説明

液晶ポリエステル繊維の製造方法

【課題】 総繊度の低い液晶ポリエステル繊維の製造に際し、繊維パッケージの形態で固相重合を行っても融着を起こすことなく、加工性と強度の均一性に優れた総繊度の低い液晶ポリエステル繊維を提供し、特に優れた特性を持つ液晶ポリエステルモノフィラメントを提供する。
【解決手段】 溶融紡糸した総繊度が1dtex以上、500dtex以下の液晶ポリエステル溶融紡糸繊維を、巻き密度が0.01g/cc以上、0.30g/cc未満の繊維パッケージとしてボビン上に形成し、該パッケージを熱処理することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性と強度の均一性に優れた液晶ポリエステル繊維の製造方法に関するものであり、総繊度が小さく、特にモノフィラメントである液晶ポリエステル繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは剛直な分子鎖からなるポリマーであり、溶融紡糸においてはその分子鎖を繊維軸方向に高度に配向させ、さらに高温下で熱処理することにより固相重合するため、溶融紡糸で得られる繊維の中では最も高い強度、弾性率が得られる。液晶ポリエステル繊維はさらに低吸湿特性を有するため、水産資材用のロープやネット類などに用途を持っていた。また近年では、スクリーン印刷用の紗織物、セールクロス、各種電気製品のコード補強材、防護手袋、プラスチックの補強材、光ファイバーのテンションメンバー、膜体の基布などの比較的総繊度の低い液晶ポリエステルの需要が伸びている。
【0003】
液晶ポリエステル繊維は高強度、高弾性率の繊維を得ようとすると、固相重合温度を液晶ポリエステルの融点近傍の高温下で行う必要があるが、その際、繊維同士が融着しやすく、繊維を解舒するときにひどい場合には破断が起こり、また融着部分が繊維欠点となって部分的に強度が低下する問題を引き起こす。これを防ぐためには、低温で長時間熱処理する方法や、繊維を低速で高温ガス中を非接触で走行させつつ熱処理する方法などが考えられるが、熱処理時間がそもそも数時間から数十時間と長いため、量産技術として現実的なものではない。
【0004】
この熱処理時の融着を抑制するために、特許文献1では0.16〜0.5g/ccの巻き密度で巻き取ったパッケージを熱処理する方法が提案されている。これによりある程度の融着は回避することができるが、総繊度の低い繊維を処理する場合には融着の影響を解消することができない。また、特許文献2には総繊度が50デニール(55.5dtex)以上の液晶ポリエステルモノフィラメントの固相重合の際の巻き密度を0.3g/cc以上とすることが記載されているが、重合反応効率に関しての記載はあるものの固相重合時の融着については記載されていない。
【0005】
一方、融着を回避するために特許文献3では、円筒容器に液晶ポリエステル繊維を振り落としながら堆積させ、かつその後の取り出し性を良好にするためにあらかじめ繊維に交絡を付与する方法が提案されている。しかし、総繊度の細い繊維は空気抵抗のために円筒容器内に堆積させるのに長時間を費やし効率の悪いものとなっている。
【0006】
特許文献4には、細繊度の液晶ポリエステルモノフィラメントをボビンに巻き取って固相重合する製法が記載されている。しかしながら、巻き密度は0.57g/ccと高く、樹脂で被覆しない限り、工業的に有用な高度の融着抑制技術とはなっていない。
【特許文献1】特開昭61−225312号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平04−333616号公報(第4頁)
【特許文献3】特開平09−256240号公報(第1頁)
【特許文献4】特開平11−269737号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、繊維パッケージの形態で固相重合を行っても融着を起こすことがなく、加工性と強度の均一性に優れた総繊度の低い液晶ポリエステル繊維の製造方法を提供するものであり、特にモノフィラメントである液晶ポリエステル繊維の製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、溶融紡糸した総繊度が1dtex以上、500dtex以下の液晶ポリエステル溶融紡糸繊維を、巻き密度が0.01g/cc以上、0.30g/cc未満の繊維パッケージとしてボビン上に形成し、該パッケージを熱処理することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法により解決することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、繊維パッケージの形態で固相重合を行っても融着を起こすことがなく、加工性と強度の均一性に優れた総繊度の低い液晶ポリエステル繊維を提供でき、特に優れた特性を持つ液晶ポリエステルモノフィラメントを効率よく製造することができる。このようにして得られた液晶ポリエステル繊維は、スクリーン印刷用の紗織物、セールクロス、各種電気製品のコード補強材、防護手袋、プラスチックの補強材、光ファイバーのテンションメンバー、膜体の基布などに好適であり、融着に起因する欠陥がないこと、および強度の均一性が強く要求されるスクリーン印刷用の紗織物に特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法について詳細に説明する。
【0011】
本発明で用いられる液晶ポリエステルとは、加熱して溶融した際に光学的異方性(液晶性)を示すポリマーを指す。この特性は例えば、液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより確認できる。
【0012】
本発明に用いる液晶ポリエステルとしては、例えばa.芳香族オキシカルボン酸の重合物、b.芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物、c.aとbとの共重合物などが挙げられる。
【0013】
ここで、芳香族オキシカルボン酸としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸など、または上記芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。
【0014】
また、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸など、または上記芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。
【0015】
さらに、芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジオキシジフェニール、ナフタレンジオールなど、または上記芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられ、脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
【0016】
本発明に用いる液晶ポリエステルの好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’−ジヒドロキシビフェニル成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分および/またはイソフタル酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分とが共重合されたもの、などが挙げられる。
【0017】
本発明では特に、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる液晶ポリエステルであることが好ましい。なお、本発明において構造単位とはポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
【0018】
【化1】

【0019】
この組み合わせにより分子鎖は適切な結晶性と非直線性すなわち溶融紡糸可能な融点を有するようになる。したがってポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり長手方向に均一な繊維が得られ、かつ適度な結晶性を有するため繊維の強度、弾性率を高めることができる。さらに本発明においては、構造単位(II)、(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが重要である。この成分を組み合わせることにより繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できる。これにより高い強度、弾性率に加えて優れた耐摩耗性も得られるのである。
【0020】
また、上記した構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜85モル%が好ましく、より好ましくは65〜80モル%、さらに好ましくは68〜75モル%である。このような範囲とすることで結晶性を適切な範囲とすることができ高い強度、弾性率が得られ、かつ融点も溶融紡糸可能な範囲となる。
【0021】
構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜90モル%であることが好ましく、より好ましくは60〜80モル%、さらに好ましくは65〜75モル%である。このような範囲とすることで結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できるため耐摩耗性を高めることができる。
【0022】
構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して40〜95モル%であることが好ましく、より好ましくは50〜90モル%、さらに好ましくは60〜85モル%である。このような範囲とすることでポリマーの融点が適切な範囲となり、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり単繊維繊度が細く、長手方向に均一な繊維が得られる。
【0023】
本発明に用いる液晶ポリエステルの各構造単位の好ましい範囲は以下のとおりである。この範囲の中で上記した条件を満たすよう組成を調整することで本発明の液晶ポリエステル繊維が好適に得られる。
構造単位(I)45〜65モル%
構造単位(II)12〜18モル%
構造単位(III)3〜10モル%
構造単位(IV)5〜20モル%
構造単位(V)2〜15モル%
本発明に用いる液晶ポリエステルポリマーの融点(Tm0)は、溶融紡糸可能な温度範囲を広くするため好ましくは200〜380℃であり、より好ましくは250〜350℃であり、さらに好ましくは290〜340℃である。なおTm0は実施例記載の手法により求められる値とする。
【0024】
なお本発明で用いる液晶ポリエステルには上記構造単位以外に3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロロハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオールおよびp−アミノフェノールなどを本発明の効果を損なわない範囲で共重合させても良い。
【0025】
また本発明の効果を損なわない範囲で他のポリマーを添加、併用することができる。添加、併用とは、ポリマー同士を混合する場合や、2成分以上の複合紡糸において一方の成分、乃至は複数の成分に他のポリマーを部分的に混合使用すること、あるいは全面的に使用することをいう。他のポリマーとしては、ポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレンなどのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などのポリマーを添加しても良く、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエステル99Mなどが好適な例として挙げられる。なおこれらのポリマーを添加する場合、その融点は液晶ポリエステルの融点±30℃以内にすることが製糸性を損なわないために好ましく、また、得られる繊維の強度、弾性率を向上させるためには添加、併用する量は40重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、実質的に他のポリマーを添加、併用しないことが最も好ましい。
【0026】
さらに本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の各種添加剤を少量含有しても良い。
【0027】
本発明で用いる液晶ポリエステルの溶融粘度は融点(Tm0)+10℃、剪断速度1000/sの条件において1〜100Pa・sであることが製糸安定性の向上の観点から好ましく、5〜30Pa・sであることが紡糸速度を高める上でより好ましい。
【0028】
溶融紡糸において、液晶ポリエステルの溶融押出は公知の手法を用いることができるが、重合時に生成する秩序構造をなくすためにエクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマーは配管を経由しギアーポンプなど公知の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、口金へと導かれる。このときポリマー配管から口金までの温度(紡糸温度)は液晶ポリエステルの融点以上、熱分解温度とすることが好ましく、液晶ポリエステルの融点(Tm0)+10℃以上、400℃以下とすることがより好ましく、液晶ポリエステルの融点(Tm0)+20℃以上、370℃以下とすることがさらに好ましい。なお、ポリマー配管から口金までの温度をそれぞれ独立して調整することも可能である。この場合、口金に近い部位の温度をその上流側の温度より高くすることで吐出が安定する。
【0029】
本発明の液晶ポリエステル繊維を得るには、前述した構成単位からなる液晶ポリエステルポリマーを用い、細繊度、低繊度変動率の繊維を得るための紡糸条件の適正化が重要である。前述した構成単位からなる液晶ポリエステルポリマーは、融点と熱分解温度の温度差が大きいため幅広い紡糸温度にて紡糸可能であり、その紡糸温度における熱安定性も高いため製糸性が良好であり、さらに流動性も高く吐出後のポリマーの細化挙動が安定するため繊度変動が少ないため細繊度、低繊度変動率の繊維を得るには有利である。しかし総繊度の細い繊維を均一に得るためには、さらに吐出時の安定性、細化挙動の安定性を高める必要があり、工業的な溶融紡糸ではエネルギーコストの低減、生産性向上のため1つの口金に多数の口金孔を穿孔するため、それぞれの孔の吐出、細化を安定させる必要がある。
【0030】
これを達成するためには口金孔の孔径を小さくするとともに、ランド長(口金孔の孔径と同一の直管部の長さ)を長くすることが重要である。ただし孔径が過度に小さいと孔の詰まりが発生しやすくなるため直径0.03mm以上、0.30mm以下が好ましく、0.05mm以上、0.25mm以下がより好ましく、0.08mm以上、0.20mm以下がさらに好ましい。ランド長は過度に長いと圧力損失が高くなるため、ランド長を孔径で除した商で定義されるL/Dが0.5以上、3.0以下が好ましく0.8以上、2.5以下がより好ましく、1.0以上、2.0以下がさらに好ましい。また均一性を維持するために1つの口金の孔数は50孔以下が好ましく、40孔以下がより好ましく、20孔以下がさらに好ましい。なお、口金孔の直上に位置する導入孔は直径が口金孔径の5倍以上のストレート孔とすることが圧力損失を高めない点で好ましい。導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとすることが異常滞留を抑制する上で好ましいが、テーパー部分の長さはランド長の2倍以下とすることが圧力損失を高めず、流線を安定させる上で好ましい。
【0031】
口金孔より吐出されたポリマーは保温、冷却領域を通過させ固化させた後、一定速度で回転するローラー(ゴデットローラー)により引き取られる。保温領域は過度に長いと製糸性が悪くなるため口金面から200mmまでとすることが好ましく、100mmまでとすることがより好ましい。保温領域は加熱手段を用いて雰囲気温度を高めることも可能であり、その温度範囲は100℃以上、500℃以下が製糸性向上の点から好ましく、200℃以上、400℃以下がさらに好ましい。冷却は不活性ガス、空気、水蒸気等を用いることができるが、平行あるいは環状の空気流を用いることが環境負荷を低くする点から好ましい。
【0032】
引き取り速度は生産性、単糸繊度の低減のため50m/分以上が好ましく、300m/分以上がより好ましく、500m/分以上がさらに好ましい。本発明に用いる液晶ポリエステルは紡糸温度において好適な曳糸性を有することから引き取り速度を高速にできる。上限は特に制限されないが、本発明に用いる液晶ポリエステルにおいては曳糸性の点から2000m/分程度となる。
【0033】
引き取り速度を吐出線速度で除した商で定義される紡糸ドラフトは製糸安定性のため1以上、500以下とすることが好ましく、5以上、200以下とすることがより好ましく、12以上、100以下とすることがさらに好ましい。本発明に用いる液晶ポリエステルは好適な曳糸性を有することからドラフトを高くでき、細繊度化に有利である。
【0034】
溶融紡糸においてはポリマーの冷却固化から巻き取りまでの間に油剤を付与することが繊維の取り扱い性を向上させる上で好ましい。油剤は公知のものを使用できるが、高温での固相重合に耐え得るポリシロキサン系のシリコーンオイルなどを主体とした油剤を用いることがより好ましい。
【0035】
巻き取りは公知の巻き取り機を用いパーン、チーズ、コーンなどの形態のパッケージとすることができるが、巻き取り時にパッケージ表面にローラが接触しないパーン巻きとすることが好ましく、トラバースはスピンドルトラバースが好ましい。
【0036】
本発明の繊維の総繊度は1dtex以上、500dtex以下である。総繊度をこのように細い範囲とすることで織物としての厚みを薄くできるなどの利点が生じる他、スクリーン印刷用紗織物ではハイメッシュ高オープニングエリア化が可能となり印刷精度が向上できる。総繊度は細い方がこの利点は大きく、100dtex以下がより好ましく、50dtex以下がより好ましい。
【0037】
本発明の繊維は幅広いフィラメント数とすることができる。フィラメント数の上限は特にないが、総繊度を低減させつつ安定した紡糸を行うためにはフィラメント数100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。特にフィラメント数が1であるモノフィラメントは細繊度および強力の均一性が強く望まれる分野であるため本発明の手法は特に好適に用いることができる。したがって本発明の手法の最も好適な例は50dtex以下のモノフィラメント、さらには18dtex以下のモノフィラメントである。
【0038】
次に、本発明の溶融紡糸で得られた繊維は熱処理されるが、熱処理とは、溶融紡糸繊維の融点をTm1(℃)とした場合、最高到達温度がTm1−60(℃)以上となるような温度で処理することである。これにより繊維の固相重合が速やかに進行し、繊維の強度を向上させることができる。なお最高到達温度はTm1(℃)未満とすることが融着防止のために好ましい。また固相重合の進行と共に液晶ポリエステル繊維の融点は上昇するため、固相重合温度は順次高めることができる。なお固相重合温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができ、より好ましい。ただしこの場合においても固相重合での最高到達温度は熱処理後の繊維のTm1−60(℃)以上Tm1(℃)未満とすることが固相重合速度を高めかつ融着を防止できる点から好ましい。
【0039】
また、本熱処理は、熱処理後の繊維の吸熱ピークにおける融解熱量(ΔHm2)が、溶融紡糸繊維の吸熱ピークにおける融解熱量(ΔHm1)に対して2.0倍以上となる処理であることが好ましい。これによって、繊維の結晶化度を十分に高くすることができ、高強度、高弾性率の繊維が得られる。ただし過度に結晶化度が高いと繊維の靭性が損なわれ加工性が悪化する傾向があり、ΔHm2の好ましい範囲はΔHm1に対し2.0倍以上、15.0倍以下、より好ましくは2.5倍以上、10.0倍以下である。このための固相重合時間は、固相重合温度にもよるが、△Hm2を十分に高くするためには最高到達温度で5時間以上とすることが好ましく、10時間以上がとすることがより好ましい。上限は特に制限されないが△Hm2増加の効果は経過時間と共に飽和するため50時間程度で十分である。
【0040】
また、熱処理後の繊維の融解熱量(ΔHm2)は、高い強度、弾性率を得るために、1.0J/g以上が好ましく、3.0J/g以上がより好ましく、5.0J/g以上がさらに好ましい。
【0041】
このような熱処理に際して、その設備生産性、生産効率性の観点から、本発明では液晶ポリエステル溶融紡糸繊維を、巻き密度が0.01g/cc以上、0.30g/cc未満の繊維パッケージとしてボビン上に形成し、これを熱処理する。また、本発明は取扱いの可能な総繊度1dtex以上、融着による悪影響の大きい総繊度500dtex以下の繊維に適用されるものである。
【0042】
融着防止のためには固相重合を行う際の繊維パッケージの巻き密度が重要であり、巻き崩れを防ぐために巻き密度を0.01g/cc以上とし、かつ融着を回避するためには巻き密度を0.30g/cc未満とする。ここで巻き密度とは、繊維パッケージの占有体積(Vf、cc)と繊維の重量(Wf、g)からWf/Vfにより計算される値である。なお占有体積Vfはパッケージの外形寸法を実測するか、写真を撮影し写真上で外形寸法を測定し、パッケージが回転対称であることを仮定し計算することで求められる値であり、Wfは繊度と巻取長から計算される値、もしくは巻取前後での重量差により実測される値である。巻き密度が小さいほどパッケージにおける繊維間の密着力が弱まり融着が抑制できるため、0.15g/cc以下が好ましく、巻き密度が過度に小さいとパッケージが巻き崩れるため0.03g/cc以上とすることが好ましい。したがって好ましい範囲は、0.03g/cc以上、0.15g/cc以下である。
【0043】
このような巻き密度が小さいパッケージは溶融紡糸における巻き取りで形成した場合には、設備生産性、生産効率化が向上するために望ましく、一方、溶融紡糸で巻き取ったパッケージを巻き返して形成した場合には、巻き張力を小さくすることができ、巻き密度をより小さくできるため好ましい。巻き密度を0.30g/cc以下とするためには、巻き張力を小さくすることが重要であり、巻き張力は0.10cN/dtex以下が好ましく、0.05cN/dtex以下がより好ましい。巻き密度を低くするためにはパッケージ形状を整え巻き取り張力を安定化させるために通常用いられるコンタクトローラ等を用いず、繊維パッケージ表面を非接触の状態で巻き取ることや、溶融紡糸で巻き取られたパッケージから調速ローラを介せず直接、速度制御された巻取機で巻き取ることも有効である。これらの場合、パッケージ形状を整えるためにはトラバースガイドと繊維の接点から繊維パッケージまでの距離(フリーレングス)を10mm以内とする方法が好ましく用いられる。さらに、巻き返し速度を500m/分以下、特に300m/分以下とすることも巻き密度を低くするために有効である。一方、巻き返し速度は生産性のためには高い方が有利であり、50m/分以上、特に100m/分以上とすることが好ましい。
【0044】
また、端面部の融着を回避し安定したパッケージを形成するためにはパッケージの両端にテーパーがついたテーパーエンド巻取とすることが好ましい。この際、テーパー角は60°以下が好ましく、45°以下がより好ましい。またテーパー角が小さい場合、繊維パッケージを大きくすることができず長尺の繊維が必要な場合には5°以上が好ましく、10°以上がより好ましい。さらに巻き取りにおいてはトラバース幅を時間に対し周期的に揺動させることでも、取り扱い、解舒性に優れるパッケージが得られる。
【0045】
さらにパッケージ形成にはワインド数も重要である。ここで言うワインド数とはトラバースが半往復する間のスピンドル回転数で定義され、ワインド数が高いことは綾角が小さいことを示す。ワインド数は小さい方が繊維間の接触面積が小さく融着回避には有利であるが、本発明で好適な巻取条件となる低張力、コンタクトロールなしなどの条件下においてはワインド数が高いほど端面での綾落ち、パッケージの膨らみが軽減でき、パッケージ形状が良好となる。これらの点からワインド数は2以上20以下が好ましく、5以上15以下がより好ましい。
【0046】
該繊維パッケージを形成するために用いられるボビンは円筒形状のものであればいかなるものでも良く、繊維パッケージとして巻き取る際に巻取機に取り付けこれを回転させることで繊維を巻き取り、パッケージを形成する。熱処理に際しては繊維パッケージをボビンと一体で処理することもできるが、繊維パッケージからボビンのみを抜き取って処理することもできる。ボビンに巻いたまま処理する場合、該ボビンは熱処理温度に耐える必要があり、アルミや真鍮、鉄、ステンレスなどの金属製であることが好ましい。またこの場合、ボビンには多数の穴の空いていることが、重合反応副生物を速やかに除去でき熱処理を効率的に行えるため好ましい。また繊維パッケージからボビンを抜き取って処理する場合には、ボビン外層に外皮を装着しておくことが好ましい。また、いずれの場合にもボビンの外層にはクッション材を巻き付け、その上に液晶ポリエステル溶融紡糸繊維を巻き取っていくことが好ましい。クッション材の材質は、有機繊維または金属繊維からなるフェルトが好ましく、厚みは0.1mm以上、20mm以下が好ましい。前述の外皮を該クッション材で代用することもできる。
【0047】
該繊維パッケージの繊維重量は巻き密度が本発明の範囲内となるものであればいかなる重量でも良いが、生産性を考慮すると0.01kg以上、10kg以下が好ましい範囲である。なお、糸長としては1万m以上200万m以下が好ましい範囲である。
【0048】
固相重合時の融着を防ぐため、繊維表面に油分を付着させることは好ましい実施形態である。これら成分の付着は溶融紡糸から巻き取りまでの間に行っても良いが、付着効率を高めるためには巻き返しの際に行う、あるいは溶融紡糸で少量を付着させ、巻き返しの際にさらに追加することが好ましい。
【0049】
油分付着方法はガイド給油法でも良いが、総繊度の細い繊維に均一に付着させるためには金属製あるいはセラミック製のキスロール(オイリングロール)による付着が好ましい。油分の成分としては固相重合での高温熱処理で揮発させないため耐熱性が高い方が良く、塩やタルク、スメクタイトなどの無機物質、シロキサン系化合物(ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、メチルフェニルシロキサン)およびこれらの混合物などが好ましい。中でもシロキサン系化合物は固重での融着防止効果に加え、易滑性にも効果を示すため特に好ましい。
【0050】
これらの成分は固体付着、油分の直接塗布でも構わないが付着量を適正化しつつ均一塗布するためにはエマルジョン塗布が好ましく、安全性の点から水エマルジョンが特に好ましい。したがって成分としては水溶性あるいは水エマルジョンを形成しやすいことが望ましく、ジメチルシロキサンの水エマルジョンを主体とし、これに塩や水膨潤性のスメクタイトを添加した混合油剤が最も好ましい。
【0051】
繊維への油分の付着量は融着抑制のためには多い方が好ましいが、多すぎると繊維がべたつきハンドリングを悪化させる他、後工程で工程通過性を悪化させるため0.5wt%以上8.0wt%以下が好ましく、1.0wt%以上5.0wt%以下が特に好ましい。なお、繊維への油分付着量は100mg以上の繊維を採取し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量を測定し(W0)、繊維重量に対し100倍以上の水に界面活性剤を0.1wt%添加した洗浄液を用いて繊維を20分超音波洗浄し、洗浄後の繊維を水洗し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量を測定し(W1)、(W0−W1)×100/W1により求められる値を指す。
【0052】
固相重合は窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気のような酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能であるが、設備の簡素化および繊維あるいは付着物の酸化防止のため窒素雰囲気下で行うことが好ましい。この際、固相重合の雰囲気は露点が−40℃以下の低湿気体が好ましい。
【0053】
固相重合後のパッケージはそのまま製品として供することもできるが、製品運搬効率を高めるために固相重合後のパッケージを再度巻き返して巻き密度を高めることが好ましい。固相重合後の巻き返しにおいてはその解舒が重要であり、解舒による固相重合パッケージの崩れを防ぎ、さらに軽微な融着を剥がす際のフィブリル化を抑制するために固相重合パッケージを回転させながら、回転軸と垂直方向(繊維周回方向)に糸を解舒する、いわゆる横取りにより解舒することが好ましく、さらに固相重合パッケージの回転は自由回転ではなく積極駆動により回転させることが好ましい。
【0054】
本発明で得られる液晶ポリエステル繊維は、その強度が17.0cN/dtex以上の高強度繊維となることが好ましく、20.0cN/dtex以上がより好ましく、25.0cN/dtex以上がさらに好ましい。また弾性率は600cN/dtexとなることが好ましく、750cN/dtex以上がより好ましく、900cN/dtex以上となることがさらに好ましい。強度、弾性率の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては強度30cN/dtex、弾性率1500cN/dtex程度である。
【0055】
また本発明で得られる繊維の強力変動率は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、強力変動率が20%以下であることで長手方向の均一性が高まり、繊維の強力(強度と繊度の積)変動も小さくなるため、繊維製品の欠陥が減少する他、低強度部分に起因する加工工程での糸切れなどのトラブルが抑制できる。
【0056】
本発明の液晶ポリエステル繊維は高強度・高弾性率の特徴を保持しながら、従来の液晶ポリエステル繊維に比べ耐摩耗性が改善されたものであり、一般産業用資材、土木・建築資材、スポーツ用途、防護衣、ゴム補強資材、電気材料(特に、テンションメンバーとして)、音響材料、一般衣料等の分野で広く用いられる。有効な用途としては、スクリーン紗、コンピューターリボン、プリント基板用基布、抄紙用のカンバス、エアーバッグ、飛行船、ドーム用等の基布、ライダースーツ、釣糸、各種ライン(ヨット、パラグライダー、気球、凧糸)、ブラインドコード、網戸用支持コード、自動車や航空機内各種コード、電気製品やロボットの力伝達コード等が挙げられ、特に有効な用途として工業資材用織物、融着に起因する欠陥がないこと、および強度の均一性が強く要求されるスクリーン印刷用の紗織物に用いるモノフィラメントが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、本発明の各種特性の評価は次の方法で行った。
(1)Tm0、Tm1、ΔHm1、Tm2、ΔHm2
TA instruments社製DSC2920により示差熱量測定を行い、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される溶融紡糸繊維の吸熱ピークの温度をTm1(℃)とし、Tm1における融解熱量(ΔHm1)(J/g)を測定した。同様に溶融紡糸に用いた樹脂の吸熱ピークの温度をTm0(℃)、熱処理後の繊維の吸熱ピークの温度をTm2(℃)とし、Tm2における融解熱量(ΔHm2)(J/g)を測定した。
(2)総繊度
検尺機にて繊維を100mカセ取りし、その重量(g)を100倍し、1水準当たり10回の測定を行い平均値を繊度(dtex)とした。
(3)巻き取り張力
東レ・エンジニアリング社製テンションメーター(MODEL TTM−101)を用いて測定した。また、極低張力用には上記テンションメーターを改造したフルスケール5g、精度0.01g測定可能な張力計を用いた。
(4)強度、伸度、弾性率および強力変動率
JIS L1013:1999記載の方法に準じて、試料長100mm、引張速度50mm/分の条件で、オリエンテック社製テンシロンUCT−100を用い1水準当たり10回の測定を行い、平均値を強力(cN)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、弾性率(cN/dtex)とした。強力とはJISL1013:1999記載の引張強さの測定における切断時の強さを指し、強力変動率は強力の10回の平均値からの最大もしくは最小値の差の絶対値のうち、いずれか大きい方の値を用いて下式により算出した。
強力変動率(%)=((|最大値もしくは最小値−平均値|/平均値)×100)
参考例1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1433重量部(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、330℃まで4時間で昇温した。
【0058】
重合温度を330℃に保持し、1.5時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0059】
この液晶性樹脂(参考例1)はp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(I)が54モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(II)が16モル%、ヒドロキノン由来の構造単位(III)が7モル%、テレフタル酸由来の構造単位(IV)が15モル%、イソフタル酸由来の構造単位(V)が8モル%からなり、融点は318℃であり、高化式フローテスターを用い、温度328℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が16Pa・sであった。
【0060】
参考例2
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に p−ヒドロキシ安息香酸907重量部と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸457重量部及び無水酢酸946重量部(フェノ−ル性水酸基合計の1.03モル当量)を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、325℃まで4時間で昇温した。
【0061】
重合温度を325℃に保持し、1.5時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0062】
この液晶性樹脂(参考例2)は、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(I)73モル%、6−ヒドロキシナフトエ酸由来の構造単位((I)〜(V)以外)27モル%からなり、融点は283℃であり、高化式フローテスターを用い、温度293℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が32Pa・sであった。
【0063】
実施例1
参考例1の液晶ポリエステルを用い、160℃、12時間の真空乾燥を行った後、大阪精機工作株式会社製φ15mm単軸エクストルーダーにて(ヒーター温度290〜340℃)溶融押し出しし、ギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。このときのエクストルーダー出から紡糸パックまでの紡糸温度は345℃とした。紡糸パックでは金属不織布フィルター(渡辺義一製作所社製WLF−10)を用いてポリマーを濾過し、孔径0.13mm、ランド長0.26mmの孔を5個有する口金より吐出量3.0g/分(単孔あたり0.6g/分)でポリマーを吐出した。
【0064】
吐出したポリマーは40mmの保温領域を通過させた後、環状冷却風により糸条の外側から冷却し固化させ、その後、ポリジメチルシロキサンを主成分とする油剤を付与し5フィラメントともに1200m/分の第1ゴデットロールに引き取った。このときの紡糸ドラフトは32である。これを同じ速度である第2ゴデットロールを介した後、5フィラメント中の4本はサクションガンにて吸引し、残り1本を、ダンサーアームを介しスピンドルトラバース型のパーンワインダー(巻取パッケージに接触するコンタクトロール無し)を用いてパーンの形状に巻き取った。約100分の巻取時間中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。
【0065】
この紡糸繊維は繊度5.0dtex、強度5.9cN/dtex、伸度1.3%、弾性率511cN/dtexであり、Tm1は298℃、△Hm1は2.9J/gであった。なお油分付着量は1.0重量%であった。
【0066】
この紡糸繊維パッケージから繊維を縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に解舒し、調速ローラを介さず、速度を一定とした巻取機(神津製作所社製ET−68S調速巻取機)にて100m/分で巻き返しを行った。なお、巻き返しの心材にはステンレス製の穴あきボビンにケブラーフェルト(目付280g/m2、厚み1.5mm)を巻いたものを用い、巻き返し時の張力は0.05cN/dtexとし、巻き量は2万mすなわち0.01kgとした。さらにパッケージ形態はテーパー角20°のテーパーエンド巻きとし、テーパー幅調整機構の改造によりトラバース幅を常に揺動させるようにし、コンタクトロールを用いず、またトラバースガイドと繊維の接点を繊維パッケージから5mmとした。なおワインド数は5.1とした。このようにして巻き上がったパッケージの巻き密度は0.08g/ccであった。
【0067】
これを密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で295℃まで昇温し、さらに295℃で15時間保持する条件にて固相重合を行った。なお雰囲気は除湿窒素を流量25NL/分にて供給し、庫内が加圧にならないよう排気口より排気させた。
【0068】
こうして得られた固相重合パッケージをインバーターモーターにより回転できる送り出し装置に取り付け、繊維を横方向(繊維周回方向)に500m/分で送り出しつつ解舒したが糸切れはなく解舒性良好であり、全量の巻き返しが可能であった。
【0069】
得られた液晶ポリエステル繊維の繊度は5.0dtex、強度26.5cN/dtex、強力変動率8%、伸度3.0%、弾性率1002cN/dtexであり、Tm2は332℃、△Hm2は8.4J/g、ΔHm2/ΔHm1は2.9であり、高い強度、弾性率と低い強力変動率を有していた。
【0070】
実施例2
溶融紡糸繊維の巻き返し時の張力を0.03cN/dtexとし繊維パッケージの巻き密度を0.03g/ccとする以外は実施例1と同様にして、固相重合繊維を得た。
【0071】
こうして得られた固相重合パッケージをインバーターモーターにより回転できる送り出し装置に取り付け、繊維を横方向(繊維周回方向)に500m/分で送り出しつつ解舒したところ糸切れは発生せず解舒性良好であり、全量の巻き返しが可能であった。
【0072】
得られた液晶ポリエステル繊維の繊度は5.0dtex、強度26.6cN/dtex、強力変動率8%、伸度3.0%、弾性率1012cN/dtexであり、Tm2は332℃、△Hm2は8.4J/g、ΔHm2/ΔHm1は2.9であり、高い強度、弾性率と低い強力変動率を有していた。
【0073】
実施例3
溶融紡糸繊維の巻き返し速度を500m/分、巻き返し時の張力を0.12cN/dtexとし繊維パッケージの巻き密度を0.25g/ccとする以外は実施例1と同様にして、固相重合繊維を得た。
【0074】
こうして得られた固相重合パッケージを実施例1と同様の手法で解舒しようとしたところ解舒速度500m/分では糸切れが発生したものの、解舒速度を50m/分まで低下させることで解舒性は良好となり全量の巻き返しが可能であった。
【0075】
得られた液晶ポリエステル繊維の繊度は5.0dtex、強度22.8cN/dtex、強力変動率18%、伸度2.6%、弾性率987cN/dtexであり、Tm2は332℃、△Hm2は8.4J/g、ΔHm2/ΔHm1は2.9であり、高い強度、弾性率と低い強力変動率を有していた。
【0076】
比較例1
溶融紡糸繊維の巻き返し速度を700m/分、巻き返し時の張力を0.14cN/dtexとし繊維パッケージの巻き密度を0.33g/ccとする以外は実施例1と同様にして、固相重合繊維を得た。
【0077】
こうして得られた固相重合パッケージをインバーターモーターにより回転できる送り出し装置に取り付け、繊維を横方向(繊維周回方向)に500m/分で送り出しつつ解舒したところ糸切れが発生し、50m/分としても融着に起因する糸切れが数分おきに発生し。実質的に解舒できなかった。
【0078】
得られた液晶ポリエステル繊維の繊度は5.0dtex、強度16.8cN/dtex、強力変動率27%、伸度1.9%、弾性率842cN/dtexであり、Tm2は332℃、△Hm2は8.4J/g、ΔHm2/ΔHm1は2.9であり、強度が低く、強力変動率も低いものであった。
【0079】
比較例2
溶融紡糸繊維の巻き返し速度を100m/分、巻き返し時の張力を0.11cN/dtexとしコンタクトローラを用いて繊維パッケージを形成し、その巻き密度を0.35g/ccとする以外は実施例1と同様にして、固相重合繊維を得た。
【0080】
こうして得られた固相重合パッケージをインバーターモーターにより回転できる送り出し装置に取り付け、繊維を横方向(繊維周回方向)に500m/分で送り出しつつ解舒したところ糸切れが発生し、50m/分としても融着に起因する糸切れが数分おきに発生し。実質的に解舒できなかった。
【0081】
得られた液晶ポリエステル繊維の繊度は5.0dtex、強度16.5cN/dtex、強力変動率30%、伸度1.8%、弾性率835cN/dtexであり、Tm2は332℃、△Hm2は8.4J/g、ΔHm2/ΔHm1は2.9であり、強度が低く、強力変動率も低いものであった。
【0082】
実施例4
参考例2の液晶ポリエステルを用い、紡糸温度を325℃、紡糸速度を600m/分とすること以外は実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行った。なおこのときの紡糸ドラフトは32である。製糸性は良好であり100分の巻取が可能であった。
【0083】
得られた紡糸繊維は繊度10.0dtex、強度8.4cN/dtex、伸度1.8%、弾性率501cN/dtexであり、Tm1は286℃、△Hm1は3.2J/gであった。なお油分付着量は1.0重量%であった。
【0084】
これを実施例1と同様の方法で巻き返したところ巻張力は0.05cN/dtexであり、巻き量0.02kg(2万m)、巻き密度0.08g/ccの繊維パッケージを得た。
【0085】
これを最終到達温度が285℃となること以外は実施例1と同様の方法で固相重合を行った。
【0086】
こうして得られた固相重合パッケージをインバーターモーターにより回転できる送り出し装置に取り付け、繊維を横方向(繊維周回方向)に500m/分で送り出しつつ解舒したところ糸切れは発生せず解舒性良好であり、全量の巻き返しが可能であった。
【0087】
得られた液晶ポリエステル繊維の繊度は10.0dtex、強度21.1cN/dtex、強力変動率11%、伸度3.1%、弾性率822cN/dtexであり、Tm1は286℃、△Hm1は3.2J/g、Tm2は321℃、△Hm2は9.4J/g、ΔHm2/ΔHm1は2.9であり、高い強度、弾性率と低い強力変動率を有していた。
【0088】
実施例5
孔径0.13mm、ランド長0.26mmの孔を24個有する口金より吐出量12.0g/分(単孔あたり0.5g/分)でポリマーを吐出し、24本を1糸条とするマルチフィラメントを1200m/分で1対のゴデットロールで引き取り、そのまま巻取ること以外は実施例1と同様の手法で溶融紡糸を行った。なおこのときの紡糸ドラフトは38である。約100分の巻取時間中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。
【0089】
この紡糸繊維は繊度100.0dtex、強度5.5cN/dtex、伸度1.1%、弾性率464cN/dtexであり、Tm1は298℃、△Hm1は2.9J/gであった。なお油分付着量は1.0重量%であった。
【0090】
この紡糸繊維を用い、巻き返し時の張力を0.14cN/dtex、巻き量を10万m、テーパー角を5°のテーパーエンド巻きとし、トラバース折り返し位置を3回に1回、両端で2mm短くする端面崩しとし、ワインド数を2.3とすること以外は実施例1と同様の手法で巻き返しを行った。このようにして巻き上がったパッケージの巻き密度は0.28g/ccであった。
【0091】
これを実施例1と同様にして固相重合を行った。こうして得られた固相重合パッケージを実施例1と同様の手法で解舒しようとしたところ解舒速度500m/分では糸切れが発生したものの、解舒速度を100m/分まで低下させることで解舒性は良好となり全量の巻き返しが可能であった。
【0092】
得られた液晶ポリエステル繊維の繊度は100.0dtex、強度21.5cN/dtex、強力変動率6%、伸度2.8%、弾性率860cN/dtexであり、Tm2は335℃、△Hm2は8.5J/g、ΔHm2/ΔHm1は2.9であり、高い強度、弾性率と低い強力変動率を有していた。
【0093】
比較例3
実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行った。この際、溶融紡糸での巻取ボビンをステンレス製穴あきボビンとし、これに直接巻き取った。この際の巻取張力は0.18cN/dtex、巻き量は0.01kg(2万m)、パッケージの巻き密度は0.90g/ccであった。なお油分付着量は1.0重量%であった。この紡糸パッケージを巻き返すことなく、そのまま実施例1と同様の方法で固相重合を行った。これを実施例1と同様に解舒しようとしたが、繊維の融着が著しく解舒は不能であった。このため極少量得られた繊維を用いて繊維物性を評価した。なお固相重合後の繊度は、繊維が連続糸としてカセ取りできず評価不能であったため、強度、弾性率の計算には紡糸繊維の繊度を用いた。繊度は5.0dtex、強度13.8cN/dtex、強力変動率32%、伸度1.6%、弾性率783cN/dtexであり、強度が低く、強力変動率も大きいものであった。
【0094】
実施例6
孔径が0.10mm、L/Dが2.0の吐出孔を10孔有する口金を用い、吐出量を2.5g/分(単孔あたり0.25g/分)とし、口金下に100mmの保温領域を設け、第1ゴデットロール速度を1000m/分とすること以外は実施例1と同様の手法で溶融紡糸を行った。なおこのときの紡糸ドラフトは43である。約100分の巻取時間中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。
【0095】
得られた紡糸繊維を用い、テーパー角を60°、ワインド数を14.8、巻き返し速度を50m/分とし、さらにポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製SH200)が4.0重量%、親水性スメクタイト(コープケミカル社製「ルーセンタイト(登録商標)SWN」)が0.2重量%の水エマルジョンを油剤とし、巻取機前で梨地仕上げのステンレスロールを用い給油を行い、巻量を0.01kg(4万m)とすること以外は実施例1と同様の手法で巻き返しを行った。このときの巻き張力は0.13cN/dtexであり巻密度は0.26g/ccであった。なお油分付着量は7.8wt%であった。
【0096】
これを実施例1と同様の手法で固相重合を行った。こうして得られた固相重合パッケージを実施例1と同様の手法で解舒しようとしたところ解舒速度500m/分では糸切れが発生したものの、解舒速度を50m/分まで低下させることで解舒性は良好となり全量の巻き返しが可能であった。ただし解舒工程途中のガイドには油剤残分が多く付着しており、さらに巻量が増えた場合には工程通過性が阻害されることが懸念された。
【0097】
得られた液晶ポリエステル繊維の繊度は2.6dtex、強度22.4cN/dtex、強力変動率14%、伸度2.3%、弾性率1084cN/dtexであり、Tm2は336℃、△Hm2は8.6J/g、ΔHm2/ΔHm1は3.0であり、高い強度、弾性率と低い強力変動率を有していた。
【0098】
実施例7
吐出量を5.0g/分(単孔あたり0.5g/分)とすること以外は実施例6と同様の手法で溶融紡糸を行った。なおこのときの紡糸ドラフトは22である。約200分の巻取時間中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。
【0099】
得られた紡糸繊維を用い、テーパー角を45°、ワインド数を9.1、巻き返し速度を200m/分とし、さらにポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製SH200)が5.0重量%の水エマルジョンを油剤とし、巻取機前で梨地仕上げのステンレスロールを用い給油を行い、巻量を0.05kg(10万m)とすること以外は実施例1と同様の手法で巻き返しを行った。このときの巻き張力は0.10cN/dtexであり巻密度は0.14g/ccであった。なお油分付着量は4.4wt%であった。
【0100】
これを実施例1と同様の手法で固相重合を行った。こうして得られた固相重合パッケージを実施例1と同様の手法で解舒しようとしたところ解舒速度500m/分では糸切れが発生したものの、解舒速度を200m/分では解舒性は良好であり全量の巻き返しが可能であった。
【0101】
得られた液晶ポリエステル繊維の繊度は5.0dtex、強度25.8cN/dtex、強力変動率7%、伸度2.7%、弾性率1025cN/dtexであり、Tm2は334℃、△Hm2は8.3J/g、ΔHm2/ΔHm1は2.9であり、高い強度、弾性率と低い強力変動率を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融紡糸した総繊度が1dtex以上、500dtex以下の液晶ポリエステル溶融紡糸繊維を、巻き密度が0.01g/cc以上、0.30g/cc未満の繊維パッケージとしてボビン上に形成し、該パッケージを熱処理することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項2】
パッケージの繊維重量が0.01kg以上、10kg以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
該パッケージに巻き取られる該溶融紡糸繊維の総繊度が1dtex以上、100dtex以下であることを特徴とする請求項1または2記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項4】
該パッケージに巻き取られる該溶融紡糸繊維がモノフィラメントであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。