説明

液晶表示装置の製造方法

【課題】ラビング処理、ポリイミド配向膜及び磁場配向法に起因する様々な問題を防止し、既存の装置を有効活用して、低コストで液晶の配向制御性に優れた液晶表示装置を製造し得る方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの基板が凹凸構造を有する2つの基板上にポリマーブラシを形成する工程と、前記ポリマーブラシを形成した2つの基板間に液晶を注入して液晶セルを作製する工程と、前記液晶セルを、前記ポリマーブラシと前記液晶とが相溶した部分のTgよりも高く且つ前記液晶のNI点よりも低い温度に加熱して保持する工程と、前記液晶セルを、前記ポリマーブラシと前記液晶とが相溶した部分のTgよりも低い温度に冷却する工程とを含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の製造方法に関し、特に、各種機器の表示パネルなどに使用される液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低駆動電圧、低消費電力及び軽量などの特性を有していることから、時計の表示パネルや、携帯電話、コンピュータ及びテレビのディスプレイなどにおける用途が拡大している。
このような液晶表示装置では、液晶を基板面に対して所定の方向に並べる(すなわち、配向させる)ことが一般的に必要とされているが、従来の配向技術としては、基板上にポリイミドなどから成る配向膜を形成した後にラビング処理を施すこと(ラビング法)により液晶を配向させる方法が知られている。ラビング処理は、レーヨンや綿などの布を巻いたローラーを、回転数及びローラーと基板との距離を一定に保った状態で回転させ、配向膜の表面を一方向に擦ることにより行われる。
【0003】
しかしながら、ラビング処理による配向技術には、以下に挙げるように様々な問題がある。
(1)ラビング処理は、配向膜に大きなキズを生じさせることがあり、そのキズが液晶表示装置の黒表示時において光漏れの原因となり、液晶表示装置のコントラストを低下させる。
(2)ラビング処理によって、配向膜が剥がれたり、ローラーに巻いた布から毛が脱落したりする結果、液晶表示装置の表示品位や歩留まりが低下する。
(3)基板上に形成したTFT素子などによる段差により、ラビングされない部分が生じ、液晶表示装置の表示品位や歩留まりが低下する。
(4)基板とローラーとの間の摩擦によって生じる静電気により、基板上に形成したTFT素子が破壊し、歩留まりが低下する。
【0004】
(5)ラビング方向の微妙なズレや液晶セルを形成する際の基板の貼り合わせの微妙なズレにより、上下基板の配向方向がずれてしまい(すなわち、配向軸のずれが生じ)、液晶表示装置のコントラストが低下する。
(6)ラビング処理は、レーヨンや綿などのラビング用布の特性の定量化が困難で、製造上の管理が難しい。
(7)基板サイズが大きくなると、均一なラビング処理が困難になると共に、ラビング処理のための装置を大きくする必要があるため、投資コストが増大する。
【0005】
そこで、ラビング処理を必要としない(ラビングレス)配向技術として、磁場による配向技術(例えば、特許文献1)、配向膜として液晶性高分子を用いる技術(例えば、特許文献2)、液晶中にポリマーを含有させて液晶の配向を制御する技術(例えば、特許文献3)などが提案されている。
しかしながら、これらの従来のラビングレス配向技術は、依然としてその効果が充分ではないという問題がある。
【0006】
また、近年、液晶表示装置には、省エネルギーの観点から低電圧駆動(低消費電力化)が要求されている。低電圧駆動のためには配向膜の厚さを薄くすることが有効であるが、配向膜にポリイミド膜を使用する場合、ポリイミド膜の下地から液晶への不純物の侵入を防ぐ観点から、配向膜の厚さを薄くすることができないという問題がある。加えて、ポリイミド膜の厚さを薄くすると、液晶の配向制御能力が低下してしまうという問題もある。
そこで、上記のような問題を解決すべく、本発明者らは、特願2009−233348号において、ポリマーブラシを配向膜として用いる配向技術を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−13168号公報
【特許文献2】特公平7−54381号公報
【特許文献3】特開2004−286984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のポリマーブラシを配向膜として用いる配向技術では、磁場配向法によって液晶を配向させているため、新たに磁場配向装置を購入するための投資が必要になるという問題がある。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、ラビング処理、ポリイミド配向膜及び磁場配向法に起因する様々な問題を防止し、既存の装置を有効活用して、低コストで液晶の配向制御性に優れた液晶表示装置を製造し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、ポリマーブラシを配向膜として用いると共に、少なくとも1つの基板に凹凸構造を形成し、ポリマーブラシと液晶とが相溶した部分のTg(ガラス転移温度)よりも高く且つ液晶のNI点(N相からI相への相転移温度)よりも低い温度に加熱して保持した後、ポリマーブラシと液晶とが相溶した部分のTgよりも低い温度に冷却することで、液晶を容易に均一配向させ得ることを見出した。
すなわち、本発明は、少なくとも1つの基板が凹凸構造を有する2つの基板上にポリマーブラシを形成する工程と、前記ポリマーブラシを形成した2つの基板間に液晶を注入して液晶セルを作製する工程と、前記液晶セルを、前記ポリマーブラシと前記液晶とが相溶した部分のTgよりも高く且つ前記液晶のNI点よりも低い温度に加熱して保持する工程と、前記液晶セルを、前記ポリマーブラシと前記液晶とが相溶した部分のTgよりも低い温度に冷却する工程とを含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラビング処理、ポリイミド配向膜及び磁場配向法に起因する様々な問題を防止し、既存の装置を有効活用して、低コストで液晶の配向制御性に優れた液晶表示装置を製造し得る方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の液晶表示装置の製造方法を説明するための図(断面図)である。
【図2】本発明の液晶表示装置の製造方法を説明するための図(上面図)である。
【図3】実施例1で作製した液晶表示装置における時間と相対透過率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の液晶表示装置の製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、以下では、横電界方式の液晶表示装置の製造方法を例に本発明を説明するが、本発明はこれに限定されず、縦電界方式の液晶表示装置の製造方法にも用いることも可能である。
【0013】
図1は、本発明の液晶表示装置の製造方法を説明するための図(断面図)である。
本発明の液晶表示装置の製造方法では、まず、少なくとも1つの基板1に凹凸構造2を形成する(図1(a))。凹凸構造2は、液晶の配向方向を規定し、以下で説明する処理を行った後に、この凹凸構造2に沿って液晶を配向させる機能を有する。凹凸構造2としては、特に限定されないが、例えば、リブ構造や電極構造などが挙げられる。特に、凹凸構造2が、櫛型電極などの電極構造であれば、液晶の配向方向を規定するための凹凸構造2を別途形成する必要がないため、液晶表示装置の製造効率の向上及び製造コストの削減につながる。
【0014】
基板1としては特に限定されず、液晶表示装置において一般に公知のものを用いることができる。基板1の例としては、アレイ基板及び対向基板が挙げられる。アレイ基板の例としては、アクティブマトリックスアレイ基板が挙げられる。このアクティブマトリックスアレイ基板は、一般的に、ガラス基板上にゲート配線及びソース配線がマトリックス状に配置されており、その交点部分に、薄層トランジスタ(TFT)などのアクティブ素子が形成され、このアクティブ素子に画素電極が接続されたものである。また、対向基板の例としては、カラーフィルタ基板が挙げられる。このカラーフィルタ基板は、一般的に、ガラス基板上に、不要な光の漏れを防止するためにブラックマトリックスを形成した後、R(赤)、G(緑)、B(青)の着色層をパターン形成し、必要に応じて保護膜を形成し、そして画素電極に対向する対向電極を形成したものである。
【0015】
少なくとも1つの基板1に凹凸構造2を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。なお、基板1は、必要に応じて、凹凸構造2の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0016】
次に、上記の2つの基板1上にポリマーブラシ4を形成する(図1(b))。ここで、本明細書において「ポリマーブラシ4」とは、多数のグラフトポリマー鎖が高密度で基板1表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するものを意味する。一般的に、一端が基板1表面に固定されたグラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、ポリマーブラシ4は、グラフト密度が高いため、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板1表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。なお、本明細書において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、一般的に0.1本鎖/nm2以上、好ましくは0.1〜1.2本鎖/nm2の密度である。また、本明細書において「グラフトポリマー鎖の密度」とは、単位面積(nm2)あたりの基板1表面上に形成されたグラフトポリマー鎖の本数を意味する。
【0017】
ポリマーブラシ4は、基板1及び凹凸構造2の表面上でポリマーブラシ4の層(以下、「ポリマーブラシ層」という。)を形成する。このポリマーブラシ層の厚さは、凹凸構造2の段差の大きさなどに応じて調整する必要があるが、一般に数十nm、具体的には1nm以上100nm未満、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなるため、液晶表示装置の低電圧駆動が可能になる。また、このポリマーブラシ層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ層を通過することはできない。そのため、ポリマーブラシ層の厚さを薄くしても、下地から液晶への不純物の侵入を防止することができる。加えて、このポリマーブラシ層は、厚さが比較的薄くても、液晶の配向制御能力が良好である。
【0018】
ポリマーブラシ4は、液晶の配向安定性を高める観点から、UV硬化性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ4は、UV硬化が可能な官能基を有することが好ましい。
また、ポリマーブラシ4は、種々の特性を付与する観点から、共重合体、特にブロック共重合体であることが好ましい。かかる共重合体であれば、単独重合体では得られない種々の効果が期待できる。
さらに、ポリマーブラシ4は、液晶との適合性の観点から、液晶性を示すことが好ましい。具体的には、ポリマーブラシ4は、液晶性を有することが好ましい。
【0019】
ポリマーブラシ4の形成方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いて行うことができる。具体的には、ポリマーブラシ4は、ラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させることにより形成することができる。ここで、本明細書において「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応のことを意味する。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、ラジカル重合性モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。また、リビングラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することによって任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができ、そして、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いなどの特徴がある。
【0020】
本発明に用いられるリビングラジカル重合の代表例は、原子移動ラジカル重合(ATRP)である。例えば、重合開始剤の存在下で、ハロゲン化銅/リガンド錯体を用いてラジカル重合性モノマーの原子移動リビングラジカル重合を行う。高分子末端ハロゲンをハロゲン化銅/リガンド錯体が引き抜くことにより可逆的に成長する成長ラジカルにラジカル重合性モノマーが付加して進行し、十分な頻度での可逆的活性化・不活性化により分子量分布が規制される。
【0021】
リビングラジカル重合に用いられるラジカル重合性モノマーは、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行うことが可能な不飽和結合を有するものであり、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートなどのメタクリレート系モノマー;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどのアクリレート系モノマー;スチレン、スチレン誘導体(例えば、o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレンなど)、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニルなど)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンなど)、N−ビニル化合物(例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドールなど)、(メタ)アクリル酸誘導体(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミドなど)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニルなど)などのビニルモノマーが挙げられる。これらの各種ラジカル重合性モノマーは、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
重合開始剤としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。重合開始剤の例としては、p−クロロメチルスチレン、α−ジクロロキシレン、α,α−ジクロロキシレン、α,α−ジブロモキシレン、ヘキサキス(α−ブロモメチル)ベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル、1−ブロモ−1−フェニルエタン、1−クロロ−1−フェニルエタンなどのベンジルハロゲン化物;プロピル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモイソブチレート(EBIB)などのα位がハロゲン化されたカルボン酸;p−トルエンスルホニルクロリド(TsCl)などのトシルハロゲン化物;テトラクロロメタン、トリブロモメタン、1−ビニルエチルクロリド、1−ビニルエチルブロミドなどのアルキルハロゲン化物;ジメチルリン酸クロリドなどのリン酸エステルのハロゲン誘導体が挙げられる。これらの各種重合開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるハロゲン化銅としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。ハロゲン化銅の例としては、CuBr、CuCl、CuIなどが挙げられる。これらの各種ハロゲン化銅は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるリガンド化合物としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。リガンド化合物の例としては、トリフェニルホスファン、4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジン(dNbipy)、N,N,N’,N’N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどが挙げられる。これらの各種リガンド化合物は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅及びリガンド化合物の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的に、重合開始剤1molに対して、ラジカル重合性モノマーが5〜10,000mol、好ましくは50〜5,000mol、ハロゲン化銅が0.1〜100mol、好ましくは0.5〜100mol、リガンド化合物が0.2〜200mol、好ましくは1.0〜200molである。
【0025】
リビングラジカル重合は、通常、無溶媒で行うが、リビングラジカル重合で一般的に使用される溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼンなどの有機溶媒;水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノールなどの水性溶媒が挙げられる。これらの各種溶媒は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、溶媒の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的にラジカル重合性モノマー1gに対して、溶媒が0.01〜100mL、好ましくは0.05〜10mLである。
【0026】
リビングラジカル重合は、上記の原料を含むポリマーブラシ形成用溶液中に基板1を浸漬し、加熱することによって行うことができる。加熱条件は、特に限定されることはなく、使用する原料などに応じて適宜調節すればよいが、一般的に、加熱温度は60〜150℃、加熱時間は0.1〜10時間である。この重合反応は、一般的に常圧で行われるが、加圧又は減圧しても構わない。なお、基板1は、必要に応じて、ポリマーブラシ4の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0027】
リビングラジカル重合により形成されるポリマーブラシ4の分子量は、反応温度、反応時間や使用する原料の種類や量によって調整可能であるが、一般的に数平均分子量が500〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000のポリマーブラシ4を形成することができる。また、ポリマーブラシ4の分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.60の間に制御することができる。
このようにして形成されるポリマーブラシ4は、液晶を基板1に対して平行に配向させることができる。
【0028】
ポリマーブラシ4は、基板1及び凹凸構造2とポリマーブラシ4との固着性を高める観点から、必要に応じて、固定化膜3を介して基板1及び凹凸構造2の表面上に形成してもよい。
固定化膜3としては、基板1、凹凸構造2及びポリマーブラシ4との固着性に優れたものであれば特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。固定化膜3の例としては、下記の一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物から形成される膜が挙げられる。
【0029】
【化1】

【0030】
一般式(1)中、R1はそれぞれ独立してC1〜C3のアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基であり;R2はそれぞれ独立してメチル基又はエチル基であり;Xはハロゲン原子、好ましくはBrであり;nは3〜10の整数、より好ましくは4〜8の整数である。
【0031】
固定化膜3には、ポリマーブラシ4が共有結合していることが好ましい。固定化膜3とポリマーブラシ4とが結合力の強い共有結合で結ばれていれば、ポリマーブラシ4の剥がれを十分に防止することができる。その結果、液晶表示装置の特性が低下する可能性が低くなり、液晶表示装置の信頼性が向上する。
【0032】
固定化膜3の形成方法は、特に限定されず、使用する材料に応じて適宜設定すればよい。例えば、固定化膜形成用溶液に、基板1を浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜3を形成することができる。ここで、所定の部分に固定化膜3を形成させるために、固定化膜3を形成させない部分にマスキングを施してもよい。また、基板1は、必要に応じて、固定化膜3の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0033】
次に、ポリマーブラシ4を形成した2つの基板1間に液晶5を注入する(図1(c))。液晶5の注入方法としては、特に限定されず、毛細管現象を利用した真空注入法、液晶滴下注入法(ODF)などの公知の方法を用いることができる。
例えば、毛細管現象を利用した真空注入法を用いる場合には、次のようにして行えばよい。
まず、一方の基板1上にフォトリソグラフィーなどの公知の方法によってスペーサー、固定化膜3(必要な場合)及びポリマーブラシ4を形成する。他方の基板1上には、電極、固定化膜3(必要な場合)及びポリマーブラシ4を形成する。液晶5の配向方向を規定する凹凸構造2として電極を用いない場合には、一方の基板1に各種配線などを形成した後にUV硬化性の平坦化膜などで平坦化し、その上に固定化膜3(必要な場合)及びポリマーブラシ4を形成すると共に、他方の基板1にスペーサー、液晶5の配向方向を規定するためのリブ、固定化膜3(必要な場合)及びポリマーブラシ4を形成する。
次に、一方の基板1を洗浄して乾燥させた後、シール材を塗布し、他方の基板1と重ね合わせ、加熱又はUV照射などによってシール材を硬化させて接着する。ここで、シール材の一部には、液晶5を注入するための注入口を開けておく必要がある。
次に、注入口から真空注入法によって基板1の間に液晶5を注入した後、注入口を封止する。
【0034】
本発明において用いられる液晶5としては、液晶5のNI点がポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTgよりも高ければ特に限定されず、公知のものを用いることが可能である。
また、液晶5には、液晶5の配向安定性を高める観点から、光重合性モノマーを配合してもよい。
光重合性モノマーとしては、特に限定されることはなく、一般的に公知のものを使用することができる。また、日本シーベルヘグナー株式会社から販売されているActilane421、Actilane441、Actilane450や、DIC株式会社から販売されているULC−000−K1などの市販の光重合性モノマーを用いてもよい。
【0035】
好ましい光重合性モノマーは、下記一般式(2)で表される化合物である。
1−A1−(Z1−A2n−P2 (2)
上記一般式(2)中、P1及びP2は官能基であり、それぞれ独立してアクリレート、メタクリレート、ビニル、ビニロキシ又はエポキシ基であり;A1及びA2は環構造を有し、それぞれ独立して1,4−フェニレン又はナフタレン−2,6−ジイル基であり;Z1は−COO−若しくは−OCO−基又は単結合であり;nは0、1又は2である。
【0036】
上記一般式(2)において、P1及びP2は好ましくはアクリレート基であり、Z1は好ましくは単結合であり、nは好ましくは0又は1である。
より好ましい光重合性は、次の式(2a)〜(2c)で表される化合物である。
【0037】
【化2】

【0038】
上記式中、P1及びP2は、一般式(2)で定義した通りである。
光重合性モノマーは、液晶5中で0.1〜5質量%となるように配合されることが好ましい。光重合性モノマーの配合量が0.1質量%未満であると、液晶5の配向安定性が十分に得られないことがある。一方、光重合性モノマーの配合量が5質量%を超えると、未反応の光重合性モノマーが残り、液晶特性が低下することがある。
【0039】
2つの基板1間に液晶5を注入すると、液晶5が基板1表面に対して平行に配向する。ここで、図1(c)の液晶セルの断面図に対応した液晶セルの上面図を図2(a)に示す。図1(c)及び図2(a)に示されているように、液晶5は基板1に対して水平配向しているが、その水平面での配向方向は一致していない。
【0040】
そこで、次に、上記の液晶セルを、ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTgよりも高く且つ液晶5のNI点よりも低い温度に加熱して保持した後、ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTgよりも低い温度に冷却する(図1(d))。ここで、図1(d)の液晶セル断面図に対応した液晶セルの上面図を図2(b)に示す。図1(d)及び図2(b)に示されているように、この処理を行うことにより、水平面における液晶5の配向方向を凹凸構造2に沿って一致させることができる。
【0041】
具体的には、まず、液晶セルを、ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTgよりも高く且つ液晶5のNI点よりも低い温度に加熱して保持することで、凹凸構造2に沿って、水平面における液晶5の配向方向を凹凸構造2に沿って一致させる。
ここで、ポリマーブラシ4と液晶5との界面付近では、ポリマーブラシ4の先端部に液晶5が僅かに膨潤していると考えられる。したがって、本明細書において「ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分」とは、液晶5が僅かに膨潤しているポリマーブラシ4の先端部のことを意味する。このポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTgは、ポリマーブラシ4単独のTgに比べて低くなる。ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTgは、使用するポリマーブラシ4及び液晶5の種類によって異なるため、一義的に定義することはできないが、ラジカル重合性モノマーとしてメチルメタクリレートを用いて形成したポリマーブラシ4の場合、ポリマーブラシ4単独のTgよりも60℃程度低い温度であると考えられる。
【0042】
加熱温度が、ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTg以下であると、液晶5の流動性が得られないため、水平面における液晶5の配向方向を凹凸構造2に沿って一致させることができない。従って、加熱温度の下限は、液晶5のTg以上であることが好ましい。
一方、加熱温度がNI点以上であると、液晶5がI相(等方性液体相)となり、水平面における液晶5の配向方向を凹凸構造2に沿って一致させることができない。
【0043】
上記の加熱温度での保持時間は、加熱温度によって変化するため一義的に定義することはできないが、一般的に数秒〜数十時間である。例えば、ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分よりも十分に高い温度(NI点付近の温度)で加熱する場合、一瞬にして水平面における液晶5の配向方向を凹凸構造2に沿って一致させることができる。一方、ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTg付近の温度で加熱する場合、水平面における液晶5の配向方向を凹凸構造2に沿って一致させるために一定の時間を要する。
上記の加熱処理を行うための加熱装置としては、温度調整が可能なものであれば特に限定されず、公知の加熱装置を用いることができる。
【0044】
次に、加熱処理を行った液晶セルを、ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTgよりも低い温度に、好ましくは室温まで冷却することで、水平面において一致させた液晶5の配向方向を保持させる。すなわち、上記の温度に冷却することによって、ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分を一軸配向したままガラス化させることができるため、アンカリング能力を発揮することができる。ポリマーブラシ4と液晶5とが相溶した部分のTg以上の温度であると、水平面において凹凸構造2に沿って一致させた液晶5の配向方向を十分に保持することができない。
上記の冷却処理の方法としては、特に限定されず、上記の加熱処理を停止することによって自然に冷却しても、公知の冷却装置を用いて強制的に冷却してもよい。
【0045】
また、任意工程であるが、ポリマーブラシ4がUV硬化性であり、及び/又は液晶5に光重合性モノマーを混合した場合、均一配向を得た時点、或いは冷却処理後に液晶セルにUV(紫外線)を照射する。これにより、液晶の配向安定性をより一層高めると共に、アンカリング能力を発揮する温度範囲を拡大させることが可能になる。
具体的には、ポリマーブラシ4がUV硬化性である場合、UV照射によってポリマーブラシ層の表層を硬化して固定化することができるため、液晶の配向保持力を高めることが可能になる。また、液晶5に光重合性モノマーを混合した場合、UV照射によってポリマーブラシ層の表面で光重合性モノマーが重合し、ポリマーとなって固定化するため、液晶5の配向保持力をより一層高めることが可能になる。
【0046】
UV照射の条件は、使用するポリマーブラシ4及び光重合性モノマーの種類や、UVの波長などに応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、UVの強さは一般に数百〜数万mJである。例えば、300〜400nmの波長を有するUVを照射する場合、露光量を0.1〜10J/cm2とすることが好ましい。
【0047】
このようにして行われる本発明の液晶表示装置の製造方法によれば、ラビング処理、ポリイミド配向膜及び磁場配向法に起因する様々な問題を防止することができ、液晶の配向制御性に優れた液晶表示装置を得ることができる。特に、加熱及び冷却処理によって液晶の配向制御を行っているため、新たに磁場配向装置を導入する必要がなく、製造コストも削減することができる。また、セル状態で配向処理が為されるため、ラビング処理で生じる配向軸のずれ(ラビング方向のずれ、重ねずれ)もなく、液晶表示装置のコントラストも高くなる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板を用意し、ポリマーブラシを形成させる必要がない部分をマスキングした。次に、エタノール38g、アンモニア水(28%)2g、2−ブロモ−2−メチルプロピオニロキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)0.4gを含む固定化膜形成用溶液に、マスキングを施した2つのガラス基板を常温で一晩浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜を形成した。
次に、固定化膜を形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた後、スチレン(ラジカル重合性モノマー、45.0g)、エチル−2−ブロモイソブチレート(重合開始剤、0.081g)、CuBr(ハロゲン化銅、0.619g)及び4,4’−ジオニル−2,2’−ビピリジン(リガンド化合物、3.54g)を1000:1:12:24のモル比で含むポリマーブラシ形成用溶液に浸漬させ、110℃で3時間加熱してリビングラジカル重合させることにより、ポリマーブラシ(以下、PSブラシという)を形成した。次に、PSブラシを形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた。
【0049】
形成されたPSブラシの分子量について、GPC測定装置(日本分光株式会社製LC-2000plus)を用いて評価した。標準試料にはポリスチレンを用い、検出器にはUV検出器を用いた。その結果、このPSブラシは、数平均分子量(Mn)が64,323、重量平均分子量(Mw)が77,830、分子量分布(Mw/Mn)が1.21であった。
また、PSブラシの層(PSブラシ層)の厚さについて、X線反射率測定装置(株式会社リガク製Ultima IV)を用いて評価した。その結果、PSブラシ層の厚さは36.5nmであった。
さらに、PSブラシのグラフト密度について評価した結果、0.41本鎖/nm2であった。
【0050】
次に、PSブラシが形成されたガラス基板の一方にシール剤を塗布した後、2つのガラス基板を貼り合わせ、窒素雰囲気下、120℃で2時間加熱することによってシール剤を硬化させた。そして、2つのガラス基板の間に液晶(チッソ株式会社製JC−5051××、NI点:112℃)を真空注入法によって注入し、注入が終了したら注入口を閉じて封止することによって液晶セルを作製した。
次に、上記で得られた液晶セルを、加熱装置を用いて110℃に加熱して10秒間保持した後、加熱装置を停止し、常温まで冷却することによって、櫛歯電極に沿って液晶が均一配向した液晶表示装置を得た。
【0051】
(アンカリング能力の評価)
まず、LCD評価装置(大塚電子株式会社製LCD−5200)を用い、実施例1で作製した液晶表示装置における電圧と相対透過率との関係を60Hzの周波数、20℃の条件下で調べた。その結果、相対透過率が100%となる電圧が7.3Vであることがわかった。次に、同じLCD評価装置を用いて、液晶表示装置における時間と相対透過率との関係を調べた。この評価では、7.3Vの電圧を200×10-3秒間印加(20℃、60Hz)した後、電圧をオフにした。その結果を図3に示す。
図3の結果からわかるように、実施例1の液晶表示装置は、電圧を印加するとすぐに相対透過率が100%になった。また、電圧をオフにした後すぐに相対透過率が0%となり、アンカリング能力が高いことがわかった。
【0052】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、ラビング処理、ポリイミド配向膜及び磁場配向法に起因する様々な問題を防止し、既存の装置を有効活用して、低コストで液晶の配向制御性に優れた液晶表示装置を製造し得る方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 基板、2 凹凸構造、3 固定化膜、4 ポリマーブラシ、5 液晶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基板が凹凸構造を有する2つの基板上にポリマーブラシを形成する工程と、
前記ポリマーブラシを形成した2つの基板間に液晶を注入して液晶セルを作製する工程と、
前記液晶セルを、前記ポリマーブラシと前記液晶とが相溶した部分のTgよりも高く且つ前記液晶のNI点よりも低い温度に加熱して保持する工程と、
前記液晶セルを、前記ポリマーブラシと前記液晶とが相溶した部分のTgよりも低い温度に冷却する工程と
を含むことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記凹凸構造は、電極構造及び/又はリブ構造であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーブラシはUV硬化性であり、及び/又は前記液晶に光重合性モノマーを混合し、前記冷却工程後にUV照射を行う工程をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマーブラシの形成工程の前に、前記2つの基板上に固定化膜を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−163822(P2012−163822A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25024(P2011−25024)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(501426046)エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド (732)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】