説明

液晶ポリエステル樹脂組成物及びその成形体

【課題】液晶ポリエステル及び高誘電材料フィラーを用いてなる樹脂組成物において、ストランド法等により、安定的に組成物ペレットを生産することができる液晶ポリエステル樹脂組成物及び該液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる成形体を提供する。
【解決手段】芳香族基として2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上であり、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上を示す液晶ポリエステル(A)50〜80体積%と、高誘電材料フィラー(B)20〜50体積%とを含有する液晶ポリエステル樹脂組成物。当該液晶ポリエステル樹脂組成物はストランド法等により容易且つ安定的に組成物ペレットの製造が可能であり、当該液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる成形体は、曲げ強度、誘電特性に優れたものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルと高誘電材料からなるフィラーとを含む液晶ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法、並び該液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星通信機器、携帯電話、PHS等の移動通信、無線LANシステム、あるいは高速道路のETCシステムやGPSなどの車載用通信に代表されるような無線情報通信網の発達に伴い、情報通信機器に使用されるアンテナの需要が急増している。このようなアンテナは、より小型軽量で、かつ安価であることが要求されていることから、アンテナ製造用の基体(以下、「アンテナ用基体」という。)には、熱可塑性樹脂を用いてなる成形体が使用されている。
【0003】
アンテナを製造するに当たっては、前記アンテナ用基体に、電極となり得る導体層を形成させる必要がある。この電極の形成手段としては、半田付け、金属メッキ等の手段が採用されるため、アンテナ用基体には、これらの電極形成手段によって、その特性が損なわれない程度の耐久性が要求される。このような特性を満足させるために、アンテナ用基体の製造に使用される熱可塑性樹脂としては、液晶ポリエステルが注目されている。液晶ポリエステルは、高水準の耐熱性と加工性とを併せて有し、低吸水性でもあることから、アンテナ製造に係る耐久性はもとより、アンテナの経時使用に対する耐久性も良好となる。
【0004】
一方、既述のような情報通信機器においては、情報の更なる高密度化に伴って、より高周波域の電磁波を用いる情報通信に対する適合性が検討されており、それにしたがって、より誘電特性に優れたアンテナ用基体が求められるようになってきた。
かかるアンテナ用基体で求められる誘電特性とは、高周波領域の電磁波に対して比誘電率が高い(高誘電性である)こと、且つ低誘電正接であること、が重要視されている。これは、高誘電性のアンテナ用基体であれば、比較的小型のアンテナにおいても、アンテナ特性を著しく低下させることがないためであり、低誘電正接のアンテナ用基体であると、アンテナ利得が増大する傾向があるためである。高誘電性のアンテナ用基体を得るには、高誘電材料を充填剤(以下、「高誘電材料フィラー」ということがある。)として用い、該高誘電材料フィラーと液晶ポリエステルとを含む樹脂組成物からアンテナ用基体を得るといった方法が用いられる。例えば、特許文献1には、液晶ポリエステル25〜35体積%及びセラミック粉65〜75体積%を含む組成物を溶融混合し、その後打錠機によって常温タブレット化したアンテナ部品用錠剤が提案され、溶融混合時にワックス成分を併用することで、形状保持性に優れたアンテナ部品用錠剤となることが開示されている。
【0005】
また、本出願人は、高誘電性、且つ低誘電正接の成形体が得られる樹脂組成物として、特定の構造単位からなる液晶ポリエステルとセラミック粉とを含む樹脂組成物を提案している(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−161953号公報(実施例3〜5)
【特許文献2】特開2006−233118号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、液晶ポリエステルとフィラーとを含む樹脂組成物は、該樹脂組成物を成形して成形体を得る前に、予め液晶ポリエステルとフィラーとを溶融混練して、ペレット状の組成物(以下、「組成物ペレット」という。)を得ることが一般的に実施されている。組成物ペレットを作製する方法としては、液晶ポリエステルと充填剤とを溶融混錬して、溶融状態の液晶ポリエステル樹脂組成物を紐状に押出して紐状組成物(ストランド)を得、該ストランドを冷却固化し、これを切断して組成物ペレットを得るといった製造方法が一般的である(このような製造方法は、通常ストランド法と呼ばれている)。
しかしながら、特許文献1で提案されているような高誘電材料フィラーを高充填してなる樹脂組成物では、ストランド法を適用しようとすると、ストランド自体が得られ難いことから、安定的に組成物ペレットを得ることができないという問題がある。そこで、特許文献1の樹脂組成物では、打錠機によって錠剤化する製造方法を採用している。しかしながら、かかる製造方法は、操作が比較的煩雑で大量生産には不向きであり、工業生産に適したものとはいえない。特許文献2で本出願人が提案した樹脂組成物は、高誘電材料フィラーの充填量が少ないながらも、優れた誘電特性の成形体が得られる樹脂組成物であり、特許文献1が開示するような樹脂組成物よりはストランドは得やすい傾向にある。しかし、工業的に安定的且つ生産性よく組成物ペレットを得る上では、ストランド法に対する適合性は必ずしも十分とはいえない。したがって、アンテナ用基体の製造用に適用可能であって、ストランド法等、通常の組成物ペレット製造方法によって安定的に製造可能であり、より工業生産に適した液晶ポリエステル樹脂組成物の実現が切望されていた。
かかる状況下、本発明の目的は、液晶ポリエステル及び高誘電材料フィラーを用いてなる樹脂組成物において、工業生産に好適なストランド法等が適用可能で、安定的に組成物ペレットを生産することができる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、
<1>以下の(i)で表される構造単位、(ii)で表される構造単位及び(iii)で表される構造単位からなり、Ar1で表される2価の芳香族基、Ar2で表される2価の芳香族基及びAr3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上であり、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上を示す液晶ポリエステル(A)50〜80体積%と、
高誘電材料からなるフィラー(B)20〜50体積%と、
を含有する、液晶ポリエステル樹脂組成物。


(式中、Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる2価の芳香族基を表す。Ar2、Ar3は、それぞれ独立に2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる2価の芳香族基を表す。またAr1、Ar2又はAr3で示される芳香族基は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基に置換されていてもよい。)
を提供するものである。
【0009】
また、本発明は前記<1>に係る好適な実施形態として、下記の<2>〜<4>を提供する。
<2>前記高誘電材料からなるフィラー(B)が、チタン系セラミックスを含有するフィラーである、<1>の液晶ポリエステル樹脂組成物。
<3>前記チタン系セラミックスが、TiO2、BaTiO3、SrTiO3、CaTiO3、MgTiO3、BaSrTi26、BaNd2Ti412、BaNd2Ti514及びBaBi2Nd2TiO9から選ばれるセラミックスを主として含むセラミックスである、<2>の液晶ポリエステル樹脂組成物。
<4>液晶ポリエステル(A)及び高誘電材料からなるフィラー(B)を加熱溶融し溶融物を得る工程と、
該溶融物を紐状に押出して紐状組成物を得る工程と、
該紐状組成物を切断してペレット化する工程と、
を有する製造方法により得られる、<1>〜<3>のいずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物。
【0010】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、高誘電性や低誘電正接等の誘電特性が求められる種々の用途に使用可能であり、下記の<5>〜<9>を提供する。
<5><1>〜<4>のいずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる、成形体。
<6>ASTM D790の試験法に従い測定した曲げ強度が100MPa以上である、<5>の成形体。
<7>ASTM D256の試験法に従い測定した衝撃強度が100J/m以上である、<5>又は<6>の成形体。
<8>測定温度23℃、周波数1GHzでの比誘電率が6.0以上である、<5>〜<7>のいずれかの成形体。
<9><5>〜<8>のいずれかの成形体と、電極とを有する、アンテナ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物によれば、当技術分野で汎用的に用いられるストランド法等の組成物ペレット製造方法によって、容易に組成物ペレットを製造することができる。この組成物ペレットは操作性が良好であることから、射出成形等により簡便に成形体を得ることができる。そして、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなる成形体は、高誘電性且つ低誘電正接が求められる種々の用途、特に、高周波の電磁波が適用される情報通信機器のアンテナに、好適に使用できるため、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0013】
<液晶ポリエステル(A)>
液晶ポリエステルとは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成し得るポリエステルである。本発明に用いられる液晶ポリエステルは、以下の(i)で表される構造単位、(ii)で表される構造単位及び(iii)で表される構造単位からなり、Ar1で表される2価の芳香族基、Ar2で表される2価の芳香族基及びAr3で表される2価の芳香族基の合計(以下、「全芳香族基合計」という。)を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上含むものである。また、本発明に用いられる液晶ポリエステルは、その流動開始温度が280℃以上であり、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上であることを特徴とする。



ここで、Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる2価の芳香族基であり、Ar2、Ar3は、それぞれ独立に2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる2価の芳香族基である。また、Ar1、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族基は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を置換基として有してもよい。
【0014】
このような液晶ポリエステルは、当該液晶ポリエステルを製造する段階で、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中の、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位が40モル%以上になるように、原料モノマーを選択し、重合させることで得ることができる。液晶ポリエステルに関し、さらに好ましいものは、全芳香族基合計100モル%に対し、2,6−ナフタレンジイル基が、50モル%以上である液晶ポリエステルであり、より好ましくは2,6−ナフタレンジイル基が65モル%以上の液晶ポリエステルであり、特に好ましくは2,6−ナフタレンジイル基が70モル%以上の液晶ポリエステルである。このように、芳香族基として、2,6−ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、後述するようにメルトテンションを1.0g以上とすることで、ストランド法等により安定的に組成物ペレットを製造することが可能となる。また、2,6−ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、得られる成形体の更なる低誘電正接化が達成可能であるという利点もある。
一方、前記液晶ポリエステルにおいて、全芳香族基合計100モル%に対して、2,6−ナフタレンジイル基が40モル%を下回る場合は、得られる成形体の誘電正接が大きくなる傾向がある。
【0015】
また、本発明に用いられる液晶ポリエステルを構成する、(i)で表される構造単位、(ii)で表される構造単位及び(iii)で表される構造単位の合計(以下、「全構造単位合計」ということがある。)を100モル%としたとき、(i)で表される構造単位(以下、「(i)構造単位」という。)の合計が30〜80モル%、(ii)で表される構造単位(以下、「(ii)構造単位」という。)の合計が10〜35モル%、(iii)で表される構造単位(以下、「(iii)構造単位」という。)の合計が10〜35モル%であることが好ましい。(i)構造単位、(ii)構造単位及び(iii)構造単位の、全構造単位合計に対するモル比率(共重合比率)が前記の範囲である液晶ポリエステルは、高度の液晶性を発現することに加え、実用的な温度で溶融し得るものとなり、溶融成形が容易となるため好ましい。
液晶ポリエステルは、より高度の耐熱性が得られる点で、全芳香族液晶ポリエステルであると好ましく、前記の(i)構造単位、(ii)構造単位及び(iii)構造単位以外の構造単位を有さないものであると好ましい。したがって、全構造単位合計に対する(ii)構造単位の合計のモル比率と、(iii)構造単位の合計のモル比率とは実質的に等しくなる。
【0016】
全構造単位合計に対する、(i)構造単位の合計のモル比率は40〜70モル%であるとより好ましく、45〜65モル%であると、とりわけ好ましい。
【0017】
一方、全構造単位合計に対する(ii)構造単位の合計のモル比率及び(iii)構造単位の合計のモル比率は、それぞれ15〜30モル%であるとより好ましく、それぞれ17.5〜27.5モル%であると、とりわけ好ましい。
【0018】
(i)構造単位の合計のモル比率、(ii)構造単位の合計のモル比率及び(iii)構造単位の合計のモル比率が、それぞれ前記の範囲であると、液晶ポリエステルが、より高度の液晶性を発現し得るものとなり、より実用的な温度で溶融できるため、溶融成形が容易となる利点がある。
【0019】
(i)構造単位は芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位であり、(i)構造単位を誘導するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸、4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられる。さらに、これらのモノマーのベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるモノマーも用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を誘導するモノマーは、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸である。
【0020】
(ii)構造単位は芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位であり、(ii)構造単位を誘導するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられる。さらに、これらのモノマーのベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるモノマーも用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を誘導するモノマーは、2,6−ナフタレンジカルボン酸である。
【0021】
(iii)構造単位は芳香族ジオールから誘導される構造単位であり、(iii)構造単位を誘導するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジオール、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられる。また、これらのモノマーのベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるモノマーも用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を誘導するモノマーとは、2,6−ナフタレンジオールである。
【0022】
前記のように、(i)構造単位、(ii)構造単位又は(iii)構造単位は、いずれも芳香環(ベンゼン環又はナフタレン環)に前記のような置換基を有していてもよい。これらの置換基を簡単に例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等で代表されるアルキル基であり、これらは直鎖でも分岐していもよく、脂環基でもよい。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等で代表される炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0023】
(i)構造単位、(ii)構造単位又は(iii)構造単位を誘導するモノマーは、ポリエステルを製造する過程で、重合を容易にするために、エステル形成性誘導体に転換して用いることが好ましい。該エステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有する化合物を意味し、具体的に例示すると、カルボキシル基を有するモノマーでは、そのカルボキシル基を、酸ハロゲン化物、酸無水物に転換したようなエステル形成性誘導体であり、水酸基を有するモノマーでは、その水酸基を、低級カルボン酸を用いてエステルにしたようなエステル形成性誘導体である。
【0024】
液晶ポリエステルの製造方法としては公知の方法が採用できるが、好ましくは、前記エステル形成性誘導体として、モノマー分子内の水酸基を、低級カルボン酸を用いてエステルに転換したエステル形成性誘導体を用いて液晶ポリエステルを製造する方法が挙げられる。中でも、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールの水酸基をアシル基に転換(アシル化)してなるエステル形成性誘導体を用いる製造方法が好ましい。アシル化は、通常、水酸基を有するモノマー(芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオール)を、無水酢酸と反応させることで実施できる。このようにして得られたエステル形成性誘導体は、芳香族ジカルボン酸と脱酢酸重縮合させることにより、容易にポリエステルを製造することができる。
【0025】
前記エステル形成性誘導体を用いた液晶ポリエステル製造方法としては、例えば、特開2002−146003号公報に記載された製造方法が例示できる。本発明に用いられる液晶ポリエステルの製造に関し、この公報に記載されているような製造方法を適用することを簡単に説明する。前記の(i)構造単位、(ii)構造単位及び(iii)構造単位を形成するモノマーを、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を誘導できるモノマーが、全モノマーの合計に対して、40モル%以上になるように選択し、(i)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸及び(iii)構造単位を誘導する芳香族ジオールを、アシル化してエステル形成性誘導体に転換した後、(ii)構造単位を形成する芳香族ジカルボン酸と溶融重合させ、比較的低分子量の液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記することがある。)を得る。次いで、このプレポリマーを粉末とし、この粉末を加熱することにより固相重合させる。このように固相重合を用いると、重合がより進行しやすく、液晶ポリエステルの高分子量化を図ることができるため、得られる液晶ポリエステルの流動開始温度をより高温化できるという利点がある。また、後述するように液晶ポリエステルのメルトテンションを調整するためにも、この固相重合は有効である。
【0026】
溶融重合により得られたプレポリマーを粉末とするには、プレポリマーを冷却固化した後に、各種公知の粉砕手段によって粉砕すればよい。粉末の粒子径は、平均で0.05mm以上3mm程度以下の範囲が好ましく、0.05mm以上1.5mm程度以下の範囲がより好ましい。粉末の粒子径がこのような範囲であれば、芳香族液晶ポリエステルの高重合度化が促進されることからより好ましく、0.1mm以上1.0mm程度以下の範囲であれば、粒子間のシンタリングを生じることなく液晶ポリエステルの高重合度化が促進されるため、さらに好ましい。
【0027】
固相重合における加熱条件について好適なものを例示する。まず、室温からプレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度まで昇温する。このときの昇温時間は、特に限定されるものではないが、反応時間の短縮といった観点からは、1時間以内で行うことが好ましい。
次いで、プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度から280℃以上の温度まで昇温させる。昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましく、0.1〜0.15℃/分程度の昇温速度がより好ましい。該昇温速度が0.3℃/分以下であれば、粉末の粒子間のシンタリングが生じ難いため、より高重合度の液晶ポリエステルの製造が比較的容易に実施できる。
【0028】
また、液晶ポリエステルの重合度をさらに高めるためには、280℃以上の温度で、好ましくは280℃〜400℃の温度範囲で30分以上反応させることが好ましい。とりわけ、液晶ポリエステルの熱安定性をより良好にする観点からは、反応温度280〜350℃で30分〜30時間反応させることが好ましく、反応温度285〜340℃で30分〜20時間反応させることがさらに好ましい。かかる加熱条件は、当該液晶ポリエステルの製造に用いたモノマーの種類により、適宜最適化することができる。
【0029】
このように固相重合を用いれば、液晶ポリエステルの流動開始温度を280℃以上にすることが比較的短時間で実施可能であり、このような流動開始温度を有する液晶ポリエステルを、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に適用すれば、得られる成形体は高度の耐熱性を有するものとなる。なお、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を意味し、該流動開始温度は当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照、本発明においては、流動開始温度を測定する装置として、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いる。)。本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物をアンテナ用基板の製造用に使用する場合、電極形成プロセスに対する耐熱性をより良好にするために、前記液晶ポリエステルの流動開始温度を290℃以上にすることがより好ましく、295℃以上にすることがさらに好ましい。一方、当該アンテナ用基板を実用的な温度範囲で成形する観点からは、流動開始温度は380℃以下であると好ましく、350℃以下であればさらに好ましい。
また、かかる流動開始温度の測定において、被測定サンプルとなる液晶ポリエステルの形状は、パウダー状のものはもちろん、該液晶ポリエステルを公知の手段によりペレット状にしてもよい。
【0030】
前述の流動開始温度測定に供する被測定サンプルとして、液晶ポリエステルをペレット状にしてもよいことを記したが、かかるペレット状にした液晶ポリエステルは、後述のメルトテンション測定にも使用できるため、簡単にその作製手段を説明する。
使用する押出機としては、例えば単軸又は多軸押出機が挙げられ、二軸押出機、バンバリー式混錬機、ロール式混練機がより好ましい。液晶ポリエステルを、その流動開始温度Tp[℃]を基点として、Tp−10[℃]〜Tp+100[℃]の温度範囲で溶融させて、ペレットを得る。液晶ポリエステルの熱劣化を十分に防止するといった観点から、Tp−10[℃]〜Tp+70[℃]の温度範囲で溶融させることが好ましく、Tp−10[℃]〜Tp+50[℃]の温度範囲で溶融させることがさらに好ましい。
【0031】
本発明に用いる液晶ポリエステルは、その流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上を示すことが必要である。好ましくはメルトテンションが1.5g以上の液晶ポリエステルであり、より好ましくは2.0g以上液晶ポリエステルである。特に、流動開始温度より25℃程度高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上である液晶ポリエステルは、後述するような高誘電材料フィラーを比較的多量に用いて液晶ポリエステル樹脂組成物としたとしても、安定的に組成物ペレットが製造できる傾向にある。なお、ここでいうメルトテンションとは、キャピログラフに液晶ポリエステル(ペレット化した液晶ポリエステル)を充填し、シリンダーバレル径1mmφ、ピストンの押出し速度は5.0mm/分、速度可変巻取機で自動昇速しながら試料を糸状に引き取り、破断したときの張力(g)を意味するそして、測定に供する液晶ポリエステルの流動開始温度より高い温度において、数点メルトテンション測定を行い、求められたメルトテンションの中で、一点でもメルトテンションが1.0g以上であれば、本発明でいう「流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上の液晶ポリエステル」と定義する。
【0032】
ここで、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上の液晶ポリエステルを製造する方法について一例を挙げて説明する。
メルトテンションが高い液晶ポリエステルを得るには、該液晶ポリエステルの分子量を高くすることと、より分子容が小さい構造単位の導入が効果的である。前者では、既述のとおり、より高耐熱性の成形体が得られる観点からも、固相重合による液晶ポリエステル製造を行って、その流動開始温度を280℃以上とすればよい。
また、後者である分子容の小さい構造単位を導入するためには、単環芳香族基の導入が有効である。この観点からは、(i)構造単位として、p−ヒドロキシ安息香酸から誘導される構造単位、(ii)構造単位として、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸から誘導される構造単位、(iii)構造単位として、ハイドロキノン及びレゾルシンから選ばれる芳香族ジオールから誘導される構造単位の導入量を向上させる方法が挙げられる。また、より高温の流動開始温度の液晶ポリエステルを得るという観点からは、屈曲性の低い構造単位の導入量が好ましいので、(ii)構造単位としては、テレフタル酸から誘導される構造単位、(iii)構造単位としては、ハイドロキノンから誘導される構造単位が好ましい。また、これらの構造単位にある芳香環には置換基を有していてもよいことを記したが、分子容の小さい構造単位を導入する面では、置換基を有していない構造単位の導入が好ましい。
一方、本発明に用いられる液晶ポリエステルには、2,6−ナフタレンジイル基を全芳香族基合計に対して40モル%以上含有させることが必要であり、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位及び単環芳香族基を有する構造単位を制御する必要がある。
【0033】
具体的に、より好適な液晶ポリエステルを構成する構造単位の組み合わせを記すと、(i)構造単位として、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位(i−a)を40〜75モル%、(ii)構造単位として、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位(ii−a)とテレフタル酸に由来する構造単位(ii−b)との合計を12.5〜30モル%、(iii)構造単位として、ハイドロキノンに由来する構造単位(iii−a)を12.5〜30モル%有し[(i−a)、(ii−a)、(ii−b)及び(iii−a)の合計を100モル%とする。]、且つ(ii)構造単位において、(ii−a)と(ii−b)とのモル比率が、(ii−a)/{(ii−a)+(ii−b)}≧0.5の関係を満たすものである。
【0034】
より好ましい液晶ポリエステルは、前記の(i−a)、(ii−a)、(ii−b)及び(iii−a)の構造単位の合計に対して、(i−a)が40〜60モル%、(ii−a)が14.5〜29.5モル%であって(ii−a)と(ii−b)の合計が15〜30モル%、(iii−a)が15〜30モル%であり、且つ(ii)構造単位において、(ii−a)と(ii−b)との構造単位のモル比率が、(ii−a)/{(ii−a)+(ii−b)}≧0.6の関係を満足する液晶ポリエステルであり、
特に好ましくは、(i−a)が50〜60モル%、(ii−a)が15〜24.5モル%であって(ii−a)と(ii−b)の合計が20〜25モル%、(iii−a)が20〜25モル%、であり、且つ(ii)の構造単位において、(ii−a)と(ii−b)の構造単位の共重合比率が、(ii−a)/{(ii−a)+(ii−b)}≧0.6の関係を満足する液晶ポリエステルである。
そして、このような構造単位の組み合わせを誘導できる、それぞれのモノマーを用い、溶融重合と固相重合とを行い、流動開始温度を280℃以上、好ましくは295℃以上にすることによって、メルトテンション1.0g以上を実現する液晶ポリエステルを製造することが可能となる。
【0035】
<高誘電材料からなるフィラー(B)>
本発明に用いられる高誘電材料からなるフィラー(B)[以下、「高誘電性フィラー(B)」ということがある。]は、高誘電性組成物に適用されている各種公知のフィラーを用いることができる。具体的には、特開2004−307607号公報(段落[0030])に例示されているようなフィラー、すなわち、二酸化チタン系、チタン酸バリウム系、チタン酸ジルコン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸カルシウム系、チタン酸ビスマス系、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウムネオジウム系、チタン酸バリウム錫系、マグネシウムニオブ酸バリウム系、マグネシウムタンタル酸バリウム系、チタン酸鉛系、ジルコン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸鉛系、マグネシウムニオブ酸鉛系、ニッケルニオブ酸鉛系、タングステン酸鉛系、タングステン酸カルシウム系及びマグネシウムタングステン酸鉛系から選ばれる高誘電材料からなるフィラーが適用可能である。
【0036】
前記例示された高誘電材料フィラーの中でも、より高誘電率の成形体を得る観点からは、チタン系セラミックスフィラーが好ましい。「チタン系セラミックスフィラー」とは、チタンをその構成元素成分として有するセラミックスからなるフィラーであり、該セラミックスとしては、チタンの酸化物又は金属チタン酸塩を具体的に挙げることができる。ここで金属チタン酸塩とは、バリウム、ストロンチウム、ビスマス、ランタン、ネオジウム、サマリウム、アルミニウム、カルシウム及びマグネシウムからなる郡から選ばれる金属のチタン酸塩又はかかる群から選ばれる複数の金属が固溶してなるチタン酸塩を挙げることができる。
【0037】
また、より低誘電正接の成形体が得られる観点から、該チタン系セラミックスフィラーのなかでも、TiO2、BaTiO3、SrTiO3、CaTiO3、MgTiO3、BaSrTi26、BaNd2Ti412、BaNd2Ti514、BaBi2Nd2TiO9等からなるフィラーが好ましく、TiO2、BaTiO3、SrTiO3、BaSrTi26、BaNd2Ti412及びBaNd2Ti514からなる群から選ばれるチタン系セラミックスからなるフィラーがさらに好ましい。本発明に用いられるチタン系セラミックスフィラーは、かかるチタン系セラミックスを主として含むものであり、企図せず含まれる不純物を排除するものではなく、後述するような表面処理を施したものであってもよい。
これらの高誘電材料フィラーは、二種以上を混合して使用してもよい。また、これらの高誘電材料フィラーは、チタネート系カップリング剤、アルミ系カップリング剤、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施されていてもよい。
【0038】
ここで、好適なチタン系セラミックスフィラーについて詳述する。
前記に例示したチタン系セラミックスは、公知の手段で製造することができる。例えば、バリウム、ストロンチウム、ビスマス、ランタン、ネオジウム、アルミニウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群から選ばれる金属の炭酸塩と、酸化チタンとを混合・焼成した後、必要に応じて解砕、粉砕又は分級等の操作を行うことで、チタン系セラミックスフィラーを製造することができる。
また、市場から容易に入手できるチタン系セラミックスフィラーを使用してもよく、入手性と経済性の観点から勘案すると、TiO2又はBaTiO3からなるフィラーが好ましい。具体的に入手容易な市販品を例示すると、BaTiO3ならなるフィラーは、富士チタン工業(株)製「HPBT−1」を挙げることができる。また、TiO2からなるフィラーとしては石原産業(株)製の「CR−60」、「CR−58」、「CR−97」や「タイペークPFR404」、堺化学(株)製の「SR−1」を挙げることができる。なお、チタン系セラミックスフィラーに含有されるチタン系セラミックスは、単結晶、多結晶のいずれであってもよく、その結晶形も特に限定されるものではない。
【0039】
高誘電材料フィラーの形状についても、特に限定されるものではなく、微粉状、繊維状、板状のいずれであってもよいが、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の調製方法において、液晶ポリエステルの加熱溶融体と良好に分散できるような形状のフィラーを選択することが好ましい。このように加熱溶融体に良好に分散できるようなフィラーを用いた液晶ポリエステル樹脂組成物は、この樹脂組成物を成形して成形体を得たときに、成形体中に高誘電材料フィラーがほぼ均一に存在して、フィラーに係る特性が良好に発現する傾向がある。操作性の面から見た場合、チタン系セラミックスフィラーは、その形状が微粉末状であると好ましい。微粉末状のフィラーとしては、その平均粒径が0.01〜100μmであるとより好ましく、0.10〜20μmであると、さらに好ましい。このような平均粒径は、該平均粒径が20μm以下である場合は電子顕微鏡による外観観察で求められるものであり、平均粒径が20μmを越える場合はレーザー回折式光散乱法で求められるものである。
平均粒径が20μm以下の微粉末状のチタン系セラミックスフィラーである場合、その平均粒径を求める方法について簡単に説明する。まず、チタン系セラミックスフィラーの外観を走査形電子顕微鏡(SEM)を用いてSEM写真を測定し、得られたSEM写真を画像解析装置(例えば株式会社ニレコ社製「ルーゼックスIIIU」)を用いて、一次粒子の各粒径区間における粒子量(%)をプロットして分布曲線を求め、その累積した分布曲線より、累積度50%の粒径を平均粒径とする。
得られる成形体に関し、衝撃強度等の機械強度を向上させる観点からは、チタン系セラミックスフィラーの平均粒径が0.23〜5μmであると好ましく、0.25〜1.5μmの微粉末状であるとより好ましく、0.26〜0.30μmの微粉末状であると、さらに好ましい。
また、曲げ強度等の機械強度を向上させる観点からは、繊維状のチタン系セラミックスフィラーを用いるとよい。かかる繊維状のチタン系セラミックスフィラーにおいて、その数平均繊維長が0.5μmを越えて10μm以下であると好ましく、数平均繊維径が0.1μm以上1μm以下であり、アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維径)2以上の繊維状であるとさらに好ましく、数平均繊維長が1μm以上10μm以下であり、数平均繊維径が0.1μm以上0.5μm以下であり、アスペクト比3以上の繊維状であると、より好ましい。このような数平均繊維長や数平均繊維径は、走査形電子顕微鏡(SEM)による外観観察で求められるものである。
前記に例示した市場から容易に入手できるチタン系セラミックスフィラーに関し、その形状別で整理すると、微粉状のチタン系セラミックスフィラーは、前記の「HPBT−1」、「CR−60」、「CR−58」、「CR−97」、「SR−1」であり、繊維状のチタン系セラミックスフィラーは、前記の「タイペークPFR404」である。
【0040】
<その他の成分>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の目的を著しく損なわない範囲であれば、必要な特性に応じて補強剤等の添加剤が含有されていてもよい。
ここで添加剤としては、例えばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維などの繊維状補強剤;ホウ酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの針状の補強剤;ガラスビーズ、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイトなどの無機充填剤;フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などが挙げられる。これらの添加剤は二種以上を併用してもよい。
【0041】
また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有する添加剤を用いることも可能である。更に、少量であれば、液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂(たとえば、ポリアミド、結晶性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド等)や熱硬化性樹脂(たとえば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等)を含有させてもよい。このような液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用する場合、液晶ポリエステル自身の液晶性や成形加工性を損なわないようにして、その種類や添加量を選択することが必要である。
【0042】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の調製方法>
本発明に用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル(A)、高誘電材料フィラー(B)、及び必要に応じて用いられる添加剤等のその他の成分を混合することにより得られる。
【0043】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物における、液晶ポリエステル(A)と高誘電材料フィラー(B)との含有比率は、用いる高誘電材料フィラーの誘電特性が十分に発現され、かつ溶融加工性が良好となるようなバランスを勘案して決定される。具体的には、配合される液晶ポリエステルと高誘電材料フィラーの合計量100体積%に対し、高誘電材料フィラーが20〜50体積%であると好ましく、高誘電材料フィラーの含有比率が22〜45体積%であるとさらに好ましい。
【0044】
次に、前記のストランド法等に係る組成物ペレットの作製方法について説明する。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を得る調製方法において、各原料成分を溶融混練できる範囲であれば、その配合手段は特に限定されない。具体的には、液晶ポリエステル(A)と高誘電材料フィラー(B)、必要に応じて添加されるその他の成分を各々別々に溶融混合機に供給する方法、これらの原料成分を乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダーなどを利用して予備混合してから溶融混合機に供給する方法等が挙げられる。このような溶融混練(熱溶融)により、液晶ポリエステル樹脂組成物は加熱溶融体を形成する。
溶融混練における温度条件は、使用している液晶ポリエステル(A)の流動開始温度Tp[℃]を基点にして適宜最適化できる。好ましくは、Tp−10[℃]以上Tp+100[℃]以下の範囲であり、より好ましくは、Tp−10[℃]以上Tp+70[℃]以下の範囲であり、特に好ましくは、Tp−10[℃]以上Tp+50[℃]以下の範囲である。また、液晶ポリエステル(A)として2種類以上を使用した場合は、この2種類以上の液晶ポリエステルの混合物に対して、既述した方法で流動開始温度を求め、その流動開始温度を基点にすればよい。
【0045】
溶融混練で得られた液晶ポリエステル樹脂組成物の加熱溶融体は、例えば単軸又は多軸押出機、好ましくは二軸押出機、バンバリー式混錬機、ロール式混練機等により紐状に押し出して紐状組成物とした後、この紐状組成物(ストランド)を冷却固化し、これを切断するといった一連の操作により、組成物ペレットに加工できる。また、前記ストランドを冷却固化させることなく、押出機のダイスから吐出した直後、ダイスカッターにより、切断してペレットに加工するホットカット法も用いることができる。但し、ストランド法とホットカット法を生産性の観点から比較すると、より生産性が良好となる面でストランド法が有利である。
このように、単軸又は二軸押出機を用いた組成物ペレットの調製方法は、溶融混練からペレット化までを連続して行うことができることから操作性が容易となる。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物においては、高誘電材料フィラーを比較的高充填したとしても、ストランド法やホットカット法に代表される公知のペレット製造手段で、組成物ペレットを、安定的に、生産性良く製造することが可能である。
【0046】
前記のようにして得られた組成物ペレットの形状は円柱状でも角柱状でもよい。また、断面形状は円形、略円形、楕円形、星形いずれでもよい。一般的には円柱状の組成物ペレットとするのがよい。なお、この断面形状は押出機の押出口の形状によって適宜最適化できる。
組成物ペレットの長さは、後述する成形方法によって適宜好適な長さが採用されるが、平均で表して0.1〜10mmの長さのものが好ましく、1〜5mmの長さのものがより好ましい。ペレットの直径/長さの比は、0.1〜10の範囲が好ましく、0.2〜3の範囲がさらに好ましく、0.3〜1の範囲が特に好ましい。
【0047】
<成形体及びアンテナ用基体>
かくして得られたペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物は、種々慣用の成形方法に適用可能である。成形方法としては、例えば、射出成形あるいはプレス成形等の溶融成形が好ましく、特に射出成形が好ましい。射出成形としては、一般射出成形、射出圧縮成形、2色成形、サンドイッチ成形等を具体的に挙げることができ、これらの中でも一般射出成形、射出圧縮成形が好ましい。これらの成形方法のいずれにおいても、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、操作性に優れた組成物ペレットとして得られるので、成形機に連続して供給するのも容易であり、計量・保管の面でも良好である。
【0048】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体は、高誘電材料フィラーを比較的高充填しているにも関わらず、ASTM D790の試験法(Method1の3点曲げ法)に従って、測定される曲げ強度が100MPa以上を有し、極めて高機械強度の成形体を得ることが可能となる。
【0049】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体は、高誘電材料フィラーを比較的高充填しているにも関わらず、ASTM D256の試験法(ノッチなし)に従って、測定される衝撃強度が100J/m以上を有し、極めて高い衝撃強度の成形体を得ることが可能となる。
【0050】
本発明に用いられる液晶ポリエステル(A)は、既述のように2,6−ナフタレンジイル基を特定量含み、流動開始温度が280℃以上且つ流動開始温度よりも高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上であることから、耐熱性及び機械強度に優れたものである。そして、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、組成物ペレットとして成形体を成形することにより、高誘電材料フィラー(B)を比較的高充填したとしても、高誘電材料フィラー(B)の分散性が良好になって、成形体中で高誘電材料フィラー(B)が凝集するのを良好に抑制することができる。このような成形体は、液晶ポリエステル自身が有している、優れた機械強度が十分に維持されて、極めて機械強度に優れた成形体を得ることができる。
【0051】
また、本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形体は、高誘電材料フィラー、特にチタン系セラミックスフィラーが係る、優れた誘電効果が十分に発現され、測定温度23℃、周波数1GHzでの比誘電率が6.0以上を発現することも可能である。そして、予め組成物ペレットにして成形された成形体は、当該成形体中、高誘電材料フィラーが略均一に存在することになり、前記の誘電特性が成形体中で部分的に変動するような不都合を、極めて良好に回避することができる。
【0052】
このような成形方法により、金型等を適宜最適化して、所望の形状・寸法の成形体を得ることができる。当該成形体は、既述のとおり優れた誘電特性と高機械強度を兼ね備え、さらに液晶ポリエステルが有する高度の耐熱性が十分に保持されているので、アンテナを製造するための部材、特にアンテナ用基体に好適に使用される。
そして、このアンテナ用基体は、必要に応じてエッチング等を施し、電極(放射電極、グランド電極)を形成せしめることによりアンテナを製造することができる。電極となり得る導電層の形成手段は、金属めっき、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着、半田付け等の公知の方法が採用される。また、所望の電極形状に加工された金属箔を接着剤等で接着又は圧着してもよく、予め金属箔を成形体表面に接着又は圧着させた後に、所望の形状となるように、接着又は圧着された金属箔をパターニングしてもよい。
【0053】
かくして得られるアンテナは、アンテナ用基体の誘電特性や機械強度が極めて優れるため、従来のものより、小型化が容易であり、例えば、ブルートゥースなどの無線LAN用、携帯電話・PHSあるいはモバイル機器用、GPS(グローバルポジショニングシステム)用、ETC(エレクトロリックトールコレクションシステム)用、衛星通信用などのアンテナとして、特に好適に用いられる。
このように、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られるアンテナは、高機械強度、高耐熱性等によって、外環境に対する耐久性に優れているので、屋外設置用アンテナに好適に使用可能である。また、優れた誘電特性による小型化の効果により、自動車搭載用アンテナ又は携帯機器用アンテナとしても、極めて優れている。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によって、より詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0055】
(流動開始温度測定方法)
フローテスター〔島津製作所社製、「CFT−500型」〕を用いて試料量約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターに充填させる。9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶性ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を流動開始温度とした。
【0056】
(メルトテンション測定)
キャピログラフ1B型(東洋精機製作所製)を用いて、試料約10gを仕込み、シリンダーバレル径1mmφ、ピストンの押出し速度は5.0mm/分、速度可変巻取機で自動昇速しながら試料を糸状に引き取り、破断したときの張力(g)を測定した。
【0057】
(曲げ強度)
液晶ポリエステル樹脂組成物を造粒し、得られた組成物ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、PS40E5ASE型)により、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で成形して、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片(サンプル)を作製した。そして、ASTMD790の試験法に従い、これらのサンプルの曲げ強度を測定した。
【0058】
(はんだ発泡試験)
液晶ポリエステル樹脂組成物を造粒し、得られたペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で、JIS K71131(1/1)号ダンベル(厚み1.2mm)のサンプルを成形した。得られたサンプルを、260℃のH60Aはんだ(スズ60%、鉛40%)に60秒間浸漬した。その後、サンプルを引き上げ、発泡や膨れの発生の有無を確認した。
【0059】
(衝撃強度)
液晶ポリエステル樹脂組成物を造粒し、得られた組成物ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、PS40E5ASE型)により、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で成形して、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの成形体を作製した。この成形体を長さ64mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmとなるように切削し、試験片(サンプル)とした。そして、ASTMD256の試験法(ノッチなし)に従い、これらのサンプルの衝撃強度を測定した。
【0060】
合成例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度で3時間保温して液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー1)を得た。
このプレポリマー1についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、267℃であった。
【0061】
合成例2
合成例1で得られたプレポリマー1を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から293℃まで5時間かけて昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合させた。固相重合後、冷却したところ、液晶ポリエステルが粉末状で得られた。この液晶ポリエステルをLCP1とする。LCP1についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、317℃であった。
【0062】
合成例3
合成例1で得られたプレポリマー1を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から310℃まで10時間かけて昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合させた。固相重合後、冷却したところ、液晶ポリエステルが粉末状で得られた。この液晶ポリエステルをLCP2とする。得られたLCP2についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、333℃であった。
【0063】
合成例1〜3で得られたLCP1及びLCP2は、使用したモノマーのモル比率から、共重合モル分率を求めると、(i)の構造単位:(ii)の構造単位:式(iii)の構造単位で表して、55.0モル%:22.5モル%:22.5モル%となる。これを全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有比で表すと、72.5モル%となる。
【0064】
合成例4
合成例1と同様の反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸987.95g(5.25モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル486.47g(2.612モル、0.237モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸513.45g(2.375モル)、無水酢酸1174.04g(11.5モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.194gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、触媒である1−メチルイミダゾール 5.83gをさらに添加した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度で2時間保温して液晶性ポリエステルを得た。得られた液晶性ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶性ポリエステルの粉末(プレポリマー2)を得た。
このプレポリマー2についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、273℃であった。
得られたプレポリマー2を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から300℃まで10時間かけて昇温し、次いで同温度で12時間保温して固相重合させた。固相重合後冷却したところ、液晶ポリエステルが粉末状で得られた。この液晶ポリエステルをLCP3とする。LCP3についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、324℃であった。
【0065】
合成例5
合成例4と同様にして得られたプレポリマー2を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から325℃まで10時間かけて昇温し、次いで同温度で12時間保温して固相重合させた。固相重合後冷却したところ、液晶ポリエステルが粉末状で得られた。この液晶ポリエステルをLCP4とする。LCP4についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、349℃であった。
【0066】
合成例4〜5で得られたLCP3及びLCP4は、使用したモノマーのモル比率から、共重合モル分率を求めると、(i)の構造単位:(ii)の構造単位:式(iii)の構造単位で表して、52.5モル%:23.75モル%:23.75モル%となる。これを全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有比で表すと、76.3モル%となる。
【0067】
合成例6
合成例1と同様の反応器に、p―ヒドロキシ安息香酸を911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを409g(2.2モル)、イソフタル酸を91g(0.55モル)、テレフタル酸を274g(1.65モル)、無水酢酸を1235g(12.1モル)用いて攪拌した。次いで、1−メチルイミダゾールを0.17g添加し反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを1.7g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた液晶性ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶性ポリエステルの粉末(プレポリマー3)を得た。
このプレポリマー3についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、257℃であった。
得られたプレポリマー3を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から285℃まで5時間かけて昇温し、次いで同温度で3時間保温して固相重合させた。固相重合後冷却したところ、液晶ポリエステルが粉末状で得られた。この液晶ポリエステルをLCP5とする。LCP5についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、327℃であった。
【0068】
合成例7
合成例6と同様にして得られたプレポリマー3を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から290℃まで5時間かけて昇温し、次いで同温度で3時間保温して固相重合させた。固相重合後冷却したところ、液晶ポリエステルが粉末状で得られた。この液晶ポリエステルをLCP6とする。LCP6についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、336℃であった。
【0069】
合成例6〜7で得られたLCP5及びLCP6は、使用したモノマーのモル比率から、共重合モル分率を求めると、(i)の構造単位:(ii)の構造単位:式(iii)の構造単位で表して、60モル%:20モル%:20モル%となる。ここで使用したモノマーは、2,6−ナフタレンジイル基を有するものを用いていないので、全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有比は、0モル%となる。
【0070】
参考例1〜7
合成例1〜7で得られた液晶ポリエステルについてメルトテンションを測定した。まず、液晶ポリエステル500gを用いて、二軸押出機(池貝鉄工(株) 「PCM−30」)によって、各液晶ポリエステルの流動開始温度よりも、約10℃程度高い温度で造粒した後の流動開始温度を、上述の方法により測定した後、その流動開始温度より高い温度範囲で、種々測定温度を変更してメルトテンション測定を実施し、求められたメルトテンションの中で最大値を求めた。また試料が糸状に引き取れずメルトテンション測定が実施できない限界温度についても求めた。この結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
合成例1で得られたプレポリマー1では、測定温度が300℃以下であるとストランドを形成することができなかった。また測定温度が310℃以上では樹脂が、ストランドを形成するよりも、流動液状化して、やはりメルトテンション測定ができなかった。測定温度300〜310℃の間においてもメルトテンション測定を試みたが、得られたストランドが容易に破断してしまうためメルトテンションを算出することができなかった。
LCP1では測定温度310℃、320℃及び330℃でメルトテンションが1.0g以上であった。LCP2では、測定温度330〜360℃で測定したメルトテンションが何れも1.0g以上であった。LCP3及びLCP4は、測定温度360℃以下でのメルトテンションが1.0g未満であり、それ以上の温度領域ではメルトテンションを測定することができなかった。LCP5及びLCP6は測定温度350℃でメルトテンションが1.0g以上であった。
【0073】
実施例1
高誘電材料フィラーとして、チタン酸バリウム(BaTiO3)からなるフィラー(富士チタン工業(株)製 HPBT-1)を用い、合成例2で得られたLCP1とを、表2の割合(容量比)となるように配合し(混合粉末合計4.0kg)、二軸押出し機(池貝鉄工(株) 「PCM−30」)を用いて、溶融温度340℃によりストランド法にてペレット化を試みた。ストランドが得られることを確認した後、混合粉末が0.5kgを使用した時点を開始点とし、混合粉末3.0kgを使用した時点を終了点として、開始点−終了点の間で、ストランド切れの回数(ストランド切れ回数)をカウントすることで、ストランドの得られ易さを求めた。結果を表2に示す。本実施例ではストランド切れは認められず、安定的にストランドが得られることが判明した(ストランド切れ回数:0回)。
【0074】
実施例2〜3
合成例2で得られたLCP1及び実施例1で用いたものと同じ高誘電材料フィラーを用い、表2に示す割合で配合する以外は、実施例1と同様の実験を行ってストランド切れ回数を求めた。結果を表2に示す。実施例2においては、ストランド切れは認められず、安定的にストランドが得られることが判明した(ストランド切れ回数:0回)。一方、実施例3では、わずかにストランド切れ(ストランド切れ回数:3回)が認められたが、実用的には問題ないものであった。
【0075】
実施例4
合成例3で得られたLCP2及び実施例1で用いたものと同じ高誘電材料フィラーを用い、表2に示す割合で配合する以外は、実施例1と同様の実験を行ってストランド切れ回数を求めた。結果を表2に示す。本実施例においても、ストランド切れは認められず、安定的にストランドが得られることが判明した(ストランド切れ回数:0回)。
【0076】
実施例5
高誘電材料フィラーとして、酸化チタン(TiO2)からなるフィラー(石原産業(株)製 CR−60、平均粒径0.21μm)を用い、合成例2で得られたLCP1と、表2に示す割合で配合する以外は、実施例1と同様の実験を行ってストランド切れ回数を求めた。結果を表2に示す。本実施例においても、ストランド切れは認められず、安定的にストランドが得られることが判明した(ストランド切れ回数:0回)。
【0077】
実施例6
高誘電材料フィラーとして、酸化チタン(TiO2)からなるフィラー(石原産業(株)製 CR−58、平均粒径0.28μm)を用い、合成例2で得られたLCP1と、表2に示す割合で配合する以外は、実施例1と同様の実験を行ってストランド切れ回数を求めた。結果を表2に示す。本実施例においても、ストランド切れは認められず、安定的にストランドが得られることが判明した(ストランド切れ回数:0回)。
【0078】
実施例7
高誘電材料フィラーとして、酸化チタン(TiO2)からなるフィラー(石原産業(株)製 CR−97、平均粒径0.25μm)を用い、合成例2で得られたLCP1と、表2に示す割合で配合する以外は、実施例1と同様の実験を行ってストランド切れ回数を求めた。結果を表2に示す。本実施例においても、ストランド切れは認められず、安定的にストランドが得られることが判明した(ストランド切れ回数:0回)。
【0079】
実施例8
高誘電材料フィラーとして、酸化チタン(TiO2)からなるフィラー(堺化学(株)製 SR−1、平均粒径0.26μm)を用い、合成例2で得られたLCP1と、表2に示す割合で配合する以外は、実施例1と同様の実験を行ってストランド切れ回数を求めた。結果を表2に示す。本実施例においても、ストランド切れは認められず、安定的にストランドが得られることが判明した(ストランド切れ回数:0回)。
【0080】
【表2】

【0081】
実施例9〜11
高誘電材料フィラーとして、酸化チタン(TiO2)からなる繊維状フィラー(石原産業(株)製 タイペークPFR404、数平均繊維長2〜4μm、数平均繊維径0.3〜0.5μm)を用い、合成例2で得られたLCP1と、表3に示す割合で配合する以外は、実施例1と同様の実験を行ってストランド切れ回数を求めた。結果を表3に示す。本実施例においても、ストランド切れは認められず、安定的にストランドが得られることが判明した(ストランド切れ回数:0回)。
【0082】
実施例12
高誘電材料フィラーとして、酸化チタン(TiO2)からなる繊維状フィラー(石原産業(株)製 タイペークPFR404、数平均繊維長2〜4μm、数平均繊維径0.3〜0.5μm)と、ガラス繊維(旭ファイバーガラス(株)製 CS03JAPX−1)を用い、合成例2で得られたLCP1と、表3に示す割合で配合する以外は、実施例1と同様の実験を行ってストランド切れ回数を求めた。結果を表3に示す。本実施例においても、わずかにストランド切れ(ストランド切れ回数:2回)が認められたが、実用的には問題ないものであった。
【0083】
【表3】

【0084】
比較例1
合成例1で得られたプレポリマー1と、実施例1で用いたものと同じ高誘電材料フィラーとを用い、プレポリマー1が73体積%、フィラーが27体積%となるように配合し(混合粉末合計4.0kg)、二軸押出し機(池貝鉄工(株) 「PCM−30」)によって溶融温度295℃のストランド法にてペレット化を試みたが、ストランドを得ることができなかった。また、造粒温度の種々変更してストランドが引けるかどうかを試みたが、当該造粒温度を変更するだけでは、やはりストランドを得ることができなかった。
【0085】
比較例2
合成例4で得られたLCP3と、実施例1で用いたものと同じ高誘電材料フィラーとを、LCP3が73体積%、フィラーが27体積%となるように配合し(混合粉末合計4.0kg)、二軸押出し機(池貝鉄工(株) 「PCM−30」)によって溶融温度340℃のストランド法にてペレット化を試みたが、ストランドを引くことができなかった。また、造粒温度の種々変更してストランドが引けるかどうかを試みたが、当該造粒温度を変更するだけでは、やはりストランドを得ることができなかった。
【0086】
比較例3
合成例5で得られたLCP4と、実施例1で用いたものと同じ高誘電材料フィラーとを、表3に示す割合(容量比)となるように配合し(混合粉末合計4.0kg)、二軸押出し機(池貝鉄工(株) 「PCM−30」)によって造粒温度340℃によりストランド法にて造粒し、ペレット(樹脂組成物)が得られることを確認した。そこで混合粉末が0.5kgを使用した後から、混合粉末3.0kgにおいて造粒によるストランド切れの回数をカウントしたところストランド切れの回数は22回であり、安定的にストランドを得ることはできなかった。
【0087】
比較例4
合成例6で得られたLCP5と、実施例1で用いたものと同じ高誘電材料フィラーとを表3に示す割合で配合する以外は比較例3と同様の実験を行った。ストランド切れの回数は29回であり、安定的にストランドを得ることはできなかった。
【0088】
比較例5
合成例7で得られたLCP6と、実施例1で用いたものと同じ高誘電材料フィラーとを、表3に示す割合で配合し(混合粉末合計4.0kg)、二軸押出し機(池貝鉄工(株) 「PCM−30」)によって造粒温度345℃によりストランド法にて造粒を試みた。混合粉末が0.5kgを使用した時点から、混合粉末3.0kgを使用した時点までストランド切れの回数をカウントしたところストランド切れの回数は24回であり、安定的にストランドを得ることはできなかった。
【0089】
比較例6
合成例6で得られたLCP5と、実施例5で用いたものと同じ高誘電材料フィラーとを、表3に示す割合で配合し(混合粉末合計4.0kg)、二軸押出し機(池貝鉄工(株) 「PCM−30」)によって造粒温度340℃によりストランド法にて造粒し、ストランド切れが多発した(ストランド切れ:40回以上)。なお、ストランド切れの回数のカウントは40回以上までとし、これ以上のカウントを実施しないことにした。
【0090】
比較例7
合成例6で得られたLCP5と、実施例6で用いたものと同じ高誘電材料フィラーとを、表3に示す割合で配合し(混合粉末合計4.0kg)、二軸押出し機(池貝鉄工(株) 「PCM−30」)によって造粒温度340℃によりストランド法にて造粒し、ストランド切れが多発した(ストランド切れ:40回以上)。なお、ストランド切れの回数のカウントは40回以上までとし、これ以上のカウントを実施しないことにした。
【0091】
【表4】

【0092】
実施例13〜17
実施例1〜3及び実施例5〜8で得られた組成物ペレットを、120℃で3時間乾燥後、射出成形機(日清樹脂工業(株)製PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃でJIS K71131(1/1)号ダンベル(厚み1.2mm)のサンプルを成形した。得られたサンプルを、260℃のH60Aはんだ(スズ60%、鉛40%)に60秒間浸漬した。その後、サンプルを引き上げ、発泡や膨れの発生の有無を確認した。結果を表5に示す。
【0093】
また、実施例1〜3及び実施例5〜8で得られた組成物ペレットを、120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日清樹脂工業(株)製PS40E5ASE型)により、シンリンダー温度350℃、金型温度130℃で成形して、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片(曲げ強度測定用サンプル)を作製した。そしてASTMD790に準拠する方法により、これらのサンプルの曲げ強度を測定した。結果を表5に示す。
【0094】
さらに、実施例1〜3及び実施例5〜8で得られた組成物ペレットを、120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日清樹脂工業(株)製PS40E5ASE型)により、シンリンダー温度350℃、金型温度130℃で成形して、長さ64mm、幅64mm、厚さ1mmの試験片(誘電特性測定用サンプル)を作製した。そしてこれらのサンプルの1GHz(測定温度23℃)における誘電特性(誘電率、誘電正接)をHP製インピーダンスアナライザーで評価した。結果を表5に示す。
【0095】
比較例8
既述のように、比較例4ではストランド切れが生じて安定的に組成物ペレットを得ることができなかったが、ペレット長さ:2〜3mm程度のものを選別して、実施例13〜19と同様の実験により、はんだによる発泡の有無、曲げ強度及び誘電特性を測定した。結果を表6に示す。
【0096】
比較例9
比較例6では安定的にストランドが引けなかったため、二軸押出し機から押出された組成物を粉砕機で粉砕して、約3mm程度の粒子状組成物とし、この粒子状組成物を用いて、これを比較例6のペレットとした。実施例13〜19と同様の実験により、はんだによる発泡の有無、曲げ強度及び誘電特性を測定した。結果を表6に示す。
【0097】
比較例10
比較例7では安定的にストランドが引けなかったため、二軸押出し機から押出された組成物を粉砕機で粉砕して、約3mm程度の粒子状組成物とし、この粒子状組成物を用いて、これを比較例7のペレットとした。実施例13〜19と同様の実験により、はんだによる発泡の有無、曲げ強度及び誘電特性を測定した。結果を表6に示す。
【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
実施例20〜23
実施例1で得られた組成物ペレットを、実施例9〜12で得られた組成物ペレットに置き換えた以外は、実施例13と同様の実験を行って、得られたそれぞれの成形体について、はんだ発泡試験、曲げ強度及び誘電特性(誘電率、誘電正接)を求めた。結果を表7に示す。
【0101】
【表7】

【0102】
実施例24〜28
実施例5〜9で得られた組成物ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日清樹脂工業(株)製PS40E5ASE型)により、シンリンダー温度350℃、金型温度130℃で成形して、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの成形品を作製後に(曲げ強度測定用サンプル)を作製した。本成形品を長さ64mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmとなるように切削し、試験片(衝撃強度測定用サンプル)とした。そして、ASTMD256の試験法に従い、これらのサンプル(ノッチなし)の衝撃強度を測定した。結果を表8に示す。
【0103】
比較例11〜12
比較例6〜7で得られた組成物ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日清樹脂工業(株)製PS40E5ASE型)により、シンリンダー温度350℃、金型温度130℃で成形して、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの成形品を作製後に(曲げ強度測定用サンプル)を作製した。本成形品を長さ64mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmとなるように切削し、試験片(衝撃強度測定用サンプル)とした。そして、ASTMD256の試験法(ノッチなし)に従い、これらのサンプルの衝撃強度を測定した。結果を表8に示す。
【0104】
【表8】

【0105】
実施例1〜12で得られた液晶ポリエステル樹脂組成物は、安定的にストランドが得られることから、ストランド法による安定的な組成物ペレット製造が可能である。
また、実施例1〜3、実施例5〜12で得られたペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物は、はんだ発泡試験、曲げ強度、誘電特性に極めて優れる成形体が得られることが判明した。
更には実施例5〜9で得られたペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物は、衝撃強度に極めて優れる成形体が得られることが判明した。
一方、比較例4で得られた液晶ポリエステル樹脂組成物は、ストランド法では安定的に組成物ペレットが得られにくいことに加え、得られる成形体も曲げ強度、誘電特性に劣るものであった。比較例6〜7の液晶ポリエステル樹脂組成物は、全くストランド法に適合性が低いものであり、得られる成形体は曲げ強度及び衝撃強度に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)で表される構造単位、(ii)で表される構造単位及び(iii)で表される構造単位からなり、Ar1で表される2価の芳香族基、Ar2で表される2価の芳香族基及びAr3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上であり、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上を示す液晶ポリエステル(A)50〜80体積%と、
高誘電材料からなるフィラー(B)20〜50体積%と、
を含有することを特徴とする、液晶ポリエステル樹脂組成物。


(式中、Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる2価の芳香族基を表す。Ar2、Ar3は、それぞれ独立に2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる2価の芳香族基を表す。またAr1、Ar2又はAr3で示される芳香族基は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基に置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記高誘電材料からなるフィラー(B)が、チタン系セラミックスを含有するフィラーであることを特徴とする、請求項1記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記チタン系セラミックスが、TiO2、BaTiO3、SrTiO3、CaTiO3、MgTiO3、BaSrTi26、BaNd2Ti412、BaNd2Ti514及びBaBi2Nd2TiO9から選ばれるセラミックスを主として含むことを特徴とする、請求項2記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
液晶ポリエステル(A)及び高誘電材料からなるフィラー(B)を熱溶融し溶融物を得る工程と、
該溶融物を紐状に押出して紐状組成物を得る工程と、
該紐状組成物を切断してペレット化する工程と、
を有する製造方法により得られることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いてなることを特徴とする、成形体。
【請求項6】
ASTM D790の試験法に従い測定した曲げ強度が100MPa以上であることを特徴とする、請求項5記載の成形体。
【請求項7】
ASTM D256の試験法に従い測定した衝撃強度が100J/m以上であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の成形体。
【請求項8】
測定温度23℃、周波数1GHzでの比誘電率が6.0以上であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の成形体。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の成形体と、電極とを有することを特徴とする、アンテナ。

【公開番号】特開2009−155623(P2009−155623A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90690(P2008−90690)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】