説明

液晶表示装置

【課題】スプレイ−ベンド転移を全画素にわたって効率良く誘起させることができること。
【解決手段】隣接する画素電極22a,22b間の信号線19が隣接する画素に延在する延在部を有する反射電極35cで覆われている。この延在部に微小構造体31が設けられている。すなわち、信号線に沿って透過領域まで延びるA画素の電極35cが延在部を構成しており、この延在部が隣接する画素であるB画素にまで延在している。この場合において、延在部35dを部分的に形成すること、すなわち、延在部35dが微小構造体31を設ける領域のみに形成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広視角化及び高速応答性を実現するOCB(Optically Compensated Birefringence 又はOptically Compensated Bend )モードの液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置では、OCBモードと呼ばれる表示方式が注目されている(例えば、非特許文献1,2を参照)。このOCBモードは、一対の基板間に挟み込まれた液晶層をスプレイ配向状態とし、駆動電圧の印加時にベンド配向状態に転移させる液晶パネルと、この液晶パネルの光学補償を行う光学補償フィルムとを組み合わせることで、広視野角化と高速応答性を実現するものである。しかしながら、このOCBモードにおいては、通常の配向処理をした場合には、初期スプレイ配向状態にある液晶層をベンド配向状態に速やかに転移させることは容易ではなく、基板上のプレティルト角を10°程度に設定した場合であっても、10V以上、例えば20V程度の高い電圧が必要になる。このような高い電圧を印加することは駆動電圧の制御上から非常に困難である。また、このような液晶層の転移を全ての画素で発生させることも容易ではなく、液晶層が転移しないまま残った一部の画素は欠陥としてパネルの表示品位を大きく低下させることになる。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、非特許文献3には、配向制御層(配向膜)上にポストスペーサを設け、互いに異なる3方向の3回のラビング処理を施すことにより、左右にツイスト配向を形成して、スプレイ−ベンド転移を誘起させることが開示されている。
【非特許文献1】SID 93 Digest p277, Y. Yamaguchi et al.“Wide-Viewing-Angle Display Mode for the Active-MatrixLCD Using Bend-Alignment LiquidCrystal Cell”
【非特許文献2】SID 94 Digest p927 , C-L. Kuo et al.“Improvement of Gray-Scale performance of OpticallyCompensated Birefringence(OCB)Display Mode for AMLCDs”
【非特許文献3】2005年日本液晶学会討論会、3A03 久保木、宮下、石鍋、内田 「スプレイ−ベンド転移のためのツイストディスクリネーションの形成とそのOCBセルへの応用」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スプレイ−ベンド転移を誘起させるためには、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域(左ねじれ配向領域及び右ねじれ配向領域)を形成する必要があり、また、この2つの微小領域に効率良く電界を印加して全画素でスプレイ−ベンド転移を誘起させる必要がある。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、スプレイ−ベンド転移を全画素にわたって効率良く誘起させることができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液晶表示装置は、画素電極、配向制御層、及び前記画素電極に電気的に接続する能動素子を有する第1の基板と、前記第1の基板に対向するように配置された第2の基板と、前記第1及び第2の基板間に挟持された正の誘電異方性を有する液晶層と、を具備し、各画素毎に透過領域及び反射領域を有する液晶表示装置であって、前記第1の基板の配向制御層は、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域を形成するような微小構造体を有しており、前記第1の基板は、隣接する画素電極間に前記能動素子の配線を有しており、前記透過領域の前記配線が前記反射領域に形成された反射電極で覆われており、前記反射電極は、平面視において、隣接する画素に延在する延在部を有しており、前記微小構造体が前記延在部に設けられていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、一つの画素の電極が隣接する画素まで延在し、その延在部に微小構造体が設けられることにより、隣接する画素の領域にスプレイ−ベンド転移誘起効果を及ぼすことができる。この構成を各画素に設けることにより、スプレイ−ベンド転移誘起効果が伝播して全画素にわたってスプレイ−ベンド転移誘起効果が及び、その結果全画素にわたってスプレイ−ベンド転移を誘起させることが可能となる。
【0008】
本発明の液晶表示装置においては、前記延在部は、前記微小構造体を設ける領域のみに形成されていることが好ましい。
【0009】
本発明の液晶表示装置においては、前記透過領域と前記反射領域との間の境界部において、前記反射領域を構成する層の立ち上がり角度が20°〜80°であることが好ましい。
【0010】
本発明の液晶表示装置においては、前記2つの微小領域がホモジニアス−ツイスト領域及びスプレイ−ツイスト領域であり、前記微小構造体は、平面視において少なくとも前記ホモジニアス−ツイスト領域が前記延在部内に位置するように設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、画素電極、配向制御層、及び前記画素電極に電気的に接続する能動素子を有する第1の基板と、前記第1の基板に対向するように配置された第2の基板と、前記第1及び第2の基板間に挟持された正の誘電異方性を有する液晶層と、を具備し、各画素毎に透過領域及び反射領域を有する液晶表示装置であって、前記第1の基板の配向制御層は、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域を形成するような微小構造体を有しており、前記第1の基板は、隣接する画素電極間に前記能動素子の配線を有しており、前記透過領域の前記配線が前記反射領域に形成された反射電極で覆われており、前記反射電極は、平面視において、隣接する画素に延在する延在部を有しており、前記微小構造体が前記延在部に設けられているので、スプレイ−ベンド転移を全画素にわたって効率良く誘起させることができる液晶表示装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面では、特徴を分かり易くするために、必要に応じて、特徴となる部分を拡大して示している。
【0013】
図1に示すように、本発明に係る液晶表示装置1は、OCBモードの液晶パネル2を備えている。この液晶パネル2は、例えばアクティブマトリクス駆動方式を採用した透過型のカラー液晶パネルであり、赤、緑、青の3原色に対応した3つのドット(サブピクセル)によって1つの単位画素(ピクセル)が構成されるとともに、ドット1つ1つにアクティブ駆動素子を設けて各画素の点灯状態を制御することによりカラー表示が行われる。なお、図1では、各赤、緑、青の各サブピクセルがストライプ状に並んだ例について説明しているが、サブピクセルが斜めに配列されたり、トライアングル状に配列されていても良い。
【0014】
この液晶パネル2は、互いに対向配置された一対の基板3,4と、これら一対の基板3,4の間に挟まれた光変調層としての液晶層5と、背面側基板(目視側とは反対側の基板:TFT基板)3の下方に配置された光源6と、さらに前面側基板(目視側の基板:CF(カラーフィルタ)基板)4上に配置された偏光板7と、少なくとも1枚の位相差板8と、下側基板3の下方に配置された偏光板9と、少なくとも1枚の位相差板10などを備えている。また、一対の基板3,4は、ガラスやプラスチックなどの矩形状の透過基板であり、液晶層5内に分散又は所定の場所に固着された球形などのスペーサ(図示せず)によって、互いの対向間隔が均一に保持されるとともに、その周辺部がエポキシ系樹脂などによるシール剤(図示せず)により封止されて接合一体化されている。なお、図示されていないが、上記前面側基板4には、全面に透明電極が設けられており、基板3,4における液晶層5に面する表面には、それぞれ所定の液晶配向状態を制御する配向制御層23,24(図2参照)が設けられている。
【0015】
一対の基板3,4のうち、一方(背面側)の基板3は、図2及び図3に示すように、いわゆるアクティブマトリクス基板であり、その液晶層5と対向する面には、スイッチング素子(能動素子)であるTFT(Thin Film Transistor)11がマトリックス状に複数配列して形成されている。このTFT11は、基板3側から順に、ゲート電極12及びゲート絶縁層13と、半導体層14と、半導体層(n+層)28を介してソース電極15及びドレイン電極16とが積層された逆スタガー型の構造を有している。すなわち、この構造においては、最下層のゲート電極12を覆うゲート絶縁層13上には、島状の半導体層14がゲート電極12を遮るように形成されるとともに、この半導体層14の一端側には、半導体層14,28を介してソース電極15が形成され、この半導体層14の他端側には、半導体層14,28を介してドレイン電極16が形成されている。なお、半導体層14上には島状の絶縁層17が形成されており、ソース電極15とドレイン電極16間のチャネルを形成する際のエッチストッパとしての機能を有している。
【0016】
基板3の液晶層5と対向する面には、各TFT11のゲート電極12と電気的に接続された配線である走査線18が、図3中矢印X方向(行方向)に互いに平行に複数並んで形成されるとともに、各TFT11のソース電極15と電気的に接続された配線である信号線19が、図3中矢印Y方向(列方向)に複数並んで形成されており、これら走査線18と信号線19との交差位置の近傍に上記TFT11が形成されている。なお、これら走査線18と信号線19とによって升目状に区画された1つ1つの矩形状の領域が、各ドットに対応した基板3側のドット対応領域を形成しており、これらのドット対応領域がマトリクス状に複数配列されることで、全体として液晶パネル2の表示領域が形成されている。また、この表示領域の外側の部分には、図示を省略するが、各走査線18に選択パルスを印加する走査ドライバと、各信号線19に信号電圧を印加する信号ドライバとが設けられている。
【0017】
そして、この基板3の液晶層5と対向する面には、上述したTFT11、走査線18及び信号線19を被覆する絶縁膜20が形成されている。また、この絶縁膜20には、上記各TFT11のドレイン電極16に臨むコンタクトホール21が形成されている。そして、この絶縁膜20上には、コンタクトホール21を介して各TFT11のドレイン電極16と電気的に接続された画素電極22が、各ドットに対応してマトリクス状に複数配列して形成されている。この画素電極22は、ITO(Indium-Tin Oxide)などの透明な導電材料で構成され、上記各ドット対応領域のほぼ全域を覆うように矩形状に形成されている。そして、この画素電極22が形成された基板3上には、後述する処理がなされた配向制御層23が形成されている。
【0018】
これに対して、他方(前面側)の基板4の液晶層5と対向する面には、後述する処理がなされた配向制御層24と、ITO(Indium-Tin Oxide)などの透明な導電材料で構成された対向電極27と、各ドットに対応したドット対応領域を区画する遮光性のブラックマトリクス層25と、このブラックマトリクス層25によって区画された、例えば赤(R)、緑(G)、青(B)のカラーフィルタ層26R,26G(26Bは図示せず)とが順に形成されている。具体的には、矩形のブラックマトリクス層25によって升目状に区画された1つ1つの矩形領域が、各ドットに対応した基板4側のドット対応領域を形成している。このブラックマトリクス層25は、各カラーフィルタ間における光の混色を防ぐための遮光壁であり、前記赤(R)、緑(G)、青(B)の各色のうちいずれか1つの色のドットが埋め込み形成された形となっている。カラーフィルタ層26R,26G(26Bは図示せず)は、これら異なる色の層がストライプ状、斜め状、トライアングル状などのモザイク状に周期的に配列された構造を有している。したがって、各画素の赤、緑、青に対応した3つのドット対応領域毎に、画素電極22と対向電極27との間に印加される駆動電圧を制御することにより、各画素の表示色が制御され、これにより所望の画像が表示可能となる。
【0019】
液晶層5は、一方の基板3の配向制御層23と、対向基板4の配向制御層24との間に封入された正の誘電異方性を有するネマティック液晶組成物を含む。さらに、液晶層5は、初期(電圧無印加状態又は配向状態の変化を起こさない低電圧状態)で、それぞれの基板3,4上において、互いに液晶分子のプレティルト角が逆となったスプレイ配列になるように配向制御されている。
【0020】
本発明の液晶表示装置においては、後述するような液晶分子配向を与えたパネルに対して、液晶駆動電圧に応じて適正な光学補償条件を満たすように、複数の位相差板および偏光板などの光学フィルムが配置される。
【0021】
例えば、透過型ノーマリブラックモードで表示を行う場合には、パネル(2枚の基板間に正の誘電異方性のネマティック液晶組成物を挟持してなる)に対して、パネル内の液晶層と合わせて複屈折位相差がトータルでゼロとなるように、また、その光学軸がラビング方向とそれぞれ直交する向きに設定された2軸性光学補償フィルム(n>n>n、ここでx,yはパネル面内の方向を表し、zはパネルの厚み方向を表す)をパネル上下に配置する。特に、ベンド配列状態を保持する最も低い電圧(OFF電圧)で黒表示になるように、ベンド配列から十分に液晶分子が立ち上がる電圧(ON電圧)で白表示になるように、上記の光学フィルム類の条件(相互の光学軸方向、位相差値など)を設定する。例えば、パネルの電圧無印加状態(スプレイ配向状態)における位相差が960nmであり、ON電圧を5.0Vとした場合、二軸性光学補償フィルムの位相差を50nm、Nz係数を7.5にすると、パネルの液晶層と二軸性光学補償フィルムの複屈折位相差がトータルでゼロとなる。ここで、Nz係数とは、位相差板の遅相軸方向の屈折率、進相軸方向の屈折率、厚さ方向の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとしたとき、Nz=(nx−nz)/(nx−ny)で定義される値である。なお、いわゆるノーマリホワイトの場合に、上記の黒表示と白表示になる条件を逆にして設定することはいうまでもない。さらに、偏光板と1/4波長板(1/4λ板)とを、両者の光学軸が約45°となるように設定して円偏光板を形成した積層体を、上記の外側に上下共配置する。
【0022】
一方、反射型(ノーマリブラック)表示の場合には、パネル(2枚の基板間に正の誘電異方性のネマティック液晶組成物を挟持してなる)の観察側と反対側の基板内面(液晶層と接する側の面)又は基板外面に反射層を形成するとともに、パネル内の液晶層とその複屈折位相差がトータルでゼロとなるような二軸性光学補償フィルム(n>n>n,ここでx、yはパネル面を表し、zはパネルの厚み方向を表す)を設ける。例えば、パネルの電圧無印加状態(スプレイ配向状態)における位相差が480nm、ON電圧を5.0Vとした場合、二軸性光学補償フィルムの位相差を50nm、Nz係数を7.5にすると、パネルの液晶層と二軸性光学補償フィルムの複屈折位相差がトータルでゼロとなる。そしてさらに、その上面(観察側に近い面)には、偏光板と1/4波長板(1/4λ板)とを、両者の光学軸が約45°となるように設定して円偏光板を形成した積層体を、配置する。なお、ノーマリホワイトの場合に、前述の黒表示と白表示の関係を逆にすることも上記と同様である。
【0023】
図4は、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置における微小構造体を示す平面図である。なお、図4は、配向制御層を設けた面が紙面表にある、いわゆる膜上図である。この微小構造体31は、一方の基板、例えばTFT基板3上に複数形成される。この微小構造体31を用いて、ラビング方向Xに1回目のラビング処理が行われ、ラビング方向Yに2回目のラビング処理が行われ、ラビング方向Zに3回目のラビング処理が行われる。この微小構造体31を用いて上記ラビング処理を行うことにより、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域を形成することができる。この2つの微小領域が形成されることにより、スプレイ−ベンド転移を誘起することができる。なお、ラビング方向Zは、対向基板であるCF基板4におけるラビング方向と同じ方向である。
【0024】
図4において、領域32は、2回目のラビング処理及び3回目のラビング処理に対して形成されるラビングの影部である。すなわち、2回目のラビング処理及び3回目のラビング処理においては、微小構造体31が障害となって、ラビング方向Y及びラビング方向Zのラビング処理が行われない領域である。したがって、領域32は、1回目のラビング処理のみが行われており、ラビング方向Xの配向が形成されている。
【0025】
また、領域33は、3回目のラビング処理に対して形成されるラビングの影部である。すなわち、3回目のラビング処理においては、微小構造体31が障害となって、ラビング方向Zのラビング処理が行われない領域である。したがって、領域33は、1回目のラビング処理及び2回目のラビング処理が行われている。
【0026】
このような3回のラビング処理を行うことにより、領域32が左ねじれホモジニアス配向領域(ホモジニアス−ツイスト領域)となり、領域33が右ねじれスプレイ配向領域(スプレイ−ツイスト領域)となる。そして、左ねじれホモジニアス配向領域と右ねじれスプレイ配向領域との間の境界線34が十分な長さだけ確保できる、及び/又は領域32を十分な広さだけ確保できることにより、効率良くスプレイ−ベンド転移を誘起することができる。なお、微小構造体31の形状は、上記領域32,33及び境界線34が形成されれば、特に制限はない。
【0027】
これらのラビング処理は、いずれもTFT基板3の配向制御層23である配向膜(例えば、ポリビニルアルコール系、ポリアミド系、あるいはポリイミド系などの高分子系配向膜)に対して行われる。まず、ラビング方向Xに1回目のラビング処理を行う。次いで、ラビング方向Yに2回目のラビング処理を行う。その後ラビング方向Zに3回目のラビング処理を行う。
【0028】
このようにして形成された2つの微小領域32,33及びその境界線34を有する配向状態に対して、所定の値よりも高い電圧を印加すると、安定なホモジニアス領域が一気にスプレイ側に広がってゆくため、表示画面全体がベンド状態に速やかに転移する。その理由は、電圧印加時にはねじれたスプレイ配向よりもねじれたホモジニアス配向の方がエネルギー的に安定になること、及び90°以上のねじれ状態を経由することにより、スプレイからベンドへの転移に要するエネルギー障壁が小さくなることによる。
【0029】
液晶表示装置においては、直流電流を長時間印加することによる問題、いわゆる焼き付きの問題があり、この問題を解決するために、一定周期で電圧の極性を反転させる反転駆動方式が採用されている。例えば、縦方向又は横方向の1ライン毎に極性を反転させるライン反転駆動方式や、1画素毎に極性を反転させるドット反転駆動方式が採用されている。このような反転駆動方式を採用すると、駆動の際に、隣接する画素間で極性の異なる電圧が印加される領域が存在することになる。したがって、上述したように、微小構造体31を設けることにより、スプレイ−ベンド転移を誘起する微小領域を形成したとしても、液晶分子に十分に効率良く電圧が印加されずにベンド転移が起こらない領域が生じることが考えられる。
【0030】
本発明者らは、このような反転駆動によりベンド転移に与える影響に着目し、一つの画素におけるスプレイ−ベンド転移誘起効果を隣接する画素に及ぼすことにより、すなわちスプレイ−ベンド転移誘起の伝播を起こさせることにより、反転駆動方式の種類に影響されることなく、全画素にわたってスプレイ−ベンド転移を誘起させることができることを見出し本発明をするに至った。
【0031】
本発明においては、隣接する画素にスプレイ−ベンド転移誘起効果を及ぼすために、TFT基板3の走査線又は信号線を反射領域に形成された反射電極で覆い、この反射電極を少なくとも部分的に隣接する画素に延在させている。そして、この延在部に微小構造体31を設けている。
【0032】
TFT基板3及びCF基板4との間の電界が2つの微小領域に印加できるような位置に、上述した微小構造体31を配置するためには、信号線19であるソース電極ライン上に設けることが好ましい。すなわち、図5に示すように、信号線19は、画素領域外に設けられるので、この信号線19の上方に微小構造体31を設けることにより、開口率に影響を及ぼさない。なお、図5は、画素電極22a,22bの上方に反射電極35a,35bをそれぞれ設けることにより、反射領域と透過領域とを区画している画素領域の一部を示す図である。各画素に反射電極を設けることにより、各画素に反射領域と透過領域とが形成される。
【0033】
画素の透過領域において信号線19上に微小構造体31を設ける場合、通常、信号線19の短絡や断線を防止するために絶縁膜が形成されているので、信号線19とCF基板4の電極との間で電圧降下が起こり、微小構造体を用いて形成された2つの微小領域に効率良く電界が印加されないことが考えられる。このため、図5に示すように、微小構造体31の直下に電極が形成されていることが好ましい。この電極は、反射電極と同電位であれば異なる電極であっても良い。図5においては、反射電極35を透過領域の信号線上まで延在するように形成している。すなわち、平面視において、TFT基板3の画素電極22及び信号線19を覆う電極35cを有し、微小構造体31が信号19線の上方に絶縁膜及び電極35cを介して設けられている構成となっている。
【0034】
図6(a)は、図5に示すX部の拡大図である。図6においては、隣接する画素電極22a,22b間の信号線19が隣接する画素に延在する延在部を有する反射電極35cで覆われている。そして、この延在部に微小構造体31が設けられている。図6(a)に示す場合においては、信号線に沿って透過領域まで延びるA画素の電極35cが延在部を構成しており、この延在部が隣接する画素であるB画素にまで延在している。
【0035】
このように、一つの画素の電極が隣接する画素まで延在し、その延在部に微小構造体31が設けられることにより、隣接する画素の領域にスプレイ−ベンド転移誘起効果を及ぼすことができる。この構成を各画素に設けることにより、スプレイ−ベンド転移誘起効果が伝播して全画素にわたってスプレイ−ベンド転移誘起効果が及び、その結果全画素にわたってスプレイ−ベンド転移を誘起させることが可能となる。
【0036】
図6(a)の構成では、延在部である電極35cがすべて信号線19を覆っているが、画素電極22bと反射電極35cとは異なる電位であるので、両者の間で電界が生じて隙間41で光漏れが起こる。このため、延在部に対応してCF基板4側においてブラックマトリクス層で遮光する必要がある。ブラックマトリクス層は画素電極と所定幅オーバラップさせるので、開口率の観点からブラックマトリクス層の領域をできるだけ少なくすることが好ましい。したがって、図6(a)に示すように、延在部35dを部分的に形成すること、すなわち、延在部35dが微小構造体31を設ける領域のみに形成されることが好ましい。この構成により、スプレイ−ベンド転移誘起効果を全画素にわたって伝播させると共に、開口率の低下を抑えることができる。
【0037】
なお、スプレイ−ベンド転移の誘起については、微小構造体を用いたラビング処理で形成される2つの微小領域が重要であり、これらの微小領域、特にホモジニアス−ツイスト領域に十分に電界が印加されることが必要となる。このため、平面視において、微小構造体31により形成される2つの微小領域のうち少なくとも前記ホモジニアス−ツイスト領域が延在部内に位置するように設けられることが好ましい。これにより、微小領域、特にホモジニアス−ツイスト領域に十分に電界が印加されることができ、スプレイ−ベンド転移の誘起を効率良く行うことができる。
【0038】
なお、延在部35c,35dの寸法、すなわち隣接する画素に延在させる寸法については、スプレイ−ベンド転移誘起効果が伝播できることを考慮して適宜設定することができる。
【0039】
透過領域においては、上述したようにスプレイ−ベンド転移誘起効果を伝播させる構成を採ることができる。一方、反射領域においては、図7に示すように、レジスト層上に反射電極35a,35bが形成されているために、段差部が設けられている。このように段差部が形成されていると、スプレイ−ベンド転移誘起効果が斜面Yを乗り上げて伝播される必要がある。したがって、傾斜面Yの傾斜角、基準面Hに対する反射電極を構成する層の立ち上がり角度θ2が緩やかであることが望ましい。しかしながら、この傾斜面Yの領域は表示に寄与しないために、開口率の観点からはできるだけ狭いことが好ましい。これらのことを考慮すると、立ち上がり角度θ2は、20°〜80°であることが好ましい。
【0040】
上記説明においては、それぞれの画素に対応して、少なくとも一つのスプレイ−ベンド転移の起点を形成する場合について説明しているが、これに限定されず、本発明は、液晶組成物の物性値(弾性定数、誘電異方性など)、パネルギャップ、液晶分子のプレティルト角、配向規制力などに応じて、配置密度を適宜変更することができる。例えば、転移の起点が3〜10画素当りに1個であっても良い。また、1画素当り2〜4個設けることにより、ベンド転移の起点が相対的に多く存在することになり、ベンド転移への時間を実質的に極めて短くすることができる。例えば、プレティルト角が大きい(4°又は5°〜15°)場合、スプレイ−ベンド転移が極めて起こり易くなるため、転移の起点の配置密度が10あるいはそれ以上の画素数当り1個でも有効となる。
【0041】
上記説明においては、TFT基板3に微小構造体31の配置位置を設定した場合について説明しているが、本発明の液晶表示装置においては、上述したTFT基板3上に設けた位置に対応するCF基板4の位置に微小構造体31を設けても良い。
【0042】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
(実施例1)
サブ画素に赤、緑、青のフィルタを形成した一般的なCF基板を作製し、寸法10μm×10μmで高さ4μmの微小構造体(柱スペーサ)をサブ画素に1個づつ透過領域の信号線19上に対応する領域(図6(a)における微小構造体31に対応する領域)に形成した。
【0043】
この柱スペーサは、透明ネガレジストCL−016S(TOK製)を100mJ/cm2で露光し、N−A3K(商品名)の0.5%水溶液で60秒現像し、その後300mJ/cm2でポスト露光し、220℃で1時間のポストベークを行うことにより形成した。
【0044】
このCF基板に対して、図4に示すように、ラビング方向Xに1回目のラビング処理を行い、ラビング方向Yに2回目のラビング処理を行い、ラビング方向Zに3回目のラビング処理を行った。3回のラビング処理すべてについてラビング強度を100cm(押し込み量0.2mm)とした。なお、ラビング方向Xとラビング方向Yとの間のなす角θ1は120°とした。
【0045】
次いで、ソース電極、ゲート電極、画素電極、TFT素子などを形成したTFT基板を通常の手法により作製した。TFT基板に対して、ラビング強度300cm(押し込み量0.6mm)で図4に示すラビング方向Zでラビング処理を行った。このTFT基板3には、図5に示すように、信号線19を絶縁膜を介して覆う延在部35cを有する反射電極35a,35bを形成し、画素毎に反射領域と透過領域を設けた。すなわち、反射電極35a,35bを図6(a)に示すように、隣接する画素に延在させた。また、反射領域における立ち上がり角度θ2(図7)を45°とした。
【0046】
次いで、CF基板に形成した柱スペーサを基板間のギャップ材としてCF基板と、TFT基板とを重ね合わせた。次いで、重ね合わせた基板をパネル単位にカットした後、両基板間に液晶材料(チッソ(株)製)を真空注入法により注入して実施例1のOCB液晶パネルを作製した。このOCB液晶パネルは、透過領域のパネルギャップが4μmであり、反射領域のパネルギャップが2μmであった。
【0047】
このようにして得られたOCB液晶パネルについて、画素電極、ソース電極ラインに5Vの電圧をライン反転駆動により印加してスプレイ−ベンド転移が誘起されるかどうかを光学顕微鏡により調べた。その結果、OCB液晶パネルにおいて、電圧印加直後に、CF基板のポストスペーサ形成領域と画素電極スペースが交差する箇所からスプレイ−ベンド転移が発生し、約0.5秒でパネル全画素がベンド配向へと転移した。
【0048】
(実施例2)
反射電極を図6(b)に示す形状(延在部35dを部分的に設けた形状)にすること以外実施例1と同様にして、実施例2のOCB液晶パネルを作製した。このOCB液晶パネルについて、画素電極、ソース電極ラインに5Vの電圧をライン反転駆動により印加してスプレイ−ベンド転移が誘起されるかどうかを光学顕微鏡により調べた。その結果、OCB液晶パネルにおいて、電圧印加直後に、CF基板のポストスペーサ形成領域と画素電極スペースが交差する箇所からスプレイ−ベンド転移が発生し、約1秒でパネル全画素がベンド配向へと転移した。
【0049】
(実施例3)
反射領域における立ち上がり角度θ2を20°、30°、70°、80°にすること以外は上記と同様にして、実施例3のOCB液晶パネルを作製した。このOCB液晶パネルについて、それぞれの画素電極、ソース電極ラインに5Vの電圧をライン反転駆動により印加してスプレイ−ベンド転移が誘起されるかどうかを光学顕微鏡により調べた。その結果、すべてのOCB液晶パネルにおいて、電圧印加直後に、CF基板のポストスペーサ形成領域と画素電極スペースが交差する箇所からスプレイ−ベンド転移が発生し、約0.5秒でほぼパネル全画素がベンド配向へと転移した。
【0050】
(実施例4)
反射電極の形状を図8(a)に示す形状、反射電極35aが隣接する画素の画素電極22bまで延在する形状にすること以外は上記と同様にしてOCB液晶パネルを作製した。また、反射電極の形状を図8(b)に示す形状、反射電極35a,35bが信号線19をそれぞれ部分的に覆う形状にすること以外は上記と同様にしてOCB液晶パネルを作製した。また、反射電極の形状を図8(c)に示す形状、反射電極35aが信号線19を覆わない形状にすること以外は上記と同様にしてOCB液晶パネルを作製した。
【0051】
これらのOCB液晶パネルについて、それぞれの画素電極、ソース電極ラインに5Vの電圧をライン反転駆動により印加してスプレイ−ベンド転移が誘起されるかどうかを光学顕微鏡により調べた。その結果、図8(a)に示す形状の反射電極を有するOCB液晶パネルにおいては、電圧印加直後に、CF基板のポストスペーサ形成領域と画素電極スペースが交差する箇所からスプレイ−ベンド転移が発生し、約0.5秒でほぼパネル全画素がベンド配向へと転移した。一方、図8(b),(c)に示す形状の反射電極を有するOCB液晶パネルにおいては、スプレイ−ベンド転移が伝播せず、パネル全画素にはベンド配向に転移しなかった。
【0052】
上述したように、本発明の液晶表示装置においては、一つの画素の電極が隣接する画素まで延在し、その延在部に微小構造体が設けられるので、隣接する画素の領域にスプレイ−ベンド転移誘起効果を及ぼすことができる。この構成を各画素に設けることにより、スプレイ−ベンド転移誘起効果が伝播して全画素にわたってスプレイ−ベンド転移誘起効果が及び、その結果全画素にわたってスプレイ−ベンド転移を誘起させることが可能となる。
【0053】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態においては、横方向に隣接する画素間における関係について説明しているが、本発明は縦方向に隣接する画素間における関係についても同様に適用することができる。また、上記実施の形態で説明した数値や材質、液晶表示装置の構成などについては特に制限はない。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示す液晶表示装置の断面図である。
【図3】図1に示す液晶表示装置のアクティブマトリクス基板を示す拡大図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の微小構造体を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の微小構造体の配置位置を説明するための図である。
【図6】(a),(b)は、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の微小構造体の配置位置を説明するための平面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の反射電極構造を説明するための平面図である。
【図8】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の効果を説明するための電極配置を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
3,4 基板
5 液晶層
11 TFT
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁膜
14 半導体層
15 ソース電極
16 ドレイン電極
17 絶縁層
18 走査線
19 信号線
22,22a,22b 画素電極
23,24 配向制御層
25 ブラックマトリクス層
26R,26G カラーフィルタ層
27 対向電極
31 微小構造体
32,33 領域
34 境界線
35a,35b,35c 反射電極
35d 延在部
41 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素電極、配向制御層、及び前記画素電極に電気的に接続する能動素子を有する第1の基板と、前記第1の基板に対向するように配置された第2の基板と、前記第1及び第2の基板間に挟持された正の誘電異方性を有する液晶層と、を具備し、各画素毎に透過領域及び反射領域を有する液晶表示装置であって、前記第1の基板の配向制御層は、電圧印加時に液晶分子のねじれ配列が互いに異なるねじれ構造を持つ2つの微小領域を形成するような微小構造体を有しており、前記第1の基板は、隣接する画素電極間に前記能動素子の配線を有しており、前記透過領域の前記配線が前記反射領域に形成された反射電極で覆われており、前記反射電極は、平面視において、隣接する画素に延在する延在部を有しており、前記微小構造体が前記延在部に設けられていることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記延在部は、前記微小構造体を設ける領域のみに形成されていることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記透過領域と前記反射領域との間の境界部において、前記反射領域を構成する層の立ち上がり角度が20°〜80°であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記2つの微小領域がホモジニアス−ツイスト領域及びスプレイ−ツイスト領域であり、前記微小構造体は、平面視において少なくとも前記ホモジニアス−ツイスト領域が前記延在部内に位置するように設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−175839(P2008−175839A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6498(P2007−6498)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】