説明

液晶ポリマー組成物およびそれからなる成形品

【課題】ウェルド部の強度に優れる液晶ポリマー組成物を提供すること。
【解決手段】液晶ポリマー100重量部に対して、焼成処理された珪藻土を0.1〜200重量部含む、液晶ポリマー組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れており、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。
【0003】
特にパーソナル・コンピューターや携帯電話等の情報・通信分野においては、部品の高集積度化、小型化、薄肉化、低背化等から、薄い肉厚部が形成されるケースが多い。したがってかかる分野においては、液晶ポリマーの優れた成形性、すなわち流動性が良好であり、かつバリが出ないという他の樹脂にない特徴を生かして、その使用量が大幅に増大している。
【0004】
しかし、液晶ポリマーは、優れた特性を有するものではあるが、成形時の強い分子配向に起因するウェルド部の強度の弱さや成形品の異方性が欠点として認識されており、ウェルド部の強度の改良法方について種々の検討がなされている。
【0005】
これらの改良方法としては、たとえばホウ酸アルミニウムウィスカ、または酸化チタンウィスカなどの繊維状の充填材を液晶ポリエステル樹脂に配合する方法などが知られている(特許文献1および2を参照)。
【0006】
しかし、これらのウィスカは高価であることに加え、ウェルド部の強度の改良効果についても十分ではないことから、安価な充填材を用いかつウェルド部の強度に優れた液晶ポリマー組成物の開発が望まれている。
【特許文献1】特開平3−59067号公報
【特許文献2】特開平3−281656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ウェルド部の強度に優れる液晶ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液晶ポリマー100重量部に対して、焼成処理された珪藻土を0.1〜200重量部含む、液晶ポリマー組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書および特許請求の範囲において、ウェルド部とは、液晶ポリマー組成物の成形時に、二以上の方向から流れる溶融した液晶ポリマーまたは液晶ポリマー組成物が、金型内で合流する部分の意味である。
【0010】
本発明において用いる液晶ポリマーは、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0011】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0012】
本発明に用いる液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。
【0013】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマーは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0014】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば4−ヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではパラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリマーの特性や融点を調整しやすいという点から好ましい。
【0015】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0016】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0017】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0018】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0019】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0020】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0021】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族オキシジカルボン酸およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0022】
本発明に用いる液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0023】
以上、本発明において用いる液晶ポリマーに含まれる繰返し単位とそれを与える単量体について説明したが、本発明において用いる液晶ポリマーは、芳香族オキシカルボニル繰返し単位である、4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰り返し単位を含むものを用いるのがより好ましい。
【0024】
4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰り返し単位を含む液晶ポリマーのなかでも、好ましいものとしては、例えば下記のモノマー構成単位からなる共重合体が挙げられる。
【0025】
1)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸共重合体
2)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
7)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
8)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
10)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
11)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
12)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
13)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
15)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
16)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
17)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
18)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル /4−アミノフェノール共重合体
19)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
20)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
21)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
22)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体。
【0026】
これらの中では、成型加工性や、機械的性質から、1)、9)、13)の共重合体を液晶ポリマーとして用いるのが特に好ましい。
【0027】
本発明における液晶ポリマーは、成形時の流動性を改良するなどの目的で、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものを用いてもよい。
【0028】
以下、本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0029】
溶融アシドリシス法とは、本発明で用いる液晶ポリマーの製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0030】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0031】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0032】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0033】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0034】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;、三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0035】
触媒の使用割合は、通常モノマー重量に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0036】
このようにして重縮合反応され得られた液晶ポリマーは、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0037】
得られた、ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリマーは、分子量を高め耐熱性を向上させる目的などで、減圧下または窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下において、実質的に固相状態において熱処理を行ってもよい。
【0038】
固相状態で熱処理を行う場合の処理温度は、液晶ポリマーが溶融しない限り特に限定されないが、260〜350℃、好ましくは280〜320℃で行うのがよい。
【0039】
なお、本発明に用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度(Tm)が270〜380℃のものが好ましく、280〜340℃のものがさらに好ましい。
【0040】
なお、結晶融解温度(Tm)は、以下に記載する方法により測定されるものである。
〈結晶融解温度測定方法〉
液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の測定後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、さらに、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度(Tm)とする。
【0041】
このようにして得られた液晶ポリマーは、焼成処理された珪藻土を配合され、本発明の液晶ポリマー組成物とされる。
【0042】
通常、珪藻土には、採掘された原鉱を、粉砕、乾燥、分級して製造される乾燥品と呼ばれるもの、乾燥品にソーダ灰や、ソーダ灰および食塩などの融剤を加えた後に焼成処理された融剤焼成品と呼ばれるもの、または乾燥品を融剤を用いることなく焼成処理した焼成品と呼ばれるものに区別されるが、本発明において用いる珪藻土は、焼成処理された珪藻土である、融剤焼成品および/または焼成品である。
【0043】
融剤焼成品と焼成品では、得られる液晶ポリマー組成物を用いた成形品のウェルド部の強度の改善効果がより高いことから、融剤を用いることなく焼成処理された焼成品を用いるのがより好ましい。
【0044】
乾燥品を用いる場合には、珪藻土が含有する有機不純物により得られる液晶ポリマーが着色しやすいことや、珪藻土が含有する水分により珪藻土と液晶ポリマーを溶融混練する時に機械的物性が低下しやすく好ましくない。
【0045】
本発明において用いる融剤の使用または不使用下に焼成処理された珪藻土(以下、焼成珪藻土とも称する)としては、市販のもの、例えば、イーグルピッチャーミネラルズ社製のCelatom(登録商標)の、FW−6、FW−20、FW−40、またはFW−60などの融剤焼成品や、FP−2またはFP−3などの焼成品を用いてもよいし、乾燥品の珪藻土を所望の粒度に分級した後に、融剤の使用または不使用下に焼成処理することにより製造されるものを用いてもよい。なお、焼成処理は好ましくは800〜1200℃にて行われる。
【0046】
本発明において用いる、焼成珪藻土は、平均粒径5〜50μmのものを用いるのが好ましく、10〜20μmのものを用いるのがより好ましい。
【0047】
また、本発明において用いる珪藻土は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、5〜11のpHを示すものが好ましく、5〜8のpHを示すものがより好ましい。ここで、本発明における珪藻土のpHとは、珪藻土10重量部に水90重量部を加えて攪拌して調整された10wt%のスラリーを攪拌しながら測定したpHをいう。
【0048】
本発明における、焼成珪藻土の使用量は、液晶ポリマー100重量部に対して、0.1〜200重量部であるのが好ましく、0.1〜150重量部であるのがより好ましく、0.1〜100重量部であるのが特に好ましい。
【0049】
本発明において用いる焼成珪藻土は、液晶ポリマーに添加され、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍ないし結晶融解温度+30℃で溶融混練して液晶ポリマー組成物とされる。
【0050】
本発明における液晶ポリマー組成物は、機械物性の向上などの目的で、珪藻土の他の充填材を配合してもよい。珪藻土の他の充填材の形状は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、繊維状、板状、または粉状の充填材から選択される一種以上のものを使用するのが好ましい。
【0051】
珪藻土の他の充填材の具体例としては、繊維状の充填材としては、例えばガラス繊維、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、ウォラストナイトなどが挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。また、板状あるいは粉状の充填材としては、例えばタルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。
【0052】
珪藻土の他の充填材を本発明の液晶ポリマー組成物に用いる場合の使用量は、液晶ポリマー100重量に対して、0.1〜200重量部であるのが好ましく、0.1〜150重量部であるのがより好ましく、0.1〜100重量部であるのが特に好ましい。
【0053】
本発明の液晶ポリマー組成物は、珪素土および珪藻土の他の充填材以外に、本発明の効果を損なわない範囲でさらに、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤など1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0054】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、成形に際して予め、液晶ポリマーのペレットの表面に付着せしめてもよい。
ここで、高級脂肪酸とは炭素原子数10〜25のものをいう。
【0055】
また、本発明において用いる液晶ポリマーには、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の樹脂成分、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂や、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0056】
その他の樹脂成分の配合量は特に限定されず、樹脂の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には本発明の液晶ポリマー100重量部に対する他の樹脂成分の配合量が1〜200重量部、特に10〜100重量部となる範囲において配合される。
【0057】
これらの珪藻土の他の充填剤、添加剤および他の樹脂などは、珪藻土と同様に、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍ないし結晶融解温度+30℃で溶融混練して液晶ポリマーに配合すればよい。
【0058】
本発明において、焼成処理された珪藻土は、単独の液晶ポリマーに対して配合してもよいし、事前に、繊維状、板状、または粉状の充填材、他の樹脂性分、種々の添加剤などを配合して調製された液晶ポリマー組成物に対して配合してもよい。
【0059】
本発明の方法により得られた液晶ポリマー組成物は、ASTM I号ダンベル試験片金型を用い、中央にウェルドラインが出来るように試験片両サイドから、該液晶ポリマー組成物を充填して得た試験片を用いて、ASTM D790に従い曲げ強度を測定した場合に、曲げ強度が40MPa以上、より好ましくは50MPa以上を示すものである。
【0060】
本発明はまた、液晶ポリマーまたは液晶ポリマー組成物に対して、液晶ポリマー100重量部に対して焼成処理された珪藻土が0.1〜200重量部となるように配合する、液晶ポリマー組成物を用いて得られる成形品のウェルド部の強度改良方法を提供する。
【0061】
このように、本発明の方法によって、液晶ポリマーまたは液晶ポリマー組成物に対して液晶ポリマー100重量部に対して焼成処理された珪藻土が0.1〜200重量部となるように配合することによって、液晶ポリマー組成物を用いて得られる成形品のウェルド部の強度が大きく改良されるものである。
【0062】
したがって、本発明は、上記の液晶ポリマー組成物を成形して得られる成形品、好ましくはウェルド部を有する成形品を提供する。
【0063】
焼成処理された珪藻土を配合することにより得られる、本発明の液晶ポリマー組成物を用いて得られたウェルド部を有する成形品は、ウェルド部の強度が大きく改良されたものであり、ウェルド部の高い強度が要求される電気部品、電子部品、機械部品などとして特に好適に用いられるものである。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例1〜3、および比較例1〜3〕
実施例および比較例において、液晶ポリマーは、LCP1として、UENO LCP 2000(上野製薬株式会社製、4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体、結晶融解温度325℃)を、LCP2として、UENO LCP 2500(上野製薬株式会社製、4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体、結晶融解温度330℃)を使用した。
【0065】
○液晶ポリマー組成物作成例
液晶ポリマー100重量部に対し、表2に記載の種類および量の充填材を、2軸押出し機PCM−30(株式会社池貝製)を用い、シリンダー温度、330−320−320−310℃、スクリュ回転数150rpmの条件で溶融混練し、液晶ポリマー組成物のペレットを作成した。
【0066】
○試験片作成例
液晶ポリマー組成物作成例により得られた、液晶ポリマー組成物のペレットを用いて、以下の表1に記載の成型条件により、ASTM I号ダンベル試験片金型を用いて、試験片中央部にウェルドラインが出来るように試験片両サイドから樹脂を充填し、図1に示す形状のウェルド部を有する試験片を射出成形により作成した。
【0067】
【表1】

【0068】
○ウェルド部の曲げ強度測定
ASTM D790に従い、試験片作成例により得られた試験片のウェルド部曲げ強度を測定した。実施例1〜3、および比較例1〜3の液晶ポリマー組成物のウェルド部曲げ強度の測定結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

*1:イーグルピッチャーミネラルズ社製、Celatom(登録商標)( FP−2、平均粒子径:12.8μm、pH6.5。
*2:イーグルピッチャーミネラルズ社製、Celatom(登録商標) FW−20、平均粒子径:33.0μm、pH10.0。
*3:イーグルピッチャーミネラルズ社製、Celatom(登録商標) FN−2、平均粒子径16.0μm、pH7.0。
*4:ヴェトロテックス社製、EC10 3MM 92C。
*5:日東紡績株式会社製、CS 3J−454S。
*6:四国化成株式会社製、アルボレックス(登録商標) YS3A。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、ウェルド部の曲げ強度測定用試験片の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー100重量部に対して、焼成処理された珪藻土を0.1〜200重量部含む、液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
焼成処理された珪藻土が、融剤を用いることなく焼成処理されたものである、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
液晶ポリマー100重量部に対して、該珪藻土を0.1〜100重量部含む、請求項1または2に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
さらに、液晶ポリマー100重量部に対して、繊維状、板状、または粉状の充填材から選択される一種以上を0.1〜200重量部含む、請求項1〜3の何れかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
充填材が、ガラス繊維、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、およびウォラストナイトからなる群より選択される繊維状の充填材、ならびにタルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群より選択される板状あるいは粉状の充填材からなる群より選択される1種以上の充填剤である、請求項4に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
ASTM I号ダンベル試験片金型を用い、中央にウェルドラインが出来るように試験片両サイドから、該液晶ポリマー組成物を充填して得た試験片を用いて、ASTM D790に従い測定した曲げ強度が40MPa以上である、請求項1〜5の何れかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項7】
液晶ポリマーまたは液晶ポリマー組成物に対して、液晶ポリマー100重量部に対して焼成処理された珪藻土が0.1〜200重量部となるように配合する、液晶ポリマー組成物を用いて得られる成形品のウェルド部の強度改良方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載の液晶ポリマー組成物を成形して得られる成形品。
【請求項9】
ウェルド部を有する請求項8に記載の成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−111034(P2008−111034A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294570(P2006−294570)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】