説明

液晶ポリエステル組成物

【課題】ウエルド強度に優れる成形体を与える液晶ポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5〜15μmであって数平均アスペクト比が20〜40である繊維状充填材および板状充填材の合計65〜100質量部とを含有し、繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物とする。繊維状充填材がガラス繊維、板状充填材がマイカであると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル、繊維状充填材および板状充填材からなる液晶ポリエステル組成物、ならびに該組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル、繊維状充填材および板状充填材からなる液晶ポリエステル組成物として:
(1)特許文献1には、液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が0.1〜10μmであって数平均繊維長が1〜100μmである繊維状充填材10〜100質量部と、板状充填材10〜100質量部とを配合して得られる液晶ポリエステル組成物であって、該組成物中の繊維状充填材と板状充填材との含有比率(質量)が0を超え0.5未満であるか、1.6を超え10未満である液晶ポリエステル組成物が開示されている;
(2)特許文献2には、液晶ポリエステルと、平均繊維径が5〜30μmであって重量平均繊維長が250〜350μmである繊維状充填材10〜20質量%と、板状充填材30〜40質量%とからなり、繊維状充填材と板状充填材との合計量が40〜60質量%である液晶ポリエステル組成物が開示されている;
(3)特許文献3には、液晶ポリエステルと、重量平均繊維長が250〜600μmである繊維状充填材10〜25質量%と、板状充填材25〜30質量%とからなり、繊維状充填材と板状充填材との合計が組成物全体に対し40〜50質量%である液晶ポリエステル組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−294038号公報
【特許文献2】国際公開第2008/023839号
【特許文献3】特開2010−003661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの液晶ポリエステル組成物は、その成形体のウエルド強度が必ずしも十分ではない。本発明の目的は、ウエルド強度に優れる成形体を与える液晶ポリエステル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5〜15μmであって数平均アスペクト比が20〜40である繊維状充填材および板状充填材の合計65〜100質量部とを含有し、繊維状充填材と板状充填材との含有比率(質量)が1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物である。
本発明また、液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5〜15μmであって数平均アスペクト比が100以上である繊維状充填材および板状充填材の合計65〜100質量部とを溶融混練する工程からなる、液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5〜15μmであって数平均アスペクト比が20〜40である繊維状充填材および板状充填材の合計65〜100質量部とを含有し、繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物の製造方法である。
本発明はさらに、上記の液晶ポリエステル組成物、または上記の製造方法によって製法される液晶ポリエステル組成物を射出成形する工程からなる成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の液晶ポリエステル組成物は、ウエルド強度に優れる成形体を与える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例で得た成形体を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0009】
液晶ポリエステルの典型的な例として、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの;複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの;芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの;ならびにポリエチレンテレフタレートのようなポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0010】
上記の誘導体に関し、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体として、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)を例示することができる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体として、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)を例示することができる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体として、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)を例示することができる。
【0011】
液晶ポリエステルは、下式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」という)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」という)と、下式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」という)とを有することがより好ましい:
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(4)−Ar4−Z−Ar5
式中、Ar1はフェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表し;Ar2及びAr3はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または上式(4)で表される基を表し;X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表し;Ar4及びAr5はそれぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し;Zは酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表し;Ar1、Ar2又はAr3に係る水素原子はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0012】
前記ハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を例示することができる。前記アルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基のような、炭素数が通常1〜10のアルキル基を例示することができる。前記アリール基として、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基のような、炭素数が通常6〜20のアリール基を例示することができる。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、Ar1、Ar2及びAr3中の置換基の数は、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0013】
前記Zのアルキリデン基として、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基および2−エチルヘキシリデン基のような、炭素数が通常1〜10のアルキリデン基を例示することができる。
【0014】
繰返し単位(1)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)として、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位(Ar1がp−フェニレン基)、又は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位(Ar1が2,6−ナフチレン基)が好ましい。
【0015】
繰返し単位(2)は、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)として、テレフタル酸に由来する繰返し単位(Ar2がp−フェニレン基)、イソフタル酸に由来する繰返し単位(Ar2がm−フェニレン基)、又は2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位(Ar2が2,6−ナフチレン基)が好ましい。
【0016】
繰返し単位(3)は、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)として、ヒドロキノン、p−アミノフェノールもしくはp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位(Ar3がp−フェニレン基)、又は4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルもしくは4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位(Ar3が4,4’−ビフェニリレン基)が好ましい。
【0017】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルが、繰返し単位(1)、(2)及び(3)のそれぞれで表される分子からなる物質と見做し、液晶ポリエステル中の繰返し単位(1)、(2)及び(3)の合計を100モル%として、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%であり;繰返し単位(2)の含有量は、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%であり;繰返し単位(3)の含有量は、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、液晶ポリエステルの溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上する傾向があるが、80モル%を超えると、溶融温度や溶融粘度が高くなる傾向があり、成形に必要な温度が高くなる傾向がある。
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量とのモル比は、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0018】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよく、その含有量は、全繰返し単位の合計量を100モル%として、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0019】
溶融粘度の低い液晶ポリエステルを得る観点から、繰返し単位(3)のX及びYのそれぞれが酸素原子であること(すなわち、芳香族ジオールに由来する繰返し単位であること)が好ましく、X及びYのそれぞれが酸素原子である繰返し単位のみを繰返し単位(3)として有する液晶ポリエステルがより好ましい。
【0020】
液晶ポリエステルの好ましい製造方法は、耐熱性や強度・剛性の高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造する観点から、(1)液晶ポリエステルを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させて重合物(以下、「プレポリマー」という)を製造する工程、及び(2)該プレポリマーを固相重合させる工程からなる製造方法である。工程(1)は触媒の存在下に行ってもよく、触媒として、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム及び三酸化アンチモンのような金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン及び1−メチルイミダゾールのような含窒素複素環式化合物を例示することができる。中でも、含窒素複素環式化合物が好ましい。
【0021】
液晶ポリエステルの流動開始温度は、通常270℃以上、好ましくは270〜400℃、より好ましくは280〜380℃である。流動開始温度が高いほど、液晶ポリエステルの耐熱性や強度・剛性が向上する傾向があるが、400℃以上であると、液晶ポリエステルの溶融温度や溶融粘度が高くなる傾向があり、その成形に必要な温度が高くなる傾向がある。流動開始温度は、フロー温度または流動温度とも呼ばれ、液晶ポリエステルの分子量の目安となる温度である(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。流動開始温度は、毛細管レオメーターを用いて、液晶ポリエステルを9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下4℃/分の速度で昇温しながら溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度である。
【0022】
本発明に係る繊維状充填材は、無機充填材および/または有機充填材である。繊維状無機充填材として、ガラス繊維;パン系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維のような炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維およびシリカアルミナ繊維のようなセラミック繊維;ステンレス繊維のような金属繊維;ならびにチタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカーおよび炭化ケイ素ウイスカーのようなウイスカーを例示することができる。中でも、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ウォラストナイトウイスカー及びホウ酸アルミニウムウィスカーからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組合せが好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
【0023】
本発明の製造方法で用いられる繊維状充填材は、数平均繊維径が5〜15μmであり、数平均繊維長が1〜3mmであり、数平均アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維径)が100以上、好ましくは200以上であって、通常500以下、好ましくは400以下の繊維状充填材である。このようなアスペクト比を有する繊維状充填材を用い(すなわち、繊維長の比較的長い繊維状充填材を用い)、液晶ポリエステル組成物中の繊維状充填材の数平均アスペクト比を20〜40、好ましくは30〜40にすることによって(すなわち、液晶ポリエステル組成物中の繊維状充填材の繊維長を比較的長くすることによって)、得られる液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度を向上させることができる。数平均繊維径及び数平均繊維長は、電子顕微鏡で観察することにより測定できる。本発明の製造方法で用いられる繊維状充填材の数平均繊維径は、溶融混練によって実質上変化しないので、該数平均繊維径は、得られる液晶ポリエステル組成物に含有される繊維状充填材の数平均繊維径と実質同一である。
【0024】
本発明に係る板状充填材は通常、無機充填材である。板状無機充填材として、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウム、ならびにこれらの2以上の組合せを例示することができる。中でも、タルク及び/またはマイカが好ましく、タルクがより好ましい。
本発明の製造方法で用いられる板状充填材の体積平均粒径は、液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度向上の観点から、好ましくは10〜30μm、より好ましくは10〜20μmである。板状充填材の体積平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。本発明の製造方法で用いられる板状充填材の体積平均粒径は、溶融混練によって実質上変化しないので、該体積平均粒径は、得られる液晶ポリエステル組成物に含有される板状充填材の体積平均粒径と実質同一である。
【0025】
繊維状充填材と板状充填材との合計の配合量は、液晶ポリエステル100質量部あたり、65〜100質量部、好ましくは70〜100質量部、より好ましくは80〜100質量部である。該配合量が65質量部未満であると、液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度向上効果や反り低減効果が不十分になり、100質量部を超えると、液晶ポリエステル組成物の溶融流動性が不十分になる。
【0026】
繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)は、液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度向上の観点から、1.0を超え1.6以下、好ましくは1.1〜1.6、より好ましくは1.1〜1.5である。
【0027】
本発明の液晶ポリエステル組成物は粒状充填材を含有してもよい。粒状充填材とは、上記の繊維状および板状以外の形状(例えば球状)の充填材を意味する。粒状充填材として、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素および炭酸カルシウム、ならびにこれらの2以上の組合せを例示することができる。中でも、ガラスビーズが好ましい。粒状充填材の体積平均粒径は、液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度を向上させる観点から、好ましくは5〜50μmであり、より好ましくは10〜40μmである。該体積平均粒径はレーザー回折法により測定できる。粒状充填材の配合割合は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常20質量部以下、好ましくは5〜10質量部である。粒状充填材の体積平均粒径は、溶融混練によって実質上変化しないので、該体積平均粒径は、得られる液晶ポリエステル組成物に含有される粒状充填材の体積平均粒径と実質同一である。
【0028】
本発明の液晶ポリエステル組成物は、添加剤および/または液晶ポリエステル以外の樹脂成分を含有してもよい。添加剤として、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤及び着色剤を例示することができる。添加剤の配合割合は、液晶ポリエステル100質量部に対し、通常5質量部以下である。該樹脂成分として、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルおよびポリエーテルイミドのような熱可塑性樹脂;ならびにフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂およびシアネート樹脂のような熱硬化性樹脂を例示することができる。該樹脂成分の配合割合は、液晶ポリエステル100質量部に対し、通常20質量部以下である。
【0029】
本発明の液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステル、繊維状充填材、板状充填材及び必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練し、ストランド状に押し出し、ペレット化することにより製造することが好ましい。押出機として、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが、好ましく用いられ、さらにシリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものが、より好ましく用いられる。
【0030】
液晶ポリエステル組成物からなる成形体を得るための成形法として溶融成形法が好ましい。溶融成形法として、射出成形法、Tダイ法およびインフレーション法のような押出成形法;圧縮成形法;ブロー成形法;真空成形法;ならびにプレス成形を例示することができる。中でも、ウエルド強度に優れる成形体を得るために、射出成形法が有利である。
【0031】
成形体として、光ピックアップボビンおよびトランスボビンのようなボビン;リレーケース、リレーベース、リレースプルーおよびリレーアーマチャーのようなリレー部品;RIMM、DDR、S/O、DIMM、Board to Boardコネクター、FPCコネクター、カードコネクターおよびCPUソケットのようなコネクター;ランプリフレクターおよびLEDリフレクターのようなリフレクター;ランプホルダーおよびヒーターホルダーのようなホルダー;スピーカー振動板のような振動板;コピー機用分離爪およびプリンター用分離爪のような分離爪;カメラモジュール部品;スイッチ部品;モーター部品;センサー部品;ハードディスクドライブ部品;オーブンウェアのような食器;車両部品;航空機部品;ならびに半導体素子用封止部材およびコイル用封止部材のような封止部材を例示することができる。特に、本発明の液晶ポリエステル組成物は、薄肉部を有する成形体や複雑な形状を有する成形体に成形しても、ウエルド強度に優れる成形体を与えるので、CPUソケットのようなコネクターの材料として好適に用いられ、そのピン挿入工程やリフロー工程におけるクラック(ウエルド割れ)の発生を防止することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されない。
【0033】
参考例1〔液晶ポリエステル(1)の製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾール0.18gを加え、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で30分還流させた。次いで、1−メチルイミダゾール2.4gを加え、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕し、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(1)を得た。この液晶ポリエステル(1)の流動開始温度は、327℃であった。
【0034】
参考例2〔液晶ポリエステル(2)の製造〕
(1)テレフタル酸299.0g(1.8モル)を239.2g(1.44モル)に変更したこと、(2)イソフタル酸99.7g(0.6モル)を159.5g(0.96モル)に変更したこと、および(3)粉砕後の「室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持すること」を「室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで30分かけて昇温し、240℃で10時間保持すること」に変更したこと以外は参考例1と同様に行い、粉末状の液晶ポリエステル(2)を得た。この液晶ポリエステル(2)の流動開始温度は、286℃であった。
【0035】
上記の流動開始温度は、(1)フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填する手順、および(2)9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度(流動開始温度)を測定する手順からなる方法によって測定された。
【0036】
実施例1〜6、比較例1〜5
上記の液晶ポリエステル(1)および(2)と、繊維状充填材として旭ファイバーグラス(株)製の数平均繊維径10μm、数平均繊維長3mmおよび数平均アスペクト比300なるチョップドガラス繊維1(CS03JAPX−1)と、板状充填材としての日本タルク(株)の体積平均粒径14.2μmのタルク(MS−KY)と、粒状充填材としてのポッターズ・バロティーニ(株)の体積平均粒径18μmのガラスビーズ(EGB731)とを、表1に示す割合で、池貝鉄工(株)の同方向2軸押出機(PCM−30HS)を用いて、330℃で溶融混練し、ペレット化した。
その際、液晶ポリエステルの全量を、押出機の上流部供給口から供給し、繊維状充填材の全量と、板状充填材の全量と、粒状充填材の全量とを、押出機の下流側供給口から供給した。
得られたペレットの一部を、600℃の電気炉で3時間加熱することにより、繊維状充填材を得た後、顕微鏡を用いて繊維長を測定し、数平均アスペクト比を算出した。
また、得られたペレットを、日精樹脂工業(株)の射出成形機(PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sで射出成形し、縦64mm、横64mm、厚さ0.5mmで、直径10mmの円形開口部を2つ有する図1に示す成形体を得た。この成形体を、点線で示すラインで切断して、幅30mm、長さ64mm、厚さ0.5mmのウエルド部を含む試験片を切り出し、3点曲げ試験を行った。破断点までの曲げ応力を曲げ歪量で積分した値をウエルド部の破壊エネルギーとした。この破壊エネルギーが大きいほどウエルド強度が大である。結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例7〜10、比較例6〜9
上記の液晶ポリエステル(1)および(2)と、繊維状充填材として旭ファイバーグラス(株)製の数平均繊維径10μm、数平均繊維長3mmおよび数平均アスペクト比300なるチョップドガラス繊維1(CS03JAPX−1)または日東紡績(株)製の数平均繊維径6μm、数平均繊維長3mmおよび数平均アスペクト比500なるチョップドガラス繊維2と、板状充填材としての日本タルク(株)の体積平均粒径14.2μmのタルク(MS−KY)とを、表2に示す割合で、池貝鉄工(株)の同方向2軸押出機(PCM−30HS)を用いて、330℃で溶融混練し、ペレット化した。
その際、液晶ポリエステルの全供給量のうち55重量%と、繊維状充填材の全供給量のうち15重量%とを、押出機の上流部供給口から供給し、液晶ポリエステルの残量と繊維状充填材の残量と、板状充填材の全量とを、押出機の下流側供給口から供給した。
得られたペレットの一部を、600℃の電気炉で3時間加熱することにより、繊維状充填材を得た後、顕微鏡を用いて繊維長を測定し、数平均アスペクト比を算出した。
また、得られたペレットを、日精樹脂工業(株)の射出成形機(PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sで射出成形し、縦64mm、横64mm、厚さ0.5mmで、直径10mmの円形開口部を2つ有する図1に示す成形体を得た。この成形体を、点線で示すラインで切断して、幅30mm、長さ64mm、厚さ0.5mmのウエルド部を含む試験片を切り出し、3点曲げ試験を行った。破断点までの曲げ応力を曲げ歪量で積分した値をウエルド部の破壊エネルギーとした。この破壊エネルギーが大きいほどウエルド強度が大である。結果を表2に示した。
【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5〜15μmであって数平均アスペクト比が20〜40である繊維状充填材および板状充填材の合計65〜100質量部とを含有し、繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物。
【請求項2】
液晶ポリエステルが、下式(1)で表される繰返し単位と、下式(2)で表される繰返し単位と、下式(3)で表される繰返し単位とを含有する液晶ポリエステルである請求項1記載の液晶ポリエステル組成物:
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(4)−Ar4−Z−Ar5
式中、Ar1はフェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表し;Ar2及びAr3はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または上式(4)で表される基を表し;X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表し;Ar4及びAr5はそれぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し;Zは酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表し;Ar1、Ar2又はAr3に係る水素原子はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【請求項3】
Ar1がp−フェニレン基または2,6−ナフチレン基であり、Ar2がp−フェニレン基、m−フェニレン基または2,6−ナフチレン基であり、Ar3がp−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基であり、X及びYがそれぞれ酸素原子である請求項2記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項4】
液晶ポリエステルが、式(1)で表される繰返し単位30〜80モル%と、式(2)で表される繰返し単位10〜35モル%と、式(3)で示される繰返し単位10〜35モル%とからなる
液晶ポリエステルである請求項2又は3記載の液晶ポリエステル組成物(これら繰返し単位の合計を100モル%とする)。
【請求項5】
繊維状充填材がガラス繊維、ウォラストナイトウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー及びチタン酸カリウムウィスカーからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組合せである請求項1〜4のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項6】
板状充填材がマイカ及び/又はタルクである請求項1〜5のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項7】
板状充填材が体積平均粒径10〜30μmの板状充填材である請求項1〜6のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項8】
液晶ポリエステル100質量部に対し、さらに粒状充填材5〜10質量部を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項9】
粒状充填材がガラスビーズである請求項8に記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項10】
粒状充填材が体積平均粒径5〜50μmの粒状充填材である請求項8又は9に記載の液晶ポリエステル組成物。
【請求項11】
液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5〜15μmであって数平均アスペクト比が100以上である繊維状充填材および板状充填材の合計65〜100質量部とを溶融混練する工程からなる、液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5〜15μmであって数平均アスペクト比が20〜40である繊維状充填材および板状充填材の合計65〜100質量部とを含有し、繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項12】
液晶ポリエステルが、下式(1)で表される繰返し単位と、下式(2)で表される繰返し単位と、下式(3)で表される繰返し単位とを含有する液晶ポリエステルである請求項11記載の製造方法:
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(4)−Ar4−Z−Ar5
式中、Ar1はフェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表し;Ar2及びAr3はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または上式(4)で表される基を表し;X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表し;Ar4及びAr5はそれぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し;Zは酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表し;Ar1、Ar2又はAr3に係る水素原子はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【請求項13】
Ar1がp−フェニレン基または2,6−ナフチレン基であり、Ar2がp−フェニレン基、m−フェニレン基または2,6−ナフチレン基であり、Ar3がp−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基であり、X及びYがそれぞれ酸素原子である請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
液晶ポリエステルが、式(1)で表される繰返し単位30〜80モル%と、式(2)で表される繰返し単位10〜35モル%と、式(3)で示される繰返し単位10〜35モル%とからなる液晶ポリエステルである請求項12又は13に記載の製造方法(これら繰返し単位の合計を100モル%とする)。
【請求項15】
繊維状充填材がガラス繊維、ウォラストナイトウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー及びチタン酸カリウムウィスカーからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組合せである請求項11〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
板状充填材がマイカ及び/又はタルクである請求項11〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
板状充填材が体積平均粒径10〜30μmの板状充填材である請求項11〜16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
液晶ポリエステル100質量部に対し、さらに粒状充填材5〜10質量部を溶融混練する請求項11〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
粒状充填材がガラスビーズである請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
粒状充填材が体積平均粒径5〜50μmの粒状充填材である請求項18又は19に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜10のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物または請求項11〜20のいずれかに記載の製造方法によって製造される液晶ポリエステル組成物を射出成形する工程からなる成形体の製造方法。
【請求項22】
成形体がコネクターである請求項21に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−193343(P2012−193343A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32524(P2012−32524)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】