説明

液晶表示装置

【課題】スプレイ−ベンド転移を効率良く誘起させることができる液晶表示装置を提供すること。
【解決手段】この微小構造体31は、TFT基板3上に複数形成される。この微小構造体31は、1回目のラビング処理のラビング方向Xに沿う辺aと、2回目のラビング処理のラビング方向Yに沿う辺bとを含んでおり、ラビング方向Xとラビング方向Yとの間のなす角θ1を辺aと辺bとの間のなす角(頂角)θ2とする。この微小構造体31を用いて上記ラビング処理を行うことにより、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域を形成することができる。この2つの微小領域が形成されることにより、スプレイ−ベンド転移を誘起することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広視角化及び高速応答性を実現するOCB(Optically Compensated Birefringence 又はOptically Compensated Bend )モードの液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置では、OCBモードと呼ばれる表示方式が注目されている(例えば、非特許文献1,2を参照)。このOCBモードは、一対の基板間に挟み込まれた液晶層をスプレイ配向状態とし、駆動電圧の印加時にベンド配向状態に転移させる液晶パネルと、この液晶パネルの光学補償を行う光学補償フィルムとを組み合わせることで、広視野角化と高速応答性を実現するものである。しかしながら、このOCBモードにおいては、通常の配向処理をした場合には、初期スプレイ配向状態にある液晶層をベンド配向状態に速やかに転移させることは容易ではなく、基板上のプレティルト角を10°程度に設定した場合であっても、10V以上、例えば20V程度の高い電圧が必要になる。このような高い電圧を印加することは駆動電圧の制御上から非常に困難である。また、このような液晶層の転移を全ての画素で発生させることも容易ではなく、液晶層が転移しないまま残った一部の画素は欠陥としてパネルの表示品位を大きく低下させることになる。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、非特許文献3には、配向制御層(配向膜)上にポストスペーサを設け、互いに異なる3方向の3回のラビング処理を施すことにより、左右にツイスト配向を形成して、スプレイ−ベンド転移を誘起させることが開示されている。
【非特許文献1】SID 93 Digest p277, Y. Yamaguchi et al.“Wide-Viewing-Angle Display Mode for the Active-Matrix LCD Using Bend-Alignment Liquid Crystal Cell”
【非特許文献2】SID 94 Digest p927 , C-L. Kuo et al.“Improvement of Gray-Scale performance of Optically Compensated Birefringence(OCB)Display Mode for AMLCDs”
【非特許文献3】2005年日本液晶学会討論会、3A03 久保木、宮下、石鍋、内田 「スプレイ−ベンド転移のためのツイストディスクリネーションの形成とそのOCBセルへの応用」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スプレイ−ベンド転移を誘起させるためには、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域(左ねじれ配向領域及び右ねじれ配向領域)を形成する必要があり、この2つの微小領域をより効率良く形成する必要がある。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、スプレイ−ベンド転移を効率良く誘起させることができる液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液晶表示装置は、電極と配向制御層とがそれぞれ配置された一対の基板間に正の誘電異方性を有する液晶層が挟持された液晶表示装置であって、一方の基板の配向制御層は、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域を形成するような微小構造体を有し、前記微小構造体は、平面視において、前記一方の基板の配向制御層に施される第1のラビング処理の第1のラビング方向に沿う第1の辺と、前記一方の基板の配向制御層に施される第2のラビング処理の第2のラビング方向に沿う第2の辺と、を含み、前記第1ラビング方向と前記第2ラビング方向との間のなす角を前記第1の辺と前記第2の辺との間のなす角とすることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、適切な形状を持つ微小構造体を設けているので、所定のラビング処理によりスプレイ−ベンド転移を誘起させる2つの微小領域を確実に形成することができる。これにより、全画面においてベンド配向に迅速に転移させることが可能となる。
【0008】
本発明の液晶表示装置においては、前記第1のラビング処理の後に前記第2のラビング処理が行われ、前記第1のラビング処理の強度が前記第2のラビング処理の強度以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の液晶表示装置においては、前記微小構造体において、前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さ以上であることが好ましい。
【0010】
本発明の液晶表示装置においては、前記微小構造体の幅が5μm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の液晶表示装置においては、前記微小構造体の高さが2μm以上パネルギャップ以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の液晶表示装置においては、前記微小構造体は、断面における底角が45°〜110°である形状を有することが好ましい。
【0013】
本発明の液晶表示装置においては、前記2つの微小領域は、ホモジニアス−ツイスト領域及びスプレイ−ツイスト領域であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電極と配向制御層とがそれぞれ配置された一対の基板間に正の誘電異方性を有する液晶層が挟持された液晶表示装置であって、一方の基板の配向制御層は、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域を形成するような微小構造体を有し、前記微小構造体は、平面視において、前記一方の基板の配向制御層に施される第1のラビング処理の第1のラビング方向に沿う第1の辺と、前記一方の基板の配向制御層に施される第2のラビング処理の第2のラビング方向に沿う第2の辺と、を含み、前記第1ラビング方向と前記第2ラビング方向との間のなす角を前記第1の辺と前記第2の辺との間のなす角とするので、スプレイ−ベンド転移を効率良く誘起させることができる液晶表示装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面では、特徴を分かり易くするために、必要に応じて、特徴となる部分を拡大して示している。
【0016】
図1に示すように、本発明に係る液晶表示装置1は、OCBモードの液晶パネル2を備えている。この液晶パネル2は、例えばアクティブマトリクス駆動方式を採用した透過型のカラー液晶パネルであり、赤、緑、青の3原色に対応した3つのドット(サブピクセル)によって1つの単位画素(ピクセル)が構成されるとともに、ドット1つ1つにアクティブ駆動素子を設けて各画素の点灯状態を制御することによりカラー表示が行われる。なお、図1では、各赤、緑、青の各サブピクセルがストライプ状に並んだ例について説明しているが、サブピクセルが斜めに配列されたり、トライアングル状に配列されていても良い。
【0017】
この液晶パネル2は、互いに対向配置された一対の基板3,4と、これら一対の基板3,4の間に挟まれた光変調層としての液晶層5と、背面側基板(目視側とは反対側の基板:TFT基板)3の下方に配置された光源6と、さらに前面側基板(目視側の基板:CF(カラーフィルタ)基板)4上に配置された偏光板7と、少なくとも1枚の位相差板8と、下側基板3の下方に配置された偏光板9と、少なくとも1枚の位相差板10などを備えている。また、一対の基板3,4は、ガラスやプラスチックなどの矩形状の透過基板であり、液晶層5内に分散又は所定の場所に固着された球形などのスペーサ(図示せず)によって、互いの対向間隔が均一に保持されるとともに、その周辺部がエポキシ系樹脂などによるシール剤(図示せず)により封止されて接合一体化されている。なお、図示されていないが、上記前面側基板4には、全面に透明電極が設けられており、基板3,4における液晶層5に面する表面には、それぞれ所定の液晶配向状態を制御する配向制御層23,24(図2参照)が設けられている。
【0018】
一対の基板3,4のうち、一方(背面側)の基板3は、図2及び図3に示すように、いわゆるアクティブマトリクス基板であり、その液晶層5と対向する面には、スイッチング素子であるTFT(Thin Film Transistor)11がマトリックス状に複数配列して形成されている。このTFT11は、基板3側から順に、ゲート電極12及びゲート絶縁層13と、半導体層14と、半導体層(n+層)28を介してソース電極15及びドレイン電極16とが積層された逆スタガー型の構造を有している。すなわち、この構造においては、最下層のゲート電極12を覆うゲート絶縁層13上には、島状の半導体層14がゲート電極12を遮るように形成されるとともに、この半導体層14の一端側には、半導体層14,28を介してソース電極15が形成され、この半導体層14の他端側には、半導体層14,28を介してドレイン電極16が形成されている。なお、半導体層14上には島状絶縁層17が形成されており、この絶縁層がソース電極とドレイン電極間のチャネル形成の際、エッチストッパ層としての機能を有している。
【0019】
基板3の液晶層5と対向する面には、各TFT11のゲート電極12と電気的に接続された配線である走査線18が、図3中矢印X方向(行方向)に互いに平行に複数並んで形成されるとともに、各TFT11のソース電極15と電気的に接続された配線である信号線19が、図3中矢印Y方向(列方向)に複数並んで形成されており、これら走査線18と信号線19との交差位置の近傍に上記TFT11が形成されている。なお、これら走査線18と信号線19とによって升目状に区画された1つ1つの矩形状の領域が、各ドットに対応した基板3側のドット対応領域を形成しており、これらのドット対応領域がマトリクス状に複数配列されることで、全体として液晶パネル2の表示領域が形成されている。また、この表示領域の外側の部分には、図示を省略するが、各走査線18に選択パルスを印加する走査ドライバと、各信号線19に信号電圧を印加する信号ドライバとが設けられている。
【0020】
そして、この基板3の液晶層5と対向する面には、上述したTFT11、走査線18及び信号線19を被覆する絶縁膜20が形成されている。また、この絶縁膜20には、上記各TFT11のドレイン電極16に臨むコンタクトホール21が形成されている。そして、この絶縁膜20上には、コンタクトホール21を介して各TFT11のドレイン電極16と電気的に接続された画素電極22が、各ドットに対応してマトリクス状に複数配列して形成されている。この画素電極22は、ITO(Indium-Tin Oxide)などの透明な導電材料で構成され、上記各ドット対応領域のほぼ全域を覆うように矩形状に形成されている。そして、この画素電極22が形成された基板3上には、後述する処理がなされた配向制御層23が形成されている。
【0021】
これに対して、他方(前面側)の基板4の液晶層5と対向する面には、後述する処理がなされた配向制御層24と、ITO(Indium-Tin Oxide)などの透明な導電材料で構成された対向電極27と、各ドットに対応したドット対応領域を区画する遮光性のブラックマトリクス層25と、このブラックマトリクス層25によって区画された、例えば赤(R)、緑(G)、青(B)のカラーフィルタ層26R,26G(26Bは図示せず)とが順に形成されている。具体的には、矩形のブラックマトリクス層25によって升目状に区画された1つ1つの矩形領域が、各ドットに対応した基板4側のドット対応領域を形成している。このブラックマトリクス層25は、各カラーフィルタ間における光の混色を防ぐための遮光壁であり、前記赤(R)、緑(G)、青(B)の各色のうちいずれか1つの色のドットが埋め込み形成された形となっている。カラーフィルタ層26R,26G(26Bは図示せず)は、これら異なる色の層がストライプ状、斜め状、トライアングル状などのモザイク状に周期的に配列された構造を有している。したがって、各画素の赤、緑、青に対応した3つのドット対応領域毎に、画素電極22と対向電極27との間に印加される駆動電圧を制御することにより、各画素の表示色が制御され、これにより所望の画像が表示可能となる。
【0022】
液晶層5は、一方の基板3の配向制御層23と、対向基板4の配向制御層24との間に封入された正の誘電異方性を有するネマティック液晶組成物を含む。さらに、液晶層5は、初期(電圧無印加状態又は配向状態の変化を起こさない低電圧状態)で、それぞれの基板3,4上において、互いに液晶分子のプレティルト角が逆となったスプレイ配列になるように配向制御されている。
【0023】
本発明の液晶表示装置においては、後述するような液晶分子配向を与えたパネルに対して、液晶駆動電圧に応じて適正な光学補償条件を満たすように、複数の位相差板および偏光板などの光学フィルムが配置される。
【0024】
例えば、透過型ノーマリブラックモードで表示を行う場合には、パネル(2枚の基板間に正の誘電異方性のネマティック液晶組成物を挟持してなる)に対して、パネル内の液晶層と合わせて複屈折位相差がトータルでゼロとなるように、また、その光学軸がラビング方向とそれぞれ直交する向きに設定された2軸性光学補償フィルム(n>n>n、ここでx,yはパネル面内の方向を表し、zはパネルの厚み方向を表す)をパネル上下に配置する。特に、ベンド配列状態を保持する最も低い電圧(OFF電圧)で黒表示になるように、ベンド配列から十分に液晶分子が立ち上がる電圧(ON電圧)で白表示になるように、上記の光学フィルム類の条件(相互の光学軸方向、位相差値など)を設定する。例えば、パネルの電圧無印加状態(スプレイ配向状態)における位相差が960nmであり、ON電圧を5.0Vとした場合、二軸性光学補償フィルムの位相差を50nm、Nz係数を7.5にすると、パネルの液晶層と二軸性光学補償フィルムの複屈折位相差がトータルでゼロとなる。ここで、Nz係数とは、位相差板の遅相軸方向の屈折率、進相軸方向の屈折率、厚さ方向の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとしたとき、Nz=(nx−nz)/(nx−ny)で定義される値である。なお、いわゆるノーマリホワイトの場合に、上記の黒表示と白表示になる条件を逆にして設定することはいうまでもない。さらに、偏光板と1/4波長板(1/4λ板)とを、両者の光学軸が約45°となるように設定して円偏光板を形成した積層体を、上記の外側に上下共配置する。
【0025】
一方、反射型(ノーマリブラック)表示の場合には、パネル(2枚の基板間に正の誘電異方性のネマティック液晶組成物を挟持してなる)の観察側と反対側の基板内面(液晶層と接する側の面)又は基板外面に反射層を形成するとともに、パネル内の液晶層とその複屈折位相差がトータルでゼロとなるような二軸性光学補償フィルム(n>n>n,ここでx、yはパネル面を表し、zはパネルの厚み方向を表す)を設ける。例えば、パネルの電圧無印加状態(スプレイ配向状態)における位相差が480nm、ON電圧を5.0Vとした場合、二軸性光学補償フィルムの位相差を50nm、Nz係数を7.5にすると、パネルの液晶層と二軸性光学補償フィルムの複屈折位相差がトータルでゼロとなる。そしてさらに、その上面(観察側に近い面)には、偏光板と1/4波長板(1/4λ板)とを、両者の光学軸が約45°となるように設定して円偏光板を形成した積層体を、配置する。なお、ノーマリホワイトの場合に、前述の黒表示と白表示の関係を逆にすることも上記と同様である。
【0026】
図4は、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置における微小構造体を示す平面図である。なお、図4は、配向制御層を設けた面が紙面表にある、いわゆる膜上図である。この微小構造体31は、一方の基板、例えばTFT基板3上に複数形成される。この微小構造体31は、1回目のラビング処理のラビング方向Xに沿う辺aと、2回目のラビング処理のラビング方向Yに沿う辺bとを含んでおり、ラビング方向Xとラビング方向Yとの間のなす角θ1を辺aと辺bとの間のなす角(頂角)θ2とする。この微小構造体31を用いて上記ラビング処理を行うことにより、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域を形成することができる。この2つの微小領域が形成されることにより、スプレイ−ベンド転移を誘起することができる。
【0027】
図4において、辺aは基準方向(図4の上下方向)に対して角度αを有している。すなわち、1回目のラビング方向は基準方向に対して角度αを持つ方向である。また、辺bは基準方向(図4の上下方向)に対して角度βを有している。すなわち、2回目のラビング方向は基準方向に対して角度βを持つ方向である。したがって、なす角θ2は角度αと角度βの和に相当する。また、基準方向(図4の上下方向)に沿って3回目のラビング処理が行われる(ラビング方向Z)。このラビング方向Zは、対向基板であるCF基板4におけるラビング方向と同じ方向である。
【0028】
図4において、多角形ABCDは微小構造体31の外形である。BCHの領域32は、2回目のラビング処理及び3回目のラビング処理に対して形成されるラビングの影部である。すなわち、2回目のラビング処理及び3回目のラビング処理においては、微小構造体31が障害となって、ラビング方向Y及びラビング方向Zのラビング処理が行われない領域である。したがって、BCHの領域は、1回目のラビング処理のみが行われており、ラビング方向Xの配向が形成されている。
【0029】
また、EDGFの領域33は、3回目のラビング処理に対して形成されるラビングの影部である。すなわち、3回目のラビング処理においては、微小構造体31が障害となって、ラビング方向Zのラビング処理が行われない領域である。したがって、EDGFの領域は、1回目のラビング処理及び2回目のラビング処理が行われている。
【0030】
また、BCDGFEの領域(BCHF、DGの長さに対応する部分で囲まれた領域)は、3回目のラビング処理に対して形成されるラビングの影部である。すなわち、3回目のラビング処理においては、微小構造体31が障害となって、ラビング方向Zのラビング処理が行われない領域である。
【0031】
このような3回のラビング処理を行うことにより、BCHの領域32が左ねじれホモジニアス配向領域となり、EDGFの領域33が右ねじれスプレイ配向領域となる。そして、CH線34が左ねじれホモジニアス配向領域と右ねじれスプレイ配向領域との間の境界であり、このCH線が十分な長さだけ確保できる、及び/又はBCHの領域32を十分な広さだけ確保できることにより、効率良くスプレイ−ベンド転移を誘起することができる。
【0032】
スプレイ−ベンド転移の核となる2つの微小領域の境界線(CH線)34を十分な長さにすることや、BCHの領域32を十分な広さにすること、スプレイ−ベンド転移が安定して行われることなどを考慮すると、微小構造体31の頂角θ2を構成する角度α及び角度βは、50°〜80°の範囲内であることが好ましい。角度αについては、55°〜75°であることが特に好ましい。なお、角度αと角度βとは必ずしも等しくなくても良い。
【0033】
このようなBCHの領域32やCH線34の形成については、上述した影部をどのようにして形成するかが重要である。この影部は、微小構造体31の高さ、ラビング布のパイル長さ、ラビングロールの基板への押し込み量などに依存して変わるが、典型的に、微小構造体31の高さが後述する範囲である場合には、微小構造体31の近傍約5μm〜20μmの幅で形成される。
【0034】
微小構造体31の高さは、スプレイ−ベンド転移に有効な核を発生させるための影部の形成やパネルギャップの設定を考慮すると、2μm以上、好ましくは3μm以上でパネルギャップ以下であることが好ましい。すなわち図5における高さhが2μm以上、好ましくは3μm以上でパネルギャップ以下であることが好ましい。
【0035】
微小構造体31は、影部の形成やラビングによるダメージの軽減を考慮して、断面における底角が45°〜110°である形状を有することが好ましい。すなわち図5における底角θ3が45°〜110°であることが好ましい。
【0036】
微小構造体31の幅(ラビング方向Zに沿う方向の幅)は、影部の形成を考慮すると、5μm以上、好ましくは7μm以上であることが好ましい。すなわち図5における幅Wが5μm以上、好ましくは7μm以上であることが好ましい。なお、微小構造体31の幅(ラビング方向Zに沿う方向の幅)は、有効表示部の面積低下や、目視上微小構造体が顕著に見えないことなどを考慮すると、30μm以下であることが好ましい。
【0037】
微小構造体31において、辺aの長さが辺bの長さ以上であることが好ましい。これにより、BCHの領域(左ねじれホモジニアス領域)32がEDGFの領域(右ねじれスプレイ領域)33より広く形成され、ベンド状態への転移がより進み易くなる。
【0038】
本発明においては、微小構造体31の角度α、角度β、辺a、辺b、高さh、幅Wなどについて、上述の範囲内で左ねじれホモジニアス配向領域ができるだけ広くなるように適宜選択して設定することが望ましい。
【0039】
これらのラビング処理は、いずれもTFT基板3の配向制御層23である配向膜(例えば、ポリビニルアルコール系、ポリアミド系、あるいはポリイミド系などの高分子系配向膜)に対して行われる。まず、ラビング方向X、すなわちラビング方向Zを基準方向として、基準方向に対して角度αを持つ方向に1回目のラビング処理を行う。次いで、ラビング方向Y、すなわちラビング方向Zを基準方向として、基準方向に対して角度βを持つ方向に2回目のラビング処理を行う。その後ラビング方向Zに3回目のラビング処理を行う。
【0040】
微小構造体31におけるABCDを構成する辺のうち、少なくとも1つの頂角をなす2つの辺BC、辺CDは、これら角度α、角度β方向と略等しい方向に沿い、かつその頂角BCD(θ2)はほぼα+βに等しく設定される。本発明においては、ラビング方向と微小構造体31の辺の方向とが略等しく設定される。この場合において、微小構造体31によるラビング方向のばらつきが顕著にならない範囲内であること、あるいは微小構造体31がラビングのせん断力によって破壊あるいは剥れが生じないことなどを満足すれば、ラビング方向と微小構造体31の辺の方向との間に所定の角度、例えば±10°以内、好ましくは±5°以内があっても本発明の目的が達成される。
【0041】
TFT基板3と対向するCF基板4の配向制御層24には、ラビング方向Zで全面にラビング処理がなされている。この結果、図4において、微小構造体ABCD及び影部BEFGDCを除く全領域は、図6(c)に示すように、全面スプレイ配向領域となっている。また、図4において、BCHの領域32は、例えばCF基板4側から投影してみた場合、CF基板4からTFT基板3までの間で液晶分子41が角度約αの左ねじれホモジニアス配向領域となっている。図6(a)は、AF線に沿ったパネル断面をDの方向から見た図である。一方、HCDGFの領域は、CF基板4からTFT基板3までの間で液晶分子41が角度約β(実際には、ラビング方向Xのラビング処理の効果でβよりわずかに大きい値となる)の右ねじれスプレイ配向領域となっている。図6(b)は、AF線に沿ったパネル断面をDの方向から見た図である。
【0042】
したがって、これらの2つの微小領域が接する境界線が、ディスクリネーションラインCHを形成する。この配向状態に対して、所定の値よりも高い電圧を印加すると、安定なホモジニアス領域が一気にスプレイ側に広がってゆくため、表示画面全体がベンド状態に速やかに転移する。その理由は、電圧印加時にはねじれたスプレイ配向よりもねじれたホモジニアス配向の方がエネルギー的に安定になること、及び90°以上のねじれ状態を経由することにより、スプレイからベンドへの転移に要するエネルギー障壁が小さくなることによる。
【0043】
なお、ディスクリネーションラインの末端部Hの位置は、ラビング方向Yのラビングにおけるロール押し込み量、ラビング布のパイル長さなどに依存して、わずかに変動する。これは、ラビング方向Yのラビングに関して、微小構造体31近傍に形成されるラビング影部の終端がラビングのかかり始める開始点に対応しているからである。
【0044】
図7(a)〜(i)は、本発明の液晶表示装置における微小構造体を示す平面図である。これらの図においては、いずれも1回目、2回目及び3回目のラビング方向は図4に示す方向と同じである(図7では3回目のラビング方向Zのみ矢印で示す)。また、1回目のラビング処理のラビング方向Xにほぼ沿った辺の長さをaとし、2回目のラビング処理のラビング方向Yに沿った辺の長さをbで示す。
【0045】
図7(a),(b)に示す微小構造体31は、最も基本的な形状であり、辺aが辺bよりも長く設定された四角形であり、特に図7(b)に示す形状では、辺aの長さを辺bよりかなり長くしている。図7(c)に示す形状は、少なくともラビング方向Y及びラビング方向Zに関して円弧状の辺を持つもの(ラビング布のパイルが当接する部分が円弧状)であり、微小構造体31へのラビングによるダメージを軽減する観点で好ましい。
【0046】
図7(d)に示す形状は、外形がほぼ三角形であり、角度α、角度β、辺a、辺bなどに関して上述した関係を満たす。また、ラビングによる剥がれやダメージを防止するために、図7(e)に示に形状のようにZ方向に長さを有するようにしても良い。また、図7(f),(g)に示す形状のように、ラビングによるダメージの防止を考慮して、3回目のラビング処理を受ける側を凹形状にしても良い。
【0047】
さらに、図7(h),(i)に示す形状のように、複数の小構造体で微小構造体31を構成するようにしても良い。小構造体の配列で角度α、角度βの関係を満たし、また小構造体の集合体の長さが辺a、辺bの関係を実質的に満たすようにしている。小構造体間のスペースは、ラビング布のパイルがその間を通らないような間隔(例えば10μm)であれば、図7(a)〜(g)に示す構造体と同様な効果が得られる。
【0048】
ラビング強度に関しては、1回目のラビング処理のラビング強度よりも2回目のラビング処理のラビング強度が大きく、2回目のラビング処理のラビング強度よりも3回目のラビング処理のラビング強度が大きくなるように設定することが好ましい。すなわち、ラビング処理後の各領域の液晶分子に対する配向規制力(アンカリング)に関して、BCHの領域よりもHCDGFの領域の方が配向規制力を強く、さらにBCDGFEの領域以外の全領域の方が配向規制力を強く設定することにより、ラビング方向Zにラビング処理された領域が最も支配的に(広く)存在し、この中にラビング方向Xにラビング処理されたBCHの領域及びラビング方向Yにラビング処理されたEFGDの領域が島状に形成される。
【0049】
配向規制力を変化させるには種々の方法が採用可能であり、例えば、ラビング処理の場合、配向規制力は、ラビング処理の程度を半定量的に表す「ラビング強度パラメータ」(Y. Sato, K. Sato and T. Uchida: Jpn. J. Appl. Phys., 31(1992) L579参照)を決める因子を変化させることで制御可能である。このラビング強度パラメータ(L)は、一般に下式で表される。なお、長さに関する単位は全てmmとする。
L=N×l×(l+2πrn/60v)
ここで、N(mm)はラビング回数を表し、l(mm)はラビング布への沈み込み深さ(押し込み量)を表し、r(mm)はラビングロールの半径を表し、 n(rpm)はロールの回転数を表し、vは基板ステージの移動速度を表す。その結果、ラビング強度パラメータは、基板上で一点を通過するラビング布の長さ(mm)に関係した量となる。上式から明らかなように、ラビング回数や押し込み量を増減させたり、あるいはラビングロールの径や回転速度を増減させたり、基板送り速度を変化させることにより、配向規制力の強弱を制御することが可能である。
【0050】
本発明において、微小構造体を配置する場所は、特に制約されることはない。例えば、表示画素又はサブ画素と呼ばれるRGBなどの単位画素や、能動素子の電極配線であるソース電極配線(あるいはゲート電極配線)上に配置することができる。なお、画素電極上に配置する場合には、開口率やコントラストを考慮することが望ましい。
【0051】
上記説明においては、それぞれの画素に対応して、少なくとも一つのスプレイ−ベンド転移の起点を形成する場合について説明しているが、これに限定されず、本発明は、液晶組成物の物性値(弾性定数、誘電異方性など)、パネルギャップ、液晶分子のプレティルト角、配向規制力などに応じて、配置密度を適宜変更することができる。例えば、転移の起点が3〜10画素当りに1個であっても良い。また、1画素当り2〜4個設けることにより、ベンド転移の起点が相対的に多く存在することになり、ベンド転移への時間を実質的に極めて短くすることができる。例えば、プレティルト角が大きい(4°又は5°〜15°)場合、スプレイ−ベンド転移が極めて起こり易くなるため、転移の起点の配置密度が10あるいはそれ以上の画素数当り1個でも有効となる。
【0052】
上記においては、能動素子が形成されたTFT基板上に微小構造体を設けた場合について説明しているが、本発明においては、対向基板であるCF基板に微小構造体を設けても良い。
【0053】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
サブ画素に赤、緑、青のフィルタを形成した一般的なCF基板を作製し、寸法10μm×10μm(図4における辺aが10μmであり、辺bが10μmである)で高さ4μmの微小構造体(柱スペーサ)をサブ画素に1個づつ60μmピッチで形成した。この柱スペーサの頂角(図4におけるθ2)は120°とし、角度αが60°、角度βが60°とした。また、柱スペーサの幅(ラビング方向Zに沿う方向の幅)は6μmとした。
【0054】
この柱スペーサは、透明ネガレジストCL−016S(TOK製)を100mJ/cm2で露光し、N−A3K(商品名)の0.5%水溶液で60秒現像し、その後300mJ/cm2でポスト露光し、220℃で1時間のポストベークを行うことにより形成した。得られた柱スペーサの断面における底角(図5におけるθ3)が60°であった。
【0055】
このCF基板に対して、図4に示すように、ラビング方向Xに1回目のラビング処理を行い、ラビング方向Yに2回目のラビング処理を行い、ラビング方向Zに3回目のラビング処理を行った。3回のラビング処理すべてについてラビング強度を100cm(押し込み量0.2mm)とした。
【0056】
次いで、ソース電極、ゲート電極、画素電極、TFT素子などを形成したTFT基板を通常の手法により作製した。TFT基板に対して、ラビング強度300cm(押し込み量0.6mm)で図4に示すラビング方向Zでラビング処理を行った。
【0057】
次いで、CF基板に形成した柱スペーサを基板間のギャップ材としてCF基板と、TFT基板とを重ね合わせた。次いで、重ね合わせた基板をパネル単位にカットした後、両基板間に液晶材料(チッソ(株)製)を真空注入法により注入してOCB液晶パネルを作製した。
【0058】
また、角度αを50°、55°、70°、75°、80°に変更すること以外は上記と同様にしてそれぞれのOCB液晶パネルを作製した。また、角度βを50°、55°、70°、75°、80°に変更すること以外は上記と同様にしてそれぞれのOCB液晶パネルを作製した。
【0059】
このようにして得られたOCB液晶パネルについて、それぞれの画素電極、ソース電極ラインに5Vの電圧を印加してスプレイ−ベンド転移が誘起されるかどうかを光学顕微鏡により調べた。その結果、すべてのOCB液晶パネルにおいて、電圧印加直後に、CF基板のポストスペーサ形成領域と画素電極スペースが交差する箇所からスプレイ−ベンド転移が発生し、約0.5秒でパネル全画素がベンド配向へと転移した。
【0060】
また、柱スペーサの辺aの長さを12μm、15μmに変更すること以外は上記と同様にしてそれぞれのOCB液晶パネルを作製した。また、柱スペーサの幅(ラビング方向Zに沿う方向の幅)を5μm、7μm、10μm、15μmに変更すること以外は上記と同様にしてそれぞれのOCB液晶パネルを作製した。また、柱スペーサの高さを3μm、3.5μm、4.5μm、5μm、5.5μmに変更すること以外は上記と同様にしてそれぞれのOCB液晶パネルを作製した。さらに、柱スペーサの断面における底角(図5におけるθ3)を45°、90°、100°、110°に変更すること以外は上記と同様にしてそれぞれのOCB液晶パネルを作製した。
【0061】
このようにして得られたOCB液晶パネルについて、それぞれの画素電極、ソース電極ラインに5Vの電圧を印加してスプレイ−ベンド転移が誘起されるかどうかを光学顕微鏡により調べた。その結果、すべてのOCB液晶パネルにおいて、電圧印加直後に、CF基板のポストスペーサ形成領域と画素電極スペースが交差する箇所からスプレイ−ベンド転移が発生し、約0.5秒でパネル全画素がベンド配向へと転移した。
【0062】
上述したように、本発明の液晶表示装置においては、適切な形状を持つ微小構造体を設けているので、所定のラビング処理によりスプレイ−ベンド転移を誘起させる2つの微小領域、すなわち左ねじれホモジニアス領域及び右ねじれスプレイ領域を確実に形成することができる。これにより、全画面においてベンド配向に迅速に転移させることが可能となる。
【0063】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態で説明した数値や材質、液晶表示装置の構成などについては特に制限はない。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示す液晶表示装置の断面図である。
【図3】図1に示す液晶表示装置のアクティブマトリクス基板を示す拡大図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の微小構造体を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の微小構造体を説明するための図である。
【図6】(a)〜(c)は、液晶分子の配向状態を説明するための図である。
【図7】(a)〜(i)は、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の微小構造体の他の例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0065】
3,4 基板
5 液晶層
11 TFT
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁膜
14 半導体層
15 ソース電極
16 ドレイン電極
17 絶縁層
18 走査線
19 信号線
22 画素電極
23,24 配向制御層
25 ブラックマトリクス層
26R,26G カラーフィルタ層
27 対向電極
31 微小構造体
32 BCHの領域
33 EDGFの領域
34 CH線
41 液晶分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と配向制御層とがそれぞれ配置された一対の基板間に正の誘電異方性を有する液晶層が挟持された液晶表示装置であって、一方の基板の配向制御層は、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域を形成するような微小構造体を有し、前記微小構造体は、平面視において、前記一方の基板の配向制御層に施される第1のラビング処理の第1のラビング方向に沿う第1の辺と、前記一方の基板の配向制御層に施される第2のラビング処理の第2のラビング方向に沿う第2の辺と、を含み、前記第1ラビング方向と前記第2ラビング方向との間のなす角を前記第1の辺と前記第2の辺との間のなす角とすることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記第1のラビング処理の後に前記第2のラビング処理が行われ、前記第1のラビング処理の強度が前記第2のラビング処理の強度以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記微小構造体において、前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さ以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記微小構造体の幅が5μm以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記微小構造体の高さが2μm以上パネルギャップ以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記微小構造体は、断面における底角が45°〜110°である形状を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記2つの微小領域は、ホモジニアス−ツイスト領域及びスプレイ−ツイスト領域であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−175837(P2008−175837A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6496(P2007−6496)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】