説明

液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法

【課題】液晶ポリマーの溶融重合装置を、効率よく短時間で洗浄するとともに、高価な薬剤を使用せず安価に洗浄する方法を提供すること。
【解決手段】溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄する方法において、重合装置内部を、270〜380℃の水蒸気に1〜15時間暴露する工程を含む、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、耐熱性、剛性等の機械物性や耐薬品性、寸法精度等に優れており、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。
【0003】
液晶ポリマーは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ヒドロキシカルボン酸などから選択される単量体を、目的とする液晶ポリマーの物性に合わせて適宜組み合わせて用い、これらを重縮合して得られる。
【0004】
液晶ポリマーを製造するための重縮合方法としては、以下の工程(1)および(2)を含む脱酢酸重合による溶融重合法が広く知られている(特許文献1および2を参照):
(1)単量体の混合物を無水酢酸等のアシル化剤と反応させ、単量体に含まれる水酸基およびアミノ基をアシル化する工程;
(2)工程(1)でアシル化された単量体の混合物を溶融状態で加熱し、酢酸等の低級脂肪酸を留去しながら重縮合を行う溶融重合工程。
【0005】
一般に液晶ポリマーは、脱酢酸による溶融重合をバッチ式重合装置で繰り返し行うことにより製造されている。しかし、バッチ式重合装置で繰り返し溶融重合を行う液晶ポリマーの製造方法においては、溶融重合装置内に残留するポリマーやオリゴマーが繰り返し加熱されることにより、非常に融点の高い異物となって残存することが知られている。
【0006】
このような異物を洗浄除去するために、液晶ポリマーの製造工程における溶融重合装置の洗浄方法について多くの検討がなされている(特許文献3〜6を参照)。しかしながら、これらの洗浄方法では、液晶ポリマーの高い耐溶媒性のために、グリコール類やアミン類などの高価な薬剤を使用する必要があったり、洗浄効果が十分でないという問題があった。さらに、グリコール類で洗浄するためには、溶融重合を終えた重合装置を一旦十分に冷却した後、グリコール類を仕込んで再度昇温する必要があるため、洗浄工程が煩雑になるとともに、洗浄に長時間を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−59067号公報
【特許文献2】特開平3−281656号公報
【特許文献3】特開平5−295392号公報
【特許文献4】特開2007−238889号公報
【特許文献5】特開2002−265577号公報
【特許文献6】特開2002−265578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、液晶ポリマーの溶融重合装置を、効率よく短時間で洗浄するとともに、高価な薬剤を使用せず安価に洗浄する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法に関して鋭意検討した結果、水や有機溶媒などの洗浄溶媒での洗浄に先駆けて水蒸気暴露を実施することにより、液晶ポリマー製造時に反応槽内部に付着した残留物を加水分解し、その後の洗浄溶媒による洗浄によって速やかに残留物が除去されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄する方法において、重合装置内部を、270〜380℃の水蒸気に1〜15時間暴露する工程を含む、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、洗浄される溶融重合装置は液晶ポリマーの溶融重合に使用される装置であれば特に限定されない。かかる溶融重合装置としては、縦型反応装置や横型反応装置のいずれも使用されるが、具体的には、装置内に攪拌翼、バッフル、原料投入口、留出管、減圧口、窒素導入口およびポリマーの吐出口等を有する溶融重合装置が好適に使用される。溶融重合装置の材質は、アシル化反応生成物等に対して耐腐食性を有することが好ましく、具体的には、SUS316、SUS316L、SUS317、2相ステンレス等のステンレス鋼、ハステロイ(登録商標)B、ハステロイ(登録商標)C等のニッケル−モリブデン系合金、不浸透黒鉛、チタン、ジルコニウム、GLおよびタンタル等が挙げられる。
【0012】
本発明の液晶ポリマー溶融重合装置において、製造される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものである。
【0013】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0014】
液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。
【0015】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマーは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0016】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばパラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではパラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリマーの特性や融点を調整しやすいという点から好ましい。
【0017】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0018】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0019】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0020】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0021】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0022】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0023】
以上、本発明において、溶融重合装置で製造される液晶ポリマーに含まれる繰返し単位とそれを与える単量体について説明したが、本発明において溶融重合法により製造される液晶ポリマーは、耐熱性や機械的性質に優れることから、芳香族オキシカルボニル繰返し単位である、4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰返し単位を含むものであるのがより好ましい。
【0024】
以下、溶融重合法による液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0025】
本発明において、液晶ポリマーの製造方法としては、以下の工程(1)および(2)を含む溶融アシドリシス法による溶融重合法が例示される:
(1)単量体の混合物を無水酢酸等のアシル化剤と反応させ、単量体に含まれる水酸基およびアミノ基をアシル化する工程;
(2)工程(1)でアシル化された単量体の混合物を溶融状態で加熱し、酢酸等の低級脂肪酸を留去しながら重縮合を行う溶融重合工程。
【0026】
単量体のアシル化に用いるアシル化剤としては、無水酢酸等の酸無水物等が好適に用いられる。アシル化剤の使用量は、単量体に含まれる水酸基およびアミノ基の量に対して、1〜1.1倍モル、好ましくは1.01〜1.08倍モル、より好ましくは1.02〜1.05倍モルが良い。
【0027】
単量体をアシル化剤と反応させてアシル化を行う際の条件は、アシル化反応が良好に進行する限り特に制限されない。アシル化反応は、例えば、所望の組成の単量体の混合物を、アシル化剤とともに反応槽に仕込んだ後に、80〜150℃で0.5〜3時間反応させることにより行う。アシル化反応時の圧力条件は特に制限されないが、大気圧下で行うのが好ましい。
【0028】
このようにしてアシル化された単量体は、次いで、溶融重合工程に供される。
【0029】
溶融重合を行うに当たり、必要に応じて触媒を用いてもよい。触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0030】
触媒の使用割合は、通常モノマー重量に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0031】
触媒は溶融重合を開始する前の任意の時点で加えればよく、単量体のアシル化工程の前に単量体とともに反応槽に加えるのが好ましい。
【0032】
溶融アシドリシス法による溶融重合は、公知の液晶ポリマーの製造方法に従って行えばよく、例えば、80〜150℃のアシル化された単量体の混合物を、副生する酢酸等の低級脂肪酸を反応槽から留去しながら、得られるポリマーの融点+10〜50℃まで、10〜50℃/分の速度で昇温して行えばよい。なお溶融重合の最終段階では、副生する酢酸の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0033】
このようにして、製造された液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状または粉末状に加工される。
【0034】
本発明は、例えば、以上説明した溶融アシドリシスによる溶融重合法によって、液晶ポリマーを製造した後、重合装置内部を洗浄するに際し、270〜380℃の水蒸気に1〜15時間暴露することを特徴とする。
【0035】
本発明において、水蒸気による洗浄工程にて暴露する水蒸気の温度は、溶融重合装置に付帯する温度計にて測定した装置内部の水蒸気温度を意味する。
【0036】
水蒸気温度が270℃より低いと、残留物の加水分解効果が十分でなく洗浄に長時間を要すことになり、水蒸気温度が380℃より高いと加水分解効率が頭打ちとなりエネルギーのロスとなる。
【0037】
水蒸気暴露工程は1〜15時間程度行えばよく、1時間より短いと加水分解が十分行えず、また15時間より長いとエネルギーおよび時間のロスとなる。
【0038】
水蒸気を暴露する手段としては、予め飽和水蒸気を加熱して適正な温度の水蒸気とした後、重合装置の上部、下部または側面から吹き込んでもよく、あるいは、飽和水蒸気を重合装置の上部、下部または側面から重合装置内に吹き込んだ後に、重合装置を加熱することにより適正な温度の水蒸気としてもよい。水蒸気は、加圧されたものであっても、常圧のものであってもよい。
【0039】
270〜380℃の水蒸気に1〜15時間暴露することによって、液晶ポリマー製造時に重合装置内に付着した残留物が加水分解され、低分子量化することによって流動性が向上し、重合装置から剥離しやすい状態となる。
【0040】
また、従来のグリコール類による洗浄を行う場合は、溶融重合を終えた重合装置を一旦十分に冷却してグリコール類を仕込んだ後、再度昇温して洗浄する必要があったが、水蒸気暴露工程は、重合を終えた装置を冷却することなく、高温状態で実施できるため、工程が簡略化されるという利点を有する。
【0041】
本発明によれば、脱酢酸による溶融重合をバッチ式重合装置で繰り返し行った後に、本発明の水蒸気暴露による洗浄を行うが、溶融重合の繰り返し回数や、溶融重合にて製造する液晶ポリマーの種類によっては、水蒸気暴露による洗浄のみで、あるいは必要により更に水や他の溶媒による洗浄工程および乾燥工程を付加することで、溶融重合装置の洗浄を完了することができる。
【0042】
溶融重合の繰り返しを多数回行った場合や、あるいは、加水分解し難い液晶ポリマーの製造を行った場合には、水蒸気暴露による洗浄工程終了後、さらにアルカリ性水溶液による洗浄工程を実施してもよい。
【0043】
アルカリ性水溶液による洗浄工程において使用されるアルカリ性水溶液は、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する水溶液であり、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液などのアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液などのアルカリ金属、アルカリ土類金属の酢酸塩水溶液、燐酸ナトリウム水溶液、燐酸カリウム水溶液、燐酸カルシウム水溶液などのアルカリ金属、アルカリ土類金属の燐酸塩水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液などのアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩水溶液などが使用可能である。この中でも、経済性や洗浄効果に優れることから、濃度0.1〜10重量%、好ましくは3〜8重量%である水酸化ナトリウム水溶液が好適に使用される。濃度が0.1重量%未満の場合、十分な洗浄効果が得られず、10重量%を上回る場合、廃水に際し、中和するのに多量の酸が必要になり、手間がかかるとともに不経済である。
【0044】
アルカリ性水溶液の使用量は特に制限されないが、洗浄温度における比率として、溶融重合装置の空間部容積に対して、50〜95vol%用いるのが好ましく、80〜90vol%用いるのがより好ましい。アルカリ性水溶液での洗浄回数は、基本的には1回でよいが、洗浄残りが確認されれば、複数回繰り返すとよい。

【0045】
アルカリ性水溶液による洗浄工程は、50〜150℃の温度下で、0.5〜10時間実施するのが良い。
【0046】
水蒸気への暴露工程の後に、アルカリ性水溶液による洗浄を実施することにより、先の水蒸気暴露によって剥離しやすい状態となった重合装置内に付着した残留物の溶解除去をより確実に行うことができる。これにより、従来の洗浄法で必要であったグリコール類やアミン類などの高価な薬剤を使用することなく、重合装置内に付着した残留物を効率的に除去し得るものである。
【0047】
以上のようにして、アルカリ性水溶液による洗浄を終えた後は、溶融重合装置底部にある弁を開き、使用済みのアルカリ性水溶液を溶融重合装置から排出する。
【0048】
その後、必要により水や他の溶媒での洗浄工程および乾燥工程が施されて、全洗浄工程が終了する。
【0049】
本発明の方法においては、必要により水洗浄工程を含めてもよい。水洗浄工程は、室温〜100℃の水を溶融重合装置に入れて0.5〜5時間程度常圧で撹拌することによって行ってもよく、あるいは、高圧水をジェットノズルを介して、溶融重合装置内に噴射することにより行ってもよい。常圧の場合の水は、重合装置の空間部容積に対して50〜100vol%用いるのが好ましく、90〜100vol%用いるのがより好ましい。ジェットノズルで水を噴射する場合、室温〜100℃の水を水圧0.1〜50MPa、好ましくは0.2〜20MPa、より好ましくは0.3〜10MPaで10〜30分程度噴射するのがよい。
【0050】
また、乾燥工程は溶融重合装置を常圧下または減圧下で80〜250℃へ昇温することにより行われる。
【0051】
本発明の洗浄方法によれば、水蒸気暴露による洗浄のみで、あるいは必要によりアルカリ性水溶液による洗浄や水による洗浄を付加することにより、グリコール類やアミン類などの溶剤を使用することなく、簡易な工程で効率的に重合装置の洗浄を行うことができるが、重合装置の汚染が酷い場合や、あるいは、定期的にグリコール類による洗浄を付加しても良い。
【0052】
グリコール類による洗浄は、水蒸気暴露工程の前後、アルカリ水溶液洗浄工程の前後のいずれに実施してもよいが、水蒸気暴露工程終了後に行う方が、より洗浄効率が向上するとともに、上述したように、暴露工程に先駆けて重合装置を冷却する必要がないため、洗浄工程を簡素化し得る。
【0053】
グリコール類で洗浄する場合、使用するグリコール類としては、エチレングリコール、トリエチレングリコールおよびテトラエチレングリコールから選択される1種以上が好適に使用され、180〜350℃、好ましくは260〜350℃、より好ましくは280〜320℃の温度下で洗浄するのが良い。
【0054】
洗浄時間は特に制限されないが、典型的には、1〜10時間、より好ましくは2〜8時間行うのが良い。
【0055】
洗浄時の温度は、180〜350℃の間で変動してもよいが、洗浄中の最高温度と最低温度の差が、30℃以下、好ましくは20℃以下であるのが良い。
【0056】
グリコール類での洗浄を終えた後は、アルカリ性水溶液による洗浄と同様に、溶融重合装置底部にある弁を開き、使用済みの洗浄溶媒を溶融重合装置から排出する。
【0057】
この後、所望により、アルカリ性水溶液による洗浄、水による洗浄を行ったのち、乾燥工程が施されて洗浄が終了する。
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、グリコール類やアミン類などの高価な薬剤を使用することなく、洗浄工程に要する時間を短縮することが可能となり製造コスト低減に寄与すると共に、液晶ポリマー製品への異物混入量の低減により製品の品質向上にも寄与するものである。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
<液晶ポリマーの製造例1>
4−ヒドロキシ安息香酸238.8kg(1728モル)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸4.5kg(24モル)、ハイドロキノン35.7kg(324モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸70.0kg(324モル)および無水酢酸254.3kg(2491モル)を、攪拌翼、熱交換器、ノズルおよびマンホールを有する容量0.5mのSUS製の重合槽に仕込んだ。窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、同温度で0.5時間保持した。その後副生する酢酸を留去しながらさらに8時間かけて350℃まで昇温した。同温度で30分重合反応を行った後、同温度で常圧から80分かけて1.33kPaまで減圧し、この圧力下でさらに60分重合を続け、所定のトルクに達した後重合槽を密閉し、窒素ガスにより重合槽内を0.1MPaに加圧し反応を終了した。
【0061】
次いで重合槽底部の弁を開き、ダイスを通じ重合槽内容物をストランド状に抜き出し、重合槽直下に設置された水冷式のコンベアによりストランドをカッターへ送りペレット状に切断しポリマーのペレットを得た。重合槽から抜き出されたポリマーの重量は299.7kgであった。
【0062】
得られたポリマーの結晶融解温度および溶融粘度を示差走査熱量計により測定した結果、結晶融解温度は332℃であり、溶融粘度は17Pa・sであった。
【0063】
また、得られたポリマーペレットをヒートステージ付き偏光顕微鏡で観察したところ溶融時に異方性を示すものであった。
【0064】
<液晶ポリマーの製造例2>
4−ヒドロキシ安息香酸157.0kg(1135モル)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸193.0kg(1025モル)、ハイドロキノン13.2kg(120モル)、テレフタル酸20.0kg(120モル)、酢酸カリウム17.0gおよび無水酢酸254.6kg(2494モル)を、攪拌翼、熱交換器、ノズルおよびマンホールを有する容量0.5mのSUS製の重合槽に仕込んだ。窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、同温度で0.5時間保持した。その後副生する酢酸を留去しながらさらに6時間かけて330℃まで昇温した。同温度で30分重合反応を行った後、同温度で常圧から80分かけて1.33kPaまで減圧し、この圧力下でさらに60分重合を続け、所定のトルクに達した後重合槽を密閉し、窒素ガスにより重合槽内を0.1MPaに加圧し反応を終了した。
【0065】
次いで重合槽底部の弁を開き、ダイスを通じ重合槽内容物をストランド状に抜き出し、重合槽直下に設置された水冷式のコンベアによりストランドをカッターへ送りペレット状に切断しポリマーのペレットを得た。重合槽から抜き出されたポリマーの重量は320.5kgであった。
【0066】
得られたポリマーの結晶融解温度および溶融粘度を示差走査熱量計により測定した結果、結晶融解温度は238℃であり、溶融粘度は13Pa・sであった。
【0067】
また、得られたポリマーペレットをヒートステージ付き偏光顕微鏡で観察したところ溶融時に異方性を示すものであった。
【0068】
<実施例1>
水蒸気暴露による洗浄工程
液晶ポリマーの製造を、製造例1と同様の方法にて10バッチ繰り返した後、溶融重合装置の重合槽の内温を350℃に保ち、重合槽底部の弁を開いた状態で、重合槽上部のノズル部より143℃の飽和水蒸気を吹き込んだ。吹き込み開始0.2時間後に重合槽の内温が340℃を示し、さらに4時間水蒸気を吹き込み続けた後、吹き込みを停止した。この間、重合槽底部から流動性を有するポリマー融液1.5kgが排出された。水蒸気の吹き込み停止後、重合槽を内温80℃まで1時間かけて冷却した。
【0069】
アルカリ性水溶液による洗浄工程
重合槽底部の弁を閉じ、5%水酸化ナトリウム水溶液450Lを重合槽に仕込み、攪拌下、液温102℃まで2時間かけて昇温し、同温度で還流下1.5時間洗浄を行った。続いて洗浄液を80℃まで冷却し、重合槽底部より排出した。
【0070】
水による洗浄工程
水450Lを重合槽に仕込み、液温100℃まで2時間かけて昇温した後、同温度で還流下、1.5時間洗浄を行った後、後重合槽底部より排出した。
続いて、再度水450Lを重合槽に仕込んで1.5時間洗浄した後、重合槽底部より排出した。
【0071】
乾燥工程
重合槽壁面部分の温度を200℃まで2時間かけて昇温し、この温度を保持しながら重合装置内部を1.33kPaまで減圧し、この圧力下でさらに2時間保持することにより溶融重合装置の洗浄を終えた。
【0072】
以上のようにして、重合装置内部を340℃の水蒸気で4時間暴露する工程を含む洗浄を終え、溶融重合槽の上部マンホールから内部を観察したところ、重合槽壁面および攪拌翼は残留物がなく金属光沢を示しており、良好に洗浄されていることが確認された。
【0073】
<比較例1>
重合装置内部を、水蒸気暴露による洗浄工程を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして、アルカリ水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程および乾燥工程を実施した。乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着が顕著に確認された。
【0074】
<比較例2>
液晶ポリマーの製造を、製造例1と同様の方法にて10バッチ繰り返した後、溶融重合装置の重合槽の内温を270℃まで0.5時間かけて冷却した。次いで、重合槽底部の弁を開いた状態で、重合槽上部のノズル部より143℃の飽和水蒸気を吹き込んだ。吹き込み開始0.2時間後に重合槽の内温が260℃を示し、さらに4時間水蒸気を吹き込み続けた後、吹き込みを停止した。この間、重合槽底部からポリマー融液はほとんど排出されなかった。水蒸気の吹き込み停止後、重合槽を内温80℃まで0.5時間かけて冷却した。続いて、実施例1と同様の方法にてアルカリ性水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程および乾燥工程を実施した。乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着が確認された。
【0075】
<比較例3>
溶融重合装置の内部を340℃の雰囲気下で水蒸気に0.5時間暴露した以外は、実施例1と同様にして、アルカリ性水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程、乾燥工程を実施した。乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着が確認された。
【0076】
<比較例4>
液晶ポリマーの製造を、製造例1と同様の方法にて10バッチ繰り返した後、溶融重合装置の重合槽の内温を80℃まで1時間かけて冷却した。
【0077】
グリコールによる洗浄工程
テトラエチレングリコール450Lを溶融重合装置に仕込み、攪拌下、300℃まで4時間かけて昇温し、同温度で1時間洗浄を行った。次いで溶融重合装置を120℃まで2時間かけて冷却した後、テトラエチレングリコール洗浄液を重合槽底部より排出した。
続いて、実施例1と同様にして、アルカリ性水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程、乾燥工程を実施した。乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着が確認された。
【0078】
<比較例5>
テトラエチレングリコールの代わりにトリエチレングリコールを用いたこと、および280℃まで3.3時間かけて昇温したこと以外は、比較例4と同様にして、アルカリ性水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程および乾燥工程を実施した。乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着が確認された。
【0079】
実施例および比較例における洗浄条件および、洗浄後の溶融重合装置の状態を表1に示す。
【0080】
<実施例2>
液晶ポリマーの製造を、製造例2と同様の方法にて10バッチ繰り返した後、
溶融重合装置の重合槽の内温を285℃まで0.3時間かけて冷却した。次いで、重合槽底部の弁を開いた状態で、重合槽上部のノズル部より143℃の飽和水蒸気を吹き込んだ。吹き込み開始0.2時間後に重合槽の内温が275℃を示し、さらに1.5時間水蒸気を吹き込み続けた後、吹き込みを停止した。この間、重合槽底部から流動性を有するポリマー融液1.6kgが排出された。水蒸気の吹き込み停止後、重合槽を内温80℃まで0.6時間かけて冷却した。その後、実施例1と同様にして、アルカリ性水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程および乾燥工程を実施し、乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽壁面および攪拌翼は残留物がなく金属光沢を示しており、良好に洗浄されていることが確認された。
【0081】
<比較例6>
重合装置内部を、水蒸気暴露による洗浄工程を実施しなかった以外は、実施例2と同様にして、アルカリ水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程および乾燥工程を実施した。乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着が顕著に確認された。
【0082】
<比較例7>
液晶ポリマーの製造を、製造例2と同様の方法にて10バッチ繰り返した後、溶融重合装置の重合槽の内温を260℃まで0.35時間かけて冷却した。次いで、重合槽底部の弁を開いた状態で、重合槽上部のノズル部より143℃の飽和水蒸気を吹き込んだ。吹き込み開始0.2時間後に重合槽の内温が250℃を示し、さらに4時間水蒸気を吹き込み続けた後、吹き込みを停止した。この間、重合槽底部から流動性を有するポリマー融液0.5kgが排出された。水蒸気の吹き込み停止後、重合槽を内温80℃まで0.45時間かけて冷却した。続いて、実施例2と同様の方法にてアルカリ性水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程および乾燥工程を実施した。乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽内壁および攪拌翼に若干の残留物の付着が確認された。
【0083】
<比較例8>
溶融重合装置の内部を275℃の雰囲気下で水蒸気に0.5時間暴露した以外は、実施例2と同様にして、アルカリ性水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程、乾燥工程を実施した。乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽内壁および攪拌翼に若干の残留物の付着が確認された。
【0084】
<比較例9>
液晶ポリマーの製造を、製造例2と同様の方法にて10バッチ繰り返した後、溶融重合装置の重合槽の内温を80℃まで0.9時間かけて冷却した。その後、比較例5と同様にして、トリエチレングリコールによる洗浄、アルカリ性水溶液による洗浄工程、水による洗浄工程および乾燥工程を実施した。乾燥工程終了後、溶融重合槽の内部を確認したところ、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着が確認された。
【0085】
水蒸気による暴露工程を含む実施例1の洗浄を行った溶融重合装置は、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着のない清浄な状態であり、暴露工程に係る洗浄時間も計5.2時間と短いものであった。暴露工程を実施しなかった比較例1の方法では洗浄が十分行えず、重合槽内壁および攪拌翼への残留物の付着が顕著であった。暴露工程を実施しても、水蒸気温度が低い場合(比較例2)や、暴露時間が短い場合(比較例3)は洗浄が十分行えず、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着が確認された。暴露工程を実施せずにグリコール類による洗浄を行った場合(比較例4および5)、残留物の付着が確認されるとともに、洗浄に7時間を要し、作業性に劣るものであった。
【0086】
また、製造例2のように溶融重合で低融点の液晶ポリマーを製造した場合、水蒸気による暴露工程を含む実施例2の洗浄を行った溶融重合装置は、低温度かつ短時間の条件下でも、重合槽内壁および攪拌翼に残留物の付着のない清浄な状態であったが、洗浄温度または洗浄時間が本発明の範囲を下回るものは、洗浄が十分に行えず、若干の残留物の付着が確認された。また、暴露工程を実施しない比較例6及び比較例9も十分に洗浄できないものであった。
【0087】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄する方法において、重合装置内部を、270〜380℃の水蒸気に1〜15時間暴露する工程を含む、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項2】
水蒸気への暴露工程の後、さらにアルカリ性水溶液で重合装置内部を洗浄する工程を含む、請求項1記載の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項3】
アルカリ性水溶液が、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物の水溶液である請求項2記載の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項4】
アルカリ性水溶液が、濃度0.1〜10重量%の水酸化ナトリウム水溶液である請求項2または3記載の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項5】
水蒸気への暴露工程の後、さらに水で重合装置内部を洗浄する工程を含む、請求項1〜4いずれかに記載の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項6】
水で重合装置内部を洗浄する工程が、高圧水を溶融重合装置内部に噴射する工程である、請求項5に記載の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。

【公開番号】特開2011−52054(P2011−52054A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199863(P2009−199863)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】