説明

液晶表示素子、光学素子

【課題】液晶表示素子(特に垂直配向型)の視角特性を向上させる。
【解決手段】液晶表示素子は、互いの一面を向かい合わせて配置された第1基板及び第2基板と、第1基板と第2基板との相互間に配置された液晶層と、第1基板の他面側に配置された第1偏光板と、第2基板の他面側に配置された第2偏光板と、第1基板と第1偏光板との間、又は第1基板と液晶層との間の何れかに配置された第1光学素子と、を含む。上記した第1光学素子は、第1基板の一面又は他面に対して略同一の角度で傾斜し、かつ一方向に配列された複数の面50aを有する凹凸部50と、凹凸部を覆って設けられており、負の一軸光学異方性を示す光学膜52と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子の視角特性の改善技術等に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な黒表示特性を得られる液晶表示素子として垂直配向型の液晶表示素子が知られている。垂直配向型の液晶表示素子とは、二枚の基板とそれらの間に挟まれた液晶層を備え、かつ液晶層内の液晶分子が各基板の表面に対して垂直または略垂直に配向した液晶表示素子である。このような垂直配向型の液晶表示素子を略クロスニコルに配置した2つの偏光板の間に配置して基板法線方位から観察すると、その光学特性はクロスニコル配置の偏光板における光学特性とほぼ同等となる。すなわち、電圧無印加時の透過率を非常に低くすることができるので、高いコントラストを比較的簡単に実現できる。
【0003】
上記のような垂直配向型の液晶表示素子は、視角補償技術を組み合わせることにより、正面観察時だけでなく斜め観察時においても背景表示部や非表示部における透過率を著しく低下させ、広い視角特性を得ることができる。例えば、特許第2047880号公報(特許文献1)には、液晶表示素子の各基板と各偏光板との間の一方または両方に負の光学異方性(一軸光学異方性または二軸光学異方性)を有する光学フィルムを配置することにより、視角特性を向上させる技術が開示されている。また、特許第3330574号公報(特許文献2)には、負の二軸光学異方性を有する光学フィルムの面内位相差や面内遅延軸配置に関して特に有効な手法が開示されている。
【0004】
ここで、負の一軸光学異方性と負の二軸光学異方性について説明する。平板上の光学フィルムにおける面内屈折率をnx,ny、厚さ方向の屈折率をnzとしたとき、負の一軸光学異方性においてはnx≒ny>nz、負の一軸光学異方性においてはnx>ny>nzの関係がある。さらに、NzファクターをNz=(nx−nz)/(nx−ny)と定義すると、負の一軸光学異方性はNz≒∞、負の二軸光学異方性は∞>Nz>1とそれぞれ表せる。以下においては、厚さ方向の位相差Rthは((nx−ny)/2−nz))dと定義する。
【0005】
上記の負の一軸光学異方性を示す光学フィルムは一般にCプレートと呼ばれる。このような光学フィルムとしては、例えば、(a)ノルボルネン系環状オレフィン樹脂フィルムを逐次二軸延伸加工したもの、(b)トリアセチルセルロース(TAC)等のフィルム面内の屈折率よりフィルム厚さ方向の屈折率が小さくなる樹脂を用いて溶融キャスト法等により作製したもの、(c)光の波長より短い螺旋ピッチのコレステリック相を示す液晶ポリマーを配向処理した樹脂フィルム上に塗布したもの、(d)ディスコティック相を示す液晶ポリマーを垂直配向処理した樹脂フィルム上に塗布したもの、などが知られている。このうち、面内位相差をできるだけ小さくでき、かつ歩留まりよく加工可能なのは上記(b)〜(d)の手法、すなわち(a)の延伸加工以外の手法である。
【0006】
なお、現在一般に流通するCプレートは必ずしもnx=nyの条件を満たしていない。上記した(a)〜(d)の各々では、概ね(nx−ny)×d(d:フィルム厚さ)が7nm以下、好ましくは5nm以下のものが存在する。従って、一般には面内位相差が数nm程度である場合(すなわち厳密に0でない場合)も含めてCプレートと呼ばれている。
【0007】
ところで、特許文献1に開示されるような構造の液晶表示素子においては、液晶層のリタデーションを適切に設定し、かつCプレートを配置することにより、ほぼ良好な電圧無印加時の視角特性(背景視角特性)を得られるが、Cプレートのみでは表側偏光板および裏側偏光板の視角特性を補償することは困難である。詳細には、表側偏光板と表側基板の間にのみCプレートを配置した場合には、上下基板間に電圧を印加して明表示状態としたときの左右方向の視角特性を観察すると、液晶層のリタデーションが大きくなるに従って左右の非対称性が現れる。また、表側偏光板と表側基板の間および裏側偏光板と裏側基板の間のそれぞれにCプレートを配置した場合には、深い観察角度において表示が暗くなる現象が見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2047880号公報
【特許文献2】特許第3330574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明に係る具体的態様は、液晶表示素子(特に垂直配向型の液晶表示素子)の視角特性を向上させることが可能な技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る一態様の液晶表示素子は、(a)互いの一面を向かい合わせて配置された第1基板及び第2基板と、(b)第1基板と第2基板との相互間に配置された液晶層と、(c)第1基板の他面側に配置された第1偏光板と、(d)第2基板の他面側に配置された第2偏光板と、(e)第1基板と第1偏光板との間、又は第1基板と液晶層との間の何れかに配置された第1光学素子と、を含む。上記した第1光学素子は、(f)第1基板の一面又は他面に対して略同一の角度で傾斜し、かつ一方向に配列された複数の面を有する凹凸部と、(g)凹凸部を覆って設けられており、負の一軸光学異方性を示す光学膜と、を含む。
【0011】
上記構成によれば、第1基板の一面又は他面に対して光軸が傾いたCプレートとして機能する第1光学素子が得られる。このような第1光学素子を第1基板と第1偏光板との間、又は第1基板と液晶層との間の何れかに配置することにより、液晶表示素子(特に垂直配向型の液晶表示素子)の視角特性が改善される。詳細には、上記構成によれば、先行例における表側偏光板と表側基板の間にのみ従来のCプレートを配置した場合における明表示時の左右非対称性を解消することができる。また、表側偏光板と表側基板の間および裏側偏光板と裏側基板の間のそれぞれに従来のCプレートを配置した場合における左右方位の深い観察角度における透過率の低下を解消することもできる。さらに、従来のCプレートでは困難であった偏光板の視角特性を解消し、特に偏光板の吸収軸と45°方位における背景視角特性および明表示時視角特性を改善することができる。
【0012】
上記の液晶表示素子は、第1光学素子と同様な構造の第2光学素子が第2基板と第2偏光板との間、又は第2基板と液晶層との間の何れかに配置されることも好ましい。
【0013】
それにより、視角特性を改善する効果をより高めることができる。
【0014】
また、上記の液晶表示素子において、第1光学素子(または第2光学素子)は、光軸の傾斜角が第1基板の一面又は他面の法線方向を基準にして0°より大きく45°以下であることがより好ましい。
【0015】
また、上記の液晶表示素子において、第1光学素子(または第2光学素子)は、厚さ方向のリタデーションRthが110nm以上であり、かつ傾斜角をθとするとθ≦4943/Rthの関係を有することが好ましい。
【0016】
また、上記の液晶表示素子において、液晶層は、例えば垂直配向であり、かつリタデーションΔndが293nm以上1300nm以下であり、かつ第1光学素子(または第2光学素子)のリタデーションRthに対してΔnd=(Rth×2+125nm)±18000/Rthの関係を有する、ことが好ましい。
【0017】
液晶層のΔndについては、Rthの最小値が110nmとすると293(=345−52)nm以上、Rthの最大値が600nmとすると約1300nm(=600nm×2+100nm)と見積もれるからである。また、液晶層のΔndとRthの関係は、Δnd=Rth×2+125nm程度であるが、マージンが±18000/Rth程度存在するからである。
【0018】
本発明に係る他態様の光学素子は、第1基板及び第2基板と、それらの間に配置された液晶層とを有する液晶表示素子と組み合わせて用いられる光学素子であって、(a)主面を有する基礎部と、(b)主面に対して略同一の角度で傾斜し、かつ一方向に配列された複数の面を有する凹凸部と、(c)凹凸部を覆って設けられており、負の一軸光学異方性を示す光学膜と、を含み、(d)第1基板若しくは第2基板の少なくとも1つと液晶層との間、又は、第1基板若しくは第2基板の少なくとも1つの外側に配置して用いられる、光学素子である。
【0019】
このような光学素子を組み合わせることにより、上記のように液晶表示素子(特に垂直配向型の液晶表示素子)の視角特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施形態の光学素子の構造を模式的に示した斜視図である。
【図2】図1に示した光学素子の屈折率分布を説明するための図である。
【図3】光学素子の製造方法の一例について概略的に説明するための図である。
【図4】光学素子の製造方法の一例についてより詳細に説明するための図である。
【図5】光学素子の製造方法の一例についてより詳細に説明するための図である。
【図6】光学素子のリタデーション特性を測定した例を示す図である。
【図7】一実施形態の液晶表示素子の構造を示す模式斜視図である。
【図8】Rthを110nm、220nm、330nmのそれぞれとしたときの最適Δnd時の液晶表示素子を右方位50°から観察したときの背景透過率の傾斜角θ依存性を示す図である。
【図9】Rthを220nmとしたときの左右方向の背景視角特性のθ依存性を示す図である。
【図10】Rthとθの関係を示す図である。
【図11】各Rthおよびθにおける右方位50°において最低透過率が得られるΔndを示した図である。
【図12】各Rth条件における明表示時の左右視角特性の計算結果を示す。
【図13】各Rth条件における明表示時の左右視角特性の計算結果を示す。
【図14】各Rth条件における明表示時の左右視角特性の計算結果を示す。
【図15】比較例の液晶表示素子の構造を示す模式斜視図である。
【図16】比較例の液晶表示素子における明表示時の左右視角特性を示す図である。
【図17】比較例の液晶表示素子における明表示時の左右視角特性を示す図である。
【図18】液晶表示素子の他の構成例の模式断面図である。
【図19】液晶セルの内側に凹凸部等を設ける場合における基板構成例の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、一実施形態の光学素子(傾斜Cプレート)の構造を模式的に示した斜視図である。図1(a)に示すように、光学素子は、鋸歯状断面を有する凹凸部50と、この凹凸部50を支持する基礎部51と、凹凸部50を覆って形成された光学膜52と、を含んで構成される。
【0023】
凹凸部50は、図1(b)に示すように、それぞれが一方向に延在する複数の面50aを有する。なお、図中では代表して1つの面50aのみ符号を示している。凹凸部51は、例えば光硬化型樹脂からなる。本実施形態の凹凸部50は、複数の三角形を所定のピッチPで一方向に配列した断面形状を有する。各三角形は、例えば頂角75°、底角が15°および90°である。別言すれば、本実施形態の凹凸部50は、一方向に延びた微小なプリズムを複数配列してなる。ピッチPは例えば20μmであり、このときの凹凸部50の高さは約5.2μmである。
【0024】
なお、頂角、底角、ピッチP、高さのそれぞれの数値は一例であり、これに限定されない。加工精度にも依存するが、凹凸部50の形成後のプロセスや外観観察時の見栄え等を考慮すると、ピッチPは1〜100μm、底角Φは0°より大きく45°以下が好ましい。これにより、高さtはP×tanΦで表されるが、その中でも0.3〜100μmがより好ましい。
【0025】
基礎部51は、例えばガラス基板などの透明基板からなり、凹凸部50が形成されている側とは反対側に主面51aを有する。上述した凹凸部50の複数の面50aは、図示のように基礎部51の主面51aに対して略同一の角度で傾斜しており、かつ一方向(図中左右方向)に配列されている。なお、基礎部51と凹凸部50とが一体になっていてもよい(例えば樹脂一体成形)。
【0026】
光学膜52は、例えば高分子材料からなる。例えば本実施形態では、nx、nyがそれぞれ1.71、nzが1.59の屈折率を有する高分子材料を用いて光学膜52が形成されている。この高分子材料は、膜厚を1.8μmとしたときの厚さ方向の位相差Rthが約220nm、膜厚を3.5μmとしたときのRthが約440nm、膜厚を5.3μmとしたときのRthが約660nmとなるものである。
【0027】
図2は、図1に示した光学素子の屈折率分布(屈折率楕円体)を説明するための図である。一般にCプレートと呼ばれる光学素子は、図2(a)に示すように、光学素子の面内をX−Y平面、厚さ方向をZとしたときに、それぞれの座標方位に対応する屈折率nx、ny、nzにはnx≒ny>nzの関係があり、光軸がnz方位にあり、扁平な碁石のような楕円体形状を有している。これに対して、本実施形態の光学素子は、図2(b)に示すように、厚さ方向、すなわち法線方向(Z方向)に対して光軸がある角度(傾斜角)θだけ傾いた楕円体形状を有している。
【0028】
次に、上記した光学素子の製造方法の一例について説明する。始めに、図3に基づいて製造方法の一例を概略的に説明する。
【0029】
図3(a)に示すように、光学素子の凹凸部50に対応した形状を有する金型60を用意する。次いで、図3(b)に示すように、金型60の上に光硬化性樹脂材料61を滴下する。例えば、紫外線硬化型樹脂材料が用いられる。なお、熱硬化性樹脂材料を用いてもよい。
【0030】
次いで、光硬化性樹脂材料61を挟んで金型60にガラス基板62を重ね合わせ、ガラス基板62をプレスする。このガラス基板62は、光学素子の基礎部51となる。次いで、ガラス基板62を介して光硬化性樹脂材料61に光照射(本例では紫外線照射)を行うことにより、光硬化性樹脂材料61を硬化させる。これにより、金型60の形状が転写された光硬化性樹脂材料61が硬化して光学素子の凹凸部50となる。
【0031】
次いで、図3(d)に示すように、金型60からガラス基板60を剥離する。その後、図3(e)に示すように、基礎部51としてのガラス基板62の凹凸部50の上側に光学膜52を形成する。例えば、液状の材料を凹凸部50上に滴下し、均一な厚さに広げた後に固化させることにより、凹凸部50を覆う光学膜52が得られる。以上により、光学素子が完成する。
【0032】
次に、図4および図5に基づいて、製造方法の一例をより詳細に説明する。
【0033】
図4(a)に示すように、土台63の上側に金型60をセットする。金型60の大きさは、例えば横80mm×縦60mm程度とすることができる。この金型60には、表面に離型剤もしくはコーティング剤が施されていることが望ましい。
【0034】
次いで、図4(b)に示すように、金型60の上に所定量の紫外線硬化性樹脂材料61を供給する。紫外線硬化性樹脂材料61としては、例えば屈折率1.51の材料を用いることができる。本工程における紫外線硬化性樹脂材料61の供給量(滴下量)を制御することにより、光学素子の凹凸部50を所望の大きさに形成できる。
【0035】
次いで、図4(c)に示すように、金型60の上に、紫外線硬化性樹脂材料61を挟んでガラス基板62を重ね合わせる。なお、ガラス基板62としては、例えばITO(インジウム錫酸化物)膜などの透明導電膜を片面に有する基板を用いることもできる。
【0036】
さらに、図4(d)に示すように、ガラス基板62の裏面側に厚手の石英(例えば円形のもの)などの透明な基板64を配置する。次いで、図4(e)に示すように、所定の治具65を用いてこの基板64をプレスする。例えば、1分間以上プレスすることが望ましい。それにより、ガラス基板62が金型60側へ押圧され、紫外線硬化性樹脂材料61が金型60とガラス基板62の間隙において十分に広がる。
【0037】
次いで、図5(a)に示すように、基板64およびガラス基板62を介して紫外線を照射することにより紫外線硬化性樹脂材料61を硬化させる。それにより、ガラス基板62の片面上に凹凸部50が形成される。本工程において、遮光マスク等を用いて紫外線の照射範囲を制御することによっても光学素子の凹凸部50の大きさを加減できる。本工程における紫外線の照射量は例えば20J/cm程度とすればよい。なお、樹脂が硬化すればよいため、照射量はさほど厳密ではない。ただし、ガラス基板62がITO膜を有するものである場合には、ITO膜が紫外線を吸収することを考慮し、ITO膜の膜厚に応じて紫外線の照射量を加減する必要がある。
【0038】
次いで、図5(b)に示すように基板64、治具65を取り外す。さらに、図5(c)に示すように、別の治具66を土台63の下側にセットする。この治具66には複数(例えば8つ)の突起部66aが設けられている。各突起部66aは、ある程度の固さを有し、かつ先端に弾力性を有している。また、土台63には、各突起部66aに対応した位置に設けられた複数の貫通孔63aを有している。
【0039】
次いで、図5(d)に示すように、各貫通孔63aに各突起部66aを貫通させるようにして土台63に治具66を組み合わせることによって各突起部66aをガラス基板62に突き当てて、ガラス基板62を金型60から剥離する。このとき、ガラス基板62がなるべく平行状態を保ったまま上方向へ移動するように治具66を移動させる。
【0040】
以上により、図5(e)に示すように、基礎部51としてのガラス基板62上に透明樹脂膜からなる凹凸部50が完成する。その後、この凹凸部50が形成されたガラス基板62を洗浄機により洗浄する。洗浄は、例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線(UV)照射、赤外線(IR)乾燥の順に行うことができるがこれに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0041】
次いで、図5(f)に示すように、凹凸部50を覆う光学膜52を形成する。光学膜52の材料としては、下地に配向処理を必要とするものとしないものとがあり、本実施形態では配向処理が不要な材料を用いる。上記したように本実施形態では、nx、nyがそれぞれ1.71、nzが1.59の屈折率を有する高分子材料を用いて光学膜52が形成される。ここでは、例えば、液状の材料を凹凸部50上に滴下し、フィルムアプリケーターを使って均一な厚さに広げる。このときの条件としては、例えば、下地のガラス基板62とフィルムアプリケーターのバーとの距離を154μmとし、フィルムアプリケーターの移動速度を4.2mm/秒とする。フィルムアプリケーターの移動方向は、凹凸部50の溝の延在方向(面50aの長手方向)と平行にすることが望ましい。このようにして得られる本実施形態の光学膜52は、平均膜厚が5.3μmである。ただし、下地が片鋸状の断面を有する凹凸部50であるから、光学膜52の膜厚は位置により異なる。
【0042】
以上により、上記した図1に示した光学素子が完成する。この光学素子の光学膜52のリタデーション特性を測定した例を図6に示す。図6において、横軸は測定角度を示し、縦軸はリタデーションの値を示す。横軸のΦs=0°のところが光学素子の法線方向から光を入射したときのリタデーションであり、通常のCプレート膜であればこのΦs=0のときに最大のリタデーションを示す。ところが、図6に例示する光学素子では、Φs=−18°付近の測定角度のときにリタデーションが最大値を示している。したがって、本実施形態における光学素子はその光軸が傾いたCプレート(傾斜Cプレート)になっていることがわかる。このような光学素子を用いることにより、液晶表示素子(特に垂直配向型)の視角特性を大幅に向上することができる。以下では、本実施形態の光学素子を組み合わせた液晶表示素子の構成例について詳細に説明する。
【0043】
図7は、一実施形態の液晶表示素子の構造を示す模式斜視図である。図7に示す本実施形態の液晶表示装置は、対向配置された第1基板4および第2基板6と、両基板の間に配置された液晶層5と、を主に備える。第1基板4の外側には第1偏光板10が配置され、第2基板6の外側には第2偏光板20が配置されている。第1基板4と第1偏光板10の間には第1光学素子3が配置され、第2基板6と第2偏光板20の間には第2光学素子7が配置されている。液晶表示素子の左右方位は、図示の方位座標系において180°,0°方位(9時,3時方位)としている。
【0044】
第1基板4および第2基板6は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。第1基板4と第2基板6との相互間には、例えばスペーサー(粒状体)が分散して配置されており、それらのスペーサーにより第1基板4と第2基板6との間隙が所定距離(例えば数μm程度)に保たれる。第1基板4および第2基板6の各々の表面には、液晶層5に電圧を印加するための電極が適宜設けられる(図示省略)。これら第1基板4および第2基板6と液晶層5により液晶セル30が構成されている。
【0045】
液晶層5は、第1基板4と第2基板6との相互間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負(Δε<0)の液晶材料(ネマティック液晶材料)を用いて液晶層5が構成されている。液晶層5に図示された柱状体は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向を模式的に示したものである。図示のように、本実施形態の液晶表示装置においては、液晶層5の液晶分子の配向状態がモノドメイン配向に規制されている。本実施形態における液晶層5のプレティルト角は、垂直に極めて近い角度(例えば89.9°)に設定されている。本実施形態の液晶層5は、中央における液晶分子の配向方位が270°方位である。液晶層5を構成する液晶材料のΔnは例えば0.15程度であり、Δεは例えば−3.5程度である。
【0046】
第1偏光板10は、偏光層1とTAC(Cellulose triacetate)ベースフィルム2を有する。TACベースフィルム2は保護フィルムとしての役割を果たす。本実施形態では、第1偏光板10は、図示した方位座標系において吸収軸Fabが135°の方位に設定されている。同様に、第2偏光板20は、偏光層1とTACベースフィルム2を有する。本実施形態では、第2偏光板20は、図示した方位座標系において吸収軸Rabが45°の方位に設定されている。
【0047】
各TACベースフィルム2は、例えば、厚さ方向リタデーションが50nm、面内リタデーションが3nmである。第1偏光板10のTACベースフィルム2はその遅相軸が第1偏光板10の吸収軸と平行に設定されている。同様に、第2偏光板10のTACベースフィルム2はその遅相軸が第2偏光板20の吸収軸と平行に設定されている。
【0048】
第1光学素子3および第2光学素子7は、それぞれ、上記した本実施形態に係る光学素子である(図1等参照)。すなわち、第1光学素子3は、凹凸部50、基礎部51および光学膜52を有しており、凹凸部50の各面50aが第1基板4の一面又は他面に対して略同一の角度で傾斜するように配置されている。同様に、第2光学素子7は、凹凸部50、基礎部51および光学膜52を有しており、凹凸部50の各面50aが第2基板6の一面又は他面に対して略同一の角度で傾斜するように配置されている。
【0049】
第1光学素子3は、その光軸が傾く方位Fobが図示のように近接する第1偏光板10の吸収軸Fabに対してほぼ直交するように配置される。同様に、第2光学素子7は、その光軸が傾く方位Robが図示のように近接する第2偏光板20の吸収軸Rabに対してほぼ直交するように配置される。第1光学素子3の配置について、凹凸部50および光学膜52が形成されている側を第1基板4と対向するようにするかその逆とするかは、光軸が傾く方位Fobが上記のように配置される限りにおいて任意である。第2光学素子7についても同様である。
【0050】
また、第1光学素子3と第2光学素子7は、光軸が傾く方位Fob、Robが互いにほぼ直交するように配置されている。液晶層5との関係でいうと、第1光学素子3の光軸が傾く方位Fobは、液晶層5の中央における液晶分子の配向方位(270°方位)に対して時計回りに45°の位置にあり、第2光学素子7の光軸が傾く方位Robは、液晶層5の中央における液晶分子の配向方位(270°方位)に対して時計回りに135°の位置にある。
【0051】
本実施形態の液晶表示素子は以上のような構成を備えており、次にその視角特性についてのシミュレーション解析結果を説明する。シミュレーションにおいては、第1光学素子3および第2光学素子7のそれぞれの厚さ方向の位相差Rthおよび光軸の傾斜角θは同一とし、面内位相差は0nmであるとした。
【0052】
図8は、Rthを110nm、220nm、330nmのそれぞれとしたときの最適Δnd時の液晶表示素子を右方位50°から観察したときの背景透過率の傾斜角θ依存性を示す図である。何れのRthにおいてもθ=0°のときは透過率が0.36%程度と光抜けが大きいが、θを変化させることにより正面観察時の透過率とほぼ同等な透過率にできるθの値が存在することがわかる。θの値はRthが大きくなるに従って小さくなる傾向がみられる。
【0053】
図9は、Rthを220nmとしたときの左右方向の背景視角特性のθ依存性を示す図である。上記した図8の結果に従い、θが0°〜15°の間では深い観察角度において光抜けがθの増加に従って減少する傾向がみられる。また、θ=15°の場合には、観察角度が60°および−60°のそれぞれにおいても正面観察時(観察角度0°)の透過率とほぼ同等な広視野角特性が得られていることがわかる。
【0054】
図10は、Rthとθの関係を示す図である。実線は右方位50°において各Rth条件で最も透過率が低い状態が得られるθを示しており、破線はθ=0とほぼ同じ透過率が得られる最大傾斜角θを示している。何れの条件においてもθはRthに反比例する結果が得られている。従って、上記構成の本実施形態の液晶表示素子において傾斜角θ≦4943/Rthを満足する条件とすれば、従来構造の液晶表示素子と同等以上の背景視角特性が得られる。
【0055】
図11は、各Rthおよびθにおける右方位50°において最低透過率が得られるΔndを示した図である。何れのRthにおいてもθが増加するに従ってΔndが減少する傾向にある。一般的な従来構造の液晶表示素子における液晶層のマージンは、外観観察や電気光学特性の評価から、視角特性が最も良好なΔnd条件を中心に±18000/Δnd[nm]程度存在することから、本実施形態の液晶表示素子においても同様なマージンが認められる。
【0056】
図12〜図14は、各Rth条件における明表示時の左右視角特性の計算結果を示す。Rthは110nm、220nm、330nmとし、それぞれΔndは左右背景50°観察時に透過率が最低となるΔndを図11から対応させている。明表示時の透過率は正面観察時に約10%前後になるように設定したが、比較のためにそれぞれの正面観察時の透過率を1として規格化した左右相対透過率視角特性により評価を行った。図12にはRth=110nm時の特性、図13にはRth=220nm時の特性、図14にはRth=330nm時の特性が示されている。各図には傾斜角θをいくつか変えたときの曲線が示されている。図示のように、傾斜角θが大きくなるに従って何れのRthにおいても深い観察角度において明表示時の相対透過率が上昇する傾向がみられる。ただし、Rthが大きくなるに従って正面観察時に対する上昇度合いが少なくなる傾向がある。しかし、このような場合、液晶層5にカイラル材を添加するか、上下配向方向をねじれるように設定すれば透過率を改善できる。カイラル材はd/p設定を0.5より大きく0.74より小さくすると透過率向上の効果が観察される。さらに上下配向方向は液晶層5の中央における液晶分子の配向方向は270°方位にて固定した状態で180°〜240°に設定することでより透過率上昇が望めることがわかった。
【0057】
次に、比較例の液晶表示素子についてその構成と視角特性を説明する。図15は、比較例の液晶表示素子の構造を示す模式斜視図である。なお、上記した本実施形態の液晶表示素子と共通する構成要素については同一の符号を用いて示し、その詳細については説明を省略する。
【0058】
図15(a)に示す比較例の液晶表示素子は、上記した本実施形態の液晶表示素子と比較すると、光学素子3、7が用いられておらず、第1基板4と第1偏光板10との間に一般的なCプレート31が配置されている点が主に異なっている。また、図15(b)に示す比較例の液晶表示素子は、上記した本実施形態の液晶表示素子と比較すると、第1光学素子3、第2光学素子7が用いられておらず、第1基板4と第1偏光板10との間に一般的なCプレート31が配置され、第2基板6と第2偏光板20との間に一般的なCプレート71が配置されている点が主に異なっている。図15(a)の液晶表示素子においては、Cプレート31のRthを220nm、440nm、660nmとした。図15(b)の液晶表示素子においては、Cプレート31、71の各Rthを220nm、440nm、660nmとした。いずれの液晶表示素子においても、液晶層5およびCプレート31、71の屈折率の波長分散は等しくなく、液晶層5の液晶材料は正の波長分散を有し、Cプレート31、71は波長分散を有しない。その他の諸条件は上記した本実施形態の液晶表示素子と共通である。
【0059】
図16は、上記した図15(a)に示す比較例の液晶表示素子における明表示時の左右視角特性を示す図である。また、図17は、上記した図15(b)に示す比較例の液晶表示素子における明表示時の左右視角特性を示す図である。なお、明表示については、正面観察時において透過率が10%程度になるように定義した。図16においてはRth、すなわちΔndが大きくなるに従って左右の深い観察角度における透過率が上昇すると同時に左右透過率の非対称性が強くなることがわかる。一方、図17においては、Rthが大きくなるに従って左右の深い観察角度における透過率が大幅に減少し、透過率がほぼ0%になる、すなわち表示が全く見えない領域が発生することがわかる。このように、一般的なCプレートを用いた比較例の液晶表示素子における視角特性は劣っており、これと比較して上記した本実施形態の液晶表示素子は視角特性に優れていることがわかる。
【0060】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0061】
例えば、上記した実施形態においては第1基板4側に第1光学素子3を配置し、第2基板6側に第2光学素子7を配置していたが、いずれかの光学素子を省略した場合であっても従来例に比べて視角特性を改善する効果が得られる。
【0062】
また、上記した実施形態における第1基板4と第1光学素子3を一体することも可能であり、同様に第2基板6と第2光学素子7とを一体することも可能である。この場合の構成例の模式断面図を図18に示す。なお、図示の都合上、光学膜52の詳細形状については簡略化して示す(後述の図19も同様)。
【0063】
図18(a)に示す構成例では、第1基板4を光学素子の基礎部(図1参照)としても兼用されている。すなわち、基礎部としての第1基板4上に凹凸部50および光学膜52が設けられており、これらが全体として第1光学素子3aとして機能する。同様に、基礎部としての第2基板6上に凹凸部50および光学膜52が設けられており、これらが全体として第2光学素子7aとして機能する。
【0064】
なお、図18(a)に示す構成例では、凹凸部50および光学膜52が液晶セルの外側(液晶層5と接しない側)に配置されているが、図18(b)に示す構成例のように、凹凸部50および光学膜52が液晶セルの内側(液晶層5と接する側)に配置されていてもよい。さらに、一方の基板(例えば第1基板4)に設けられた凹凸部50等が液晶セルの内側に配置され、他方の基板(例えば第2基板6)に設けられた凹凸部50等が液晶セルの外側に配置されてもよい。
【0065】
液晶セルの内側に凹凸部等を設ける場合における構成についてさらに詳述する。この場合の基板構成例の模式断面図を図19に示す。図19(a)は、第1基板4(または第2基板6)の一面にITO膜等からなる電極11を設け、さらにその上側に凹凸部50および光学膜52を設けた構成例である。この場合には、例えばITO等の導電膜付きのガラス基板を適宜パターニングすることにより、第1基板4(または第2基板6)上に電極11を設けておき、その上側に凹凸部50等を順次形成すればよい。また、図示のように光学膜52の上側に配向膜8を設けることができる。
【0066】
図19(b)は、第1基板4(または第2基板6)の一面に凹凸部50および光学膜52を設け、さらにその上側に電極11を設けた構成例である。この場合には、例えばガラス基板上に凹凸部50および光学膜52を設けた後に、酸化珪素膜等の絶縁膜9を適宜に形成し、その上にITO等の導電膜を形成し、パターニングすることにより電極11を形成できる。また、その電極11の上側に配向膜8を設けることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…偏光層、 2…TACベースフィルム、 3、3a、3b…第1光学素子、 4…第1基板、 5…液晶層、 6…第2基板、 7、7a、7b…第2光学素子、 8…配向膜、 9…絶縁膜、 10…第1偏光板、 11…電極、 20…第2偏光板、 30…液晶セル、 50…凹凸部、 50a…面、 51…基礎部、 52…光学膜、 60…金型、 61…光硬化性樹脂材料、 62…ガラス基板、 63…土台、 63a…貫通孔、 64…基板、 65、66…治具、 66a…突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの一面を向かい合わせて配置された第1基板及び第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との相互間に配置された液晶層と、
前記第1基板の他面側に配置された第1偏光板と、
前記第2基板の他面側に配置された第2偏光板と、
前記第1基板と前記第1偏光板との間、又は前記第1基板と前記液晶層との間の何れかに配置された第1光学素子と、
を含み、
前記第1光学素子は、
前記第1基板の一面又は他面に対して略同一の角度で傾斜し、かつ一方向に配列された複数の面を有する凹凸部と、
前記凹凸部を覆って設けられており、負の一軸光学異方性を示す光学膜と、
を含む、
液晶表示素子。
【請求項2】
前記第1光学素子は、光軸の傾斜角が前記第1基板の一面又は他面の法線方向を基準にして0°より大きく45°以下である、
請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記第1光学素子は、厚さ方向のリタデーションRthが110nm以上であり、かつ前記傾斜角をθとするとθ≦4943/Rthの関係を有する、
請求項2に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記液晶層は、リタデーションΔndが293nm以上1300nm以下であり、かつ前記第1光学素子のリタデーションRthに対してΔnd=(Rth×2+125nm)±18000/Rthの関係を有する、
請求項3に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記第2基板と前記第2偏光板との間、又は前記第2基板と前記液晶層との間の何れかに配置された第2光学素子、
を更に含み、
前記第2光学素子は、
前記第2基板の他面に対して略同一の角度で傾斜し、かつ一方向に配列された複数の面を有する凹凸部と、
前記凹凸部を覆って設けられており、負の一軸光学異方性を示す光学膜と、
を含む、
請求項1〜4の何れか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記液晶層が垂直配向である、請求項1〜5の何れか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
第1基板及び第2基板と、それらの間に配置された液晶層とを有する液晶表示素子と組み合わせて用いられる光学素子であって、
主面を有する基礎部と、
前記主面に対して略同一の角度で傾斜し、かつ一方向に配列された複数の面を有する凹凸部と、
前記凹凸部を覆って設けられており、負の一軸光学異方性を示す光学膜と、
を含み、
前記第1基板若しくは前記第2基板の少なくとも1つと液晶層との間、又は、前記第1基板若しくは前記第2基板の少なくとも1つの外側に配置して用いられる、光学素子。

【図1】
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【図18】
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【図19】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−145342(P2011−145342A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4067(P2010−4067)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】