説明

液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法

【課題】溶融重合による液晶ポリマーの製造方法において、溶融重合装置を効率よく、短時間で洗浄する方法を提供すること。
【解決手段】溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄液で洗浄する方法において、グリコール類、および、カリウム塩およびナトリウム塩を、カリウムおよびナトリウムの合計重量として、グリコール類の重量に対して140〜5000ppm含み、かつ、含まれるカリウムおよびナトリウムの比が、ナトリウム/カリウム重量比として0.01〜20である洗浄液を使用し、180〜350℃の温度にて洗浄することを特徴とする、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、耐熱性、剛性等の機械物性や耐薬品性、寸法精度等に優れており、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。
【0003】
液晶ポリマーは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ヒドロキシカルボン酸などから選択される単量体を、目的とする液晶ポリマーの物性に合わせて適宜組み合わせて用い、これらを重縮合して得られる。
【0004】
液晶ポリマーを製造するための重縮合方法としては、以下の工程(1)および(2)を含む脱酢酸重合による溶融重合法が広く知られている(特許文献1および2を参照)。
(1)単量体の混合物を無水酢酸等のアシル化剤と反応させ、単量体に含まれる水酸基およびアミノ基をアシル化する工程、
(2)工程(1)でアシル化された単量体の混合物を溶融状態で加熱し、酢酸等の低級脂肪酸を留去しながら重縮合を行う溶融重合工程。
【0005】
一般に液晶ポリマーは、脱酢酸による溶融重合をバッチ式重合装置で繰り返し行うことにより製造されている。しかし、バッチ式重合装置で繰り返し溶融重合を行う液晶ポリマーの製造方法においては、溶融重合装置内に残留するポリマーやオリゴマーが繰り返し加熱されることにより、非常に融点の高い異物となって残存することが知られている。
【0006】
このような異物を洗浄除去するために、液晶ポリマーの製造工程における溶融重合装置の洗浄方法について多くの検討がなされている(特許文献3〜6を参照)。しかしながら、これらの洗浄方法では、アミン類などの高価な薬剤を使用する必要があったり、洗浄工程が煩雑になるという問題や、あるいは洗浄効果が十分でないという問題があった。
【0007】
これらの洗浄方法を改良した方法として、特許文献7は、エチレングリコールのトリエチレングリコールに対する容積比が約1:1〜約1:20である混合物を製品排出後の反応器に装入し、不活性雰囲気中残存ポリマーの除去に十分な量で、かつ十分な時間、加圧下該混合物を加熱し、該反応器から該混合物を排出し、その後該反応器を少なくとも一回以上水洗浄することからなる異方性溶融相形成ポリマー製造装置の洗浄プロセスを提案している。
【0008】
さらに特許文献7には、エチレングリコールとトリエチレングリコールとの混合物にさらに、異方性溶融相形成ポリマーとのエステル交換反応を触媒的に作用し促進する化合物を特定量含めることが記載されており、かかる化合物として、ナトリウムまたはカリウムの酢酸塩、水酸化物およびtert−ブトキサイドが例示され、エチレングリコールとテトラエチレングリコールにカリウムtert−ブトキサイドを併用した洗浄液が記載されている。
【0009】
しかし、特許文献7の方法に記載される触媒的に作用し促進する化合物を単独で含有させた場合、ある程度の洗浄力向上効果は認められるものの満足できるものではなかった。
【0010】
一方、本出願人は、溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄液で洗浄する方法を検討した結果、以前に、グリコール類、および、グリコール類100重量部に対して0.01〜10重量部の有機カルボン酸を含む洗浄液を使用し、180〜350℃の温度にて洗浄することを特徴とする、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法を提案した(特許文献8)。
【0011】
しかし、特許文献8に記載の方法においては、有機カルボン酸を多量に添加する必要があり、また洗浄に長時間を要することから、洗浄時間のさらなる短縮に関して検討の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−59067号公報
【特許文献2】特開平3−281656号公報
【特許文献3】特開平5−295392号公報
【特許文献4】特開2007−238889号公報
【特許文献5】特開2002−265577号公報
【特許文献6】特開2002−265578号公報
【特許文献7】特開平10−168172号公報
【特許文献8】特開2010−142686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、溶融重合による液晶ポリマーの製造方法において、溶融重合装置を短時間で効率よく洗浄する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法に関して鋭意検討した結果、グリコール類に所定量のカリウム塩およびナトリウム塩を特定の比率で配合した洗浄液を使用することにより、短時間で効率よく溶融重合装置内の液晶ポリマーが溶解されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明は、溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄液で洗浄する方法において、グリコール類、および、カリウム塩およびナトリウム塩を、カリウムおよびナトリウムの合計重量として、グリコール類の重量に対して140〜5000ppm含み、かつ、含まれるカリウムおよびナトリウムの比が、ナトリウム/カリウム重量比として0.01〜20である洗浄液を使用し、180〜350℃の温度にて洗浄することを特徴とする、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、グリコール類、および、カリウム塩およびナトリウム塩を、カリウムおよびナトリウムの合計重量として、グリコール類の重量に対して140〜5000ppm含み、かつ、含まれるカリウムおよびナトリウムの比が、ナトリウム/カリウム重量比として0.01〜20である、溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄するための洗浄液を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によると、簡便な方法で短時間で効率よく溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、洗浄される溶融重合装置は液晶ポリマーの溶融重合に使用される装置である。かかる溶融重合装置としては特に限定されず、縦型反応装置や横型反応装置のいずれも使用されるが、具体的には、装置内に撹拌翼、バッフル、原料投入口、留出管、減圧口、窒素導入口およびポリマーの吐出口等を有する溶融重合装置が好適に使用される。溶融重合装置の材質は、アシル化反応生成物等に対して耐腐食性を有することが好ましく、具体的には、SUS316、SUS316L、SUS317、2相ステンレス等のステンレス鋼、ハステロイ(登録商標)B、ハステロイ(登録商標)C等のニッケル−モリブデン系合金、不浸透黒鉛、チタン、ジルコニウム、GLおよびタンタル等が挙げられる。
【0019】
本発明の液晶ポリマー溶融重合装置において、製造される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものである。
【0020】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0021】
液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。
【0022】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマーは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0023】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばパラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではパラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリマーの特性や融点を調整しやすいという点から好ましい。
【0024】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0025】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0026】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0027】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0028】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0029】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0030】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0031】
以上、本発明において、溶融重合装置で製造される液晶ポリマーに含まれる繰返し単位とそれを与える単量体について説明したが、本発明において溶融重合法により製造される液晶ポリマーは、耐熱性や機械的性質に優れることから、芳香族オキシカルボニル繰返し単位である、4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰り返し単位を含むものであるのがより好ましい。
【0032】
以下、溶融重合法による液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0033】
本発明において液晶ポリマーの製造方法は、以下の工程(1)および(2)を含む溶融アシドリシス法による溶融重合法である。
(1)単量体の混合物を無水酢酸等のアシル化剤と反応させ、単量体に含まれる水酸基およびアミノ基をアシル化する工程、
(2)工程(1)でアシル化された単量体の混合物を溶融状態で加熱し、酢酸等の低級脂肪酸を留去しながら重縮合を行う溶融重合工程。
【0034】
単量体のアシル化に用いるアシル化剤としては、無水酢酸等の酸無水物等が好適に用いられる。アシル化剤の使用量は、単量体に含まれる水酸基およびアミノ基の量に対して、1〜1.1倍モル、好ましくは1.01〜1.08倍モル、より好ましくは1.02〜1.05倍モルが良い。
【0035】
単量体をアシル化剤と反応させてアシル化を行う際の条件は、アシル化反応が良好に進行する限り特に制限されない。アシル化反応は、例えば、所望の組成の単量体の混合物を、アシル化剤とともに反応槽に仕込んだ後に、80〜150℃で0.5〜3時間反応させることにより行う。アシル化反応時の圧力条件は特に制限されないが、大気圧下で行うのが好ましい。
【0036】
このようにしてアシル化された単量体は、次いで、溶融重合工程に供される。
【0037】
溶融重合を行うに当たり、必要に応じて触媒を用いてもよい。触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0038】
触媒の使用割合は、通常モノマー重量に対して1〜1000ppm、好ましくは5〜200ppmである。
【0039】
触媒は溶融重合を開始する前の任意の時点で加えればよく、単量体のアセチル化工程の前に単量体とともに反応槽に加えるのが好ましい。
【0040】
溶融アシドリシス法による溶融重合は、公知の液晶ポリマーの製造方法に従って行えばよく、例えば、80〜150℃のアシル化された単量体の混合物を、副生する酢酸等の低級脂肪酸を反応槽から留去しながら、得られるポリマーの融点+10〜50℃まで、10〜50℃/分の速度で昇温して行えばよい。なお溶融重合の最終段階では、副生する酢酸の除去を容易にするため真空を適用してもよい。
【0041】
このようにして、製造された液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状または粉末状に加工される。
【0042】
本発明の方法は、以上説明した溶融アシドリシス法による溶融重合法によって液晶ポリマーを製造した後に、洗浄液として、グリコール類、および、カリウム塩およびナトリウム塩を、カリウムおよびナトリウムの合計重量として、グリコール類の重量に対して140〜5000ppm含み、かつ、含まれるカリウムおよびナトリウムの比が、ナトリウム/カリウム重量比として0.01〜20である洗浄液を使用し、180〜350℃の温度にて洗浄するものである。
【0043】
本発明の方法において、液晶ポリマーの溶融重合装置の洗浄に用いるグリコール類の好ましい例としては、トリメチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。この中でも、洗浄能力に優れる点で、テトラエチレングリコールまたはトリエチレングリコール、あるいはこれらの混合液が好適に使用され、テトラエチレングリコールが最も好適に使用される。
【0044】
本発明の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法において、これらのグリコール類に加えて、特定合計量および特定比のカリウム塩およびナトリウム塩を含む洗浄液を使用することにより、洗浄能力を向上させ、洗浄時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0045】
なお、本発明において、ナトリウム塩およびカリウム塩の量は、それぞれ金属に換算して、原子吸光分析法により測定した、金属の重量ppmで表す。また、ナトリウム/カリウム比は、原子吸光分析法により測定した金属の重量比(重量/重量)にて表す。
【0046】
本発明の方法に用いる洗浄液は、カリウム塩およびナトリウム塩を、カリウムおよびナトリウムの合計重量として、グリコール類の重量に対して140〜5000ppm、好ましくは150〜3000ppm、さらに好ましくは160〜2000ppm、もっとも好ましくは180〜1000ppm含む。
【0047】
カリウムおよびナトリウムの合計重量がグリコール類に対して140ppmより少ないと、洗浄力向上効果が十分に発揮されず、5000ppmを超えると、洗浄力向上効果が頭打ちとなるとともに、洗浄液に溶解しきらない場合があり、コスト的にも不利となる。
【0048】
本発明の方法に用いる洗浄液において含まれるカリウムおよびナトリウムの比は、ナトリウム/カリウム重量比として0.01〜20、好ましくは0.05〜15、より好ましくは0.2〜10、さらに好ましくは0.3〜7である。
【0049】
ナトリウム/カリウムの重量比が0.01を下回ると、洗浄力向上効果が十分に発揮されず、20を上回ると洗浄力がかえって低下する傾向がある。
【0050】
本発明の方法によると、グリコール類に配合されるカリウム塩およびナトリウム塩が相乗的に作用し、これらの併用により単独で用いた場合よりも格段に洗浄能力が高まり、洗浄時間をいっそう短縮することができる。
【0051】
グリコール類に配合してもよいカリウム塩およびナトリウム塩の種類は、良好な洗浄効果が得られる限り特に制限されず、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩およびハロゲン化物からなる群より選択される1種以上のものなどが挙げられ、これらの中では、特に洗浄効果に優れることから、酢酸塩を用いるのがより好ましい。
【0052】
洗浄液の使用量は特に制限されないが、洗浄温度における比率として、溶融重合装置の空間部容積に対して、50〜95vol%用いるのが好ましく、80〜90vol%用いるのがより好ましい。
【0053】
溶融重合装置の洗浄温度は、高温であるほど、洗浄効率がよいが、洗浄液の沸点を考慮して180〜350℃の範囲で適宜設定される。グリコール類としてテトラエチレングリコールおよび/またはトリエチレングリコールを使用する場合、テトラエチレングリコールの沸点が314℃であり、トリエチレングリコールの沸点が287℃であることを考慮すると、260〜350℃が好ましく、280〜320℃がより好ましい。グリコール類としてテトラエチレングリコールを単独で用いる場合は、285〜315℃が好ましく、290〜300℃がより好ましい。また、洗浄時間をより短縮するために、撹拌下で洗浄を行うのが好ましい。
【0054】
洗浄温度が洗浄液の沸点を超える場合には、溶融重合装置を密閉し加圧状態で洗浄を行えばよい。
【0055】
洗浄時間は特に制限されず、重合装置の容量や汚れ具合に応じて適宜設定すればよいが、典型的には、30分〜15時間、より好ましくは1時間〜10時間で行うのが良い。本発明の方法により、洗浄時間が格段に短縮される。
【0056】
ここで、洗浄時間とは180〜350℃の温度範囲で、任意に定めた所定の洗浄温度に到達してからの時間を意味する。
【0057】
洗浄時の温度は、180〜350℃の間で変動してもよいが、洗浄中の最高温度と最低温度の差が、30℃以下、好ましくは20℃以下であるのが良い。
【0058】
以上のようにして、液晶ポリマーの溶融重合装置の洗浄を終えた後は、溶融重合装置底部にある弁を開き、洗浄液を溶融重合装置から排出する。
【0059】
本発明の洗浄方法を実施する間隔は、バッチ式重合装置で溶融重合を行うバッチ数が少ないほど洗浄効率が高いことから好ましいが、液晶ポリマーの生産性と洗浄効率のバランスを考慮すれば、15〜30バッチ繰り返し行った後、洗浄を実施するのがよい。
【0060】
本発明による洗浄を実施し、溶融重合装置から洗浄液を排出した後に装置内に洗浄液が残存する場合は、水、温水および/またはスチーム等で残存液を洗い流し、乾燥させた後、次回の溶融重合を行うのがよい。
【0061】
本発明の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法および洗浄液を使用することにより、洗浄工程に要する時間を短縮することが可能となり製造コスト低減に寄与すると共に、液晶ポリマー製品への異物混入量の低減により製品の品質向上にも寄与するものである。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
本発明の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法の効果を確認するために、以下の液晶ポリマーの試験片(20mm×12mm×3.2mm)を作成した。
パラヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/ハイドロキノン/2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体
【0064】
この液晶ポリマーの試験片を、パドル4枚を有する撹拌翼、トの字型の留出管及び温度計を備えたガラス製筒状容器に入れ、テトラエチレングリコール(TEG)280g、酢酸ナトリウムおよび酢酸カリウムを表1に示す重量で仕込み、100rpmの速度で撹拌した。
【0065】
その後、90分かけて300℃まで昇温し、撹拌しながら同温度にて保持し、300℃に達してから90分後の試験片の溶解率を以下の式により算出した。
溶解率(%)=(試験片の重量−90分後の試験片の重量)/試験片の重量×100
(溶解率100(%)は、試験片が全て溶解したことを示す)。
【0066】
結果を表1に示す。
酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウムにおける重量(ppm)は金属換算の重量比(重量/重量)を意味する。
【0067】
表1
【表1】

【0068】
グリコール類に酢酸ナトリウムおよび酢酸カリウムを併用して配合した洗浄液を使用した場合、酢酸ナトリウムおよび酢酸カリウムをそれぞれ単独で配合した洗浄液を使用した場合に比べて溶解率が高く、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄液として使用した際に洗浄効率が大幅に向上することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄液で洗浄する方法において、グリコール類、および、カリウム塩およびナトリウム塩を、カリウムおよびナトリウムの合計重量として、グリコール類の重量に対して140〜5000ppm含み、かつ、含まれるカリウムおよびナトリウムの比が、ナトリウム/カリウム重量比として0.01〜20である洗浄液を使用し、180〜350℃の温度にて洗浄することを特徴とする、液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項2】
グリコール類が、テトラエチレングリコールおよび/またはトリエチレングリコールであり、洗浄温度が260〜350℃である請求項1記載の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項3】
グリコール類が、テトラエチレングリコールであり、洗浄温度が285〜315℃である請求項1または2に記載の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項4】
カリウム塩およびナトリウム塩が、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩およびハロゲン化物から選択される1種以上のものである請求項1〜3いずれかに記載の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項5】
カリウム塩およびナトリウム塩が、酢酸塩である請求項4に記載の液晶ポリマー溶融重合装置の洗浄方法。
【請求項6】
グリコール類、および、カリウム塩およびナトリウム塩を、カリウムおよびナトリウムの合計重量として、グリコール類の重量に対して140〜5000ppm含み、かつ、含まれるカリウムおよびナトリウムの比が、ナトリウム/カリウム重量比として0.01〜20である、溶融重合により液晶ポリマーを製造した重合装置を洗浄するための洗浄液。

【公開番号】特開2012−251009(P2012−251009A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122107(P2011−122107)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】