説明

液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法および成形体

【課題】 ゲート断面積の小さい成形品の射出成形時のハナ垂れや成形品のモールドブリスターの発生を抑えられ、アイゾット衝撃強度などの機械的特性や耐熱性が優れた成形品を安定して製造することができる液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法は、組成物全量を100質量部としたときに液晶ポリエステル(A)40.0〜70.0質量部、一次粒子径が0.1〜1μmの不定形若しくは球状の粉体(B)29.0〜55.0質量部、及び、平均径が20〜300μmの板状、繊維状若しくは球状の充填剤(C)1.0〜15.0質量部を含む液晶ポリエステル樹脂組成物を、断面積が0.05〜1.00mmであるゲートを通す射出成形法により成形することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法、および該成形方法により得られる成形体に関するものである。特に、本発明は、ゲート断面積が小さい成形品を射出成形する液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、一般に溶融液晶型(サーモトロピック液晶)ポリマーと呼ばれているもので、その特異的な挙動のため溶融流動性が極めて優れ、構造によっては300℃以上の耐熱変形性を有する。このような特性を生かし、電気・電子部品をはじめ、OA、AV部品、耐熱食器等の用途の成形体に液晶ポリエステルが用いられている。なかでも、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは、薄肉成形性、耐熱性、機械的強度、寸法安定性等に優れていることが知られており、表面実装技術(SMT)のハンダ付け温度(約240〜260℃)にも対応できることから、近年の軽薄短小化が顕著な携帯電話やデジタルカメラなどの電気・電子機器の回路基板に実装される小さく薄い精密部品への使用が拡大している。これらの部品は、液晶ポリエステルの溶融粘性が低いこともあって、一般的には射出成形で製造されている。
【0003】
発光ダイオード(LED)は、次世代の照明や表示素子として需要が拡大しつつあり、上記の電気・電子機器にも利用されている。LED装置には、LEDの光利用率を上げるためにLED素子の周囲にリフレクター(反射枠)が設けられており、このようなリフレクターを液晶ポリエステル樹脂組成物で作製することが試みられている。例えば、下記特許文献1〜4には、液晶ポリエステルと酸化チタンとを含む樹脂組成物を射出成形して反射板やリフレクターを作製することが提案されている。また、成形性と機械的特性のバランスも重要であることから、例えば、下記特許文献5には、成形性と剛性に優れた材料を得ることを目的として、液晶性ポリエステル100重量部に、シリカ、タルク等の微粒子を1〜5重量部配合した樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−256673号公報
【特許文献2】特開2004−277539号公報
【特許文献3】特開2007−254669号公報
【特許文献4】特開2008−231368号公報
【特許文献5】特開2007−138143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、電気・電子機器の軽薄短小化がより一層進み、これに伴って、部品は更に小さく肉厚も薄くなり、これら部品を射出成形する金型のゲート断面積も小さくなっている。従来の液晶ポリエステル樹脂組成物は、試験評価用の試験片(例えばASTM試験片)や平板等、ゲート断面積が10〜60mm程度の成形体を射出成形してもモールドブリスターの問題はないが、ゲート断面積が1mm以下になる部品の成形ではモールドブリスターが発生し、製品歩留まりが低下するという問題がある。肉厚が0.5mm未満の薄肉部分を有する部品の場合には、ゲート断面積が0.1mm以下になることがあり、モールドブリスターの問題が更に顕在化する。
【0006】
更に別の問題がある。射出成形では、一般的に、計量後にノズルと金型を離す動作を行い、射出前にノズルと金型を接触させる動作を繰り返す。このとき、ノズルが離れた状態においてノズル先端から樹脂が漏れることがある(これを「ハナ垂れ」と言う。)。溶融粘度が低い樹脂組成物や粒径の小さい充填剤が配合された樹脂組成物はハナ垂れが起こりやすくなる。溶融粘度が極めて低く、溶融張力が小さい液晶ポリエステルに、酸化チタン、シリカ等の一次粒子径が小さい(特に、1μm以下の)粉体を配合した場合、上記のハナ垂れによる不具合が問題となる。なお、ハナ垂れやモールドブリスターを成形条件の調整によって抑制しようとすると、射出速度、成形温度、金型温度等を厳密に管理しなければならず、成形条件の範囲が著しく狭くなり、連続成形が困難、ロスが増える等の問題がある。
【0007】
その一方で、上記リフレクターを含め、携帯電話やデジタルカメラなどを構成する樹脂製の部品には、耐久性、ハンダ耐熱性などを確保する点から、機械的特性、特にアイゾット衝撃強度、曲げ強度等や、荷重たわみ温度(DTUL:Distortion Temperature under Load)が十分に高いことが求められる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ゲート断面積の小さい成形品の射出成形時のハナ垂れや成形品のモールドブリスターの発生を抑えられ、アイゾット衝撃強度などの機械的特性や耐熱性に優れた成形品を安定して製造することができる液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法、および該成形方法によって成形される機械的特性等に優れた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、液晶ポリエステルと、特定の一次粒子径を有する特定の粉体と、特定の平均径を有する特定の充填剤とを特定の割合で含む樹脂組成物が、断面積0.05〜1.00mmのゲートを通す射出成形において、射出成形時のハナ垂れと成形品のモールドブリスターの発生を抑えることができ、しかもアイゾット衝撃強度が良好で機械的特性に優れた成形体を安定して製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法は、組成物全量を100質量部としたときに液晶ポリエステル(A)40.0〜70.0質量部、一次粒子径が0.1〜1μmの不定形若しくは球状の粉体(B)29.0〜55.0質量部、及び、平均径が20〜300μmの板状、繊維状若しくは球状の充填剤(C)1.0〜15.0質量部を含む液晶ポリエステル樹脂組成物を、断面積が0.05〜1.00mmであるゲートを通す射出成形法により成形することを特徴とする。
【0011】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法によれば、ゲート断面積の小さい成形品の成形時におけるハナ垂れや成形品のモールドブリスターの発生を十分抑えられ、アイゾット衝撃強度が30kJ/m以上の機械的特性に優れた成形品を安定して製造することができる。このような効果を有する本発明の液晶ポリエステルの成形方法は、電気・電子機器の精密部品、特には最小肉厚が0.5mm未満である部分を有する薄肉成形品を成形するのに有用である。
【0012】
本発明によって奏される上記の効果は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を上記割合で配合することにより、成形性や機械的強度を損なうことなく、液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度には大きな影響を及ぼさずにメルトテンションを改善できたことにより、射出成形時のハナ垂れやジェッティング現象を抑制することができ、効果的にモールドブリスターの発生が抑えられたためと本発明者らは考えている。これに対し、メルトテンションを上げるために樹脂重合度を上げるなどの方法で樹脂組成物の溶融粘度を上げると、樹脂組成物の流動性が低下するため、上記のゲート断面積で射出成形する場合、肉厚の薄い部分等で充填不良が起こるなど成形性が悪くなってしまう。
【0013】
なお、上記(C)成分が配合されない若しくは(C)成分の配合量が上記下限値未満であると、ハナ垂れ及びモールドブリスターの発生を十分抑制することができない。これは、樹脂組成物の溶融時のメルトテンションが低いため、射出ノズルからのハナ垂れが起こりやすく、射出成形時にジェッティング現象が生じ、エアーを巻き込むためモールドブリスターが発生するためと推測される。一方、(C)成分の配合量が上記上限値を超えると、アイゾット衝撃強度が著しく低下して成形品がもろくなってしまう。
【0014】
また、上記(A)成分及び(B)成分の配合量が上記の条件を満たさない場合、ハナ垂れの抑制や、生産性を十分確保することができなくなる。
【0015】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法によれば、液晶ポリエステルの特性を十分生かすことができ、機械的強度、寸法安定性、耐熱性、吸湿性等において所望される物性を高水準で満たしつつ、上記(B)成分や(C)成分による特性が付与された成形体を提供することができる。
【0016】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法において、上記(B)成分が、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、シリカ、及びチタン酸バリウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
また、上記(C)成分が、タルク、マイカ、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、及びガラスバルーンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
更に、上記(A)成分が、融点が320℃以上の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0019】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法は、最小肉厚が0.5mm未満である部分を有する薄肉成形品を成形するために用いられることが好ましい。
【0020】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法は、LEDリフレクターを成形するために用いられることが好ましい。
【0021】
本発明はまた、上記本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法により得られる成形体を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、液晶ポリエステルの優れた成形性、耐熱性を保持しながら、ゲート断面の小さい射出成形時のハナ垂れ及びモールドブリスター発生を抑えて、アイゾット衝撃強度等の機械的強度に優れる成形体を与える成形方法を提供することができる。本発明の成形方法によれば、最小肉厚が0.5mm未満である部分を有する薄肉成形品であっても安定した連続生産が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<液晶ポリエステル(A)>
本発明に係る液晶ポリエステル(以下、単に「LCP」と略称する場合もある)は、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルで、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するものである。LCPとしては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボニル単位、芳香族および/または脂肪族ジヒドロキシ単位、並びに、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位などから選ばれる構造単位からなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボニル単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などから生成した構造単位、芳香族および/ または脂肪族ジヒドロキシ単位としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ヒドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどから生成した構造単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などから生成した構造単位が挙げられる。
【0024】
本発明で用いる液晶ポリエステルは、成形性、機械的強度、耐熱性のバランスが優れることから、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルが好ましい。全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルとしては、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との組み合わせからなるもの、異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせからなるもの、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの等が挙げられる。
【0025】
本発明で用いる全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは、融点が320℃以上であることが好ましい。このようなLCPを配合することにより、耐ハンダ等の耐熱性に優れた薄肉部を有する成形体をより有効に実現することができる。
【0026】
融点が320℃以上の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを得るには、原料モノマーとしてp−ヒドロキシ安息香酸を40モル%以上使用するとよい。この他に、公知の他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジヒドロキシ化合物を適宜組み合わせて使用することができる。例えば、p−ヒドロキシ安息香酸や6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸のみから得られるポリエステル、さらにこれらとテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、および/またはハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とから得られる液晶性ポリエステルなどが好ましいものとして挙げられる。
【0027】
特に好ましくは、p−ヒドロキシ安息香酸(a)、テレフタル酸(b)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(c)(これらの誘導体を含む。)を80〜100モル%(但し、(a)と(b)の合計を60モル%以上とする。)、および、(a)、(b)、(c)のいずれかと重縮合反応可能な他の芳香族化合物0〜20モル%を重縮合して得られる全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルである。
【0028】
全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造に際しては、溶融重縮合時間を短縮し工程中の熱履歴の影響を低減させるため、上記のモノマーの水酸基を予めアセチル化した後に溶融重縮合を行うことが好ましい。さらに、工程を簡略化するためには、アセチル化は反応槽中のモノマーに無水酢酸を供給して行うのが好ましい。このアセチル化工程は、溶融重縮合工程と同じ反応槽を用いて行うのが好ましい。すなわち、反応槽中で原料モノマーと無水酢酸でアセチル化反応を行い、反応終了後昇温して重縮合反応に移行するのが好ましい。
【0029】
アセチル化されたモノマーの脱酢酸反応を伴いながら溶融重縮合反応を行う場合、反応は、モノマー供給手段、酢酸排出手段、溶融ポリエステル取り出し手段および攪拌手段を備えた反応槽を用いて行うのが好ましい。このような反応槽(重縮合装置)は公知のものから適宜選択することができる。重合温度は好ましくは150℃〜350℃である。アセチル化反応終了後、重合開始温度まで昇温して重縮合を開始し、0.1℃/分〜2℃/分の範囲で昇温して、最終温度として280〜350℃まで上昇させるのが好ましい。このように、重縮合の進行により生成重合体の溶融温度が上昇するのに対応して重縮合温度も上昇させることが好ましい。重縮合反応では、ポリエステルの重縮合触媒として公知の触媒を使用することができる。触媒としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの金属触媒、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒等が挙げられる。
【0030】
溶融重縮合において、その流動点が200℃以上、好ましくは220℃〜330℃に達したところで、低重合度の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを溶融状態のまま重合槽から抜き出し、スチールベルトやドラムクーラー等の冷却機へ供給し、冷却して固化させる。
【0031】
次いで、固化した低重合度の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを、後続の固相重縮合に適した大きさに粉砕する。粉砕方法は特に限定されないが、例えば、ホソカワミクロン社製のフェザーミル、ビクトミル、コロプレックス、パルベラーザー、コントラプレックス、スクロールミル、ACMパルベラーザー等の衝撃式粉砕機、マツボー社製の架砕式粉砕機であるロールグラニュレーター等が挙げられる。特に好ましくは、ホソカワミクロン社製のフェザーミルである。本発明においては、粉砕物の粒径に特に制限はないが、工業フルイ(タイラーメッシュ)で4メッシュ通過〜2000メッシュ不通の範囲が好ましく、5メッシュ〜2000メッシュ(0.01〜4mm)にあればさらに好ましく、9メッシュ〜1450メッシュ(0.02〜2mm)にあれば最も好ましい。
【0032】
次いで、粉砕工程で得られた粉砕物を固相重縮合工程に供して固相重縮合を行う。固相重縮合工程に使用する装置、運転条件には特に制限はなく、公知の装置および方法を用いることができる。表面実装技術(SMT)対応の部品として使用するためには、融点が320℃以上のものが得られるまで固相重縮合反応を行うことが好ましい。
【0033】
本発明の液晶ポリエステルの成形方法の樹脂組成物における液晶ポリエステル(A)の含有量は、樹脂組成物全量100質量部に対して40.0〜70.0質量部であるが、40.0〜60.0質量部であることが好ましい。液晶ポリエステル(A)の含有量が、40.0質量部未満では、組成物の生産性、成形性、機械的強度が低下する傾向あり、70.0質量部を超えると、樹脂組成物の液晶ポリエステルの量が多くなることで溶融張力が小さくなり、ハナ垂れが発生しやすくなるため好ましくない。
【0034】
<一次粒子径が0.1〜1μmの不定形若しくは球状の粉体(B)>
本発明に係る樹脂組成物には、一次粒子径が0.1〜1μmの不定形あるいは球状粉体を樹脂組成物全量100質量部に対して29.0〜55.0質量部配合することが必須である。一次粒子径とは、一次粒子(他と明確に分離できる最小単位の粒子)の数平均粒子径を指す。数平均粒子径は、一般的に動的光散乱法やレーザー光散乱法等によって測定される。
【0035】
本発明で用いる(B)成分の一次粒子径は、0.1〜1μmであるが、好ましくは0.2〜0.8μmである。一次粒子径がこの範囲にある粉体を用いることにより、(B)成分の配合による作用効果が十分に発揮されるとともに、アイゾット衝撃強度など機械的強度の高い成形体が得られやすくなる。一次粒子径が1μmを超える粒子では、液晶ポリエステル樹脂(LCP)に対する分散性が悪くなる傾向にあり、(B)成分の配合によって付与される特性、例えばLEDリフレクターの場合は反射率、が低下してしまい好ましくない。一次粒子径が0.1μm未満では、押出機による溶融混練の際に、粉体原料のスクリュへの食い込み不良が発生し、押出量が著しく低下して生産性が下がり好ましくない。
【0036】
(B)成分としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、シリカ、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ガラス粉、フェライト粉、酸化アルミニウム粉、タルク等が挙げられる。中でも酸化チタン、硫酸バリウム、シリカ、チタン酸バリウムが好ましく、特に酸化チタン、シリカが好ましい。
【0037】
本発明に係る樹脂組成物における(B)成分の含有量は、樹脂組成物全量を100.0質量部としたときに29.0〜55.0質量部であるが、好ましくは29.0〜50.0質量部であり、より好ましくは40.0〜50.0質量部である。(B)成分の含有量が、29.0質量部未満であると、液晶ポリエステル組成物中に含まれる酸化チタンやシリカ等の(B)成分の配合量が低下して、(B)成分の配合によって付与される特性、例えばLEDリフレクターの場合は反射率、が低下してしまうという問題があり好ましくない。一方、(B)成分の含有量が、55.0質量部を超えると、樹脂組成物の生産性、及び成形性が著しく低下し、機械的特性も著しく低下するので好ましくない。
【0038】
<平均径が20〜300μmの板状、繊維状若しくは球状の充填剤(C)>
本発明に係る樹脂組成物には、平均径が20〜300μmの板状、繊維状若しくは球状の充填剤(C)を樹脂組成物全量100質量部に対して1.0〜15.0質量部配合することが必須である。ここで、平均径とは、板状若しくは球状の充填剤については数平均粒径を指し、繊維状充填剤については繊維の数平均繊維長を指す。また、本発明における(C)成分の平均径は、溶融混練後の樹脂組成物中での値を意味する。なお、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットに含まれる(C)成分の平均径は、下記の方法で求められる。
【0039】
数平均粒径若しくは数平均繊維長の測定方法:
組成物ペレット約5gを、るつぼ中で灰化した後、残存した灰分のうちから100mgを採取し、100ccの石鹸水中に分散させる。この分散液を、スポイトを用いて1〜2滴スライドガラス上に置き、顕微鏡下に観察して、写真撮影する。この写真に撮影された対象物の粒子径もしくは繊維長の測定を500個行い、数平均を求める。
【0040】
本発明で用いる(C)成分の平均径は20〜300μmであるが、好ましくは25〜250μmである。平均径がこの範囲にある場合は、射出成形品の機械的強度を十分なものとしつつ、射出成形時のハナ垂れやモールドブリスター発生を抑制することができる。(C)成分の平均径が20μm未満では、射出成形時のハナ垂れ、モールドブリスター発生を抑制することが困難となる。一方、(C)成分の平均径が300μmを超えると、成形性が著しく低下し、特に薄肉成形性が著しく低下して好ましくない。
【0041】
板状の(C)成分としては、例えば、タルク、マイカ、クレー、ガラスフレークが挙げられる。これらの中でも、タルク、マイカが好ましい。また、繊維状の(C)成分としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、ウォラストナイトが挙げられる。これらの中でも、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。また、球状の(C)成分としては、例えば、シリカ、ガラスバルーン、ガラスビーズが挙げられる。これらの中でも、シリカ、ガラスバルーンが好ましい。これら板状、繊維状、球状の充填剤のうち、高いアイゾット衝撃強度が得られ、ハナ垂れ、モールドブリスターを抑制できる観点から、ガラス繊維、タルクが特に好ましい。
【0042】
本発明に係る樹脂組成物における(C)の含有量は、樹脂組成物全量を100.0質量部としたときに1.0〜15.0質量部であるが、好ましくは1.0〜10.0質量部であり、より好ましくは3.0〜5.0質量部である。(C)の含有量が、1.0質量部未満であると、射出成形時のハナ垂れ、モールドブリスター発生の抑制が不十分となり、一方、15.0質量部を超えると、アイゾット衝撃強度が低下し成形品の機械的強度が不十分となる。
【0043】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法においては、樹脂組成物に本発明の目的を損なわない範囲で、各種添加剤の1種又は2種以上を配合することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの添加剤を添加して、所定の特性を樹脂組成物に付与することができる。
【0044】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法においては、機械的特性、耐熱性などのバランスを図る観点から、液晶ポリエステル樹脂組成物が、樹脂組成物全量を100.0質量部としたときに、(B)成分として酸化チタンを40.0〜50.0質量部及び(C)成分としてガラス繊維を3.0〜5.0質量部含有することが好ましい。このような樹脂組成物から得られる射出成形品は、LEDリフレクターなどに好適なものとなる。
【0045】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法について>
本発明で用いる液晶ポリエステル樹脂組成物は、上述した各成分(液晶ポリエステル(A)、一次粒子径が0.1〜1μmの不定形若しくは球状の粉体(B)、平均径が20〜300μmの板状、繊維状若しくは球状の充填剤(C))を溶融混練することにより得ることができる。溶融混練するための装置としては、二軸混練機を使用することができる。より好ましくは、1対の2条スクリュを有する連続押出式の二軸混練機であって、その中でも切り返し機構を有することで充填材の均一分散を可能とする同方向回転式が好ましい。充填材の食い込みが容易となるバレル−スクリュ間の空隙が大きい40mmφ以上のシリンダー径を有するものであり、スクリュ間のかみ合いが大きい、かみ合い率1.45以上のものが好ましい。
【0046】
上記(A)成分と、上記(B)成分、及び上記(C)成分は、公知の固体混合設備、例えば、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し、必要に応じて熱風乾燥器、減圧乾燥器等により乾燥し、二軸混練機のホッパーから供給することが好ましい。
【0047】
ガラスバルーンを含有する樹脂組成物の製造においては、配合するガラスバルーンは、二軸混練機のシリンダーの途中より供給(所謂、サイドフィード)することが好ましい。これにより、全てのガラスバルーンを他の原料と共にホッパーより供給(所謂、トップフィード)する場合に比較して、充填するガラスバルーンの破損を抑えることができる。
【0048】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法では、ゲート断面積が0.05〜1.00mmの射出成形時のハナ垂れ、モールドブリスターの発生を抑えることができ、小型の成形体を安定して連続生産することが可能となる。近年の軽薄短小化が進む携帯電話等の電気・電子機器の精密部品は、多数の射出成形機を長時間(例えば24時間)無人で連続運転して生産することが多い。そのため、途中でハナ垂れや成形不良等が原因で成形機が停止すると大きなロスが発生し製品の歩留まりが大きく低下してしまう。本発明の成形方法によれば、長時間成形機の連続運転が無人でも安定して行うことができ、モールドブリスターの発生も抑制できるので製品の歩留まりも大きく向上させることができる。
【0049】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法によれば、アイゾット衝撃強度が30kJ/m以上の射出成形品を得ることができる。ここで、アイゾット衝撃強度とは、ASTM D256に準拠し、ノッチなしで測定されたアイゾット衝撃強度を意味する。アイゾット衝撃強度が30kJ/m未満であると、LEDリフレクター等の精密部品としては機械的強度が不十分となる。
【0050】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法は、少なくとも最小肉厚が0.5mm未満である部分を有する精密部品などの成形体の製造に好適に用いることができる。
【0051】
<本発明の成形体について>
本発明の成形体は、上述した本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法で得られるものであり、モールドブリスターが十分抑制され、機械的強度及び耐熱性に十分優れたものになり得る。また、本発明の成形体は、最小肉厚が0.5mm未満(さらには0.4mm以下)である部分を有する場合であっても、良好な外観と、優れた機械的特性及び耐熱性を兼ね備えることができる。また、本発明の成形体は、上記(B)及び(C)成分により所望の特性(例えば、光反射特性など)を有することができる。
【0052】
本発明の成形体は、LEDリフレクター等の電機・電子機器の精密部品として好適である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
まず、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(A)の製造例を以下に示す。
【0055】
<製造例1:全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(I)の製造>
SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する内容積1700Lの重合槽(神戸製鋼株式会社製)に、p−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)240kg(1.74キロモル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(本州化学工業株式会社製)108kg(0.58キロモル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)72kg(0.44キロモル)、イソフタル酸(エイ・ジ・インターナショナルケミカル株式会社製)24kg(0.15キロモル)、触媒として酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.03kg、及び、酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.09kgを仕込み、重合槽の減圧−窒素注入を2回行って窒素置換を行った後、無水酢酸311kg(3.05キロモル)を更に添加し、攪拌翼の回転速度を45rpmとし、1.5時間かけて150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
【0056】
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合槽を0.5℃/分で昇温して、リアクター温度が310℃になったところで重合物をリアクター下部の抜き出し口から取り出し、冷却装置で冷却固化した。得られた重合物をホソカワミクロン株式会社製の粉砕機により目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
【0057】
次に、上記で得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンに充填し、窒素を16Nm/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から170℃まで3時間かけて昇温した後、280℃まで5時間かけて昇温し、更に300℃まで3時間かけて昇温して固相重縮合を行った。こうして、粉末状の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(I)約400kgを得た。得られた全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(I)の融点は352℃であり、また、370℃での見掛け粘度は70Pa・Sであった。
【0058】
<製造例2:全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(II)の製造>
SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する内容積1700Lの重合槽(神戸製鋼株式会社製)に、p−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)240kg(1.74キロモル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(本州化学工業株式会社製)108kg(0.58キロモル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)58kg(0.35キロモル)、イソフタル酸(エイ・ジ・インターナショナルケミカル株式会社製)39kg(0.23キロモル)、触媒として酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.03kg、及び、酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.09kgを仕込み、重合槽の減圧−窒素注入を2回行って窒素置換を行った後、無水酢酸311kg(3.05キロモル)を更に添加し、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(I)と同様の方法にて、プレポリマーを得た。
【0059】
上記で得られたプレポリマーを、高砂工業株式会社製のロータリーキルンに充填し、窒素を16Nm/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から170℃まで3時間かけて昇温した後、260℃まで5時間かけて昇温し、更に290℃まで3時間かけて昇温して固相重縮合を行った。こうして、粉末状の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(II)約400kgを得た。得られた全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(II)の融点は320℃であり、また、340℃での見掛け粘度は70Pa・Sであった。
【0060】
上記に示されている融点及び見掛け粘度は、次の方法で測定した値である。
【0061】
[融点]
液晶ポリエステルの融点は、セイコー電子工業(株)製の示差走査熱量計(DSC)により、リファレンスとしてα−アルミナを用いて測定した。このとき、昇温速度20℃/分で室温から400℃まで昇温してポリマーを完全に融解させた後、速度10℃/分で150℃まで降温し、更に20℃/分の速度で420℃まで昇温するときに得られる吸熱ピークの頂点を融点とした。
【0062】
[見掛け粘度]
液晶ポリエステルの見掛け粘度の測定は、インテスコ(株)製のキャピラリーレオメーター(Model2010)を用い、キャピラリーとして径1.0mm、長さ40mm、流入角90°のものを用いた。せん断速度100sec−1において、DSCで測定した融点よりも30℃低い温度から+4℃/分の昇温速度で等速加熱を行いながら見掛け粘度の測定を行い、所定温度における見掛け粘度を求めた。
【0063】
<一次粒子径が0.1〜1μmの不定形若しくは球状の粉体(B)>
一次粒子径が0.1〜1μmの不定形若しくは球状の粉体として以下の粒子を用意した。下記の( )内に記載の一次粒子径は、液晶ポリエステル樹脂と溶融混練する前の数値を示す。
酸化チタン:堺化学工業(株)製の商品名「SR−1」(一次粒子径0.25μm)。
硫酸バリウム:堺化学工業(株)製の商品名「300」(一次粒子径0.7μm)。
シリカ:電気化学工業(株)製の商品名「SFP−30M」(一次粒子径0.54μm)。
【0064】
<平均径が20〜300μmの板状、繊維状若しくは球状の充填剤(C)>
平均径が20〜300μmの板状、繊維状若しくは球状の充填剤として、以下の充填剤を用意した。下記の( )内に記載の数平均粒子径、数平均繊維長は、液晶ポリエステル樹脂と溶融混練する前の数値を示す。
タルク:日本タルク(株)製の商品名「MS−KY」(数平均粒径23μm)。
マイカ:(株)山口雲母工業所製の商品名「AB−25S」(数平均粒径22μm)。
ガラス繊維:オーウェンスコーニング製の商品名「PX−1」(数平均繊維長3mm)。
炭素繊維:日本グラファイトファイバー(株)製の商品名「XN−100−15M」(数平均繊維長0.15mm)。
シリカ:電気化学工業(株)製の商品名「FB−950」(平均粒子径23.3μm)。
ガラスバルーン:住友スリーエム(株)製の商品名「S−60HS」(平均粒子径30μm)。
【0065】
<樹脂組成物の製造>
(実施例1)
全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(I)57.0質量部に対して、酸化チタン粒子を40.0質量部及びタルクを3.0質量部の割合で予めリボンブレンダーを用いて混合し、その混合物をエアーオーブン中で150℃にて2時間乾燥した。この乾燥した混合物を、シリンダーの最高温度380℃に設定した二軸押出機((株)神戸製鋼所製KTX−46)を用い、押出速度180kg/hrにて溶融混練して、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。
【0066】
(実施例2)
全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(I)に代えて全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(II)を用い、各成分を表1に示す組成となるように混合したこと以外は実施例1と同様の設備、操作方法により、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットをそれぞれ得た。
【0067】
(実施例3〜6、8〜15)
各成分を表1に示す組成(表中の組成は質量部を示す)となるように混合したこと以外は実施例1と同様の設備、操作方法により、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットをそれぞれ得た。
【0068】
(実施例7)
全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(I)57.0質量部に対して、酸化チタン粒子を40.0質量部配合し、実施例1と同様の設備、操作方法により、乾燥した混合物を得た。この混合物を、シリンダーの最高温度380℃に設定した二軸押出機((株)神戸製鋼所製KTX−46)のホッパーに供給し、更にフィーダーを調整して、ガラスバルーン3.0質量部を二軸押出機のシリンダーの途中に供給(サイドフィード)し、押出速度180kg/hrにて溶融混練して、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。
【0069】
(比較例1〜8)
各成分を表1に示す組成(表中の組成は質量部を示す)となるように混合したこと以外は実施例1と同様の設備、操作方法により、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットをそれぞれ得た。
【0070】
<ペレット中の(C)成分の平均径の測定>
実施例及び比較例で得られた液晶ポリエステル樹脂組成物のペレット中の(C)成分の平均径を、下記の方法にしたがって測定した。結果を表2及び3に示す。
【0071】
[数平均粒径若しくは数平均繊維長の測定方法]
組成物ペレット約5gを、るつぼ中で灰化した後、残存した灰分のうちから100mgを採取し、100ccの石鹸水中に分散させた。この分散液を、スポイトを用いて1〜2滴スライドガラス上に置き、顕微鏡下に観察して、写真撮影した。この写真に撮影された対象物の粒子径もしくは繊維長の測定を500個行い、それぞれの数平均値を求めた。
【0072】
実施例及び比較例で得られた液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットについて、溶融粘度及び生産性、並びに、射出成形における成形性、ハナ垂れ及びモールドブリスターを、以下の方法により測定又は評価した。結果を表2及び3に示す。
【0073】
[溶融粘度の測定]
液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度は、キャピラリーレオメーター(インテスコ(株)社製2010)を用い、キャピラリーとして径1.00mm、長さ40mm、流入角90°のものを用い、せん断速度100sec−1で300℃から+4℃/分の昇温速度で等速加熱をしながら見掛け粘度を測定し、これを溶融粘度とした。全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(I)を含有する樹脂組成物については、370℃、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル(II)を含有する樹脂組成物については340℃における見掛け粘度を求め、これを溶融粘度とした。なお、測定に際し、樹脂組成物は予め真空乾燥機にて、150℃、4時間乾燥した。
【0074】
[生産性の評価]
実施例及び比較例の液晶ポリエステル樹脂組成物の生産性について、以下の基準で評価した。
「○」:ペレットが得られた。
「×」:ストランド乱れが生じて安定生産ができなかった。
【0075】
[成形性の評価]
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製SG−25)を用いて、シリンダー最高温度350℃、射出速度100mm/sec、金型温度80℃にて、ゲート断面積0.07mm、開口部外径φ6mm、開口部内径φ4mm、高さ1.6mm、底面樹脂厚さ0.4mmの円形LEDリフレクターを成形した。その際に、成形できたものを「○」、ショートショットの発生したものを「×」と評価した。
【0076】
[ハナ垂れの評価]
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製SG−25)を用いて、シリンダー最高温度350℃、ノズル温度350℃、射出速度100mm/sec、金型温度80℃にて、ゲート断面積0.07mm、開口部外径φ6mm、開口部内径φ4mm、高さ1.6mm、底面樹脂厚さ0.4mmの円形LEDリフレクターを成形した。その際に、ハナ垂れの発生したものを「×」、発生しなかったものを「○」と評価した。
【0077】
[モールドブリスター評価試験]
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)製SG−25)を用いて、シリンダー最高温度350℃、射出速度100mm/sec、金型温度80℃にて、ゲート断面積0.07mm、開口部外径φ6mm、開口部内径φ4mm、高さ1.6mm、底面樹脂厚さ0.4mmの円形LEDリフレクターを成形した。その際に、成形品表面のモールドブリスター発生の有無を目視で検査し、モールドブリスターが発生したものを「×」、発生しなかったものを「○」と評価した。
【0078】
更に、実施例及び比較例で得られた液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットから得られる射出成形体ついて、アイゾット衝撃強度、荷重たわみ温度(DTUL)、曲げ強度、曲げ弾性率を評価した。結果を表2及び3に示す。
【0079】
(試験片の作製)
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物のペレットを、射出成形機(住友重機械工業(株)SG−25)を用いて、シリンダー最高温度350℃、射出速度100mm/sec、金型温度80℃で射出成形して、13mm(幅)×130mm(長さ)×3mm(厚み)の射出成形体を作成し、これらをそれぞれアイゾット衝撃強度試験、DTUL、曲げ試験の試験片とした。
【0080】
[アイゾット衝撃試験]
上記で得られた各試験片について、ASTM D256 に従い、ノッチなしで測定して10回の測定の平均で算出した。
【0081】
[荷重たわみ温度(DTUL)]
上記で得られた各試験片について、ASTM D648 に従い、測定した。
【0082】
[曲げ強度及び曲げ弾性率]
上記で得られた各試験片について、ASTM D790 に従い、測定した。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
表2に示すように、実施例1〜15の樹脂組成物のペレットを、ゲート断面積0.07mmで射出成形した場合、ハナ垂れもモールドブリスターも発生せず、厚さ0.5mmの成形体の薄肉成形性も良好であった。また、得られる成形体は、アイゾット衝撃強度が30kJ/m以上と高い衝撃強度を有しており、DTUL、曲げ強度、曲げ弾性率も十分高く、精密な電機・電子部品として優れた機械的強度が得られることが確認された。
【0087】
一方、表3に示すように、(C)成分の配合がない比較例1〜3の樹脂組成物のペレットを射出成形した場合、ハナ垂れが発生し、モールドブリスターも発生した。液晶ポリエステル(A)の含有量が本発明に係る上限値を超える比較例4の樹脂組成物のペレットを射出成形した場合、組成物中の液晶ポリエステル量が多く、ハナ垂れが発生した。液晶ポリエステル(A)の含有量が本発明に係る下限値を下回る比較例5では、樹脂組成物の生産性が悪く、ストランド乱れが生じ安定生産ができなかった。(B)成分の含有量が29.0質量部未満であり、(C)成分の含有量が15.0質量部を超える比較例6の樹脂組成物のペレットを射出成形した場合、樹脂組成物の溶融粘度が高くなったため成形性が悪く、成形体のアイゾット衝撃強度は低く、機械的強度が劣っていた。(C)成分の含有量が1.0質量部未満である比較例7の樹脂組成物のペレットを射出成形した場合、ハナ垂れ、モールドブリスターの抑制ができなかった。(B)成分の配合がなく、(C)成分の含有量が15.0質量部を超える比較例8の樹脂組成物のペレットを射出成形した場合、薄肉成形性が悪く、モールドブリスターが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、液晶ポリエステルの優れた成形性、耐熱性を保持しながら、ゲート断面の小さい射出成形時のハナ垂れ及びモールドブリスター発生を抑えて、アイゾット衝撃強度等の機械的強度に優れる成形体を与える成形方法を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物全量を100質量部としたときに液晶ポリエステル(A)40.0〜70.0質量部、一次粒子径が0.1〜1μmの不定形若しくは球状の粉体(B)29.0〜55.0質量部、及び、平均径が20〜300μmの板状、繊維状若しくは球状の充填剤(C)1.0〜15.0質量部を含む液晶ポリエステル樹脂組成物を、断面積が0.05〜1.00mmであるゲートを通す射出成形法により成形することを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法。
【請求項2】
前記(B)成分が、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、シリカ、及びチタン酸バリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法。
【請求項3】
前記(C)成分が、タルク、マイカ、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、及びガラスバルーンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法。
【請求項4】
前記(A)成分が、融点が320℃以上の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法。
【請求項5】
最小肉厚が0.5mm未満である部分を有する薄肉成形品を成形する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法。
【請求項6】
LEDリフレクターを成形する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形方法により得られる、成形体。


【公開番号】特開2011−63699(P2011−63699A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214880(P2009−214880)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】