説明

液晶性ポリエステル樹脂および液晶性ポリエステル樹脂組成物

【課題】耐熱性が向上した液晶性ポリエステル樹脂および耐熱性が優れると共に遮音性に優れた成形品を与えることができる液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】液晶性ポリエステル樹脂の全構造単位を100モル%とした場合に、下記構造単位(1)を0.1〜5モル%含有する液晶性ポリエステル樹脂および液晶性ポリエステル樹脂100重量部に対して、下記式(2)で表される化合物を0.1〜10重量部配合してなることを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】


(ただし、nは2〜10の整数である。)
【化2】


(ただし、Xは水酸基もしくはハロゲン原子であり、nは2〜10の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性ポリエステル樹脂の組成を大きく変えることなく結晶性を制御して耐熱性が向上した液晶性ポリエステル樹脂および耐熱性が優れると共に遮音性に優れた成形品を与えることができる液晶性ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジニアリングプラスチックは、金属の代替等に対しても需要が増加しており、これまでプラスチックが用いられることがなかった耐熱性を要求される用途などにも使用が検討されるようになってきている。特に、自動車用途においては、プラスチックの使用量が年々増加しており、エンジン回りでもプラスチック製の部品が用いられるようになっていることから、はんだ耐熱に相当する耐熱性が求められるようになっている。
【0003】
そこで、耐熱性の高いエンジニアリングプラスチックとして、液晶性ポリエステル樹脂が注目されているが、液晶性ポリエステル樹脂は、主に芳香族系のポリエステルであり、剛直な分子構造を有しているために、結晶構造を形成しにくく、融点に対して耐熱温度が低くなるという傾向があった。
【0004】
このような問題を解決するために、液晶性ポリエステル樹脂の耐熱性改良技術が従来から検討されており、例えばクオーターフェニルジカルボン酸をモノマーとして用いた液晶性ポリエステル樹脂(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この技術では耐熱性が改良されるとは言及されているものの、その効果の詳細については明らかにされてはいない。
【0005】
また、液晶性ポリエステル樹脂に低分子量のモノカルボン酸を添加してなる糸中のボイドが低減した樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)も知られているが、この技術は耐熱性の改良についてまでは何ら言及するものではない。
【0006】
このように、液晶性ポリエステル樹脂の耐熱性を改良する目的に対して、種々のモノマー成分の共重合を試した例や、添加剤を配合した検討がなされているが、液晶性ポリエステル樹脂の組成を大きく変えることなく、その結晶性に着目し、耐熱性を改良した例については、今まで知られていなかった。
【特許文献1】特開平6−239979号公報(第1〜2頁)
【特許文献2】特開平7−173272号公報(第1〜2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、液晶性ポリエステル樹脂の組成を大きく変えることなく結晶性を制御して耐熱性が向上した液晶性ポリエステル樹脂および耐熱性が優れると共に遮音性に優れた成形品を与えることができる液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため本発明によれば、
液晶性ポリエステル樹脂の全構造単位を100モル%とした場合に、下記の式で表される構造単位(1)を0.1〜5モル%含有することを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂、および
液晶性ポリエステル樹脂100重量部に対して、下記式(2)で表される化合物を0.1〜10重量部配合してなることを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物
が提供される。
【0010】
【化1】

(ただし、nは2〜10の整数である。)
【0011】
【化2】

(ただし、Xは水酸基もしくはハロゲン原子であり、nは2〜10の整数である。)
【0012】
なお、本発明においては、
前記式(2)で表される化合物におけるXの98%以上が水酸基であること、
前記式(1)で表される構造単位および前記式(2)で表される化合物におけるnが4〜6の正の整数であること、および
前記液晶性ポリエステル樹脂または液晶性ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して、充填剤0.5〜300重量部を配合してなること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下に説明するとおり、液晶性ポリエステル樹脂の組成を大きく変えることなく結晶性を制御して耐熱性が向上した液晶性ポリエステル樹脂および耐熱性が優れると共に遮音性に優れた成形品を与えることができる液晶性ポリエステル樹脂組成物を得ることができ、これら液晶性ポリエステル樹脂および液晶性ポリエステル樹脂組成物は、電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車・車両関連部品などの各種用途、特に自動車のキャビン防音部品用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0015】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂は下記式(1)で表される構造単位(以下、構造単位(1)と呼ぶ。)を必須成分とする。
【0016】
【化3】

(ただし、nは2〜10の整数である。)
【0017】
構造単位(1)は、液晶性ポリエステル樹脂の全構造単位を100モル%とした場合に、0.1〜5モル%含有されていることが必須であり、好ましくは1〜4モル%、更に好ましくは2〜4モル%である。
【0018】
構造単位(1)を必須単位とすることで、本発明の液晶ポリエステル性樹脂は、分子鎖内にエーテル結合での連鎖構造を有することになり、これによって結晶性が大きく向上する。
【0019】
構造単位(1)中のnは平均繰り返し数を表しており、2〜10の整数であるが、3〜8が好ましく、より好ましくは4〜6である。
【0020】
平均繰り返し数が上記の範囲であれば、本発明の効果が顕著に得られるため好ましい。
【0021】
また、本発明のもう一つの好ましい態様としては、下記式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)と呼ぶ。)を、液晶性ポリエステル樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部配合した液晶性ポリエステル樹脂組成物が挙げられる。
【0022】
【化4】

(ただし、Xは水酸基もしくはハロゲン原子であり、nは2〜10の整数である。)
【0023】
化合物(2)を液晶性ポリエステル樹脂に配合すると、化合物(2)の水酸基と液晶性ポリエステル樹脂のカルボキシル基が縮合反応したり、エステル交換反応によって分子鎖内に取り込まれたりして、化合物(2)由来の構造単位(1)が、分子鎖末端や分子鎖中に存在する液晶性ポリエステル樹脂組成物が得られる。
【0024】
化合物(2)の液晶性ポリエステル樹脂への配合量は、液晶性ポリエステル樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部であるが、より好ましくは、1〜5重量部であり、更に好ましくは1〜3重量部である。
【0025】
化合物(2)においては、式中のXの98%以上が水酸基であることが好ましいが、より好ましくは99%以上であり、更に好ましくは99.2%以上が水酸基である。
【0026】
上記範囲においては、化合物(2)が液晶性ポリエステル樹脂の分子鎖中に取り込まれる割合が高いため、より好ましい効果が得られる。
【0027】
また、化合物(2)においては、式中のnが4〜6の正の整数であることが好ましく、6がより好ましい。
【0028】
このような化合物(2)を配合することにより、液晶性ポリエステル樹脂の結晶性が大きく改良され、耐熱性が向上する。例えば、nが1の化合物では、分子鎖の配列に対する分子鎖方向の長さが短いために、液晶性ポリエステル樹脂の結晶性に与える影響が少なく、耐熱性向上効果が得られない。
【0029】
本発明でいう液晶性ポリエステル樹脂とは、一つには構造単位(1)を含有している液晶性ポリエステル樹脂であり、もう一つには、化合物(2)を配合する液晶性ポリエステル樹脂である。
【0030】
化合物(2)を配合する液晶性ポリエステル樹脂は、構造単位(1)を含有している液晶性ポリエステル樹脂と同じであってもよい。
【0031】
液晶性ポリエステル樹脂としては、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド、液晶性ポリカーボネート、液晶性ポリエステルエラストマーなどが挙げられ、なかでも分子鎖中にエステル結合を有するものが好ましく、特に液晶性ポリエステルが好ましく用いられる。
【0032】
本発明でいう液晶性ポリエステルとは、異方性溶融相を形成するポリエステルであり、例えば芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、エチレンジオキシ単位などの芳香族ジオキシ単位から選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成するポリエステルが挙げられる。また、液晶性ポリエステルアミド樹脂とは、異方性溶融相を形成するポリエステルアミドであり、例えば上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなるポリエステルアミドが挙げられる。
【0033】
芳香族オキシカルボニル単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシ−1,1’−ビフェニルなどから生成した構造単位、芳香族ジオキシ単位としては、例えば、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどから生成した構造単位、芳香族ジカルボニル単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸などから生成した構造単位、芳香族イミノオキシ単位としては、例えば、4−アミノフェノールなどから生成した構造単位が挙げられる。
【0034】
芳香族オキシカルボニル単位としては、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位が好ましく、全構造単位を100モル%とした場合に、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位を1〜80モル%含有することが好ましく、より好ましくは3〜78モル%、更に好ましくは5〜75モル%である。
【0035】
本発明においては、芳香族ジオキシ単位を含むことが好ましい。芳香族ジオキシ単位としては、下記式で表される構造単位(3)が好ましく、なかでも4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンから生成した構造単位が好ましい。
【0036】
【化5】

(ただしR1は
【0037】
【化6】

から選ばれた1種以上の基である)。
【0038】
芳香族ジオキシ単位(3)の含有量としては、全構成単位100モル%に対して、1〜30モル%が好ましく、より好ましくは2〜25モル%である。
【0039】
本発明においては、芳香族ジカルボニル単位を含むことが好ましい。芳香族ジカルボニル単位としては、下記式で表される構造単位(4)が好ましく、なかでもテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4−ジフェニルジカルボン酸などから生成した構造単位が好ましい。
【0040】
【化7】

(ただし、R2は
【0041】
【化8】

から選ばれた1種以上の基である。)
【0042】
上記構造単位(4)の含有量としては、全構成単位100モル%に対して、1〜30モル%が好ましく、より好ましくは2〜25モル%である。
【0043】
構造単位(3)と(4)は実質的に等モルである。
【0044】
液晶性ポリエステル樹脂の好ましい具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、イソフタル酸から生成した構造単位およびテレフタル酸から生成した構造単位からなるものが好ましい。
【0045】
構造単位(1)を有する本発明の液晶性ポリエステル樹脂は、上述の芳香族ジオキシ単位の一部を構造単位(1)に代替したものであり、具体的にヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位50〜60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位12〜18モル%、ハイドロキノンから生成した構造単位5〜8モル%、イソフタル酸から生成した構造単位7〜10モル%およびテレフタル酸から生成した構造単位12〜18モル%からなる液晶性ポリエステル樹脂においては、4,4’−ジヒドロキシビフェニルもしくはハイドロキノンから生成した構造単位の1〜10モル%を構造単位(1)に代替したものである。
【0046】
好ましくは、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンを当量の構造単位(1)に代替することが好ましい。
【0047】
具体的には、ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位50〜60モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位7〜17モル%、ハイドロキノンから生成した構造単位4〜7モル%、イソフタル酸から生成した構造単位7〜10モル%およびテレフタル酸から生成した構造単位12〜18モル%および構造単位(1)1〜10モル%からなる液晶性ポリエステルである。
【0048】
上記好ましく用いることができる液晶性ポリエステル樹脂は、上記構造単位を構成する成分以外に、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロロハイドロキノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環式ジオールおよびm−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびp−アミノ安息香酸などを液晶性を損なわない程度の範囲でさらに共重合せしめることができる。
【0049】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂の融点については特に制限されるものではなく、210〜390℃の広い範囲に組成によって制御可能であり、用途に合わせて設計可能で、本発明が目的とする耐熱性を生かすためには、好ましくは290〜360℃、より好ましくは300〜350℃である。
【0050】
ここで、融点(Tm)とは、示差熱量測定(DSC)において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )を観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )を指す。融点が観測されない液晶性樹脂については、上限は400℃まで観測する。
【0051】
上記融点を有する液晶性ポリエステル樹脂は、上記した組成から好ましい組成範囲を選択することにより得ることができる。
【0052】
また、本発明における液晶性ポリエステル樹脂の溶融粘度は、流動性を良好に発揮するために、1〜200Pa・sであることが好ましく、特に5〜100Pa・sであることがより好ましい。また、流動性により特に優れた液晶性樹脂を得ようとする場合には、溶融粘度を50Pa・s以下とすることが好ましい。
【0053】
なお、この溶融粘度は、融点+10℃において、ずり速度1,000(1/秒)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0054】
本発明の上記液晶性ポリエステル樹脂の基本的な製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステル樹脂の重縮合法に準じて製造できる。
【0055】
例えば、上記液晶性ポリエステル樹脂の製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。なお、下記は、p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸からなる液晶性ポリエステル樹脂の合成を例にとり説明したものであるが、共重合組成としてはこれらに限定されるものではない。
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4´−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンとテレフタル酸、イソフタル酸とから脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸のジフェニルエステルとから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸およびテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
【0056】
なかでも、p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステル樹脂を製造する方法が好ましい。
【0057】
特に構造単位(1)を共重合する際には、p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸および化合物(2)を無水酢酸と反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステル樹脂を製造する方法が好ましい。
【0058】
この場合の無水酢酸の使用量は、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンおよび構造単位(1)を共重合するために化合物(2)を重合時に添加する場合には、化合物(2)のフェノール性水酸基の合計の1.15当量以下であることが好ましく、1.10当量以下であることがより好ましく、下限については1.05当量超であることが好ましい。
【0059】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂を脱酢酸重縮合反応により製造する際には、液晶性ポリエステル樹脂が溶融する温度で減圧下反応させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸、化合物(2)および無水酢酸を、攪拌翼、留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱し水酸基をアセチル化させた後、液晶性ポリエステルの溶融温度まで昇温し、0.1Mpaまで窒素加圧し、10分〜1時間程度加熱撹拌した後、放圧し、次いで減圧により重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。アセチル化させる条件は、通常130〜300℃の範囲、好ましくは135〜200℃の範囲で、通常1〜6時間、好ましくは140〜180℃の範囲で2〜4時間反応させる。重縮合させる温度は、液晶性ポリエステルの溶融温度、例えば、250〜350℃の範囲であり、好ましくは液晶性ポリエステルの融点+10℃以上の温度である。重縮合させるときの減圧度は通常13.3Pa〜2660Paであり、好ましくは1330Pa以下、より好ましくは665Pa以下である。なお、アセチル化と重縮合は同一の反応容器で連続して行っても良いが、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行っても良い。
【0060】
重合終了後、得られたポリマーを反応容器から取り出すには、ポリマーが溶融する温度で反応容器内を、例えばおよそ0.1Mpaに加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出することができる。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ない優れたポリマーを得ることができることから好ましい。
【0061】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂を製造する際には、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。例えば、本発明の液晶性ポリエステル樹脂のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕し、窒素気流下、または、減圧下、液晶性ポリエステル樹脂の融点−5℃〜融点−50℃(例えば、200〜300℃)の範囲で1〜50時間加熱し、所望の重合度まで重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。固相重合法は高重合度のポリマーを製造するための有利な方法である。
【0062】
液晶性ポリエステル樹脂の重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0063】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂は、数平均分子量は3,000〜25,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜20,000、より好ましくは8,000〜18,000の範囲である。
【0064】
なお、この数平均分子量は液晶性ポリエステルが可溶な溶媒を使用してGPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により測定することが可能である。
【0065】
本発明においては、液晶性ポリエステル樹脂または液晶性ポリエステル樹脂組成物の機械強度その他の特性を付与するために、充填剤を使用することが可能であり、特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状など非繊維状の充填剤を使用することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填剤、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリ燐酸カルシウム、グラファイトなどの粉状、粒状あるいは板状の充填剤が挙げられる。上記充填剤中、ガラス繊維や炭素繊維が好ましく使用され、より好ましくはガラス繊維である。炭素繊維はPAN系またはピッチ系の炭素繊維であり、一般に樹脂の強化用に用いられているものならば特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョプドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。
【0066】
また、上記の充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填剤は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)や、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0067】
また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0068】
上記の充填剤の添加量は、液晶性ポリエステル樹脂または液晶性ポリエステル樹脂組成物100重量部に対し、0.5〜300重量部であり、好ましくは10〜200重量部、より好ましくは15〜100重量部の範囲である。
【0069】
さらに、本発明の液晶性ポリエステル樹脂または液晶性ポリエステル樹脂組成物には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、亜燐酸塩、次亜燐酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料(たとえばニグロシンなど)および顔料(たとえば硫化カドミウム、フタロシアニンなど)を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(例えばブロム化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、水酸化マグネシウム、メラミンおよびシアヌール酸またはその塩など)、難燃助剤、帯電防止剤などの通常の添加剤を添加して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0070】
また、更なる特性改良の必要性に応じて、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどのオレフィン系重合体および無水マレイン酸などによる酸変性オレフィン系重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、ABSなどのオレフィン系共重合体、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマー等のエラストマーから選ばれる1種または2種以上の混合物を添加して所定の特性をさらに付与することができる。
【0071】
これらを添加する方法は、溶融混練することが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、180〜340℃の温度で溶融混練して組成物とすることができる。その際、液晶性ポリエステル樹脂と充填材およびその他添加剤との一括混練法、あるいは一度高濃度の充填材およびその他の添加剤入り液晶性ポリエステル樹脂を作成し、次いで規定の濃度になるように液晶性ポリエステル樹脂に高濃度の充填材およびその他の添加剤入り液晶性ポリエステル樹脂を添加する方法(マスターペレット法)のどちらの方法を用いてもかまわない。
【0072】
化合物(2)を配合する方法としては、上述の溶融混練が好ましい。化合物(2)を液晶性ポリエステル樹脂の分子鎖中に取り込ませるために、溶融混練においては、250〜350℃において、L/Dが3以上の押出機において、ニーディングブロックを2つ以上有するスクリューアレンジの2軸噛み合い型の押出機で滞留時間を5〜40分として行うことが好ましい。
【0073】
また、本発明の液晶性ポリエステル樹脂または液晶性ポリエステル樹脂組成物は、優れた成形性、光学異方性を有し、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形などの通常の成形方法により優れた表面外観、寸法精度および機械的性質を有する三次元成形品、シート、容器、パイプ、フィルム、繊維などに加工することが可能である。
【0074】
かくしてなる本発明の液晶性ポリエステル樹脂または液晶性ポリエステル樹脂組成物は、耐熱性に優れ、はんだごての接触にも耐えるため、電気電子部品、機械機構部品、自動車部品に好適な成形品が得られるが、特に、液晶性ポリエステル樹脂組成物は高い遮音性を有しているため、自動車キャビン部品に有用である。
【0075】
例えば、成形品として用いる場合には、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品、その他各種用途に有用である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳述する。
【0077】
なお、以下の実施例において、化合物(2)としては、SPECIANOL DPE−PL(大日本インキ化学工業株式会社製4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルオリゴマー 平均繰り返し数6)を使用した。
【0078】
また、各種特性の評価は、下記の方法により行った。
【0079】
[融解熱量]
示差熱量測定において、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)とした。Tm2のピーク面積から融解熱量を算出した。
【0080】
[DTUL]
住友ネスタ−ル射出成形機プロマット40/25(住友重機械工業(株)製)で金型温度を90℃、シリンダー温度を融点+5℃、または融点+20℃に設定し、射出速度99%、射出圧力1000kgf/cm(49MPa)で成形し、127mm×12.7mm×3.2mm厚の試験片を成形し、ISO75−2に従い、1.80MPa荷重でDTULを測定した。
【0081】
[ハンダごて接触試験(耐熱性評価)]
上記で作成した成形品の表面に、5mmφ×1mm厚の円板上のはんだを置き、温度が安定するまで放置したはんだごてをはんだ上に接触した。1秒後はんだごてを外し、冷却後はんだを剥離した。成形品表面に溶融へこみができているかどうかを目視確認し、へこみが生じていない場合には、成形品表面の温度が室温に戻った後、同様の操作を繰り返し、1秒のはんだ接触に何回耐えたかを積算した秒数で評価した。
【0082】
[制振性]
220mm×12.7mm×3.2mm厚の試験片を成形し、得られた試験片に8φ×0.3mm厚の磁性鋼を固定部から50、150mmの位置にグリスで接着し、高低温槽中にセットして1次共振周波数での損失係数を求めた(電力増幅器(B&K製2706型)、前置増幅器(B&K製2639S型)および2チャンネルFFT分析器(B&K製2034型)を用いる)。評価は、振幅が1/10に減衰するまでの振動回数により行った。
【0083】
[実施例1]
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に、p−ヒドロキシ安息香酸870g、4,4´−ジヒドロキシビフェニル344g、ハイドロキノン84g、SPECIANOL DPE−PL77.8g、テレフタル酸292g、イソフタル酸157gおよび無水酢酸1278g(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた後、330℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に90分間反応を続け、トルクが15Kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0Kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0084】
この液晶性ポリエステル樹脂(A−1)は、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位が53.8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位が15.8モル%、ハイドロキノン由来の構造単位が6.5モル%、構造単位(1)が0.8モル%、テレフタル酸由来の構造単位が15モル%、イソフタル酸由来の構造単位が8.1モル%からなり、Tm(液晶性ポリエステルの融点)は317℃で、数平均分子量11,000であり、高化式フローテスターを用い、温度327℃、剪断速度1,000/sで測定した溶融粘度が21Pa・sであった。
【0085】
なお、融点(Tm)は示差熱量測定において、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)とした。
【0086】
また、分子量は液晶性ポリエステル樹脂が可溶な溶媒であるペンタフルオロフェノールを使用してGPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により測定し、数平均分子量を求めた。
【0087】
液晶性ポリエステルのペレットを熱風乾燥後、サイドフィーダを備えた日本製鋼所製TEX30型2軸押出機で、液晶性ポリエステル樹脂(A−1)100重量部をホッパーから投入し、50重量部のガラス繊維(ECS03T−790DE 日本電気硝子製)をサイドから投入し、樹脂温度が融点+10℃になるようにシリンダーのヒーター設定温度を調整し、スクリュー回転数100r.p.mの条件で溶融混練してペレットとした。熱風乾燥後上記の評価を行った結果を表1に示す。
【0088】
[実施例2]
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に、p−ヒドロキシ安息香酸870g、4,4´−ジヒドロキシビフェニル327g、ハイドロキノン74g、SPECIANOL DPE−PL233.5g、テレフタル酸292g、イソフタル酸157gおよび無水酢酸1278g(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた後、330℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に90分間反応を続け、トルクが15Kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に、反応容器内を1.0Kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0089】
この液晶性ポリエステル(A−2)はp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位が53.8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位が15モル%、ハイドロキノン由来の構造単位が5.8モル%、構造単位(1)が2.3モル%、テレフタル酸由来の構造単位が15モル%、イソフタル酸由来の構造単位が8.1モル%からなり、Tm(液晶性ポリエステルの融点)は316℃で、数平均分子量12,000であり、高化式フローテスターを用い、温度326℃、剪断速度1,000/sで測定した溶融粘度が20Pa・sであった。
【0090】
液晶性ポリエステル樹脂のペレットを熱風乾燥後、サイドフィーダを備えた日本製鋼所製TEX30型2軸押出機で、液晶性ポリエステル樹脂(A−2)100重量部をホッパーから投入し、50重量部のガラス繊維(ECS03T−790DE 日本電気硝子製)をサイドから投入し、樹脂温度が融点+10℃になるようにシリンダーのヒーター設定温度を調整し、スクリュー回転数100r.p.mの条件で溶融混練してペレットとした。熱風乾燥後実施例1と同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0091】
[比較例1]
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に、p−ヒドロキシ安息香酸870g、4,4´−ジヒドロキシビフェニル351g、ハイドロキノン89g、テレフタル酸292g、イソフタル酸157gおよび無水酢酸1278g(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた後、330℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に90分間反応を続け、トルクが15Kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0Kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0092】
この液晶性ポリエステル樹脂(B−1)はp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位が53.8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位が16.2モル%、ハイドロキノン由来の構造単位が6.9モル%、テレフタル酸由来の構造単位が15モル%、イソフタル酸由来の構造単位が8.1モル%からなり、Tm(液晶性ポリエステルの融点)は317℃で、数平均分子量12,000であり、高化式フローテスターを用い、温度326℃、剪断速度1,000/sで測定した溶融粘度が24Pa・sであった。
【0093】
液晶性ポリエステル樹脂のペレットを熱風乾燥後、サイドフィーダを備えた日本製鋼所製TEX30型2軸押出機で、液晶性ポリエステル樹脂(B−1)100重量部をホッパーから投入し、50重量部のガラス繊維(ECS03T−790DE 日本電気硝子製)をサイドから投入し、樹脂温度が融点+10℃になるようにシリンダーのヒーター設定温度を調整し、スクリュー回転数100r.p.mの条件で溶融混練してペレットとした。熱風乾燥後実施例1と同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0094】
[実施例3]
比較例1で製造した液晶性ポリエステル樹脂(B−1)のペレットを熱風乾燥後、サイドフィーダを備えた日本製鋼所製TEX30型2軸押出機で、液晶性ポリエステル樹脂(B−1)100重量部をホッパーから投入し、50重量部のガラス繊維(ECS03T−790DE 日本電気硝子製)およびSPECIANOL DPE−PL1重量部をサイドから投入し、樹脂温度が融点+10℃になるようにシリンダーのヒーター設定温度を調整し、スクリュー回転数100r.p.mの条件で溶融混練してペレットとした。熱風乾燥後実施例1と同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0095】
[実施例4]
比較例1で製造した液晶性ポリエステル樹脂(B−1)のペレットを熱風乾燥後、サイドフィーダを備えた日本製鋼所製TEX30型2軸押出機で、液晶性ポリエステル樹脂(B−1)100重量部をホッパーから投入し、50重量部のガラス繊維(ECS03T−790DE 日本電気硝子製)およびSPECIANOL DPE−PL5重量部をサイドから投入し、樹脂温度が融点+10℃になるようにシリンダーのヒーター設定温度を調整し、スクリュー回転数100r.p.mの条件で溶融混練してペレットとした。熱風乾燥後実施例1と同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0096】
[比較例2]
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に、p−ヒドロキシ安息香酸870g、4,4´−ジヒドロキシビフェニル284g、ハイドロキノン50g、SPECIANOL DPE−PL622.6g、テレフタル酸292g、イソフタル酸157gおよび無水酢酸1278g(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた後、330℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に90分間反応を続けたところ、系内が析出し、熱可塑性樹脂は得られなかった。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示したように、本発明の液晶性ポリエステル樹脂は、耐熱性が改良されており、このようなポリマーは構造単位(1)の含有量を好ましい範囲とした場合にのみ得られるものであることが分かる。また、エーテルオリゴマー構造の導入により、結晶性が向上したことで、遮音性の指標である制振性が改良されており、耐熱性や遮音性が要求される自動車のエンジンルームとキャビンの間の構造部材、遮音部品の材料として特に好適であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、液晶性ポリエステル樹脂の組成を大きく変えることなく結晶性を制御して耐熱性が向上した液晶性ポリエステル樹脂および耐熱性が優れると共に遮音性に優れた成形品を与えることができる液晶性ポリエステル樹脂組成物を得ることができ、これら液晶性ポリエステル樹脂および液晶性ポリエステル樹脂組成物は、電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車・車両関連部品などの各種用途、特に自動車のキャビン防音部品用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性ポリエステル樹脂の全構造単位を100モル%とした場合に、下記の式で表される構造単位(1)を0.1〜5モル%含有することを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂。
【化1】

(ただし、nは2〜10の整数である。)
【請求項2】
液晶性ポリエステル樹脂100重量部に対して、下記式(2)で表される化合物を0.1〜10重量部配合してなることを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【化2】

(ただし、Xは水酸基もしくはハロゲン原子であり、nは2〜10の整数である。)
【請求項3】
前記式(2)で表される化合物におけるXの98%以上が水酸基であることを特徴とする請求項2記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記式(1)で表される構造単位および前記式(2)で表される化合物におけるnが4〜6の正の整数であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の液晶性ポリエステル樹脂または液晶性ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して、充填剤0.5〜300重量部を配合してなることを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−265392(P2006−265392A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86251(P2005−86251)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】