説明

液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法、および液晶ポリエステル積層フィルム

【課題】カールが著しく低減された、液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法を提供する。また、当該製造方法にて得られる、フレキシブルプリント配線板用途として好適な液晶ポリエステル積層フィルムを提供する。
【解決手段】[1]芳香族液晶ポリエステルからなる樹脂層と金属箔とを備えた積層フィルムの製造方法において、積層フィルムの金属箔側が内側となるようにロールに巻き取り、積層フィルムをロール状に巻き取った状態で加熱処理することを特徴とする液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法。
[2]積層フィルムをロール状に巻き取った状態で、200〜350℃の温度で加熱処理する、[1]の製造方法。
[3][1]または[2]記載の製造方法で得られる、液晶ポリエステル積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族液晶ポリエステルからなる樹脂層と金属箔とを備える積層フィルムの製造方法に関する。また、本発明は該製造方法にて得られる、フレキシブル配線板として好適な芳香族ポリエステル積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線板(以下、「FPC」と呼ぶこともある)は、可とう性を有し、空間的な自由度が大きく、立体的高密度の実装が可能であるため、電子機器への配線、ケーブル、あるいはコネクター機能を付与した複合部品として種々の電子機器に使用されている。近年、通信用・民生用の電子機器としては小型化、軽量化、高密度化が進んでおり、これらの電子機器に使用されるFPCは、小型化はもとより、形成される回路の微細化が求められている。
FPCは電気絶縁性の樹脂層と金属箔とを積層一体化して、金属箔に回路を作製したものであるが、使用した樹脂層と金属箔との収縮率の差が大きいと、カール、皺、縮れ等がFPCに生じ、金属箔に微細な回路を形成する際に、実用に耐える物が出来ないことが知られている。
【0003】
ところで、FPCとしては、ポリイミドからなる樹脂層を備えた積層フィルムが広範に用いられてきたが、近年、芳香族液晶ポリエステルを含む樹脂層を備えた液晶ポリエステル積層フィルムが、樹脂層が低吸水性で、且つ電気絶縁性にも優れることから、FPCに適用されるフレキシブル配線板用基板として種々検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−342980号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フレキシブル配線板用基板は、樹脂層に含まれる低揮発成分を除去することや、樹脂層の特性向上を目的として、加熱処理を行うことが多い。しかしながら、上記液晶ポリエステル積層フィルムは加熱処理を施すと、カールや縮れが生じる場合があった。特に、液晶ポリエステル積層フィルムは、保管・取扱いの容易さ、あるいは工業的生産性の観点からロールの形態で供給されることが望まれているが、このようにロールの形態にすると、カールの発生が著しくなることがあった。
本発明の目的は、このようなカールの発生が著しく低減された液晶ポリエステル積層フィルムの、工業的生産に係る好適な製造方法を提供し、当該製造方法にて得られる、FPC用途として好適な液晶ポリエステル積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題を解決し得る液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法を見出すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
[1]芳香族液晶ポリエステルを含有する樹脂層と金属箔とを備えた積層フィルムの製造方法において、芳香族液晶ポリエステルを含む被覆層を金属箔の片面に形成させた後、その金属箔側が内側となるようにロールに巻き取り、ロール状に巻き取った状態で加熱処理することを特徴とする液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法
を提供するものである。
【0007】
さらに、本発明は上記[1]に係る、好適な実施態様として下記の[2]〜[8]を提供する。
[2]ロールの外径が30mmφ〜500mmφである、[1]の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法
[3]ロールに巻き取る際に、被覆層側にスペーサを伴巻きする、[1]または[2]の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法
[4]ロール状に巻き取った状態で、200〜350℃の温度で加熱処理する、[1]〜[3]のいずれかの液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法
[5]芳香族液晶ポリエステルが溶媒に可溶である、[1]〜[4]のいずれかの液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法
[6]芳香族液晶ポリエステルを溶媒に溶解して得られる溶液組成物を金属箔に流延塗布した塗膜から溶媒を除去し、被覆層を金属箔上に積層一体化した後ロールに巻き取る、[5]の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法
[7]被覆層に含有される溶媒が18重量%以下である、[6]の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法
[8]芳香族液晶ポリエステルが、以下の式(1)〜(3)で示される構造単位を含み、全構造単位の合計[(1)+(2)+(3)]に対して、式(1)で示される構造単位が30〜80モル%、式(2)で示される構造単位が35〜10モル%であり、式(3)で示される構造単位が35〜10モル%であり、溶媒に可溶な芳香族液晶ポリエステルである、[5]〜[7]のいずれかの液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法
(1) −O−Ar1−CO−
(2) ―X−Ar2−Y−
(3) −CO−Ar3−CO−
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン、2,6−ナフチレンおよび4,4'−ビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上であり、Ar2は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレンおよび4,4'−ビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。X、Yはそれぞれ独立に、OまたはNHを表わす。Ar3は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレン、2,6−ナフチレンおよび下記式(4)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。)
(4) −Ar4−Z−Ar5−
(式中、Ar4、Ar5は、それぞれ独立に1,4−フェニレン、2,6−ナフチレンおよび4,4’−ビフェニレンからなる群からを選ばれる少なくとも1種以上であり、Zは、O、SO2またはCOを表す。)
【0008】
また、本発明は上記いずれかの液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法から得られる下記[9]、[10]を提供する。
[9]上記いずれかの製造方法で得られる、液晶ポリエステル積層フィルム。
[10][9]の液晶ポリエステル積層フィルムを用いてなる、フレキシブルプリント配線板
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、FPCに好適な液晶ポリエステル積層フィルムに関し、工業的生産として優れた製造方法を提供できる。かかる製造方法によって得られる液晶ポリエステル積層フィルムは、カールの発生が著しく低減できることから、金属箔を加工して配線を作製する際、微細化が容易であり、小型化・高密度化が要求される電子機器に使用されるFPCとして、好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施態様を説明する。
【0011】
本発明の製造方法は、芳香族液晶ポリエステルを含有する樹脂層と、金属箔とを積層させてなる液晶ポリエステル積層フィルムの工業的な製造方法において、芳香族液晶ポリエステルを含有する被覆層を金属箔の片面に形成させた後、金属箔側が内側になるようにロールに巻き取り、このようにしてロールに巻き取られた状態で加熱処理することを特徴とする。好ましくは、このような加熱処理を行うことにより、金属箔上に形成させた上記被覆層が、液晶ポリエステル積層フィルムの樹脂層に転化される。
ここで、液晶ポリエステル積層フィルムの樹脂層の厚みは、製膜性や機械特性の観点から、1〜500μm程度であることが好ましく、取扱い性の観点から1〜200μmであることがより好ましく、1〜100μmが特に好ましい。また、樹脂層の厚みが薄いほど、カールの発生をより低減できるという利点もある。または金属箔の厚みは、通常3〜70μm、好ましくは9〜35μmの範囲から選択される。金属箔としては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケルなどの金属の箔、薄膜、シートフィルムなどが挙げられる。導電性とコストの観点から銅箔が好ましく用いられる。かかる金属箔の寸法としては、短手方向150〜1500mm、長手方法1〜6000mのものが用いられ、これは得られる液晶ポリエステル積層フィルムを適用するFPCの形状に合わせて、最適のものを用いることができる。
【0012】
金属箔と被覆層の積層方法としては、ラミネート方法や、芳香族液晶ポリエステルを溶媒に溶解して得られる溶液組成物を金属箔上に流延する溶液キャスト法などが例示される。特に、溶液キャスト法によって、樹脂層となる被覆層を金属箔上に形成させると、操作が容易であることから好ましい。該溶液組成物は芳香族液晶ポリエステルの溶媒に溶解している形態、溶媒に芳香族液晶ポリエステルが微粒子状に分散している形態の、どちらかが選ばれるが、芳香族液晶ポリエステルとして溶媒に可溶であるものを用い、溶媒に芳香族液晶ポリエステルを溶解してなる溶液組成物であると、溶液キャスト法で得られる被覆層がより均一なものとなるので好ましい。溶媒に可溶である芳香族液晶ポリエステルとしては、特開2004−269874号公報、特開2005−342980号公報で、ハロゲン化フェノールや非プロトン性溶媒に可溶な芳香族液晶ポリエステルが例示される。中でも芳香族液晶ポリエステルは非プロトン性溶媒に可溶であるものが好ましい。
【0013】
ここで、非プロトン溶媒に可溶な芳香族液晶ポリエステルについて説明する。
芳香族液晶ポリエステルとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位(下記式(1)で表される構造単位)、芳香族ジオール、芳香族ジアミンまたは水酸基を有する芳香族アミンから誘導される構造単位(下記式(2)で表される構造単位)、芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位(下記式(3)で表される構造単位)を主として有するものであるが、とりわけ液晶性発現の観点から、全構造単位の合計[(1)+(2)+(3)]を100モル%としたとき、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される式(1)で示される構造単位が30〜80モル%であり、芳香族ジオール、芳香族ジアミンおよび水酸基を有する芳香族アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物から誘導される式(2)で示される構造単位が35〜10モル%、芳香族ジカルボン酸から誘導される式(3)で示される構造単位が35〜10モル%からなる芳香族液晶ポリエステルが好ましい。かかる芳香族液晶ポリエステルは好適な液晶性を発現するとともに、後述する好適な非プロトン性溶媒に対して、良好な溶解性を有する。
(1) −O−Ar1−CO−
(2) ―X−Ar2−Y−
(3) −CO−Ar3−CO−
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン、2,6−ナフチレンおよび4,4'−ビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上であり、Ar2は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレンおよび4,4'−ビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。X、Yはそれぞれ独立に、OまたはNHを表わす。Ar3は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレン、2,6−ナフチレンおよび下記式(4)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。)
(4) −Ar4−Z−Ar5−
(式中、Ar4、Ar5は、それぞれ独立に1,4−フェニレン、2,6−ナフチレンおよび4,4’−ビフェニレンからなる群からを選ばれる少なくとも1種以上であり、Zは、O、SO2またはCOを表す。)
【0014】
式(1)〜式(3)で示される構造単位はそれぞれ上記の化合物から誘導される構造単位であり、これらの構造単位を誘導する化合物を公知の方法によって縮合することで、芳香族液晶ポリエステルを得ることができる。また、これらの構造単位を誘導する化合物の代わりに、これらの化合物のエステル形成性誘導体またはアミド形成性誘導体を用いてもよい。
【0015】
カルボン酸基(カルボキシル基)を有する化合物のエステル形成性誘導体としては、例えば、該カルボキシル基が、ポリエステルを生成する反応を促進するような、酸塩化物、酸無水物などの反応活性が高い誘導体となっているもの、カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するようなアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0016】
フェノール性水酸基を有する化合物のエステル形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0017】
アミノ基を有する化合物のアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているものなどが挙げられる。
【0018】
本発明に適用される芳香族液晶ポリエステルの繰り返し構造単位としては、下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
式(1)で示される構造単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸に由来する構造単位が挙げられ、2種以上の式(1)で示される構造単位が、全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位の中で、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位を含む芳香族液晶ポリエステルが好ましい。
全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位は30〜80モル%であることが好ましく、35〜65モル%であることがより好ましく、40〜55モル%であることがさらに好ましい。式(1)で示される構造単位が上記の範囲であると、溶媒への溶解性が、より良好となることから、上記溶液キャスト法に適用する上で好ましく、さらに液晶性が維持されることからも好ましい。
【0019】
式(2)で示される構造単位としては、例えば、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位が挙げられ、2種以上の式(2)で示される構造単位が、全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位の中で、液晶ポリエステルを製造するための反応性や溶液キャスト法を適用できる程度の溶媒に対する溶解性を勘案すると、4−アミノフェノール由来の構造単位を含む芳香族液晶ポリエステルが好ましく、よりカールの発生を低減する観点からは、4,4’−ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
全構造単位の合計に対して、式(2)で示される構造単位は、10〜35モル%であることが好ましく、17.5〜32.5モル%であることがより好ましく、22.5〜30.0モル%であることがさらに好ましい。式(2)で示される構造単位が上記の範囲であると、溶媒への溶解性が、より良好となることから好ましく、さらに液晶性が維持されることからも好ましい。
【0020】
式(3)で示される構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4,4’−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸に由来する構造単位が挙げられ、2種以上の式(3)で示される構造単位が、全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位の中で、溶媒への溶解性の観点から、イソフタル酸由来の構造単位、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸由来の構造単位を含む芳香族液晶ポリエステルが好ましい。
【0021】
全構造単位の合計に対して、式(3)で表される構造単位が35〜10モル%であることがより好ましく、17.5〜32.5モル%であることがより好ましく、22.5〜30.0モル%であることがさらに好ましい。
【0022】
式(2)で示される構造単位は、式(3)で示される構造単位と、実質的に等モル当量含まれることが好ましいが、式(2)で示される構造単位を、式(3)で示される構造単位に対するモル当量割合を[式(2)で示される構造単位]/[式(3)で示される構造単位]で表して、0.85〜1.25とすることにより、芳香族液晶ポリエステルの重合度を制御することもできる。
【0023】
本発明者らは、本発明に適用する芳香族液晶ポリエステルにおいて、その分子鎖が剛直な構造を有するものほど、カールの発生をより十分に低減することができることを見出している。反面、分子鎖が剛直過ぎると、溶液キャスト法に用いる際の溶液組成物を得る上で、溶媒に対する十分な溶解性を有する液晶ポリエステルが得られにくい。液晶ポリエステルを構成する、上記式(1)〜(3)の構造単位は、液晶ポリエステル積層フィルムとしてのカールの低減と、溶媒への溶解性とを最適化することが好ましいが、本発明の製造方法によれば、比較的カールの発生しやすい液晶ポリエステル積層フィルムであっても、工業的に有利な条件で、FPCに適用する上で実用的な積層フィルムを製造することを可能とする。
【0024】
本発明に適用される芳香族液晶ポリエステルは、各構造単位を誘導する化合物(モノマー)、即ち、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族アミン、水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジオール又はこれらのエステル形成製誘導体、アミド形成性誘導体を、通常の方法(例えば、特開2002-220444号公報、特開2002-146003号公報に記載の方法)に準じて重合することにより、製造できる。
【0025】
より具体的には、本発明の液晶ポリエステルの製造方法は、例えば、式(1)で示される構造単位に対応する芳香族ヒドロキシカルボン酸、式(2)で示される構成単位に対応するフェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンのフェノール性水酸基やアミノ基を、過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、得られたアシル化物と、式(3)で示される構造単位と式(4)で示される構造単位に対応する芳香族ジカルボン酸とをエステル交換・アミド交換(重縮合)して溶融重合する方法などが挙げられる。
【0026】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量は、フェノール性水酸基とアミノ基の合計に対して、1.0〜1.2倍当量であることが好ましく、より好ましくは1.05〜1.1倍当量である。脂肪酸無水物の添加量が、この範囲であれば、エステル交換・アミド交換(重縮合)時にアシル化物や原料モノマーなどが昇華しにくく、反応系が閉塞する問題を回避することが可能であり、得られる液晶ポリエステルの着色が著しく低減される傾向がある。
【0027】
アシル化反応は、130〜180℃で5分間〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分間〜3時間反応させることがより好ましい。
【0028】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は,特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸または無水イソ酪酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。
【0029】
エステル交換・アミド交換(重縮合)においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0030】
エステル交換・アミド交換(重縮合)は、400℃まで0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、350℃まで0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
【0031】
アシル化物とカルボン酸とをエステル交換・アミド交換(重縮合)させる際、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0032】
なお、アシル化反応、エステル交換・アミド交換(重縮合)は、触媒の存在下に行ってもよい。該触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。
これらの触媒の中で、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002−146003号公報参照)。
該触媒は、通常、モノマー類の投入時に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、該触媒を除去しない場合にはそのままエステル交換・アミド交換(重縮合)を行うことができる。
【0033】
エステル交換・アミド交換による重縮合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、その後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことが好ましい。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお適当な攪拌機構を備えることにより溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。固相重合後、得られた芳香族液晶ポリエステルは、公知の方法によりペレット化し、成形してもよい。
液晶ポリエステルの製造は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行うことができる。
かかる方法によって、非プロトン性溶媒に可溶な芳香族液晶ポリエステルを得ることができる。
【0034】
次に、芳香族液晶ポリエステルを含む溶液組成物を製造する方法について述べる。該溶液組成物は、上記のようにして得られた芳香族液晶ポリエステルを、非プロトン性溶媒を含む溶媒に溶解したものが好ましく、両者を混合することにより製造できる。
【0035】
溶液組成物には、通常溶媒100重量部に対して、芳香族液晶ポリエステルが0.01〜100重量部を混合・溶解させたものが好ましい。芳香族液晶ポリエステルの混合量が上記の範囲であると、均一な塗工を可能とする、実用的な溶液粘度の溶液組成物が得られることから好ましい。
さらに作業性や経済性の観点から、溶媒100重量部に対して、芳香族液晶ポリエステルが1〜50重量部であることがより好ましく、2〜40重量部であることがさらに好ましい。
【0036】
非プロトン性溶媒としては、例えば、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン化アルカン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエ-テル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ―ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などの含リン系溶媒などが挙げられる。
【0037】
これらの中で、ハロゲン原子を含まない溶媒が環境への影響面から好ましく、双極子モーメントが3以上5以下の溶媒が溶解性の観点から好ましい。具体的には、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒またはγ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒がより好ましく、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミドまたはN−メチル−2−ピロリドンがさらに好ましく使用される。
上記溶液組成物には、液晶ポリエステル積層フィルムの製造を損なわない範囲であれば、非プロトン性溶媒以外の溶媒が含まれていてもよい。
【0038】
さらに、上記溶液組成物を必要に応じて、フィルターなどによってろ過し、溶液組成物中に含まれる微細な異物を除去してもよい。
【0039】
また、上記溶液組成物には、樹脂層の特性を設計するために、公知のフィラー、添加剤、熱可塑性樹脂等を含有してもよい。
この場合、フィラーとしては、例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、スチレン樹脂粉末などの有機系のフィラー、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ガラス、アルミナなどからなる、繊維状、粒状または板状の無機系のフィラーなどが挙げられる。
添加剤としては、公知のカップリング剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド、グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体などのエラストマーなどが挙げられる
【0040】
上記の方法で得られた溶液組成物を金属箔上に流延塗布し、流延塗布された溶液組成物から溶媒を除去することで、芳香族液晶ポリエステルを含有する被覆層と金属箔が積層一体化されたフィルム(以下、「中間体積層フィルム」と呼ぶことがある)が得られる。
ここで流延塗布する方法としては、例えば、ローラーコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、ロッドコート法、ディップコート法、スプレイコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法等の各種公知の手段が挙げられる。これらの中でも、膜厚や精度・均一性や制御の容易さの観点からナイフコート法またはスロットコート法が好ましい。
【0041】
溶媒の除去方法は、特に限定されないが、溶媒の蒸発により行うことが好ましい。該溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられるが、中でも生産効率、取扱い性の観点から加熱して蒸発させることが好ましく、通風しつつ加熱して蒸発せしめることがより好ましい。
乾燥は被覆層に残存する溶剤量が、被覆層の重量を基準として18重量%以下となるように行うことが好ましい。乾燥温度と時間は任意であるが、本発明では160℃以下、好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下で行う。乾燥温度が高すぎると、塗膜面に欠陥が生じやすくなる。また乾燥温度は低すぎると、乾燥に必要な時間がかかり生産性が低下するため、60℃以上で行った方が良い。残溶剤量が18重量%以下、好ましくは15重量%以下である被覆層を備えた中間体積層フィルムはロールに巻き取ることが可能とし、カール発生の低減からも好ましい。かかる溶媒の除去手段は、金属箔上に溶液組成物を流延塗布したフィルムをロールに誘導する途中で、加熱炉を設けて、この加熱炉の中にフィルムを走行させて、該加熱炉を通過しながら、溶媒を除去させる方法などが挙げられる。
【0042】
図1は、被覆層を備えた積層フィルムをロールに巻き取る際の部分断面図である。金属箔2上に被覆層3が積層されてなる中間体積層フィルム10を、金属箔2面側が内側になるように、ロール1に巻き取る。このように、金属箔2面側が内側になり、被覆層3面側が外側になるように巻き取ることを「外巻」、逆に被覆層3面側が内側に巻き取ることを「内巻」と表記する。
中間体積層フィルム10をロール1に巻き取る際の速度は、使用するロール形状、中間体積層フィルムの寸法によって適宜最適化できるが、通常0.1〜100m/分の範囲で決定される。また、巻き取る際には、ロールを強制回転されて巻き取る方式でもよく、ロールは自由回転できるものとし、適切なガイドロールを用い、該ガイドロールを回転させて、巻き取りロールに中間体積層フィルム10を誘導する方式でもよい。
また、中間体積層フィルムをロールに巻き取るために、このフィルムが破断したり、大きく撓まない範囲で張力をかけてもよい。
本発明の製造方法では、中間体積層フィルムを巻き取る際に、内周のフィルムにある被覆層と、外周のフィルムの金属箔裏面(樹脂層が形成される面の反対の面)が直接重ならないように、該被覆層と該金属箔裏面の間を200μm以上、好ましくは300μm以上、さらに好ましくは500μm以上離した空隙を設けて巻き取ることが好ましい。該空隙は、内周のフィルムにある被覆層上に適当なスペーサを伴巻きすることで、該被覆層と該金属箔裏面との間に空隙を設けることができる。
図2では、ロール1への中間体積層フィルム10を、スペーサを供巻きして巻き取る工程を説明する模式断面図である。ロール1を図面から見て時計回り方向(100)へ回転させ、中間体積層フィルム10が仮設されているロール20からフィルム10がガイドロール40を経由して誘導され、同時にスペーサが仮設されているロール30から、スペーサ4がロール1に誘導され、スペーサ4が該フィルムの被覆層側に接するように合流し、ロール1上に供巻きされる。
【0043】
該スペーサとしては、上記のような空隙を形成でき、後述する加熱処理で発生する発生ガスを効率的に除去できる程度の通気性があり、かつ200℃以上の耐熱性がある布帛状物であることが好ましい。該スペーサーの材質は、後述の加熱処理における温度で、収縮や軟化、溶融などによって変形しないものを選択すればよい。このような素材としては、セルロース繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、金属繊維、金属細線等から作られる網織布、不織布、あるいは耐熱素材からなる貫通孔を有する多孔質体などが挙げられる。
該スペーサーは、被覆層全面に配されてもよく、伴巻きされるスペーサを、中間体積層フィルムの走行方向の両端にのみ配してもよい。両端にスペーサを配した際の被覆層側から見た上面模式図を図3に示す。ロール1にポリイミド両面テープ5(3枚)を用いて、被覆層を備えた積層フィルムの端部を被覆層側がロールの外側になるように固定し、該フィルムの両端にスペーサ4aを配設する。
【0044】
中間体積層フィルムは、ロールに巻き取る際に金属箔側が内側となるように巻き取る。本発明者らが検討したところ、金属箔側が外側になるようにすると、カールが顕著に発生しやすくなる。この理由については定かではないが、後の加熱工程で発生する樹脂層の内部応力と、液晶ポリエステル積層フィルムがロールに巻き取られた際に受ける外的応力のバランスが崩れて、カールが顕著に発生すると推定される。
また、該ロールの外径は30mmφ〜500mmφであると好ましく、より好ましくは40mmφ〜300mmφ、更に好ましくは50mmφ〜200mmφ、とりわけ好ましくは60mmφ〜158mmφであり、特に好ましくは60mmφ〜100mmφである。中間体積層フィルムの巻き取りに使用するロールの外径がより小さいほど、カールを十分に低減させることができる。かかるロールは、液晶ポリエステル積層フィルムの生産性や取扱いの容易さと、カールの低減の度合いとを勘案して、最適の外径のものを選択することができる。
また、液晶ポリエステル積層フィルムをロールに巻き終えた段階での外径は、ロールとして好適なもの(ロール外径:60mmφ〜158mmφ)を使用した場合、60mmφ〜500mmφ、好ましくは90mmφ〜400mmφが好ましい。
【0045】
このようにして巻き取られた中間体積層フィルムはロールに巻き取られた状態で、さらに加熱処理される。該加熱処理においては、処理温度が200℃から350℃の範囲が好ましく、かかる処理温度の下限は250℃以上がより好ましく、280℃以上が特に好ましい。一方、処理温度の上限は340℃以下がより好ましく、330℃以下が特に好ましい。また、処理時間は10分から15時間の範囲で行う。かかる処理時間の下限は20分以上がさらに好ましく、40分以上が特に好ましい。一方、処理時間の上限は12時間以下がさらに好ましく、10時間以下が特に好ましい。また、金属箔の酸化劣化を防止する観点から処理環境を窒素、アルゴン、ネオンなどの不活性ガスで置換したり、あるいは真空にして処理することが好ましい。
かかる加熱処理を施した後、放冷などの方法にて冷却され、ロールからの抜き出し、必要に応じてスペーサの分離、スリット、切断することで、液晶ポリエステル積層フィルムを得ることができる。
また、上記のようにして得られた液晶ポリエステル積層フィルムの表面は、必要に応じて、研磨を行ってもよいし、酸あるいは酸化剤などの薬液で処理してもよい。あるいは、紫外線照射処理、プラズマ照射処理などの処理を行うこともできる。
【0046】
このようにして得られる液晶ポリエステル積層フィルムは、屈曲性、寸法安定性に優れ、カールの発生が十分に低減されているので、近年注目されている、銅張積層板用のベースフィルム、ビルドアップ法などによる半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板用フィルム、フレキシブルプリント配線板用フィルム、テープオートメーテッドボンデリング用フィルム、タグテープ用フィルム、電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム等に、好適に用いることができる。
また、本発明の液晶ポリエステルフィルムは、高周波特性、低吸水性などにも優れるので、高周波プリント配線基板、高周波ケーブル、通信機器回路、パッケージ用基板等に好適に用いることができる。
なお、液晶ポリエステル積層フィルムの樹脂層の厚みは、上記の範囲が好ましいが、FPC用途として特に高い絶縁性が要求される場合は、200μm以上にすることが好ましい。かかる樹脂層の厚みは上述のとおり、取扱いの容易さや、必要とするカール発生の抑制を勘案して決定することができる。
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
また、以下の実施例、比較例で得られた銅張積層板については、次の方法によりカール性を測定した。
(銅張積層フィルムのカール性)
液晶ポリエステル積層フィルムを150mm×150mmに切り出し、銅張積層フィルムの銅箔側を下にして定盤に置き、液晶ポリエステル積層フィルムにある銅箔の両端間の距離D(単位:mm)を測定した。
銅張積層フィルムのカールの程度が小さい場合は、次の式により銅張積層フィルムのカール量(単位:mm)を求めた(図3参照。図3において、銅張積層フィルムの銅箔の両端間の距離D(単位:mm)で示す。)。カール量は、0〜1.0mmの範囲となる。
銅張積層フィルムのカール量=(150−D)/150
銅張積層フィルムのカールの程度が大きく、丸まってしまう場合は、上記のカール量が1を超える、と呼ぶ。そのような場合を図4に示す。
カール量が小さいほど、カール性が小さく、優れることを示す。
【0048】
(合成例1)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸941g(5.0モル)、4−アミノフェノール273g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸1123g(11モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で10時間保持し、固相で重合反応を進めた。
【0049】
(合成例2)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸84.7g(0.45モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド41.6g(0.275モル)、イソフタル酸12.5g(0.075モル)、ジフェニルエーテル−4,4'−ジカルボン酸51.7g(0.20モル)及び無水酢酸 81.7g(1.1モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で3時間保持し、固相で重合反応を進めた。
【0050】
(合成例3)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸128g(0.68モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)および無水酢酸 153g(1.50モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で3時間保持し、固層で重合反応を進めた。
【0051】
実施例1
合成例1で得られた液晶ポリエステル粉末32gをN−メチル−2−ピロリドン368gに加え、140℃に加熱して完全に溶解して、褐色透明な溶液組成物を得た。この溶液組成物に対し、無機フィラーとしてホウ酸アルミニウム(四国化成工業(株),アルボレックスM20C)7.79gを添加して溶液組成物1を得た。次いで、この溶液組成物1を電解銅箔(3EC−VLP,厚み18μm,三井金属(株)製)の上にフィルムアプリケーターを用いて、加熱処理後の樹脂層厚みが15μmとなるようにキャスト後、120℃で加熱して、被覆層中の残存溶媒量が18重量%以下になるように、溶媒を除去して中間体積層フィルムを得た。該中間体積層フィルムの被覆層側の両端に幅が35mm、厚さが1.5mmのガラスクロステープを伴巻きし、電解銅箔面が内側(外巻)となるように、外径89.1mmのSUS316L1管に巻き取った。巻き取ったロールを高温熱風乾燥器に入れ、窒素雰囲気下、320℃、1時間で加熱処理することで、カール性に優れた液晶ポリエステル(銅張)積層フィルムが得られた。カール量の結果を表1に示す。
【0052】
比較例1
中間体積層フィルムをロールに巻き取る際に、外巻から内巻を変更した以外は、実施例1と同様な実験を行い、液晶ポリエステル積層フィルムを得た。カール量の結果を表1に示す。
【0053】
参考例1
実施例1と同様にして、フィルムアプリケーターを用いて、加熱処理後の樹脂層厚みが15μmとなるように電解銅箔上に溶液組成物1をキャスト後、120℃で加熱して被覆層中の残存溶媒量が18重量%以下になるように、溶媒を除去して積層フィルムを得た。この積層フィルムを、SUSトレイにガラスクロス粘着テープで固定した後、高温熱風乾燥器に入れ、窒素雰囲気下、320℃、1時間で加熱処理を行い、液晶ポリエステル積層フィルムを得た。カール量の結果を表1に示す。
【0054】
【表1】


実施例2,比較例2および参考例2
加熱処理後の樹脂層厚みを25μmとなるようにした以外は、実施例1、比較例1および参考例1と同様の実験を行い、得られた液晶ポリエステル積層フィルムのカール量を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例3,比較例3および参考例3
用いた液晶ポリエステル溶液組成物1を、無機フィラー(ホウ酸アルミニウム)を添加しない溶液組成物2に変更した以外は、実施例2、比較例2および参考例2と同様の実験を行い、得られた液晶ポリエステル積層フィルムのカール量を測定した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
実施例4
合成例2で得られた液晶ポリエステル粉末80gをN−メチル−2−ピロリドン920gに加え、160℃で加熱して液晶ポリエステルを完全に溶解させて、褐色透明な溶液組成物3を得た。次いで、この溶液組成物3を電解銅箔(3EC−VLP,厚み18μm,三井金属(株)製)の上にフィルムアプリケーターを用いて、加熱処理後の樹脂層厚みが15μmとなるようにキャスト後、120℃で加熱して溶媒を除去し、中間体積層フィルムを得た。この中間体積層フィルムの被覆層側の両端に幅が35mm、厚さが1.5mmのガラスクロステープを伴巻きし電解銅箔面が内側(外巻)となるように、外径89.1mmのSUS316L1管に巻き取った。巻き取ったロールを高温熱風乾燥器に入れ、窒素雰囲気下320℃、1時間で熱処理してカールのない液晶ポリエステルの液晶ポリエステル積層フィルムを得られた。カール量の結果を表4に示す。
【0059】
比較例4
中間体積層フィルムをロールに巻き取る際に、外巻から内巻を変更した以外は、実施例4と同様の実験を行い、液晶ポリエステル積層フィルムを得た。結果を表4に示す。
【0060】
参考例4
実施例4と同様にして、フィルムアプリケーターを用いて、加熱処理後の樹脂層厚みが15μmとなるように電解銅箔上に、溶液組成物2をキャスト後、120℃で加熱して溶媒を除去して中間体積層フィルムを得た。次いで、この中間体積層フィルムを、SUSトレイにガラスクロス粘着テープで固定した後、窒素雰囲気下320℃、1時間で加熱処理し、液晶ポリエステル積層フィルムを得た。カール量の結果を表4に示す。
【0061】
【表4】


実施例5,比較例5および参考例5
加熱処理後の樹脂層厚みを25μmとなるようにした以外は実施例4、比較例4および参考例4と同様の実験を行い、得られた液晶ポリエステル積層フィルムのカール量を測定した。結果を表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
実施例6
合成例3で得られた液晶ポリエステル粉末20gをp−クロロフェノール180gに加え、120℃に加熱し完全に溶解し褐色透明な液晶ポリエステル溶液組成物を得た。次いで、この溶液組成物を電解銅箔(3EC−VLP,厚み18μm,三井金属(株)製)の上にフィルムアプリケーターを用いて熱処理後の樹脂層厚みが25μmとなるようにキャスト後、高温熱風乾燥器で100℃で加熱して溶媒を除去した後、塗膜面の両端に幅が35mm、厚さが1.5mmのガラスクロステープを伴巻きし銅箔面が内側(外巻)となるように、外径89.1mmのSUS316L1管に巻き取った。巻き取ったロールを高温熱風乾燥器に入れ、窒素雰囲気下320℃、1時間で熱処理してカールのない液晶ポリエステルの銅張積層フィルムを得た。
【0064】
比較例6
熱処理時銅張積層フィルムのロールの外巻から内巻を変更した以外は、実施例6と同様に操作し、液晶ポリエステル積層フィルムを得た。結果を表6に示す。
【0065】
参考例6
実施例6と同様にして、フィルムアプリケーターを用いて熱処理後の樹脂厚が25μmとなるように電解銅箔上に、液晶ポリエステル溶液組成物3をキャスト後、高温熱風乾燥器で100℃で加熱して溶媒を除去して得られた積層フィルムを、SUSトレイにガラスクロス粘着テープで固定した、320℃、1時間で熱処理した後、カール量を測定した。結果を表6に示す。
【0066】
【表6】

【0067】
実施例7,比較例7
熱処理時に使用するロール外径を158mmとした以外は実施例5、比較例5と同様に操作し、得られた銅張積層フィルムのカール性を測定した。結果を表7に示す。
【0068】
【表7】

【0069】
実施例8,比較例8
熱処理時に使用するロール外径を60mmとした以外は実施例5、比較例5と同様の実験を行い、得られた銅張積層フィルムのカール性を測定した。結果を表8に示す。
【0070】
【表8】

【0071】
本発明の製造方法を用いた液晶ポリエステル積層フィルム(実施例1〜8)は、中間体積層フィルム段階で巻き方を外巻にすることにより、内巻の比較例1〜8の液晶ポリエステル積層フィルムに比して、カールを十分に低減化できる。また、実施例1〜8は、通常の実験室レベルの加熱処理である、トレイを用いた方法の液晶ポリエステル積層フィルム(参考例1〜6)と比しても、同等以上のカール低減を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】液晶ポリエステル積層フィルムをロールに巻き取る際の部分断面図である。
【図2】液晶ポリエステル積層フィルムを、スペーサを供巻きして巻き取る工程を説明する模式断面図である。
【図3】両端にスペーサを配して、ロールに液晶ポリエステル積層フィルムを巻き取る際の、樹脂層側から見た上面模式図である。
【図4】銅張積層フィルムのカール性を測定する模式図(カール量が1以下の場合)である。
【図5】銅張積層フィルムのカール性を測定する模式図(カール量が1を超える場合)である。
【符号の説明】
【0073】
1・・・・・ロール
2・・・・・液晶ポリエステル積層フィルムの金属箔(銅箔)
3・・・・・液晶ポリエステル積層フィルムの樹脂層となる被覆層
4,4a・・スペーサ
5・・・・・ポリイミド両面テープ
10・・・・被覆層を備えた積層フィルム
10a・・・被覆層を備えた積層フィルムの被覆層側上面
20・・・・被覆層を備えた積層フィルムの仮設ロール
30・・・・スペーサの仮設ロール
40・・・・ガイドロール
100・・・巻取りロールの回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族液晶ポリエステルを含有する樹脂層と金属箔とを備えた積層フィルムの製造方法において、芳香族液晶ポリエステルを含有する被覆層を金属箔の片面に形成させた後、その金属箔側が内側となるようにロールに巻き取り、ロール状に巻き取った状態で加熱処理することを特徴とする液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
ロールの外径が30mmφ〜500mmφである、請求項1記載の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法。
【請求項3】
ロールに巻き取る際に、被覆層側にスペーサーを伴巻きする、請求項1または2に記載の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
ロール状に巻き取った状態で、200〜350℃の温度で加熱処理する、請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
芳香族液晶ポリエステルが溶媒に可溶である、請求項1〜4のいずれかに記載の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
芳香族液晶ポリエステルを溶媒に溶解して得られる溶液組成物を金属箔に流延塗布した塗膜から溶媒を除去し、被覆層を金属箔上に積層一体化した後、ロールに巻き取る、請求項5記載の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
被覆層に含有される溶媒が18重量%以下である、請求項6記載の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
芳香族液晶ポリエステルが、以下の式(1)〜(3)で示される構造単位を含み、全構造単位の合計[(1)+(2)+(3)]に対して、式(1)で示される構造単位が30〜80モル%、式(2)で示される構造単位が35〜10モル%であり、式(3)で示される構造単位が35〜10モル%であり、溶媒に可溶な芳香族液晶ポリエステルである、請求項5〜7のいずれかに記載の液晶ポリエステル積層フィルムの製造方法。
(1) −O−Ar1−CO−
(2) ―X−Ar2−Y−
(3) −CO−Ar3−CO−
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン、2,6−ナフチレンおよび4,4'−ビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上であり、Ar2は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレンおよび4,4'−ビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。X、Yはそれぞれ独立に、OまたはNHを表わす。Ar3は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレン、2,6−ナフチレンおよび下記式(4)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。)
(4) −Ar4−Z−Ar5−
(式中、Ar4、Ar5は、それぞれ独立に1,4−フェニレン、2,6−ナフチレンおよび4,4’−ビフェニレンからなる群からを選ばれる少なくとも1種以上であり、Zは、O、SO2またはCOを表す。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法で得られる、液晶ポリエステル積層フィルム。
【請求項10】
請求項9記載の液晶ポリエステル積層フィルムを用いてなる、フレキシブルプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−30464(P2008−30464A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162258(P2007−162258)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】