説明

液晶表示装置

【課題】従来よりも紫外線照射量を増大させることなく、液晶層に残存する重合性化合物の量が十分に低減された、PSA技術を用いた液晶表示装置を提供する。
【解決手段】 本発明の液晶表示装置は、ネマチック液晶材料を含む液晶層と、液晶層を介して互いに対向する一対の電極と、一対の電極と液晶層との間にそれぞれ設けられた一対の配向膜と、一対の配向膜の液晶層側の表面のそれぞれに形成された光重合物から構成された配向維持層であって、液晶層に電圧を印加していないとき、液晶層の液晶分子のプレチルト方向を規定する配向維持層とを有している。ネマチック液晶材料は、ターフェニル環構造を有する液晶性化合物を必須成分として含み、液晶層は、光重合物の原料である光重合性化合物の一部をさらに含み、光重合性化合物のネマチック液晶材料に対する含有比率は0.015モル%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関し、特に、Polymer Sustained Alignment Technologyを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、液晶層に印加する電圧によって液晶分子の配向方向を変化させることを利用して表示を行う。液晶層に電圧を印加しない状態の液晶分子の配向方向(プレチルト方向)は、従来、配向膜によって規定されていた。例えば、TNモードの液晶表示装置においては、水平配向膜にラビング処理を施すことによって、液晶分子のプレチルト方位を規定していた。ここで、プレチルト方位は、電圧を印加していない液晶層内の液晶分子の配向方向を示すベクトルの内、液晶層面内(基板面内)における成分を指す。なお、配向膜と液晶分子との成す角であるプレチルト角は、主に配向膜と液晶材料との組み合わせで決まる。プレチルト方向はプレチルト方位とプレチルト角によって表される。TNモードの液晶表示装置では、液晶層を介して対向する一対の配向膜によって規定されるプレチルト方位は互いに直交するように設定され、プレチルト角は1〜5°程度である。
【0003】
近年、液晶分子のプレチルト方向を制御する技術として、Polymer Sustained Alignment Technology(以下、「PSA技術」という)が開発された(特許文献1、2および3参照)。PSA技術は、液晶材料中に少量の重合性材料(例えば光重合性モノマー)を混入しておき、液晶セルを組み立てた後、液晶層に所定の電圧を印加した状態で重合性材料に活性エネルギー線(例えば紫外線)を照射し、生成される重合体によって、液晶分子のプレチルト方向を制御する技術である。重合体が生成されるときの液晶分子の配向状態が、電圧を取り去った後(電圧を印加しない状態)においても維持(記憶)される。従って、PSA技術は、液晶層に形成される電界等を制御することによって、液晶分子のプレチルト方位およびプレチルト角度を調整することができるという利点を有している。また、PSA技術はラビング処理を必要としないので、特に、ラビング処理によってプレチルト方向を制御することが難しい垂直配向型の液晶層を形成するのに適している。特許文献1、2および3の開示内容の全てを参考のために本明細書に援用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−357830号公報
【特許文献2】特開2003−307720号公報
【特許文献3】特開2006−78968号公報
【特許文献4】特開2006−169518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PSA技術では、紫外線の照射量が不足すると、未反応の光重合性化合物が液晶層内に残存するという問題がある。残存した光重合性化合物は、液晶表示装置の使用時にバックライトの光や熱などによって徐々に反応し、使用時の液晶分子の配向状態が維持(記憶)されることがある。この現象が起こると、画像の焼き付きとして現れることがある。一般の液晶表示装置で問題となる焼き付きは液晶層にDC成分が残留するために起こることから「DC焼き付き」と言われるのに対し、PSAに特有の上記の焼き付きを「ポリマー焼き付き」ということにする。
【0006】
一方、紫外線は、液晶材料や配向膜などの有機材料にダメージを与え、信頼性を低下させるおそれがあるので、照射量をむやみに増加させるわけにはいかない。また、紫外線の照射時間が長くなるとそれだけタクトタイムが長くなり、製造コストの増大につながる。
【0007】
特許文献3には、残存モノマー量は0.02mass%以下とすることが好ましいと記載されているが、液晶表示パネルを用いた実施例6(表2)では、40J/cm2を超える紫外線を照射しなければ残存モノマー量を0.017mass%まで低減させることはできない。また、2回目の紫外線照射の照射量を30J/cm2から40J/cm2まで増大させても、残存モノマー量は、0.02mass%から0.017mass%に減少しているに過ぎないことから、信頼性や製造コストを考慮すると、紫外線照射量の増大による残存モノマー量の低減には限界があることがわかる。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、従来よりも紫外線照射量を増大させることなく、液晶層に残存する重合性化合物の量が十分に低減された、PSA技術を用いた液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液晶表示装置は、ネマチック液晶材料を含む液晶層と、前記液晶層を介して互いに対向する一対の電極と、前記一対の電極と前記液晶層との間にそれぞれ設けられた一対の配向膜と、前記一対の配向膜の前記液晶層側の表面のそれぞれに形成された光重合物から構成された配向維持層であって、前記液晶層に電圧を印加していないとき、前記液晶層の液晶分子のプレチルト方位を規定する配向維持層とを有し、前記液晶層に電圧を印加していないとき、前記液晶層の液晶分子は、前記配向維持層によってプレチルト方位が規定されており、前記ネマチック液晶材料は、ターフェニル環構造を有する液晶性化合物を必須成分として含み、前記液晶層は、前記光重合物の原料である光重合性化合物の一部をさらに含み、前記光重合性化合物の前記ネマチック液晶材料に対する含有比率は0.015モル%未満であることを特徴とする。
【0010】
ある実施形態において、前記ネマチック液晶材料に含まれる前記ターフェニル環構造を有する液晶性化合物の含有率は、1モル%以上25モル%以下の範囲内にある。
【0011】
ある実施形態において、前記光重合性化合物は、液晶骨格を有するジアクリレートモノマーまたは液晶骨格を有するジメタクリレートモノマーを含む。
【0012】
ある実施形態において、前記一対の配向維持層は粒径が50nm以下の前記光重合物の粒子を含む。
【0013】
ある実施形態において、前記一対の配向膜は垂直配向膜であって、前記ネマチック液晶材料は負の誘電異方性を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液晶表示装置は、液晶層に含まれるネマチック液晶材料がターフェニル環構造を有する液晶性化合物を必須成分として含んでいる。ターフェニル環構造を有する液晶性化合物は、液晶層中における光重合性化合物の重合反応の効率を上昇させる作用を有するので、最終的に得られる液晶表示装置の液晶層中に残存する光重合性化合物のネマチック液晶材料に対する含有比率は0.015モル%未満とすることができる。また、紫外線の照射量を従来よりも増大させる必要がないので、信頼性および製造コストの点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】液晶表示装置100の1つの画素の断面図であり、(a)は黒表示状態(電圧無印加時)、(b)は白表示状態(電圧印加時)の液晶分子42aの配向状態を模式的に示す図である。
【図2】本発明による実施形態の液晶表示装置が有する配向維持層のSEM像を示す図である。
【図3】ネマチック液晶材料の組成と残存モノマー率との関係を説明するためのグラフであり、縦軸はモノマー残存率であり、横軸は紫外線を照射したときの液晶セルの温度である。
【図4】実験に用いたネマチック液晶材料LC−5、6、7を構成する液晶性化合物、化学構造式、組成比率と誘電異方性(Δε)を表の形式で示す図である。
【図5】ターフェニル系液晶性化合物の含有率とモノマー残存率との関係を示すグラフである。
【図6】実験に用いたネマチック液晶材料LC−9を構成する液晶性化合物、化学構造式、組成比率と誘電異方性(Δε)を表の形式で示す図である。
【図7】ターフェニル系液晶性化合物の含有率と電圧保持率(初期値および紫外線照射後)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明による実施形態の液晶表示装置を説明する。本発明は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
[PSA技術を用いた液晶表示装置]
まず、図1および図2を参照して、PSA技術を用いた液晶表示装置の構成と動作を説明する。
【0018】
図1は本発明による実施形態の液晶表示装置100の1つの画素の構造を模式的に示す断面図であり、図1(a)は黒表示状態(電圧無印加時)、図1(b)は白表示状態(電圧印加時)の液晶分子42aの配向状態を併せて示している。以下では、ノーマリブラックモードで表示を行う垂直配向型の液晶表示装置を例に本発明による実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
液晶表示装置100は複数の画素を有し、一対の基板11および21と、これらの外側に設けられクロスニコルに配置された一対の偏光板(不図示)とを有しノーマリブラックモードで画像を表示する液晶表示装置である。各画素は、誘電異方性が負のネマチック液晶材料(液晶分子42a)を含む液晶層42と、液晶層42を介して互いに対向する画素電極12および対向電極22とを有している。画素電極12と液晶層42との間および対向電極22と液晶層42との間には、一対の垂直配向膜(不図示)が設けられている。配向膜の液晶層42側の表面のそれぞれには、光重合物から構成される一対の配向維持層34aおよび34bが形成されている。配向維持層34aおよび34bは、液晶材料に予め混合しておいた光重合性化合物を、液晶セルを作製した後、液晶層42に電圧を印加した状態で、重合することによって形成されたものである。
【0020】
液晶分子42aは、光重合性化合物を重合するまでは垂直配向膜(不図示)によって配向規制されており、基板面に対して垂直に配向している。白表示電圧を印加すると、図1(b)に示すように、画素電極12のエッジ部に生じる斜め電界と、対向電極22の開口部22aの近傍に生じる斜め電界とに従って所定の方向に傾斜した配向状態をとる。
【0021】
白表示電圧を印加した状態で形成された配向維持層34aおよび34bは、図1(a)に示すように、液晶層42に白表示電圧を印加した状態の液晶分子42aの配向を、電圧を取り去った後(電圧を印加しない状態)においても維持(記憶)するように作用する。
【0022】
なお、垂直配向膜に最近接している液晶分子42aは強いアンカリング作用を受けているので、電圧を印加した状態であっても、垂直配向膜の表面に対して垂直に配向している。従って、垂直配向膜上に形成される配向維持層34aおよび34bによって固定される液晶分子42aは、図1(a)に模式的に示したように垂直方向から僅か(1〜5°)に傾いた程度(プレチルト角で表現すると85°〜89°)であり、図1(a)と図1(b)とを比較すればわかるように、配向維持層34aおよび34bによって固定される液晶分子42aの配向は電圧を印加してもほとんど変化することが無い。
【0023】
本発明による実施形態の液晶表示装置100は、配向維持層34aおよび34bを有するので、図1(a)に示すように、電圧無印加時においても、所定の方向にプレチルトした配向状態を呈する。このときの配向状態は、図1(b)に示す白表示状態(電圧印加時)の液晶分子42aの配向状態と整合するものである。その結果、安定な配向状態が得られるとともに、液晶分子の応答特性などを改善することができる。
【0024】
ここでは、液晶分子42aの配向方向を制御するために対向電極22に開口部(導電層がない部分)22aを形成した例を示したが、配向維持層34aおよび34bを形成するときの液晶分子42aの配向方向を制御する方法はこれに限定されるものではない。例えば特許文献1に記載されているように、誘電体突起や電極スリットなどを適宜設けることによって、液晶分子42aの配向方位が異なる4つの液晶ドメインを形成することができる。
【0025】
配向維持層34aおよび34bは、例えば以下のようにして形成することができる。ここでは、特許文献3(実施例6)に記載されているのと同様の方法で液晶表示パネルを作製した。
【0026】
誘電異方性が負のネマチック液晶材料に対して0.1mass%以上0.5mass%以下の光重合性化合物を混合した材料を用いて、液晶表示装置100のための液晶表示パネルを作製する。なお、光重合性化合物としては、アクリレート基、メタクリレート基やビニル基などのラジカル重合が可能な官能基を有するモノマーまたはオリゴマーを用いることが好ましい。反応性の観点から、アクリレート基またはメタクリレート基を有するものがさらに好ましく、そのなかでも多官能のものが好ましい。ここでは、光重合性化合物としては液晶骨格を有するジアクリレートまたはジメタクリレートのモノマーを用いる。液晶骨格を有するモノマーを用いることによって液晶分子の配向をより安定に維持することができる。特に特許文献2に記載されている環構造または縮環構造にアクリレート基またはメタクリレート基が直接結合したものが好ましい。
【0027】
この液晶表示パネルの液晶層(上記モノマーを含む)に、所定の電圧を印加した状態で、UV光(例えば波長365nmのi線、約20mW)を約20J/cm2照射する。液晶層に電圧を印加すると、対向電極22と画素電極12との間に生成される電界によって、液晶分子42aは所定の配向状態をとる。UV照射によって光重合性化合物が重合し光重合物が生成される。光重合物は、垂直配向膜上に、上記の液晶分子42aの配向状態を固定する配向維持層34aおよび34bを形成する。白表示電圧以上の所定の電圧を印加しながら光重合性化合物を光重合させて配向維持層を形成するための一連の工程を「PSA処理」ということがある。
【0028】
図2を参照して配向維持層34aおよび34bの一例について、その構造を説明する。図2に示したSEM像は、上記のようにして作製された液晶表示パネルの試料を分解後、液晶材料を除去し、溶剤で洗浄した表面をSEMで観察したものである。
【0029】
図2からわかるように、配向維持層は粒径が50nm以下の光重合物の粒子を含んでいる。光重合物は配向膜の表面の全面を覆っている必要は必ずしもなく、配向膜の一部の表面が露出されていてもよい。液晶層内に形成された電界に応じて配向した液晶分子が光重合物によって固定され、電界が無い状態でも配向が維持される。垂直配向膜上の配向維持層が形成された後は、配向維持層が液晶分子のプレチルト方向を規定する。
【0030】
なお、配向維持層の存在は、SEMの他、AFMやSIMSなどの表面分析法を用いて確認することができる。
【0031】
[ターフェニル環構造を有する液晶性化合物]
本発明者は、ネマチック液晶材料がターフェニル環構造(特に説明しない限りパラ体を指す。)を有する液晶性化合物(以下、「ターフェニル系液晶性化合物」という。)を含んでいる場合に光重合性化合物の残存量が低減されることを見出し、本発明に想到した。以下に、実験例を示して本発明を詳細に説明する。なお、特許文献4は、オプショナルな成分としてターフェニル系液晶性化合物を含む誘電異方性が負のネマチック液晶材料を開示しているが、以下の知見については全く開示も示唆もしていない。
【0032】
図3を参照して、ネマチック液晶材料の組成と残存モノマー率との関係を説明する。ここで用いた液晶材料LC−1は誘電異方性(Δε)が零のネマチック液晶材料であり、LC−2〜LC−4は、LC−1(母材)に対して、種類の異なる液晶性化合物(1種)を15mass%混合したものである。LC−2はターフェニル系液晶性化合物Aを混合したものであり、LC−3はターフェニル系液晶性化合物Bを混合したものであり、LC−4はアルケニル系液晶性化合物を混合したものである。
【0033】
これらLC−1〜4の液晶材料に、光重合性化合物として、液晶骨格を有するジメタクリレートモノマーを0.3mass%混合して、PSA用液晶材料を調製した。なお、光開始剤は用いていない。
【0034】
得られたPSA用液晶材料を用いて液晶セル(セルギャップ:3.25μm)を作製し、20℃、30℃、40℃および50℃の各温度で、約23mW/cm2の紫外線(365nm)を約400mJ/cm2照射した。この後、各液晶セルを分解し、液晶材料を少量採取し、アセトンで希釈した後、ガスクロマトグラフィ/質量分析(GC/MS)法によって残存モノマーを定量した。図3に示したグラフの縦軸は残存モノマー量を初期モノマー量に対する百分率で示したモノマー残存率である。横軸は、紫外線を照射したときの液晶セルの温度である。なお、ジメタクリレートモノマーに代えてジアクリレートモノマーを用いても同様の結果が得られることを実験的に確認している。
【0035】
図3から明らかなように、アルケニル系液晶性化合物を含むLC−4のモノマー残存率は母材であるLC−1と大差が無いのに対して、ターフェニル系液晶性化合物を含むLC−2およびLC−3は、LC−1に比べてモノマー残存率が小さい。このことから明らかなように、ターフェニル系液晶性化合物は、特異的に、光重合性化合物の反応に寄与し、残存モノマーの量を低減する効果を発揮する。この効果はターフェニル系液晶性化合物の種類(上記AまたはB)によらずほぼ同程度である。また、図3からわかるように、ターフェニル系液晶性化合物を混合することによる効果は、紫外線を照射する温度が高い方が顕著になる。
【0036】
次に、ターフェニル系液晶性化合物の含有率とモノマー残存率との関係を検討した結果を説明する。
【0037】
図4に実験に用いたネマチック液晶材料を構成する液晶性化合物、化学構造式、組成比率と誘電異方性(Δε)を示す。液晶材料LC−5はターフェニル系液晶性化合物を含まず、液晶材料LC−6はターフェニル系液晶性化合物Aを1.0mass%含み、液晶材料LC−7はターフェニル系液晶性化合物Aを12mass%、ターフェニル系液晶性化合物Bを2.5mass%含む。
【0038】
図4に示した液晶材料LC−5〜7に、さらに、ターフェニル系液晶性化合物Cを21.0mass%含む液晶材料LC−8を加えた4種類の液晶材料に、光重合性化合物として、液晶骨格を有するジメタクリレートモノマーを0.3mass%混合して、PSA用液晶材料を調製した。光開始剤は用いていない。得られたPSA用液晶材料を用いて液晶セルを作製し、20℃、30℃、40℃および50℃の各温度で、約23mW/cm2の紫外線(365nm)を約400mJ/cm2照射した。この後、各液晶セルを分解し、液晶材料を少量採取し、アセトンで希釈した後、GC/MS法で残存モノマーを定量した。図5に示したグラフの縦軸は残存モノマー量を初期モノマー量に対する百分率で示したモノマー残存率である。横軸は、ターフェニル系液晶性化合物の含有率である。なお、ジメタクリレートモノマーに代えてジアクリレートモノマーを用いても同様の結果が得られることを実験的に確認している。
【0039】
図5から明らかなように、ターフェニル系液晶性化合物の含有率が大きいほどモノマー残存率が小さい。また、ターフェニル系液晶性化合物を1.0mass%含有するだけで残存モノマーの量を低減する効果を発揮することが分かる。また、図5からわかるように、ターフェニル系液晶性化合物を混合することによる効果は、紫外線を照射する温度が高い方が顕著になる。さらに、図5のLC−7(ターフェニル系液晶性化合物Aの含有率12mass%、ターフェニル系液晶性化合物Bの含有率2.5mass%)および図3のLC−2(ターフェニル系液晶性化合物Aの含有率15.0mass%)およびLC−3(ターフェニル系液晶性化合物Bの含有率15.0mass%)のモノマー残存率はほぼ同程度であり、ターフェニル系液晶性化合物以外の液晶性化合物の種類に依存しないことが分かる。
【0040】
次に、残存モノマー量とポリマー焼き付きとの関係を検討した結果を説明する。ここでは液晶材料としてターフェニル系液晶性化合物(ターフェニル系液晶性化合物A)を1.0mass%含むLC−6と、ターフェニル系液晶性化合物を含まない液晶材料LC−9とを用いた。図6に、LC−9を構成する液晶性化合物、化学構造式、組成比率と誘電異方性(Δε)を示す。
【0041】
なお、ここで用いた種々のネマチック液晶材料の平均分子量とモノマーの分子量はほぼ等しく、mass%の値はそのままモル%の値として読み替えられる。ポリマー焼き付きや電圧保持率への影響について、液晶材料中に残存するモノマーの数が重要であると考えられるので、モル%で表現することがある。
【0042】
まず、LC−6に液晶骨格を有するジメタクリレートモノマーを0.3mass%混合して、PSA用液晶材料を調製した。光開始剤は用いていない。上記PSA用液晶材料を用いてTFT型液晶表示パネルを作製した。垂直配向膜としてはJSR社製JALS−204を用いた。
【0043】
液晶層(PSA用液晶材料)に電圧を印加しない状態で、紫外線(365nm、約23mW/cm2)を約35J/cm2照射した。紫外線を照射時の液晶表示パネルの温度は30℃とした。この液晶表示パネルを分解し、先と同様にGC/MS法によって残存モノマーを定量した。結果を表1に示す。残存モノマー量はネマチック液晶材料に対するmass%(=モル%)である。なお、液晶分子を配向させるための電圧印加の有無は、残存モノマー量に影響しない。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から明らかなように、ターフェニル系液晶性化合物を僅か1.0mass%加えるだけで、約35J/cm2の紫外線の照射によってTFT型の液晶表示パネルにおける残存モノマー量を0.010mass%(=0.010モル%)にまで低減できる。
【0046】
作製した液晶セルにエージング処理を施した。エージング処理は、60℃の恒温槽内で液晶セルにバックライト上で白黒のチェッカーパターンを連続240時間表示させることによって行った。このエージング処理後、液晶層に電圧を印加しない状態で60℃の恒温槽内に液晶セルを240時間静置することによって電荷を完全に除去した。この後、暗室環境下にて、表示面全体に特定の中間調を表示させた状態(べた表示状態)で、裸眼目視にてチェッカーパターンの焼き付き有無を判定することにより、ポリマー焼き付きの有無を評価した。なお、対向電極の電位を変化させても表示に変化が生じなかったことから、DC焼き付きでないことを確認した。
【0047】
このような評価を行ったところ、LC−6を用いた液晶表示パネルではポリマー焼き付きは見られず、LC−9を用いた液晶表示パネルではポリマー焼き付きが見られた。
【0048】
次に、表1の結果に対し、ポリマー焼き付きを引き起こす境界となる残存モノマー量を把握するために、LC−7を用いてTFT型液晶表示パネルを作製し、紫外線(365nm、約23mW/cm2)の照射量を変えて、残存モノマー量の異なるサンプルを作製した。紫外線照射時の液晶表示パネルの温度は30℃とした。垂直配向膜としてはJSR社製JALS−204を用いた。TFT型液晶表示パネルとしては、画素開口率が54%で、画素電極とバスラインとの間に紫外線透過率が約80%の層間絶縁膜を有するものを用いた。それぞれの条件で複数個のサンプルを用意し、その一部のサンプルについて残留モノマー量を定量し、残りのサンプルについてポリマー焼き付きを評価した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2の結果から、ポリマー焼き付きの発生を抑制するためには、残存モノマー量を0.015mass%(=モル%)未満とする必要があることがわかる。また、上述したように、ターフェニル系液晶性化合物を含まないLC−9を用いた場合は、35J/cm2の紫外線を照射しても、残留モノマー量は0.022mass%までしか低減できないことから、ターフェニル系液晶性化合物をネマチック液晶材料に添加することによる効果が大きいことが分かる。
【0051】
なお、ここで例示したように、光重合性化合物をネマチック液晶材料に対して0.3mass%を混合した場合には、ターフェニル系液晶性化合物を1mass%以上含有させることが好ましいが、光重合性化合物の量が0.3mass%未満のときは、ターフェニル系液晶性化合物の含有率は1mass%未満でも効果が得られる。ネマチック液晶材料に混合する光重合性化合物の量は、ネマチック液晶材料に対して0.10mass%以上0.50mass%以下であることが好ましい。0.10mass%よりも少ないと、液晶分子の配向を維持する効果が十分に発揮されない場合があり、0.50mass%を超えると残留モノマー量を十分に低減できないことがある。
【0052】
また、ネマチック液晶材料に混合するターフェニル系液晶性化合物の含有量の上限は特に制限されるものではないが、電圧保持率(Voltage Holding Ratio:VHR)の観点から、35mass%を超えないことが好ましく、25mass%以下であることが更に好ましい。
【0053】
ターフェニル系液晶性化合物の含有率が14.5mass%(上記LC−7)、25.0mass%、35.0mass%および44.0mass%のネマチック液晶材料を用いて、液晶セル(セルギャップ:3.25μm)を作製した。光重合性モノマーは添加していない。液晶セルを作製直後の電圧保持率と、紫外線(365nm)を24J/cm2照射後の電圧保持率を求めた。電圧保持率の測定は、液晶セルを70℃の恒温槽内に静置し、振幅電圧が±5Vで周波数が30Hzの矩形波を印加して行った。なお電圧印加期間は60マイクロ秒とし、電圧印加開始から16.7ミリ秒後までの保持電圧の積分値が、保持電圧が5Vであった場合に対して示す百分率を電圧保持率とした。初期値と紫外線照射後の電圧保持率を図7に示す。
【0054】
図7から分かるように、ターフェニル系液晶性化合物の含有率が増加するにつれて電圧保持率が低下する。実際の使用環境での信頼性を確保するためには99.0%以上の電圧保持率が要求されており、図7の結果から、ターフェニル系液晶性化合物の含有率は35mass%を超えないことが好ましく、25mass%以下に収めることがさらに好ましい。
【0055】
上述したように、ネマチック液晶材料に含まれるターフェニル系液晶性化合物は、光重合反応(ラジカル反応)の効率(反応速度)を特異的に上昇させる作用を有し、最終的に得られる液晶表示装置の液晶層中に残存する光重合性化合物のネマチック液晶材料に対する含有比率を0.015モル%未満とすることができる。また、紫外線の照射量を従来よりも増大させる必要がなく、むしろ低減できるので、信頼性および製造コストの点でも有利である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、携帯電話用、テレビ用、ゲーム用、各種モニタ用の液晶表示装置などに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0057】
11、21 基板
12 画素電極
22 対向電極
22a 開口部
34a、34b 配向維持層
42 液晶層
42a 液晶分子
100 液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネマチック液晶材料を含む液晶層と、
前記液晶層を介して互いに対向する一対の電極と、
前記一対の電極と前記液晶層との間にそれぞれ設けられた一対の配向膜と、
前記一対の配向膜の前記液晶層側の表面のそれぞれに形成された光重合物から構成された配向維持層であって、前記液晶層に電圧を印加していないとき、前記液晶層の液晶分子のプレチルト方向を規定する配向維持層と
を有し、
前記ネマチック液晶材料は、ターフェニル環構造を有する液晶性化合物を必須成分として含み、
前記液晶層は、前記光重合物の原料である光重合性化合物の一部をさらに含み、前記光重合性化合物の前記ネマチック液晶材料に対する含有比率は0.015モル%未満である、液晶表示装置。
【請求項2】
前記ネマチック液晶材料に含まれる前記ターフェニル環構造を有する液晶性化合物の含有率は、1モル%以上25モル%以下の範囲内にある、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記光重合性化合物は2以上の官能基を有する、請求項1または2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記光重合性化合物は、液晶骨格を有するジアクリレートモノマーまたは液晶骨格を有するジメタクリレートモノマーを含む、請求項1から3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記一対の配向維持層は粒径が50nm以下の前記光重合物の粒子を含む、請求項1から4のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項6】
クロスニコルに配置された一対の偏光板をさらに有する、請求項1から5のいずれかに記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−177935(P2012−177935A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−112658(P2012−112658)
【出願日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【分割の表示】特願2009−537907(P2009−537907)の分割
【原出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】