説明

液晶表示装置用ガラス基板の製造方法

【課題】 液晶表示装置用ガラス基板として、微量のアルカリ金属酸化物を含むガラス板を製造するに際し、アルカリ金属酸化物による清澄効果(気泡低減効果)を向上させる。
【解決手段】 ガラス原料を熔融して熔融ガラスを生成する工程と、熔融ガラスをガラス板へと成形する工程とを含み、ガラス板が、SiO2、Al23およびR2O(R:Li、Na、Kから選ばれる少なくとも1種であって少なくともその一部がNa)を含むとともに、R2Oの含有率が0.01〜2.0質量%であってNa2Oの含有率が0.01〜0.15質量%であるガラス組成物からなり、ガラス原料が、Al23の原料として、Na2Oを0.1〜0.6質量%の範囲で含有するアルミニウム酸化物(アルミナ)を含む、液晶表示装置用ガラス基板の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置用ガラス基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置用の基板として用いるためには、高いレベルにまで気泡が除去されていることが望まれる。熔融したガラスから気泡を除去するためには、熔融ガラスの温度の上昇または降下に応じて価数が変化する金属原子を含む清澄剤の使用が有効である。このような清澄剤としては、酸化ヒ素および酸化アンチモンが高い清澄効果を発揮するものとして知られている。しかし、環境に対する影響への懸念から、酸化ヒ素および酸化アンチモンの使用量の削減が社会的な要請となっている。このため、これらに頼らずに熔融ガラスから気泡を除去する技術が求められている。
【0003】
上述した課題を解決するために、酸化スズおよび酸化鉄を清澄剤として使用すること、薄膜トランジスタの特性を劣化させない程度の微量のアルカリ金属酸化物を熔融ガラス中に存在させることにより、ガラス基板に残る気泡を減少させることが提案されている(特許文献1)。従来は、アルカリ金属酸化物の原料として、炭酸塩が用いられてきた(段落0047)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−203080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より高品質な液晶表示装置用ガラス基板を製造するために、熔融ガラスから気泡を除去するためのさらなる研究が必要である。本発明は、液晶表示装置用ガラス基板として、微量のアルカリ金属酸化物を含むガラス板を製造するに際し、アルカリ金属酸化物による清澄効果を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
ガラス原料を熔融して熔融ガラスを生成する工程と、
前記熔融ガラスをガラス板へと成形する工程と、を含み、
前記ガラス板が、SiO2、Al23およびR2Oを含むとともに、前記R2Oの含有率が0.01〜2.0質量%であって当該R2Oの少なくとも一部を構成するNa2Oの含有率が0.01〜0.15質量%であるガラス組成物からなり、
前記ガラス原料が、前記Al23の原料として、Na2Oを不純物として0.1〜0.6質量%の範囲で含有するアルミニウム酸化物を含む、液晶表示装置用ガラス基板の製造方法、を提供する。
【0007】
ここで、Rは、Li、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種であるとともに少なくともその一部がNaである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によると、Na2Oによる清澄効果を向上させることができる。具体的には、従来から行われてきたように、Na2Oを構成するナトリウムの主たる供給源をその他酸化物の原料とは別に準備したナトリウム化合物とする場合よりも、液晶表示装置用ガラス基板とするガラス板に残る気泡が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による製造方法を実施するための装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
液晶表示装置用ガラス基板の泡品質を向上させるため、様々な研究が行われている。
【0011】
本発明者は、微量のアルカリ金属酸化物を熔融ガラス中に存在させることにより、ガラス基板に残る気泡を減少させることができることに注目し、さらに研究を進めた。
【0012】
より具体的には、熔融ガラスに含まれるアルカリ金属酸化物の量およびその供給源である原料を変化させて、ガラスの泡品質の違いを研究した。その結果、同じ量のアルカリ金属酸化物を熔融ガラス中に存在させても、その供給の仕方により、清澄効果が異なることが分かった。
【0013】
アルカリ金属酸化物の含有率を正確に制御するためには、ガラス原料に不純物として含まれるアルカリ成分の量を極力抑制することが好ましい。しかし、研究の結果、不純物として所定の量のNa2Oを含むアルミニウム酸化物をガラス原料に添加することが、清澄効果の向上については好ましいことが分かった。
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
以下、含有率を示す%表示はすべて質量%である。
【0016】
本発明は、SiO2、Al23およびR2O(Rは、Li、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種であり、少なくともNaを含む元素)を含み、必要に応じてさらにB23、MO(Mは、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である元素)等を含むとともに、R2Oの含有率が0.01〜2.0%の範囲にあるガラス組成物からなるガラス板の製造に適している。このガラス組成物におけるNa2Oの含有率は0.01〜0.15%である。
【0017】
工業的に製造されるアルミニウム酸化物(アルミナ)には、不純物としてNa2Oが混入していることがある。液晶表示装置用のガラス板は、窓ガラス用のガラス板等とは異なり、相当量(例えば10〜25%)のAl23を含むことが多い。このため、アルミナを経由して混入するNa2Oにも注意を払う必要がある。従来、微量のアルカリ金属酸化物を含むガラス組成物を製造するためには、アルミニウム(Al23)供給源として、Na2Oの含有率が極めて低いアルミナ、具体的にはNa2Oの含有率が0.05%程度以下にまで抑えられたアルミナが用いられてきた。例えば、Na2Oの含有率が0.04%のアルミナを原料として用いている限り、Al23の含有率が比較的高く25%を占めるガラス組成物からなるガラス板を製造したとしても、アルミナから供給されるNa2Oはガラス組成物において0.01%程度を占めるに過ぎない。したがって、原料とするアルミナにおけるNa2Oの含有率、あるいはガラス原料バッチの調製工程におけるアルミナの添加量(秤量値)に多少の変動があったとしても、ガラス組成物におけるNa2Oの含有率が許容限度を超えて上昇するおそれは小さい。また、過剰に混入したNa2Oをガラス組成物から除去するのは困難であるが、ガラス組成物におけるNa2Oの含有率を引き上げることはナトリウム化合物をガラス原料に別途添加することにより容易に実施できる。
【0018】
以上のような事情から、気泡の除去促進を期待してガラス原料に微量のアルカリ金属酸化物を添加する場合であっても、従来は、不純物として混入するNa2Oの量を極力抑えつつ、別途準備した炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物をガラス原料に添加してガラス組成物におけるアルカリ金属酸化物の含有率が調整されてきた。
【0019】
本発明者が知る限り、熔融ガラスにおけるアルカリ金属酸化物の存在による気泡の除去の促進効果がアルカリ金属の導入経路に影響を受けるという報告はこれまでにない。しかし、本発明者の検討によれば、ガラス原料の一部である酸化アルミニウム(アルミナ)とともに添加されたNa2Oは、アルミナとは別に添加されたナトリウム化合物に由来するNa2Oよりも、気泡の除去への寄与が大きい。この理由の詳細は今後の解析を待つ必要があるが、不純物としてアルミナのごく近傍に存在するNa2Oがアルミナの熔解を補助し、ガラス原料の熔融を促進して気泡の除去に寄与している可能性は高い。
【0020】
清澄効果のみを考えればNa2Oの添加量は多いほうがよい。しかし、液晶表示装置のガラス基板として使用するためには、ガラス組成物に多量のNa2Oを含有させることは適当でない。この用途におけるAl23の適切な含有率とNa2Oの許容される含有率とを考慮すると、アルミナに不純物として含まれるNa2Oの含有率は0.6%を超えないことが望ましい。他方、アルミナに含まれるNa2Oの含有率が0.1%を下回る程度では清澄効果の改善がごく限られたものになる。
【0021】
したがって、アルミナに含まれるNa2Oの含有率は、0.1〜0.6%が適当であり、好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.25%以上、さらに好ましくは0.27%以上、最も好ましくは0.3%以上であり、ガラス組成物に含ませるべきNa2Oの含有率によっては0.55%以下、さらには0.5%以下であってよく、必要であれば0.45%以下にまで制限してもよい。
【0022】
本発明の製造方法においては、基本的に、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム等のナトリウム化合物(ナトリウム塩)を別途準備する必要がない。このため、原料の調達コストの削減という観点からも、本発明の製造方法は従来よりも有利であり得る。ただし、例えば、Al23の含有率を低く抑えつつNa2Oの含有率を許容限界にまで高めたガラスを製造するべき場合には、ガラス原料にナトリウム化合物を添加してガラス組成物におけるNa2Oの不足を補ってもよい。現実の量産工程では、原料とするアルミナにおけるNa2O不純物量の変動を補うために、ガラス原料にナトリウム化合物を添加することが望ましいこともある。本発明においては、ガラス組成物におけるAl23の供給源としてNa2Oの含有率が上述の範囲にあるアルミナが用いられている限り、ガラス原料へのナトリウム化合物の補助的な添加が排除されるものではない。
【0023】
ただし、清澄効果を高めるためには、ガラス組成物に含まれるNa2Oの過半(50%を超える量)、さらには55%以上、特に60%以上が、ガラス原料にAl23の原料として含まれるアルミニウム酸化物(アルミナ)に含まれるNa2Oに由来するものであることが好ましい。この場合であっても、ガラス原料は、Na2Oの原料として、Na2O以外の酸化物の原料とは別に、ナトリウム化合物を含んでいてもよい。しかし、ガラス原料は、Na2O以外の酸化物の原料に不純物として含まれる場合を除き、ナトリウム化合物を実質的に含まないことが好ましい。
【0024】
すなわち、本発明においては、ガラス組成物に含まれるNa2Oの実質的にすべてが、ガラス原料に不純物として含まれるNa2Oに由来するものであることがさらに好ましい。この場合、ガラス原料にはナトリウム化合物が独立した原料としては添加されない。ただし、この好ましい形態においても、ガラス原料を構成するアルミナ以外の原料に不純物としてNa2Oが含まれていることまでは排除されない。上記における「実質的にすべて」は、例えば90%以上、さらには95%以上、より好ましくは98%以上を占める程度に比率が高いことを意味するものとする。また、上記における「実質的に含まない」は、例えば10%未満、さらには5%未満、より好ましくは2%未満である程度に比率が低いことを意味するものとする。
【0025】
驚くべきことに、アルカリ金属酸化物(R2O)としてNa2OとともにK2Oを含むガラス組成物において、本発明の効果は顕著に現れる。この顕著な効果を得るために、ガラス原料には、炭酸カリウム、硝酸カリウム、塩化カリウム等のカリウム化合物を添加することが好ましい。本発明によるガラス板を構成するガラス組成物にはK2Oが含まれていることが好ましい。この場合、Rは、NaとともにKを必須とする。
【0026】
以下、本発明の適用に好ましいガラス組成物の各成分の含有率を以下に例示する。なお、以下では、各成分について、より好ましい含有率を( )内に、さらに好ましい含有率を{ }内に、特に好ましい含有率を[ ]内に示す。
【0027】
ガラス組成物は、R2Oとして、Li2O、Na2OおよびK2Oをそれぞれ以下の範囲で含むことが好ましい。
・Li2O:0〜0.1%、(0〜0.05%)、{0〜0.02%}
・Na2O:0.01〜0.15%、(0.01〜0.13%)、{0.02〜0.12%}、[0.03〜0.10%]
・K2O:0〜1.9%、(0.1〜1.5%)、{0.15〜1.2%}、[0.2〜1.0%]
【0028】
2Oの好ましい含有率を以下に示す。
・R2O:0.01〜2.0%、(0.12〜1.6%)、{0.17〜1.3%}、[0.2%を超え1.1%以下]
【0029】
ガラス組成物は、上記各成分とともに、以下の各成分を含むことが好ましい。
・SiO2:50〜70%、(55〜65%)、{57〜62%}
・B23:1〜18%、(5〜18%)、{7〜14%}、[10〜13%]
・Al23:10〜25%、(15〜19%)、{16〜18%}
・MgO:0〜10%、(0.5〜4%)、{1〜3%}
・CaO:0〜20%、(2〜9%)、{3〜8%}、[4〜7%]
・SrO:0〜20%、(0.5〜9%)、{1〜5%}、[2〜3%]
・BaO:0〜10%、(0〜6.5%)、{0〜2%}、[0.5〜1%]
【0030】
ここで、MOの好ましい含有率(MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有率)については、以下のとおりである。
・MO:5〜30%、(5〜20)%、{5〜16%}、[8〜13%]
【0031】
上記の各ガラス成分の含有率の好ましい範囲の例示は、その他の成分の含有率に応じて適宜変更すべき場合がある。例えば、B23の含有率は1〜6%が好ましい場合がある。Al23の含有率は18.5〜22%が好ましい場合がある。CaOの含有率は8〜11%が好ましい場合がある。CaOの含有率が8〜11%の範囲にある場合、MgO、SrO、およびBaOの含有率はそれぞれ0〜3%、特に0〜1%が好ましい。
【0032】
以下、上記各成分について説明する。
【0033】
SiO2は、ガラスの骨格をなす成分であり、ガラスの化学的耐久性および耐熱性を高める作用を有する。SiO2の含有率が低すぎるとその効果が十分に得られない。一方、SiO2の含有率が高すぎると、失透温度が上昇し、熔融性が低下するとともにガラス融液の粘度が上昇する。
【0034】
23は、ガラスの粘性を引き下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する成分である。B23の含有率が低すぎると熔融性が低下する。一方、B23の含有率が高すぎると、ガラス融液の表面からのB23の揮発量が多くなり、ガラスの均質化が困難になる。
【0035】
Al23は、ガラスの歪点を高くする作用を有する。Al23の含有率が低すぎるとその効果が十分に得られない。一方、Al23の含有率が高すぎると、ガラスの粘性が上昇してガラスの熔解が困難になることがある。
【0036】
MOは、ガラスの粘性を引き下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する成分である。MOの含有率が低すぎるとその効果が十分に得られない。一方、MOの含有率が高すぎると、ガラスの化学的耐久性が低下することがある。
【0037】
MgO,CaO,SrOおよびBaOのそれぞれは、任意成分であり、これらすべてがガラスに含まれている必要はない。ただし、ガラスを軽量化する上では、MgOおよびCaOの添加が、SrOおよびBaOの添加と比較すると相対的に有利である。しかし、MgOの含有率が高すぎると、ガラスの分相性が増大して酸に対する耐久性が低下することがある。また、CaOの含有率が過度に大きくなるとガラスの失透の原因となる。一方、SrOおよびBaOは、ガラス原料の酸化性を高めて清澄性を高める成分でもある。また、BaOには、ガラスの分相を抑制し、熔解性を向上させる効果がある。しかし、BaOには環境への負荷がやや大きいという問題がある。これらを総合的に考慮すると、MgO,CaO,SrOおよびBaOの含有率は、上記に例示した範囲とすることが好ましい。
【0038】
アルカリ金属酸化物R2Oは、ガラスの粘性を引き下げる効果が大きい成分であり、ガラスの清澄性を高めるための重要な成分である。R2Oの含有率が低すぎるとその効果が十分に得られない。一方、R2Oの含有率が高すぎると、アルカリ金属イオンがガラスから溶出してTFT(Thin Film Transistor)の特性を劣化させたり、ガラスの熱膨張係数が高くなりすぎて熱処理時における基板の破損の原因となったりする。なお、液晶表示装置に適した熱膨張係数を得るために最も適したR2Oの含有率の一例は、0.22〜0.5%、好ましくは0.22〜0.35%である。
【0039】
本発明により製造されるガラス板を構成するガラス組成物には、Na2Oが含まれているが、Li2OおよびK2Oは任意成分である。ただし、K2Oは、アルカリ金属酸化物の一部として含まれていることが好ましい。カリウムイオン(K+)は、リチウムイオン(Li+)およびナトリウムイオン(Na+)と比較してイオン半径が大きいため、移動度が相対的に小さい。このため、K2Oは、Li2OおよびNa2Oと比較するとアルカリ成分の移動に伴って生じる問題を引き起こしにくい。アルカリ成分の移動に伴って生じる問題には、上述のTFTの特性の劣化に加え、脈理の発生が含まれる。ガラス融液中において、アルカリ金属イオンがB23と結合してホウ酸アルカリとしてガラス融液の表面から揮発すると、ガラス融液中にこれら成分の濃度勾配が形成され、形成されるガラスに脈理をもたらすことがある。
【0040】
したがって、K2Oの含有率は、Li2Oの含有率およびNa2Oの含有率よりも高いことが好ましく、Li2Oの含有率とNa2Oの含有率との合計を上回っていることがより好ましく、Na2Oの含有率の2倍を超えていてもよい。K2Oの含有率は、0.2%を超えていることが好ましい。
【0041】
ガラス組成物は上記以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、P25、SO3、TiO2、ZrO2、ZnO、MnO、Nb25、Ta25、MoO3、WO3、Y23、La23、SnO2、Fe23、CeO2、F、Cl、Br、As23およびSb23を例示できる。ただし、As23およびSb23は、環境負荷が大きいため、それぞれの含有率は0.1%未満、さらには0.01%未満、特に0.005%未満であることが好ましい。上記P25からBrまでに列記された成分の含有率の合計は、好ましくは0〜3%、さらに好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1.5%である。
【0042】
上記に例示した酸化物には、As23およびSb23以外にも、異なる価数を取り得る金属の酸化物も含まれている。例えば、Feは、ガラス中でFeOまたはFe23として存在することが知られている。このような酸化物であって清澄効果を期待できる酸化物としては、SnO2、Fe23およびCeO2、特にSnO2およびFe23が挙げられる。ガラス組成物は、SnO2をさらに含むことが好ましく、Fe23をさらに含むことがより好ましい。ただし、これら酸化物の含有率が過大となると、ガラスの失透、着色等の問題が生じることがある。SnO2、Fe23およびCeO2の含有率の好ましい範囲は以下のとおりである。
・SnO2:0〜0.7%、(0.01〜0.5%)、{0.05〜0.3%}、[0.1〜0.25%]
・Fe23:0〜0.3%、(0〜0.2%)、{0.01〜0.15%}、[0.02〜0.1%]
・CeO2:0〜1.5%、(0〜1.2%)、{0.01〜1%}
【0043】
SnO2、Fe23およびCeO2の含有率の合計は、好ましくは0〜1.5%、さらに好ましくは0.01〜1.2%、より好ましくは0.1〜1%である。
【0044】
SO3は、清澄効果を期待できる成分であるが、SnO2と共存すると却って残存する気泡が増加することがある。SO3の含有率は、好ましくは0〜0.01%、より好ましくは0〜0.005%である。
【0045】
F、Cl、Br等のハロゲン元素は、清澄効果を期待できる成分であるが、ガラス製造装置に白金製のスターラーが用いられている場合には白金との接触により気泡を発生させることがある。F、Cl、Brの含有率の合計は、好ましくは0〜0.05%、より好ましくは0〜0.01%である。
【0046】
ZrO2は、量産工程ではガラス板の製造装置を構成する耐火レンガから不可避的に混入することがある。ZrO2の含有率は、好ましくは0〜0.2%、より好ましくは0〜0.15%である。
【0047】
本発明によるガラス板を構成するガラス組成物は、SiO2、B23、Al23、MO、R2Oおよび上記P25からSb23までに列記された成分から実質的に構成されていてもよく、SiO2、B23、Al23、MO、R2O、SnO2、Fe23、CeO2、F、Cl、BrおよびZrO2から実質的に構成されていてもよく、SiO2、B23、Al23、MO、R2O、SnO2、Fe23、CeO2およびZrO2から実質的に構成されていてもよく、SiO2、B23、Al23、MO、R2O、SnO2、Fe23およびZrO2から実質的に構成されていてもよい。
【0048】
ここで、上記における「実質的に構成される」とは、99.8%以上、好ましくは99.85%以上、より好ましくは99.9%以上、特に好ましくは99.95%以上、の比率を占めることを意味するものとする。
【0049】
なお、本明細書では、価数が変化する酸化物については、金属元素が同一である限り1種類の酸化物のみを例示しているが、これは、その価数以外の酸化物を排除する趣旨ではない(例えば、Fe23が含まれていてもよいガラス組成物ではFeOも許容される)。ただし、異なる価数を取り得る金属の酸化物は、表記した価数の酸化物に換算してその含有率をカウントすることとする(例えば、Fe23およびFeOを含むガラス組成物では、Feの分析値の合計をFe23に換算して表記することとする)。
【0050】
各成分を供給する原料は、アルミナを除いて従来から用いられてきた材料を使用すればよい。上述したとおり、従来から、各成分の原料としてはアルカリ金属酸化物を排除してその含有率が低い高純度原料が用いられてきた。本発明においても、アルミナを除く各原料におけるアルカリ金属酸化物の含有率は0.1%未満、好ましくは0.05%未満、より好ましくは0.03%未満にまで抑えることが好ましい。
【0051】
図1は、本発明の製造方法を実施するための製造装置の一例を示す図である。この装置100を用いて実施される本発明の製造方法の一例を以下に説明する。以下は、ガラス板を連続的に製造する、量産に適した方法についての例示である。
【0052】
まず、各原料を混合してガラス原料バッチ1が調製される。調製されたバッチ1は、熔解槽10に投入され、加熱されて熔解し、例えば1500℃以上の熔融ガラス2となる。
【0053】
熔融ガラス2は、熔解槽10から導管21を通過して清澄槽11に流入する。清澄槽11にも、熔解槽10と同様、図示を省略する加熱手段が設けられている。清澄槽11では、熔融ガラス2が、例えば1550℃以上、場合によっては1600℃以上にまで加熱される。昇温することにより、熔融ガラス2の粘度が低下し、気泡の除去が促進される。
【0054】
さらに、熔融ガラス2は、清澄槽11から導管22を通過して攪拌装置12に流入する。熔融ガラス2は、攪拌槽12a内で回転するスターラー12bによって攪拌され、均質化される。
【0055】
均質化された熔融ガラス2は、攪拌装置12から導管23を通過して成形装置13に流入する。熔融ガラス2は導管23を通過する際に冷却され、成形に適した温度(例えば、1200℃)にまで冷却される。図示した成形装置13は、いわゆるダウンドロー法により熔融ガラス2をガラスリボン3へと成形するタイプの装置である。熔融ガラス2は、成形装置13の上部から溢れ、2つの流れとなって側壁に沿って下方へと流れ、成形装置13の下端において2つの流れが合流することによりガラスリボン3となる。ガラスリボン3は、下方へと進みながら徐冷され、図示を省略する切断装置において所定の大きさのガラス板4へと切断される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0057】
熔融して得られるガラスが表1に示した組成となるように、各原料を混合してガラス原料バッチを調製した。ガラス原料バッチは得られるガラスが50gとなるように調合した。原料としては、酸化珪素(精製珪砂)、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、炭酸カリウム、酸化錫および酸化鉄を用い、試料1,3,5,7についてはさらに炭酸ナトリウムを用いた。アルミナおよび炭酸ナトリウムを除く各原料は、不純物として含まれるナトリウム化合物の含有率がNa2Oに換算して0.03%未満の材料を用いた。より詳しく述べると、酸化ホウ素、アルミナおよび炭酸ナトリウムを除く各原料は、不純物として含まれるナトリウム化合物の含有率がNa2Oに換算して0.01%未満の材料を用いた。
【0058】
アルミナとしては、不純物として含まれるNa2Oの含有率が表2に記載された数値のものを用いた。原料の大きさ(粒径)によって熔解性は影響を受けるため、用いたアルミナの中心径は、試料1〜4については約60μm、試料5〜8については1〜2.5μmに統一した。各ガラスにおける酸化ナトリウムは、原料の不純物のみに由来するとともに主としてアルミナの不純物に由来するか(試料2,4,6,8)、アルミナ等原料の不純物および炭酸ナトリウムに由来するとともに主として炭酸ナトリウムに由来するか(試料1,3,5,7)のいずれかとした。試料1,3,5,7では、Na2Oを含む各成分の含有率が対応する試料(試料2,4,6,8)と同一になるように、炭酸ナトリウムの添加量を定めた。試料1,3,5,7において、アルミナの不純物を経由して供給されるガラス組成物中のNa2Oの量は、Na2O全体の1/12〜1/5程度である。
【0059】
ガラス原料バッチを白金るつぼに投入し、この白金るつぼを雰囲気温度1500℃または1520℃に保持した炉内で2時間保持し、ガラス原料バッチを熔融した。次いで、炉内から取り出した白金るつぼを鉄板の上に置いて急冷し、引き続き730℃、1時間の条件で徐冷を行った。
【0060】
こうして得た白金るつぼ中のガラスサンプルについて、光学顕微鏡を用いて泡の数をカウントし、清澄性を評価した。具体的には、マーカーを用いてガラスサンプル上の半径10mmの円周上に等間隔となるように16個の微小な点を打ち、この点を光学顕微鏡の視野の中心に合わせ、その視野内において確認できたガラス中の気泡をカウントした。気泡の数は、ガラス1g当たりの個数に換算した。結果を表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
粒径が相対的に大きいアルミナを用いた場合であっても(試料1〜4)、粒径が相対的に小さいアルミナを用いた場合であっても(試料5〜8)、ガラス組成が同一である試料を比較すると、Na2Oの含有率が0.1%以上のアルミナを用いた試料の泡密度は、従来どおりNa2Oの含有率が低いアルミナを用いつつナトリウム塩を用いてNa2Oを供給した試料の泡密度よりも少なくなった。試料6における泡密度の減少率と試料8における泡密度の減少率との対比から、Na2Oの含有率が高いアルミナの使用が気泡の低減には有利であることがわかる。また、K2Oを含む試料4における泡密度の減少率は、K2Oを含まない試料2における泡密度の減少率の2倍程度にまで至った。
【0064】
なお、本発明の製造方法において用いるアルミナの粒径に制限はないが、ガラス原料バッチの熔解性向上の観点からは、表2欄外のR50の値により表示して、アルミナの粒径は100μm以下、さらには80μm以下、特に70μm以下が好ましく、必要に応じて10μm以下としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 ガラスバッチ
2 熔融ガラス
3 ガラスリボン
4 ガラス板
10 熔融槽
11 清澄槽
12 撹拌装置
12a 撹拌槽
12b スターラー
13 成形装置
21,22,23 導管
100 ガラス板の製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を熔融して熔融ガラスを生成する工程と、
前記熔融ガラスをガラス板へと成形する工程と、を含み、
前記ガラス板が、SiO2、Al23およびR2Oを含むとともに、前記R2Oの含有率が0.01〜2.0質量%であって当該R2Oの少なくとも一部を構成するNa2Oの含有率が0.01〜0.15質量%であるガラス組成物からなり、
前記ガラス原料が、前記Al23の原料として、Na2Oを不純物として0.1〜0.6質量%の範囲で含有するアルミニウム酸化物を含む、液晶表示装置用ガラス基板の製造方法。
ここで、Rは、Li、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種であるとともに少なくともその一部がNaである。
【請求項2】
前記ガラス組成物に含まれるNa2Oの50質量%を超える量が、前記アルミニウム酸化物に含まれるNa2Oに由来するものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガラス原料が、Na2O以外の酸化物の原料に不純物として含まれる場合を除き、ナトリウム化合物を実質的に含まない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガラス原料が、前記Na2Oの原料として、Na2O以外の酸化物の原料とは別に、ナトリウム化合物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ガラス組成物が、SnO2をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ガラス組成物が、Fe23をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ガラス組成物が、Al23を10〜25質量%の範囲で含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス組成物が、前記R2Oとして、Na2OとともにK2Oを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ガラス原料がカリウム化合物を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
質量%により表示して、前記ガラス組成物が、前記R2Oとして、Li2O、Na2OおよびK2Oをそれぞれ以下の範囲で含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
Li2O:0〜0.1%
Na2O:0.01〜0.15%
2O:0〜1.9%
【請求項11】
前記K2Oの含有率が0.2%を超える、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
質量%により表示して、前記ガラス組成物が、
SiO2:50〜70%
23:1〜18%
Al23:10〜25%
MgO:0〜10%
CaO:0〜20%
SrO:0〜20%
BaO:0〜10%
Li2O:0〜0.1%
Na2O:0.01〜0.15%
2O:0〜1.9%
を含み、
当該ガラス組成物におけるMOの含有率が5〜30%である、請求項10に記載の方法。
ここで、Mは、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種である。
【請求項13】
前記アルミニウム酸化物におけるNa2Oの含有率が0.2〜0.6質量%である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記アルミニウム酸化物におけるNa2Oの含有率が0.25〜0.6質量%である、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−148959(P2012−148959A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262815(P2011−262815)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(598055910)AvanStrate株式会社 (81)
【Fターム(参考)】