説明

液晶ポリエステル組成物及びそのフィルム

【課題】押出成形フィルムの材料として、誘電損失が低く、耐熱性に優れ、溶融張力が高く、かつ、溶融粘度が低くて、低温での押出成形が可能な液晶ポリエステル材料を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、及び下記式(3)で表される構造単位を有し、下記2,6−ナフタレンジイル基の含有量が、下記Ar1、Ar2及びAr3の合計量に対して、40モル%以上であり、流動開始温度が280℃以上である液晶ポリエステルと、体積平均粒径が10μm以下である無機フィラーとを含む液晶ポリエステル組成物を、押出成形フィルムの材料として用いる。
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
(Ar1〜Ar3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形フィルムの材料として用いられる液晶ポリエステル組成物に関する。また、本発明は、この液晶ポリエステル組成物を押出成形してなるフィルムに関し、さらには、このフィルムに金属層が積層されてなる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
押出成形フィルムの材料として用いられる液晶ポリエステルとして、例えば、特許文献1には、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位と、(ポリ)p−フェニレンジオールに由来する構造単位と、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位と、(ポリ)p−フェニレンジカルボン酸に由来する構造単位とを所定の割合で有し、好ましくは重量平均分子量が25000以上である液晶ポリエステルが開示されている。また、特許文献2には、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位と、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位と、(ポリ)p−フェニレンジオールに由来する構造単位と、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位と、(ポリ)p−フェニレンジカルボン酸に由来する構造単位とを所定の割合で有し、流動開始温度が280〜345℃である液晶ポリエステルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−272819号公報
【特許文献2】特開2006−1990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の液晶ポリエステルは、誘電損失が低く、耐熱性が高く、かつ、溶融張力が高くて、溶融時に切れ難いので、フィルムへの押出成形を安定して行うことができるが、そのためには、フィルム化が可能となるまで溶融粘度を下げるべく、成形温度を高くする必要があり、熱劣化が懸念される。また、特許文献2に開示の液晶ポリエステルは、誘電損失が小さく、かつ、流動開始温度が345℃以下であることにより、345℃以下での押出成形が可能とされているが、フィルムへの押出成形を安定して行うには、やはり溶融粘度を下げるべく、成形温度を高くする必要があり、熱劣化が懸念される。そこで、本発明の目的は、押出成形フィルムの材料として用いられる液晶ポリエステル材料であって、誘電損失が低く、耐熱性に優れ、溶融張力が高く、かつ、溶融粘度が低くて、低温での押出成形が可能な液晶ポリエステル材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、押出成形フィルムの材料として用いられる液晶ポリエステル組成物であって、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、及び下記式(3)で表される構造単位を有し、下記2,6−ナフタレンジイル基の含有量が、下記Ar1、Ar2及びAr3の合計量に対して、40モル%以上であり、流動開始温度が280℃以上である液晶ポリエステルと、体積平均粒径が10μm以下である無機フィラーとを含むことを特徴とする液晶ポリエステル組成物を提供する。
【0006】
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
【0007】
(Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0008】
また、本発明によれば、この液晶ポリエステル組成物を成形してなるフィルムも提供され、さらには、このフィルムに金属層が積層されてなる積層体も提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶ポリエステル組成物は、誘電損失が低く、耐熱性に優れ、溶融張力が高く、かつ、溶融粘度が低くて、低温での押出成形が可能であるので、その押出成形により、誘電損失が低く、耐熱性に優れるフィルムを、液晶ポリエステルの熱劣化を抑制しつつ、安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液晶ポリエステル組成物に含まれる液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示すポリエステルであり、下記式(1)で表される構造単位(以下、構造単位(1)ということがある)、下記式(2)で表される構造単位(以下、構造単位(2)ということがある)、及び下記式(3)で表される構造単位(以下、構造単位(3)ということがある)を有し、下記2,6−ナフタレンジイル基の含有量が、下記Ar1、Ar2及びAr3の合計量に対して、40モル%以上であり、流動開始温度が280℃以上である液晶ポリエステルである。
【0011】
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
【0012】
(Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0013】
ここで、前記ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基が挙げられ、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、環状であってもよい。また、前記アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0014】
液晶ポリエステル中の2,6−ナフタレンジイル基の含有量を、Ar1、Ar2及びAr3の合計量に対して、40モル%以上とすることにより、液晶ポリエステル、ひいては液晶ポリエステル組成物の誘電損失を低くすることができる。この2,6−ナフタレンジイル基の含有量は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。
【0015】
また、液晶ポリエステルの流動開始温度を280℃以上とすることにより、液晶ポリエステル、ひいては液晶ポリエステル組成物の耐熱性を高めることができ、例えばハンダ付け時のブリスターの発生や変形を防止することができる。この流動開始温度は、好ましくは290℃以上であり、より好ましくは295℃以上であるが、あまり高いと、溶融させるために成形温度を高くする必要があり、熱劣化し易くなるので、通常380℃以下であり、好ましくは350℃以下である。
【0016】
ここで、流動開始温度は、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kgf/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度である(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0017】
また、液晶ポリエステルの流動開始温度を280℃以上とすることにより、液晶ポリエステル、ひいては液晶ポリエステル組成物の溶融張力を高めることもできる。
【0018】
液晶ポリエステル中、構造単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位であり、その含有量は、全構造単位の合計量に対して、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%である。また、構造単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位であり、その含有量は、全構造単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。また、構造単位(3)は、所定の芳香族ジオールに由来する構造単位であり、その含有量は、全構造単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。また、構造単位(2)の含有量と構造単位(3)の含有量とは、実質的に等しいことが好ましい。
【0019】
耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルの典型的な例では、構造単位(1)として、Ar1が2,6−ナフタレンジイル基であるもの、すなわち2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、好ましくは40〜74.8モル%、より好ましくは40〜64.5モル%、さらに好ましくは50〜58モル%であり、構造単位(2)として、Ar2が2,6−ナフタレンジイル基であるもの、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%であり、また構造単位(2)として、Ar2が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちテレフタル酸に由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、好ましくは0.2〜15モル%、より好ましくは0.5〜12モル%、さらに好ましくは2〜10モル%であり、構造単位(3)として、Ar3が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちハイドロキノンに由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%であり、かつ、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の含有量が、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位及びテレフタル酸に由来する構造単位の合計量に対して、好ましくは0.5モル倍以上、より好ましくは0.6モル倍以上である。
【0020】
液晶ポリエステルは、構造単位(1)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、構造単位(2)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジカルボン酸と、構造単位(3)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジオールとを、2,6−ナフタレンジイル基を有するモノマーが、全モノマーの合計量に対して、40モル%以上になるようにして、溶融重縮合させることにより、製造することができる。その際、前記各モノマーとしては、溶融重縮合を速やかに進行させるため、そのエステル形成性誘導体を用いることが好ましい。ここで、エステル形成性誘導体の例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物であれば、カルボキシル基がハロホルミル基に変換されたもの、カルボキシル基がアシルオキシカルボニル基に変換されたもの、カルボキシル基がアルコキシカルボニル基やアリールオキシカルボニル基に変換されたものが挙げられる。また、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオールのようなヒドロキシル基を有する化合物であれば、ヒドロキシル基がアシルオキシ基に変換されたものが挙げられる。中でも、ヒドロキシル基がアシルオキシ基に変換されたものは好ましく用いられ、すなわち、芳香族ヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、そのヒドロキシル基がアシル化されてなる芳香族アシルオキシカルボン酸が好ましく用いられ、また、芳香族ジオールのエステル形成性誘導体としては、そのヒドロキシル基がアシル化されてなる芳香族ジアシルオキシ化合物が好ましく用いられる。アシル化は、無水酢酸によるアセチル化であることが好ましく、このアセチル化によるエステル形成性誘導体は、脱酢酸重縮合させることができる。
【0021】
また、溶融重縮合により得られた液晶ポリエステルは、さらに固相重合により、高分子量化させてもよい。この固相重合により、液晶ポリエステルの流動開始温度を高めることができるので、液晶ポリエステル、ひいては液晶ポリエステル組成物の耐熱性や溶融張力を高めることができる。
【0022】
固相重合は、溶融重縮合により得られた液晶ポリエステルを、冷却固化させた後、粉砕し、得られた粉末を加熱することにより行うことが好ましい。粉末の粒径は、体積平均で表して、好ましくは0.05〜3mm、より好ましくは0.05〜1.5mm、さらに好ましくは0.1〜1.0mmである。このように所定範囲の粒径にすることにより、粉末の粒子間のシンタリングを抑制して、固相重合を促進することができる。
【0023】
粉末の加熱は、粉末の粒子間のシンタリングが生じないように、所定の温度まで昇温させた後、保持することにより行うことが好ましい。典型的な例では、まず、室温から溶融重縮合後の液晶ポリエステルの流動開始温度より20℃以上低い温度まで、1時間以内で昇温させた後、280℃以上の温度まで、0.3℃/分以下の速度で昇温させ、次いで、280℃〜400℃で30分以上保持する。この保持は、あまり温度が高く、またあまり時間が長いと、熱劣化が懸念されるので、280〜350℃で30分〜30時間行うことが好ましく、285〜340℃で30分〜20時間行うことがより好ましい。
【0024】
本発明の液晶ポリエステル組成物に含まれる無機フィラーとしては、例えば、ミルドガラスファイバー、チョップドガラスファイバー等のガラス繊維、チタン酸カリウムウイスカー、アルミナウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、炭化けい素ウイスカ、窒化けい素ウイスカ等の金属又は非金属系ウイスカ類、ガラスビーズ、中空ガラス球、ガラス粉末、マイカ、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質等)、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸ソーダ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、けい酸カルシウム、けい砂、けい石、石英、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄グラファイト、モリブデン、アスベスト、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、石膏繊維、炭素繊維、カーボンブラック、ホワイトカーボン、けいそう土、ベントナイト、セリサイト、シラス、黒鉛等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、シリカ、アルミナ、酸化チタンが好ましく用いられる。
【0025】
これらの無機フィラーは、必要に応じて、表面処理されたものであってもよく、この表面処理剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤等の反応性カップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の潤滑剤が挙げられる。
【0026】
無機フィラーの粒径は、体積平均で表して、10μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。このように体積平均粒径が所定値以下の無機フィラーを液晶ポリエステルに配合することにより、得られる液晶ポリエステル組成物の溶融粘度を低くすることができ、その低温での押出成形が可能となる。なお、無機フィラーの体積平均粒径の下限については、分散性の点から、通常0.05μm以上である。
【0027】
ここで、無機フィラーの体積平均粒径は、無機フィラーを走査形電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られたSEM写真を画像解析装置(例えば株式会社ニレコ製「ルーゼックスIIIU」)で解析して、一次粒子の各粒径区間における粒子量(%)を求め、それらを体積基準で累積した分布曲線において、累積度が50%であるときの粒径である。
【0028】
液晶ポリエステル組成物中の無機フィラーの含有量は、液晶ポリエステル100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜5重量部である。無機フィラーの含有量があまり少ないと、液晶ポリエステル組成物の溶融粘度が低減し難く、あまり多いと、液晶ポリエステル組成物の溶融張力が不十分になることがある。
【0029】
なお、本発明の液晶ポリエステル組成物には、必要に応じて、液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂や添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、フッ素樹脂、金属石鹸類等の離型改良剤、核剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、着色防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、潤滑剤、難燃剤が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。
【0030】
本発明の液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステル、無機フィラー及び必要に応じて用いられる他の成分を混合することにより製造することができる。混合は、乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダーを用いて行ってもよいし、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、ニーダー等の溶融混練機を用いて行ってもよい。
【0031】
こうして得られる本発明の液晶ポリエステル組成物は、押出成形フィルムの材料として用いられる。押出成形法としては、例えば、液晶ポリエステル組成物を押出機で溶融混練し、Tダイを通して押し出した溶融樹脂を巻き取り機の方向(長手方向)に延伸しながら巻き取って一軸配向フィルムを得る方法、後述の二軸延伸フィルムを得る方法、円筒形のダイから押し出した溶融体シートをインフレーション法で成膜してインフレーションフィルムを得る方法等が挙げられる。
【0032】
ここで、一軸配向フィルムの製造時の押出機の設定温度は、液晶ポリエステルのモノマー組成に応じて異なるが、通常280〜400℃、好ましくは320〜380℃である。シリンダーの設定温度が280〜400℃であると、液晶ポリエステルの熱分解を抑制し得、成膜が容易になる。Tダイのスリット間隔は、通常0.1〜2mmであり、また一軸配向フィルムのドラフト比は、通常1.1〜45である。ここでいうドラフト比とは、Tダイスリットの断面積を長手方向のフィルム断面積で除した値をいう。ドラフト比が1.1以上であると、フィルム強度が向上する傾向があり、ドラフト比が45以下であると、フィルムの表面平滑性に優れる傾向がある。ドラフト比は、押し出し機の設定条件、巻き取り速度等により調整することができる。
【0033】
また、二軸延伸フィルムは、一軸配向フィルムと同様の押し出し機の設定条件、すなわちシリンダーの設定温度が、通常280〜400℃、好ましくは320〜380℃であり、Tダイのスリット間隔は、通常0.1〜2mmで溶融押出しを行う。二軸延伸方法としては、例えば、Tダイから押し出した溶融体シートを長手方向及び長手方向と垂直方向(横手方向)に同時に延伸する方法、Tダイから押し出した溶融体シートをまず長手方向に延伸し、ついでこの延伸シートを同一工程内で100〜400℃の高温下でテンターより横手方向に延伸する逐次延伸の方法が挙げられる。二軸延伸フィルムの延伸比は、長手方向に1.1〜20倍、横手方向に1.1〜20倍であることが好ましい。延伸比が上記の範囲内であると、得られるフィルムの強度に優れ、均一な厚みのフィルムを得ることが容易になる。
【0034】
また、インフレーションフィルムは、液晶ポリエステル組成物を環状スリットのダイを備えた溶融混練押出機に供給し、シリンダー設定温度を、通常280〜400℃、好ましくは320〜380℃に保持して溶融混練を行って、押出機の環状スリットから筒状の液晶ポリエステルフィルムを上方又は下方へ押し出す。環状スリットの間隔は、通常0.1〜5mm、好ましくは0.2〜2mmであり、環状スリットの直径は、通常20〜1000mm、好ましくは25〜600mmである。
【0035】
溶融押出しされた筒状の溶融樹脂フィルムに、長手方向(MD)にドラフトをかけるとともに、この筒状溶融樹脂フィルムの内側から空気又は不活性ガス、例えば、窒素ガスを吹き込むにより、長手方向と直角な横手方向(TD)にフィルムを膨張延伸させる。ここで、ブローアップ比(最終チューブ径と初期径の比)は、通常1.5〜10である。MD延伸倍率は、通常1.5〜40であり、この範囲内であると厚さが均一でしわのない高強度の液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。膨張延伸させたフィルムは、空冷又は水冷させた後、ニップロールを通過させて引き取る。
【0036】
また、インフレーション成膜に際しては、液晶ポリエステルの組成に応じて、筒状の溶融体フィルムが均一な厚みで表面平滑な状態に膨張するような条件を選択することが好ましい。以上のようにして得られた本発明の液晶ポリエステルフィルムの厚みは、製膜性や機械特性の観点から、通常0.5〜500μmであり、取扱い性の観点から1〜300μmであることが好ましい。
【0037】
本発明の液晶ポリエステルフィルムは、これに金属層を積層して、積層体として用いてもよい。金属層を積層するにあたって、液晶ポリエステルフィルムの金属層を積層する面には、接着力を高めるため、コロナ放電処理、紫外線照射処理又はプラズマ処理を実施してもよい。
【0038】
本発明の液晶ポリエステルフィルムに金属層を積層する方法としては、例えば、(1)液晶ポリエステルフィルムを加熱圧着により金属箔に貼付する方法、(2)液晶ポリエステルフィルムと金属箔とを接着剤により貼付する方法、(3)液晶ポリエステルフィルムに金属層を蒸着により形成する方法が挙げられる。中でも、(1)の積層方法は、プレス機又は加熱ロールを用いて液晶ポリエステルフィルムの流動開始温度付近で金属箔と圧着する方法であり、容易に実施できることから推奨される。(2)の積層方法において使用される接着剤としては、例えば、ホットメルト接着剤、ポリウレタン接着剤が挙げられる。中でもエポキシ基含有エチレン共重合体が接着剤として好ましく使用される。(3)の積層方法としては、例えば、イオンビームスパッタリング法、高周波スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、グロー放電法が挙げられる。中でも高周波スパッタリング法が好ましく使用される。
【0039】
金属層に使用される金属としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウムが挙げられる。タブテープ、プリント配線板用途では銅が好ましく、コンデンサー用途ではアルミニウムが好ましい。このようにして得られる積層体の構造としては、例えば、液晶ポリエステルフィルムと金属層との二層構造、液晶ポリエステルフィルム両面に金属層を積層させた三層構造、液晶ポリエステルフィルムと金属層を交互に積層させた五層構造が挙げられる。
【0040】
なお、積層体には、高強度発現の目的で、必要に応じて、熱処理を行ってもよい。
【0041】
本発明の液晶ポリエステルフィルムは、例えば、フレキシブルプリント配線板やリジッドプリント配線板、モジュール基盤等の電子基盤用の基板材料、層間絶縁材料、表面保護フィルムに用いられる。また、本発明の積層体は、例えば、コンデンサーや電磁波シールド材に用いられる。
【実施例】
【0042】
合成例1(液晶ポリエステルの合成)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル(2,6−ナフタレンジカルボン酸及びテレフタル酸に対して0.225モル過剰))、無水酢酸1226.87g(12.0モル)、及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを入れ、室温で15分間にわたって攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度(145℃)を保持したまま1時間にわたって攪拌した。
【0043】
次に、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した後、同温度(310℃)で3時間保温して液晶ポリエステルを得た。こうして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、体積平均粒径が約0.4mmの粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度を、フローテスター((株)島津製作所製「CFT−500型」)を用いて測定したところ、267℃であった。
【0044】
この液晶ポリエステルを25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から293℃まで5時間かけて昇温し、次いで、同温度(293℃)で5時間保温することにより、固相重合させた。固相重合後の粉末を冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度を、フローテスター((株)島津製作所製「CFT−500型」)を用いて測定したところ、317℃であった。
【0045】
また、この液晶ポリエステルは、構造単位(1)として、Ar1が2,6−ナフタレンジイル基であるもの、すなわち2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、55モル%であり、構造単位(2)として、Ar2が2,6−ナフタレンジイル基であるもの、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、17.5モル%であり、また構造単位(2)として、Ar2が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちテレフタル酸に由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、5モル%であり、構造単位(3)として、Ar3が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちハイドロキノンに由来する構造単位の含有量が、全構造単位の合計量に対して、22.5モル%であり、2,6−ナフタレンジイル基の含有量が、Ar1、Ar2及びAr3の合計量に対して、72.5モル%である。
【0046】
実施例1〜3、比較例1
合成例1で得られた固相重合後の液晶ポリエステル100重量部を、表1に示す量の体積平均粒径が0.21μmである酸化チタン(石原産業(株)製「TIPAQUE CR−60」)と混合し、2軸押出機(池貝鉄工(株)製「PCM−30」)を用いて、317〜327℃で造粒し、ペレットを得た。
【0047】
得られたペレットを、120℃で3時間乾燥した後、射出成形機(日清樹脂工業(株)製「PS40E5ASE型」)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で成形して、64mm四方で厚さ1mmの試験片を得た。この試験片の1GHzにおける誘電率及び誘電正接を、インピーダンスアナライザー(ヒューレットパッカード社製)を用いて、23℃で測定し、結果を表1に示した。
【0048】
また、得られたペレットの溶融粘度を、東洋精機(株)製「キャピログラフ1B」を用いて、温度340℃、ダイス径0.5mm、剪断速度1000sec-1の条件で測定し、結果を表1に示した。
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出成形フィルムの材料として用いられる液晶ポリエステル組成物であって、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、及び下記式(3)で表される構造単位を有し、下記2,6−ナフタレンジイル基の含有量が、下記Ar1、Ar2及びAr3の合計量に対して、40モル%以上であり、流動開始温度が280℃以上である液晶ポリエステルと、体積平均粒径が10μm以下である無機フィラーとを含むことを特徴とする組成物。
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
(Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記無機フィラーの含有量が、前記液晶ポリエステル100重量部に対して、0.1〜20重量部である請求項1に記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーが、シリカ、アルミナ及び酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種から構成されるフィラーである請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物を押出成形してなるフィルム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物をインフレーション成形してなるフィルム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のフィルムに金属層が積層されてなる積層体。

【公開番号】特開2011−157533(P2011−157533A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22917(P2010−22917)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】