説明

液晶ポリエステル組成物、成形体及び光ピックアップレンズホルダー

【課題】比弾性率が高く、かつ損失係数が大きい成形体、該成形体を用いた光ピックアップレンズホルダー、及び該成形体を製造するための液晶ポリエステル組成物の提供。
【解決手段】液晶ポリエステル100質量部に対して、下記(a)及び(b)の要件を満たす繊維状フィラー10〜25質量部、及び中空フィラーを含むことを特徴とする液晶ポリエステル組成物;かかる液晶ポリエステル組成物が成形されてなることを特徴とする成形体;かかる成形体からなるボビンを備えたことを特徴とする光ピックアップレンズホルダー。
(a)モース硬度が6.5より大きい。
(b)アスペクト比が100以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル組成物、該液晶ポリエステル組成物を用いた成形体、及び該成形体を用いた光ピックアップレンズホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップ部材は軽量化等が望まれており、これに応じて従来は、構成材料である金属を樹脂に代替する試みがなされている。特に、ガラス繊維を配合した液晶ポリエステル組成物は、樹脂材料の中でも機械的特性、成形性、寸法精度、耐熱性及び制振性に優れていることから、光ピックアップ部材として採用されている。
【0003】
ところが、近年のデジタルディスク駆動装置が扱う情報の大容量化及び高速化に伴い、制振性に対する要求がさらに厳しくなってきている。この対策として、光ピックアップ部材において2次共振振動数を高周波側にシフトさせ、かつゲイン幅を大きくすること、すなわち、光ピックアップ部材の高剛性化(共振振動数は比弾性率(弾性率を比重で除した値)の1/2乗に比例する)が求められているが、従来の液晶ポリエステル組成物では、この要求に十分に対応できないことが明らかとなっている。
【0004】
これまでに、光ピックアップ部材に適した液晶ポリエステル組成物としては、液晶ポリエステル及びホウ酸アルミニウムウイスカからなる樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、軽量化を目的として、液晶ポリエステル、ガラス繊維及び球状中空体からなる樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−80517号公報
【特許文献2】特開2004−143270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で開示されている液晶ポリエステル組成物を用いた成形体は、比重が大きいため、比弾性率を十分に高くできないという問題点があった。また、特許文献2で開示されている液晶ポリエステル組成物を用いた成形体は、弾性率が低いため、比弾性率を高くできないという問題点があった。このように、これら成形体は比剛性が不十分であり、比弾性率を高くすることが強く望まれていた。
【0007】
また、特許文献1及び2で開示されている液晶ポリエステル組成物を用いた成形体は、損失係数が小さいため、制振性が依然不十分であるという問題点があった。損失係数の逆数が振動時の振動回数に比例するため、損失係数の逆数が小さいほど(すなわち、損失係数が大きいほど)、振動が早く収まり、制振性に優れることになる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、比弾性率が高く、かつ損失係数が大きい成形体、該成形体を用いた光ピックアップレンズホルダー、及び該成形体を製造するための液晶ポリエステル組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、
本発明は、液晶ポリエステル100質量部に対して、下記(a)及び(b)の要件を満たす繊維状フィラー10〜25質量部、及び中空フィラーを含むことを特徴とする液晶ポリエステル組成物を提供する。
(a)モース硬度が6.5より大きい。
(b)アスペクト比が100以上である。
本発明の液晶ポリエステル組成物においては、前記中空フィラーを、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、5〜20質量部含むことが好ましい。
本発明の液晶ポリエステル組成物においては、前記液晶ポリエステルの流動開始温度が360℃以上であることが好ましい。
本発明の液晶ポリエステル組成物においては、前記中空フィラーの体積平均粒径が10〜40μmであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記本発明の液晶ポリエステル組成物が成形されてなることを特徴とする成形体を提供する。
また、本発明は、上記本発明の成形体からなるボビンを備えたことを特徴とする光ピックアップレンズホルダーを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比弾性率が高く、かつ損失係数が大きい成形体、該成形体を用いた光ピックアップレンズホルダー、及び該成形体を製造するための液晶ポリエステル組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る光ピックアップレンズホルダーの一実施形態を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<液晶ポリエステル組成物>
本発明に係る液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステル100質量部に対して、下記(a)及び(b)の要件を満たす繊維状フィラー(以下、単に「繊維状フィラー」ということがある。)10〜25質量部、及び中空フィラーを含むことを特徴とする。
(a)モース硬度が6.5より大きい。
(b)アスペクト比が100以上である。
かかる成形体は、比弾性率が高いことにより比剛性に優れ、損失係数が大きいことにより制振性に優れたものとなる。
【0014】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0015】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0016】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0017】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0018】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0019】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0020】
ただし、後述するように、液晶ポリエステルの流動開始温度は360℃以上であることが好ましく、このような流動開始温度の液晶ポリエステルを得るためには、これらの置換基を有しないことが望ましい。
【0021】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0022】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0023】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが1,3−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0024】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0025】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは40〜70モル%、特に好ましくは45〜65モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、液晶ポリエステルの溶融流動性、耐熱性、強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0026】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0027】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に二種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0028】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルは溶融粘度が低くなり易い。
【0029】
液晶ポリエステルは、分子鎖の直線性を向上させるように繰返し単位(1)〜(3)の組み合わせを選択することで、その流動開始温度が上がるので、これを利用して好適な流動開始温度、すなわち360℃以上の流動開始温度の液晶ポリエステルを製造することができる。
【0030】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性よく製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0031】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは360℃以上、より好ましくは360℃〜410℃、さらに好ましくは370℃〜400℃である。流動開始温度がこのような範囲である場合、液晶ポリエステル自体の耐熱性がより十分に発現され、液晶ポリエステル組成物を用いて得られる成形体の耐はんだ性が極めて良好となり、より実用的な成形温度で成形体を得ることが可能である。
【0032】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0033】
繊維状フィラーは、液晶ポリエステル組成物を用いて得られる成形体の高剛性化及び制振性向上に必要であり、その例としては、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、バサルト繊維等が挙げられ、比弾性率及び損失係数の点からバサルト繊維が特に好ましい。
繊維状フィラーは、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0034】
繊維状フィラーは、モース硬度が6.5より大きく、好ましくは7.0以上である。モース硬度が6.5以下の場合、得られる成形体の剛性が低くなり、高剛性化できない。なお、モース硬度とは、10種の基準となる鉱物と比較することによって鉱物の硬度を求める経験的な尺度である。基準となる鉱物はやわらかいもの(モース硬度1)から硬いもの(モース硬度10)の順に、滑石、石膏、方解石、ホタル石、燐灰石、正長石、石英、黄玉、鋼玉、ダイヤモンドで、硬度を測りたい試料物質で基準の鉱物をこすり、ひっかき傷の有無で硬度を測定する。例えば、ホタル石では傷が付かず、燐灰石で傷が付く場合、モース硬度は4.5(4と5の間の意)である。
好ましい繊維状フィラーとしては、モース硬度が8.0のアルミナ繊維、モース硬度が8.0のジルコニア繊維、モース硬度が7.0のバサルト繊維が例示できる。
【0035】
繊維状フィラーは、(b)アスペクト比(繊維長を径で除した値)が100以上であり、好ましくは150以上である。アスペクト比が下限値以上であることで、得られる成形体の損失係数が大きくなり、制振性が向上する。
【0036】
液晶ポリエステル組成物中の前記繊維状フィラーの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、10〜25質量部であり、好ましくは15〜25質量部である。このような範囲とすることで、得られる成形体はより制振性に優れ、特に繊維状フィラーとしてバサルト繊維を用いた場合には、成形体の損失係数が0.045以上となるため、制振性に特に優れる。
【0037】
中空フィラーは、液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体の軽量化に必要であり、このような軽量化により、例えば、液晶ポリエステル組成物を用いて、後述する光ピックアップレンズホルダーを製造したときに、この光ピックアップレンズホルダーのフォーカシングの感度を向上させることが可能となる。
【0038】
中空フィラーの例としては、シラスバルーン、ガラスバルーン、セラミックバルーン、有機樹脂バルーン、フラーレン等が挙げられ、これらの中でも、入手が容易で、且つより破損し難いという点から、ガラスバルーンが好ましい。
【0039】
中空フィラーの体積平均粒径は、好ましくは10〜40μm、より好ましくは15〜40μm、さらに好ましくは20〜40μmである。中空フィラーの体積平均粒径が大き過ぎると、中空フィラーの強度が低くなる傾向にあり、中空フィラー自体が破損し易くなる。一方、中空フィラーの体積平均粒径が小さ過ぎると、その表面積が大きくなることから、吸湿を起こし易くなり、液晶ポリエステル組成物の造粒時に液晶ポリエステルの加水分解が助長される恐れがある。なお、本明細書において、「体積平均粒径」とは、レーザー回折法による測定で求められるものである。
【0040】
中空フィラーの強度は、好ましくは9800N/cm以上、より好ましくは9800〜17600N/cm、さらに好ましくは11800〜17600N/cmである。
中空フィラーの強度は、例えば、ASTM(アメリカ材料試験協会) D3102に準拠した静水圧崩壊法による測定で求められる。
【0041】
液晶ポリエステル組成物中の前記中空フィラーの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは5〜20質量部である。下限値以上であることで、液晶ポリエステル組成物を用いて得られる成形体は、より低比重化(軽量化)され、上限値以下であることで、前記成形体は、比弾性率がより高く、且つ損失係数がより大きくなる。
【0042】
本発明に係る液晶ポリエステル組成物は、前記液晶ポリエステル、繊維状フィラー及び中空フィラー以外に、本発明の効果を妨げない範囲内において、他の成分を含んでいてもよい。
前記他の成分の例としては、液晶ポリエステル以外の樹脂、前記繊維状フィラー及び中空フィラー以外の充填材、添加剤等が挙げられる。
前記他の成分は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0043】
前記液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0044】
前記繊維状フィラー及び中空フィラー以外の充填材の例としては、タルク、マイカ(雲母)、ガラスフレーク、モンモリロナイト、スメクタイト、黒鉛、窒化ホウ素、二硫化モリブデン等の板状の無機充填材;ガラスビーズ、シリカビーズ等の球状の無機充填材が挙げられる。
【0045】
前記添加剤の例としては、フッ素樹脂、金属石鹸類等の離型改良剤;染料、顔料等の着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤;高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有する添加剤等の、当該分野で公知のものが挙げられる。
【0046】
液晶ポリエステル組成物中の前記液晶ポリエステル、繊維状フィラー及び中空フィラーの総含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。下限値以上とすることで、後述する成形体は、比弾性率がより高く、かつ損失係数がより大きくなる。
【0047】
液晶ポリエステル組成物は、配合成分である前記液晶ポリエステル、繊維状フィラー、中空フィラー及び必要に応じて他の成分を、公知の手法で混合することにより製造できる。このときの混合方法としては、例えば、各配合成分をそれぞれ別々に溶融混合機に供給して混合する方法、すべての配合成分を乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダー等を利用して予備混合してから、この予備混合物を溶融混合機に供給して混合する方法等が挙げられる。
【0048】
液晶ポリエステル組成物は、中空フィラーの破損を確実に防止するために、例えば、まず液晶ポリエステル及び繊維状フィラーを溶融混合機中で十分に溶融混合し、この混合物の溶融粘度が最も低下した時点で、さらに中空フィラーを混合することで製造するのが好ましい。したがって、例えば、製造時に押出溶融混錬機を用いる場合には、上流側から液晶ポリエステル及び繊維状フィラーを供給し、この供給部よりも下流側から中空フィラーを供給して、溶融混錬することが好ましい。
【0049】
<成形体>
本発明に係る成形体は、前記液晶ポリエステル組成物が成形されてなることを特徴とする。かかる成形体は、前記液晶ポリエステル組成物を用いたことで、比弾性率が高く、かつ損失係数が大きいので、比剛性及び制振性に優れ、例えば、光ピックアップレンズホルダー用のボビンとして好適である。
【0050】
液晶ポリエステル組成物は公知の方法で成形すればよいが、後述する光ピックアップレンズホルダー用のボビン等の、薄肉部又は複雑な形状を有する成形体を製造する場合には、その製造が容易である点から、射出成形法が好ましい。
【0051】
射出成形法においては、成形温度は、液晶ポリエステルの流動開始温度を基準として、この流動開始温度よりも10〜80℃高い温度とすることが好ましい。このような範囲とすることで、液晶ポリエステル組成物は優れた溶融流動性を発現し、薄肉部又は複雑な形状を有する成形体を、より良好な成形性で製造できる。例えば、光ピックアップレンズホルダーについては、軽量化及び低コスト化等の要求が年々強くなっており、その形状は薄肉化及び複雑化が益々進んでいく傾向にある。これに対して、前記液晶ポリエステル組成物を用いれば、例えば、厚さが0.1〜1.5mmの薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダーも容易に製造できる。さらに、流動長が比較的短い光ピックアップレンズホルダーを製造する場合には、厚さ0.05〜0.15mmの薄肉部を有するものでも、良好な寸法精度で製造できる。そして、このようにして製造された成形体は、液晶ポリエステルの優れた耐熱性を損なうことなく、曲げ弾性率(MD方向)に代表される剛性等にも優れる。なお、本明細書において「MD方向」とは、成形体の流れ方向を意味する。
【0052】
本発明に係る成形体は、例えば、ASTM D792(方法A)に準拠して求められる比重が1.25〜1.50の範囲である低比重のものとすることができる。
また、本発明に係る成形体は、高剛性化及び制振性向上に寄与する繊維状フィラーが特定の比率で含まれ、且つ低比重化に寄与する中空フィラーが含まれる前記液晶ポリエステル組成物を用いているので、比弾性率が高くなることにより比剛性に優れ、損失係数が大きくなることにより制振性に優れたものとなる。
【0053】
<光ピックアップレンズホルダー>
本発明に係る光ピックアップレンズホルダーは、前記成形体からなるボビンを備えたことを特徴とする。かかる光ピックアップレンズホルダーは、前記ボビンが比剛性及び制振性に優れる前記成形体からなるので、レーザー光の読み取り性能に優れる。また、薄肉部又は複雑な形状を有していても、成形性よく製造できる。また、かかる光ピックアップレンズホルダーは、前記液晶ポリエステル組成物を用いること以外は、従来の光ピックアップレンズホルダーと同様の方法で製造できる。
【0054】
図1は、本発明に係る光ピックアップレンズホルダーの一実施形態を例示する概略図である。
ここに示す光ピックアップレンズホルダー1は、ブロック状のボビン2を備える。ボビン2は、前記液晶ポリエステル組成物を用いた成形体からなり、上記のように実用的な低比重のものとすることができる。ボビン2には、上下方向に貫通して円形断面の光導通孔3が設けられており、ブルーレイディスク等の光ディスク7に対する読み取り及び書き込みを行うに際して、ボビン2中をレーザー光が導通可能となっている。そして、光導通孔3の上側(光ディスク7に対向する側)の開口部には、レンズ5が設置されている。また、ボビン2には、磁場(磁界)を形成するように、光導通孔3を取り囲むようにして、導線6がコイル状に巻き付けられている。
【0055】
なお、ここでは、光ピックアップレンズホルダーとして、ボビン1個あたり1個の光導通孔が設けられた例を示しているが、本発明に係る光ピックアップレンズホルダーは、これに限定されず、ボビン1個あたり2個以上の光導通孔が設けられていてもよい。
【0056】
ここまでは、光ピックアップレンズホルダーのボビンとして、前記成形体を用いた例について説明したが、前記成形体は、ボビン以外の部材、例えば、ベースフレーム、アクチュエーターボディ等として用いることもできる。
【実施例】
【0057】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、液晶ポリエステルの流動開始温度、繊維状フィラーのアスペクト比、及び中空フィラーの体積平均粒径は、以下の方法で測定した。
【0058】
(液晶ポリエステルの流動開始温度の測定)
フローテスター(島津製作所社製「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0059】
(繊維状フィラーのアスペクト比の測定)
繊維状フィラーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率1000〜5000倍)を撮影し、この写真から30本の繊維状フィラーの短辺の長さを測定し、これらの平均値を算出し、平均繊維径とした。同様に、この写真から30本の繊維状フィラーの長辺の長さを測定し、これらの平均値を算出し、平均繊維長とした。そして、平均繊維長/平均繊維径の値を算出し、アスペクト比とした。
【0060】
(中空フィラーの体積平均粒径の測定)
シスメックス社製のレーザー回折式粒度分布測定装置「マスターサイザー2000」を用いて、以下の実施例及び比較例で用いた中空フィラーの体積平均粒径を測定したところ、27μmであった。
【0061】
<液晶ポリエステルの製造>
[製造例1]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸830.7g(5.0モル)、テレフタル酸394.6g(2.375モル)、イソフタル酸20.8g(0.125モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル465.5g(2.5モル)及び無水酢酸1153g(11.0モル)を仕込み、窒素ガス気流下で撹拌しながら、15分かけて室温から150℃まで昇温し、150℃で3時間還流させた。
次いで、留出する副生成物の酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて150℃から320℃まで昇温し、320℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。そして、得られた固形物を粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、251℃であった。
次いで、このプレポリマーを、窒素ガス雰囲気下、1時間かけて室温から250℃まで昇温し、5時間かけて250℃から325℃まで昇温して、325℃で3時間保持することにより、固相重合を行った後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、380℃であった。
【0062】
<液晶ポリエステル組成物及び成形体の製造>
[実施例1]
(液晶ポリエステル組成物の製造)
上記で得られた液晶ポリエステル100質量部に対して、繊維状フィラーとしてバサルトテクノロジー社製のバサルト繊維「BS13」(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm、アスペクト比231、モース硬度7.0)18.8質量部と、中空フィラーとして住友スリーエム社製の「グラスバブルズS60HS」(強度12300N/cm、体積平均粒径27μm、体積中空率76%)6.3質量部とを配合した後、2軸押出機(池貝鉄工社製「PCM−30」)、及び神港精機社製の水封式真空ポンプ「SW−25」を用いて、シリンダー温度を390℃とし、真空ベントで脱気しながら造粒し、ペレット状の液晶ポリエステル組成物を得た。
【0063】
(成形体の製造)
日精樹脂工業社製の射出成形機「PS40E1ASE」を用いて、シリンダー温度400℃、金型温度130℃、射出速度60%の成形条件で、上記で得られた液晶ポリエステル組成物をJIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ0.5mm)に成形した。
【0064】
<成形体の物性測定>
(損失係数の測定)
上記で得られた成形体から、5mm×32mmの短冊形試験片を切り出した。そして、この試験片をエミック社製の加速器「512−D」に中央が支持されるように取り付け、JIS G0602に準拠して、温度23℃にて1次共振点の周波数における損失係数を半値幅法により測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(比重の測定)
上記で得られた成形体について、ASTM D792(方法A)に準拠して、比重を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
(比弾性率(MD方向)の算出)
上記で得られた成形体について、ASTM D790に準拠して、曲げ弾性率(MPa)を測定し、この曲げ弾性率を比重で除して、比弾性率(MPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0067】
<液晶ポリエステル組成物及び成形体の製造、並びに成形体の物性測定>
[比較例1]
繊維状フィラーとして、バサルトテクノロジー社製のバサルト繊維「BS13」18.8質量部に代えて、四国化成工業社製「アルボレックスY」(平均繊維径0.8μm、平均繊維長20μm、アスペクト比25、モース硬度7.0)18.8質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に、液晶ポリエステル組成物及び成形体を製造し、成形体の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
[比較例2]
繊維状フィラーとして、バサルトテクノロジー社製のバサルト繊維「BS13」18.8質量部に代えて、オーウェンスコーニング製造社製のガラス繊維「CS03JAPX−1」(平均繊維径10μm、平均繊維長3mm、アスペクト比300、モース硬度6.0)18.8質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に、液晶ポリエステル組成物及び成形体を製造し、成形体の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
バサルト繊維「BS13」の配合量を、18.8質量部に代えて8.8質量部とし、「グラスバブルズS60HS」の配合量を、6.3質量部に代えて15.0質量部としたこと以外は、実施例1と同様に、液晶ポリエステル組成物及び成形体を製造し、成形体の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
なお、表1中の各略号は、それぞれ以下のものを意味する。
(1)液晶ポリエステル
LCP1:製造例1で得られた液晶ポリエステル
(2)繊維状フィラー
BS13:バサルトテクノロジー社製のバサルト繊維「BS13」(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm、アスペクト比231、モース硬度7.0)
ABY:四国化成工業社製「アルボレックスY」(平均繊維径0.8μm、平均繊維長20μm、アスペクト比25、モース硬度7.0)
CS03JAPX−1:オーウェンスコーニング製造社製のガラス繊維「CS03JAPX−1」(平均繊維径10μm、平均繊維長3mm、アスペクト比300、モース硬度6.0)
(3)中空フィラー
S60HS:住友スリーエム社製「グラスバブルズS60HS」(強度12300N/cm、体積平均粒径27μm、体積中空率76%)
【0071】
【表1】

【0072】
上記結果から明らかなように、実施例1の成形体は、比弾性率が高く、かつ損失係数が大きく、光ピックアップレンズホルダーを構成するボビンの材料として適していた。
これに対して、比較例1の成形体は、繊維状フィラーのアスペクト比が小さかったことにより、比弾性率が低く、かつ損失係数が小さかった。
また、比較例2の成形体は、モース硬度が小さかったことにより、比弾性率が低く、かつ損失係数が小さかった。
また、比較例3の成形体は、繊維状フィラーの配合量(含有量)が少なかったことにより、比弾性率が低く、かつ損失係数が小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、高い比剛性及び制振性が求められる光ピックアップ部材に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1・・・光ピックアップレンズホルダー、2・・・ボビン、3・・・光導通孔、5・・・レンズ、6・・・導線、7・・・光ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル100質量部に対して、下記(a)及び(b)の要件を満たす繊維状フィラー10〜25質量部、及び中空フィラーを含むことを特徴とする液晶ポリエステル組成物。
(a)モース硬度が6.5より大きい。
(b)アスペクト比が100以上である。
【請求項2】
前記中空フィラーを、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、5〜20質量部含むことを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルの流動開始温度が360℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項4】
前記中空フィラーの体積平均粒径が10〜40μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル組成物が成形されてなることを特徴とする成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の成形体からなるボビンを備えたことを特徴とする光ピックアップレンズホルダー。

【図1】
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【公開番号】特開2013−108008(P2013−108008A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254958(P2011−254958)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】