説明

液晶表示装置

【目的】LCDの中間調表示における視野角特性を高める。
【構成】シート面に対し傾斜した光軸37を有する位相差フィルム2を出射光側に設ける。
【効果】偏光板1を透過する光の強度が光の方向c,dによらず均一化される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は液晶表示装置に関し、特に階調表示における表示特性の視野角による変動が小さい液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】液晶表示装置(liquid crystal display:LCD)は平行して相対する2枚の透明電極間に液晶物質を挟持し、電極間の印加電圧を変動する事によって液晶分子の配列状態を制御し、その液晶配列状態によって光の透過或は反射を制御して画面表示を実現する原理に基づいて動作している。
【0003】このような液晶表示装置としては例えば電圧オフ状態で液晶分子の配向の方向(以下、液晶ディレクタという)が電極平面に対して平行で、かつ電極の両側における液晶ディレクタの間での角度が90°捩れたツイステッドネマティック(TN)モード、180〜270°捩れたスーパーツイステッドネマティック(STN)モードなどが代表的である。
【0004】透明電極を担持する透明基板(通常はガラス板)の外側には2枚の偏光板が設置され、その相互の偏光軸の成す角度は通常0°或は90°である。入射光は入射光側の偏光板によって偏光化された後液晶内部を通過するが、液晶は印加電圧に対応してその配列状態が変化しており、配列状態に対応して通過光の偏光状態が変化する。階調表示においては印加電圧はしきい値電圧(Vth)から飽和電圧(Vsat)の間で連続的に任意の値をとり、その電圧に応じて液晶分子は連続的にその分子配向の向きを変化させる。階調表示においては中間調の濃度表示を用いるが、この時液晶分子のディレクタは電極平面に対して斜めの角度(チルト角:θ°)をとっている。従って基板に対して入射角0°で入射した光線は液晶層内で液晶分子と角度(90−θ)°を成して進行する。この状態を示したのが図5である。
【0005】液晶分子41はそのディレクタ方向42を光軸とした一軸性の屈折率異方性を有しており、従って配向ベクトルと光との成す角度に応じて入射した偏光は常光成分(屈折率no)と異常光成分(屈折率ne)とに別れて進行する。
【0006】液晶層を通過した段階で常光成分と異常光成分との間には屈折率noとneとの違いに応じた位相差(リターデーション)δが生じており、この位相差δに基づいて光の振動ベクトルが楕円状に回転する楕円偏光状態になっている。こうして生じた楕円偏光状態の出射光が出射側の偏光板に入ると、楕円偏光中の変更軸方向成分のみが偏光板を通過するため、楕円偏光の状態に応じて出射光の偏光板透過率は変化する。電極間の印加電圧を変えると液晶分子の配向ベクトルは変化し、それによって液晶層通過後の光の楕円偏光状態は変化し、そのため出射側偏光板通過後の出射光強度は変化する。こうして印加電圧に応じて透過光強度を変化させる事ができる。
【0007】このような印加電圧を連続的に変化させる階調表示方式と異なり、印加電圧としてVth及びVsatの二値のみを用いて光透過率を二段階のみとするのが非階調表示である。
【0008】液晶表示装置の階調表示においては、非階調表示に比べて濃淡が表現できる、三原色をそれぞれ階調表示して組み合わせる事により色彩表現が豊富になる(フルカラー表示)等の特徴を有しており、液晶表示素子の表現可能性を大きく向上させるものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】LCDによって階調表示を行った場合、同一の印加電圧を加えてもLCDを見る目の位置の違いによってその明るさは変化する、という問題点があった。その原理を図5を以って説明する。
【0010】液晶層に入射角α°で入射した偏光fはチルト角θ°の液晶分子と角度(90−α−θ)°を成して進行する。こうして液晶層を通過した光の楕円偏光状態は入射角αによって異なる。それは角度(90−α−θ)°の違いによって異常光の屈折率neが異なる事、及び角度αによって液晶層を通過する距離d/cosα(dは相対する電極間の距離を表す)が異なる事の二つの理由によって通過後の光の楕円偏光状態が異なり、従って出射光側偏光板に於ける透過率が異なるからである。このため階調表示した場合見る目の位置によってLCDの明るさは変化し、これは表示画質に次のような不利な影響を与える。
【0011】(1)明るく表示したい部分と暗く表示したい部分の明るさが逆転して見える事がある。
【0012】これは観察者の目からのLCD表示画面の各部分に対する視覚が異なるために起こる。即ち明るく表示している部分が、或る位置から見た視覚によっては暗く見え、同時に暗く表示している別の部分がその同じ位置から見た視覚によって明るく見える事が有る。
【0013】(2)カラー表示の場合見る位置の違いによって色相が変化する。
【0014】それは次の理由による。カラー表示に於いては、色相は三原色(赤(R)、緑(G)、青(B))のそれぞれのカラーフィルタからの透過光の組み合わせによって実現される。しかし見る角度によって液晶層通過光の楕円偏光状態が異なるため、R、G、Bそれぞれのカラーフィルタの透過光のバランスが変化し、その結果本来の表示と異なる色相に見える。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明によれば、二枚の透明電極基板間に液晶を挟持し、透明電極間の電圧値によって光透過率を変化させる液晶表示装置において、透明電極基板の少なくとも一面に光軸が透明電極基板面に対して傾斜しているフィルムを有する液晶表示装置が得られる。
【0016】更に本発明によれば、前述の光軸が基板面に対して傾斜しているフィルムがポリカーボネイト樹脂からなる液晶表示装置が得られる。
【0017】更にまた、本発明によれば前述の位相差フィルムと透明電極基板面との角度が45°である液晶表示装置が得られる。
【0018】
【作用】LCDの出射光側で基板と偏光板との間に、その光軸がフィルム面に対して傾斜した角度を持つ位相差フィルムを設けた階調表示型液晶表示装置が、どのような理由で上述の階調表示上の問題点を軽減しているのかを図4を以て説明する。
【0019】図4は本発明による液晶表示装置に透過光が入射した際のモデル断面図である。
【0020】階調表示状態における液晶ディレクタ42は、基板面に対して水平と垂直との中間の傾斜状態をとり、そのチルト角はθ°である。入射角α°がプラスの場合、光線eと液晶ディレクタ42との形成する角度は相対的に小さく、従って光の常光成分の方が相対的に多く、しかも異常光の屈折率neと常光の屈折率noとの差も小さく、従って位相差δが小さいため楕円偏光度は小さくなる。逆に入射角αがマイナスの場合は、光線eと配向ディレクタ42との成す角度が大きくなり、従って位相差δが大きくなり、楕円偏光度は大きくなる。
【0021】こうして液晶層を通過した光e,fは次に、その光軸がフィルム面に対して角度β°を成しているフィルム、すなわち、位相差フィルム2に入射する。この場合、角度β°はチルト角θ°と逆方向に設定されている。入射角がプラスの光はフィルム2の光軸と成す角度が大きく、従ってフィルム2内を通過する前後での位相差は大きくなっている。逆に入射角がマイナスの光はフィルムの光軸と成す角度が小さく、従ってフィルム2内を通過する前後での位相差は小さくなっている。
【0022】従って液晶層を通過する段階の位相差と位相差フィルム2を通過する段階の位相差との合計、即ち出射側偏光板に入る位相差はそれぞれの段階の位相差が逆方向に相補い合うため、入射角の変化によって余り大きく変化しなくなる。このため、偏光板通過後の光強度の視覚による変動は位相差フィルムを用いない場合に比べて少なくなり、視覚による明度の逆転や色相の変動が軽減される。
【0023】
【実施例】次に本発明について図面を参照して説明する。
【0024】図1Aは本発明の第1の実施例を示す液晶表示装置の斜面図、図1Bは図1Aの断面線A−Aにおける断面図である。
【0025】図1に示す液晶表示装置を次のようにして作製し、特性評価を行った。
【0026】外部に接続端子を有する縦横1cm、厚さ1400オングストロームの正方形のインジウム・錫オキサイド(ITO)薄膜で出来た電極4,7を表面上に有するガラス板2枚3,9のそれぞれの電極上に厚さ800オングストロームのポリイミド薄膜5,8を形成した。次いでこのポリイミド薄膜をレーヨンフェルト製ローラで一方向に摩擦(ラビング)した後、上のラビング方向が下のラビング方向に対して右90°を成すようにポリイミド薄膜面5,8を内側にしてガラス板3,9を対向させた。次に電極4,7が距離5μmを保って相対するようにスペーサで調整しながらガラス板3,9を貼り合わせた。この電極4,7間に液晶6を充填して液晶セルを作製した。
【0027】また一軸性の光軸を有するポリカーボネート樹脂を、光軸に対し角度45°を成す平面で厚さ約0.5mmの薄片状にスライスし、位相差フィルム2として用いた。
【0028】上記液晶セルの上面にこの位相差フィルム2を、光軸のフィルム面への射影線方向が上側配向膜のラビング方向から右135°の角度を成すように貼り合わせた。次いでセルの上下両面にそれぞれのラビング方向と偏光軸方向が一致するように偏光板を貼り合わせて液晶表示素子とした。
【0029】図2Aは本発明の第2の実施例を示す平面図であり、図2Bは図2Aの断面線B−Bにおける断面図である。
【0030】図2に示す液晶表示素子を次のようにして作製し、特性評価を行った。
【0031】図3に示す構造を有する薄膜トランジスタ(TFT)25をピクセル構成単位とするアクティブマトリクスを表面上に形成したガラス基板9及びカラーフィルタ21を表面上に形成したガラス基板3のそれぞれの表面上に厚さ800オングストロームのポリイミド薄膜5,8を形成した。次いでこのポリイミド薄膜5,8をレーヨンフェルト製ローラで一方向に摩擦(ラビング)した後、上のラビング方向が下のラビング方向に対して右90°を成すようにポリイミド薄膜面を内側にしてTFT基板9とカラーフィルタ基板3とを対向させた。次に透明電極間距離が5μmを保って相対するようにスペーサで調整しながら両基板を貼り合わせた。
【0032】この電極間に液晶6を充填して液晶セルを作製した。
【0033】また一軸性の光軸を有するポリカーボネート樹脂を、光軸に対し角度45°を成す平面で厚さ約0.5mmの薄片状にスライスし、位相差フィルム2として用いた。
【0034】上記液晶セルの上面にこの位相差フィルム2を、光軸のフィルム面への射影線方向が上側配向膜のラビング方向から右135°の角度を成すように貼り合わせた。次いでセルの上下両面にそれぞれのラビング方向と偏光軸方向が一致するように偏光板を貼り合わせて液晶表示装置とした。
【0035】
【発明の効果】実施例1及び2の液晶表示装置の階調表示を評価する為、視覚位置上下0°、左右0°での光透過率が50%となるように駆動電圧を調整して中間調状態にした後、視覚によるコントラストの差異を、位相差フィルムをつけないものと比較した(表1)。
【0036】
【表1】


【0037】表1において、比較例1は、実施例1の位相差フィルムを取り除いたものであり、比較例2は、実施例2の位相差フィルムを取り除いたものである。値は、最高に明るい時の輝度を最高に暗くした時の輝度で割ったものであり、値が大きい程コントラストが明瞭であることを示す。
【0038】表1により、位相差フィルムをつけた方が、つけないものよりも視覚によるコントラストの変化が少ないことがわかる。
【0039】したがって、本発明の液晶表示装置によれば、視覚によるコントラストの変化が少なく、階調表示にも有効に適応できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1Aは本発明の第1の実施例を示す斜面図であり、図1Bは図1Aの断面線A−Aにおける断面図である。
【図2】図2Aは本発明の第2の実施例を示す平面図であり、図2Bは図2Aの断面線B−Bにおける断面図である。
【図3】図3Aは本発明の第2の実施例における液晶表示装置のTFT形状を示す平面図であり、図3Bは図3Aの断面線C−Cにおける断面図である。
【図4】図4は階調表示状態に於ける本発明による液晶表示装置を示すモデル断面図である。
【図5】図5は階調表示状態に於ける従来の液晶表示装置を示すモデル断面図である。
【符号の説明】
1,10 偏光板
2 位相差フィルム
3 ガラス
4 上側電極
5,8 配向膜
6 液晶
7 下側電極
9 ガラス
11 下側ガラス板端部
12 上下ガラス板重なり部
13 上側ガラス板端部
14 下側電極用端子
15 下側リード部
16 上下電極重なり部
17 上側リード部
18 上側電極用端子
19 ピクセル
20 ブラックマトリクス
21 カラーフィルタ
22 保護層
23 透明電極
24 配線
25 TFT
26 ピクセル電極
27 パシベーション膜
28 ゲート
29 チャネル
30 ドレイン側電極
31 ソース側電極
32 ITO層
33 クロム層
34 n+ シリコン層
35 アモルファスシリコン
36 ゲート絶縁膜
37 光軸
41 液晶分子
42 液晶ディレクタ
51 位相差フィルムの光軸
A−A,B−B,C−C 断面線
a,b,c,d,e,f 透過光

【特許請求の範囲】
【請求項1】 二枚の透明電極基板間に液晶を挟持し、前記透明電極間の電圧値によって光透過率を変化させる液晶表示装置において、前記透明電極基板の少なくとも一面に、光軸が前記透明電極基板面に対して傾斜している位相差フィルムを有することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】 前記位相差フィルムがポリカーボネイト樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】 前記位相差フィルムと前記透明電極基板面との角度が45°であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図5】
image rotate


【図4】
image rotate