説明

液晶ポリエステル樹脂組成物および成形体

【課題】成形体に加工した際に優れた耐パーティクル性を有する液晶ポリエステル樹脂組成物および該液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られた成形体の提供。
【解決手段】本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルと繊維状フィラーとを含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記繊維状フィラーが、繊維径5〜15μm、数平均繊維長30〜200μmであり、前記繊維状フィラーの全数量に対して、繊維長が200μmを越えるものの数量が10%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、成形加工性が良好であり、高い耐熱性や強度を有し、且つ絶縁性に優れていることから電気・電子部品や光学部品の材料として適用されている。
液晶ポリエステルからなる樹脂成形体は、通常、機械強度向上のために液晶ポリエステルに強化フィラーを添加した樹脂組成物により成形される場合が多い。しかし、このような強化フィラーを用いてなる樹脂成形体より電気・電子部品や光学部品を製造すると、該部品の表面から微粒子異物(パーティクル)が発生しやすくなる問題があった。このようなパーティクルが発生すると、組み立て工程における歩留まり低下を引き起こしたり、当該機器の使用時に誤作動を引き起こす可能性があった。
そこで、本出願人らは、繊維状フィラーを含有する液晶ポリエステル樹脂成形体として、樹脂成形体の表面粗さを規定することにより、表面パーティクル発生を防止し得ることを見出し、先に出願している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−239950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気・電子部品や光学機器部品は、製品(成形体)の表面汚れ(金型に付着している有機物等)を洗浄するため、生産工程内で超音波洗浄を行う場合がある。
従来の樹脂成形体は、特に、低周波数で超音波洗浄を行う場合には、耐パーティクル性が充分ではなく、更なる異物粒子発生量の低減(耐パーティクル性の向上)が望まれる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、成形体に加工した際に優れた耐パーティクル性を有する液晶ポリエステル樹脂組成物および該液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られた成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルと繊維状フィラーとを含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記繊維状フィラーが、繊維径5〜15μm、数平均繊維長30〜200μmであり、前記繊維状フィラーの全数量に対して、繊維長が200μmを越えるものの数量が10%以下であることを特徴とする。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有することが好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し;Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基を表し;X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表し、;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0006】
このような場合においては、前記液晶ポリエステルが、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜80モル%、前記一般式(2)で表される繰返し単位を10〜35モル%、前記一般式(3)で表される繰返し単位を10〜35モル%有することが好ましい。
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、前記一般式(3)において、X及びYが酸素原子であることが好ましい。
本発明の成形体は、前記いずれかの本発明の樹脂組成物を用いて得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成形体に加工した際に優れた耐パーティクル性を有する液晶ポリエステル樹脂組成物および該液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られた成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルと繊維状フィラーとを含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記繊維状フィラーが、繊維径5〜15μm、数平均繊維長30〜200μmであり、前記繊維状フィラーの全数量に対して、繊維長が200μmを越えるものの数量が10%以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0010】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0011】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0012】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0013】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し;Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基を表し;X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表し;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0014】
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基を表し;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0015】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0016】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0017】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0018】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは40〜70モル%、特に好ましくは45〜65モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0021】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0022】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0023】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルの溶融粘度が低くなり易くなる。
【0024】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下「プレポリマー」ということがある。)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0025】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃〜350℃、さらに好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、流動開始温度があまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、その成形に必要な温度が高くなり易い。
【0026】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0027】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に用いる繊維状フィラーは、繊維状充填材であって、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;及びステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。成形加工時の装置に与える磨耗負荷や入手性を考慮すると、繊維状フィラーとしてはガラス繊維がより好ましい。
【0028】
また、繊維状フィラーは、得られる樹脂成形体からの発生ガスをより低減化させて、樹脂成形体の化学的安定性を向上させることや、電気・電子機器又は光学機器を組み立てた際に、発生ガスが周辺部材を汚染することが少ないといった観点から、表面コーティング処理を施していないものが好ましい。表面コーティング処理としては、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等のカップリング剤による表面コーティング処理や、各種熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂による表面コーティング処理が挙げられる。
【0029】
繊維状フィラーは、その繊維径が5〜15μmであり、且つその数平均繊維長が30〜200μmである。このような範囲の繊維径および数平均繊維長の繊維状フィラーを用いることにより、液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体は、パーティクルが発生しにくいという利点がある。さらに、繊維状フィラーの繊維径が6〜12μmであり、且つその数平均繊維長が50〜150μmであることがより好ましい。
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に用いられる繊維状フィラーにおいて、繊維状フィラーの全数量に対して、繊維長が200μmを超えるものの数量の割合が10%以下とされる。繊維径及び数平均繊維長が前記範囲であり、且つ、繊維長が200μmを超えるものの割合が10%以下である繊維状フィラーを用いることにより、液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体は、優れた耐パーティクル性を有する。
【0030】
ここで、以下に繊維状フィラーの繊維径と数平均繊維長の測定方法、及び分級方法について説明する。
[繊維状フィラー測定方法]
繊維状フィラーの繊維径と数平均繊維長は、組成物ペレット中にある繊維状フィラーの外観形状で求めるものである。具体的には、繊維状フィラーの外観形状は、液晶ポリエステル樹脂組成物をペレット状に成形した組成物ペレットを600℃以上で灰化させ、その残渣をメタノールに分散させてスライドガラス上に展開させた状態で顕微鏡写真をとり、その写真から繊維状フィラーの形状を直接的に読み取って、その平均値を算出して求められるものである。尚、平均値の算出にあたっては母数を400以上とする。
【0031】
[繊維状フィラー分級方法]
二段式の分級方法で、目開き500μm以上の篩上を通した後、目開き200μmの篩上を通して繊維状フィラーの分級を行う。繊維状フィラーを篩上に通す際に、自然に篩上を滑るように傾斜がついていると良い。また、円筒状の篩形状の内部に繊維状フィラーをおいて、回転させながら行うと、フィラーが篩上を通過する面積が大きくなるため、分級効率が向上する。前述の繊維長測定方法にて確認し、該当する繊維長分布となるまで操作を繰返し、該当サンプルを作製する。若しくは、以下の重力沈降法で分級しても良い。繊維状フィラーを水、アセトン、アルコール、エーテルなどの溶媒中で攪拌して分散させ、その後に自然沈降させた後、溶媒を除去する。除去方法としては、溶媒をピペット等で吸い出しても良いし、濾過装置内で本操作を行い、沈降操作終了後に溶媒を濾過しても良い。本操作を行うことで、積層した繊維状フィラーは上下に連続的に繊維長分布が変化する集合体となる。このうち、下に沈降した繊維状フィラーを除去することで該当する繊維分布となるサンプルを作製できる。尚、繊維長は別記の測定方法で確認し、所定の繊維長分布となるまで繰返し操作を行い、該当サンプルを作製する。
【0032】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物における繊維状フィラーの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、5〜250質量部とするのが好ましい。繊維状フィラーが250質量部を越えると成形性が低下しやすくなり、また、機械強度も低下して脆くなる傾向がある。
一方、繊維状フィラーが5質量部を下回ると、成形体の寸法安定性が低下して所望の寸法の成形体が得られにくく、且つ、液晶ポリエステルの異方性が強く発現して、成形体に反り等が発生するおそれがある。また、繊維状フィラーが少ないと、機械強度向上の効果が低下する。
【0033】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物における繊維状フィラーの含有量は、前記の特性のバランスを考慮すると、液晶ポリエステル100質量部に対して、10〜150質量部であるとより好ましく、25〜100質量部であるとさらに好ましく、40〜70質量部であると特に好ましい。
【0034】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を1種以上含有していて用いてもよい。
【0035】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物が含有していてもよい添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤、着色剤、レベリング剤、消泡剤及び板状フィラーが挙げられる。添加剤の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜5質量部である。
【0036】
本発明の樹脂組成物が含有していてもよい液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。液晶ポリエステル以外の樹脂の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは通常0〜99質量部である。
【0037】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル、繊維状フィラー及び必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練し、ペレット状に押し出すことにより調製することが好ましい。押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが好ましく用いられ、さらにシリンダーに1箇所以上のベント部が設けられたものが、より好ましく用いられる。
【0038】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて成形体を得るには、予め液晶ポリエステルと繊維状フィラーとを溶融混練して、ペレット状の樹脂組成物(以下、「樹脂組成物ペレット」と呼ぶ)にしておくことが好ましい。尚、液晶ポリエステル及び繊維状フィラー以外の添加剤等を用いる場合は、液晶ポリエステル及び繊維状フィラーとともに、添加剤等も合わせて溶融混練して樹脂組成物ペレットとすれば良い。
【0039】
樹脂組成物ペレットは、種々の慣用の方法によって作製することができるが、使用した繊維状フィラーが切断されて著しく短繊維長化しないようにすることが好ましい。溶融混練は、一般的には、押出機で液晶ポリエステルを、予め加熱溶融させてから、繊維状フィラーや必要に応じて加えられる成分を投入して混練することにより、樹脂組成物ペレットにする作製方法や、液晶ポリエステル、繊維状フィラー、さらに必要に応じて加えられる添加剤等を、ヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いて混合し、混合物を得た後、さらにその混合物を、押出機を用いて溶融混練し、樹脂組成物ペレットにする作製方法が採用される。ここで、繊維状フィラーを著しく短繊維長化させないためには、混合時の温度条件、溶融混練時の温度条件及びせん断力を適宜最適化することが必要である。
【0040】
その好適な条件について記すと、混合時においては、0℃から使用した液晶ポリエステルの流動開始温度FT0(℃)以下の温度条件から選択される。この温度条件が、前記流動開始温度FT0(℃)を超えると、得られる樹脂組成物ペレット中に繊維状フィラーが均一に混合されにくく、当該繊維状フィラーが偏在した樹脂組成物ペレットとなる恐れがある。また、樹脂組成物ペレット調製に添加剤等を使用した場合は、該添加剤も樹脂組成物ペレット中で偏在し易くなるので好ましくない。より実用的な温度条件としては、20〜200℃程度から選択される。なお、混合に係る時間は、0.001〜5時間程度であり、0.01〜3時間であるとさらに好ましい。一方、溶融混練においては、前記の流動開始温度FT0(℃)を基点として、[FT+10]℃以上[FT+80]℃以下の温度条件から選択される。なお、溶融混連に係るせん断力、特に押出機に係るせん断力は、使用した押出機の種類やスケールによって適宜最適化される。短繊維長化しにくいことと、操作性が良好である観点から、前記押出機としては、2軸の混練押出機を用いることが好ましい。
このようにして、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から樹脂組成物ペレットを得ると、該樹脂組成物ペレットから成形体を製造するに際し、射出成形等の成形において取り扱いが容易になるため好ましい。
【0041】
本発明の樹脂組成物を用いて成形体とする際の成形法としては、溶融成形法が好ましく、その例としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法等の押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法及びプレス成形が挙げられる。中でも射出成形法が好ましく、前記のようにして本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物より得られた樹脂組成物ペレットを射出成形して、成形体を得ることが特に好ましい。
【0042】
成形体のパーティクル発生を抑制する上で、好適な射出成形方法としては、樹脂組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)に対して、[FT+30]℃以上[FT+80]℃以下の温度で該樹脂組成物ペレットを溶融せしめて、80℃以上の温度に設定された金型に射出成形する方法が挙げられる。ここで、流動開始温度とは射出成形機の可塑化装置内で樹脂組成物ペレットが溶融する温度を表し、通常液晶ポリエステル自身の流動開始温度である。なお、樹脂組成物ペレットは射出成形する前に乾燥させておくことが好ましい。
【0043】
本出願人は、パーティクルの発生要因の一つとして成形時の樹脂溶融温度や金型温度も起因することを見出し、先に出願している(特許文献1参照)。樹脂溶融温度が、[FT+30]℃よりも低い温度で射出成形すると、得られる成形体の表面強度が低下してパーティクルの発生を助長する傾向があり、さらには成形流動性が著しく低下することからも好ましくない。一方、樹脂溶融温度が、[FT+80]℃よりも高い温度で射出成形すると、成形機内で滞留する液晶ポリエステルの分解が生じて、その結果得られる成形体は脱ガス等が発生しやすくなり、電気・電子部品や光学部品の用途に適用することが困難になることがある。また、射出成形後、金型を開いて成形体を取り出す際にノズルから溶融樹脂が流れ出るような弊害が生じやすいことから、成形体の生産性が低下するといった問題も生じるため、好ましくない。成形体の安定性と成形性を考慮すると、樹脂溶融温度は[FT+30]℃以上[FT+60]℃以下であることがさらに好ましい。
【0044】
一方、金型温度は80℃以上が好適である。金型温度が80℃を下回ると、得られる成形体の表面平滑性が損なわれ、パーティクル発生量を助長する傾向がある。なお、パーティクル発生量を低減する観点からは、金型温度は高いほど有利であるが、高すぎると冷却効果が低下して冷却工程に要する時間が長くなるために生産性が低下したり、離型性の低下により成形体が変形したりするなどの問題が生じるため好ましくない。さらに、金型温度を上げすぎると金型どうしの噛み合いが悪くなり、金型開閉時に成形体が破損しやすいといった弊害もある。金型温度の上限も、前記樹脂組成物ペレットに含まれる液晶ポリエステルの分解を防止するために、適用する樹脂組成物ペレットの種類に応じて適宜最適化することが好ましい。
【0045】
このようにして本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物より得られた樹脂組成物ペレットを射出成形して、成形体を得ることにより、パーティクル発生を極めて良好に防止し得る成形体を得ることができる。かかる成形体は電気・電子用機器あるいは光学機器用の部品に好適に使用することができる。
【0046】
また、本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形体は下記の表面テープ剥離試験で得られる表面粗さRa値の上昇幅が0.4μm以下となる平面部を有することが好ましい。このような表面粗さRaの上昇幅となる平面部を有する成形体とすることにより、成形体製造時のパーティクル発生だけでなく、経時劣化による成形体からのパーティクル発生を極めて良好に防止することができるため好ましい。
【0047】
[表面テープ剥離試験]
成形体の平面部にJIS B0601−1994で規定されている中心線平均粗さ測定を用いて初期表面粗さRa1を測定する。Ra1を測定した平面部に、粘着力4.0N/mmのテープを貼って剥がす。このテープを貼って剥がす操作を同一の平面部に30回繰返した後、前記と同様にして表面粗さRa2を測定し、Ra2とRa1の差分(Ra2−Ra1)を表面粗さRaの上昇幅として求める。
前記表面テープ剥離試験は、より詳細には、本出願人が先に開示した特開2008−239950号公報と同様の方法で行うことができる。
【0048】
なお、本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形体は、平面部における前記した表面粗さRaの上昇幅は低ければ低いほどパーティクル発生を抑制できるため好ましい。この観点から本発明の成形体の平面部における表面粗さRa値の上昇幅は0.4μm以下であることが好ましく、0.3μmであることがより好ましく、0.2μm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
従来、経時で発生するパーティクル発生の度合いを求めるには、成形品(部品)の長期耐久試験を必要とするものであったが、前記した表面テープ剥離試験によれば簡便な操作で、長時間を要する耐久試験を行わなくとも、成形品(部品)の経時のパーティクル発生を十分防止し得る成形体の成形条件を最適化することができ、成形体(部品)を安定的に生産する上で極めて有用である。
【0050】
成形体の成形条件を求めるには、例えば、64mm×64mm×1mmの寸法形状を有する平板状成形体を標準成形体とし、該標準成形体が得られるような金型を用いて予備実験を行えばよい。そして、標準成形体を用いて求められた成形条件に基づき、金型を、標準成形体(平板状成形体)を成型し得るものから、所望の形状を成型し得るものに変更して、同じ成形条件により成形を行えば、得られた成形体は、標準成形体のRaの上昇幅と同等のものとなる。そして、このような予備実験によれば、より容易に本発明の樹脂組成物を用いて、成形体製造時のパーティクル発生だけでなく、経時劣化によるパーティクル発生を極めて良好に防止することができる成形体を得ることができる。
【0051】
本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形体の例としては、電気・電子部品、光学部品が挙げられ、具体的には例えば、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、 回路基板、半導体パッケージ、コンピュータ関連部品、カメラ鏡筒、光学センサー筐体、コンパクトカメラモジュール筐体(パッケージや鏡筒)、プロジェクター光学エンジン構成部材、ICトレー、ウエハーキャリヤー等の半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具、等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー等の照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク、スピーカー等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム等の通信機器部品等を挙げることができる。
【0052】
また、上記以外の用途の成形体としては、例えば、分離爪、ヒータホルダー等の複写機、印刷機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品等の自動車部品;マイクロ波調理用鍋、耐熱食器等の調理用器具;床材、壁材などの断熱、防音用材料、梁、柱などの支持材料、屋根材等の建築資材、または土木建築用材料;航空機、宇宙機、宇宙機器用部品;原子炉等の放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品等が挙げられる。
【0053】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物より得られる成形体は、機械強度、耐熱性及び成形性に優れ、且つ、優れた耐パーティクル性を有する。
【実施例】
【0054】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における評価方法は以下の通りである。
【0055】
(1)曲げ強度、曲げ弾性率
日精樹脂工業株式会社製のPS40E−5ASE型射出成形機を用いた射出成形により、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片を成形し、A&D社製テンシロンUTM−500を用いて、ASTM D790に準拠した測定条件で3点曲げ強度、及び曲げ弾性率を測定した。
【0056】
(2)荷重たわみ温度
日精樹脂工業株式会社製のPS40E−5ASE型射出成形機を用いた射出成形により、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片を成形し、安田精機株式会社製No148 HD−PC HEAT DISTORTION TESTERを用いてASTM D648に準拠した測定条件で荷重たわみ温度を測定した。
【0057】
(3)引張強度、引張伸び
日精樹脂工業株式会社製のPS40E−5ASE型射出成形機を用いて、4号ダンベル状試験片を形成し、株式会社島津製作所製オートグラフAG−5000Dを用いて、ASTM D790に準拠した測定方法で引張強度、及び伸びを測定した。
【0058】
(4)成形収縮率
日精樹脂工業株式会社製のPS40E−5ASE型射出成形機を用いた射出成形により、64mm×64mm×3mmtの寸法の金型を用いてフィルムゲートで試験片を成形し、得られた試験片の寸法をマイクロメータを用いて測定した。その後、金型の寸法を基準として、試験片の流動方向(MD)と、流動方向に対して直角方向(TD)の寸法の収縮率を算出した。
【0059】
(7)パーティクル量の測定方法1
日精樹脂工業株式会社製PS40E−5ASEを用いて射出成形にて、外径25.60mmφ、内径20.00mmφ、長さ19.85mmの筒状成形体を成形し、該成形体を切断部を熱カシメ部により封止した後、50mLの純水中で緩やかに1分間攪拌して表面を洗浄し、攪拌を止めて10分間放置した後、リオン株式会社製液中パーティクルカウンターシステムを用い、洗浄液中に分散されたパーティクル数を計数した。この液中パーティクルカウンターシステムは、シリンジサンプラーKZ−30W1(パーティクル分散液を採取)、パーティクルセンサーKS−65、およびコントローラーKL−11Aから構成され、試料10mL中の2μm〜100μmサイズのパーティクルを個/mL単位で計数した。測定はサンプル毎に5回行い、その平均値を分散されたパーティクル数として計数した。
【0060】
(8)パーティクル量の測定方法2
日精樹脂工業株式会社製PS40E−5ASEを用いて、射出成形にて外寸64mm×64mm×1mmの平板試験片を成形し、500mLのビーカーに500mLの超純水を注水し、ゲート部分が直接水に触れないように平板試験片をビーカー内で中吊りにして、36Hzの超音波を60秒照射して平板試験片を洗浄し、洗浄後のビーカー内の水溶液を試験水とした。この試験水をリオン株式会社製液中パーティクルカウンターシステムを用い、洗浄液中に分散されたパーティクル数を計数した。この液中パーティクルカウンターシステムは、シリンジサンプラーKZ−30W1(パーティクル分散液を採取)、パーティクルセンサーKS−65、およびコントローラーKL−11Aから構成され、試料10mL中の2μm〜100μmサイズのパーティクルを個/mL単位で計数した。測定はサンプル毎に5回行い、その平均値を求めた。
電気・電子機器または光学機器などの部品は、通常振動式(超音波)洗浄機で洗浄しており、この洗浄作業によって表面からパーティクルが発生してしまうことが確認されている。
【0061】
〔製造例:液晶ポリエステル(LCP1)の製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、無水酢酸1347.6g(13.2モル)及び1−メチルイミダゾール0.194gを入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで15分かけて昇温し、145℃で1時間還流させた。次いで、1−メチルイミダゾール0.194gを加え、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から320℃まで3時間かけて昇温し、320℃で2時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。こうして得られたプレポリマーについて、フローテスター「CFT−500型」(株式会社島津製作所製)により流動開始温度を測定したところ、261℃であった。
次いで、このプレポリマーを、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、327℃であった。このようにして得られた液晶ポリエステルをLCP1とした。
【0062】
〔実施例1〜3および比較例1〕
製造例で得られたLCP1と、繊維状フィラーとしてガラス繊維(セントラル硝子株式会社製EFH75−01)及びサンプル1〜3のいずれかを表1に示す組成で、二軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM−30)を用いて、シリンダー温度340℃で溶融混練し、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物(樹脂組成物ペレット)を得た。
ここで、サンプル1〜3は、ガラス繊維(セントラル硝子株式会社製EFH75−01)を篩別(分級)して200μmを超える繊維状フィラー(ガラス繊維)の量を調整したものである。繊維状フィラーとして用いたEFH75−01及びサンプル1〜3の、繊維径、数平均繊維長、及び、各繊維状フィラーの全数量に対する繊維長200μmを超える繊維状フィラーの数量の割合(%)は表2に示す通りである。なお、繊維状フィラーの繊維径および数平均繊維長の測定は以下の方法により行った。
【0063】
<繊維状フィラーの繊維径および数平均繊維長の測定>
得られた樹脂組成物ペレットのうち1.0gをるつぼにとり、電気炉内にて600℃で4時間処理して灰化させ、その残渣をメタノールに分散させてスライドガラス上に展開させた状態で顕微鏡写真をとり、その写真から繊維状フィラーの形状を直接的に読み取って、その平均値を算出して繊維径および数平均繊維長を求めた。尚、平均値の算出にあたっては母数を100とした。
【0064】
次に、得られた樹脂組成物ペレットを乾燥後、日精樹脂工業株式会社製のPS40E−5ASE型射出成形機を用い、射出成形して長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの各試験片を得た。
得られた各試験片について、引張強度、伸び、曲げ強度、弾性率、荷重たわみ温度及び成形収縮率を測定した結果を表3に示す。
また、実施例1〜3および比較例1の各樹脂組成物ペレットを乾燥後、パーティクル量の測定方法1及び2により発塵性(パーティクル量)を測定した結果を表4に示す。なお、パーティクル量の測定方法1で測定を行った結果については、パーティクルカウント数が100個/mL未満を許容範囲として「○」、100個/mL以上は許容範囲外として「×」として判定した。また、パーティクル量の測定方法2で測定を行った結果については、パーティクルをカウントした個数を比較した。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
表3の結果より、実施例1〜3及び比較例1はいずれも、良好な機械強度(引張強度、伸び、曲げ強度、弾性率)、耐熱性(荷重たわみ温度)及び成形性(成形収縮率)を示していた。
表4の結果より、実施例1〜3及び比較例1はいずれも、測定方法1のパーティクル量の測定において、良好な耐パーティクル性を示していた。
また、表4の結果より、繊維状フィラーのうち、繊維長200μmを超えるものの割合が10%以下である実施例1〜3は、比較例1と比較して、超音波洗浄を行った測定方法2の場合にも、パーティクル個数が少なく、耐パーティクル性が高くなっていた。
以上の結果より、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物より得られる成形体は、機械強度、耐熱性及び成形性に優れ、且つ、超音波洗浄を行う場合にも優れた耐パーティクル性を有することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、電気・電子部品、光学部品、半導体製造プロセス関連部品、家庭電気製品部品、照明器具部品、音響製品部品、通信機器部品、印刷機関連部品、自動車部品、調理用器具、土木建築用材料、宇宙航空機器用部品、医療用機器部品、スポーツ用品、レジャー用品などの各種成形体に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと繊維状フィラーとを含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、
前記繊維状フィラーが、繊維径5〜15μm、数平均繊維長30〜200μmであり、
前記繊維状フィラーの全数量に対して、繊維長が200μmを越えるものの数量が10%以下であることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有することを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し;Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基を表し;X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表し、;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜80モル%、前記一般式(2)で表される繰返し単位を10〜35モル%、前記一般式(3)で表される繰返し単位を10〜35モル%有することを特徴とする請求項2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(3)において、X及びYが酸素原子であることを特徴とする請求項2又は3に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られたことを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2012−193270(P2012−193270A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57998(P2011−57998)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】