液状組成物を得、この液状組成物にフィラーを分散させることにより調製することが好ましい。
【0042】
[繊維基材]
本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法に用いる繊維基材としては、電気絶縁性の無機繊維および/または有機繊維からなる通気性のあるペーパー、織物、不織布シート等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、アルミナ系繊維、ケイ素含有セラミック繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維からなるシートが挙げられる。これらの中でも、入手が容易であることから、主としてガラス繊維からなるシート、すなわちガラスクロスが好ましい。
前記ガラスクロスとしては、単位面積当たりの質量が10〜300g/mのものが好ましく使用される。前記ガラスクロスの厚さは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは10〜180μmである。
【0043】
次に、本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法について詳細に説明する。
本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法は、繊維基材に液晶ポリエステル組成物をスプレーして付着・浸透させるスプレー工程と、その後、液晶ポリエステル組成物を付着・浸透させた繊維基材を乾燥させる乾燥工程と、を備えている。
【0044】
本発明の製造方法におけるスプレー工程は、
i)繊維基材の一方の表面へ、上述した方法で調製される第一の液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーする第一のスプレー工程と、
この第1の工程に続いて行われる
ii)前記繊維基材のもう一方の表面(他方の表面)へ、上述した方法で調製される第二の液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーする第二のスプレー工程と、
から構成される。
【0045】
本発明の製造方法におけるスプレー工程は、例えば、ロール状に巻いた繊維基材の端部を引き出して、該繊維基材を一方向に搬送しながら、同一搬送経路中にて、第一のスプレー工程後に引き続き第二のスプレー工程を行うことができる。このスプレー工程後、さらには続けて繊維基材に含浸させた液晶ポリエステル組成物内の溶媒を乾燥させる工程を経て、繊維基材を再びロール状に巻き上げる、又は、繊維基材をシート状に切断する、ことにより液晶ポリエステル含浸基材を製造することができる。
【0046】
上記のように同一搬送経路中で第一のスプレー工程と第二のスプレー工程を連続して行う場合、第一のスプレー工程と第二のスプレー工程における繊維基材の搬送速度は同一である。しかし、本発明の製造方法はこの例に限定されず、まず、全ての繊維基材の一方の表面へ第一の液晶ポリエステル組成物をスプレーする第一のスプレー工程だけを行い、その後、再びロール状に巻き上げた後、再度このロール状に巻き上げた繊維基材を引き出して一方向に搬送しながら、繊維基材のもう一方の表面(他方の表面)へ第二の液晶ポリエステル組成物をスプレーする第二のスプレー工程を行ってもよく、この場合は第一のスプレー工程と第二のスプレー工程における繊維基材の搬送速度を変えてもよい。
【0047】
第一のスプレー工程で使用する第一の液晶ポリエステル組成物、及び、第二のスプレー工程で使用する第二の液晶ポリエステル組成物の溶液粘度は、20〜150mPa・s(温度:23℃)になるように、それぞれフィラーと液晶ポリエステルを含有する液晶ポリエステル組成物の固形分濃度を調整することが好ましい。液晶ポリエステル組成物の粘度が高い場合は、スプレー工程の吐出が安定しないなどの不良が起こる場合があり、液晶ポリエステル組成物の粘度が低い場合は、スプレー工程後の乾燥工程における溶媒の乾燥がし難くなる場合がある。
【0048】
第一のスプレー工程及び第二のスプレー工程で使用するスプレーノズルとしては、一流体ノズルや二流体ノズルが挙げられる。2流体ノズルは液体と気体を混合させ微細な霧を噴霧するスプレーノズルであり、低圧で粒子径の小さな霧を均一に生成できるため、本発明におけるスプレー工程に好適である。
【0049】
スプレーノズルと繊維基材の距離、及び液晶ポリエステル組成物の吐出量等は、液晶ポリエステル組成物の付着・浸透性や均一性、スプレーノズルの磨耗等を考慮して最適に選ばれる。
また、スプレーノズルによる繊維基材への吹きつけ方法としては、繊維基材を長手方向に搬送しながら、多数のスプレーノズルを繊維基材の幅方向に並べて固定し行っても良いし、少数のノズルを繊維基材の幅方向に走査させて行っても良い。
【0050】
特許文献1に記載された技術のように、液晶ポリエステル組成物の溶液に繊維基材を浸漬する従来の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法では、繊維基材を浸漬した際、繊維基材の両方の面から溶液が浸透する。そのため、繊維基材に含まれていた空気が該基材中に浸透してきた溶液に阻まれるために抜けにくく、製造される液晶ポリエステル含浸基材中にボイドとして残存するという問題があった。
【0051】
これに対し、本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法は、まず最初に、第一のスプレー工程で繊維基材の一方の表面から第一の液晶ポリエステル組成物をスプレーして付着・浸透させるため、繊維基材のもう一方の表面(他方の表面)側から繊維基材に含まれていた空気が抜けやすい。その後、第二のスプレー工程で繊維基材のもう一方の表面(他方の表面)から第二の液晶ポリエステル組成物をスプレーして付着・浸透させる際には、繊維基材中の空気がある程度抜けている状態となっている。したがって、本発明の製造方法によれば、従来の浸漬法による製造方法と比較して、製造される液晶ポリエステル含浸基材中のボイドを大きく低減することができる。
【0052】
さらに、本発明の製造方法において、第一のスプレー工程で繊維基材の一方の表面から付着・浸透する液晶ポリエステル組成物をできるだけ多くすることが好ましい。これにより、第一のスプレー工程で繊維基材に含まれる空気をより多く排除することができ、第二のスプレー工程で抜かなければならない空気の量を低減し、製造される液晶ポリエステル含浸基材中に残存するボイドをより低減することができる。
【0053】
第一スプレー工程で使用する第一の液晶ポリエステル組成物の組成と、第二のスプレー工程で使用する第二の液晶ポリエステル組成物の組成は、同一であっても異なっていてもよい。
しかし、液晶ポリエステル組成物に含まれるフィラーは、繊維基材を通り難い。そのため、第一のスプレー工程と第二のスプレー工程で使用する液晶ポリエステル組成物の組成が同一である場合、第一のスプレー工程で繊維基材に付着・浸透する液晶ポリエステル組成物の量を第二のスプレー工程で繊維基材に付着・浸透する液晶ポリエステル組成物の量より多くして、より効果的に繊維基材内の空気を排除しようとすると、第一のスプレー工程で繊維基材の一方の表面側に付着・浸漬したフィラーの量が他方の表面側よりも多くなり、その後の乾燥工程などで反りを発生しやすくなる。
【0054】
そのため、第一のスプレー工程で使用する第一の液晶ポリエステル組成物の組成と、第二のスプレー工程で使用する第二の液晶ポリエステル組成物の組成は、異なっていることが好ましく、具体的には以下に示す関係式を満たす組成であることが好ましい。
使用する第一の液晶ポリエステル組成物のフィラーおよび液晶ポリエステルの含量をそれぞれM1(質量%)、P1(質量%)とし、
第二のスプレー工程で使用する第二の液晶ポリエステル組成物のフィラーおよび液晶ポリエステルの含量をそれぞれM2(質量%)、P2(質量%)とすると、
P1/(M1+P1)>P2/(M2+P2)
の関係式を満たすような、第一および第二の液晶ポリエステル組成物を使用することが好ましい。即ち、第一の液晶ポリエステル組成物中の液晶ポリエステルの濃度が、第二の液晶ポリエステル組成物中の液晶ポリエステルの濃度よりも高くなっていることが好ましい。これにより、それぞれのスプレー工程における繊維基材へのフィラーの付着・浸透量をほぼ同じにした場合にも、第一のスプレー工程で繊維基材の一方の表面側から付着・浸透する液晶ポリエステルの量を、第二のスプレー工程で繊維基材の他方の表面側から付着・浸透する液晶ポリエステルの量よりも増やすことができる。この場合、第一のスプレー工程において繊維基材中の空気を効果的に排除でき、且つ、各スプレー工程におけるフィラーの付着・浸透量をほぼ同一にできるので、残存するボイドが低減され、且つ、反りが少ない液晶ポリエステル含浸基材を製造することができる。
【0055】
第一のスプレー工程で繊維基材に付着・浸透するフィラーの量MC1(g)と、第二のスプレー工程で繊維基材に付着・浸透するフィラーの量MC2(g)は、MC1/MC2=0.9〜1.1とすることが好ましく、MC1/MC2=1.0とすることがより好ましい。各スプレー工程で繊維基材に付着・浸透するフィラーの量を前記範囲とすることにより、製造される液晶ポリエステル含浸基材の反りを低減することができる。
【0056】
さらに、本発明の製造方法において、第一のスプレー工程で繊維基材に付着・浸透させる液晶ポリエステルの量PC1(g)=MC1×P1/M1と、第二のスプレー工程で繊維基材に付着・浸透させる液晶ポリエステルの量PC2(g)=MC2×P2/M2とは、得られる液晶ポリエステル含浸基材中のボイドを低減できる観点からPC1>PC2であることが好ましく、PC1/(PC1+PC2)が0.55〜0.85の関係にあることがより好ましく、PC1/(PC1+PC2)が0.6〜0.75の関係にあることがさらに好ましい。
PC1/(PC1+PC2)が0.55未満の場合はボイド低減の効果が小さくなる傾向があり、PC1/(PC1+PC2)が0.85より大きい場合は第二の液晶ポリエステル組成物中の液晶ポリエステルが少ないために繊維基材からのフィラーの脱落が生じ易くなる傾向がある。
【0057】
繊維基材に付着・含浸させる液晶ポリエステルとフィラーの総量は、得られる液晶ポリエステル含浸基材の総重量に対して、35〜65重量%の範囲とすることが好ましい。
【0058】
このようにして、液晶ポリエステル組成物を付着・浸透させた繊維基材を、乾燥工程で乾燥させることにより、溶媒などの揮発成分を除去することにより液晶ポリエステル含浸基材を製造することができる。液晶ポリエステル組成物を付着・浸透させた繊維基材の乾燥方法としては、加熱、減圧、通風又はこれらを組み合わせる方法が挙げられる。乾燥工程は、処理温度50〜200℃、処理時間5〜30分間の条件で行うことが好ましい。
【0059】
以上説明した本発明の製造方法によれば、ボイドが低減された液晶ポリエステル含浸基材を製造することができる。
本発明の製造方法により得られる液晶ポリエステル含浸基材は、ボイドが低減されていることにより、良好な強度を有し、また、当該液晶ポリエステル含浸基材を2次加工した際にもボイドを起点とした剥離の発生が起こり難い。
【0060】
本発明の製造方法により得られる液晶ポリエステル含浸基材は、必要に応じて複数枚積層した後、その少なくとも一方の面に銅箔などの金属薄膜の金属層(導電層)を積層し、さらにこの金属層に所定の配線パターンを形成することによりプリント配線板としても適用可能である。なお、前記金属層(導電層)を設ける方法としては、金属箔を液晶ポリエステル含浸基材の表面に加熱プレス等で融着させる方法、金属箔を液晶ポリエステル含浸基材の表面に接着剤で接着させる方法、液晶ポリエステル含浸基材の表面をめっき法、スクリーン印刷法又はスパッタリング法により、金属粉又は金属粒子で被覆する方法が例示できる。
【0061】
なお、このプリント配線板の製造方法としては、種々の方法が適用可能である。例えば、本発明の製造方法により得られる液晶ポリエステル含浸基材を所望の厚みになるように必要に応じ2枚以上積層した後、さらに最表面にはポリイミドなどの離型フィルムもしくは金属箔を重ねて加熱・加圧して形成することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は次の方法で測定した。
【0063】
(1)ボイド:導電層付き樹脂含浸シートの導電層をエッチング液で溶解した。その後、樹脂含浸シートを市販のエポキシ樹脂で固めた後、研磨して断面を出した。その後、走査型電子顕微鏡(倍率500倍および倍率1000倍)でその断面を観察した。無作為に3視野を選んで観察し、その3視野全てで全くボイドがない場合を「◎」、無作為に3視野を選んで観察し、その1視野でのみボイドがあった場合を「○」、前記「○」よりも多くのボイドがある場合を「△」とし、3段階でボイドの大小を判断した。
【0064】
(2)反り:縦64mm、横64mmの導電層付き樹脂含浸シートの導電層をエッチング液で溶解した後、樹脂含浸シートの頂点の一点を指で押さえた時の対角側にある頂点の浮き上がり測定し、4点(4つの頂点;樹脂含浸シートの四隅)の平均を求めた。
【0065】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター(島津製作所社製「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0066】
〔液状組成物の粘度の測定〕
B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」)を用いて、No.21のローターにより、回転数20rpmで測定した。
【0067】
〔液晶ポリエステルの製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)および無水酢酸2374g(23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。次いで、留出する副生成物の酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、235℃であった。次いで、このプレポリマーを窒素雰囲気下で室温から223℃まで6時間かけて昇温し、223℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、270℃、比重は1.38であった。
【0068】
<実施例1>
〔液晶ポリエステル組成物Aの調製〕
上記で製造した液晶ポリエステル220g(13.5質量%)をN,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)1325g(81.1質量%)に加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。さらに、この液状組成物にシリカフィラー(龍森社製「MP−8FS」、体積平均粒径0.5μm、比重2.21)を液晶ポリエステルに対し20体積%(88g、5.4質量%)添加し、分散させることにより、液晶ポリエステル組成物Aを得た。この液晶ポリエステル組成物Aについて、B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」、ローターNo.21、回転速度5rpm)により、温度23℃での粘度を測定したところ、45cPであった。
【0069】
〔液晶ポリエステル含浸基材の製造〕
スプレー装置(旭サナック社製スプレーガンAGB−40N、2流体スプレーノズル、スプレーノズルとガラスクロスの距離は15cm、吐出量38g/分、ピッチ5mm、ガン速度20m/分)を用いて、ガラスクロス(有沢製作所社製、厚さ96μm、IPC名称2116)の一方の表面へ、液晶ポリエステル組成物Aをスプレーした後、同ガラスクロスのもう一方の表面へも液晶ポリエステル組成物Aをスプレーした。
液晶ポリエステル組成物Aをスプレーしたガラスクロスを、熱風式乾燥機を用いて、50℃で溶媒を蒸発させ、次いで、熱風式乾燥機を用いて、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理し、液晶ポリエステル含浸基材を得た。この液晶ポリエステル含浸基材中の液晶ポリエステル組成物の含有量は46質量%であった。
この液晶ポリエステル含浸基材を2枚重ね、銅箔(三井金属鉱業社製「3EC−VLP」、18μm)を両側に配置し、高温真空プレス機(北川精機社製「VH1−1765」)を用いて、340℃で30分、5MPaでプレスし、縦64mm、横64mmの導電層付き樹脂含浸シートを得た。この導電層付き樹脂含浸シートにおける樹脂含浸シート層の厚さは、平均で210μmであった。
【0070】
<実施例2>
〔液晶ポリエステル組成物Bの調製〕
上記で製造した液晶ポリエステル345g(14.4質量%)をN,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)1938g(81.0質量%)に加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。さらに、この液状組成物にシリカフィラー(龍森社製「MP−8FS」)110g(4.6質量%)を添加し、分散させることにより、液晶ポリエステル組成物Bを得た。この液晶ポリエステル組成物Bについて、B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」、ローターNo.21、回転速度5rpm)により、温度23℃での粘度を測定したところ、48cPであった。
【0071】
〔液晶ポリエステル組成物Cの調製〕
上記で製造した液晶ポリエステル260g(13.3質量%)をN,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)1558g(80.0質量%)に加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。さらに、この液状組成物にシリカフィラー(龍森社製「MP−8FS」)130g(6.7質量%)を添加し、分散させることにより、液晶ポリエステル組成物Cを得た。この液晶ポリエステル組成物Cについて、B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」、ローターNo.21、回転速度5rpm)により、温度23℃での粘度を測定したところ、44cPであった。
【0072】
〔液晶ポリエステル含浸基材の製造〕
スプレー装置(旭サナック社製スプレーガンAGB−40N、2流体スプレーノズル、スプレーノズルとガラスクロスの距離は15cm、ピッチ5mm、ガン速度20m/分)を用いて、ガラスクロス(有沢製作所社製、厚さ96μm、IPC名称2116)の一方の表面へ液晶ポリエステル組成物Bを吐出量44.9g/分でスプレーした後、同ガラスクロスのもう一方の表面へ液晶ポリエステル組成物Cを吐出量30.8g/分でスプレーした。第一のスプレー工程および第二のスプレー工程のシリカフィラー、液晶ポリエステルの吐出量(g/分)は、それぞれ約2.1g/分、約6.5g/分、約2.1g/分、約4.1g/分であり、第一のスプレー工程で吐出した液晶ポリエステルの吐出量は、それぞれの表面で吐出した吐出量の合計の0.61であった。吐出量以外のスプレー条件が同じである場合、この値は第一の工程で付着・浸透した液晶ポリエステルと第一および第二の工程で付着・浸透した液晶ポリエステルの合計の比と同一で0.61である。
液晶ポリエステル組成物BおよびCをスプレーしたガラスクロスを、熱風式乾燥機を用いて、50℃で溶媒を蒸発させ、次いで、熱風式乾燥機を用いて、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理し、液晶ポリエステル含浸基材を得た。この液晶ポリエステル含浸基材中の液晶ポリエステル組成物の含有量は46質量%であった。
この液晶ポリエステル含浸基材を2枚重ね、銅箔(三井金属鉱業社製「3EC−VLP」、18μm)を両側に配置し、高温真空プレス機(北川精機社製「VH1−1765」)を用いて、340℃で30分、5MPaでプレスし、縦64mm、横64mmの導電層付き樹脂含浸シートを得た。この導電層付き樹脂含浸シートにおける樹脂含浸シート層の厚さは、平均で215μmであった。
【0073】
<実施例3>
〔液晶ポリエステル含浸基材の製造〕
スプレー装置(旭サナック社製スプレーガンAGB−40N、2流体スプレーノズル、スプレーノズルとガラスクロスの距離は15cm、ピッチ5mm、ガン速度20m/分)を用いて、ガラスクロス(有沢製作所社製、厚さ96μm、IPC名称2116)の一方の表面へ液晶ポリエステル組成物Aを吐出量31.7g/分でスプレーした後、同ガラスクロスのもう一方の表面へ吐出量26.1g/分でスプレーした。第一のスプレー工程および第二のスプレー工程のシリカフィラー、液晶ポリエステルの吐出量(g/分)は、それぞれ約2.3g/分、約5.8g/分、約1.8g/分、約4.5g/分であり、MC1/MC2=1.28であった。
液晶ポリエステル組成物Aをスプレーしたガラスクロスを、熱風式乾燥機を用いて、50℃で溶媒を蒸発させ、次いで、熱風式乾燥機を用いて、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理し、液晶ポリエステル含浸基材を得た。この液晶ポリエステル含浸基材中の液晶ポリエステル組成物の含有量は46質量%であった。
この液晶ポリエステル含浸基材を2枚重ね、銅箔(三井金属鉱業社製「3EC−VLP」、18μm)を両側に配置し、高温真空プレス機(北川精機社製「VH1−1765」)を用いて、340℃で30分、5MPaでプレスし、縦64mm、横64mmの導電層付き樹脂含浸シートを得た。この導電層付き樹脂含浸シートにおける樹脂含浸シート層の厚さは、平均で210μmであった。
【0074】
<実施例4>
〔液晶ポリエステル組成物Dの調製〕
上記で製造した液晶ポリエステル370g(14.5質量%)をN,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)2063g(81.1質量%)に加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。さらに、この液状組成物にシリカフィラー(龍森社製「MP−8FS」)110g(4.3質量%)を添加し、分散させることにより、液晶ポリエステル組成物Dを得た。この液晶ポリエステル組成物Dについて、B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」、ローターNo.21、回転速度5rpm)により、温度23℃での粘度を測定したところ、48cPであった。
【0075】
〔液晶ポリエステル組成物Eの調製〕
上記で製造した液晶ポリエステル220g(13.7質量%)をN,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)1225g(76.3質量%)に加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。さらに、この液状組成物にシリカフィラー(龍森社製「MP−8FS」)160g(10.0質量%)を添加し、分散させることにより、液晶ポリエステル組成物Eを得た。この液晶ポリエステル組成物Eについて、B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」、ローターNo.21、回転速度5rpm)により、温度23℃での粘度を測定したところ、46cPであった。
【0076】
〔液晶ポリエステル含浸基材の製造〕
スプレー装置(旭サナック社製スプレーガンAGB−40N、2流体スプレーノズル、スプレーノズルとガラスクロスの距離は15cm、ピッチ5mm、ガン速度20m/分)を用いて、ガラスクロス(有沢製作所社製、厚さ96μm、IPC名称2116)の一方の表面へ液晶ポリエステル組成物Dを吐出量47.6g/分でスプレーした後、同ガラスクロスのもう一方の表面へ液晶ポリエステル組成物Eを吐出量20.6g/分でスプレーした。第一のスプレー工程および第二のスプレー工程のシリカフィラー、液晶ポリエステルの吐出量(g/分)は、それぞれ約2.1g/分、約6.9g/分、約2.1g/分、約2.8g/分であり、第一のスプレー工程で吐出した液晶ポリエステルの吐出量は、それぞれの表面で吐出した吐出量の合計の0.71であった。吐出量以外のスプレー条件が同じである場合、この値は第一の工程で付着・浸透した液晶ポリエステルと第一および第二の工程で付着・浸透した液晶ポリエステルの合計の比と同一で0.71である。
液晶ポリエステル組成物DおよびEをスプレーしたガラスクロスを、熱風式乾燥機を用いて、50℃で溶媒を蒸発させ、次いで、熱風式乾燥機を用いて、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理し、液晶ポリエステル含浸基材を得た。この液晶ポリエステル含浸基材中の液晶ポリエステル組成物の含有量は46質量%であった。
この液晶ポリエステル含浸基材を2枚重ね、銅箔(三井金属鉱業社製「3EC−VLP」、18μm)を両側に配置し、高温真空プレス機(北川精機社製「VH1−1765」)を用いて、340℃で30分、5MPaでプレスし、縦64mm、横64mmの導電層付き樹脂含浸シートを得た。この導電層付き樹脂含浸シートにおける樹脂含浸シート層の厚さは、平均で218μmであった。
【0077】
<比較例1>
〔液晶ポリエステル組成物Fの調製〕
上記で製造した液晶ポリエステル220g(20.2質量%)をN,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)780g(71.7質量%)に加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。さらに、この液状組成物にシリカフィラー(龍森社製「MP−8FS」、体積平均粒径0.5μm)を液晶ポリエステルに対し20体積%(88g、8.1質量%)添加し、分散させることにより、液晶ポリエステル組成物Fを得た。この液晶ポリエステル組成物Fについて、B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」、ローターNo.21、回転速度5rpm)により、温度23℃での粘度を測定したところ、376cPであった。
【0078】
〔液晶ポリエステル含浸基材の製造〕
こうして得られた液晶ポリエステル組成物Fの溶液中にガラスクロス(有沢製作所社製、厚さ96μm、IPC名称2116)を浸漬し、ガラスクロスに液晶ポリエステル組成物Dを含浸した後、熱風式乾燥機を用いて、160℃で溶媒を蒸発させ、次いで、熱風式乾燥機を用いて、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理し、樹脂含浸基材を得た。この樹脂含浸基材中の液晶ポリエステルの含有量は47質量%であった。また、この樹脂含浸基材の厚さは、平均で133μmであった。
この樹脂含浸基材を2枚重ね、銅箔(三井金属鉱業社製「3EC−VLP」、18μm)を両側に配置し、高温真空プレス機(北川精機社製「VH1−1765」)を用いて、340℃で30分、5MPaでプレスし、縦64mm、横64mmの導電層付き樹脂含浸シートを得た。この導電層付き樹脂含浸シートにおける樹脂含浸シート層の厚さは、平均で220μmであった。
【0079】
実施例1〜4および比較例1の各製造方法で用いた液晶ポリエステル組成物の組成と、実施例1〜4の各スプレー工程でガラスクロスに付着・含浸させた液晶ポリエステおよびシリカフィラーの量について表1に示した。
また、実施例1〜4および比較例1で得られた試料について、ボイドおよび反りの物性評価を行った結果を表2に示した。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表2に示す結果より、本発明の製造方法である実施例1〜4では、製造された液晶ポリエステル含浸基材中のボイドが低減されていることが確認された。また、第一のスプレー工程で使用する液晶ポリエステル組成物の組成と、第二のスプレー工程で使用する液晶ポリエステル組成物の組成が、P1/(M1+P1)>P2/(M2+P2)を満たす実施例2及び実施例4では、特に効果的に液晶ポリエステル含浸基材中のボイドが低減されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラーと液晶ポリエステルとを含有する液晶ポリエステル組成物を繊維基材に含浸した液晶ポリエステル含浸基材の製造方法であって、
i)繊維基材の一方の表面へ、液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーすることにより、該液晶ポリエステル組成物を前記繊維基材に付着および浸透させる第一のスプレー工程と、
ii)前記繊維基材の他方の表面へ、液晶ポリエステル組成物の溶液をスプレーすることにより、該液晶ポリエステル組成物を前記繊維基材に付着および浸透させる第二のスプレー工程と、
を有することを特徴とする液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項2】
前記第一のスプレー工程で使用する第一の液晶ポリエステル組成物のフィラーおよび液晶ポリエステルの含量をそれぞれM1(質量%)、P1(質量%)とし、
前記第二のスプレー工程で使用する第二の液晶ポリエステル組成物のフィラーおよび液晶ポリエステルの含量をそれぞれM2(質量%)、P2(質量%)とすると、
P1/(M1+P1)>P2/(M2+P2)
であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。

【公開番号】特開2013−107252(P2013−107252A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253208(P2011−253208)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】