説明

液晶ポリエステル多孔質膜

【課題】耐熱性及び耐酸性に優れる多孔質膜を提供する。
【解決手段】液晶ポリエステルと液晶ポリエステル以外のポリマーとで多孔質膜を構成する。液晶ポリエステルとしては、還元粘度が0.40dL/g以上であるものを用いる。液晶ポリエステル以外のポリマーとしては、還元粘度が0.40dL/g以上であるものを用いる。液晶ポリエステル以外のポリマーの含有量は、記液晶ポリエステル100質量部に対して、10〜40質量部とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルを用いてなる多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの多孔質膜は、飲料水製造、浄水処理、廃水処理のような水処理分野、食品工業分野、医療分野等の様々な分野で濾過膜として用いられている。例えば、水処理分野においては、ポリマーの多孔質膜による濾過が、従来の砂濾過や凝集沈殿処理に代えて、水中の不純物を除去するために行われるようになってきている。また、食品工業分野においては、発酵に用いた酵母の分離除去や液体の濃縮を行うための濾過膜として、ポリマーの多孔質膜が用いられている。また、医療分野においては、人工透析用の濾過膜として、ポリマーの多孔質膜が用いられている。
【0003】
このように濾過膜として用いられるポリマーの多孔質膜には、透過効率を高めるために被濾過流体を加熱する場合や、殺菌や乾燥のために多孔質膜を熱処理する場合に、対応し易いように、耐熱性が求められることが多い。このため、その材料として、耐熱性に優れるポリマーであるポリスルホンが主に検討されている。例えば、特許文献1には、中空糸膜の材料として還元粘度が0.15〜0.6dL/gであるポリスルホンを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−230459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリスルホンの多孔質膜は、耐酸性が必ずしも十分でないため、酸性流体の濾過には不適であったり、洗浄時に酸の使用が制限されたりする。そこで、本発明の目的は、耐熱性及び耐酸性に優れる多孔質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、還元粘度が0.40dL/g以上である液晶ポリエステルと、液晶ポリエステル以外の還元粘度が0.40dL/g以上であるポリマーとを含み、前記ポリマーの含有量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10〜40質量部である多孔質膜を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔質膜は、耐熱性及び耐酸性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の多孔質膜は、液晶ポリエステルと液晶ポリエステル以外のポリマーとを含むものである。液晶ポリエステルを含むことにより、耐熱性に優れる多孔質膜となる。また、液晶ポリエステル以外のポリマーを含むことにより、多孔質膜の孔形成が容易となり、多孔質膜として中空糸膜を得る場合、その中空の形成が容易となる。
【0009】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0010】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0011】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0012】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0013】
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
【0014】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0015】
(4)−Ar4−Z−Ar5
【0016】
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0017】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0018】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0019】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びAr2がジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0021】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0022】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは35〜65モル%、さらに好ましくは40〜55モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは17.5〜32.5モル%、さらに好ましくは22.5〜30モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは17.5〜32.5モル%、さらに好ましくは22.5〜30モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、多孔質膜の耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性が低くなり易く、後述の溶液を用いる多孔質膜の製造に適用し難くなる。
【0023】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0024】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0025】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
【0026】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0027】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、通常250℃以上、好ましくは250℃〜350℃、より好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、溶液の粘度が高くなり易かったりする。
【0028】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0029】
そして、本発明では、液晶ポリエステルとして、還元粘度が0.40dL/g以上であるものを用いる。これにより、多孔質膜の孔形成が容易となり、多孔質膜として中空糸膜を得る場合、その中空形成が容易となる。また、多孔質膜の強度・剛性も向上する。液晶ポリエステルの還元粘度は、好ましくは0.45dL/g以上、より好ましくは0.50dL/g以上である。なお、液晶ポリエステルの還元粘度は、流動開始温度同様、分子量の目安となるものであり、あまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、溶液の粘度が高くなり易かったりするので、通常0.80dL/g以下、好ましくは0.70dL/g以下である。
【0030】
液晶ポリエステルの還元粘度は、液晶ポリエステルを製造する際の重合温度を高くしたり、重合時間を長くしたりすることにより、高めることができる。
【0031】
液晶ポリエステル以外のポリマーとしては、例えば、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の非水溶性ポリマーが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。中でも、ポリスルホンが、耐熱性や強度・剛性に優れる多孔質膜を与え易いので、好ましい。
【0032】
ポリスルホンは、典型的には、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)とスルホニル基(−SO2−)と酸素原子とを含む繰返し単位を有するポリマーである。ポリスルホンは、耐熱性や耐薬品性の点から、下記式(A)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(A)」ということがある。)を有することが好ましく、さらに、下記式(B)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(B)」ということがある。)や、下記式(C)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(C)」ということがある。)等の他の繰返し単位を1種以上有していてもよい。
【0033】
(A)−Ph1−SO2−Ph2−O−
【0034】
(Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0035】
(B)−Ph3−R−Ph4−O−
【0036】
(Ph3及びPh4は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。Rは、アルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0037】
(C)−(Ph5)n−O−
【0038】
(Ph5は、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。nは、1〜3の整数を表す。nが2以上である場合、複数存在するPh5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0039】
Ph1〜Ph5のいずれかで表されるフェニレン基は、p−フェニレン基であってもよいし、m−フェニレン基であってもよいし、o−フェニレン基であってもよいが、p−フェニレン基であることが好ましい。前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記フェニレン基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、前記フェニレン基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0040】
Rであるアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基及び1−ブチリデン基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜5である。
【0041】
ポリスルホンは、繰返し単位(A)を、全繰返し単位の合計に対して、50モル%以上有することが好ましく、80モル%以上有することがより好ましく、繰返し単位として実質的に繰返し単位(A)のみを有することがさらに好ましい。なお、ポリスルホンは、繰返し単位(A)〜(C)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。
【0042】
ポリスルホンは、それを構成する繰返し単位に対応するジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とを重合(重縮合)させることにより、製造することができる。例えば、繰返し単位(A)を有するポリスルホンは、ジハロゲノスルホン化合物として下記式(D)で表される化合物(以下、「化合物(D)」ということがある。)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(E)で表される化合物(以下、「化合物(E)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。また、繰返し単位(A)と繰返し単位(B)とを有するポリスルホンは、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(D)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(F)で表される化合物(以下、「化合物(F)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。また、繰返し単位(A)と繰返し単位(C)とを有するポリスルホンは、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(D)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(G)で表される化合物(以下、「化合物(G)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。
【0043】
(D)X1−Ph1−SO2−Ph2−X2
【0044】
(X1は及びX2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。Ph1及びPh2は、前記と同義である。)
【0045】
(E)HO−Ph1−SO2−Ph2−OH
【0046】
(Ph1及びPh2は、前記と同義である。)
【0047】
(F)HO−Ph3−R−Ph4−OH
【0048】
(Ph3、Ph4及びRは、前記と同義である。)
【0049】
(G)HO−(Ph5)n−OH
【0050】
(Ph5及びnは、前記と同義である。)
【0051】
前記重合は、炭酸のアルカリ金属塩を用いて、溶媒中で行うことが好ましい。炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸アルカリであってもよいし、酸性塩である重炭酸アルカリ(炭酸水素アルカリ)であってもよいし、両者の混合物であってもよく、炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましく用いられ、重炭酸アルカリとしては、重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムが好ましく用いられる。溶媒としては、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、1,3-ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等の有機極性溶媒が好ましく用いられる。
【0052】
そして、本発明では、液晶ポリエステル以外のポリマーとして、還元粘度が0.40dL/g以上であるものを用いる。これにより、多孔質膜の孔形成が容易となり、多孔質膜として中空糸膜を得る場合、その中空形成が容易となる。また、多孔質膜の強度・剛性も向上する。このポリマーの還元粘度は、好ましくは0.45dL/g以上、より好ましくは0.50dL/g以上である。なお、このポリマーの還元粘度は、分子量の目安となるものであり、あまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、溶液の粘度が高くなり易かったりするので、通常0.80dL/g以下、好ましくは0.70dL/g以下である。
【0053】
液晶ポリエステル以外のポリマーの還元粘度は、それを製造する際の重合温度や重合時間等の条件を調整することにより、高めることができる。例えば、ポリスルホンの場合、前記重合において、仮に副反応が生じなければ、ジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とのモル比が1:1に近いほど、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が多いほど、重合温度が高いほど、また、重合時間が長いほど、得られるポリスルホンの重合度が高くなり易く、還元粘度が高くなり易いが、実際は、副生する水酸化アルカリ等により、ハロゲノ基のヒドロキシル基への置換反応や解重合等の副反応が生じ、この副反応により、得られるポリスルホンの重合度が低下し易く、還元粘度が低下し易いので、この副反応の度合いも考慮して、所望の還元粘度を有するポリスルホンが得られるように、ジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とのモル比、炭酸のアルカリ金属塩の使用量、重縮合温度及び重縮合時間を調整することが好ましい。
【0054】
多孔質膜中の前記ポリマーの含有量は、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10〜40質量部、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは15〜25質量部である。前記ポリマーの含有量があまり少ないと、多孔質膜の孔形成が不十分になり、多孔質膜として中空糸膜を得る場合、その中空形成が不十分になる。また、前記ポリマーの含有量があまり多いと、その種類にもよるが、多孔質膜の耐熱性や耐酸性が不十分になる。
【0055】
多孔質膜は、例えば、平膜であってもよいし、管状膜であってもよいし、中空糸膜であってもよく、また、単層膜であってもよいし、多層膜であってもよい。なお、多層膜である場合、前記液晶ポリエステルと前記ポリマーとを含む層のみを2層以上有する多層膜であってもよいし、前記液晶ポリエステルと前記ポリマーとを含む層を1層以上有し、かつ他の層を1層以上有する多層膜であってもよい。
【0056】
多孔質膜の製造は、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、前記液晶ポリエステルと前記ポリマーとを溶媒に溶解させ、この溶液を所定の形状に押し出し、エアギャップを介して乾湿式で、又はエアギャップを介さずに湿式で、凝固液に導入して、相分離及び脱溶媒することにより行ってもよいし、前記液晶ポリエステルと前記ポリマーとを溶媒に溶解させ、この溶液を所定の形状の基材に流延し、凝固液に浸漬して、相分離及び脱溶媒することにより行ってもよい。
【0057】
また、多孔質膜として中空糸膜を製造する場合、前記溶液を紡糸原液とし、芯鞘型の二重環状ノズルを用いて、鞘側より前記溶液を吐出させると共に、芯側より凝固液(以下、「内部凝固液」ということがある)又は気体を吐出させ、これらをエアギャップを介して又は介さずに、凝固液(以下、「外部凝固液」ということがある)中に導入することが好ましい。
【0058】
前記溶液の調製に用いられる前記液晶ポリエステル及び前記ポリマーの良溶媒(以下、単に「良溶媒」ということがある)としては、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシドが挙げられる。また、前記溶液には、前記液晶ポリエステル、前記ポリマー及び良溶媒以外の成分、例えば、親水性高分子、前記液晶ポリエステル及び前記ポリマーの貧溶媒(以下、単に「貧溶媒」ということがある)、膨潤剤を含有させてもよい。前記溶液に親水性高分子を含有させることにより、透水性に優れ、水系流体の限外濾過や精密濾過等の濾過に好適に用いられる多孔質膜を得ることができる。
【0059】
親水性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルアクリレートやポリヒドロキシエチルメタクリレート等のポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド及びポリエチレンイミンが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。中でもポリビニルピロリドン、特に分子量が100万〜300万の高分子量ポリビニルピロリドンを用いると、その含有量が少なくても、前記溶液の増粘効果を高めることができるので好ましい。
【0060】
貧溶媒としては、通常、水が用いられる。
【0061】
膨潤剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレングリコール類が挙げられ、除去し易いことからエチレングリコールが好ましい。
【0062】
凝固液としては、貧溶媒や、貧溶媒と良溶媒との混合溶媒を用いることができるが、凝固液として、貧溶媒と良溶媒との混合溶媒を用いると、これらの混合比を調節することにより、得られる多孔質膜の孔径や孔径分布を調節することができるので好ましく、多孔質膜として中空糸膜を製造する場合、内部凝固液、外部凝固液、共に、貧溶媒と良溶媒との混合溶媒を用いると、これらの効果を効率よく引き出すことができる。また、この混合溶媒を用いることにより、その後の溶媒回収も容易に行うことができる。
【0063】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0064】
〔還元粘度の測定〕
試料約1gをN−メチルピロリドンに溶解させて、その容量を1dLとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。また、溶媒であるN−メチルピロリドンの粘度(η0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。前記溶液の粘度(η)と前記溶媒の粘度(η0)から、比粘性率((η−η0)/η0)を求め、この比粘性率を、前記溶液の濃度(約1g/dL)で割ることにより、還元粘度(dL/g)を求めた。
【0065】
〔耐酸性の評価〕
中空糸膜を、80℃の50質量%硫酸水溶液に5時間浸漬した後、水洗し、次いで乾燥することにより、酸処理した。酸処理前後の中空糸膜の還元粘度を測定し、次の式により還元粘度の低下率を求めた。
還元粘度の低下率(%)=([酸処理前の還元粘度]−[酸処理後の還元粘度])/[酸処理前の還元粘度]×100
【0066】
製造例1(液晶ポリエステル(1)の製造)
攪拌機、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸941g(5.0モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)、4−アミノフェノール273g(2.5モル)及び無水酢酸1123g(11モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、320℃で保持し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕し、窒素ガス雰囲気下、250℃で10時間保持することにより、固相重合させた後、室温まで冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(1)を得た。この液晶ポリエステル(1)の還元粘度は0.51g/dLであった。
【0067】
製造例2(液晶ポリエステル(2)の製造)
固相重合の温度を250℃から240℃に変更したこと以外は、製造例1と同様の操作を行って、粉末状の液晶ポリエステル(2)を得た。この液晶ポリエステル(2)の還元粘度は0.34g/dLであった。
【0068】
製造例3(ポリスルホン(1)の製造)
撹拌機、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、ビス(4−クロロフェニル)スルホン589g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン500g及びジフェニルスルホン(溶媒)942gを入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から180℃まで昇温した。次いで、炭酸カリウム287gを加え、副生水を留去しながら、180℃から290℃まで徐々に昇温し、290℃で2時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕し、温水による洗浄及びアセトンとメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、次いで150℃で加熱乾燥を行い、末端がクロロ基である粉末状のポリスルホン(1)を得た。このポリスルホン(1)の還元粘度は、0.52dL/gであった。
【0069】
製造例4(ポリスルホン(2)の製造)
ビス(4−クロロフェニル)スルホンの使用量を589gから598gに変更し、かつ、ジフェニルスルホン(溶媒)の使用量を942gから957gに変更したこと以外は、製造例3と同様の操作を行って、末端がクロロ基である粉末状のポリスルホン(2)を得た。このポリスルホン(2)の還元粘度は、0.36dL/gであった。
【0070】
実施例1、比較例1〜4
液晶ポリエステル(1)又は(2)とポリスルホン(1)又は(2)とN−メチルピロリドン(溶媒)とを、表1に示す割合で混合することにより、溶液を得、この溶液を紡糸原液として、二重環状ノズルの鞘側から吐出させると共に、水/N−メチルピロリドン=70/30(質量比)の混合溶媒を内部凝固液として、二重環状ノズルの芯側から吐出させた。
【0071】
吐出物は、一旦、空中を5mm通過させた後に、25℃に保たれた水/N−メチルピロリドン=70/30(重量比)の混合溶媒である外部凝固液中に導き、その凝固を行った。得られた紡糸物をボビンに巻き取り、80℃の温水中で流水下、3時間洗浄して、溶媒の除去を行った。比較例1〜3では、紡糸物に中空が形成されておらず、中空糸膜が得られなかった。実施例1及び比較例4で得られた中空糸膜について、耐酸性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元粘度が0.40dL/g以上である液晶ポリエステルと、液晶ポリエステル以外の還元粘度が0.40dL/g以上であるポリマーとを含み、前記ポリマーの含有量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10〜40質量部である多孔質膜。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルである請求項1に記載の多孔質膜。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4−Z−Ar5
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項3】
前記ポリマーが、ポリスルホンである請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記ポリスルホンが、下記式(A)で表される繰返し単位を有するポリスルホンである請求項3に記載の多孔質膜。
(A)−Ph1−SO2−Ph2−O−
(Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【請求項5】
中空糸膜である請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜。

【公開番号】特開2012−136626(P2012−136626A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289603(P2010−289603)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】