説明

液晶ポリエステル液状組成物

【課題】液晶ポリエステル及び溶媒を含有し、沈降防止剤を使用しなくても、常温保存時の粘度及び溶解性が安定した液晶ポリエステル液状組成物の提供。
【解決手段】液晶ポリエステル及び溶媒からなる液晶ポリエステル液状組成物であって、前記溶媒はN−メチルピロリドンを必須成分とし、前記液晶ポリエステルの含有量が15質量%以上で、且つ23℃での粘度が1.5Pa・s以上であることを特徴とする液晶ポリエステル液状組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ポリマー、特に液晶ポリエステルは、優れた高周波特性や低吸湿性を有することから、エレクトロニクス基板等の絶縁材を構成する材料として応用が種々検討されている。このような絶縁材としては、例えば、液晶ポリエステル及び溶媒を含有する液晶ポリエステル液状組成物を基材に含浸させ、溶媒を除去することで作製される液晶ポリエステル含浸基材が挙げられる。そして、良好な品質の液晶ポリエステル含浸基材を作製するために、液晶ポリエステルは、液状組成物とした時の溶解性が良好であることが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1では、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸由来の繰返し単位と、芳香族ジアミン及び水酸基を有する芳香族アミンからなる群から選ばれる芳香族アミン由来の繰返し単位とを有する液晶ポリエステル(芳香族液晶ポリエステル)が、N−メチルピロリドンに対する溶解性が良好であることが開示されている。さらに、特許文献2では、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸由来の繰返し単位と、芳香族ジアミン及び水酸基を有する芳香族アミンからなる群から選ばれる芳香族アミン由来の繰返し単位との組成比が限定された液晶ポリエステル(芳香族液晶ポリエステル)が、より低沸点のN,N−ジメチルアセトアミドに溶解可能であることが開示され、液晶ポリエステル液状組成物を無機繊維や有機繊維などの基材に含浸させて、溶媒を除去することにより、液晶ポリエステル含浸基材を容易に製造できることが開示されている。
【0004】
しかし、従来の液晶ポリエステル液状組成物は、保存時の粘度及び溶解性の安定度にさらなる改善の余地があった。そこで、さらに検討を行ったところ、特許文献2の実施例で具体的に開示されている液晶ポリエステルと、N−メチルピロリドンとを含有する液晶ポリエステル液状組成物は、保存時に粘度が上昇し難くて安定しているものの、常温保存時に液晶ポリエステルが析出して、沈降してしまうことがわかった。
【0005】
従来、樹脂の液状組成物における樹脂の沈降防止法としては、液状組成物に沈降防止剤を添加する方法が知られている。例えば、特許文献3では、不飽和ポリエステルワニス及び白色顔料の混合物に、沈降防止剤を添加することで、不飽和ポリエステルの沈降を抑制できることが開示されている。そして、特許文献4では、熱硬化性樹脂及び無機充填剤を含有するワニスに、沈降防止剤としてヒュームドシリカを添加することで、樹脂の沈降を抑制でき、厚さ方向における無機充填剤の分布が均一化した銅張積層板を製造できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−315678号公報
【特許文献2】特開2007−146139号公報
【特許文献3】特開昭60−231775号公報
【特許文献4】特開平7−266499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、樹脂の液状組成物において沈降防止剤を使用する場合には、沈降防止剤を分散させるための工程が別途必要となり、製造コストが上昇してしまうという問題点があった。また、溶媒への樹脂の溶解と沈降防止剤の分散とを1工程で行った場合でも、異物除去のためのろ過工程においてろ過抵抗が高くなり、製造が困難になる場合があるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液晶ポリエステル及び溶媒を含有し、沈降防止剤を使用しなくても、常温保存時の粘度及び溶解性が安定した液晶ポリエステル液状組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、
本発明は、液晶ポリエステル及び溶媒からなる液晶ポリエステル液状組成物であって、前記溶媒はN−メチルピロリドンを必須成分とし、前記液晶ポリエステルの含有量が15質量%以上で、且つ23℃での粘度が1.5Pa・s以上であることを特徴とする液晶ポリエステル液状組成物を提供する。
本発明の液晶ポリエステル液状組成物においては、前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有し、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、下記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜45モル%、下記一般式(2)で表される繰返し単位を27.5〜35モル%、下記一般式(3)で表される繰返し単位を27.5〜35モル%有することが好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
本発明の液晶ポリエステル液状組成物においては、前記一般式(3)において、X及びYの一方がイミノ基であり、他方が酸素原子であることが好ましい。
本発明の液晶ポリエステル液状組成物においては、前記一般式(1)において、Arがp−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液晶ポリエステル及び溶媒を含有し、沈降防止剤を使用しなくても、常温保存時の粘度及び溶解性が安定した液晶ポリエステル液状組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液晶ポリエステル液状組成物(以下、「液状組成物」ということがある。)は、液晶ポリエステル及び溶媒からなり、前記溶媒はN−メチルピロリドンを必須成分とし、前記液晶ポリエステルの含有量が15質量%以上で、且つ23℃での粘度が1.5Pa・s以上であることを特徴とする。本発明の液状組成物は、液晶ポリエステルの含有量が高く、且つ常温保存時において粘度の変化と、液晶ポリエステルの析出及び沈降とが抑制されたものである。
【0012】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0013】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0014】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0015】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0016】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0017】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0018】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0019】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0021】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0022】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは30〜60モル%、特に好ましくは30〜45モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは27.5〜35モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは27.5〜35モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0023】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0024】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に二種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0025】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYの一方がイミノ基(−NH−)であり、他方が酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYの一方がイミノ基であり、他方が酸素原子であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルは溶媒に対する溶解性がより優れたものとなる。
【0026】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0027】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃〜350℃、さらに好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、高過ぎると、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、上記の液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0028】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0029】
前記液状組成物は、液晶ポリエステル及び溶媒からなり、前記溶媒はN−メチルピロリドンを必須成分とするものである。すなわち、前記液状組成物は、溶媒としてN−メチルピロリドンのみを含有していてもよいし、N−メチルピロリドンとそれ以外のその他の溶媒を含有していてもよい。
前記その他の溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒]×100)で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0030】
前記その他の溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系化合物(アミド結合を有する化合物);テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられ、これらの2種以上を用いてもよい。
【0031】
溶媒(N−メチルピロリドン及びその他の溶媒)としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。
また、N−メチルピロリドン以外の前記非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系化合物を用いることが好ましい。
【0032】
また、溶媒(N−メチルピロリドン及びその他の溶媒)としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める、双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることが好ましい。
【0033】
また、溶媒(N−メチルピロリドン及びその他の溶媒)としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める、1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0034】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量(液晶ポリエステル及び溶媒の総量に占める液晶ポリエステルの比率)は、15質量%以上であり、好ましくは15〜40質量%、より好ましくは15〜35質量%、さらに好ましくは20〜35質量%であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、適宜調整される。
【0035】
液状組成物の23℃での粘度は1.5Pa・s(1500cP(センチポイズ))以上であり、好ましくは1.5〜20.0Pa・s、より好ましくは1.5〜10.0Pa・sである。下限値以上であることで、常温(例えば、23℃)での保存時における液晶ポリエステルの析出及び沈降が抑制され、液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量が安定化する。また、上限値以下であることで、例えば、異物除去を目的とする液状組成物のろ過工程において、ろ過抵抗が小さくなり、ろ過がより容易になる。
そして、液状組成物は、製造直後から所定期間常温保存したときに、23℃での粘度が上記数値範囲を満たすものであり、好ましくは製造直後から3ヶ月間常温保存時の23℃での粘度が上記数値範囲を満たすものである。なお、本発明において「常温」とは、18〜28程度の温度を指し、好ましい温度としては23℃が例示できる。
【0036】
液状組成物の23℃をはじめとする各温度での粘度は、例えば、液晶ポリエステルの流動開始温度、液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量を調整することで、適宜調整できる。
【0037】
液状組成物は、充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を1種以上添加して、混合物としてもよい。
【0038】
前記充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機充填材;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材が挙げられ、その前記混合物中の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部である。
【0039】
前記添加剤の例としては、レべリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤が挙げられ、その前記混合物中の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜5質量部である。
【0040】
前記液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、その前記混合物中の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜20質量部である。
【0041】
液状組成物は、液晶ポリエステル及び溶媒を、一括で又は適当な順序で混合することにより製造できる。液状組成物に他の成分を添加して前記混合物とする場合には、液状組成物及び他の成分を、一括で又は適当な順序で同様に混合すればよい。他の成分として充填材を用いる場合は、液状組成物に充填材を分散させればよい。液状組成物に他の成分を添加する場合には、さらに溶媒を添加してもよく、このときの溶媒としては、液状組成物中の前記溶媒と同様のものが例示できる。
【0042】
例えば、液状組成物を無機繊維又は有機繊維等の基材に含浸させ、溶媒を除去することで、液晶ポリエステル含浸基材を製造でき、かかる液晶ポリエステル含浸基材は、例えば、エレクトロニクス基板等の絶縁材として好適である。
【0043】
通常、樹脂の液状組成物では、常温保存時に粘度の変化、特に粘度の上昇が見られるものがあるが、本発明の液状組成物は、常温保存時の粘度の変化が抑制される。また、本発明の液状組成物は、高い濃度でも、常温保存時の濃度の変化が抑制される。そのため、高い濃度でも従来の沈降防止剤を使用することなく、常温保存時の物性変化が抑制されるので、例えば、優れた品質の液晶ポリエステル含浸基材を簡便且つ低コストで製造するのに好適である。
【実施例】
【0044】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、液晶ポリエステルの流動開始温度、並びに液状組成物の粘度及び固形量差は、以下の方法で測定した。
【0045】
(液晶ポリエステルの流動開始温度の測定)
フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0046】
(液状組成物の粘度の測定)
B型粘度計(東機産業社製、TVL−20型)を用いて、No.21のローターにより、回転数20rpmで測定した。
【0047】
(液状組成物の固形量差の測定)
100mlガラスバイアルに液状組成物を約100g充填し、充填直後と3ヶ月静置後に、それぞれ液状組成物の液面から約1cm下の部分より試料を採取して、その固形量を測定し、固形量差(質量%)([「3ヶ月放置後の固形量」−「充填直後の固形量」]/「充填直後の固形量」×100)を算出した。固形量は、採取した試料を直径10cmのアルミカップに約3g秤量し、オーブンで220℃、3時間の条件で乾燥させ、このときの乾燥前後における質量減少分から算出した。
【0048】
<液状組成物の製造>
(1)液晶ポリエステルの製造
[製造例1]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(1976g、10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド(1474g、9.75モル)、イソフタル酸(1620g、9.75モル)及び無水酢酸(2374g、23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で攪拌しながら、15分間かけて室温から150℃まで昇温し、その温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
次いで、留出する副生成物の酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出した。この内容物を室温まで冷却し、得られた固形物を粉砕機で粉砕し、粉末状の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。このプレポリマーの流動開始温度は235℃であった。
次いで、このプレポリマーを、窒素雰囲気下において室温から220℃まで7時間40分かけて昇温し、220℃で5時間保持することにより固相重合を行い、冷却して粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、表1に示すように277℃であった。
【0049】
[製造例2]
製造例1と同様の方法でプレポリマーを得た。
次いで、このプレポリマーを、窒素雰囲気下において室温から240℃まで11時間かけて昇温し、240℃で5時間保持することにより固相重合を行い、冷却して粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、表1に示すように308℃であった。
【0050】
[製造例3]
製造例1と同様の方法でプレポリマーを得た。
次いで、このプレポリマーを、窒素雰囲気下において室温から200℃まで4時間20分かけて昇温し、200℃で5時間保持することにより固相重合を行い、冷却して粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、表1に示すように264℃であった。
【0051】
(2)液状組成物の製造
[実施例1]
製造例1で得られた液晶ポリエステル(81g)を、N−メチルピロリドン(219g)に加え、100℃で2時間攪拌することで、液状組成物を溶液として得た。この液状組成物の固形量及び粘度(初期粘度)を測定したところ、初期粘度は1.604Pa・sであった。
次いで、この液状組成物を23℃で3ヶ月間保存し、固形量を測定して前記固形量差を算出すると共に、沈降の有無、粘度について確認した。沈降の有無は目視確認で行った。その結果、表2に示すように、前記固形量差はゼロであり、保存による固形量の変化は認められず、沈降も認められなかった。また、粘度の変化も抑制されていた。なお、表2中「NMP」はN−メチルピロリドンを示す。
【0052】
[実施例2]
液晶ポリエステルの使用量を81gに代えて90gとし、N−メチルピロリドンの使用量を219gに代えて210gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で前記固形量差を算出すると共に、沈降の有無、粘度について確認した。なお、このときの液状組成物の初期粘度は3.350Pa・sであった。
その結果、表2に示すように、前記固形量差はゼロであり、保存による固形量の変化は認められず、沈降も認められなかった。また、粘度の変化も抑制されていた。
【0053】
[実施例3]
製造例1で得られた液晶ポリエステル(81g)に代えて、製造例2で得られた液晶ポリエステル(48g)を使用し、N−メチルピロリドンの使用量を219gに代えて252gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で前記固形量差を算出すると共に、沈降の有無、粘度について確認した。なお、このときの液状組成物の初期粘度は1.550Pa・sであった。
その結果、表2に示すように、前記固形量差はゼロであり、保存による固形量の変化は認められず、沈降も認められなかった。また、粘度の変化も抑制されていた。
【0054】
[比較例1]
液晶ポリエステルの使用量を81gに代えて66gとし、N−メチルピロリドンの使用量を219gに代えて234gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で前記固形量差を算出すると共に、沈降の有無、粘度について確認した。なお、このときの液状組成物の初期粘度は0.414Pa・sであった。
その結果、表2に示すように、前記固形量差は−0.9質量%であり、保存による固形量の減少が認められ、沈降も認められた。
【0055】
[比較例2]
液晶ポリエステルの使用量を81gに代えて75gとし、N−メチルピロリドンの使用量を219gに代えて225gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で前記固形量差を算出すると共に、沈降の有無、粘度について確認した。なお、このときの液状組成物の初期粘度は0.928Pa・sであった。
その結果、表2に示すように、前記固形量差は−0.5質量%であり、保存による固形量の減少が認められ、沈降も認められた。
【0056】
[比較例3]
製造例1で得られた液晶ポリエステル(81g)に代えて、製造例3で得られた液晶ポリエステル(81g)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で前記固形量差を算出すると共に、沈降の有無、粘度について確認した。なお、このときの液状組成物の初期粘度は0.722Pa・sであった。
その結果、表1に示すように、前記固形量差は−0.7質量%であり、保存による固形量の減少が認められ、沈降も認められた。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
上記のように、実施例の液状組成物は、比較例の液状組成物よりも、初期粘度が高く且つ23℃で3ヶ月間保存後の粘度も変化が抑制されていた。また、含有成分の析出及び沈降も認められず、その裏づけとして固形量差も無いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、エレクトロニクス基板等の絶縁材に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル及び溶媒からなる液晶ポリエステル液状組成物であって、
前記溶媒はN−メチルピロリドンを必須成分とし、
前記液晶ポリエステルの含有量が15質量%以上で、且つ23℃での粘度が1.5Pa・s以上であることを特徴とする液晶ポリエステル液状組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有し、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、下記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜45モル%、下記一般式(2)で表される繰返し単位を27.5〜35モル%、下記一般式(3)で表される繰返し単位を27.5〜35モル%有することを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル液状組成物。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【請求項3】
前記一般式(3)において、X及びYの一方がイミノ基であり、他方が酸素原子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル液状組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)において、Arがp−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル液状組成物。

【公開番号】特開2012−201835(P2012−201835A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69253(P2011−69253)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】