説明

液晶ポリマー組成物の製造方法及び成形体

【課題】液晶ポリマー及び磁性フィラーを含む液晶ポリマー組成物から得られ、電磁波シールド性に優れた成形体、及び前記液晶ポリマー組成物の製造方法の提供。
【解決手段】シリンダ及び前記シリンダ内に設置されたスクリューを備えた溶融混練押出機を用い、前記シリンダに設けられた供給口から、
(A)液晶ポリマー、及び
(B)セラミック粉及び軟磁性金属粉の複合材料を不活性ガス雰囲気下で熱処理してなる磁性フィラー
を前記シリンダに供給して溶融混練することにより、液晶ポリマー組成物を製造する方法であって、前記溶融混練押出機のノズルから外部に押し出された混練物を、冷却速度60℃/秒以下で冷却する液晶ポリマー組成物の製造方法;かかる製造方法で得られた液晶ポリマー組成物を成形してなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド性及び電気絶縁性を有する成形体、及び該成形体を得るための液晶ポリマー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器、例えば、携帯電話等の通信機器やパーソナルコンピュータ等のOA機器の高性能化に伴い、その動作周波数の高周波数化が進んでいる。一方、高周波の動作周波数で作動する電気・電子機器は、高周波数の電磁波を放射し易いプロセッサや通信ケーブル等の電気・電子部品を有するため、この電磁波により誤作動が起き易いという問題点がある。また、この電磁波は、近接する他の電気・電子機器の誤作動を引き起こす原因にもなり、その人体への影響も懸念されている。そこで、高周波数の電磁波を放射し易い電気・電子部品には、電磁波シールド材からなる筐体が設けられている。
【0003】
電磁波シールド材には、電磁波を吸収することにより減衰させる絶縁性のものと、電磁波を反射する導電性のものとがあるが、反射された電磁波による電気・電子機器の誤作動を防止するという観点から、前者の絶縁性のものが好ましい。そこで、電磁波シールド材として、樹脂及び磁性フィラーを含む絶縁性の樹脂組成物から得られる成形体が検討されており、なかでも、液晶ポリエステル及び磁性フィラーを含む液晶ポリエステル組成物は、溶融流動性に優れて成形し易く、耐熱性や機械強度も高いことから、好ましい成形体材料として検討されている。例えば、特許文献1には、液晶ポリエステルとカップリング処理された軟磁性粉末とを含む液晶ポリエステル組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−237591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、液晶ポリエステル及び磁性フィラーを含む従来の液晶ポリエステル組成物から得られた成形体は、電磁波シールド性が必ずしも十分ではないという問題点があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液晶ポリマー及び磁性フィラーを含む液晶ポリマー組成物から得られ、電磁波シールド性に優れた成形体、及び前記液晶ポリマー組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
本発明は、シリンダ及び前記シリンダ内に設置されたスクリューを備えた溶融混練押出機を用い、前記シリンダに設けられた供給口から、下記成分(A)及び(B)を前記シリンダに供給して溶融混練することにより、液晶ポリマー組成物を製造する方法であって、前記溶融混練押出機のノズルから外部に押し出された混練物を、冷却速度60℃/秒以下で冷却することを特徴とする液晶ポリマー組成物の製造方法を提供する。
(A)液晶ポリマー
(B)セラミック粉及び軟磁性金属粉の複合材料を不活性ガス雰囲気下で熱処理してなる磁性フィラー
本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法においては、前記成分(A)が、全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法においては、前記成分(A)が、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有する液晶ポリエステルであることが好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法においては、前記セラミック粉が酸化ケイ素を主成分とすることが好ましい。
本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法においては、前記軟磁性金属粉が鉄又は鉄合金を主成分とすることが好ましい。
本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法においては、前記軟磁性金属粉の扁平率が2以上であることが好ましい。
本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法においては、前記複合材料が、前記軟磁性金属粉を前記セラミック粉で被覆してなることが好ましい。
本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法においては、前記成分(B)が、前記複合材料を前記不活性ガス雰囲気下で、800℃以上で熱処理してなることが好ましい。
本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法においては、前記成分(B)の供給量が、前記成分(A)100質量部に対して、100〜450質量部であることが好ましい。
本発明の液晶ポリマー組成物の製造方法においては、前記溶融混練押出機が、スクリューの直径(D)に対するスクリューの有効長さ(L)の比率(L/D)が20以上であるスクリューと、第一の供給口と、前記第一の供給口よりも押出方向下流側に位置する第二の供給口とを備え、前記成分(A)の全供給量の50質量%以上と、前記成分(B)の全供給量の50質量%以下とを、前記第一の供給口から供給し、前記成分(A)の残部と、前記成分(B)の残部とを、前記第二の供給口から供給して、溶融混練することが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られた液晶ポリマー組成物を成形してなることを特徴とする成形体を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液晶ポリマー及び磁性フィラーを含む液晶ポリマー組成物から得られ、電磁波シールド性に優れた成形体、及び前記液晶ポリマー組成物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<液晶ポリマー組成物の製造方法>
本発明に係る液晶ポリマー組成物の製造方法は、シリンダ及び前記シリンダ内に設置されたスクリューを備えた溶融混練押出機を用い、前記シリンダに設けられた供給口から、下記成分(A)及び(B)を前記シリンダに供給して溶融混練することにより、液晶ポリマー組成物を製造する方法であって、前記溶融混練押出機のノズルから外部に押し出された混練物を、冷却速度60℃/秒以下で冷却することを特徴とする。
(A)液晶ポリマー
(B)セラミック粉及び軟磁性金属粉の複合材料を不活性ガス雰囲気下で熱処理してなる磁性フィラー(以下、単に「磁性フィラー」ということがある。)
本発明によれば、押し出された混練物の冷却速度を60℃/秒以下とし、従来よりも低減することで、電磁波シールド性に優れた成形体を製造可能な液晶ポリマー組成物が得られる。
【0009】
前記液晶ポリマー(成分(A))は、特に限定されないが、液晶ポリエステルであることが好ましい。
前記液晶ポリマーは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0010】
前記液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0011】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0012】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0013】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0014】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0015】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0016】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0017】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0018】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが1,3−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは40〜70モル%、特に好ましくは45〜65モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、液晶ポリエステルの溶融流動性、耐熱性、強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0021】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0022】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に二種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0023】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルは溶融粘度が低くなり易い。
【0024】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性よく製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0025】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは270℃以上、より好ましくは270℃〜400℃、さらに好ましくは280℃〜380℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、高過ぎると、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0026】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0027】
本発明に係る液晶ポリマー組成物は、前記液晶ポリマーと、セラミック粉及び軟磁性金属粉の複合材料(コンポジット)を不活性ガス雰囲気下で熱処理してなる磁性フィラー(成分(B))とを配合し、溶融混練することにより得られ、これら液晶ポリマー及び磁性フィラーを含む。このように、液晶ポリマー及び所定の磁性フィラーを配合することにより、電磁波シールド性及び絶縁性に優れ、造粒が容易な液晶ポリマー組成物が得られる。
【0028】
前記磁性フィラーの体積平均粒径は、液晶ポリマーに対する分散性の点から、好ましくは1〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。ここで、「体積平均粒径」とは、レーザー回折法による測定で求められる値である。
【0029】
前記軟磁性金属粉は、軟磁性金属を含む粉体であり、軟磁性金属からなる粉体であることが好ましい。ここで、「軟磁性金属」とは、高透磁率材料のことであり、透磁率が大きく、保磁力が小さいものが好ましい(理科年表(理工図書出版)P413、415)。
軟磁性金属粉は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0030】
前記軟磁性金属の透磁率は、真空の透磁率で除した比透磁率で表して、好ましくは100以上、より好ましくは200以上である。そして、比透磁率100以上の軟磁性金属は、例えば、理科年表(理工図書出版)や、難波典之、金子文隆共著「電気材料−誘電材料・磁性材料−」208頁(理工図書出版、昭和55年3月発行)に記載されたものから選択することができ、好ましくはコバルト、鉄又はニッケルであり、より好ましくは鉄又はニッケルである。
【0031】
軟磁性金属粉は、軟磁性金属の合金を含む粉体であってもよく、その場合、軟磁性金属の合金からなる粉体であることが好ましい。このような合金の例としては、Fe−Si系合金(ケイ素鋼)、Fe−Al系合金(アルパーム)、Fe−Ni系合金(パーマロイ)、Fe−Co系合金、Fe−V系合金(パーメンジュール)、Fe−Cr系合金、Fe−Al−Si系合金、Fe−Cr−Al系合金、Fe−Cu−Nb−Si−B系合金、Fe−Ni−Cr系合金(ミューメタル)が挙げられ、これらの合金の比透磁率も、好ましくは100以上、より好ましくは200以上である。
【0032】
これら軟磁性金属及びその合金は、適した公知の粉砕手段又は分級手段により粉体状として、軟磁性金属粉とすることができる。
【0033】
軟磁性金属粉は、鉄又は鉄合金を主成分とするものが好ましく、軟磁性金属粉に占める鉄又はその合金の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%である。このような材質の軟磁性金属粉は、比透磁率が特に高いことから、得られる成形体は、電磁波シールド性がより優れたものとなり、経済性の点からも有利である。
【0034】
軟磁性金属粉の扁平率は、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上である。ここでいう扁平率とは、軟磁性金属粉を、走査型電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて、100〜300倍程度の倍率で外観観察し、100個程度の粒子について、各粒子における最も短い径(短径S)に対する最も長い径(長径L)の比率(L/S)を求め、それらを数平均して得られる値である。軟磁性金属粉の扁平率が2以上であれば、液晶ポリマー組成物を溶融成形する際、その流動方向(MD)に前記磁性フィラーの長軸が配向し易くなり、MDに平行な面を電磁波シールド面とすると、この面に占める前記磁性フィラーの面積割合が増大し易くなり、前記磁性フィラーの電磁波シールド性をより有効活用できる。
【0035】
前記セラミック粉は、酸化ケイ素を主成分とするものが好ましく、主成分以外の他の成分の例としては、窒化ケイ素、炭化ケイ素が挙げられ、有機基(有機成分)を含んでいてもよい。セラミック粉に占める酸化ケイ素の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%である。
セラミック粉は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0036】
このような酸化ケイ素を主成分とするセラミック粉としては、一般にシリカと称されている種々のものが市販品として入手できる。このような市販品シリカには、天然シリカ及び合成シリカ(人工シリカ)がある。
【0037】
天然シリカとしては、酸化ケイ素の純度が高い点で、石英を粉砕して得られたものが好ましく、石英から粉砕及び溶融を組み合わせて製造された天然シリカも、酸化ケイ素の純度が高いので好適である。
【0038】
合成シリカとしては、乾式合成シリカ及び湿式合成シリカが挙げられる。
乾式合成シリカとしては、例えば、四塩化ケイ素及び水素の混合物を、空気中において1000〜1200℃程度で焼成して得られたものや、金属シリコンを溶融させ、これをノズルから空気中に噴霧して得られたものが挙げられる。このような製造方法で得られた乾式合成シリカは、シリカ中に少量ながらSi−H結合を含んでいることがある。セラミック粉としては、このように少量のSi−H結合を含むものも使用できる。
一方、湿式合成シリカとしては、例えば、四塩化ケイ素やケイ酸アルコキシドを加水分解して得られたものが挙げられる。このような製造方法で得られた湿式合成シリカには、反応不純物である有機物や塩素が混入していたり、分子内にシラノール基(Si−OH)を含んだものがある。さらに、かかるシラノール基が水和して水和水を有しているものもある。セラミック粉としては、このような湿式合成シリカも使用できるが、このような湿式合成シリカは、例えば、800℃程度の高温下で処理し、水和水や有機物を除去して使用することが好ましい。このようなシリカとしては、例えば、アドマテックス社製、東ソー・シリカ社製の市販品が入手可能であり、セラミック粉として好適である。
【0039】
前記複合材料は、例えば、セラミック粉及び軟磁性金属粉を、ボールミル、遊星ボールミル、サンドミル等の、乾式で混合できる混合機を用いて混合することにより得られる。その際、混合機として遊星ボールミルを用いると、軟磁性金属粉をセラミック粉で被覆してなる複合材料が優先して得られ、このような複合材料から得られる前記磁性フィラーを用いることにより、液晶ポリマー組成物から得られる成形体の電気絶縁性は、より一層優れる傾向がある。このように、前記複合材料は、軟磁性金属粉をセラミック粉で被覆してなるものが好ましい。また、このような点から、軟磁性金属粉及びセラミック粉の使用量比(例えば、質量比)も、セラミック粉が軟磁性金属粉を被覆するように、選択することが好ましい。そのためには、例えば、軟磁性金属粉及びセラミック粉の使用量比を変化させて数水準の予備実験を行い、これで得られた複合材料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等で観察し、軟磁性金属粉のセラミック粉による被覆状態を確認することで、適した使用量比を選択すればよい。また、軟磁性金属粉及びセラミック粉の混合は、軟磁性金属粉が著しく酸化することを防止するため、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0040】
軟磁性金属粉をセラミック粉で被覆してなる複合材料の市販品としては、例えば、鉄粉をシリカ粒子で被覆してなる複合材料(日立ハイテクノロジーズ社製)が入手可能である。この日立ハイテクノロジーズ社製の複合材料に関しては、非特許文献「電子材料2008年9月号」に記載されている。
【0041】
なお、軟磁性金属粉をセラミック粉で被覆してなる複合材料においては、セラミック粉が軟磁性金属粉の表面の少なくとも一部を被覆していればよく、表面全面を被覆していてもよい。
【0042】
前記磁性フィラーは、前記複合材料を、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で熱処理することで得られる。ここで、熱処理温度は、700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましく、900℃以上であることが特に好ましい。また、熱処理時間は、5時間以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましい。
前記磁性フィラーは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明においては、溶融混練時に必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲内において、前記液晶ポリマー及び磁性フィラー以外の他の成分を供給(配合)し、液晶ポリマー組成物を、これら他の成分を含むものとしてもよい。
前記他の成分の例としては、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維等の繊維状補強剤;ホウ酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー等の針状補強剤;ガラスビーズ、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト等の無機充填剤;フッ素樹脂、金属石鹸類等の離型改良剤;染料、顔料等の着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;界面活性剤が挙げられる。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有する添加剤が挙げられる。さらに、少量の液晶ポリマー以外の樹脂が挙げられ、その例としては、ポリアミド、結晶性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
前記他の成分は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0044】
前記磁性フィラーの供給量は、液晶ポリマーの供給量100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、100〜450質量部であることがより好ましく、100〜300質量部であることがさらに好ましく、120〜250質量部であることが特に好ましい。このような範囲とすることで、成形体の電磁波シールド性、及び液晶ポリマー組成物の成形加工性のバランスにより優れる。なお、前記磁性フィラーとして複数種のものを併用する場合には、その全供給量が前記範囲となるようにし、同様に、液晶ポリマーとして複数種のものを併用する場合には、その全供給量が前記範囲となるようにする。
【0045】
液晶ポリマー組成物は、前記液晶ポリマー及び磁性フィラーを押出溶融混練して得られ、押出溶融混練してペレット状として得ることが好ましい。
【0046】
押出溶融混練に用いられる典型的な溶融混練押出機は、加熱手段を有するシリンダを備え、加熱溶融体を押し出すためのスクリューを前記シリンダ内に備えたものであり、シリンダ内に1本のスクリューが回転駆動されるように設けられている単軸溶融混練押出機でもよいし、シリンダ内に2本のスクリューが互いに異なる方向に又は同じ方向に回転駆動されるように設けられている二軸溶融混練押出機でもよいが、二軸溶融混練押出機が好ましい。
【0047】
溶融混練押出機は、スクリューの直径(D)に対するスクリューの有効長さ(L)の比率(L/D)が20以上(ここでLとDは同一のスケール単位である)であることが好ましく、このようにすることで、液晶ポリマーに前記磁性フィラーがより均一に分散する。なお、ここで「スクリューの有効長さ」とは、スクリューの軸方向における長さを意味し、「スクリューの直径」とは、スクリューの呼び外径寸法を意味する。
【0048】
溶融混練押出機は、溶融混練の対象となる原材料を供給するための供給口を複数備えていることが好ましい。前記液晶ポリマー及び磁性フィラーから加熱溶融体を形成して、液晶ポリマー組成物をペレット状として得るときには、まず、溶融混練押出機の押出方向上流側に設けられた第一の供給口から、液晶ポリマーの全供給量の50質量%以上と、前記磁性フィラーの全供給量の50質量%以下とを、溶融混練押出機に供給することが好ましい。そして、液晶ポリマーの残部([液晶ポリマーの全供給量]−[第一の供給口からの液晶ポリマーの供給量])と、前記磁性フィラーの残部([磁性フィラーの全供給量]−[第一の供給口からの磁性フィラーの供給量])とを、第一の供給口よりも押出方向下流側に設けられた第二の供給口から溶融混練押出機に供給することが好ましい。このようにすることで、加熱溶融体において液晶ポリマーと前磁性フィラーとの接触時間が比較的短くなり、液晶ポリマーの劣化が抑制される傾向がある。そしてこのような効果により優れる点から、第一の供給口からの液晶ポリマーの供給量は、その全供給量の60質量%以上であることが好ましい。また、第一の供給口からの前記磁性フィラーの供給量は、その全供給量の20質量%以下であることが好ましい。なお、上述のように、液晶ポリマー及び前記磁性フィラー以外の他の成分を供給する場合、前記他の成分は、第二の供給口から前記磁性フィラーと共に供給することが好ましい。
【0049】
本発明においては、溶融混練押出機のノズルからこの押出機の外部に押し出された混練物(液晶ポリマー組成物)を、冷却速度60℃/秒以下で冷却する。このようにすることで、液晶ポリマー組成物から得られた成形体は、優れた電磁波シールド性を有するものとなる。
【0050】
前記冷却速度は、例えば、溶融混練押出機から押し出された混練物の冷却方法、及び混練物の押出量で調節できる。
前記冷却速度は、例えば、溶融混練押出機のノズルから押し出された直後の混練物の温度a(℃)と、混練物がノズルから押し出されて(温度a(℃)を測定してから)時間t(秒)が経過した後の混練物の温度b(℃)とを測定し、温度aと温度bとの差を時間tで除する((a−b)/t)ことにより求められる。混練物の温度は、例えば、赤外放射温度計を用いて簡便に測定できる。時間tは、例えば、3〜10秒に設定することで、より高い精度で冷却速度を測定できる。
【0051】
本発明においては、ノズルから押し出された混練物は、液晶ポリマー組成物として成形体の製造に供するまでの間など、再度加熱を行うまでの間における冷却中に、冷却速度を60℃/秒以下とすればよい。そして、通常は、ノズルから押し出された直後の混練物は高温なので、これに何らかの強制的な冷却操作を加えて冷却する場合には、例えば、この冷却操作時の冷却速度を60℃/秒以下に制御し、少なくとも、自然に放熱させた状態で冷却速度が60℃/秒を越えないようになるまで、この冷却操作を継続すればよい。押し出された直後の混練物に、強制的な冷却操作を行わない場合には、冷却速度は通常、60℃/秒を越えることはないと考えられるが、工程に長時間を要するため、非効率的である。
【0052】
本発明においては、切断機を用いてノズルから押し出された混練物をペレット状等の形状に切断する場合には、前記温度bを切断機の入り口直前の混練物の温度とすることが好ましい。この場合、前記時間tは、押し出された混練物がノズルから前記切断機の入り口に到達するまでの時間となる。
【0053】
混練物の強制的な冷却は、空冷、水冷等で行うことが好ましい。例えば、ストランド冷却引取装置を用いれば、冷却シャワー水の噴霧やエアーの吹き付けの条件を調節することで、比較的容易に混練物の冷却速度を調節できる。このようなストランド冷却引取装置としては、例えば、いすず化工機社製やタナカ社製のものが挙げられる。
例えば、水冷時の冷却速度は60℃/秒以下、空冷時の冷却速度は40℃/秒以下とすることができる。
【0054】
混練物の押出量は、5〜300kg/時間であることが好ましく、10〜100kg/時間であることがより好ましい。このような範囲とすることで、混練物の冷却速度をより容易に調節できる。
【0055】
<成形体>
本発明に係る成形体は、前記製造方法で得られた液晶ポリマー組成物を成形してなることを特徴とする。
かかる成形体は、前記液晶ポリマー組成物を用いたことで、絶縁性に加え電磁波シールド性にも優れる。
【0056】
液晶ポリマー組成物の成形方法の例としては、射出成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、プレス成形法、射出プレス成形法、押出射出成形法が挙げられ、必要に応じて、これらの2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、電気・電子機器の部品として用いられる電気・電子部品の製造には、射出成形法、押出射出成形法等の溶融成形法が好ましく、射出成形法がより好ましい。
【0057】
射出成形は、射出成形機(例えば、日精樹脂工業社製「油圧式横型成形機PS40E5ASE型」)を用いて、前記液晶ポリマー組成物を溶融させ、溶融した液晶ポリマー組成物を、適切な温度に加熱して、所望のキャビティ形状を有する金型内に射出することにより行うことができる。射出するために液晶ポリマー組成物を加熱溶融させる温度は、使用する液晶ポリマー組成物の流動開始温度Tp’℃を基点として、[Tp’+10]℃以上、[Tp’+50]℃以下とすることが好ましい。また、金型の温度は、液晶ポリマー組成物の冷却速度と生産性の点から、室温(例えば、23℃)〜180℃の範囲から選択することが好ましい。
【0058】
前記成形体は、例えば、23℃における体積固有抵抗値を、好ましくは1×10Ωm以上とすることができる。ここで、「体積固有抵抗値」は、「ASTM D257」に準拠して測定した値である。
また、前記成形体は、例えば、電磁波シールド性を周波数2.5GHzの高周波に対する減衰効果で表して、好ましくは1dB以上、より好ましくは2.5dB以上とすることができる。
【0059】
前記成形体は、各種用途に適用できるが、特にその電気絶縁性及び電磁波シールド性を有効活用できる点から、表面実装部品として好適に用いられる。かかる表面実装部品としては、例えば、電気・電子部品のハウジング、チョークコイル、コネクターが挙げられる。前記成形体を表面実装部品として用いると、電磁波ノイズを吸収するという効果が期待されるので、極めて有用である。
【実施例】
【0060】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、液晶ポリエステルの流動開始温度は、以下の方法で測定した。
【0061】
(液晶ポリエステルの流動開始温度の測定)
フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0062】
<液晶ポリエステルの製造>
[製造例1]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で撹拌しながら30分かけて150℃まで昇温し、この温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
次いで、留出する副生成物の酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却後、粗粉砕機で粉砕して粉末とした。
この粉末を、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、この温度(285℃)で3時間保持することにより、固相重合を行った後、冷却し、液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は327℃であった。
【0063】
<磁性フィラーの製造(複合材料の熱処理)>
[製造例2]
鉄粉をシリカ粒子で被覆してなる複合材料である電磁波吸収フィラー(日立ハイテクノロジーズ社製、体積平均粒径20μm、扁平率2.7)をるつぼに投入し、これを電気炉に入れ、窒素ガス雰囲気下、表1に示す温度及び時間で熱処理を行い、磁性フィラーを得た。
【0064】
<液晶ポリエステル組成物及び成形体の製造>
[実施例1]
(液晶ポリエステル組成物の製造)
製造例1で得られた液晶ポリエステルと、製造例2で得られた磁性フィラーとを、表1に示す割合で、同方向二軸溶融混練押出機(池貝鉄工社製「PCM−30HS」)のシリンダに、このシリンダに設けられた供給口から供給した。このとき、液晶ポリエステルの全供給量のうち70質量%を、前記押出機の上流側に位置する第一の供給口から供給し、液晶ポリエステルの残部である全供給量の30質量%と、磁性フィラーの全量とを、前記押出機の第一の供給口よりも押出方向下流側に位置する第二の供給口から供給した。次いで、供給した成分を溶融混練した後、表1に示すように、混練物を前記押出機のノズルからストランド状に押し出して冷却し、ストランドカッターで裁断して造粒することにより、ペレット状の液晶ポリエステル組成物を得た。このとき、ストランド状の混練物は、ストランド冷却引取装置(いすず化工機社製)を用い、エアーの吹き付けによる空冷で冷却した。また、冷却速度は、押出機のノズルから押し出された直後の混練物の温度aと、ストランドカッター入り口直前の混練物の温度bとの差を、ノズルからストランドカッターに到達するまでの時間tで割った値とした。
【0065】
(成形体の製造)
射出成形機(日精樹脂工業社製「PS40E5ASE型」)を用いて、上記で得られた液晶ポリエステル組成物を、シリンダー温度340℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sの条件で射出成形し、サイズが64mm×64mm×1mmの成形体を得た。
【0066】
[実施例2〜4、比較例1]
製造条件を表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様に液晶ポリエステル組成物及び成形体を製造した。なお、ストランド状の混練物の水冷は、冷却シャワー水の噴霧により行った。
【0067】
<成形体の評価>
(電磁波減衰効果の測定)
上記各実施例及び比較例で得られた成形体を用いて、「ASTM D4935」に準拠した同軸管タイプ(キーコム社製「S−39D」)により、周波数2.5GHzで、成形体の電磁波減衰効果を測定し、電磁波シールド性を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(体積固有抵抗値の測定)
上記各実施例及び比較例で得られた成形体を用いて、「ASTM D257」に準拠し、東亜電波工業社製「SM−10E型超絶縁計」により体積固有抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
上記結果から明らかなように、押出機のノズルから押し出した混練物を、22〜53℃/秒の冷却速度で冷却した実施例1〜4の成形体は、いずれも優れた電磁波シールド性を示した。これに対して、押出機のノズルから押し出した混練物を、67℃/秒の冷却速度で冷却した比較例1の成形体は、電磁波シールド性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、電気・電子機器における電磁波シールド材に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ及び前記シリンダ内に設置されたスクリューを備えた溶融混練押出機を用い、前記シリンダに設けられた供給口から、下記成分(A)及び(B)を前記シリンダに供給して溶融混練することにより、液晶ポリマー組成物を製造する方法であって、
前記溶融混練押出機のノズルから外部に押し出された混練物を、冷却速度60℃/秒以下で冷却することを特徴とする液晶ポリマー組成物の製造方法。
(A)液晶ポリマー
(B)セラミック粉及び軟磁性金属粉の複合材料を不活性ガス雰囲気下で熱処理してなる磁性フィラー
【請求項2】
前記成分(A)が、全芳香族液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
【請求項3】
前記成分(A)が、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有する液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【請求項4】
前記セラミック粉が酸化ケイ素を主成分とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
【請求項5】
前記軟磁性金属粉が鉄又は鉄合金を主成分とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
【請求項6】
前記軟磁性金属粉の扁平率が2以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
【請求項7】
前記複合材料が、前記軟磁性金属粉を前記セラミック粉で被覆してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
【請求項8】
前記成分(B)が、前記複合材料を前記不活性ガス雰囲気下で、800℃以上で熱処理してなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
【請求項9】
前記成分(B)の供給量が、前記成分(A)100質量部に対して、100〜450質量部であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
【請求項10】
前記溶融混練押出機が、スクリューの直径(D)に対するスクリューの有効長さ(L)の比率(L/D)が20以上であるスクリューと、第一の供給口と、前記第一の供給口よりも押出方向下流側に位置する第二の供給口とを備え、
前記成分(A)の全供給量の50質量%以上と、前記成分(B)の全供給量の50質量%以下とを、前記第一の供給口から供給し、前記成分(A)の残部と、前記成分(B)の残部とを、前記第二の供給口から供給して、溶融混練することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法で得られた液晶ポリマー組成物を成形してなることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2013−103967(P2013−103967A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247741(P2011−247741)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】