説明

液晶表示装置および液晶表示装置の製造方法

【課題】ラビングレスにより高コントラストと製造コストの低減を図った上で、高速応答を可能とする。
【解決手段】互いに対向する第1基板(12)および第2基板(13)と、第1基板と第2基板との間に封止される液晶(1)とを備えた液晶表示装置であって、1つ1つの小部屋としての微細孔が、空間的に互いに連結しながら3次元的に配列されて1つの大空間を形成し、第1基板と第2基板との間に挿入される微細孔構造層(21)をさらに備え、液晶は、微細孔構造層に設けられた微細孔のそれぞれに分かれて封止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応答速度の改善を図った液晶表示装置および液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液晶表示装置における配向技術は、ラビングという配向処理によって方向性を持たせている。図5は、従来技術であるラビング配向によるIPSモードの液晶表示装置の説明図である。この従来の液晶表示装置は、ネマティック液晶1、水平電極11、画素基板12、対向基板13、配向膜14、およびスペーサ15を備えて構成されている。
【0003】
そして、図5に示す液晶表示装置は、ラビング処理を含む以下の工程で製造される。
工程1:基板(12、13)に配向膜14をコ−ティングする。
工程2:オーブンで焼く。
工程3:レーヨンやセルロース系などの布で一軸方向に擦り(ラビング)、配向膜14に異方性を持たせる。
工程4:洗浄する。
工程5:ラビングした両基板の間に液晶1を注入する。
【0004】
このようなラビング処理を施すことで、強い配向規制力と安定性を持たせることができる。しかしながら、液晶表示装置の高精細化や微細化に伴って、このようなラビング処理による以下のような問題が浮き彫りとなってきた。具体的には、ラビングの削れかすによる異物の問題、配向膜に起因する光劣化の問題、ラビングむらによる表示むらの問題等が挙げられる。
【0005】
このような問題に対して、基板面に対して垂直方向に貫通した貫通孔を有する多孔質材を両基板間に配設し、電圧が印加されていないときは、n型液晶が多孔質材の孔方向の向きに配向され、電圧印加時には、基板面に平行な面内においてn型液晶が駆動電界方向および孔方向に対して垂直な方向に配向されるようにした液晶表示装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このような特許文献1に係る液晶表示装置によれば、多孔質材を両基板間に配設するとともに、基板面に対して平行に駆動電界を形成する横電界駆動方式を用いることで、駆動電界領域に従来の配向膜を用いる必要がなく、ラビングレスで液晶を配向させることができる。この結果、表示領域の透過率の向上、高耐光性による長期信頼性の向上、ラビングレスによる歩留まりの向上、プロセスの簡素化、簡易化に伴う低コスト化を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−140978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
近年の液晶表示装置では、高精細化や微細化とともに、高速応答も品質面での重要な要素となっている。この高速応答に着目すると、従来のラビング処理を施す液晶表示装置においては、電圧を印加することによって、画素内の液晶全体を動かすために、時間がかかっていた。特に、ネマティック液晶モ−ドでは、1ms以下の高速応答は実現できないといった制約があった。
【0009】
また、ラビングレスの技術を開示している特許文献1に係る液晶表示装置は、基板面に対して垂直方向に貫通した貫通孔を有する多孔質材を用いることで、ラビング処理に起因する上述したような問題を解消するとともに、高精細化や微細化を実現している。しかしながら、高速応答に関しては、何ら言及されていない。
【0010】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、ラビングレスにより高コントラストと製造コストの低減を図った上で、高速応答を可能とする液晶表示装置および液晶表示装置の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る液晶表示装置は、互いに対向する第1基板および第2基板と、第1基板と第2基板との間に封止される液晶とを備えた液晶表示装置であって、1つ1つの小部屋としての微細孔が、空間的に互いに連結しながら3次元的に配列されて1つの大空間を形成し、第1基板と第2基板との間に挿入される微細孔構造層をさらに備え、液晶は、微細孔構造層に設けられた微細孔のそれぞれに分かれて封止されるものである。
【0012】
また、本発明に係る液晶表示装置の製造方法は、1つ1つの小部屋としての微細孔が、空間的に互いに連結しながら3次元的に配列されて1つの大空間を形成し、第1基板と第2基板との間に挿入される微細孔構造層の一方の面に第1基板を貼り付け、一方の面と反対側の他方の面に第2基板を貼り付けるステップと、第1基板と第2基板との間に挟まれた微細孔構造層に設けられた微細孔のそれぞれに液晶を封止するステップとを備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微細孔が形成された構造層を用い、この構造層の隙間にブルー相液晶を充填することで、ラビングレスにより高コントラストと製造コストの低減を図った上で、高速応答を可能とする液晶表示装置および液晶表示装置の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1における液晶表示装置のパネル断面を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1における微細孔構造フィルムの模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1における液晶表示装置の製造方法および性能検証実験に関する一連処理を示したフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1における液晶表示装置の性能検証試験の結果をまとめたものである。
【図5】従来技術であるラビング配向によるIPSモードの液晶表示装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の液晶表示素子および液晶表示装置の製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。本発明は、ラビング配向によるIPSモ−ドの問題を改善するために、微細孔が形成されたフィルム(微細孔構造フィルム)を用いて、液晶を狭い空間に分けて配向させることで、ラビングなどの配向処理を不要とした上で、高速応答が可能になるモ−ドを実現できることを技術的特徴としている。
【0016】
実施の形態1.
上述したように、特許文献1では、基板面に対して垂直方向に貫通した貫通孔を有する多孔質材を用いることでラビングレスを実現していた。これに対して、本発明は、1つ1つの小部屋としての微細孔が、空間的に互いに連結、かつ空間的に連続しながら3次元的に配列された微細孔構造フィルムを用いることで、ラビングレスにより高コントラストと製造コストの低減を図った上で、高速応答を可能とする。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態1における液晶表示装置のパネル断面を示す図である。この図1に示す本実施の形態1に係る液晶表示装置は、液晶1、水平電極11、画素基板12、対向基板13、および微細孔構造フィルム21を備えて構成されている。
【0018】
一方の面に水平電極11が設けられた画素基板12と、水平電極11と向かい合うように画素基板12に対向する対向基板13との間には、微細孔構造フィルム21(微細孔構造層に相当)が挟み込まれている。
【0019】
ここで、微細孔構造フィルム21としては、例えば、住友3M社製の多孔質フィルムプロポアファブリックを用いることができる(Microporous Film ProporeFabric http://www.mmm.co.jp/pcrp/microp/index.html参照)。
【0020】
この微細孔構造フィルム21は、1つ1つの小部屋としての微細孔が、空間的に互いに連結、かつ空間的に連続しながら3次元的に配列されて、構成されている。すなわち、各微細孔は、隣接する微細孔と空間的につながれているとともに、小部屋を形成するためのフィルムにより、互いに連結されて3次元的に配列され、結果的に、連続した1つの大空間を有している。
【0021】
より具体的には、一例として、画素基板12と対向基板13との間隔は、5μm程度であり、その間に挟み込まれ、同等の5μm程度の厚みを有する微細孔構造フィルム21は、1μm以下の直径を有する略球形で構成された微細孔が3次元的に配列され、連続した1つの大空間を形成している。
【0022】
そして、微細孔構造フィルム21のある1箇所から、液晶1を充填することで、1つの大空間内に液晶1を注入でき、その結果、各微細孔における小部屋に対して、液晶1が封止されることとなる。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態1における微細孔構造フィルムの模式図であり、小部屋に分かれている様子をパネル断面図として模式的に示したものである。より具体的には、図2(a)は、微細孔構造フィルム21を用いずにラビング処理を施した従来技術を示しており、図2(b)は、微細孔構造フィルム21を用いてラビングレスとした本願発明を示している。
【0024】
図2(a)に示した従来技術においては、電圧を印加することによって、両基板間の液晶全体を動かすため、その応答速度が遅く、高速応答を実現することが難しかった。これに対して、図2(b)に示した本願発明においては、微細孔構造フィルム21に設けられたそれぞれの小部屋ごとに、液晶1が封止され、電圧制御されることで、所望の画像表示を実現することとなる。
【0025】
このように、微細孔構造フィルム21を用いることで、狭い空間に閉じ込められた液晶は、光学的に等方相(ランダム)であるが、ランダム配向から電圧をかけると、異方性(一軸方向)の方向に変わる。そして、液晶1を狭い空間で分けているため、液晶分子の相互作用が少なく、電圧の印加による動きが早くなり、応答速度が改善されることとなる。このように、液晶を小空間に分けることで、両基板間の液晶全体を動かす従来方法と比較して、応答速度の改善を図ることが可能となる。
【0026】
また、微細孔構造を用いることで、長時間駆動させた場合にも、微細孔構造が壊れるおそれがなく、配向が安定で、高コントラストを維持できる液晶表示装置を実現できる。
【0027】
さらに、画素基板12と対向基板13との間のセル厚も、微細孔構造フィルム21の厚みを管理することで、容易に所望の厚みとすることができる。この結果、セル厚を制御するために用いるスペーサの形成が不要となり、パネルの大型化も可能となる。
【0028】
次に、本実施の形態1における液晶表示装置の製造方法、および性能検証実験について、フローチャートを用いて説明する。図3は、本発明の実施の形態1における液晶表示装置の製造方法および性能検証実験に関する一連処理を示したフローチャートである。まず始めに、ステップS301において、水平電極11が設けられた画素基板12と対向基板13を、微細孔構造フィルム21を挟んだ状態で貼り合わせる。
【0029】
次に、ステップS302において、両基板の貼り合わせが完了した微細孔構造フィルム21の1つの大空間内に液晶1を注入することで、各微細孔に液晶1を充填する。次に、ステップS303において、ステップS301、S302を経て製造されたパネルに、偏光板を貼り付ける。
【0030】
そして、ステップS304において、電圧を印加する前の状態(黒画像表示状態)と、電圧を印加した後の状態(白画像表示状態)とに基づいて、コントラストの測定を行う。また、応答速度の検証も合わせて行う。なお、ここでの応答速度とは、電圧を印加した後に所定以上の明るさの白画像表示が得られるまでにかかる時間である。
【0031】
図4は、本発明の実施の形態1における液晶表示装置の性能検証試験の結果をまとめたものである。なお、このデータを収集するに当たっては、微細孔の直径が、0.3μm、1μm、2μmの3種の微細孔構造フィルム21を用いている。また、従来の高分子構造を用いた場合との比較も行っている。
【0032】
まず、コントラストに関しては、微細孔の直径が2μmの場合には、従来の約半分のコントラストとなってしまったが、微細孔の直径が1μmの場合には従来と同等のコントラストが得られ、微細孔の直径が0.3μmの場合には約2倍のコントラストが得られることがわかった。これは、狭い空間に閉じ込められた液晶の初期状態が等方相であるため、黒輝度が低いことによる。
【0033】
さらに、応答速度に関しては、微細孔の直径がいずれの場合にも、従来より、少なくとも2倍以上速い応答速度が得られた。これは、液晶が狭い空間で分けられているため、液晶分子の相互作用が少ないことによる。
【0034】
また、図4には示していないが、微細孔構造フィルム21のうち、各微細孔で形成される空間部分の占める割合を微細孔存在率と定義すると、微細孔の直径がいずれの場合にも、この微細孔存在率が95%以上であれば、白輝度として良好な輝度が得られることが実証できた。
【0035】
以上のように、実施の形態1によれば、微細孔構造層を適用してラビングレスとすることにより、高コントラストと製造コストの低減を図った上で、高速応答を可能とする液晶表示装置および液晶表示装置の製造方法を実現することができる。
【0036】
また、検証試験により、コントラストおよび応答速度の観点からは、微細孔構造フィルムに設けられる微細孔は、その直径に関しては1μm以下が好ましく、微細孔存在率に関しては95%以上が好ましいことが実証された。
【0037】
なお、上述した本発明の液晶表示装置は、TNやVAモ−ドでもよく、また、水平電極として、IPS(In Plane Switching)電極を用いることもできる。
【符号の説明】
【0038】
1 液晶、11 水平電極、12 画素基板、13 対向基板、21 微細孔構造フィルム(微細孔構造層)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1基板および第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との間に封止される液晶と
を備えた液晶表示装置であって、
1つ1つの小部屋としての微細孔が、空間的に互いに連結しながら3次元的に配列されて1つの大空間を形成し、前記第1基板と前記第2基板との間に挿入される微細孔構造層をさらに備え、
前記液晶は、前記微細孔構造層に設けられた前記微細孔のそれぞれに分かれて封止される
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶表示装置において、
前記微細孔構造層に設けられた前記微細孔のそれぞれは、直径が1μm以下で構成されている
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液晶表示装置において、
前記微細孔構造層は、各微細孔で形成される空間部分が前記微細孔構造層に対して占める割合を微細孔存在率と定義した際に、前記微細孔存在率が95%以上である
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液晶表示装置において、
前記第2基板にIPS電極を用いる
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項5】
1つ1つの小部屋としての微細孔が、空間的に互いに連結しながら3次元的に配列されて1つの大空間を形成し、前記第1基板と前記第2基板との間に挿入される微細孔構造層の一方の面に第1基板を貼り付け、前記一方の面と反対側の他方の面に第2基板を貼り付けるステップと、
前記第1基板と前記第2基板との間に挟まれた前記微細孔構造層に設けられた前記微細孔のそれぞれに液晶を封止するステップと
を備えたことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113905(P2013−113905A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257647(P2011−257647)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(501426046)エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド (732)
【Fターム(参考)】