説明

液晶滴下工法用シール剤、上下導通材料及び液晶表示素子

【課題】減圧下で基板を貼り合わせて作製した液晶セルを常圧環境下に取り出した場合であってもシール剤パターンに変形や決壊が生じることのない液晶滴下工法用シール剤、上下導通材料、及び、液晶表示素子を提供する。
【解決手段】硬化性樹脂成分と固形成分とを含有する液晶滴下工法用シール剤であって、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度を(a)(Pa・s)とし、前記固形成分の重量比を(b)(wt%)としたときに、(a/b)が9.5〜35の範囲にあり、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度が200〜500Pa・sであり、かつ、前記硬化性樹脂成分は、少なくとも、以下の(1)又は(2)を満たす硬化性樹脂を15〜30重量%含有する液晶滴下工法用シール剤。(1)25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度が800Pa・s以上である。(2)25℃において固形である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滴下工法による液晶表示素子の製造に用いた際に、減圧下で基板を貼り合わせて作製した液晶セルを常圧環境下に取り出した場合であってもシール剤パターンに変形や決壊が生じることのない液晶滴下工法用シール剤、上下導通材料、及び、液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子をはじめとする電子機器、電子部品等にはますます高性能、高品位であることが求められている。
液晶表示素子は、通常、配向膜が形成された2枚の透明基板が、その外周付近に形成されたシール剤を介して貼り合わされ、これら2枚の透明基板とシール剤とで形成された空間内に液晶材料が封入された構造となっている。
【0003】
近年、液晶表示セル等の液晶表示素子の製造方法は、タクトタイム短縮を目的として、従来の真空注入方式から、光硬化型の樹脂組成物からなるシール剤を用いた滴下工法と呼ばれる液晶滴下方式にかわりつつある(例えば、特許文献1参照)。滴下工法では、まず、2枚の電極付き透明基板の一方に、ディスペンスにより長方形状のシールパターンを形成する。次いで、シール剤未硬化の状態で液晶の微小滴を透明基板の枠内全面に滴下塗布し、すぐに他方の透明基板を重ねあわせて液晶セルを作製し、シール部に紫外線を照射して仮硬化を行う。その後、必要に応じて液晶アニール時に加熱して本硬化を行い、液晶表示素子を作製する。基板を貼り合わせて液晶セルを作製する工程を減圧下で行うようにすれば、極めて高い効率で液晶表示素子を製造することができ、現在この滴下工法が液晶表示素子の製造方法の主流となっている。
【0004】
また、滴下工法により液晶表示素子を製造する際には、1つずつ液晶表示素子を製造するのではなく、生産性を向上させるために大型の基板間に複数の液晶表示素子のユニットを作製し、それらを分離切断して一度に複数個の液晶表示素子を製造する方法が一般的に行われている。このような複数の液晶表示素子を一度に製造する方法では、減圧下で大型の基板同士を貼り合わせて複数の液晶セルを作製するが、各液晶セルの間には、大型の基板のセルギャップを均一に保つためのダミーシールパターンが液晶セルのシールパターン(本シール部)を取り囲むように形成されている。
【0005】
しかしながら、従来の滴下工法による液晶表示素子を製造では、減圧下で基板同士を貼り合わせて作製した液晶セルを常圧環境下に取り出すと、シール剤の内側と外側との圧力差によりシール剤のパターンが変形し、決壊(シールパス)してしまうことがあった。特に、複数の液晶表示素子を一度に製造する方法では、減圧下で作製した液晶セルの本シール部とダミーシールとの間の空間が減圧状態となっているため、常圧下では、ダミーシールを介してセルの内側と外側とで大きな圧力差が生じ、ダミーシールが決壊しやすく、更には、ダミーシールの内側の液晶を封入している本シール部も決壊して液晶の漏洩が生じることがあった。
【0006】
このような問題に対して、シール剤に種々の物性を付与する目的で添加される固形成分の配合量を増量してシール剤の粘度を高める試みが行われていた。しかし、このように固形成分の配合量を増量した場合であっても、実際には、滴下工法により液晶表示素子を製造した際に、シール剤が決壊することを効果的に抑制することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−133794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、滴下工法による液晶表示素子の製造に用いた際に、減圧下で基板を貼り合わせて作製した液晶セルを常圧環境下に取り出した場合であってもシール剤パターンに決壊(シールパス)が生じることのない液晶滴下工法用シール剤、上下導通材料、及び、液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、硬化性樹脂成分と固形成分とを含有する液晶滴下工法用シール剤であって、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度を(a)(Pa・s)とし、前記固形成分の重量比を(b)(wt%)としたときに、(a/b)が9.5〜35の範囲にあり、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度が200〜500Pa・sであり、かつ、前記硬化性樹脂成分は、少なくとも、以下の(1)又は(2)を満たす硬化性樹脂を15〜30重量%含有する液晶滴下工法用シール剤である。
(1)25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度が800Pa・s以上である。
(2)25℃において固形である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、硬化性樹脂成分と固形成分とを含有する液晶滴下工法用シール剤において、シール剤自体の粘度(a)(Pa・s)と、固形成分の重量比(b)(wt%)との比(a/b)が所定の範囲内となるように調整するとともに、硬化性樹脂成分に、高粘度の硬化性樹脂を所定の範囲内で含有させることで、シールパスを生じることなく滴下工法により液晶表示素子を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の液晶滴下工法用シール剤(以下、本発明のシール剤ともいう)は、硬化性樹脂成分と固形成分とを含有する。
上記硬化性樹脂成分は、本発明のシール剤のマトリックス樹脂となる成分であり、「液状」であるため、本発明のシール剤中で他に配合される樹脂成分等と相溶し、固体として残ることのない成分である。
【0012】
本発明のシール剤において、上記硬化性樹脂成分は、少なくとも、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度が800Pa・s以上であるか、又は、25℃において固形である硬化性樹脂(以下、高粘度樹脂ともいう)を含有する。このような高粘度樹脂を含有する本発明のシール剤は、滴下工法による液晶表示素子の製造において、シールパスが生じることを防止することができる。なお、上記高粘度樹脂は、本発明のシール剤中では、他の樹脂成分等と相溶して固体としては存在していない。
【0013】
上記高粘度樹脂は、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度の下限が800Pa・sである。800Pa・s未満であると、本発明のシール剤の粘度が低くなるため、本発明のシール剤を用いて滴下工法により液晶表示素子を製造した際にシールパスが生じてしまう。
【0014】
このような高粘度樹脂としては特に限定されず、例えば、水酸基、メルカプト基、カルボニル基等の極性基を多く含む熱硬化性若しくは光硬化性樹脂、又は、分子量が1000を超える程度のエポキシ樹脂、アクリル樹脂等の高分子量の熱硬化性若しくは光硬化性樹脂等が挙げられる。
【0015】
また、上記高粘度樹脂は、市販されているものを用いることもでき、具体的には、高分子量型エポキシ樹脂化合物として市販されているものとして、例えば、エピコート1001、1002、1003、1004、1007、1009、1010、1055、4004P、4110、4210(以上、いずれもジャパンエポキシレジン社製)、エピクロン1050、1055、2055、3050、4050、4055、7050、153、1120(以上、いずれも大日本インキ化学社製)等が挙げられ、これらの高分子量型エポキシ樹脂化合物をアクリル酸等で変性させて不飽和結合を付与したものも挙げられる。その他の光硬化性樹脂で高粘度のものとして市販されているものとしては、例えば、EBECRYL3600、3700、3701、3702、3604、284、4866、4883、8800(以上、いずれもダイセルUCB社製)等が挙げられる。
【0016】
本発明のシール剤において、上記高粘度樹脂の含有量の下限は15重量%、上限は30重量%である。15重量%未満であると、滴下工法による液晶表示素子の製造において、本発明のシール剤の粘度をシールパスが生じることを防ぐために充分なものとすることができない。30重量%を超えると、本発明のシール剤が高粘度になりすぎ、ディスペンスによるシール剤パターンの形成が困難となり、作業性が著しく低下する。好ましい下限は18重量%、好ましい上限は25重量%である。
【0017】
また、本発明のシール剤において、上記硬化性樹脂成分は、低粘度樹脂を含有することが好ましい。上記硬化性樹脂成分として、上述した高粘度樹脂のみを含有する場合、本発明のシール剤の粘度がシール剤として用いるには高くなりすぎ、塗布性が悪化して作業性が低下する場合がある。しかし、上記硬化性樹脂成分として低粘度樹脂を含有することで、滴下工法により液晶表示素子を製造した際に、シールパスの発生を防止する効果を損なうことなく、本発明のシール剤の粘度を滴下工法による液晶表示素子の製造に好適な範囲に容易に調整することができる。
【0018】
上記低粘度樹脂としては、具体的には、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度の好ましい下限が1Pa・s、好ましい上限が100Pa・sである。1Pa・s未満であると、分子量が小さすぎるか極性が低すぎるため、液晶中に溶出して汚染が発生してしまう恐れがある。100Pa・sを超えると、高粘度樹脂に対する粘度の希釈効果が弱くなるため、本発明のシール剤自体の粘度を滴下工法に用いられるシール剤用途として好適な範囲に容易に調整することができなくなる。より好ましい下限は5Pa・s、より好ましい上限は80Pa・sである。
【0019】
また、上記低粘度樹脂は、水酸基、メルカプト基及びカルボニル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する樹脂であることが好ましい。このような官能基を有する低粘度樹脂は、滴下工法による液晶表示素子の製造において、液晶中に溶出しにくくなり、上記低粘度樹脂に起因して液晶を汚染が発生しにくくなる。
【0020】
このような低粘度樹脂としては特に限定されず、例えば、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、等が挙げられる。
【0021】
また、上記低粘度樹脂は、市販されているものを用いることもでき、具体的には、例えばEBECRYL230、EBECRYL270、EBECRYL4858、EBECRYL8402、EBECRYL9260、EBECRYL8210、EBECRYL220、EBECRYL860、EBECRYL3200、EBECRYL3201、EBECRYL3411、EBECRYL6040、EBECRYL800、EBECRYL812、EBECRYL450、EBECRYL830、EBECRYL870、EBECRYL1830、EBECRYL1870、EBECRYL2870、IRR467、IRR267(ダイセルUCB社製)、アロニックスM−402、アロニックスM−7100、アロニックスM−8060(東亞合成社製)等が挙げられる。
【0022】
上記低粘度樹脂の配合量としては特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は50重量%である。5重量%未満であると、上記低粘度樹脂を配合する効果を殆ど得ることができず、50重量%を超えると、本発明のシール剤の粘度をシールパスが生じることを防ぐために充分な粘度とすることができないことがある。より好ましい下限は8重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0023】
本発明のシール剤において、上記高粘度樹脂や低粘度樹脂等からなる硬化性樹脂成分の配合量としては特に限定されないが、好ましい下限は60重量%、好ましい上限は95重量%である。60重量%未満であると、滴下工法による液晶表示素子の製造において、本発明のシール剤の粘度をシールパスが生じることを防ぐために充分なものとすることができないことがあり、95重量%を超えると、後述する固形成分の配合量が少なくなりすぎ、本発明のシール剤の熱膨張や熱硬化性、長期信頼性や接着性といった物性に支障をきたすことがある。より好ましい下限は70重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0024】
上記固形成分としては特に限定されず、例えば、無機フィラー、樹脂微粒子等の有機フィラー、ゲル化剤、硬化促進剤、熱硬化剤等の用途で使用される固体状の成分等が挙げられる。
【0025】
上記記載の無機フィラーとしては特に限定されず、例えば、タルク、石綿、シリカ、珪藻土、スメクタイト、ベントナイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、モンモリロナイト、珪藻土、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化チタン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、窒化珪素、硫酸バリウム、石膏、珪酸カルシウム、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム等が挙げられる。
【0026】
上記有機フィラーとしては特に限定されず、例えば、ポリメチルメタクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル系微粒子;ブタジエン−ニトリル等のゴム微粒子等が挙げられる。
【0027】
また、上記ゲル化剤としては特に限定されず、例えば、メタクリル酸とアルキル化合物との共重合体や、ジベンジリデンソルビトール等の糖化合物等が挙げられる。市販されているゲル化剤としては、例えば、ゼオンF−320、ゼオンF−301、ゼオンF−340(以上、いずれも日本ゼオン社製)、ゲルオールD、ゲルオールMD(以上、いずれも新日本理化社製)等が挙げられる。
【0028】
上記硬化促進剤としては特に限定されず、例えば、3−p−クロロフェニル−1,1−ジメチル尿素等が挙げられる。
【0029】
上記熱硬化剤としては、例えば、本発明のシール剤を100〜120℃の硬化温度にて硬化させるため、低温反応性に優れるアミン及び/又はチオール基を含有するものであることが好ましい。このような熱硬化剤としては特に限定されず、アミン及び/又はチオール基を含有するものとしては、例えば、1,3−ビス[ヒドラジノカルボノエチル−5−イソプロピルヒダントイン]やアジピン酸ジヒドラジド等の有機酸ジヒドラジド化合物;ジシアンジアミド、グアニジン誘導体、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、N,N’−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N’−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)−アジポアミド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−イミダゾリン−2−チオール、2−2’−チオジエタンチオール等のイミダゾール化合物;酸無水物、各種アミンとエポキシ樹脂との付加生成物等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0030】
上記熱硬化剤としては、固体硬化剤粒子の表面が微粒子により被覆されている被覆硬化剤も好適である。このような被覆硬化剤を用いれば、予め熱硬化剤を配合していても高い保存安定性を有するシール剤が得られる。
【0031】
上記固形成分を含有する本発明のシール剤において、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した本発明のシール剤の粘度を(a)(Pa・s)とし、上記固形成分の重量比を(b)(wt%)としたときに、(a/b)の下限が9.5、上限が35である。9.5未満であると、本発明のシール剤の粘度が低粘度になるか、又は、本発明のシール剤の粘度が上記固形成分の量が過剰量の状態での高粘度の状態、即ち、マトリックス樹脂となる上記硬化性樹脂成分が低粘度の状態となるため、滴下工法により液晶表示素子を製造した際にシールパスが発生する。35を超えると、本発明のシール剤が高粘度になって塗布性等の作業性に支障をきたすか、又は、上記固形成分の量が極端に少ない状態になるため、本発明のシール剤の熱膨張や熱硬化性、長期信頼性や接着性といった物性に支障をきたす。上記(a/b)の好ましい下限は12、好ましい上限は25である。
【0032】
本発明の硬化性樹脂組成物は、更に、光重合開始剤やシランカップリング剤等を含有してもよい。
上記光重合開始剤としては、光照射により上記硬化性樹脂成分中の高粘度樹脂等を重合させるものであれば特に限定されないが、反応性二重結合と光反応開始部とを有するものが好適である。このような光重合開始剤は、本発明のシール剤に配合した場合に充分な反応性を付与することができるとともに、本発明のシール剤を用いた液晶滴下工法による液晶表示素子の製造において、液晶中に溶出し液晶を汚染することがない。なかでも、反応性二重結合と水酸基及び/又はウレタン結合とを有するベンゾイン(エーテル)類化合物が好適である。なお、本明細書において、ベンゾイン(エーテル)類化合物とは、ベンゾイン類及びベンゾインエーテル類を表す。
【0033】
上記反応性二重結合としては、アリル基、ビニルエーテル基、(メタ)アクリル基等の残基が挙げられるが、本発明のシール剤の光重合開始剤として用いる場合には、反応性の高さから(メタ)アクリル残基が好適である。このような反応性二重結合を有することにより、本発明のシール剤に配合した際に耐候性が向上する。
【0034】
上記ベンゾイン(エーテル)類化合物は、水酸基とウレタン結合とのどちらか1つを有していればよく、両方を有していてもよい。上記ベンゾイン(エーテル)類化合物が水酸基とウレタン結合のいずれも有していない場合には、本発明のシール剤の硬化前に液晶へ溶出してしまうことがある。
【0035】
上記ベンゾイン(エーテル)類化合物において、上記反応性二重結合並びに水酸基及び/又はウレタン結合は、ベンゾイン(エーテル)骨格のどの部分に位置していてもよいが、下記一般式(1)で表される分子骨格を有するものが好適である。かかる分子骨格を有する化合物を光重合開始剤として用いれば、残存物が少なくなり、アウトガスの量を少なくすることができる。
【0036】
【化1】

【0037】
式(1)中、Rは水素、炭素数4以下の脂肪族炭化水素残鎖を表す。Rが炭素数4を超える脂肪族炭化水素残鎖であると、光重合開始剤を配合したときの保存安定性は増加するものの、置換基の立体障害により反応性が低下することがある。
【0038】
一般式(1)で表される分子骨格を有するベンゾイン(エーテル)類化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化2】

【0040】
式(2)中、Rは水素又は炭素数4以下の脂肪族炭化水素残基を表し、Xは炭素数13以下の2官能イソシアネート誘導体の残基を表し、Yは炭素数4以下の脂肪族炭化水素残基又は残基を構成する炭素と酸素の原子数比が3以下の残基を表す。Xが炭素数13を超える2官能イソシアネート誘導体の残基であると、液晶に溶解しやすくなることがあり、Yが炭素数4を超える脂肪族炭化水素残基又は炭素と酸素の原子数比が3を超える残基であると、液晶に溶解しやすくなることがある。
【0041】
上記光重合開始剤としては、他にも例えば、ベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、ベンゾイルイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン、フェニル−2−ヒドロキシ−2−プロピルケトン等を用いることができる。これらの光重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記光重合開始剤の配合量としては、上記硬化性樹脂成分100重量部に対して好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。0.1重量部未満であると、光重合を開始する能力が不足して効果が得られないことがあり、10重量部を超えると、未反応の光重合開始剤が多く残ることがあり、耐候性が悪くなることがある。より好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0043】
上記シランカップリング剤は、主に本発明のシール剤とガラス基板等とを良好に接着するための接着助剤としての役割を有する。また、上記固体成分として少量の非導電性フィラーを含有する場合においては、非導電性フィラーと樹脂との相互作用を向上させるために、非導電性フィラーの表面をシランカップリング剤で処理する方法に用いられることもある。
【0044】
上記シランカップリング剤としては、下記一般式においてA群で示される少なくとも1つの官能基と下記B群で示される少なくとも1つの官能基とを有するものが好適である。
【0045】
【化3】

【0046】
具体的には、上記シランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシラン化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
このような構造のシランカップリング剤として用いることにより、本発明のシール剤は、基板等との接着性を向上させることができる。
【0048】
本発明のシール剤は、レーザー光を用いた伸張粘度測定法(A)により測定した試料破断時間が100秒以上であることが好ましい。
上記伸張粘度測定法(A)とは、25℃の環境下で上下2mmの間隔で設置された2枚の円形プレート(4mmφ)間に、試料を0.5mL設置した後、8mm/secの速度で上プレートを2mm上昇させ、2枚のプレート間における糸状の細くなってゆく試料の中間部分における径をレーザーによって測定する方法であり、試料の径が0になるときの時間を試料破断時間とする。
【0049】
本発明のシール剤は、25℃において1.0rpmの条件でE型粘度計を用いて測定したときの粘度の好ましい下限は200Pa・s、好ましい上限は500Pa・sである。200Pa・s未満であると、本発明のシール剤を上述した滴下工法による複数の液晶表示素子を一度に製造する方法における本シールとダミーシールとに用いた場合に、大型の基板同士を真空貼り合わせした後のダミーシールを介した外側と内側との圧力差により、該ダミーシールやその内側に形成した本シールにシールパスが生じることがあり、更に、塗工する際に糸引きが生じたり、シール幅が不均一となったりすることがある。500Pa・sを超えると、作業性が悪化したり、本発明のシール剤のディスペンスによる塗工が困難となったりすることがある。
【0050】
本発明のシール剤は、硬化させた硬化体の体積抵抗率が10Ω・cm以上であることが好ましい。10Ω・cm未満であると、硬化後の本発明のシール剤の絶縁性悪くなり、製造する液晶表示素子がショートすることがある。
【0051】
本発明のシール剤を製造する方法としては特に限定されず、上記硬化性樹脂成分及び固形成分と、必要に応じて配合される上記光重合開始剤、シランカップリング剤等の所定量とを、従来公知の方法により混合する方法等が挙げられる。この際、含有するイオン性不純物を除去するために、イオン吸着性固体と接触させてもよい。
【0052】
本発明のシール剤は、該シール剤自体の粘度と固形成分の重量比とが上述した範囲内となり、かつ、硬化性樹脂成分中に上述した高粘度樹脂を有するものであるため、滴下工法により液晶表示素子の製造を行った場合であっても、真空環境下で基板同士を貼り合わせた後常圧環境下に取り出した際にシールパターンにシールパスが生じることがない。
【0053】
また、本発明の液晶滴下工法用シール剤に、導電性微粒子を配合することにより、上下導通材料を製造することができる。このような上下導通材料を用いれば、微細なパターンとした場合であっても、透明基板の電極を導電接続することができる。
本発明の液晶滴下工法用シール剤と導電性微粒子とを含有する上下導通材料もまた、本発明の1つである。
【0054】
上記導電性微粒子としては特に限定されず、金属ボール、樹脂微粒子の表面に導電金属層を形成したもの等を用いることができる。なかでも、樹脂微粒子の表面に導電金属層を形成したものは、樹脂微粒子の優れた弾性により、透明基板等を損傷することなく導電接続が可能であることから好適である。
【0055】
本発明の液晶滴下工法用シール剤及び/又は本発明の上下導通材料を用いてなる液晶表示素子もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、滴下工法による液晶表示素子の製造に用いた場合に、減圧下で基板を貼り合わせて作製した液晶セルを常圧環境下に取り出した場合であってもシール剤パターンに変形や決壊が生じることのない液晶滴下工法用シール剤、上下導通材料、及び、液晶表示素子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
(1)高分子量エポキシアクリレート樹脂(A)の合成
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製:エピコート828EL)700重量部に、固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製:エピコート1001)300重量部を120℃の温度下で溶融させた後、これに重合禁止剤としてp−メトキシフェノール2重量部、反応触媒としてトリエチルアミン2重量部、アクリル酸400重量部を、空気を送り込みながら、90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。
得られた樹脂100重量部を、反応物中のイオン性不純物を吸着させるために、クオルツとカオリンとの天然結合物(ホフマンミネラル社製、シリチンV85)10重量部が充填されたカラムで濾過し、高分子量エポキシアクリレート樹脂(A)を得た。
【0059】
(2)アクリル酸変性フェノールノボラックエポキシ樹脂(B)の合成
液状のフェノールノボラック型エポキシ樹脂(ダウケミカル社製:D.E.N.431)1000重量部、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール2重量部、反応触媒としてトリエチルアミン2重量部、アクリル酸200重量部を、空気を送り込みながら、90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。
得られた樹脂100重量部を、反応物中のイオン性不純物を吸着させるために、クオルツとカオリンの天然結合物(ホフマンミネラル社製:シリチンV85)10重量部が充填されたカラムで濾過し、アクリル酸変性フェノールノボラックエポキシ樹脂(B)(50%部分アクリル化物)を得た。
【0060】
(実施例1、2及び比較例1〜3)
硬化性樹脂成分として、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(ダイセルUCB社製:EB3700)、ウレタンアクリレート樹脂(ダイセルUCB社製:EB4858)、高分子量エポキシアクリレート樹脂(A)、アクリル酸変性フェノールノボラックエポキシ樹脂(B)を、表1に示した量でそれぞれ所定の容器に配合し、遊星式攪拌装置にて混合攪拌した後、光開始剤(ライトケミカル社製;KR−02)を加熱溶解させ、シランカップリング剤(信越化学社製:KBM403)を混合攪拌し、球状シリカ(アドマテックス社製:SO−C2)、タルク(日本タルク社製;SG−2000)、熱硬化剤(味の素ファインテクノ社製:VDH―J)を混合攪拌した後、セラミックス3本ロールミルにて分散させることによって、実施例1、2及び比較例1〜3の液晶滴下工法用シール剤を得た。
【0061】
(評価)
得られた実施例1、2及び比較例1〜3に係る液晶滴下工法用シール剤について以下の方法により評価を行った。それぞれの結果を表1に示した。
【0062】
(接着性の評価)
得られた液晶滴下工法用シール剤に、シリカスペーサー(積水化学工業製;SI−H055)を1重量%配合し、無アルカリガラス試験片(コーニング社製:♯1737)に微小滴下し、これにもう一方のガラス試験片を十字状に張り合わせたものを、高圧水銀ランプにて紫外線照射(3000mJ/cm)した後、加熱(120℃×60分)することによって接着試験片を得た。これを上下に配したチャックにて引っ張り試験(5mm/sec)を行った。
【0063】
(シール破断時間の評価)
25℃の環境下で上下2mmの間隔で設置された2枚の円形プレート(4mmφ)間に、得られた液晶滴下工法用シール剤を試料として0.5mL設置した後、8mm/secの速度で上プレートを2mm上昇させ、2枚のプレート間における糸状の細くなってゆく試料の中間部分における径をレーザーによって測定した。このとき、試料の径が0になるときの時間を試料破断時間とした。
【0064】
(シールパスの評価)
ITO薄膜付きの透明電極基板を2枚用意し、一方に得られた液晶滴下工法用シール剤を長方形の枠を描く様にディスペンサーで塗布した。続いて、液晶(チッソ社製JC−5004LA)の微小滴を液晶滴下装置にて滴下塗布し、他方の透明基板を、真空張り合わせ装置にて50Paの真空下にて張り合わせてセルを作製した。このセルを23℃の環境下で30分間放置し、シール剤にシールパスが発生して、液晶が漏洩するか否かを目視にて確認した。なお、表1中、○は、液晶の漏洩が確認できなかったものを示し、×は、液晶の漏洩が確認されたものを示す。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、滴下工法による液晶表示素子の製造に用いた場合に、減圧下で基板を貼り合わせて作製した液晶セルを常圧環境下に取り出した場合であってもシール剤パターンに変形や決壊が生じることのない液晶滴下工法用シール剤、上下導通材料、及び、液晶表示素子を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂成分と固形成分とを含有する液晶滴下工法用シール剤であって、
25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度を(a)(Pa・s)とし、前記固形成分の重量比を(b)(wt%)としたときに、(a/b)が9.5〜35の範囲にあり、
25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度が200〜500Pa・sであり、かつ、
前記硬化性樹脂成分は、少なくとも、以下の(1)又は(2)を満たす硬化性樹脂を15〜30重量%含有することを特徴とする液晶滴下工法用シール剤。
(1)25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度が800Pa・s以上である。
(2)25℃において固形である。
【請求項2】
硬化性樹脂成分は、更に、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度が1〜100Pa・sである硬化性樹脂を5〜50重量%含有することを特徴とする請求項1記載の液晶滴下工法用シール剤。
【請求項3】
レーザー光を用いた伸張粘度測定法(A)により測定した試料破断時間が100秒以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の液晶滴下工法用シール剤。
【請求項4】
(1)若しくは(2)を満たす硬化性樹脂、及び/又は、25℃、1.0rpmの条件でE型粘度計により測定した粘度が1〜100Pa・sである硬化性樹脂は、水酸基、メルカプト基及びカルボニル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する樹脂であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の液晶滴下工法用シール剤。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の液晶滴下工法用シール剤と、導電性微粒子とを含有することを特徴とする上下導通材料。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4記載の液晶滴下工法用シール剤及び/又は請求項5記載の上下導通材料を用いてなることを特徴とする液晶表示素子。

【公開番号】特開2012−103700(P2012−103700A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255334(P2011−255334)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【分割の表示】特願2005−180313(P2005−180313)の分割
【原出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】