説明

液晶性樹脂組成物およびその製造方法

【課題】非常に低誘電率であり、かつ液晶性樹脂組成物に凝集することなく微分散することで物性低下がなく異方性低減効果が得られ、寸法安定性や振動耐性に優れた車載用基板として最適な液晶性樹脂組成物とその製造方法が提供できる。
【解決手段】液晶性ポリエステル100重量部に、耐圧強度が180MPa以上220MPa以下であり、表面が疎水化処理されているガラスバルーンを1〜200重量部配合してなる液晶性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスバルーンを含有する液晶性樹脂組成物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリマーは、電気・電子部品用途を中心に需要が拡大しており、近年、集積回路の処理能力アップや演算速度アップに伴い、SMT基板周辺に用いられる部品に対して10〜20GHzの高周波数領域における低誘電率、低誘電正接が求められている。
【0003】
これまでにも誘電率、誘電正接を改良するために内部に空隙を有するガラスバルーンを用いた検討がなされている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
特許文献1には、液晶ポリマーに粒状アラミド、粒状パーフルオロポリマーおよび中空ガラスビーズまたは石英球を配合した組成物が記載されており、5GHz近傍での誘電率、誘電損率、誘電正接が改良されることが実施例に示されているが、粒状アラミドや粒状パーフルオロポリマーを必須とするため、液晶ポリマーとしての物性の低下は免れず、誘電率についても今後10〜20GHzでの低誘電の要求に対して、5GHzで2.91では充分とは言えない。
【0005】
また、特許文献2には、液晶ポリエステルにアスペクト比4以上の繊維状充填材および特定粒子径の無機球状中空体を特定比率で配合した樹脂組成物が記載されており、1MHzでの比誘電率が改良されることが実施例に示されているが、10〜20GHzという高周波数帯では誘電率が顕著に増大するため、1MHzで2.62の比誘電率では充分ではない。
【0006】
また、特許文献3には融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステルにアスペクト比4以上の繊維状充填材、アスペクト比が2以下の無機球状中空体を配合した比誘電率3以下、誘電正接0.04以下の樹脂組成物が記載されているが、周波数帯について記載がなく、10〜20GHzという高周波数帯では誘電率が顕著に増大するため、実施例にある1MHzで2.64の比誘電率では充分ではない。
【0007】
また、特許文献4には液晶性ポリエステルに耐圧強度100〜178MPaのガラスバルーンを配合した比重の小さい樹脂組成物が記載されているが、一般的なEガラス繊維の比重2.5、実施例に記載のガラスバルーンの比重0.6、一般的な液晶性ポリエステルの比重1.4であり、ガラス繊維22.5重量%、ガラスバルーン7.5重量%の液晶性ポリエステル組成物の比重が実施例で1.42と算出される理論比重1.398に対して大きく、ガラスバルーンの破損率は比重から算出すると11.4%となり破損の抑制が充分でない。誘電率についての記載はないが、破損が抑制しきれていないために、誘電特性に対する効果も充分でないと考えられる。
【特許文献1】特表2005−533908公報(第1〜2頁)
【特許文献2】特開2004−143270(第1〜2頁)
【特許文献3】特開2004−27021(第1〜2頁)
【特許文献4】特開2004−323705(第1〜2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、組成物中に破損することなくガラスバルーンを含有させ、非常に低誘電率であり、かつ液晶性樹脂組成物に凝集することなく微分散させ、物性低下が補強効果と異方性低減効果が得られ、寸法安定性や振動耐性に優れた車載用基板として最適な液晶性樹脂組成物の提供とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、これまで一般的に必要とされてきていた射出成形時の必要耐圧強度100MPaを超える180MPa以上の耐圧強度を有するガラスバルーンの表面を疎水化処理して液晶性樹脂に配合することによって、ガラスバルーンの破損をなくし、均一に分散させることができ、特に10〜20GHzの高周波数帯での誘電特性などが特異的に向上することを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は
(1)液晶性ポリエステル100重量部に、耐圧強度が180MPa以上220MPa以下であり、表面が疎水化処理されているガラスバルーンを1〜200重量部配合してなる液晶性樹脂組成物、
(2)ガラスバルーンの重量平均粒子径が10〜20μmであることを特徴とする上記(1)記載の液晶性樹脂組成物、
(3)組成物中のガラスバルーンの破損率が0.2%以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の液晶性樹脂組成物、
(4)液晶性ポリエステルの重合工程において、液晶性ポリエステルにガラスバルーンを配合することを特徴とする上記(1)記載の液晶性樹脂組成物の製造方法
を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の液晶性ポリエステルは、異方性溶融相を形成し得るポリエステルであり、例えば芳香族オキシカルボニル単位、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルである。
【0012】
芳香族オキシカルボニル単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などから生成した構造単位、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位としては、例えば、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどから生成した構造単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などから生成した構造単位が挙げられる。
【0013】
液晶性ポリエステルの具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルなどが挙げられる。
【0014】
特に好ましいのは、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶性ポリエステルである。
【0015】
【化1】

【0016】
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位であり、構造単位(II)は4,4´−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位を、構造単位(III)はハイドロキノンから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸から生成した構造単位を、構造単位(V)はイソフタル酸から生成した構造単位を各々示す。
【0017】
構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65〜80モル%であり、より好ましくは68〜75モル%である。また、構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜75モル%であり、より好ましくは65〜73モル%である。また、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して60〜92モル%であり、好ましくは60〜70モル%であり、より好ましくは62〜68モル%である。
【0018】
特に、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して62〜68モル%である場合には、本発明の特性である成形加工性がバランス良く発現するため好ましい。
【0019】
構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は実質的に等モルであるが、ポリマーの末端基を調節するためにカルボン酸成分またはヒドロキシル成分を過剰に加えてもよい。すなわち「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成するユニットとしては等モルであるが、末端を構成するユニットとしては必ずしも等モルとは限らないことを意味する。
【0020】
本発明において使用する上記液晶性ポリエステルの製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。
【0021】
例えば、上記液晶性ポリエステルの製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4´−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンとテレフタル酸、イソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸およびテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0022】
なかでもp−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法が好ましい。
【0023】
さらに、4,4´−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンの合計使用量とテレフタル酸およびイソフタル酸の合計使用量は、実質的に等モルである。無水酢酸の使用量は、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4´−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンのフェノール性水酸基の合計の1.15当量以下であることが好ましく、1.10当量以下であることがより好ましく、下限については1.0当量以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の液晶性ポリエステルを脱酢酸重縮合反応により製造する際に、液晶性ポリエステルが溶融する温度で減圧下反応させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸、無水酢酸を攪拌翼、留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱し水酸基をアセチル化させた後、液晶性ポリエステルの溶融温度まで昇温し、減圧により重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。アセチル化させる条件は、通常130〜300℃の範囲、好ましくは135〜200℃の範囲で通常1〜6時間、好ましくは140〜180℃の範囲で2〜4時間反応させる。重縮合させる温度は、液晶性ポリエステルの溶融温度、例えば、250〜350℃の範囲であり、好ましくは液晶性ポリエステルの融点+10℃以上の温度である。重縮合させるときの減圧度は通常0.1mmHg(13.3Pa)〜20mmHg(2660Pa)であり、好ましくは10mmHg(1330Pa)以下、より好ましくは5mmHg(665Pa)以下である。なお、アセチル化と重縮合は同一の反応容器で連続して行っても良いが、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行っても良い。
【0025】
得られたポリマーは、それが溶融する温度で反応容器内を例えば、およそ1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出することができる。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ない優れたポリマーを得ることができ、好ましい。
【0026】
本発明の液晶性ポリエステルを製造する際に、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。例えば、本発明の液晶性ポリエステルのポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕し、窒素気流下、または、減圧下、液晶性ポリエステルの融点−5℃〜融点−50℃(例えば、200〜300℃)の範囲で1〜50時間加熱し、所望の重合度まで重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。固相重合法は高重合度のポリマーを製造するための有利な方法である。
【0027】
液晶性ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0028】
本発明の液晶性ポリエステルは、数平均分子量は3,000〜25,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜20,000、より好ましくは8,000〜18,000の範囲である。
【0029】
なお、この数平均分子量は液晶性ポリエステルが可溶な溶媒を使用してGPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により測定することが可能である。
【0030】
また、本発明における液晶性ポリエステルの溶融粘度は1〜200Pa・sが好ましく、10〜200Pa・sがより好ましく、さらには10〜100Pa・sが特に好ましい。
【0031】
なお、この溶融粘度は液晶性ポリエステルの融点+10℃の条件で、ずり速度1,000/sの条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0032】
なお、本発明では、融点(Tm)とは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を指す。
【0033】
本発明で用いるガラスバルーンは耐圧強度が180MPa以上220MPa以下であり、表面が疎水化処理されているものである。耐圧強度としては、180MPa以上220MPa以下が必須であるが、より好ましくは185MPa〜210MPaであり、更に好ましくは190〜200MPaである。耐圧強度がこの範囲にある場合には、噛み合い率の高いスクリューを用いた高剪断混練や、ピーク圧力として100〜180MPaの高圧、高剪断がかかる微小成形品や薄肉大判の成形品を成形する高圧、高速射出成形においてもガラスバルーンの破損が少なく好ましい。耐圧強度は、例えばグリセロール法によって、一定量のガラスバルーンとグリセロールを混合し、空気が入らないように密閉し、加圧した際の体積変化を観察し、破損率10%を越えた圧力を耐圧強度として測定できる。
【0034】
また、ガラスバルーンの表面は液晶性ポリエステルとのなじみを良くするためにアミノシランやウレイドシラン、エポキシシランなどのシランカップリング剤などで処理して液晶性ポリエステルに親和性のある官能基を表面に持たせることは一般的に行われるが、これらの処理よりも、ガラスバルーンの表面を疎水化させることによりその分散性が劇的に向上することを本発明は見出したものである。本発明でいう疎水化処理とは、ガラスバルーン表面に存在しているシラノールやメトキシシランなどの親水性基を一部あるいは全部、疎水性の基に除去、置換あるいは変化させることをいい、具体的には、テフロン(登録商標)コーティングや表面フッ化処理、イオンコート処理などの物理的、静電的疎水化処理や疎水性基を化学的に付与する化学的疎水化処理などをいい、中でも化学的な疎水化処理が好ましい。
【0035】
化学的疎水化処理としては、例えば長鎖アルキルやt−ブチル基、イソプロピル基などの分岐アルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基、ビフェニル基、ナフチルのような縮合芳香環基などの疎水性の基をガラスバルーンの表面に付与することが挙げられ、具体的な疎水化の方法としては、例えば、シリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、ヘキサメチルジシラザン等のトリメチルシリル化剤、ジメチルジクロルシラン、トリメチルクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、ヘキサメチルジシラザン、アリルフェニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ジビニルクロルシラン、フェニルシラン等のフェニル基を有するシランカップリング剤、同様にアルキル鎖を有するシランカップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート等のチタネートカップリング剤を用いて疎水化することができる。疎水化処理により、ガラスバルーンは小粒径のものでも凝集することなく分散させることができる。このうちヘキサメチルジシラザン等のトリメチルシリル化剤による疎水化処理が好ましい。
【0036】
ガラスバルーンを疎水化処理する方法としては、限定されるものではないが、例えば、イソプロピルアルコールなどの溶媒に溶解したヘキサメチルジシラザンをヘンシェルミキサーで攪拌しつつガラスバルーンに散布し、40〜150℃程度で乾燥して溶媒を揮散させることによって行うことができる。
【0037】
ガラスバルーンの疎水化率は好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上である。疎水化率は処理剤のガラスバルーンに対する塗布量を制御することで調整可能である。上限は100%である。
【0038】
疎水化率は例えばトリエチルアルミニウム法によって、表面の水酸基とトリエチルアルミニウムとの反応で生成するエタンガスの量をガスビューレットで測定し、疎水化処理をしていないガラスバルーンからのエタンガス発生量を疎水化0%として、エタンガス発生量が0の場合を疎水化率100%として算出することができる。組成物から液晶性樹脂をペンタフルオロフェノールなどの溶媒で溶出した残分として得られるガラスバルーンについても同様に求めることができる。
【0039】
ガラスバルーンの耐圧強度は粒子径と空隙率によって制御され、粒子径が小さくなる程、空隙率が低くなる程耐圧強度が高くなる。空隙率は真密度で表され、真密度は0.5〜0.8g/cmが好ましく、より好ましくは0.5〜0.7g/cmである。ガラスバルーンの膜厚は0.2〜1.5μmが好ましく、より好ましくは0.5〜1.2μmである。
【0040】
真密度の測定は溶媒置換法もしくは気体置換法によって測定することができる。
【0041】
ガラスバルーンの膜厚は、例えば耐圧強度測定で破損したガラスバルーンの破損片を走査型電子顕微鏡により観察し、破損片50個の膜厚を測定し、その数平均を求めることができる。
【0042】
ガラスバルーンの重量平均粒子径は10〜20μmが好ましく、より好ましくは15〜19μmである。重量平均粒子径は、例えば組成物を焼成した灰分をレーザー回折式粒度分布計において測定することによって得られる。重量平均粒子径が小さすぎると、ガラスバルーンの凝集エネルギーが大きくなりすぎて、液晶性ポリエステル中に単分散することが難しくなる。
【0043】
ここでいう重量平均粒子径とは、ガラスバルーンの組成物中での重量平均粒子径をいい、配合前の粒子に表面処理剤などで被覆をもうけた場合には、これらの被覆層を焼却などにより除いたガラスバルーンの径をいう。完全に被覆層を除くには例えばガラスバルーンの軟化温度である600℃未満の温度において、電気炉などによって例えば500℃で5時間程度焼成することにより有機分を除くことができる。シランカップリング剤などで焼成後にも無機分がガラスバルーン表面に堆積するが、これらは膜圧に影響しない程度に小さいため、これらも含めて重量平均粒子径を判定する。
【0044】
ガラスバルーンのアスペクト比は0.9〜1.1が好ましく、より好ましくは0.95〜1.05であり、更に好ましくは0.99〜1.01である。アスペクト比が上記範囲にある場合には、液晶性ポリエステルの異方性を低減する効果が顕著に発現し好ましい。
【0045】
ガラスバルーンのアスペクト比は走査型電子顕微鏡により観察し、50個のアスペクト比を測定し、その数平均として求めることができる。
【0046】
本発明におけるガラスバルーンの配合量は、液晶性ポリエステル100重量部に対して、1〜200重量部であり、好ましくは5〜150重量部、更に好ましくは10〜100重量部である。配合量が液晶性ポリエステル100重量部に対して1重量部未満では、効果が得られず、200重量部より多い場合には、単分散しにくくなり、物性低下が起こるため好ましくない。
【0047】
本発明の液晶性樹脂組成物には、特性の更なる改良のために含フッ素樹脂1〜50重量部を更に配合することができ、より好ましくは2〜20重量部である。含フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体、(ヘキサフルオロプロピレン/プロピレン)共重合体、ポリビニリデンフルオライド、(ビニリデンフルオライド/エチレン)共重合体などが挙げられるが、中でもポリテトラフルオロエチレン、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体、ポリビニリデンフルオライドが好ましく、特にポリテトラフルオロエチレン、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体などが挙げられ、更にテトラフルオロエチレン/エチレン共重合体が好ましい。
【0048】
本発明の液晶性樹脂組成物には、械強度その他の特性を付与するために、さらに充填材を配合することが可能である。充填材は特に限定されるものでないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などの粉状、粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。本発明に使用される上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0049】
これら充填材のなかで特にガラス繊維が入手性、機械的強度のバランスの点から好ましく使用される。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものならば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランドおよびミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、これらのうち2種以上を併用して使用することもできる。本発明で使用されるガラス繊維としては、弱アルカリ性のものが機械的強度の点で優れており、好ましく使用できる。特に酸化ケイ素含有量が50〜80重量%のガラス繊維が好ましく用いられ、より好ましくは65〜77重量%のガラス繊維である。また、ガラス繊維はエポキシ系、ウレタン系、アクリル系などの被覆あるいは収束剤で処理されていることが好ましく、エポキシ系が特に好ましい。またシラン系、チタネート系などのカップリング剤、その他表面処理剤で処理されていることが好ましく、エポキシシラン、アミノシラン系のカップリング剤が特に好ましい。
【0050】
なお、ガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0051】
ガラスバルーン以外の充填材の配合量は、液晶性樹脂組成物100重量部に対し、通常5〜400重量部であり、好ましくは20〜300重量部である。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤などの通常の添加剤、熱可塑性樹脂以外の重合体を配合して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0053】
本発明の組成物の製造方法としては、特に限定されるものではないが、液晶ポリエステルの重合工程や溶融混練工程において液晶ポリエステルにガラスバルーンを配合する方法が用いられる。好ましくは、液晶ポリエステルの重合工程において液晶ポリエステルにガラスバルーンを配合する方法である。液晶性樹脂の重合時にガラスバルーンを配合する方法としては、重合缶にアセチル化から脱酢酸重縮合のいずれの工程かにおいてガラスバルーンを添加するか、吐出前に重合缶内に添加して攪拌して分散するか、もしくは吐出部に押出機構を設け、サイドフィーダー部からガラスバルーンを供給することで配合することも可能である。特に好ましくは重合缶に吐出前に添加する方法である。
【0054】
溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、液晶性樹脂の液晶開始温度−50℃〜融点+50℃で溶融混練して液晶性樹脂組成物とすることができる。中でも、二軸押出機が好ましい。
【0055】
ここで液晶開始温度とは、せん断速度1000(1/秒)の条件下で流動を開始する温度であり、例えば剪断応力加熱装置(CSS−450)により剪断速度1,000(1/秒)、昇温速度5.0℃/分、対物レンズ60倍において測定し、視野全体が流動開始する温度を測定することで定められる。
【0056】
二軸押出機の構成としては、噛み合い型、非噛み合い型スクリューのいずれでもよいが、樹脂の混練効率から噛み合い型スクリューが好ましい。回転方向は、二軸異方向回転でも二軸同方向回転でもよいが、二軸同方向回転が好ましい。スクリュー長/径比(L/D)は25〜60が好ましく、より好ましくは30〜50であり、もっとも好ましくは40〜45である。
【0057】
元込めフィーダーもしくはサイドフィーダーを有し、好ましくは液晶性ポリエステルを元込めし、ガラスバルーンを元込めもしくはサイドフィーダーから添加することができるが、液晶性樹脂の可塑化が安定した状態で微粒子を配合した方が分散状態が均一化できるため、ガラスバルーンのサイドフィーダーからの添加が好ましい。
【0058】
押出機はベントを一カ所以上有していることが好ましく、より好ましくは2カ所以上に有していることであり、ベントの場所としては、サイドフィーダー後のニーディングブロックの後ろに設置することが好ましく、より好ましくはサイドフィーダー前のニーディングブロックの前にも設置すると樹脂の発生ガスが効率良く除去できるので好ましい。
【0059】
ガラスバルーンのような微小球体を樹脂に良好な形態で分散させるためには、配合時の樹脂圧を高くして樹脂の自由体積を増大することが有効であるが、このような樹脂圧を高くした配合条件では。シリンダー内でガラスバルーンにかかる剪断応力は、スクリュー勘合部近辺では180MPa近くまでかかることがあり、耐圧強度124MPaのガラスバルーン(3M製S60HS)でも破損率が高くなる。
【0060】
本発明のガラスバルーンは、破損率が0.2%以下であることが本発明の効果を発現する上で好ましく、より好ましくは0.1%以下である。破損率が小さい程誘電特性に対するガラスバルーンの添加効果が向上するため好ましい。
【0061】
混練方法としては、1)液晶性ポリエステル、ガラスバルーン、任意成分である充填材およびその他の添加剤との一括混練法、2)まず液晶性ポリエステルにその他の添加剤を高濃度に含む液晶性ポリエステル組成物(マスターペレット)を作成し、次いで規定の濃度になるように液晶性ポリエステル、ガラスバルーン、任意成分である充填材および残りの添加剤を添加する方法(マスターペレット法)、3)液晶性ポリエステルとその他の添加剤の一部を一度混練し、ついで残りのガラスバルーン、任意成分である充填材および残りの添加剤を添加する分割添加法など、どの方法を用いてもかまわない。
【0062】
かくして得られる本発明の液晶性樹脂組成物は、ガラスバルーンが破損することなく良分散することで、非常に低誘電率であり、異方性低減効果が得られ、寸法安定性や振動耐性に優れている。
【0063】
この2つの特異的な効果によって、本発明の液晶性樹脂組成物は、通常の射出成形、押出成形、プレス成形などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)および機械的性質、耐熱性、難燃性を有する成形品、シート、パイプ、フィルム、繊維などに加工することが可能である。
【0064】
このようにして得られた液晶性樹脂組成物は、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品などに用いることができる。フィルムとして用いる場合は磁気記録媒体用フィルム、写真用フィルム、コンデンサー用フィルム、電気絶縁用フィルム、包装用フィルム、製図用フィルム、リボン用フィルム、シート用途としては自動車内部天井、ドアトリム、インストロメントパネルのパッド材、バンパーやサイドフレームの緩衝材、ボンネット裏等の吸音パット、座席用材、ピラー、燃料タンク、ブレーキホース、ウインドウオッシャー液用ノズル、エアコン冷媒用チューブおよびそれらの周辺部品に有用である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明の骨子は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
実施例中の破損率、誘電率、曲げ特性、異方性、寸法安定性、振動耐性は次の方法により測定した。
【0067】
(1)破損率
成形品の比重を電子比重計ED−120Tにより、23℃において水溶媒で測定し、下記関係式から破損した重量%を求めた。
比重=100/{液晶性樹脂の比重×液晶性樹脂の配合重量%+ガラスバルーンの真比重×(ガラスバルーンの配合重量%−破損した重量%}+ガラスバルーンのガラスの比重×破損した重量%+充填材の比重×充填材の配合重量%+含フロン樹脂の比重×含フロン油脂の配合重量%+その他の添加剤の比重×その他の添加剤の配合重量%}。
【0068】
(2)誘電率
樹脂温度330℃、金型温度130℃に設定し、一速一圧の条件で長さ60mm×幅50mm×1mm厚の角板を成形し、10GHzにおける誘電率をネットワークアナライザーを用い、摂動式閉鎖式空洞共振法によって測定した。
【0069】
(3)曲げ特性
(2)と同様に条件で127mm長×12.7mm幅×3.2mm厚の棒状試験片を成形し、ASTM−D790に従い曲げ強度を測定した。
【0070】
(4)異方性
(2)で成形した角板の幅方向を長さとなるように、長さ50mm×幅10mm×1mm厚を切り出した棒状試験片をTD、また同様に角板の長さ方向を長さとなるように、長さ60mm×幅10mm×1mm厚を切り出した棒状試験片をMDとして、ASTM−D790に従い曲げ強度を測定し、異方性=MDの曲げ強度/TDの曲げ強度を評価した。
【0071】
(5)寸法安定性
(2)で成形した角板の中央部から、3.2mm厚×2mm巾×12.7mm長の試験片を長さ方向と幅方向の2種類を切り出し、それぞれの線膨張率をセイコー電子工業製SSC−5020・TMA100により測定した。測定は20℃〜250℃までを10℃/分の速度で昇温した。線膨張率は30℃を基準とし、200℃までの値を求めた。
【0072】
(6)振動耐性
樹脂温度330℃、金型温度130℃、射出速度120mm/s、射出圧力80MPaに設定し、100mm四方×2mm厚の角板を成形し、得られた成形品の振幅回数(前置増幅器(B&K製2639S型)および電力増幅器(B&K製2706型)および2チャンネルFFT分析器(B&K製2034型)を用いる。)を200〜300Hzの領域で行った。振幅が1/10になる振動回数を評価した。
【0073】
(参考例1)
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870g(6.300モル)、4,4´−ジヒドロキシビフェニル327g(1.890モル)、ハイドロキノン89g(0.810モル)、テレフタル酸292g(1.755モル)、イソフタル酸157g(0.945モル)および無水酢酸1367g(フェノール性水酸基合計の1.03当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた後、320℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に90分間反応を続け、トルクが12kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0074】
この液晶性ポリエステル(A−1)はp−オキシベンゾエート単位がp−オキシベンゾエート単位、4,4´−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル%、4,4´−ジオキシビフェニル単位が4,4´−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル%、テレフタレート単位がテレフタレート単位およびイソフタレート単位の合計に対して65モル%からなり、Tm(液晶性ポリエステルの融点)は314℃、液晶開始温度295℃で、数平均分子量12,000であり、高化式フローテスター(オリフィス0.5φ×10mm)を用い、温度324℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が20Pa・sであった。
【0075】
なお、融点(Tm)は示差熱量測定において、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)とした。
【0076】
また、分子量は液晶性ポリエステルが可溶な溶媒であるペンタフルオロフェノールを使用してGPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により測定し、数平均分子量を求めた。
【0077】
(参考例2)
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994g(7.20モル)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を338.7g(1.80モル)、および無水酢酸965g(フェノール性水酸基合計の1.05当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた後、330℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を330℃に保持し、0.1MPaに窒素加圧し、20分間加熱撹拌した。その後、放圧し1.0時間で133Paに減圧し、更に120分間反応を続け、トルクが12kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0078】
この液晶性ポリエステル(A−2)はp−オキシベンゾエート単位が80モル%、6−オキシ−2−ナフタレート単位が20モル%であり、Tm(液晶性ポリエステルの融点)は320℃、液晶開始温度298℃で、数平均分子量11,100であり、高化式フローテスター(オリフィス0.5φ×10mm)を用い、温度330℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が20Pa・sであった。
【0079】
(参考例3)
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部(7.20モル)、4,4´−ジヒドロキシビフェニル126重量部(0.67モル)、テレフタル酸112重量部(0.67モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト216重量部(1.12モル)及び無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた後、325℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を325℃に保持し、0.1MPaに窒素加圧し、20分間加熱撹拌した。その後、放圧し1.0時間で133Paに減圧し、更に120分間反応を続け、トルクが12kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0080】
この液晶性ポリエステル(A−3)はp−オキシベンゾエート単位が74.4モル%、4,4´−ジオキシビフェニル単位が7モル%、テレフタレート単位が7モル%、エチレンジオキシ単位が11.6モル%であり、Tm(液晶性ポリエステルの融点)は314℃、液晶開始温度292℃で、数平均分子量11,100であり、高化式フローテスター(オリフィス0.5φ×10mm)を用い、温度325℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が12Pa・sであった。
【0081】
以下、実施例中で使用した原料を記載する。
【0082】
ガラスバルーン
B−1 3M製iM30K(ソーダ石灰硼珪酸ガラスバルーン:重量平均粒子径18μmφ、真密度0.6g/cm、膜厚1.1μm、アスペクト比1.00、耐圧強度193MPa)をヘンシェルミキサーで攪拌しつつ、イソプロピルアルコールに濃度4%で溶解したヘキサメチルジシラザンをガラスバルーンに対して0.2wt%相当量を散布して付着させ、ヘンシェルミキサーから取り出して80℃4時間で固定化処理を行い疎水化処理品(疎水化率78%)を得た。
【0083】
重量平均粒子径はレーザー回折式粒度分布計によって求めた。
【0084】
耐圧強度はグリセロール法によって、グリセロール中にガラスバルーンを入れ、空気が入らないように密閉し、加圧した際の体積変動を観察し10%破損した圧力を耐圧強度とした。
【0085】
疎水化率の測定はトリエチルアルミニウム法によって、表面の水酸基とトリエチルアルミニウムとの反応で生成するエタンガスの量をガスビューレットで測定し、疎水化処理をしていないガラスバルーンからのエタンガス発生量を疎水化0%として、エタンガス発生量が0の場合を疎水化率100%として算出した。
【0086】
真密度は気体置換法により測定した。
【0087】
膜厚、アスペクト比は走査型電子顕微鏡観察により、50個の数平均として求めた。
【0088】
B−2 3M製iM30K(ソーダ石灰硼珪酸ガラスバルーン:重量平均粒子径18μmφ、真密度0.6g/cm、膜厚1.1μm、アスペクト比1.00、耐圧強度193MPa)未処理品(疎水化率0%)。
【0089】
ガラスバルーンの諸特性はB−1と同様の方法で求めた。
【0090】
B−3 3M製iM30K(ソーダ石灰硼珪酸ガラスバルーン:重量平均粒子径18μmφ、真密度0.6g/cm、膜厚1.1μm、アスペクト比1.00、耐圧強度193MPa)をヘンシェルミキサーで攪拌しつつ、イソプロピルアルコールに濃度4%で溶解したγ―アミノプロピルトリエトキシシランをガラスバルーンに対して0.2wt%相当量を散布して付着させ、ヘンシェルミキサーから取り出して80℃4時間で固定化処理を行いシランカップリング剤処理品(疎水化率0%)を得た。
【0091】
ガラスバルーンの諸特性はB−1と同様の方法で求めた。
【0092】
B−4 3M製S60HS(ソーダ石灰硼珪酸ガラスバルーン:重量平均粒子径27μmφ、真密度0.6g/cm、膜厚1.6μm、アスペクト比1.02、耐圧強度124MPa)のB−1同様に疎水化処理したヘキサメチルジシラザン疎水化処理品(疎水化率82%)を得た。
【0093】
ガラスバルーンの諸特性はB−1と同様の方法で求めた。
【0094】
B−5 3M製S60HS(ソーダ石灰硼珪酸ガラスバルーン:重量平均粒子径27μmφ、真密度0.6g/cm、膜厚1.6μm、アスペクト比1.02、耐圧強度124MPa)未処理品。
【0095】
ガラスバルーンの諸特性はB−1と同様の方法で求めた。
【0096】
添加剤
C−1 ダイキン工業製テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体”ネオフロンETFE EP521”。
【0097】
充填材
D−1 日本電気硝子製 Dガラスチョップドストランド(10.5μmφ、3mm長)。
【0098】
実施例1〜11、比較例1〜9
東芝機械製TEM35B型2軸押出機(噛み合い型同方向)に、シリンダーC1(元込めフィーダー側ヒーター)〜C6(ダイ側ヒーター)の、C3部にサイドフィーダーを設置し、C5部に真空ベントを設置した。
【0099】
ニーディングブロックをC2部、C4部に組み込んだスクリューアレンジを用い、参考例で得た液晶性ポリエステル(A−1〜A−3)100重量部をホッパーから投入し、表1に示す配合量のガラスバルーンおよびその他の添加剤、充填材をサイドから投入し、C4部およびC6部に取り付けた樹脂温度計の樹脂温度が液晶性ポリエステルの融点になるようにシリンダーのヒーター設定温度を調整し、元込めフィーダーおよびサイドフィーダーの回転数、スクリュー回転数を調整し、表1に記載の成分を表1に記載の組成で溶融混練してペレットとした。
【0100】
熱風乾燥後、ペレットをファナックα30C射出成形機(ファナック製)に供し、破損率、誘電率、曲げ特性、異方性、寸法安定性、振動耐性を測定し、評価を行った。結果は表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1からも明らかなように本発明の液晶性樹脂組成物は、ガラスバルーンが破損しないために、誘電率を効率的に低下することができ、物性低下することなく、異方性の改良がされ、かつ寸法安定性、振動耐性に優れていることがわかる。
【0103】
また、表面を疎水化処理することでガラスバルーンの分散性が改良され、樹脂とのなじみが良くなるために物性が向上する。
【0104】
また、含フロン樹脂を配合することで誘電率の低下効果が向上し、Dガラス繊維を併用することで誘電率と物性のバランスの取れた樹脂組成物となることがわかる。
【0105】
このような本発明の効果は、耐圧強度が124MPaのガラスバルーンでは得られていないため、これまで考えられていた以上に押出、成形時の剪断応力でのガラスバルーンの破損による特性低下が大きく、これまでにない180MPa以上のガラスバルーンを用いて初めて得られた特異的な効果であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性ポリエステル100重量部に、耐圧強度が180MPa以上220MPa以下であり、表面が疎水化処理されているガラスバルーンを1〜200重量部配合してなる液晶性樹脂組成物。
【請求項2】
ガラスバルーンの重量平均粒子径が10〜20μmであることを特徴とする請求項1記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項3】
組成物中のガラスバルーンの破損率が0.2%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項4】
液晶性ポリエステルの重合工程において、液晶性ポリエステルにガラスバルーンを配合することを特徴とする請求項1記載の液晶性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−114418(P2009−114418A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311497(P2007−311497)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】