説明

液晶ポリエステル樹脂混合物及びそれを用いてなる反射板並びに発光装置

【課題】高反射充填剤の配合量が少ないながらも、高度の反射率の反射板を提供できる液晶ポリエステル樹脂混合物を提供する。
【解決手段】液晶ポリエステルと粒子状酸化チタンと脂肪酸アミド及び脂肪酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含有する液晶ポリエステル混合物とする。粒子状酸化チタンの含有量は、液晶ポリエステル100重量部に対して40〜80重量部とする。脂肪酸アミド及び脂肪酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量は、液晶ポリエステル100重量部に対して0.005〜0.15重量部とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂混合物、該液晶ポリエステル樹脂混合物を用いてなる成形体、特に反射板、及び該反射板を用いてなる発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(発光ダイオード)発光装置等に使用されている反射板は、加工性や軽量性の点で、樹脂製のものが多く検討されている。このような樹脂製の反射板としては、該反射板に高反射率を付与できるような充填剤(以下、場合により「高反射充填剤」という)と、液晶ポリマー(液晶ポリエステル)とを含む樹脂組成物を用いた反射板が注目されている。例えば、特許文献1には、液晶ポリエステルに、酸化チタン及び青色着色料を配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物が提案され、この樹脂組成物を用いてなる成形体が、反射率及び白色度が高く、光源周辺の反射板に好適であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−320996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に具体的に開示されている樹脂組成物を用いてなる反射板は、反射率を高めるために比較的多量の酸化チタンを液晶ポリエステルに配合してなるものであった。しかしながら、このように多量の酸化チタンを液晶ポリエステルに配合してなる反射板は、該反射板が経時的に劣化し易いという問題や反射板の製造過程で液晶ポリエステル自体が劣化し易いという問題があった。
【0005】
かかる状況下、本発明の目的は、従来提案されている反射板製造用の液晶ポリエステル樹脂組成物よりも、高反射充填剤(酸化チタン)の配合量が少ないながらも、高度の反射率の反射板を提供できる液晶ポリエステル樹脂混合物、該液晶ポリエステル樹脂混合物を用いてなる成形体、特に反射板を提供し、さらに当該反射板を供えた発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記のような課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の<1>を提供するものである。
<1>:以下の成分(A)、(B)及び(C)を含有し、成分(A)100重量部に対して、成分(B)の含有量が40〜80重量部であり、成分(C)の含有量が0.005〜0.15重量部である液晶ポリエステル樹脂混合物。
(A)液晶ポリエステル。
(B)粒子状酸化チタン。
(C)脂肪酸アミド及び脂肪酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物。
【0007】
さらに本発明は、上記<1>に係る好適な実施態様として、以下の<2>〜<6>を提供する。
<2>:成分(A)と成分(B)とを溶融混練して、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物とした後、該液晶ポリエステル樹脂組成物と成分(C)とを混合してなる、<1>の液晶ポリエステル樹脂混合物。
<3>:成分(C)が、以下の式(1)で表される脂肪酸アミドである、<1>又は<2>の液晶ポリエステル樹脂混合物。
1-CO-NH2 (1)
(式中、R1は、炭素数10〜30の飽和炭化水素基、又は炭素数10〜30の不飽和炭化水素基を表す。)
<4>:さらに以下の成分(D)を含有する、<1>〜<3>のいずれかの液晶ポリエステル樹脂混合物。
(D)粒子状酸化チタン以外の無機充填材。
<5>:成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100重量部に対して、成分(D)の含有量が60重量部以下である、<4>の液晶ポリエステル樹脂混合物。
<6>:成分(D)がガラス繊維である、<4>又は<5>の液晶ポリエステル樹脂混合物。
【0008】
また、本発明は上記いずれかの液晶ポリエステル樹脂混合物を用いてなる、以下の<7>〜<12>を提供する。
<7>:<1>〜<6>の何れかの液晶ポリエステル樹脂混合物を成形してなる成形体。
<8>:<1>〜<6>の何れかの液晶ポリエステル樹脂混合物を成形してなる反射板。
<9>:厚み0.03mm〜3mmの薄肉部を有する、<8>の反射板。
<10>:JIS K7105−1981の全光線反射率測定法A(標準白色板:硫酸バリウム)に基づいて求められる波長460nmの光線に対する反射率が70%以上である、<8>又は<9>の反射板。
<11>:<8>〜<10>の何れかの反射板と発光素子とを具備する発光装置。
<12>:発光素子が発光ダイオード(LED)である、<11>の発光装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物によれば、従来提案されている液晶ポリエステル樹脂組成物よりも高反射充填剤(粒子状酸化チタン)の配合量が少ないにも関わらず、高度の反射率を発現する反射板を製造することが可能となる。このような反射板は、液晶ポリエステルが持つ耐熱性等の優れた特性を十分維持しつつ、高反射率の反射板であることが期待できるため、輝度等の特性に優れた発光装置を製造するうえで、工業的価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物は、上記の成分(A)、(B)及び(C)を含有し、成分(A)100重量部に対して、成分(B)の含有量が40〜80重量部であり、成分(C)の含有量が0.005〜0.15重量部であることを特徴とする。以下、これらの成分についての好適な実施態様、これらの成分を含む液晶ポリエステル樹脂混合物の製造方法、該液晶ポリエステル樹脂混合物を用いてなる成形体、反射板、発光装置を順次説明する。
【0011】
<成分(A)>
成分(A)の液晶ポリエステルとは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、450℃以下で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。かかる液晶ポリエステルとしては例えば、(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを組み合わせて重合させて得られるもの、(2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させて得られるもの、(3)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを組み合わせて重合させて得られるもの、(4)ポリエチレンテレフタレート等の結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの等を具体的に挙げることができる。なお、液晶ポリエステルの製造に関し、上記の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジオールの代わりに、それらのエステル形成性誘導体を使用することも可能であり、該エステル形成性誘導体を用いれば液晶ポリエステル製造がより容易になるという利点がある。
【0012】
ここで、エステル形成性誘導体について簡単に説明する。分子内にカルボキシル基を有する、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、当該カルボキシル基が高反応性のハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基などの基に転化して、酸ハロゲン化物や酸無水物などを形成しているもの、当該カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、アルコール類やエチレングリコールとエステルを形成しているもの等を挙げることができる。また、分子内にフェノール性水酸基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオールのエステル形成性誘導体としては、当該フェノール性水酸基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、低級カルボン酸類とエステルを形成しているもの等を挙げることができる。
【0013】
さらに、エステル形成性を阻害しない程度であれば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジオールは、その芳香環に、塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基を置換基として有していてもよい。
【0014】
液晶ポリエステルを構成する構造単位としては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0015】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:
【0016】
【化1】

【0017】
上記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を置換基として有していてもよい。
【0018】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:
【0019】
【化2】

【0020】
上記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を置換基として有していてもよい。
【0021】
芳香族ジオールに由来する構造単位:
【0022】
【化3】

【0023】
上記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を置換基として有していてもよい。
【0024】
好適な液晶ポリエステルとして、その構造単位の組み合わせが、以下の(a)〜(h)を挙げることができる。
(a):(A1)、(B1)、及び(C1)からなる組み合わせ、又は、(A1)、(B1)、(B2)、及び(C1)からなる組み合わせ。
(b):(A2)、(B3)、及び(C2)からなる組み合わせ、又は(A2)、(B1)、(B3)、及び(C2)からなる組み合わせ。
(c):(A1)及び(A2)からなる組み合わせ。
(d):(a)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(A1)の一部又は全部を(A2)で置きかえたもの。
(e):(a)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(B1)の一部又は全部を(B3)で置きかえたもの。
(f):(a)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(C1)の一部又は全部を(C3)で置きかえたもの。
(g):(b)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(A2)の一部又は全部を(A1)で置きかえたもの。
(h):(c)の構造単位の組み合わせに、(B1)と(C2)を加えたもの。
【0025】
上記の(a)〜(h)のように、成分(A)として用いられる液晶ポリエステルとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位として、(A1)及び/又は(A2)を有し、芳香族ジオールに由来する構造単位として、(B1)、(B2)及び(B3)からなる群から選ばれる1つ以上を有し、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位として、(C1)、(C2)及び(C3)からなる群から選ばれる1つ以上を有するものが好ましい。なお、上述のように、これらの構造単位は、その芳香環に置換基を有していてもよいが、得られる成形体や反射板が、より高度の耐熱性を必要とする場合には、置換基を有していないことが望ましい。
【0026】
成分(A)に使用する液晶ポリエステルは、その流動温度が270〜400℃であることが好ましく、300〜380℃であることがより好ましい。流動温度が270℃未満の液晶ポリエステルを成分(A)として用いると、得られる反射板は、LEDを発光素子とする発光装置に用いた場合、LEDモジュール組立工程等での高温環境下において、反射板自体が変形したり、ブリスター(膨れ異常)を生じたりし易くなる。一方、流動温度が400℃を超える液晶ポリエステルの場合には、溶融加工温度が高くなるため、反射板を製造することが比較的困難になり易く、400℃以上の溶融加工温度で、加工しようとすると液晶ポリエステルが熱劣化し易くなり、ひどい場合には反射板が変色して反射率が低下し易くなるという不都合が生じる。このように、流動温度が270〜400℃である液晶ポリエステルは、本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物を反射板の製造用として使用するうえで特に好適である。
【0027】
なお、ここでいう流動温度とは、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管型レオメーターを用い、9.8MPaの荷重において、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体をノズルから押し出す時に、溶融粘度が4800Pa・secを示す温度を意味するものであり、該流動温度は当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0028】
液晶ポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を採用することができるが、本願出願人が、特開2004−256673号公報で提案したような、液晶ポリエステルの製造方法が好ましい。以下、具体的に、この公報で提案した好適な液晶ポリエステルの製造方法について説明する。
【0029】
芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸との混合物に、脂肪酸無水物を混合し、窒素雰囲気中130〜180℃で反応させることにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基を脂肪酸無水物でアシル化し、アシル化物(芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジオールアシル化物)を得る。その後、さらに昇温して反応副生物を反応系外に留去しながら、該アシル化物のアシル基と、芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジカルボン酸にあるカルボキシル基とがエステル交換を生じるようにして、重縮合させて液晶ポリエステルを製造する。芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸との混合物において、フェノール性水酸基に対するカルボキシル基のモル比は、0.9〜1.1の範囲であることが好ましい。
【0030】
芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基の合計に対する脂肪酸無水物の使用量は、0.95〜1.2モル倍であることが好ましく、1.00〜1.15モル倍であることがより好ましい。脂肪酸無水物の使用量が少ないと、得られる液晶ポリエステルの着色が抑えられる傾向があるが、脂肪酸無水物の使用量が少なすぎると、重縮合時に未反応の芳香族ジオール又は芳香族ジカルボン酸が昇華し易くなって、反応系が閉塞するおそれがある。一方、脂肪酸無水物の使用量が1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリエステルの着色が発生して、反射板の反射率を悪化させるおそれがある。
【0031】
脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸等が挙げられるが、特に限定されるものでない。これらは2種類以上を混合して使用してもよい。経済性と取扱性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく使用され、特に無水酢酸が好ましく使用される。
【0032】
エステル交換(重縮合)反応は、130〜400℃の範囲で0.1〜50℃/分の割合で昇温させながら反応させることが好ましく、150〜350℃の範囲で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら反応させることがより好ましい。そして、エステル交換(重縮合)反応をより円滑にするために、反応副生物を系外へと留去させる。
【0033】
エステル交換(重縮合)反応は、液晶ポリエステルの製造をより円滑にする観点と、得られる液晶ポリエステルの着色を十分抑制する観点とから、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下に行うことが好ましい。この窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物(含窒素複素環状有機塩基化合物)としては、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、ジピリジリル化合物、フェナントロリン化合物、ジアザフェナントレン化合物等が例示される。これらの中でも、重縮合に係る反応性の観点からはイミダゾール化合物が好ましく使用され、入手が容易であることから1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾールがより好ましく使用される。
【0034】
また、エステル交換(重縮合)反応をより促進して重縮合速度を増加させる目的で、本発明の目的を損なわない範囲であれば、前記含窒素複素環状有機塩基化合物以外の触媒を用いることもできる。ただし、金属塩等を触媒として使用する場合には、当該金属塩が液晶ポリエステルに不純物として残存することになるので、反射板のような電子部品には悪影響を及ぼすことがある。この点においても、前記含窒素複素環状有機塩基化合物を用いることは、液晶ポリエステルを製造するうえで特に好適な実施態様である。
【0035】
エステル交換(重縮合)反応をさらに進行させて、液晶ポリエステルの重合度をより上げる方法としては、エステル交換(重縮合)反応の反応容器内を減圧するといった方法(減圧重合)や、エステル交換(重縮合)反応後の反応生成物を冷却固化した後、粉末状に粉砕し、得られた粉末を250〜350℃で2〜20時間加熱処理する方法(固相重合)等が挙げられる。このような方法で重合度を上げることにより、好適な流動温度の液晶ポリエステルを製造することが容易となる。設備が簡便である点では、固相重合を用いると好ましい。なお、前記のアシル化及びエステル交換反応による重縮合や、重合度向上を目的とした減圧重合や固相重合は、窒素等の不活性ガスの雰囲気下で行われることが、液晶ポリエステルの着色を十分防止するうえで好ましい。
【0036】
かくして製造された液晶ポリエステルは、YI値が32以下であると、成分(A)として特に好ましい。なお、液晶ポリエステルのYI値とは、液晶ポリエステルからなる試験片を得、該試験片を色差計を用いて測定することにより得られる値をいう。YI値は、物体の黄色度を表わす指標で、ASTM D1925に定義される値であり、具体的には下記式で求めることができる。
YI=[100(1.28X−1.06Z)/Y]
(ここで、X値、Y値、Z値は、それぞれXYZ表色系における光源色の三刺激値である。)
【0037】
前記含窒素複素環状有機塩基化合物を用いた製造方法で得られ、YI値が32以下である液晶ポリエステルは、成分(A)として特に好ましいものであるが、複数種の液晶ポリエステルを混合することでYI値が32以下となった液晶ポリエステル混合物を、成分(A)として用いることもできる。この場合も、該液晶ポリエステル混合物のYI値を、上述したような色度計を用いた方法で求めれば、成分(A)として好適な液晶ポリエステル混合物を選択することができる。
【0038】
<成分(B)>
粒子状酸化チタンとは、主として酸化チタンからなり、形状が粒子状のものである。当業分野で、「酸化チタン」と呼称され、樹脂充填用粒子状フィラーとして市販されているものであれば、成分(B)として用いることができる。なお、酸化チタンと呼称されて市販されているものは、そのまま使用することができ、企図せず含有される不純物を排除するものではない。また、粒子状酸化チタンとしては、後述するような表面処理が施されたものも使用可能である。
【0039】
かかる粒子状酸化チタンは、含有される酸化チタン自身の結晶形は特に限定されず、ルチル型、アナターゼ型、または両者が混合したものを用いることができる。より高度の反射率を有する反射板が得られ、当該反射板の耐候性も良好となる点からは、ルチル型の酸化チタンを含有する粒子状酸化チタンが好ましく、ルチル型の酸化チタンのみからなる粒子状酸化チタンがさらに好ましい。
【0040】
粒子状酸化チタンの平均粒径(体積平均粒径)についても特に限定はされないが、より高度の反射率を有する反射板が得られ、当該反射板中の粒子状酸化チタンの分散性が良好になる点からは、平均粒径が0.01〜10μmであることが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましく、0.1〜0.5μmであることがさらに好ましい。かかる粒子状酸化チタンの平均粒径は、目的する反射板の厚みを勘案して最適なものを使用することができる。
【0041】
なお、ここでいう平均粒径は、粒子状酸化チタンの外観を走査形電子顕微鏡(SEM)で測定し、得られたSEM写真を画像解析装置(例えば株式会社ニレコ製「ルーゼックスIIIU」)を用いて、一次粒子の各粒径区間における粒子量(%)をプロットして分布曲線を求め、その累積した分布曲線より、累積度50%(平均粒径)で求められる体積平均粒径である。
【0042】
本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物における成分(B)の配合量は、成分(A)100重量部に対して40〜80重量部であり、45〜80重量部であると好ましい。40重量部未満では、得られる反射板の反射率が十分でなく、好ましくない。一方、成分(B)が80重量部を超える場合は、反射板の製造自体が困難となったり、液晶ポリエステルの劣化によって、反射板が経時的に劣化し易くなったり、する傾向があるため好ましくない。液晶ポリエステルが劣化すると、該液晶ポリエステルの耐熱性等の特性が十分維持できないという不都合が生じる。この液晶ポリエステルを劣化させる原因は必ずしも明らかでないが、本発明者等は、酸化チタンが触媒のように作用して、液晶ポリエステルのエステル結合を切断し、液晶ポリエステルの低分子量化を引き起こすことが一つの要因と推定している。成分(A)100重量部に対する成分(B)の配合割合は80重量部以下であると、液晶ポリエステル自体の劣化を十分防止しながら、後述する成分(C)の作用により、反射率を向上することが可能となり、優れた反射率を示す反射板を製造することが可能となる。なお、成分(B)として複数種の粒子状酸化チタンを用いる場合は、その合計量が成分(A)に対して、前記の範囲であればよい。
【0043】
また、上記粒子状酸化チタンは、その分散性等の特性向上を目的として、表面処理を施してもよい。このような表面処理は特に限定されないが、分散性及び耐候性を向上させる観点からは、無機金属酸化物を用いた表面処理が好ましく、該無機金属酸化物としてはアルミナ(酸化アルミニウム)が好ましい。ただし、凝集等がなく取扱い上容易であれば、表面処理されていない粒子状酸化チタンを用いることが、耐熱性及び強度の点から好ましい。なお、このように成分(B)として表面処理されている粒子状酸化チタン(表面処理粒子状酸化チタン)を用いる場合には、通常、この表面処理粒子状酸化チタンの表面処理量は微量であるので、該表面処理粒子状酸化チタンの総重量を基として、成分(B)の配合量を選択すればよい。
【0044】
成分(B)として使用可能な粒子状酸化チタンの市販品としては、例えば、石原産業(株)の“TIPAQUE CR−60”、“TIPAQUE CR−58”を挙げることができる。
【0045】
<成分(C)>
成分(C)は、脂肪酸アミド及び脂肪酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、かかる群から選ばれる複数種の化合物を混合して成分(C)として使用してもよい。かかる脂肪酸アミドや脂肪酸金属塩は、液晶ポリエステルを含む樹脂組成物等の溶融成形時に、その可塑化時間を安定化させるための助剤(可塑化安定剤)として周知(例えば、特開2003−12908号公報を参照)のものである。しかしながら、脂肪酸アミドや脂肪酸金属塩が、反射率の向上効果を有し、さらに成分(B)との相乗効果により、結果として優れた反射率を発現する反射板等を製造できることは、可塑化安定剤に関し言及する従来の発明からは容易に想到し得るものではなく、本発明者等の独自の知見に基づくものである。このように、本発明者等は、成分(C)が反射率向上を発現できることを見出しているが、本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物において、成分(C)は、それ自身が有する可塑化安定剤としての効果(計量安定化)も併せて発現できるという利点もある。
【0046】
上記脂肪酸アミドとしては、以下の式(1)で表されるものが好適である。
1-CO-NH2 (1)
【0047】
ここで、R1は炭素数10〜30の飽和炭化水素基、又は炭素数10〜30の不飽和炭化水素を表す。この炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐していてもよい。
【0048】
具体的に好適な脂肪酸アミドを例示すると、デカン酸アミド、ドデシル酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、オレイン酸アミド、エライジン酸アミド、イコサン酸アミド、ベヘン酸アミド、エルカ酸アミド、セロチン酸アミド、モンタン酸アミド等を挙げることができる。
【0049】
該脂肪酸アミドの融点は30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。融点が30℃未満の脂肪酸アミドを成分(C)として用いると、反射板等を成形する前に液晶ポリエステル樹脂混合物を予備乾燥した場合に、該脂肪酸アミドの一部が揮発し、反射率の向上効果が不十分となることがある。また、成形加工時の計量安定化効果が低減される傾向もある。該脂肪酸アミドは、後述するペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物との混合を容易にするために、平均粒径100μm以下の粉末状であることが好ましく、平均粒径50μm以下の粉末状であることがより好ましい。かかる平均粒径は、レーザー回折散乱法の測定により求められる体積平均粒径である。
【0050】
次に、脂肪酸金属塩に関し説明する。該脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、炭素数10以上のものが好ましく、炭素数10以上30以下のものがより好ましい。具体的な脂肪酸の例としては、ドデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸等が挙げられる。
【0051】
脂肪酸金属塩を構成する金属イオンは、周期律表中第1族、2族、又は12族の金属類、特に2族であるアルカリ土類金属のイオンが好ましく、中でもカルシウムイオンが好ましい。
【0052】
具体的に好適な脂肪酸金属塩を例示すると、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム等を挙げることができる。入手性の観点からは、ステアリン酸カルシウムやモンタン酸カルシウムが好ましい。
【0053】
このように本発明に使用する成分(C)としては、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩又はこれらを組み合わせて使用することができるが、中でも脂肪酸アミドを成分(C)として用いることが好ましい。脂肪酸アミドを成分(C)として用いると、本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物を用いて溶融成形を行う際、当該溶融成形に使用する金型を汚染することを十分防止できるという利点がある。
【0054】
成分(C)の配合量は、上述のとおり、成分(A)100重量部に対して0.005〜0.15重量部であり、より好ましくは0.01〜0.1重量部である。
【0055】
<液晶ポリエステル樹脂混合物>
本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物は、上述の成分(A)、(B)及び(C)を含むものであるが、機械的特性の特性向上等を目的として、粒子状酸化チタン以外の無機充填剤(以下、「無機充填剤」という。)を成分(D)として含んでもよい。この場合、成分(D)の配合量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100重量部に対して、60重量部以下であることが好ましい。成分(D)の配合量がこのような範囲であると、得られる反射板の反射率を著しく悪化させることなく、成分(D)に期待される効果を十分発現できる。成分(D)を使用する場合、その配合量は、成分(D)の種類や成分(D)に期待される特性の種類により適宜最適化できる。例えば、得られる成形体等の高機械強度を目指して無機充填剤を成分(D)として使用する場合、その配合量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100重量部に対して、20重量部以上であることが好ましい。成分(D)の配合量がこの範囲であると、得られる反射板の反射率の低下や色調の低下を十分抑制しつつ、機械的特性等の特性向上が達成できる。また、後述する液晶ポリエステル樹脂混合物の製造用に使用する、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物の造粒が比較的容易となる傾向がある。
【0056】
成分(D)としては、例えば、酸化亜鉛、硫化亜鉛、鉛白等の酸化チタン以外の白色顔料;ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、チタン酸繊維、ウォラストナイト、アスベスト等の無機繊維;炭酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、中空ガラスビーズ、ドロマイト、各種金属粉末、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、焼石膏等の粉末;炭化けい素、アルミナ、ボロンナイトライト、ホウ酸アルミニウムや窒化けい素等の、粉粒状、板状、ウィスカー状の無機充填剤等が挙げられる。これらの中でも、得られる反射板の反射率を著しく低下させることなく、実用的な機械強度を反射板に付与するためには、ガラス繊維、ウォラストナイトなどの無機繊維、ホウ酸アルミニウムや窒化けい素等の粉粒状、板状、ウィスカー状の無機化合物、タルクが好ましい。特に、反射率を大幅に低下させることなく、実用的な機械強度を反射板に付与できる点でガラス繊維が好ましい。ガラス繊維は市場から容易に入手可能であり、低コストであるという点でも有用である。なお、このような無機充填剤においては、集束剤が使用される場合もあるが、色調の低下を抑制して、反射板の高度の反射率を維持する面では、使用される集束剤の量は少ないほうが好ましい。
【0057】
本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物には、本発明の目的を損なわない範囲で、フッ素樹脂、高級脂肪酸エステル化合物、離型改良剤、染料や顔料の如き着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤などの通常の添加剤を少なくとも1種添加してもよい。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有するものを添加してもよい。
【0058】
本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び必要に応じて使用される成分(D)を、ヘンシェルミキサー、タンブラー等の混合機を用いて混合した後、押出機を用いて溶融混練するといった方法で得ることもできるが、成分(A)、成分(B)及び必要に応じて使用される成分(D)を、混合機を用いて混合した後、押出機を用いて溶融混練してペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物とし、次いで該液晶ポリエステル樹脂組成物と成分(C)とを混合して製造することが好ましい。このように予め、液晶ポリエステル樹脂組成物を製造してから成分(C)を混合すると、比較的熱処理により着色し易い成分(C)において、その着色を十分防止して、液晶ポリエステル樹脂混合物を製造することができる。また、成分(C)を後から混合する製造方法によれば、該成分(C)の有する可塑化安定剤としての効果をより享受できるという利点もある。
【0059】
<反射板>
かくして得られる液晶ポリエステル樹脂混合物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出し成形法等の種々慣用の溶融成形手段により成形することができる。中でも、射出成形が好適であり、該射出成形によれば、比較的複雑な形状の成形体を得ることが容易である。また、該液晶ポリエステル樹脂混合物を用いて、射出成形により反射板を製造する場合、薄肉の反射板を製造することも可能となる。特に、厚み0.03mm〜3.0mmの薄肉部を有する反射板の製造には特に有用である。なお、反射板自体の機械的強度も考慮すると、該反射板の薄肉部の厚みは、好ましくは0.05〜2.0mm、より好ましくは0.05〜1.0mmである。このような厚みの反射板は、成分(B)と成分(C)との相乗効果が発現して、高度の反射率を有するものとなる。また、成分(C)の計量化安定効果により、溶融成形時の可塑化時間の安定化も図ることができる。
【0060】
射出成形等の溶融成形に係る成形温度は、該溶融成形に使用する液晶ポリエステル樹脂混合物の流動温度より10〜60℃ほど高い温度であることが好ましい。成形温度がこの温度範囲より低いと流動性が極端に低下し、成形性の悪化や反射板の強度の低下を招く傾向がある。また、成形温度がこの温度範囲より高いと、液晶ポリエステルの劣化が著しくなり、反射板の反射率低下を生じるおそれがある。なお、液晶ポリエステル樹脂混合物の流動温度は、液晶ポリエステルの流動温度の測定方法として説明した方法と同様にして、毛細管型レオメーターを用いて求めることができる。
【0061】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物を用いることにより、波長460nmの光線に対する反射率が70%以上の反射板を得ることができる。なお、ここでいう反射率とは、JIS K7105−1981の全光線反射率測定法A(標準白色板:硫酸バリウム)に基づいて求められるものである。
【0062】
<発光装置>
上述のように、本発明の液晶ポリエステル樹脂混合物は、特に反射板の製造に有用であり、こうして得られる反射板は、電気、電子、自動車、機械等の分野で光反射、特に可視光領域の光線に対する反射を必要とする反射板に好適に使用することができる。例えば、ハロゲンランプ、HID等の光源装置のランプリフレクターや、LEDや有機EL等の発光素子を用いた発光装置、表示装置の反射板として好適に使用することができる。特にLEDを発光素子とする発光装置においては、その製造過程で、素子の実装工程やハンダ付け工程などの高温環境下に反射板が曝されることがあるが、本発明により得られる反射板は、このような高温プロセスを経たとしても、ブリスター等の変形を生じることがないという利点がある。したがって、LEDを発光素子とする発光装置に、本発明により得られる反射板を用いた場合、輝度等の特性に優れた発光装置を得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。なお、反射率は次の方法で測定した。
【0064】
反射率:
64mm×64mm×1mmの反射板試験片の表面に対して、自記分光光度計((株)日立製作所製“U−3500”)を用いて波長460nmの光線に対する拡散反射率の測定を行った。なお、反射率は硫酸バリウムの標準白板の拡散反射率を100%とした時の相対値である。
【0065】
また、実施例、比較例で使用した成分(B)、成分(C)及び成分(D)は以下のとおりである。
【0066】
<成分(B)>
酸化チタンフィラー1:石原産業(株)製“TIPAQUE CR−60”
(アルミナ表面処理品、平均粒径0.21μm)
酸化チタンフィラー2:石原産業(株)製“TIPAQUE CR−58”
(アルミナ表面処理品、平均粒径0.28μm)
【0067】
<成分(C)>
エルカ酸アミド:ライオン・アクゾ(株)製“アーモスリップE”
ステアリン酸カルシウム:和光純薬工業(株)製
モンタン酸カルシウム:クラリアントジャパン(株)製“リコモントCaV102”
【0068】
<成分(D)>
ガラス繊維1:セントラルガラス(株)製“EFH75−01”
ガラス繊維2:オーウェンスコーニング(株)製“CS03JAPX−1”
ガラス繊維3:セントラルガラス(株)製“EFDE50−01”
【0069】
参考例1(成分(A):液晶ポリエステル1の調製)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、1−メチルイミダゾールを0.2g添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、この温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを0.9g添加し、留出する副生酢酸や未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温した。トルクの上昇が認められる時点を反応終了とし、室温まで冷却してプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを粗粉砕機で粉砕後、粉砕して得た粉末を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することで、固相重合を行った。冷却して得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル1とする。この液晶ポリエステル1の流動開始温度は327℃であった。
【0070】
参考例2(成分(A):液晶ポリエステル2の調製)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸358.8g(2.16モル)、イソフタル酸39.9g(0.24モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、1−メチルイミダゾールを0.2g添加して、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、この温度を保持して1時間還流させた。その後、留出する副生酢酸や未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温した。トルクの上昇が認められる時点を反応終了とし、室温まで冷却してプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを粗粉砕機で粉砕後、粉砕して得られた粉末を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から305℃まで5時間かけて昇温し、305℃で3時間保持することで固相重合を行った。冷却して得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル2とする。得られた液晶ポリエステル2の流動開始温度は357℃であった。
【0071】
実施例1〜9、比較例1〜7
表1に示す成分(A)100重量部に対して、表1に示す成分(B)及び成分(D)を、表1に示す量で配合した後、2軸押出機(池貝鉄工(株)製“PCM−30”)を用いてペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物とした。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物に対して、表1に示す成分(C)を、表1に示す量で添加・混合し、オーブン中、120℃で3時間乾燥した。乾燥後のペレットを、射出成形機(日精樹脂工業(株)製“PS40E5ASE型”)で340℃にて成形し、64mm×64mm×1mmの反射板の試験片を得た。また成形の際は、連続30ショットの可塑化時間を測定し、その安定性(可塑化時間の平均時間及び標準偏差)を評価した。また、同様の成形を鏡面加工した金型を用いて行い、反射率測定用の試験片を得た。成形時の可塑化時間の平均時間、標準偏差の測定及び反射率測定用試験片を使用した反射率測定の結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示したように、実施例の液晶ポリエステル樹脂混合物から得られた反射板の試験片は、それぞれ成分(C)を添加しなかった場合の比較例の液晶ポリエステル樹脂組成物から得られた反射板の試験片に比べ、反射率の向上効果が見られる。また、成分(C)の計量安定化効果も良好に発現し、可塑化時間が短縮され、且つ安定的に可塑化されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)、(B)及び(C)を含有し、成分(A)100重量部に対して、成分(B)の含有量が40〜80重量部であり、成分(C)の含有量が0.005〜0.15重量部である液晶ポリエステル樹脂混合物。
(A)液晶ポリエステル。
(B)粒子状酸化チタン。
(C)脂肪酸アミド及び脂肪酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物。
【請求項2】
成分(A)と成分(B)とを溶融混練して、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物とした後、該液晶ポリエステル樹脂組成物と成分(C)とを混合してなる請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂混合物。
【請求項3】
成分(C)が、以下の式(1)で表される脂肪酸アミドである請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル樹脂混合物。
1-CO-NH2 (1)
(式中、R1は、炭素数10〜30の飽和炭化水素基、又は炭素数10〜30の不飽和炭化水素基を表す。)
【請求項4】
さらに以下の成分(D)を含有する請求項1〜3の何れかに記載の液晶ポリエステル樹脂混合物。
(D)粒子状酸化チタン以外の無機充填材。
【請求項5】
成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100重量部に対して、成分(D)の含有量が60重量部以下である請求項4に記載の液晶ポリエステル樹脂混合物。
【請求項6】
成分(D)がガラス繊維である請求項4又は5に記載の液晶ポリエステル樹脂混合物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の液晶ポリエステル樹脂混合物を成形してなる成形体。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載の液晶ポリエステル樹脂混合物を成形してなる反射板。
【請求項9】
厚み0.03mm〜3mmの薄肉部を有する請求項8記載の反射板。
【請求項10】
JIS K7105−1981の全光線反射率測定法A(標準白色板:硫酸バリウム)に基づいて求められる波長460nmの光線に対する反射率が70%以上である請求項8又は9に記載の反射板。
【請求項11】
請求項8〜10の何れかに記載の反射板と発光素子とを具備する発光装置。
【請求項12】
発光素子が発光ダイオード(LED)である請求項11記載の発光装置。

【公開番号】特開2010−84129(P2010−84129A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191852(P2009−191852)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】