説明

液晶ポリマー材料からなる物品の表面改質方法および表面被覆方法

【課題】金属との密着性が高く、かつ、表面平滑性のある金属薄膜を形成することができる、液晶ポリマー材料からなる物品の表面改質方法を提供すること。
【解決手段】液晶ポリマー材料からなる物品の表面にイオン照射することを含む、液晶ポリマー材料からなる物品の表面改質方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー材料からなる物品の表面改質方法、および、該表面改質方法により表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面を、導体薄膜により被覆する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマー材料は、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れているため、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。特にパーソナル・コンピューターや携帯電話等の情報・通信分野においては、部品の高集積度化、小型化、薄肉化、低背化等が急速に進んでおり0.5mm以下の非常に薄い肉厚部が形成されるケースが多く、液晶ポリマー材料の優れた成形性、すなわち、流動性が良好であり、かつバリが出ないという他の樹脂にない特徴を活かして、その使用量が大幅に増大している。
【0003】
かかる液晶ポリマー材料からなる液晶ポリマーフィルムは、高周波領域(GHz帯)での電機特性(低誘電率、低誘電損失)に優れ、回路での電送損失が少ないなどの特徴から、フレキシブルプリント配線(FPC)基材等の材料として注目されている。
【0004】
このように液晶ポリマー材料は、多くの電気電子部品の小型化に寄与している。かかる電気電子部品は、回路パターンや電磁波シールドなどに導電性を付与するために、フィルムまたは成形品の表面に直接金属膜を密着させる必要がある。しかし、液晶ポリマー材料は、金属薄膜との密着性が低く、電気電子部品として十分な品質を確保しにくいものであった。
【0005】
このような、液晶ポリマー材料と金属薄膜との密着性の問題を改善するために、従来、液晶ポリマー材料表面をエッチングなどの方法により粗面化したり、液晶ポリマー材料表面に種々のプラズマ処理を行うことにより、その表面を改質した後に、金属薄膜を形成する方法がとられていた(特許文献1〜3および非特許文献1を参照)。
【0006】
たとえば、特許文献1には、液晶性ポリエステルの表面をエッチング処理した後に、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着のいずれかの方法により表面金属被覆処理することが開示されている。この方法は、液晶性ポリエステルの表面を粗面化し、粗面の凹凸に対する機械的アンカー効果に基づいて密着力を得ようとするものである。しかし、この方法では得られる成形体の表面の粗度が高すぎ、成形体表面に形成する回路の精密細線化が困難になるという問題があった。
【0007】
また特許文献2には、半芳香族液晶性ポリエステル成形品の表面にプラズマ処理を施した後、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングのいずれかの方法にて金属膜を形成する方法が開示されている。しかしこの方法によると、成形品の表面と金属膜との密着強度は改善されるものの実用上十分な強度とはいえず、未だ改良の余地があるものである。
【0008】
さらに特許文献3には、液晶ポリマーフィルム表面に酸素ガス圧力0.6〜2.5Pa雰囲気下で放電プラズマ処理を施した後、スパッタリング法により金属シード層を形成する方法が開示されている。また、非特許文献1には、液晶ポリマーフィルム表面を各種プラズマにより処理し、フィルム表面の水接触角を38〜60°程度に改質(親水化)することにより、液晶ポリマーフィルム表面と銅薄膜との密着強度を改善する方法が開示されている。しかし、いずれの方法においても、液晶ポリマーフィルムと金属薄膜の密着強度は実用上十分なものとはいえなかった。
【0009】
このように、金属薄膜との密着性が高く、精密細線回路を形成するのに十分に表面の平滑性が良好である、液晶ポリマー材料からなる物品の表面を得るための技術は未だ見出されていない。
【特許文献1】特公平7−24328号公報
【特許文献2】特開2003−268089号公報
【特許文献3】特開2005−297405号公報
【非特許文献1】N.Inagaki,Yong Woo Park,kazuo Narushim ,K Miyazaki,J.Adhes.Sci.Technol.,Vol.18,No.12,pp1427〜1447(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、金属などの導体薄膜との密着性に優れ、かつ、表面平滑性に優れた導体薄膜を形成するのに好適な表面を得るための、液晶ポリマー材料からなる物品の表面改質方法を提供することにある。
【0011】
さらに本発明の目的は、表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面を、密着性および表面平滑性に優れた導体薄膜により被覆するための、液晶ポリマー材料からなる物品の表面被覆方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、液晶ポリマー材料からなる物品の表面にイオン照射することにより、該表面が高度に親水化されることを見出した。また、イオン照射により表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面に導体薄膜を形成させることにより、密着性に優れ、かつ表面平滑性に優れた導体薄膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、液晶ポリマー材料からなる物品の表面にイオン照射することを含む、液晶ポリマー材料からなる物品の表面改質方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、液晶ポリマー材料からなる物品の表面にイオン照射することにより、液晶ポリマー材料からなる物品の表面を改質する工程、および、表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面の一部または全部に導体薄膜を形成する工程、を含む液晶ポリマー材料からなる物品の表面被覆方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書および特許請求の範囲において、「液晶ポリマー」とは、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0016】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0017】
本明細書および特許請求の範囲において、「液晶ポリマー材料」とは、前記液晶ポリマーのみからなる材料(以下、単に「液晶ポリマー」と称することもある)のみならず、前記液晶ポリマーに、後述する添加剤、液晶ポリマー以外のその他の樹脂成分、および充填剤を所望により配合して得られる、液晶ポリマーを含む組成物(以下、単に「液晶ポリマー組成物」とも称する)も含む意味である。
【0018】
液晶ポリマー材料が、液晶ポリマー以外に、添加剤、その他の樹脂成分、および充填剤の少なくともいずれかを含む場合の、液晶ポリマー以外の物質の含有量は、液晶ポリマー100重量部に対して、200重量部までを用いるのがよく、150重量部までを用いるのがさらによく、100重量部までを用いるのが最もよい。
【0019】
以下、本発明の方法に用いる、液晶ポリマー材料について説明する。
【0020】
本発明に用いる液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。
【0021】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマーは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0022】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばパラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸、3’−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸、4’−ヒドロキシビフェニル−3−カルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではパラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリマーの特性や融点を調整しやすいという点から好ましい。
【0023】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0024】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0025】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0026】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0027】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0028】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0029】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ジアミン、ヒドロキシ芳香族ジカルボン酸およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0030】
本発明に用いる液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0031】
以上、本発明において用いる液晶ポリマーに含まれる繰返し単位とそれを与える単量体について説明したが、本発明において用いる液晶ポリマーは、芳香族オキシカルボニル繰返し単位である、4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰り返し単位を含むものを用いるのがより好ましい。
【0032】
4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰り返し単位を含む液晶ポリマーのなかでも、好ましいものとしては、例えば下記のモノマー構成単位から得られる共重合体が挙げられる。
【0033】
1)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸共重合体
2)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
7)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
8)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
10)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
11)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
12)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
13)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
15)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
16)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
17)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
18)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル /4−アミノフェノール共重合体
19)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
20)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
21)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
22)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体。
【0034】
以下、本発明において、イオン照射の対象物となる種々の物品の成形材料として用いる液晶ポリマー材料、即ち、液晶ポリマーおよび、液晶ポリマーにその他の成分を加えた液晶ポリマー組成物の製造方法について説明する。
まず、本発明に用いる液晶ポリマー材料の必須成分である液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0035】
本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0036】
溶融アシドリシス法とは、本発明で用いる液晶ポリマーの製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0037】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0038】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0039】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0040】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0041】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0042】
触媒の使用割合は、通常、単量体に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0043】
このようにして重縮合反応され得られた液晶ポリマーは、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0044】
得られた、ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリマーは、分子量を高め耐熱性を向上させる目的などで、減圧下または不活性ガス雰囲気下において、実質的に固相状態において熱処理を行ってもよい。
【0045】
固相状態でおこなう熱処理を行う場合の処理温度は、液晶ポリマーが溶融しない限り特に限定されないが、260〜350℃、好ましくは280〜320℃で行うのがよい。
【0046】
なお、本発明に用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定した結晶融解温度(Tm)が280℃〜360℃であるものが好ましい。
〔結晶融解温度測定方法〕
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメンツ株式会社製Exstar600を用いる。
試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観察される吸熱ピーク温度(Tm1)の測定語、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、さらに、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を結晶融解温度(Tm)とする。
【0047】
このようにして得られた液晶ポリマーは、そのまま、あるいは、各種の添加剤、他の樹脂成分、および充填材からなる群より選ばれる1種以上の成分を配合された液晶ポリマー組成物とした後に、種々の物品の成形材料として用いられる。
【0048】
次に、上記液晶ポリマーに対して、各種の添加剤、他の樹脂成分、および充填材からなる群より選ばれる1種以上の成分を配合された液晶ポリマー組成物について説明する。
【0049】
本発明に用いる液晶ポリマーに対して、本発明の目的を損なわない範囲でさらに、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などから選択される1種以上の添加剤を組み合わせて添加してもよい。
【0050】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、成形に際して予め、液晶ポリマーのペレットの表面に付着せしめてもよい。
ここで、高級脂肪酸とは炭素原子数10〜25のものをいう。
【0051】
これらの添加剤の配合量は、液晶ポリマー100重量部に対して、0.05〜1重量部が好ましく、0.1〜0.5重量部が特に好ましい。
【0052】
また、本発明に用いる液晶ポリマーに対して、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の樹脂成分、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂や、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂などから選択される1種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0053】
これらの液晶ポリマーの他の樹脂成分の配合量は、液晶ポリマー100重量部に対して、200重量部までの量を用いるのが好ましく、100重量部までの量を用いるのが特に好ましい。
【0054】
本発明において用いる液晶ポリマー材料としては、液晶ポリマーに対して、充填材を配合したものを用いるのが好ましい。液晶ポリマーに配合する充填材の形態は、本発明の目的を損なわない範囲で特に限定されないが、繊維状、板状および粉状の充填材から選択される1種以上の充填材を使用するのが好ましい。
【0055】
繊維状の充填材としては、例えばガラス繊維、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、およびウォラストナイトなどが挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。板状または粉状の充填材としては、例えばタルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。
【0056】
本発明において、充填材の配合量は、通常、液晶ポリマー100重量部に対し0〜200重量部が好ましく、20〜100重量部がより好ましい。
【0057】
前記の充填材の配合量が200重量部を越える場合には、成型加工性が低下したり、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる傾向がある。
【0058】
本発明において、イオン照射の対象となる液晶ポリマー材料からなる物品の形状は特に制限されない。また、イオン照射の対象となる物品は、液晶ポリマー材料からなる物品が含まれていれば、ガラス、セラミック、または他の樹脂材料などにより構成される物品との複合物品であってもかまわない。
【0059】
本発明において、イオン照射の対象となる物品の形状のうち特に好ましいものは、フィルムまたはシート形状である。本発明において使用する液晶ポリマー材料からなるフィルムまたはシートは、当業者に周知の、押出成形法、Tダイ法、ラミネート延伸法、インフレーション法等により製造することが出来る。
【0060】
これらのフィルムまたはシートの製造方法の中では、得られるフィルムまたはシートの縦方向と横方向の熱膨張率の差が小さく、機械的性質および熱的性質のバランスに優れることから、インフレーション法、またはラミネート延伸法がより好ましい。
【0061】
本発明においてイオン照射の対象物品として液晶ポリマー材料からなるフィルムまたはシートを使用する場合には、フィルムまたはシートは任意の厚みであってよいが、厚さ20μm〜1mmのものがより好ましく、厚さ20〜150μmのものが特に好ましく、厚さ20〜50μmのものが最も好ましい。
【0062】
液晶ポリマー材料からなるフィルムまたはシートの厚さが20μmよりも薄い場合は、フィルムまたはシートの剛性や強度が小さくなるため、得られる液晶ポリマー材料からなる配線基板に電子部品を実装する際に、フィルムまたはシートが加圧により変形して、配線の位置精度が悪化して不良品が生じやすくなる。
【0063】
本発明において用いる液晶ポリマー材料からなるフィルムまたはシートは、液晶ポリマー材料からなるフィルムまたはシートを積層したものであってもよく、外層の少なくとも一方が液晶ポリマー材料からなるフィルムまたはシートであれば、金属箔や他の樹脂材料を用いたフィルムまたはシートとの積層フィルムまたは積層シートであってもよい。
【0064】
次いで、本発明における、液晶ポリマー材料からなる物品の表面に対するイオン照射について説明する。
【0065】
本明細書および特許請求の範囲において、「イオン照射」とは、種々のプラズマ発生装置(例えばECR装置)により生成したプラズマから、イオン引き出し電極により加速電圧を印加することによりイオンを引き出し、引き出されたイオンビームを、液晶ポリマー材料からなる物品に照射することをいう。
【0066】
好ましくは、本発明の方法におけるイオン照射は陽イオン照射である。
【0067】
イオン照射は、従来より知られる何れの方法を用いてもよい。例えば、二極放電型、熱電子放電型、磁場収束型(マグネトロン放電型)、無電極放電型などの、プラズマ発生装置にイオン引き出し電極を設けたイオン照射装置を用いることにより、イオン照射を行うことが出来る。これらの中では、イオン引き出し電極を兼ね備えたECR(エレクトロンサイクロトロン共鳴)型プラズマ装置を用いるのが好ましい。
【0068】
ECR型プラズマ装置は、電界と磁界の相互作用により共鳴的に電子を加速し、この電子の衝突により、ガスをプラズマ化する装置であって、高密度のイオン、ラジカル、電子等からなるプラズマが得られる。プラズマ化させるガスとして好適なものとしては、アルゴン、酸素、窒素、水素、水蒸気、アンモニアなどが挙げられる。これらのガスの中では、表面改質効果が高いことなどからアルゴンおよび/または水蒸気を用いるのがより好ましい。これらのガスは混合気体として用いてもよい。
【0069】
本発明において、ECR型プラズマ装置によりイオン照射を行うとは、プラズマ化されたガスのうちの陽イオンを、イオン銃で真空チャンバー内の試料に照射することをいう。
また、イオン照射における加速電圧は50〜1000Vの範囲内で試料表面のダメージ、改質効果等を勘案して適宜選択すればよい。
【0070】
本発明の方法によって、液晶ポリマー材料からなる物品の表面を高度に親水化することができる。該処理により、液晶ポリマー材料からなる物品の表面は好適には35度以下、より好ましくは30度以下の水接触角を示す。なお、ここでいう、改質された表面の水接触角は、イオン照射直後に測定して得られる値をいうものとする。
【0071】
本発明は、本発明の方法により得られる、表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品を提供する。本発明の方法によりイオン照射され表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品は、高度に表面が親水化されたものであり、好適には、35度以下と非常に低い水接触角を示す。
【0072】
このように表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面に、導体薄膜を形成すると、液晶ポリマー材料表面との密着性が非常に優れた導体薄膜により被覆された液晶ポリマー材料からなる物品が得られる。
【0073】
以下に、本発明の方法により表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面に、導体薄膜を形成する方法について説明する。
【0074】
本発明において、表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面に形成される導体薄膜は、液晶ポリマー材料からなる物品の表面の全部を被覆するものであってもよく、一部を被覆するものであってもよい。
【0075】
本発明において導体薄膜の形成に用いる導体の例としては、銅、ニッケル、金、アルミニウム、チタン、モリブデン、クロム、タングステン、鉛、亜鉛、およびスズから選択される金属の単体、これらの合金などの金属類、ならびに、インジウムスズ酸化物などの無機導電体などが挙げられる。好ましくは導体は、銅の単体である。
【0076】
本発明において、前述の導体を用いて、表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面の一部または全部に導体薄膜を形成する方法は特に制限されず、公知の種々の方法を用いることが出来る。導体薄膜を形成する好適な方法としては、例えば、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング、無電解めっきおよび電解めっきなどが挙げられる。これらの導体薄膜形成方法の中では、スパッタリングを用いるのがより好ましい。
【0077】
以下、スパッタリングについて説明する。本発明において、スパッタリングを行う方法としては、例えば、ECRスパッタ方式を適用することができる。
【0078】
具体的には、まず、チャンバ内に試料をセットした後、真空ポンプによりチャンバ内の圧力を減圧し、この状態でチャンバ内にアルゴン等の不活性ガスを所定のガス圧になるように導入する。さらに所定の電圧を印加することによって、銅など導体材料のターゲットをボンバードし導体薄膜(銅薄膜等)を試料表面に形成することができる。
【0079】
スパッタリングにより導体薄膜を形成する場合は、薄膜の厚さは0.1〜1.0μmが好ましく、0.2〜0.5μmがより好ましい。
【0080】
次に、スパッタリング以外の導体薄膜形成方法について簡単に説明する。
真空蒸着とは、高真空下のチャンバ内で導体物質を高温に加熱し蒸発させ、絶縁基板表面上に、導体薄膜層を生成させる方法である。
イオンプレーティングとは、絶縁基板を陰極、導体物質の蒸発源を陽極として、真空中あるいはガス雰囲気中で放電を起こすことにより導体物質の蒸発原子をイオン化して、絶縁基板上に導体薄膜層を形成する方法である。
無電解めっきとは、化学的な還元によって、絶縁基板上に均一な厚さの導体を析出させることにより導体薄膜層を形成する方法である。
電解めっきとは、適当な電解質溶液中で金属などの導電物質の試料を電解し、試料表面上に薄く付着した金属層を作る方法である。
【0081】
また、表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面に、精密細線回路パターンとして導体薄膜を形成させる場合には、従来知られる、以下に説明するアディテイブ法、セミアディテイブ法、サブトラクティブ法などを用いればよい。
【0082】
アディテイブ法は、絶縁基板上の配線パターン部にのみ導体薄膜層を形成する方法である。
セミアディテイブ法は、絶縁基板上に形成された導体薄膜層の上に、めっきレジストパターンを形成し、めっきにより露出した導体薄膜層上に導体層を形成し、さらにめっきレジストパターンを除去した後、エッチングを行い、めっきレジストパターンにて被覆されていた部分の導体薄膜層を除去し、配線パターンを形成する方法である。
サブトラクティブ法は、絶縁基板上に形成された導体層上に、レジスト層を形成し、フォトリソグラフィーによってパターニングした後、エッチングによって導体層をパターニングするものである。
【0083】
本発明の方法によれば、液晶ポリマー材料からなる各種物品の表面に、密着性に優れ、かつ、表面平滑性に優れた導体薄膜を形成することができる。また、薄膜形成後には、通常の湿式めっき法などにより、導体薄膜の厚みを増すこともできる。
【0084】
本発明の方法により表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品は、表面が平滑であるため、その上に精密細線回路パターンとしての導体薄膜を容易に形成することができる。また、本発明の方法により表面を導体薄膜により被覆された液晶ポリマー材料からなる物品は、高周波回路として好適に使用することができる。
【0085】
本発明により得られる、表面が導体薄膜により被覆された液晶ポリマー材料からなる物品は、たとえば、成形品上に直接金属膜の回路を形成するMID(Molded Interconnect Device)として有用である。また、導体薄膜により被覆された液晶ポリマー材料からなる物品がフィルムまたはシートである場合は、プリント配線板、フレキシブルプリント基板、TAB(Tape Automated Bonding)テープ、COF(Chip on Film)テープ等の電子部品の素材として有用である。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
実施例1〜4
〔試験片作成〕
液晶ポリマー(上野製薬株式会社製、UENO−LCP 6040GM)を鏡面加工された金型を用いて射出成形し、55×90×0.8mmの試験片を作製した。
【0088】
〔イオン照射〕
試験片をアセトンにより洗浄し脱脂した後、ECR装置のチャンバー内にセットし、チャンバー内を真空状態にした。表1に示した条件で、ECR装置により、アルゴンガスまたは水蒸気のプラズマを発生させ、それぞれの陽イオンを試験片表面に照射した。
【0089】
イオン照射後、チャンバー内を大気圧にもどし、すぐに試験片の水接触角を接触角計(協和科学株式会社製、CA−D9)で測定した。また、表面粗さ(Ra)は、JIS B0601にしたがって、表面粗さ計(株式会社東京精密製、サーフコム130A)により計測した。
【0090】
〔銅膜形成〕
銅膜の形成はスパッタリング法により行った。銅スパッタリングは、ECR装置によりプラズマを発生させ、真空下の銅ターゲット材にイオンを照射し、イオンの衝突によりターゲット材から銅をはじき飛ばし、はじき飛ばされた銅により、試験片上に銅薄膜を形成させて行い、銅薄膜厚みを0.3μmとした。なお、銅膜を形成する際には試験片へのイオン照射後に大気圧にもどすことなく、連続して銅スパッタリングを行った。
【0091】
〔銅膜引き剥がし強度の測定〕
試験片上に形成された銅薄膜上に、変成シリコーン樹脂系接着剤で1cm幅×5cm長さのフィルムを貼り付けた。接着剤が完全に硬化した後、その帯状のフィルムを90度方向に引き剥がし、その際に要した荷重を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
実施例5および6
液晶ポリマーフィルム(クラレ株式会社製、ベクスターOC−X100)を用いること以外は、実施例1〜4と同じ方法で、表1のイオン照射条件で、実験、評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
比較例1および2
イオン照射を行わない以外は、実施例1〜6と同じ方法で実験、評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
比較例3
イオン照射の変わりに大気圧酸素プラズマ処理をした以外は、実施例1〜6と同じ方法で、実験、評価を行った。
【0095】
大気圧酸素プラズマ処理は、大気圧プラズマ装置(松下電工株式会社製)にて、表2に示す搬送速度で試験片の大気圧酸素プラズマ処理を行った。結果を表2に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

注)LCP1:上野製薬製 6040GM:成形品
LCP2:クラレ製 ベクスターOC−X100:フィルム
【0098】
表1から明らかなように本発明の方法によれば、イオン照射によって液晶ポリマー材料の水接触角が30度以下まで激減しており、驚くほど表面が親水化されていることがわかる。また、比較例と比べ金属との密着性が数倍優れていることがわかる。また、イオン照射によっても、表面粗さはそれほど大きくなっていないことが判る。
【0099】
比較例3では、大気圧酸素プラズマ処理によって、水接触角は小さくなっており、未処理品(比較例1)と比較して銅膜引き剥がし強度が確かに上昇しているが、銅膜引き剥がし強度は実用レベル(約600g/cm)まで達していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー材料からなる物品の表面にイオン照射することを含む、液晶ポリマー材料からなる物品の表面改質方法。
【請求項2】
イオンが、アルゴンガスおよび/または水蒸気をイオン化させたものである、請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
イオン照射後の物品の表面における水接触角が35度以下である、請求項1または2に記載の表面改質方法。
【請求項4】
イオンが、ECR型プラズマ装置により照射されたイオンである、請求項1〜3の何れかに記載の表面改質方法。
【請求項5】
液晶ポリマー材料からなる物品の形状が、フィルムまたはシート状である、請求項1〜4の何れかに記載の表面改質方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の表面改質方法により得られる、表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品。
【請求項7】
液晶ポリマーが、4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰返し単位を含む、請求項6に記載の表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品。
【請求項8】
液晶ポリマー材料が、繊維状、板状、および粉状の充填材から選択される一種以上の充填材を含む、請求項6または7に記載の表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品。
【請求項9】
充填材が、ガラス繊維、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、およびウォラストナイトからなる群より選択される1種以上の繊維状の充填材、ならびに、タルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群より選択される1種以上の板状または粉状の充填材からなる群から選択される、請求項8に記載の表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品。
【請求項10】
充填材がガラス繊維である、請求項9に記載の表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかの方法により、液晶ポリマー材料からなる物品の表面を改質する工程、および、
表面改質された液晶ポリマー材料からなる物品の表面の一部または全部に導体薄膜を形成する工程、
を含む、液晶ポリマー材料からなる物品の表面被覆方法。
【請求項12】
導体薄膜を形成する工程を、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング、無電解めっき、および電解めっきからなる群から選択される方法により行う、請求項11に記載の表面被覆方法。
【請求項13】
導体薄膜を形成する工程をスパッタリングにより行う、請求項12に記載の表面被覆方法。
【請求項14】
導体が、銅、ニッケル、金、アルミニウム、チタン、モリブデン、クロム、タングステン、鉛、亜鉛、およびスズから選択される金属の単体、ならびにこれらの合金からなる群から選択される、請求項11〜13の何れかに記載の表面被覆方法。
【請求項15】
導体が銅の単体である、請求項14に記載の表面被覆方法。
【請求項16】
請求項11〜15の何れかに記載の表面被覆方法により得られる、導体薄膜により被覆された液晶ポリマー材料からなる物品。
【請求項17】
請求項11〜15の何れかに記載の表面被覆方法により得られる、MID、プリント配線板、フレキシブルプリント基板、TABテープ、またはCOFテープ。

【公開番号】特開2008−308616(P2008−308616A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159083(P2007−159083)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】