説明

液晶配向処理剤及び液晶表示素子

環境温度の変化に対してプレチルト角の変化が少なく、かつ高温時においても液晶に安定して高いプレチルト角を与える液晶配向膜を形成させることができる液晶配向処理剤を提供することであり、環境温度の変化に対して安定して高品位な表示をすることが可能な液晶表示素子を提供することである。
下記式(1)で示される構造単位を含む付加重合体を含有する液晶配向処理剤、及びこの液晶配向処理剤を用いた液晶表示素子。


(式中、Aは付加重合によって得られる重合体の主鎖構造であり、Bは単結合又はエステル、エーテル、アミド、及びウレタンからなる群より選ばれる結合基である。X1とX2は独立して芳香族環、脂肪族環、又はヘテロ環を表し、R1は炭素数3〜18のアルキル基、炭素数3〜18のアルコキシ基、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基、シアノ基、又はハロゲン原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子の液晶配向膜を形成するのに用いられる液晶配向処理剤、及びこれを用いて作製された液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、普及している液晶表示素子は、対向する2枚の基板間に液晶物質を充填させた構造からなり、該液晶物質は基板表面に設けられた液晶配向膜の作用により所望の初期配向状態を維持している。この液晶配向膜としては、ポリイミド系の樹脂膜をラビングして用いる方法(ラビング膜)が一般的に広く用いられている。また、ラビング膜に代わる方法として、有機膜に偏光紫外線などを照射する方法(光配向膜)も精力的に検討されている。
【0003】
このような液晶表示素子の印加電圧−透過率特性に関しては、一般的に環境温度によって変動することが知られており、安定して高品位の表示をする為の障害となる。この特性が変動する第1の要因としては液晶の特性に温度依存性があることが挙げられるが、一方で液晶配向膜に由来する要因も存在する。例えば、液晶のプレチルト角が、環境温度によって変動すると、液晶を駆動させる際の閾値電圧にずれが生じ、結果として液晶表示素子の印加電圧−透過率特性も変動するのである。環境温度によるプレチルト角の変動は、プレチルト角が高い液晶配向膜や、光配向膜のように、液晶配向膜の液晶配向規制力が弱い場合に顕著に表れる。極端な場合には高温時にプレチルト角が大きく低下し、正常な液晶駆動ができなくなるなどの問題が生じる。よって、高いプレチルト角を必要とする液晶表示素子や、ラビング膜に代わる方法として注目されている光配向膜においては、特に重要な問題となる。
【0004】
通常、単純な構造のポリイミド系液晶配向膜から得られる液晶のプレチルト角はあまり高くはないが、このプレチルト角を高め、任意の値にする手法として、ポリイミドの側鎖に長鎖アルキル基やフルオロアルキル基を導入する方法が知られている(例えば、特開平2−282726号公報参照。)。
【0005】
また、上記のように高められたプレチルト角に関して、液晶配向膜を形成する温度に対する安定性、液晶表示素子とした後の熱処理に対する安定性を改善する手法として、ポリイミドの側鎖構造に環状置換基を導入する手法も知られている(例えば、特開平9−278724号公報参照。)。
【0006】
しかしながら、従来から提案されているプレチルト角の安定化技術は、製造プロセスに対する安定性や、耐久性に関わる安定性がほとんどであり、環境温度の変化に対するプレチルト角の安定化技術に関しての報告例はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、環境温度の変化に対する液晶のプレチルト角の安定性、特に高温時でのプレチルト角安定性の問題を解決するためになされたものである。すなわち本発明の課題は、環境温度の変化に対してプレチルト角の変化が少なく、かつ高温時においても液晶に安定して高いプレチルト角を与える液晶配向膜を形成させることができる液晶配向処理剤を提供することであり、環境温度の変化に対して安定して高品位な表示をすることが可能な液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の課題は以下に示す液晶配向処理剤及び液晶表示素子により解決されることが見出された。
【0009】
かくして、本発明は下記の要旨を有するものである。
1. 下記式(1)で示される構造単位を含む付加重合体を含有する液晶配向処理剤。
【0010】
【化1】

(式中、Aは付加重合によって得られる重合体の主鎖構造であり、Bは単結合又はエステル、エーテル、アミド、及びウレタンからなる群より選ばれる結合基である。X1とX2は独立して芳香族環、脂肪族環、又はヘテロ環を表し、R1は炭素数3〜18のアルキル基、炭素数3〜18のアルコキシ基、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基、シアノ基、又はハロゲン原子を表す。)
2.更に、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル及びポリウレアからなる群から選ばれる少なくとも一種類の重合体とを含有する上記1に記載の液晶配向処理剤。
3.付加重合体が、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル及びポリウレアからなる群から選ばれる少なくとも一種類の重合体と化学的に結合した状態で含有されているに上記2に記載の液晶配向処理剤。
4.液晶配向処理剤に含有される重合体成分全体の中で、式(1)で示される構造単位が占める重量割合が0.01〜50重量%である、上記1、2又は3に記載の液晶配向処理剤。
5.付加重合体が、式(1)で示される構造単位を、構造単位の数換算で50%以上含有し、かつ全重合体成分における前記付加重合体の比率が0.1〜20重量%である上記1〜4のいずれかに記載の液晶配向処理剤。
6.付加重合体が、式(1)の構造単位を構造単位数換算で5%以上含有する上記1〜5のいずれかに記載の液晶配向処理剤。
7.付加重合体が、その構造単位の式(1)において、A−Bで示される部分が、下記式(2)で示される構造である上記1〜6のいずれかに記載の液晶配向処理剤。
【0011】
【化2】

(式中、R2は水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を表す。)
8.上記1〜7のいずれかに記載された液晶配向処理剤を用いた液晶表示素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液晶配向処理剤から形成された液晶配向膜は、環境温度の変化に対する液晶のプレチルト角変化が少なく、液晶に対し熱的に安定な高いプレチルト角を与えることができる。また、本発明の液晶配向処理剤を用いた液晶表示素子は、環境温度の変化に対し印加電圧−透過率特性の変動が少なく、安定して高品位な表示をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のV−T曲線を表すグラフ
【図2】比較例4のV−T曲線を表すグラフ
【符号の説明】
【0014】
V:印加電圧(V) T:透過率(%)
23℃:23℃におけるV−T曲線 60℃:60℃におけるV−T曲線
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の液晶配向処理剤は、基板上に液晶配向膜を形成させる為の塗布液であり、液晶のプレチルト角付与安定化剤として、式(1)で示される構造単位を含む付加重合体を含有するものである。
【0016】
【化3】

式(1)において、Aは付加重合反応によって得られる重合体の主鎖構造であり、Bは単結合又は、エステル、エーテル、アミド、及びウレタンからなる群より選ばれる結合基である。付加重合反応によって得られる上記重合体としては、ポリビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイミド、などが挙げられる。以下にAで示される部分の具体的構造例を記載するが、この限りではない。
【0017】
【化4】

(上記式中、R2は水素原子、メチル基、又はフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子を表す。)
重合性や側鎖導入の容易性の観点から、付加重合反応によって得られる重合体としてはポリ(メタ)アクリル酸が好ましい。具体的な構造としては、式(1)のA−Bで示される部分が、式(2)で示される構造が好ましい。
【0018】
【化5】

(式中、R2は水素原子、メチル基、又はフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子を表す。)
【0019】
式(1)において、X1とX2は独立して芳香族環、脂肪族環、又はヘテロ環を表し、R1は炭素数3〜18のアルキル基、炭素数3〜18のアルコキシ基、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基、シアノ基、又はハロゲン原子を表す。この、X1−X2−R1からなる部分は、液晶類似構造とすることが好ましい。
【0020】
X1又はX2の具体例は次のものが挙げられる。芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、インダン環などが、脂肪族環としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ビシクロオクタン環などが、ヘテロ環としては、フラン環、チオフェン環、チアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、アシリジン環、フェナントリジン環、ベンゾチアゾール環、ジオキサン環などが挙げられる。式(1)におけるこれら環構造の結合位置は、直線性が高い方が好ましく、例えばベンゼン環であれば、パラ結合が好ましい。以下にX1又はX2の好ましい例を示すがこの限りではない。また、X1とX2は互いに異なる構造であってもよい。
【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
【化8】

上記構造において、環構造上の任意の水素原子は、メチル基、エチル基、又はフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子等で置換されていてもよい。
【0024】
X1とX2との組み合わせは、現行の液晶との相性からは、ベンゼン環、シクロヘキサン環、ピリジン環、及びピリミジン環からなる群から選ばれる組み合わせであることがより好ましく、特には、ベンゼン環、及びシクロヘキサン環からなる群から選ばれることが好ましい。具体的には、X1とX2の組合わせは、ビフェニル、ビシクロヘキシル、フェニルシクロヘキシル及びシクロヘキシルフェニルからなる群から選ばれることが特に好ましい。
【0025】
R1は、使用する液晶との相性及び目的とするプレチルト角の大きさに合わせて、炭素数3〜18のアルキル基、炭素数3〜18のアルコキシ基、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基、シアノ基、又はハロゲン原子の中から適宜選択することができる。中でも、炭素数5〜8のアルキル基、炭素数5〜8のアルコキシ基は、適用範囲が広いので特に好ましい。
【0026】
以下に、X1−X2−R1からなる部分の具体例の一部を示すがこの限りではない。なお、下記構造中、nは好ましくは3〜12、特に好ましくは5〜10の整数である。
【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
式(1)で示される構造単位を含む付加重合体は、式(1)で示される構造単位の単独重合体、又は、付加重合によって得られるその他の構造単位とのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体のいずれでもよい。これらの重合体は、公知のラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合などにより合成できる。重合手段は熱重合、光重合などのいずれでもよい。
【0031】
式(1)で示される構造単位を含む付加重合体は、式(1)に対応する単量体、即ち、前記Bで示される結合基を介して前記−X1−X2−R1からなる置換基を有するビニル化合物、マレイミド化合物などを用い、一般的な付加重合反応をさせることにより得ることができる。
【0032】
以下に、式(1)で示される構造に対応する単量体の構造を示すが、この限りではない。なお、下記式中のR1、R2、X1、X2は前述のとおりである。
【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
【化15】

【0037】
【化16】

【0038】
【化17】

【0039】
【化18】

【0040】
上記のような単量体は1種又は複数種を併用して用いてもよい。また、式(1)で示される構造を有する重合体は、プレチルト角の大きさの制御や、重合体の有機溶媒に対する溶解性の制御、液晶配向処理剤に含有されるその他の重合体との相溶性制御、液晶配向処理剤の塗布性向上、液晶配向膜の耐熱性の付与といった目的で、付加重合反応が可能なその他の単量体を1種以上併用し、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体などとすることができる。
【0041】
付加重合反応が可能なその他の単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、スチレン、ヒドロキシスチレン、カルボキシスチレン、メタクリルアミド、N−アリールメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、アクリルアミド、N−アリールアクリルアミド、N,N−アリールアクリルアミド、N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−フェニルマレイミド、ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等が挙げられる。この中でも特にメタクリル酸グリシジルは重合体の溶解性及び相溶性向上に効果があり好ましい。
【0042】
上記のように、式(1)で示される構造に対応する単量体、及び必要に応じて付加重合反応が可能なその他の単量体成分を用いて、式(1)で示される構造単位を含む付加重合体をラジカル重合法で得る手法の一例を以下に述べる。対応する単量体を有機溶媒中に溶解し、反応開始剤を添加する。上記反応の溶媒としては、得られる重合体を溶解させうるものであれば特に制限はない。例えば、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、乳酸エチル(EL)、メトキシプロパノール(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、又はこれらの混合物が挙げられる。反応開始剤としては、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)などのアゾ化合物、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物などが挙げられる。また、反応を促進させたり、反応を完結させる目的で反応系を加熱してもよい。このようにして得られた重合体は、反応液をそのまま使用してもよく、貧溶媒中に投入して目的の重合体を回収してから用いてもよい。
【0043】
式(1)で示される構造単位を含む付加重合体において、式(1)で示される構造単位の含有比率は自由に設定できるが、安定してプレチルト角を発現させるために構造単位の数換算で5%以上含まれることが好ましく、より好ましくは30%以上である。また後述するように、本発明の液晶配向処理剤に、式(1)で示される構造単位を含む付加重合体と、この重合体以外の重合体とを含有させる場合は、式(1)で示される構造単位の含有比率は50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上であり、特に好ましくは70%以上である。
【0044】
式(1)で示される構造を有する重合体の分子量は特に制限はされないが、例えばGPC(Gel Permeation Chromatography)法で測定した重量平均分子量で1000〜100万、2000〜40万、5000〜10万などが好適である。
【0045】
本発明の液晶配向処理剤に含有される重合体成分は、式(1)で示される構造単位を含む付加重合体以外に、基板に対して水平方向の液晶配向規制を与えるための重合体を含有させることが好ましい。このような重合体としては、一般の液晶配向膜に用いられているポリマーを用いることができ、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレアなどが好ましい。特にポリアミド酸又はポリイミドは、液晶の配向性、耐熱性に優れ、液晶配向膜の材料として広く用いられており、本発明の液晶配向処理剤に含有させる重合体成分として好ましい。
【0046】
上記のポリアミド酸又はポリイミドの構造は特に限定されないが、本発明の液晶配向処理剤を、偏光紫外線などを照射して液晶配向膜を形成させる方法、いわゆる光配向膜で用いる場合は、光に対して化学反応するシクロブタン環、アミド結合、オレフィン構造、ベンゾフェノン構造を主鎖に含有することが望ましい。
【0047】
通常ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを有機溶媒中で反応させることにより得ることができる。また、ポリイミドはポリアミド酸をイミド化(脱水閉環)することにより得ることができる。
【0048】
本発明の液晶配向処理剤に含有させることができるポリアミド酸の例としては、以下に示すテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物から選ばれる、1種類以上のテトラカルボン酸二無水物と、1種類以上のジアミン化合物との反応によって得られるポリアミド酸が挙げられるがこの限りではない。
【0049】
ポリアミド酸の合成反応に用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’4,4’−カルコンテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン、2,3,4,5−ピリジンテトラカルボン酸、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ピリジンなどの芳香族テトラカルボン酸の二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸などの脂環式テトラカルボン酸の二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などの脂肪族テトラカルボン酸の二無水物などが挙げられる。
【0050】
ポリアミド酸の合成反応に用いられるジアミン化合物としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、N,N−ジアリル−1,2,4−ベンゼントリアミン、2,5−ジアミノベンゾニトリル、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルアミン、2,2’−ジアミノジフェニルプロパン、ビス(3,5−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノカルコン、4,4’−ジアミノカルコン、3,3’−ジアミノスチルベン、4,4’−ジアミノスチルベン、ジアミノナフタレン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどの芳香族ジアミン、2,6−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリジン、2,7−ジアミノベンゾフラン、2,7−ジアミノカルバゾール、3,7−ジアミノフェノチアジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−チアジアゾール、2,4−ジアミノ−s−トリアジンなどの複素環式ジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン及び1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサンなどの脂肪族ジアミン、1,3−ジアミノ−4−オクタデシルオキシベンゼン、1,3−ジアミノ−4−ヘキサデシルオキシベンゼン、1,3−ジアミノ−4−ドデシルオキシベンゼン、4−[4−(4−トランス−n−ヘプチルシクロヘキシル)フェノキシ]−1,3−ジアミノベンゼン、(4−トランス−n−ペンチルビシクロヘキシル)−3,5−ジアミノベンゾエートなどのアルキル基や液晶類似構造を側鎖に有するジアミン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンなどのシリコンジアミンなどが挙げられる。
【0051】
本発明の液晶配向処理剤に含有させるポリアミド酸は、GPC(Gel Permeation Chromatography)法で測定した重量平均分子量{Mw}で2千〜50万とするのが好ましい。この分子量が小さすぎると、そこから得られる塗膜の強度が不十分となり、分子量が大きすぎると塗膜形成時の作業性が悪くなる場合がある。ポリアミド酸の分子量制御は、ポリアミド酸の合成反応に用いるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物のモル比を調整することによって可能である。通常の重縮合反応同様、このモル比が1.0に近いほど生成する重合体の重合度は大きくなる。
【0052】
ポリアミド酸の合成反応は、有機溶媒中で、通常0〜150℃、好ましくは0〜100℃の反応温度で行われる。この際の有機溶媒としては、得られたポリアミド酸が溶解するものであれば特に制限はない。その具体例を挙げるならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等が挙げることができる。これらは単独でも、また混合して使用してもよい。さらに、ポリアミド酸を溶解しない溶媒であっても、重合反応により生成したポリアミド酸が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。
【0053】
本発明の液晶配向処理剤に含有させることができるポリイミドの例としては、前記したポリアミド酸をイミド化(脱水閉環)させたものが挙げられる。ここでいうポリイミドとは、ポリアミド酸の繰り返し単位の全てがイミド化されていないものであっても、その範疇に含まれ、本発明の液晶配向処理剤にも好適に用いられる。
【0054】
通常ポリアミド酸のイミド化(脱水閉環)は、溶液中で行うことができる。溶液中でポリアミド酸をイミド化させる方法において、その反応温度は、通常50〜200℃とされ、好ましくは60〜170℃とされる。反応温度が50℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が200℃を超えると得られるイミド化重合体の分子量が低下することがある。このイミド化反応の際に、脱水剤及び脱水閉環触媒を添加することは、比較的低温でイミド化反応が進行し得られるポリイミドの分子量低下が起こりにくいので好ましい。脱水剤としては、例えばピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミド酸の繰り返し単位1モルに対して0.01〜20モルとするのが好ましい。また、脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとするのが好ましい。なお、脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミド酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。そして、脱水剤及び脱水閉環触媒を添加した場合の反応温度は、通常0〜180℃、好ましくは10〜150℃とされる。
【0055】
上記のようにして得られたポリアミド酸又はポリイミドはそのまま使用することもでき、またメタノール、エタノール等の貧溶媒に沈殿単離させて回収した後、使用してもよい。
【0056】
本発明の液晶配向処理剤において、式(1)で示される構造単位を含む付加重合体は、その他の重合体成分として含有されるポリマーと化学的に結合した形態で含有されていてもよい。その手法としては、例えばその他の重合体成分として含有されるポリマーの側鎖に、付加重合可能な置換基を導入し、このポリマーが存在する溶液中で、前記のように、式(1)で示される構造に対応する単量体、及び必要に応じて付加重合反応が可能なその他の単量体成分を用いて、付加重合反応させればよい。ポリアミド酸又はポリイミドに、式(1)で示される構造を有する重合体が化学的に結合した形態とするには、例えば側鎖にビニル基やメタクリロイル基を有するジアミンを用いてポリアミド酸を合成し、このポリアミド酸の存在する溶液中で上記反応を行えばよい。
側鎖にメタクリロイル基を有するジアミンとしては以下のようなジアミンが挙げられる。
【0057】
【化19】

【0058】
その他、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアナート基、酸無水物基などを、式(1)で示される構造を有する重合体及びその他の重合体成分として含有されるポリマーのそれぞれに導入し、ヒドロキシ基又はカルボキシル基とイソシアナート基の反応や、アミノ基と酸無水物基との反応などで結合させてもよい。
【0059】
本発明の液晶配向処理剤に含有される重合体成分全体の中で、式(1)で示される構造単位が占める重量割合は、目的とするプレチルト角の大きさに合わせて任意に設定することができるが、その重量割合が0.01〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜20重量%である。
【0060】
また、本発明の液晶配向処理剤に、式(1)で示される構造単位を含む付加重合体と、それ以外に基板に対して水平方向の液晶配向規制を与えるための重合体とを含有させる場合の、式(1)で示される構造単位を含む付加重合体の含有割合は、液晶配向処理剤に含有される重合体成分全体の0.1〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜5重量%である。式(1)で示される構造単位の含有量が高い付加重合体を、基板に対して水平方向の液晶配向規制を与えるための重合体に対して、比較的少量含有させることにより、プレチルト角が安定でかつ、基板に対して水平方向の液晶配向規制にも優れる液晶配向膜を得ることができる。
【0061】
以上のことから、本発明の液晶配向処理剤に含有される重合体成分の組成として好ましい一例を挙げるならば、(A)式(1)で示される構造単位の含有比率が構造単位の数換算で50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である付加重合体と、(B)ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル又はポリウレアから選ばれる少なくとも一種類の重合体とを含有し、全重合体成分における(A)の比率が0.1〜20重量%、より好ましくは0.3〜5重量%である組成である。
【0062】
本発明の液晶配向処理剤は、以上に述べた重合体成分を含有する塗布液である。この塗布液に含まれる溶剤は、前記の重合体成分を溶解させうるものであれば特に限定はされない。また、これらは単独でも2種以上の溶剤を組み合わせて用いることもできる。さらには、単独では重合体を溶解させない溶剤であっても、重合体成分が析出しない範囲で加えることもできる。以下に溶剤成分の具体例を示すがこの限りではない。
【0063】
N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホトリアミド、m−クレゾール、メチルアルコール、エチルアルコール、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン。
【0064】
本発明の液晶配向処理剤は、基板との密着性を付与するための官能性シラン含有化合物を含有してもよい。例えば、N−トリメチルシリルアセトアミド、ジアセトキシジメチルシラン、テトラメトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、1−トリメチルシリルイミダゾール、メチルトリアセトキシシラン、ジエトキメチルフェニルシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルシランジオールなどを挙げることができるがこの限りではない。
【0065】
本発明の液晶配向処理剤を得るには、上記した各成分を混合し、基板に塗布することが可能な濃度の溶液とすればよい。本発明の液晶配向処理剤における重合体成分濃度は、形成させようとする液晶配向膜の厚みの設定によって適宜変更することができるが、1〜15重量%とすることが好ましい。1重量%未満では均一で欠陥のない塗膜を形成させることが困難となり、15重量%よりも多いと溶液の保存安定性が悪くなる場合がある。
【0066】
以上のようにして得られた本発明の液晶配向処理剤は、必要に応じて濾過した後、基板に塗布し、乾燥、焼成して塗膜とすることができ、この塗膜面をラビングや偏光した紫外線を基板面に対して一定方向に照射するなどの配向処理をすることにより、液晶配向膜として使用することができる。
【0067】
液晶配向処理剤の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などが挙げられるが、生産性の面から工業的には転写印刷法が広く用いられており、本発明の液晶配向処理剤においても好適に用いられる。
【0068】
液晶配向処理剤を塗布した後の乾燥の工程は、必ずしも必要とされないが、塗布後〜焼成までの時間が基板ごとに一定していない場合や、塗布後ただちに焼成されない場合には、乾燥工程を含める方が好ましい。この乾燥は、基板の搬送等により塗膜形状が変形しない程度に溶媒が蒸発していれば良く、その乾燥手段については特に限定されない。具体例を挙げるならば、50〜150℃、好ましくは80〜120℃のホットプレート上で、0.5〜30分、好ましくは1〜5分乾燥させる方法がとられる。
【0069】
液晶配向処理剤の焼成は、100〜350℃の任意の温度で行うことができるが、好ましくは150℃〜300℃であり、さらに好ましくは200℃〜250℃である。液晶配向処理剤中にポリアミド酸を含有する場合は、この焼成温度によってポリアミド酸からポリイミドへの転化率が変化するが、本発明の液晶配向処理剤は、必ずしも100%イミド化させる必要は無い。ただし、液晶セル製造行程で必要とされる、シール剤硬化などの熱処理温度より、10℃以上高い温度で焼成することが好ましい。
【0070】
焼成後の塗膜の厚みは、厚すぎると液晶表示素子の消費電力の面で不利となり、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5〜300nm、好ましくは10〜100nmである。
【0071】
本発明の液晶表示素子は、上記した手法により本発明の液晶配向処理剤から液晶配向膜付き基板を得た後、公知の方法で液晶セルを作成し、液晶表示素子としたものである。液晶セル作成の一例を挙げるならば、液晶配向膜の形成された1対の基板を、1〜30μm、好ましくは2〜10μmのスペーサーを挟んで、ラビング方向が0〜270°の任意の角度となるように設置して周囲をシール剤で固定し、液晶を注入して封止する方法が一般的である。液晶封入の方法については特に制限されず、作製した液晶セル内を減圧にした後液晶を注入する真空法、液晶を滴下した後封止を行う滴下法などが例示できる。
【0072】
液晶表示素子に用いる基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、アクリル基板やポリカーボネート基板などのプラスチック基板などを用いることができ、液晶駆動のためのITO電極などが形成された基板を用いることがプロセスの簡素化の観点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極はアルミ等の光を反射する材料も使用できる。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
<合成例1>
メタクリロイルクロリド5.16g(49.36mmol)、4−(4−トランス−n−ペンチルシクロヘキシル)フェノール11.06g(44.87mmol)、及びトリエチルアミン4.99g(49.36mmol)をテトラヒドロフラン200mL溶媒中、室温で30分攪拌し、その後、50℃で1時間攪拌した。反応溶液を室温まで徐冷し、酢酸エチルで抽出後、無水硫酸ナトリウムで有機層を乾燥した。有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:1)により精製を行い、HPLC相対純度99%以上の4−(4−トランス−n−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシメタクリレートを14.15g得た。
【0074】
<合成例2>
合成例1と同様にして得られた4−(4−トランス−n−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシメタクリレート20.10g(0.07mol)及びグリシジルメタクリレート4.27g(0.03mol)をN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)87.48gに溶解させた後、フラスコ内を窒素にて置換し70℃まで昇温した。昇温後NMP10gに溶解したアゾイソブチロニトリル(以下、AIBNと略す)0.2gを窒素加雰囲気下で添加し、24時間反応させ、式(1)の構造単位を含む付加重合体を得た。この付加重合体の重量平均分子量{Mw}は28000であった。
【0075】
<合成例3>
p−フェニレンジアミン10.81g(0.1mol)をNMP172.4gに溶解し、これにシクロブタンテトラカルボン酸二無水物19.61g(0.1mol)を添加し、室温で24時間反応させ、ポリアミド酸を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量{Mw}は156000であった。
【0076】
<実施例1>
合成例2で得られた付加重合体の反応溶液にNMPを加えて、付加重合体濃度3wt%の溶液とした。また、合成例3で得られたポリアミド酸の反応溶液にNMPを加えて、ポリアミド酸濃度3wt%の溶液とした。このポリアミド酸の3wt%溶液99gに、前記付加重合体の3wt%溶液1gを加え、充分攪拌して均一な溶液とし、本発明の液晶配向処理剤を得た。
【0077】
この液晶配向処理剤を、孔径0.5μmのメンブランフィルターで加圧濾過した後、透明電極付きガラス基板にスピンコートした。この基板を80℃のホットプレートにのせて5分間乾燥した後、210℃の熱風循環式オーブンで60分焼成して、基板上に膜厚50nmの塗膜を得た。この塗膜面を、レーヨン布を装着したラビング装置を用いて、ロール回転速度300rpm、移動速度20mm/s、押し込み0.5mmの条件でラビング処理を行い、液晶配向膜付きの基板を得た。
【0078】
上記の液晶配向膜付き基板を2枚用意し、片方の基板の液晶配向膜面に6μmのスペーサーを散布した後、ラビング方向が直行するように張り合わせ、ネマチック液晶(メルク社製ZLI―4792)を注入して液晶セルを作成した。この液晶セルを120℃で30分処理し、その後の液晶の配向状態を偏光顕微鏡で観察したところ欠陥のない均一な配向をしていることが確認された。
【0079】
この液晶セルの23℃におけるプレチルト角を、ELSICON社製プレチルト角測定装置(PAS-301)で測定したところ22.1°であった。次に、この液晶セルの電圧−透過率特性(V−T曲線)の測定を、23℃及び60℃の温度で行い、透過率が90%となるときの印加電圧(V90)の値を比較することにより、その熱安定性を評価した。その結果、23℃におけるV90は0.72Vであり、60℃におけるV90は0.66Vあり、液晶の温度特性に由来する低電圧側へのシフトが観測されたものの、プレチルト角の低下に由来する高電圧側へのシフトは観測されず、環境温度によらず非常に安定なプレチルト角を有していることが確認された。
【0080】
なお、V−T曲線の測定及びV90の算出は以下の様にして行った。
(1)接眼部に受光素子を設置した偏光顕微鏡を用い、偏光顕微鏡のポーラライザーとアナライザーの角度は90度に設定した。
(2)液晶セルは、上下の基板の配向処理方向が、それぞれポーラライザー又はアナライザーの偏光方向に一致するように設置し、電圧無印加時に光透過量が最大になるようにした。
(3)液晶セルに30Hzの交流矩形波を0〜±5Vの範囲で0.01V刻みで印加し、その時の光透過量を前記受光素子にて検知し記録した。
(4)電圧無印加時の透過光量を透過率100%、±5V印加した時の透過光量を透過率0%として、印加電圧と透過率の関係をグラフ化し、このグラフから透過率が90%となる時の印加電圧の値を読みとりV90の値とした。
(5)23℃における測定は23℃の室温下で、60℃における測定は偏光顕微鏡のステージ上で液晶セルを60℃に加熱して行った。
【0081】
<実施例2>
実施例1と同様にして得られた塗膜をラビング処理する代わりに、ELSICON社製光照射装置、OptoAlignTM(E3−UV−600−A)を用いて、ランプの角度を0deg、照射量20Jの光照射を行い、光配向処理により液晶配向膜付きの基板を得た。
【0082】
上記の液晶配向膜付き基板を2枚用意し、片方の基板の液晶配向膜面に6μmのスペーサーを散布した後、光照射の偏向方向が直行するように張り合わせ、ネマチック液晶(メルク社製ZLI―4792)を注入して液晶セルを作成した。この液晶セルを120℃で30分処理し、その後の液晶の配向状態を偏光顕微鏡で観察したところ欠陥のない均一な配向をしていることが確認された。
【0083】
この液晶セルについて実施例1と同様にプレチルト角の測定と、V−T曲線の測定を行った。その結果、プレチルト角は22.5°であった。また、23℃におけるV90は0.78Vであり、60℃におけるV90は0.66Vあり、液晶の温度特性に由来する低電圧側へのシフトが観測されたものの、プレチルト角の低下に由来する高電圧側へのシフトは観測されず、環境温度によらず非常に安定なプレチルト角を有していることが確認された。
【0084】
<比較例1>
p−フェニレンジアミン9.73g(0.9mol)及び1,3−ジアミノ−4−オクタデシルオキシベンゼン3.77g(0.1mol)をN―メチルピロリドン(NMP)187.8gに溶解し、これにシクロブタンテトラカルボン酸二無水物19.61g(0.1mol)を添加し、室温で24時間反応させ、ポリアミド酸を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量{Mw}は126000であった。このポリアミド酸の反応溶液にNMPを加えて濃度3wt%の溶液にし、比較の為の液晶配向処理剤とした。
【0085】
上記の液晶配向処理剤を用いて、実施例1と同様にして液晶セルを作製した。この液晶セルの配向状態を偏光顕微鏡で観察したところ、欠陥のない均一な配向をしていることが確認された。
【0086】
この液晶セルについて実施例1と同様にプレチルト角の測定と、V−T曲線の測定を行った。その結果、プレチルト角は16.5°であった。また、23℃におけるV90は0.87Vであり、60℃におけるV90は1.01Vあり、60℃にてプレチルト角の低下に由来する高電圧側へのシフトが観測され、プレチルト角は不安定であった。
【0087】
<比較例2>
p−フェニレンジアミン9.73g(0.09mol)及び4−[4−(4−トランス−n−ヘプチルシクロヘキシル)フェノキシ]−1,3−ジアミノベンゼン3.81g(0.01mol)をN―メチルピロリドン(NMP)187.8gに溶解し、これにシクロブタンテトラカルボン酸二無水物19.61g(0.1mol)を添加し、室温で24時間反応させ、ポリアミド酸を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量{Mw}は143000であった。このポリアミド酸の反応溶液にNMPを加えて濃度3wt%の溶液にし、比較の為の液晶配向処理剤とした。
【0088】
上記の液晶配向処理剤を用いて、実施例1と同様にして液晶セルを作製した。この液晶セルの配向状態を偏光顕微鏡で観察したところ、欠陥のない均一な配向をしていることが確認された。
【0089】
この液晶セルについて実施例1と同様にプレチルト角の測定と、V−T曲線の測定を行った。その結果、プレチルト角は20.9°であった。また、23℃におけるV90は0.63Vであり、60℃におけるV90は0.76Vあり、60℃にてプレチルト角の低下に由来する高電圧側へのシフトが観測され、プレチルト角は不安定であった。
【0090】
<比較例3>
n―ドデシルメタクリレート12.72g(0.05mol)及びグリシジルメタクリレート7.11g(0.05mol)をNMP69.3gに溶解させた後、フラスコ内を窒素にて置換し70℃まで昇温した。昇温後NMP10gに溶解したアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.2gを窒素雰囲気下で添加し、24時間反応させ、比較の為の付加重合体を得た。この付加重合体の重量平均分子量{Mw}は32000であった。
【0091】
p−フェニレンジアミン8.65g(0.8mol)及び4−[4−(4−トランス−n−ヘプチルシクロヘキシル)フェノキシ]−1,3−ジアミノベンゼン7.61g(0.2mol)をN―メチルピロリドン(NMP)203.3gに溶解し、これにシクロブタンテトラカルボン酸二無水物19.61g(0.1mol)を添加し、室温で24時間反応させ、ポリアミド酸を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量{Mw}は143000であった。
【0092】
上記で得られた付加重合体の反応溶液にNMPを加えて、付加重合体濃度3wt%の溶液とした。また、上記で得られたポリアミド酸の反応溶液にNMPを加えて、ポリアミド酸濃度3wt%の溶液とした。このポリアミド酸の3wt%溶液99gに、前記付加重合体の3wt%溶液1gを加え、充分攪拌して均一な溶液とし、比較の為の液晶配向処理剤を得た。
【0093】
上記の液晶配向処理剤を用いて、実施例2と同様にして液晶セルを作製した。この液晶セルの配向状態を偏光顕微鏡で観察したところ、欠陥のない均一な配向をしていることが確認された。
【0094】
この液晶セルについて実施例1と同様にプレチルト角の測定と、V−T曲線の測定を行った。その結果、プレチルト角は22.1°であった。また、23℃におけるV90は0.70Vであり、60℃におけるV90は1.28Vあり、60℃にてプレチルト角の低下に由来する高電圧側への大きなシフトが観測され、プレチルト角は非常に不安定であった。
【0095】
<比較例4>
比較例3で調製した、ポリアミド酸の3wt%溶液を比較の為の液晶配向処理剤とした。
この液晶配向処理剤を用いて、実施例2と同様にして液晶セルを作製した。この液晶セルの配向状態を偏光顕微鏡で観察したところ、欠陥のない均一な配向をしていることが確認された。
【0096】
この液晶セルについて実施例1と同様にプレチルト角の測定と、V−T曲線の測定を行った。その結果、プレチルト角は15.9°であった。また、23℃におけるV90は0.78Vであり、60℃におけるV90は1.42Vあり、60℃にてプレチルト角の低下に由来する高電圧側への大きなシフトが観測され、プレチルト角は非常に不安定であった。
【0097】
<比較例5>
実施例1で調製した、ポリアミド酸の3wt%溶液を比較の為の液晶配向処理剤とした。
この液晶配向処理剤を用いて、実施例2と同様にして液晶セルを作製した。この液晶セルの配向状態を偏光顕微鏡で観察したところ、欠陥のない均一な配向をしていることが確認された。
【0098】
この液晶セルについて実施例1と同様にプレチルト角の測定と、V−T曲線の測定を行った。その結果、プレチルト角は0.3°と低いものであった。また、23℃におけるV90は1.41Vであり、60℃におけるV90は1.33Vあり、液晶の温度特性に由来する低電圧側へのシフトが観測された。これは23℃においてプレチルト角がほとんど発現していないため、60℃に昇温してもプレチルト角の低下が観測されなかったことを表している。
【0099】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される構造単位を含む付加重合体を含有する液晶配向処理剤。
【化1】

(式中、Aは付加重合によって得られる重合体の主鎖構造であり、Bは単結合又はエステル、エーテル、アミド、及びウレタンからなる群より選ばれる結合基である。X1とX2は独立して芳香族環、脂肪族環、又はヘテロ環を表し、R1は炭素数3〜18のアルキル基、炭素数3〜18のアルコキシ基、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基、シアノ基、又はハロゲン原子を表す。)
【請求項2】
更に、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル及びポリウレアからなる群から選ばれる少なくとも一種類の重合体を含有する請求項1に記載の液晶配向処理剤。
【請求項3】
付加重合体が、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル及びポリウレアからなる群から選ばれる少なくとも一種類の重合体と化学的に結合した状態で含有されているに請求項2に記載の液晶配向処理剤。
【請求項4】
液晶配向処理剤に含有される重合体成分全体の中で、式(1)で示される構造単位が占める重量割合が0.01〜50重量%である、請求項1、2又は3に記載の液晶配向処理剤。
【請求項5】
付加重合体が、式(1)で示される構造単位を、構造単位の数換算で50%以上含有し、かつ全重合体成分における前記付加重合体の比率が0.1〜20重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の液晶配向処理剤。
【請求項6】
付加重合体が、式(1)の構造単位を構造単位数換算で5%以上含有する請求項1〜5のいずれかに記載の液晶配向処理剤。
【請求項7】
付加重合体が、その構造単位の式(1)において、A−Bで示される部分が、下記式(2)で示される構造を有する請求項1〜6のいずれかに記載の液晶配向処理剤。
【化2】

(式中、R2は水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を表す。)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載された液晶配向処理剤を用いた液晶表示素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/040274
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514961(P2005−514961)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015531
【国際出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】