説明

液晶ポリマー組成物およびそれからなる成形品

【課題】成形品の反りが少ない液晶ポリマー組成物を提供すること。
【解決手段】液晶ポリマー100重量部に対して、平均粒子径が5〜100μmであり、縦横比が3.0〜5.0であるタルクを1〜200重量部含む、液晶ポリマー組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモトロピック液晶ポリマー(以下液晶ポリマーまたはLCPと略称する)は、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れているため、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。
【0003】
特にパーソナル・コンピューターや携帯電話等の情報・通信分野においては、部品の高集積度化、小型化、薄肉化、低背化が急速に進んでおり、非常に薄い肉厚部が形成されるケースが多い。そこで、LCPはその優れた成形性、すなわち流動性が良好であり、かつバリが出ないという他の樹脂にない特徴を生かして、その使用量が大幅に増大している。
【0004】
しかしながら、近年、はんだの鉛フリー化によりコネクターなどの電子部品用途において、リフロー温度がより高温化しており、LCPの成形品においても高温でのリフロー処理により生じる成形品の反りが問題となっている。
【0005】
このような、成形品の反りの問題を解消する方法としては、液晶ポリマーに板状の充填材を配合する方法が知られており、例えば、液晶ポリマーに、平均粒子径が0.5〜100μmで、D/W≦5、および3≦W/H≦200である、特定の形状を示す、タルクなどの板状充填材を液晶ポリマーに配合する方法が提案されている(特許文献1中で、Dは板状充填材の最大粒子径であり、その方向をx方向とし、Wはx方向と直角方向(y方向)の粒子径であり、Hはxy面に垂直なz方向の粒子厚である)。
【0006】
しかし、特許文献1において、タルクについては、D/W比が1.0〜1.3と、ほぼ円形から正方形の形状のタルクについて検討されているのみであって、このような形状のタルクでは反りの発生について改善は見られるもののその効果は十分ではなく、さらなる反りの発生の改善が求められるものであった。
【特許文献1】特開2001−106923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、成形品の反りが少ない液晶ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液晶ポリマー100重量部に対して、平均粒子径が5〜100μmであり、縦横比が3.0〜5.0であるタルクを1〜200重量部含む、液晶ポリマー組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いる液晶ポリマーは、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0010】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0011】
本発明に用いる液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。
【0012】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマーは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0013】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばパラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではパラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリマーの特性や融点を調整しやすいという点から好ましい。
【0014】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0015】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0016】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0017】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0018】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0019】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0020】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ジアミン、ヒドロキシ芳香族ジカルボン酸およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0021】
本発明に用いる液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0022】
以上、本発明において用いる液晶ポリマーに含まれる繰返し単位とそれを与える単量体について説明したが、本発明において用いる液晶ポリマーは、芳香族オキシカルボニル繰返し単位である、4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰り返し単位を含むものを用いるのがより好ましい。
【0023】
4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰り返し単位を含む液晶ポリマーのなかでも、好ましいものとしては、例えば下記のモノマー構成単位からなる共重合体が挙げられる。
【0024】
1)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸共重合体
2)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
7)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
8)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
10)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
11)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
12)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
13)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
15)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
16)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
17)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
18)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル /4−アミノフェノール共重合体
19)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
20)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
21)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
22)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体。
【0025】
これらの中では、成型加工性や、機械的性質から、1)、9)、13)の共重合体を液晶ポリマーとして用いるのが特に好ましい。
【0026】
本発明における液晶ポリマーは、成形時の流動性を改良するなどの目的で、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものを用いてもよい。
【0027】
以下、本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0028】
溶融アシドリシス法とは、本発明で用いる液晶ポリマーの製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0029】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0030】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0031】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0032】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0033】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0034】
触媒の使用割合は、通常モノマー重量に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0035】
このようにして重縮合反応されて得られた液晶ポリマーは、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0036】
得られた、ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリマーは、分子量を高め耐熱性を向上させる目的などで、減圧下または窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下において、実質的に固相状態において熱処理を行ってもよい。
【0037】
固相状態で熱処理を行う場合の処理温度は、液晶ポリマーが溶融しない限り特に限定されないが、260〜350℃、好ましくは280〜320℃で行うのがよい。
【0038】
このようにして得られた液晶ポリマーは、平均粒子径が5〜100μmであり、縦横比が3.0〜5.0であるタルクを配合された後、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍ないし結晶融解温度+30℃で溶融混練することにより、本発明の液晶ポリマー組成物とされる。
【0039】
なお、本発明に用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度(Tm)が270〜380℃のものが好ましく、320〜360℃のものがさらに好ましい。
【0040】
結晶融解温度(Tm)は、以下に記載する方法により測定されるものである。
〈結晶融解温度測定方法〉
液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の測定後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、さらに、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度(Tm)とする。
【0041】
以下、本発明において使用するタルクについて説明する。
本発明において用いるタルクは、平均粒子径が5〜100μm、より好ましくは5〜75μm、最も好ましくは5〜50μmのものである。
【0042】
本発明において、タルクの平均粒子径とは、レーザー回折法により測定されるメジアン径である。
【0043】
本発明において用いるタルクは、縦横比が3.0〜5.0、より好ましくは3.0〜4.5、最も好ましくは3.0〜4.0のものである。
【0044】
本発明において、タルクの縦横比とは、ベックマンコールター株式会社製のマルチイメージアナライザーによる測定に基づき、以下のようにして決定される。本発明において、タルクの縦横比は、コールター法によるタルクの粒子測定時に、粒子が細孔を通過する際に発生する電圧パルスに応じてストロボを発光させ、粒子の投影像を撮影し、これを画像解析することにより測定される。タルクの粒子の縦横比は、まず、投影像の外周上の任意の二点間の最長の長さ(A)を測定し、最大長(A)を測定した線に平行な二本の直線で投影像を挟んだ場合の2直線間の最短の長さ(B)を測定し、(A)÷(B)の値を算出することにより決定される。
【0045】
本発明において用いるタルクの使用量は、液晶ポリマー100重量部に対して1〜200重量部であり、より好ましくは5〜150重量部であり、最も好ましくは10〜100重量部である。
【0046】
本発明において用いるタルクは、ブリスターと呼ばれる成形品表面の膨れが発生し難いことや、成形品の耐熱性などの物性低下の影響が少ないことなどから、含水量が0.2重量%以下であるものを用いるのが好ましい。タルクの含水量は、株式会社ケット科学研究所製の赤外線水分計を用いて、以下に記載する方法により測定することができる。
【0047】
〈タルク含水量測定方法〉
タルクの試料を10g秤量し、105℃まで昇温した後に同温度にて保持し、試料の重量減少がなくなった時点の重量減少率をタルクの含水量とする。
【0048】
タルクの含水量が0.2重量%を超える場合には、例えば、100〜150℃にて乾燥し、含水量を0.2重量%以下とした後に用いればよい。
【0049】
本発明の液晶ポリマー組成物は、タルクの他に繊維状の充填材を含んでもよい。繊維状の充填材の使用量としては、液晶ポリマー100重量部に対して1〜200重量部であり、より好ましくは1〜150重量部であり、最も好ましくは1〜100重量部である。
【0050】
本発明において用いる繊維状の充填材の平均繊維径は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、0.1〜50μmであるのが好ましい。繊維状の充填材の断面が円形でない場合には、繊維状の充填材の断面外周の任意の二点間の最長の長さを繊維径とする。
【0051】
本発明において使用される繊維状の充填材の具体例としては、ガラス繊維、楕円型ガラス繊維、まゆ型ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびウォラストナイトかなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
【0052】
これらの繊維状の充填材の中では、液晶ポリマー組成物の物性とコストのバランスから、ガラス繊維、楕円型ガラス繊維、およびまゆ型ガラス繊維からなる群より選択される1種以上のものを用いるのがより好ましい。
【0053】
本出願の特許請求の範囲および明細書において、「ガラス繊維」とは断面が円形であるガラス繊維をいい、「楕円型ガラス繊維」とは断面が楕円形であるガラス繊維をいい、「まゆ型ガラス繊維」とは断面が2つの円の夫々一部が互いに重なりあった形状であるガラス繊維をいう。ここで、ガラス繊維、楕円型ガラス繊維、およびまゆ型ガラス繊維の断面形状の説明において、「円形」や「楕円形」は、幾何学上の円形や楕円形のみを示すものではなく、顕微鏡等により拡大視した場合に、円形や楕円形に類似する形状と認識されるものも含む意味である(たとえば、円形には角が丸みを帯びた正方形などが含まれ、楕円形には、角が丸みを帯びた長方形などが含まれる)。
【0054】
本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、さらにタルクを除く板状または粉状の充填材を含んでもよい。タルクを除く板状または粉状の充填材を用いる場合の使用量としては、液晶ポリマー100重量部に対して1〜200重量部であり、より好ましくは1〜150重量部であり、最も好ましくは1〜100重量部である。
【0055】
本発明において使用されるタルクを除く板状または粉状の充填材の具体例としては、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
【0056】
本発明の液晶ポリマー組成物において、タルクとともに、タルク以外の繊維状、板状、および粉状の充填材からなる群より選択される1種以上の充填材を用いる場合に、タルクおよびタルク以外の充填材の合計量は、液晶ポリマー100重量部に対して1〜200重量部であるのが好ましい。
【0057】
本発明の液晶ポリマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲でさらに、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤など1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0058】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、成形に際して予め、液晶ポリマーのペレットの表面に付着せしめてもよい。
ここで、高級脂肪酸とは炭素原子数10〜25のものをいう。
【0059】
また、本発明において用いる液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の樹脂成分、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂や、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0060】
その他の樹脂成分の配合量は特に限定されず、樹脂の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には本発明の液晶ポリマー100重量部に対する他の樹脂成分の配合量が1〜200重量部、特に10〜100重量部となる範囲において配合される。
【0061】
これらのタルク以外の繊維状、板状、または粉状の充填剤、添加剤および他の樹脂成分などは、タルクと同様に、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍ないし結晶融解温度+30℃で溶融混練して液晶ポリマーに配合すればよい。
【0062】
このようにして得られる本発明の液晶ポリマー組成物は、例えば、円盤状の試験片を用いた、以下に記載する反り量測定方法によって測定される反り量が6.0mm以下、好ましくは5.5mm以下、特に好ましくは5.0mm以下と極めて少ない反り量を示すものである。
【0063】
〈反り量測定方法〉
射出成形機(日精樹脂株式会社製、UH−1000−110)を用いて、厚さ1.0mm、直径100mmの円盤状の試験片を作成する。この試験片を23℃、相対湿度50%の条件で24時間静置した後、定盤上にてハイトゲージ(株式会社ミツトヨ製、HDM−30)を用いて、定盤面から試験片端部の上面の距離を測定し反り量とする。
【0064】
このようにして得られる本発明の液晶ポリマー組成物は、射出成形機、押出し機などを用いる公知の成形方法によって、成形品、フィルム、シート、および不織布などに加工される。
【0065】
特に、本発明の液晶ポリマー組成物は成形時の流動性に優れ、高温下においても反りが発生し難いため、リフローなど高温下で加工される、スイッチ、リレー、コネクター、チップ、光ピックアップ、インバータトランス、コイルボビンなどの成形材料として好適に用いられる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
以下に、実施例および比較例において使用した材料の略号について説明する。
〈液晶ポリマー〉
LCP1:UENO LCP2500(上野製薬株式会社製、4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体、結晶融解温度335℃)
LCP2:UENO LCP6700(上野製薬株式会社製、4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体、結晶融解温度330℃)
〈タルク〉
Talc1:富士タルク株式会社製、HK−A(縦横比3.6、平均粒子径24.0μm、含水量0.13重量%)
Talc2:富士タルク株式会社製 、FG1−A(縦横比3.6、平均粒子径26.1μm、含水量0.07重量%)
Talc3:富士タルク株式会社製、DS−34(縦横比2.6、平均粒子径19.8μm、含水量0.24重量%)
〈繊維状充填剤〉
GF1:ガラス繊維、ヴェトロテックス社製、10EC 3MM92C(平均繊維径10μm)
GF2:楕円型ガラス繊維、日東紡績株式会社製、CSG 3PA 831S(平均断面短径7μm、平均断面長径28μm)
【0068】
〔実施例1〜5、および比較例1〜3〕
液晶ポリマーとしてLCP1を用い、液晶ポリマー100重量部に対して表2に記載の量のタルクおよび繊維状充填材(GF1)を配合し、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX−30α)にて溶融混練したものをペレット化し、液晶ポリマー組成物を調製した。
得られた液晶ポリマー組成物のペレットを、表1に記載の条件で射出成形し、反り量測定用の円盤状の試験片を作成し、反りの評価を行った。
反り量の測定結果を表2に示す。
【0069】
表1:反り量測定用試験片の成形条件
【表1】

【0070】
表2:液晶ポリマー組成物の成分および反り量の評価
【表2】

【0071】
タルクを単独で配合した実施例1の液晶ポリマー組成物について反り量は3mm以下と非常に小さな値を示した。
また、用いたタルクの種類が異なる他は、タルクおよび繊維状の充填材の配合量が同一である、実施例2および比較例1、実施例3および比較例2、実施例4および比較例3をそれぞれ比較したところ、何れにおいても、縦横比の大きなタルクを用いた実施例2〜4の液晶ポリマー組成物の方が、縦横比の小さいタルクを用いた比較例1〜3よりも小さい反り量を示した。
【0072】
〔実施例6〜8、および比較例4〕
液晶ポリマーとしてLCP2を用い、液晶ポリマー100重量部に対して表4に記載の量のタルクおよび繊維状の充填材を配合し、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX−30α)にて溶融混練したものをペレット化し、液晶ポリマー組成物を調製した。
得られた液晶ポリマー組成物のペレットを、表1に記載の条件で射出成形し、反り量測定用の円盤状の試験片を作成し、反りの評価を行った。
また、表3に記載の条件で、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を射出成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で、荷重撓み温度(DTUL)を測定した。
反り量およびDTULの測定結果を表4に記す。
【0073】
表3:荷重撓み温度測定用試験片の成形条件
【表3】






































【0074】
表4:液晶ポリマー組成物の成分ならびに反り量およびDTULの評価
【表4】

【0075】
縦横比が3.6と大きなタルクを用いた実施例6〜8においては、6.0mm以下の低い反り量を示すことが確認されたが、縦横比が2.6と小さなタルクを用いた比較例4においては6.0mmを超える高い反り量を示した。
さらに、縦横比が大きなタルクとともに、楕円型のガラス繊維(GF2)を繊維状充填材として用いることにより、より反りの発生を少なくすることができた。
また、含水量が0.24重量%であるTalc3を用いた比較例4においては、含水量が0.2重量%以下であるTalc1および2を用いた実施例6および7と比較して、荷重撓み温度(DTUL)がやや低下する傾向が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー100重量部に対して、平均粒子径が5〜100μmであり、縦横比が3.0〜5.0であるタルクを1〜200重量部含む、液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
タルクの含水量が0.2重量%以下である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
さらに、液晶ポリマー100重量部に対して、1〜200重量部の繊維状の充填材を含む、請求項1または2に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
繊維状の充填材が、ガラス繊維、楕円型ガラス繊維、まゆ型ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびウォラストナイトからなる群より選択される1種以上のものである、請求項3に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
繊維状の充填材が、ガラス繊維、楕円型ガラス繊維、およびまゆ型ガラス繊維からなる群より選択される1種以上のものである、請求項3に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
さらに、液晶ポリマー100重量部に対して、1〜200重量部のタルクを除く板状または粉状の充填材を含む、請求項1〜5の何れかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項7】
板状または粉状の充填材が、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群より選択される1種以上のものである、請求項6に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項8】
該液晶ポリマー組成物を成形して得られる、厚さ1.0mm、直径100mmの円盤状の試験片を、23℃、相対湿度50%の条件で24時間静置した後の反り量が6.0mm以下である、請求項1〜7の何れかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の液晶ポリマー組成物を成形して得られる成形品。
【請求項10】
スイッチ、リレー、コネクター、チップ、光ピックアップ、インバータトランス、およびコイルボビンから選択される、請求項9に記載の成形品。

【公開番号】特開2008−138181(P2008−138181A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283766(P2007−283766)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】