説明

液晶配向剤、液晶配向膜、液晶配向膜の形成方法、液晶表示素子及び化合物

【課題】本発明の目的は、放射線感度に優れ、低照射量の光配向法で良好な液晶配向性を発現できる液晶配向剤を提供することである。また、そのような液晶配向剤を用いた液晶配向膜の形成方法及び液晶配向膜、その液晶配向膜を備え、液晶配向性に加えて電気的特性等の諸性能にも優れる液晶表示素子、さらにはその液晶配向剤の材料となる化合物を提供することである。
【解決手段】本発明は、[A]下記式(1)で表される基を含む構造単位(I)を有する重合体を含有する液晶配向剤である。また、[A]重合体は、ポリアミック酸、ポリイミド又はポリエステルであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光配向用に好適な液晶配向剤、液晶配向膜、液晶配向膜の形成方法、液晶表示素子及び化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)はテレビや各種モニタ等に広く利用されている。このLCDの表示素子としては、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、IPS(In Plane Switching)型等の液晶セルがあり、IPS型等の電極構造を変更し、表示素子部分の開口率を上げて輝度を向上させたFFS(Fringe Field Switching)型等も知られている(特開昭56−91277号公報及び特開平1−120528号公報参照)。
【0003】
このような液晶セルの液晶を配向させる方法としては、基板表面に液晶配向膜等の有機膜を形成し、その有機膜の表面をレーヨン等の布材で一方向に擦るラビング処理による方法、基板表面に酸化珪素を斜方蒸着する方法、ラングミュア・ブロジェット法(LB法)を用いて長鎖アルキル基を有する単分子膜を形成する方法、ポリビニルシンナメート、ポリイミド樹脂、ポリアミック酸等からなる感光性薄膜に偏光又は非偏光の放射線を照射することにより液晶配向能を付与する光配向法(特開平6−287453号公報、特開2003−307736号公報及び特開平9−297313号公報参照)等が知られている。これらのうち、静電気やほこりを発生することなく、均一な液晶配向を実現でき、かつ精密に液晶配向方向を制御できる上記光配向法の開発が進められている。この光配向法によると、放射線照射時にフォトマスク等を使用することで、一つの基板上に液晶配向方向が異なる複数の領域を任意に形成することができる。しかし、ポリイミド樹脂、ポリアミック酸等を用いた従来の光配向法は、感度が不十分であり、多大な積算露光量が必要であるという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−91277号公報
【特許文献2】特開平1−120528号公報
【特許文献3】特開平6−287453号公報
【特許文献4】特開2003−307736号公報
【特許文献5】特開平9−297313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、放射線感度に優れ、低照射量の光配向法で良好な液晶配向性を発現できる液晶配向剤を提供することである。また、そのような液晶配向剤を用いた液晶配向膜の形成方法及び液晶配向膜、その液晶配向膜を備え、液晶配向性に加えて電気的特性等の諸性能にも優れる液晶表示素子、さらにはその液晶配向剤の材料となる化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた発明は、[A]下記式(1)で表される基を含む構造単位(I)を有する重合体(以下、「[A]重合体」ともいう)を含有する液晶配向剤である。
【化1】

(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は1価の有機基である。)
【0007】
本発明の液晶配向剤は、上記特定構造の基を有する[A]重合体を含有することで、放射線感度が高くなり、その結果、低照射量で良好な液晶配向性を有する液晶配向膜を形成することができる。なお、上記特定構造の基を有する[A]重合体を含有することで放射線感度がより高くなることの理由は必ずしも明らかではないが、例えば、以下のように推定される。[A]重合体が上記式(1)で表されるようなシクロブタン骨格を有していることで、例えばディールス・アルダー反応により[A]重合体の主鎖の分解等が起こることに起因して、偏光による光配向が高感度で起こることが考えられる。さらに、上記シクロブタン骨格の近傍に位置するベンゼン環による立体障害のため、均一な光配向がより起こりやすくなり、これらの結果、より少ない照射量での優れた光配向が可能になることが考えられる。このように、当該液晶配向剤によれば、光配向に必要な放射線照射量を低減することができるため、低コスト化が実現できる。さらに、当該液晶配向剤により形成される液晶配向膜を用いると、電気的特性等の諸性能にも優れる液晶表示素子を製造することができる。
【0008】
[A]重合体は、ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(A1)」ともいう)、ポリイミド(以下、「ポリイミド(A2)」ともいう)又はポリエステル(以下、「ポリエステル(A3)」ともいう)であることが好ましい。ここで、ポリアミック酸とは、アミック酸構造を含む構造単位を有する重合体であり、上記アミック酸構造がイミド化しておらず、イミド化率が0%の重合体をいう。また、ポリイミドとは、上記ポリアミック酸が有するアミック酸構造の少なくとも1つがイミド化した重合体をいう。
【0009】
上記構造単位(I)としては、下記式(2)、式(3)又は式(4)で表されるものが好ましい。
【化2】

(式(2)〜(4)中、R及びRは、上記式(1)と同義である。R〜Rは、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基である。X及びYは、それぞれ独立して、4価の有機基である。Zは、2価の有機基である。)
【0010】
当該液晶配向剤は、[A]重合体が上記特定構造の構造単位(I)を有することで、より高感度の光配向性を備えることができる。
【0011】
本発明の液晶配向剤は、光配向用として好適に用いられる。当該液晶配向剤は、光配向用とした場合に、放射線に対する感度が高く、低照射量の放射線により優れた液晶配向能を有する液晶配向膜を形成することができる。
【0012】
本発明の液晶配向膜の形成方法は、
(1)本発明の液晶配向剤を用い、基板上に塗膜を形成する工程、及び
(2)上記塗膜に偏光した紫外線を照射し、液晶配向能を付与する工程
を含む。
【0013】
本発明の形成方法によれば、少量の放射線照射によっても光配向が可能であるため液晶配向膜を効率よく製造でき、生産性が高く、また製造コストの削減に資する。
【0014】
本発明は、当該液晶配向剤により形成される液晶配向膜も含む。本発明の液晶配向膜は、当該液晶配向剤により形成されるため、放射線に対する感度が高く、その形成工程において、低照射量の放射線により液晶配向能を付与することができるため、生産効率がよく、製造コストも削減できる。
【0015】
本発明の液晶表示素子は、当該液晶配向膜を備える。当該液晶表示素子は、上述の放射線感度及び液晶配向性に優れる当該液晶配向膜を備えるため、従来より安価に製造することができ、電気的特性等の諸性能も十分に保持することができる。
【0016】
本発明の化合物は、下記式(5)で表される。
【化3】

(式(5)中、R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、又は1価の有機基である。R11及びR12は、それぞれ独立して、水酸基、アミノ基、又は1価の有機基である。)
【0017】
本発明の化合物を用いることで、当該液晶配向剤が含有する[A]重合体に上記式(1)で表される特定構造の基を導入することができる。
【0018】
上記R13及びR14は、それぞれ独立して、下記式(6)又は式(7)で表されることが好ましい。
【化4】

(式(6)中、R13は、単結合又は2価の有機基である。式(7)中、R14は、単結合又は2価の有機基である。)
【0019】
本発明の化合物が、上記特定構造であることで、効率的に[A]重合体の製造を行うことができる。
【0020】
なお、ここで「光配向用」における「光」と、「放射線」とは、同義で用いられ、可視光線、紫外線、遠紫外線、X線、荷電粒子線等を含む概念である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の液晶配向剤は、放射線感度が高く、低照射量の放射線照射で、優れた液晶配向性を有する液晶配向膜を形成することができるため、その生産効率がよく、生産コストを削減することができる。さらに、本発明の液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜を備える液晶表示素子は、電気的特性等の諸性能にも優れる。従って、本発明の液晶配向剤、液晶配向膜、この液晶配向膜の形成方法及び液晶表示素子は、IPS型、FFS型等の液晶表示素子に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記式(1)で表される基を含む構造単位(I)を有する[A]重合体を含有する。当該液晶配向剤は、上記特定構造の基を有する[A]重合体を含有することで、放射線感度が向上し、低照射量の放射線で、優れた液晶配向性を有する液晶配向膜を形成することができる。またこの液晶配向膜を備える液晶表示素子は、電気的特性等の諸性能にも優れている。本発明の液晶配向剤は、本発明の効果を損なわない限り、必須成分である[A]重合体以外に、その他の成分を含有することができる。以下、各成分について詳述する。
【0023】
<[A]重合体>
[A]重合体は、構造単位(I)を有する重合体である。[A]重合体としては、上記構造単位(I)を有する重合体であれば特に限定されないが、ポリアミック酸(A1)、ポリイミド(A2)又はポリエステル(A3)であることが好ましい。[A]重合体が、構造単位(I)を有するポリアミック酸(A1)、ポリイミド(A2)又はポリエステル(A3)であることにより、当該液晶配向剤は、優れた液晶配向性を有する液晶配向膜を形成することができる。
【0024】
[構造単位(I)]
構造単位(I)は、上記式(1)で表される基を含む。
【0025】
上記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。
【0026】
上記R及びRで表される1価の有機基としては、例えば炭素数1〜10の鎖状炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、これらの基とヘテロ原子とを組み合わせてなる基等が挙げられる。
【0027】
上記炭素数1〜10の鎖状炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基等が挙げられる。
【0028】
上記炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が挙げられる。
【0029】
上記炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0030】
上記ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。
【0031】
上記R及びRとしては、水素原子、炭素数1〜10の鎖状炭化水素基及び炭素数3〜10の脂環式炭化水素基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0032】
構造単位(I)としては、上記式(1)で表される基を含む構造単位であれば、特に限定されないが、上記式(2)〜(4)で表される構造単位であることが好ましい。
【0033】
上記式(2)〜(4)中、R及びRは、上記式(1)と同義である。R〜Rは、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基である。X及びYは、それぞれ独立して、4価の有機基である。Zは、2価の有機基である。
【0034】
上記R〜Rで表される2価の連結基としては、例えば炭素数1〜20の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基、炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基、これらの基とヘテロ原子とを組み合わせてなる基、ヘテロ原子等が挙げられる。
【0035】
上記炭素数1〜20の2価の鎖状炭化水素基としては、例えばメチレン基、エタンジイル基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基、ヘキサンジイル基、オクタンジイル基等が挙げられる。
【0036】
上記炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロパンジイル基、シクロブタンジイル基、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基、シクロオクタンジイル基等が挙げられる。
【0037】
上記炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基としては、例えばフェニレン基、ナフタレニレン基、アントラセニレン基等が挙げられる。
【0038】
上記R〜Rで表される2価の連結基が有してもよい上記ヘテロ原子、及びR〜Rで表されるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。これらのうち、酸素原子が好ましい。
【0039】
上記R〜Rとしては、炭素数1〜20の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基とヘテロ原子とを組み合わせてなる基が好ましく、炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基とヘテロ原子とを組合せてなる基がより好ましく、フェニレノキシ基がさらに好ましい。
【0040】
上記X及びYで表される4価の有機基としては、例えば炭素数1〜20の4価の脂肪族鎖状炭化水素基、炭素数4〜20の4価の脂環式炭化水素基、炭素数6〜20の4価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0041】
上記炭素数1〜20の4価の脂肪族鎖状炭化水素基としては、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン等から4つの水素原子を除いた基等が挙げられる。
【0042】
上記炭素数4〜20の4価の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、ビシクロオクタン、アダマンタン、トリシクロウンデカン等から4つの水素原子を除いた基等が挙げられる。これらのうち、シクロブタン、シクロペンタン、ビシクロオクタン、トリシクロウンデカンから4つの水素原子を除いた基が好ましく、シクロペンタンから4つの水素原子を除いた基がより好ましい。
【0043】
上記炭素数6〜20の4価の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン等から4つの水素原子を除いた基等が挙げられる。これらのうち、ベンゼンから4つの水素原子を除いた基が好ましい。
【0044】
上記X及びYとしては、炭素数4〜20の4価の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数4〜8の4価の脂環式炭化水素基がより好ましく、シクロブタン、シクロペンタン、ビシクロオクタンから4つの水素原子を除いた基がさらに好ましい。
【0045】
上記Zで表される2価の有機基としては、上記X及びYで表される4価の有機基の説明において例示した4価の炭化水素基に2つの水素原子を加えた基等が挙げられる。
【0046】
[A]重合体における構造単位(I)の含有率としては、10モル%以上100モル%以下が好ましく、60モル%以上100モル%以下がより好ましく、80モル%以上100モル%以下がさらに好ましく、90モル%以上100モル%以下が特に好ましい。[A]重合体における構造単位(I)の含有率を上記特定範囲とすることで、当該液晶配向剤は、放射線感度をより向上させることができる。
【0047】
上記構造単位(I)は、後述する[A]重合体の合成方法で詳細に説明するように、上記式(1)で表される基を含むジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを重合させること、上記式(1)で表される基を含むジオール化合物又はエポキシ化合物とジカルボン酸とを脱水縮合させること等により得られる。
【0048】
[A]重合体としては、ポリアミック酸(A1)、ポリイミド(A2)又はポリエステル(A3)であることが好ましく、上記ポリアミック酸(A1)、ポリイミド(A2)及びポリエステル(A3)のうち、これらの重合体が有する構造単位(I)が上記式(2)、式(3)又は式(4)で表されることがより好ましい。
【0049】
ポリアミック酸(A1)としては、上記構造単位(I)が上記式(2)で表される重合体であることが好ましい。また、ポリイミド(A2)としては、上記構造単位(I)が上記式(3)で表される重合体であることが好ましいが、構造単位(I)として、上記式(3)で表される構造単位に加えて上記式(2)で表される構造単位を有していてもよい。さらに、ポリエステル(A3)としては、上記構造単位(I)が上記式(4)で表される重合体であることが好ましい。
【0050】
<[A]重合体の合成方法>
[A]重合体の合成方法として、ポリアミック酸(A1)、ポリイミド(A2)及びポリエステル(A3)の合成方法について以下に詳述するが、本発明における[A]重合体の合成方法は、これらの合成方法に限定されるものではない。
【0051】
[ポリアミック酸(A1)の合成方法]
ポリアミック酸(A1)は、例えば上記式(1)で表される基を含むジアミン化合物と、テトラカルボン酸二無水物とを有機溶媒中で反応させることにより合成できる。
【0052】
上記式(1)で表される基を含むジアミン化合物は、例えば下記スキームに従って合成することができる。
【0053】
【化5】

【0054】
例えばヒドロキシクマリンと蟻酸とを混合し、80℃において500W高圧水銀ランプを用いて60時間光照射後、蒸留水等と混合することで再沈殿させ、得られた固体をジメチルアセトアミド等から再結晶させることにより、上記式(B−1)で表される化合物が得られる。
【0055】
化合物1、水酸化ナトリウム、トルエン及びN,N−ジメチルホルムアミド等を混合し、反応させて得られた反応物に、1,4−ジニトロベンゼンのN,N−ジメチルホルムアミド溶液を滴下し、攪拌下で反応させる。反応生成物を、ジクロロメタンで抽出し、洗浄、乾燥等を行い、エタノール等から再結晶させることにより、上記式(B−2)で表される化合物が得られる。
【0056】
化合物2、亜鉛、塩化アンモニウム、テトラヒドロフラン(THF)、エタノール等を混合し、反応させて得られた反応生成物を、酢酸エチル等で抽出し、洗浄後、THFに再溶解させ、不溶成分を除去した後、濃縮することにより上記式(1)で表される基を含むジアミン化合物(上記式(B−3)で表される化合物)が得られる。
【0057】
上記テトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの他に、特願2009−157556号に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0058】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0059】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン等が挙げられる。
【0060】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物等が挙げられる他、特願2010−97188号に記載のテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0061】
これらのテトラカルボン酸二無水物のうち、脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましく、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がより好ましく、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物が特に好ましい。
【0062】
2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物又は1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の使用量としては、全テトラカルボン酸二無水物に対して、10モル%以上含が好ましく、20モル%以上がより好ましく、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物又は1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物のみからなることがさらに好ましい。
【0063】
本発明で用いられるポリアミック酸(A1)の合成には、上記式(1)で表される基を含むジアミン化合物と共に、他のジアミン化合物を併せて用いることもできる。
【0064】
他のジアミン化合物としては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン、芳香族ジアミン等が挙げられる。これらの他のジアミン化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0065】
脂肪族ジアミンとしては、例えばメタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0066】
脂環式ジアミンとしては、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0067】
ジアミノオルガノシロキサンとしては、例えば1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサン等が挙げられるほか、特願2009−97188号に記載のジアミンが挙げられる。
【0068】
芳香族ジアミンとしては、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸、ドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ドデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、2,4−ジアミノーN,N―ジアリルアニリン、4−アミノベンジルアミン、3−アミノベンジルアミン及び下記式で表されるジアミン化合物等が挙げられる。
【0069】
【化6】

【0070】
上記式中、R15は、炭素数1〜3の2価のアルキル基、*−O−、*−COO−又は*−OCO−である。但し、*がジアミノフェニル基と結合する。rは、0又は1である。sは、0〜2の整数である。tは、1〜20の整数である。
【0071】
ポリアミック酸(A1)の合成反応に用いられるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物(上記式(1)で表される基を含むジアミン化合物、及びその他のジアミン化合物の合計)との使用割合としては、ジアミン化合物に含まれるアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2当量〜2当量が好ましく、0.3当量〜1.2当量がより好ましい。
【0072】
合成反応は、有機溶媒中において行うことが好ましい。反応温度としては、−20℃〜150℃が好ましく、0℃〜100℃がより好ましい。反応時間としては、0.5時間〜24時間が好ましく、2時間〜12時間がより好ましい。
【0073】
有機溶媒としては、合成されるポリアミック酸を溶解できるものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド等の非プロトン系極性溶媒;m−クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノール等のフェノール系溶媒が挙げられる。
【0074】
有機溶媒の使用量(a)としては、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の総量(b)と有機溶媒の使用量(a)の合計(a+b)に対して、0.1質量%〜50質量%が好ましく、5質量%〜30質量%がより好ましい。
【0075】
ポリアミック酸(A1)における上記テトラカルボン酸二無水物と上記ジアミン化合物に由来する上記式(2)で表される構造単位(I)の含有割合は、全重合体の全構造単位に対して、50モル%〜100モル%であることが好ましく、60モル%〜100モル%であることがより好ましく、80モル%〜100モル%であることがさらに好ましい。
【0076】
反応後に得られるポリアミック酸溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に用いてもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離した上で液晶配向剤の調製に用いてもよく、単離したポリアミック酸を精製した上で液晶配向剤の調製に用いてもよい。ポリアミック酸の単離方法としては、例えば反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで得られる析出物を減圧下乾燥する方法、反応溶液をエバポレーターで減圧留去する方法等が挙げられる。ポリアミック酸の精製方法としては、単離したポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解し、貧溶媒で析出させる方法、エバポレーターで有機溶媒等を減圧留去する工程を1回若しくは複数回行う方法が挙げられる。
【0077】
上記ポリアミック酸の合成において、上記テトラカルボン酸二無水物及びジミアン化合物に加えて、適当な分子量調節剤を用いて末端修飾型の重合体を合成してもよい。かかる末端修飾型の重合体とすることにより、本発明の効果を損なうことなく液晶配向剤の塗布性(印刷性)をさらに改善することができる。
【0078】
上記分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0079】
酸一無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物等が挙げられる。
【0080】
モノアミン化合物としては、アニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン等が挙げられる。
【0081】
モノイソシアネート化合物としては、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられる。
【0082】
上記分子量調節剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。
【0083】
[ポリイミド(A2)の合成方法]
ポリイミド(A2)は、その前駆体であるポリアミック酸(A1)が有しているアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造が併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミド(A2)は、そのイミド化率が30%以上であることが好ましく、50%〜99%であることがより好ましく、65%〜99%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0084】
ポリイミド(A2)は、上述のようにして合成されたポリアミック酸(A1)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0085】
ポリアミック酸(A1)の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸(A1)を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。このうち後者の方法によることが好ましい。
【0086】
上記ポリアミック酸(A1)の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸(A1)のアミック酸構造の1モルに対して0.01モル〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01モル〜10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸(A1)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は好ましくは0℃〜180℃であり、より好ましくは10℃〜150℃である。反応時間は好ましくは1.0時間〜120時間であり、より好ましくは2.0時間〜30時間である。
【0087】
得られたポリイミド(A2)を含有する反応溶液は、これをそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミド(A2)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミド(A2)を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。これらの精製操作は公知の方法に従って行うことができる。
【0088】
[ポリエステル(A3)の合成方法]
ポリエステル(A3)は、例えば上記式(1)で表される基を含むジオール化合物及びジカルボン酸化合物に触媒を加え、高温常圧でエステル化反応を行った後、減圧してエチレングリコールを留去する方法等により得られる。
【0089】
上記式(1)で表される基を含むジオール化合物は、ポリアミック酸(A1)における上記式(1)で表される基を含むジアミン化合物の合成の中間生成物として得られる。即ち、上記ジアミン化合物の合成方法の説明中の式(B−1)で表される化合物が、上記式(1)で表される基を含むジオール化合物に該当する。従って、このジオール化合物の合成方法としては、式(B−1)で表される化合物の合成方法を用いることができる。
【0090】
上記ジカルボン酸化合物としては、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(カルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0091】
上記触媒としては、例えば酢酸亜鉛二水和物が用いられる。
【0092】
得られたポリエステル(A3)を含有する反応溶液は、これをそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミド(A3)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミド(A3)を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。これらの精製操作は公知の方法に従って行うことができる。
【0093】
以上のようにして得られるポリアミック酸(A1)、ポリイミド(A2)及びポリエステル(A3)は、これを濃度10質量%の溶液としたときに、20mPa・s〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、30mPa・s〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。上記[A]重合体の溶液粘度(mPa・s)は、これらの重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0094】
<その他の成分>
本発明の液晶配向剤は、[A]重合体を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば[A]重合体以外のその他の重合体、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」ともいう)、官能性シラン化合物等が挙げられる。
【0095】
(その他の重合体)
上記その他の重合体は、溶液特性及び電気特性の改善のために使用することができる。かかるその他の重合体は、上記ポリアミック酸(A1)、上記ポリイミド(A2)及びポリエステル(A3)等の[A]重合体以外の重合体であり、例えば上記式(1)で表される構造を有さないジアミン化合物と、テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリアミック酸(以下、「他のポリアミック酸」ともいう)、上記他のポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミド(以下、「他のポリイミド」ともいう)、上記式(1)で表される構造を有さないポリアミック酸エステル、ポリエステル(以下、「他のポリエステル」ともいう)、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらのうち、他のポリアミック酸、他のポリイミド、他のポリエステルが好ましく、他のポリアミック酸、他のポリイミドがより好ましい。
【0096】
上記他のポリアミック酸又は他のポリイミドを合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、本発明に用いられるポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物として上述したものと同様のものを挙げることができるが、好ましくは1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオンよりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0097】
上記他のポリアミック酸又は他のポリイミドを合成するために用いられるジアミンとしては、本発明に用いられるポリアミック酸(A1)を合成する際に使用してもよい他のジアミン化合物として例示したもののうちから選択される少なくとも1種を使用することができる。これらのうち、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸及び1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジンよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0098】
その他の重合体の使用割合としては、[A]重合体に対して50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0099】
(エポキシ化合物)
上記エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−シクロヘキシルアミン等を好ましいものとして挙げることができる。
【0100】
これらエポキシ化合物の配合割合は、重合体の合計100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、より好ましくは0.1〜30質量部である。
【0101】
(官能性シラン化合物)
上記官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、2―グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2―グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0102】
これら官能性シラン化合物の配合割合は、重合体の合計100質量部に対して、好ましくは2質量部以下、より好ましくは0.02〜0.2質量部である。
【0103】
<液晶配向剤の調製>
本発明の液晶配向剤は、上記ポリアミック酸(A1)、ポリイミド(A2)、ポリエステル(A3)等の[A]重合体、及び必要に応じて任意的に配合されるその他の成分が、好ましくは有機溶媒中に溶解含有されて構成される。
【0104】
本発明の液晶配向剤に使用される有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0105】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10質量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、固形分濃度が1質量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得ることができず、一方固形分濃度が10質量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜を得ることができず、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣るものとなる。
【0106】
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には固形分濃度1.5〜4.5質量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9質量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12mPa・s〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1〜5質量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3mPa・s〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
【0107】
本発明の液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは10℃〜50℃であり、より好ましくは20℃〜30℃である。
【0108】
<液晶配向膜>
本発明の液晶配向膜は、当該液晶配向剤により形成される。そのため形成工程において、低照射量の放射線により優れた液晶配向能を付与することができる。さらに放射線の照射中及び照射後の加熱工程が不要であるため、生産効率がよく製造コストも削減できる。
【0109】
<液晶配向膜の形成方法>
本発明の液晶配向剤は、液晶配向膜の材料として広く用いることができ、特に光配向法による液晶配向膜の材料として好適に使用することができる。また、TN型若しくはSTN型の液晶セルを有する液晶表示素子、又はIPS型、FFS型等の液晶セルを有する横電界方式の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜を形成するために好適に使用することができる。本発明の液晶配向剤は、特にIPS型、FFS型の液晶セルを有する液晶表示素子に適用したときに、本発明の効果が最大限に発揮されることとなり好ましい。
【0110】
本発明の液晶配向膜の形成方法は、
(1)本発明の液晶配向剤を用い、基板上に塗膜を形成する工程(以下、「工程(1)」ともいう)、及び
(2)上記塗膜に偏光した紫外線を照射し、液晶配向能を付与する工程(以下、工程(2)ともいう)
を含む。以下、各工程について詳述する。
【0111】
[工程(1)]
ここで、本発明の液晶配向剤を、TN型又はSTN型の液晶セルを有する液晶表示素子に適用する場合、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を一対として、その各透明性導電膜形成面上に、本発明の液晶配向剤を塗布して塗膜を形成する。一方、本発明の液晶配向剤を、IPS型、FFS型の液晶セルを有する液晶表示素子に適用する場合には、片面に透明導電膜又は金属膜が櫛歯状にパターニングされた電極を有する基板と、電極が設けられていない対向基板とを一対とし、櫛歯状電極の形成面と、対向基板の片面とに、それぞれ本発明の液晶配向剤を塗布して塗膜を形成する。
【0112】
いずれの場合も、上記の基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスの如きガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートの如きプラスチックからなる透明基板等を用いることができる。上記透明導電膜としては、例えばIn−SnOからなるITO膜、SnOからなるNESA(登録商標)膜等を用いることができる。上記金属膜としては、例えばクロム等の金属からなる膜を使用することができる。透明導電膜及び金属膜のパターニングには、例えばパターンなし透明導電膜を形成した後にフォト・エッチング法、スパッタ法等によりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法等によることができる。
【0113】
基板上への液晶配向剤の塗布に際して基板、導電膜及び電極と、塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板及び電極上に、予め官能性シラン化合物、チタネート等を塗布しておいてもよい。
【0114】
基板上への液晶配向剤の塗布は、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法、インクジェット印刷法等の適宜の塗布方法により行うことができ、次いで、塗布面を予備加熱(プレベーク)し、次いで焼成(ポストベーク)することにより塗膜を形成する。プレベーク条件は、例えば40℃〜120℃において0.1分〜5分であり、ポストベーク条件は、好ましくは120℃〜300℃、より好ましくは150℃〜250℃において、好ましくは5分〜200分、より好ましくは10分〜100分である。ポストベーク後の塗膜の膜厚は、好ましくは0.001μm〜1μmであり、より好ましくは0.005μm〜0.5μmである。
【0115】
[工程(2)]
このようにして形成された塗膜に、偏光した放射線を照射することにより、液晶配向能を付与する。ここで、放射線としては、例えば150nm〜800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができるが、200nm〜400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。
【0116】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、Hg−Xeランプ、エキシマーレーザー等を使用することができる。上記の好ましい波長領域の紫外線は、上記光源を、例えばフィルター、回折格子等と併用する手段等により得ることができる。
【0117】
本発明の液晶配向剤を用いると、通常10,000J/m以上の紫外線照射が必要とされるところ、8000J/mであっても良好な液晶配向能を付与することができ、液晶表示素子の生産性向上と製造コストの削減に資する。
【0118】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、当該液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜を備えるため、従来より少ない放射線照射量で液晶配向能を獲得することができる。そのため、当該液晶配向膜を備える液晶表示素子は、従来より安価に製造することができる。本発明の液晶表示素子は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0119】
上記のようにして液晶配向膜が形成された一対の基板を準備し、この一対の基板間に液晶が狭持された構成の液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。
【0120】
第一の方法は、従来から知られている方法である。それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止することにより、液晶セルを製造することができる。
【0121】
第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に例えば紫外光硬化性のシール材を塗布し、さらに液晶配向膜面上に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより、液晶セルを製造することができる。
【0122】
いずれの方法による場合でも、次いで、液晶セルを、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
【0123】
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより、本発明の液晶表示素子を得ることができる。ここで、液晶配向膜が形成された2枚の基板における、照射した直線偏光放射線の偏光方向のなす角度及びそれぞれの基板と偏光板との角度を適当に調整することにより、所望の液晶表示素子を得ることができる。
【0124】
上記シール剤としては、例えばスペーサーとしての酸化アルミニウム球及び硬化剤を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。
【0125】
上記液晶としては、例えばネマティック型液晶、スメクティック型液晶等を用いることができる。ネマティック型液晶を形成する正の誘電異方性を有するものが好ましく、例えばビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶等が用いられる。また上記液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネート等のコレステリック液晶;
商品名「C−15」、「CB−15」(以上、メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;
p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメート等の強誘電性液晶等を、さらに添加して使用してもよい。
【0126】
液晶セルの外側に使用される偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と呼ばれる偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板、又はH膜そのものからなる偏光板等を挙げることができる。このようにして製造された本発明の液晶表示素子は、表示特性、電気特性等の諸性能に優れるものである。
【0127】
<化合物>
本発明の化合物は、上記式(5)で表される化合物である。当該化合物を用いることで、当該液晶配向剤が含有する[A]重合体に上記式(1)で表される特定構造の基を導入することができる。
【0128】
上記式(5)中、R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、又は1価の有機基である。R11及びR12は、それぞれ独立して、水酸基、アミノ基、又は1価の有機基である。
【0129】
上記R及びR10で表される1価の有機基については、[A]重合体の説明中、上記式(1)のR及びRで表される1価の有機基の説明を適用できる。
【0130】
上記R11及びR12で表される1価の有機基としては、例えば炭素数1〜20の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6〜20の1価の芳香族炭化水素基、これらの基とヘテロ原子とを組み合わせてなる基等が挙げられる。なお、上記鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基が芳香族炭化水素基有する水素原子の一部又は全部は、置換されていてもよい。
【0131】
上記炭素数1〜20の1価の鎖状炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、n−オクチル基、i−オクチル基等が挙げられる。
【0132】
上記炭素数3〜20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0133】
上記式6から20の1価の芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、ナフタレニル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0134】
上記へテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。これらのうち、酸素原子が好ましい。
【0135】
上記鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基が芳香族炭化水素基有する水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい置換基としては、例えば水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシ基等が挙げられる。これらのうち、水酸基、アミノ基が好ましい。
【0136】
上記R11及びR12としては、上記式(6)又は式(7)で表される基が好ましい。
【0137】
上記式(6)中、R13は、単結合又は2価の有機基である。式(7)中、R14は、単結合又は2価の有機基である。
【0138】
上記R13及びR14で表される2価の有機基としては、例えば炭素数1〜20の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基、炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基、これらの基とヘテロ原子とを組み合わせてなる基等が挙げられる。
【0139】
上記炭素数1〜20の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基、炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基としては、それぞれ[A]重合体の説明中、上記式(2)〜(4)のR〜Rで表されるそれぞれの基として例示した基と同様の基を挙げることができる。
【0140】
上記R13としては、単結合が好ましい。
【0141】
上記R14としては、炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基と、ヘテロ原子とを組み合わせてなる基が好ましく、フェニレン基と酸素原子とを組合せてなる基がより好ましい。
【0142】
本発明の化合物の合成方法としては、例えば、上記ポリアミック酸(A1)の合成方法の説明中、上記式(1)で表される基を含むジアミン化合物の合成方法として記載した方法と同様の方法等が挙げられる。即ち、上記方法により合成される上記式(B−1)〜(B−3)で表される化合物が、本発明の化合物に該当する。
【実施例】
【0143】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0144】
<化合物の合成>
下記スキームに従って、下記式(B−1)〜(B−3)で表される化合物を合成した。
【0145】
【化7】

【0146】
[実施例1]
7−ヒドロキシクマリン16.4g(0.10モル)及び蟻酸200mLを混合し、80℃において、500W高圧水銀ランプを用いて60時間光照射した。反応混合物を蒸留水1,000mLと混合することで再沈澱し、吸引ろ過により固体を得た。得られた固体をジメチルアセトアミドから再結晶することにより、上記式(B−1)で表される化合物(B−1)9.9g(0.031モル)を得た。
【0147】
[実施例2]
化合物(B−1)9.6g(0.030モル)、水素化ナトリウムの50重量%オイル懸濁液3.168g(0.066モル)、トルエン54mL及びN,N−ジメチルホルムアミド36mLを混合し、80℃において1時間撹拌下に反応を行った。次いで、反応混合物を20℃まで冷却した後、ここに、1,4−ジニトロベンゼン10.5g(0.063モル)のN,N−ジメチルホルムアミド18mL溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃において64時間撹拌下に反応を行った。反応混合物を5℃まで冷却した後、ここに、蒸留水270mLを加え、ジクロロメタン180mLで抽出した。ジクロロメタン層を蒸留水150mLで3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた固体をエタノールから再結晶することにより、上記式(B−2)で表される化合物(B−2)10.8g(0.019モル)を得た。
【0148】
[実施例3]
窒素雰囲気下、化合物(B−2)8.5g(0.015モル)、亜鉛19.6g(0.300モル)、塩化アンモニウム3.2g(0.060モル)、THF60mL、エタノール10mLを混合し、氷浴中で攪拌した。蒸留水35mLを30分かけて滴下した後、25℃で5時間攪拌し反応させた。ろ過により亜鉛等を除去した後、酢酸エチル100mLと混合し、蒸留水50mLで4回洗浄した。THF50mLに再度溶解させ、不溶性成分をセライトろ過により除去した。ろ液を濃縮し、上記式(B−3)で表される化合物(B−3)6.1g(0.012モル)を得た。
【0149】
<ポリアミック酸(A1)の合成>
[合成例1]
2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物22.4g(0.100モル)と化合物(B−3)50.6g(0.100モル)をN−メチル−2−ピロリドン292gに溶解させ、60℃で5時間反応させた。次いで、反応物を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥することにより、ポリアミック酸(A1−1)を68g(収率93.1%)得た。
【0150】
<ポリイミド(A2)の合成>
[合成例2]
ポリアミック酸(A1−1)を10gとり、これにN−メチル−2−ピロリドン90g、ピリジン2.1g及び無水酢酸2.7gを添加し、120℃において4時間反応させてイミド化を行った。次いで、反応混合液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下で15時間乾燥することにより、イミド化率64%のポリイミド(A2−1)を7g得た。
【0151】
下記比較合成例には、下記のジアミン化合物を用いた。
[ジアミン化合物]
D−1:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
D−2:p−フェニレンジアミン
D−3:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
【0152】
[比較合成例1]
1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物19.61g(0.100モル)と、ジアミン化合物(D−1)41.05g(0.100モル)とをN−メチル−2−ピロリドン343.74gに溶解し、室温で6時間反応させた。次いで、反応混合物を大過剰のメタノールと混合し、反応生成物を沈澱させた。その後、メタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥して、ポリアミック酸(a−1)60g(収率98.9%)を得た。
【0153】
[比較合成例2]
ジアミン化合物を(D−2)とした以外は比較合成例1と同様にしてポリアミック酸(a−2)を得た。
【0154】
[比較合成例3]
ジアミン化合物を(D−3)とした以外は比較合成例1と同様にしてポリアミック酸(a−3)を得た。
【0155】
<液晶配向剤の調製>
[実施例4]
上記合成例1で得たポリアミック酸(A1−1)を含有する溶液に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)及びブチルセロソルブ(BC)を加え、さらにエポキシ化合物としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタンをポリアミック酸(A1−1)の合計100質量部に対して20質量部加えて十分に撹拌し、溶媒組成がNMP:BC=60:40(質量比)、固形分濃度2.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、液晶配向剤(S−1)を調製した。
【0156】
[実施例5及び比較例1〜3]
[A]成分として、ポリアミック酸(A1−1)に代えて、表1に記載の重合体を使用した以外は実施例4と同様にして液晶配向剤(S−2)及び(s−1)〜(s−3)を調製した。
【0157】
<液晶表示素子の製造>
上記で調製した液晶配向剤(S−1〜S−2及びs−1〜s−3)をそれぞれITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、膜厚が0.1μmになるようにスピンナーを用いて塗布し、200℃で1時間乾燥して塗膜を形成した。この塗膜表面に、Hg−Xeランプを用いて、254nmの輝線を含む偏光の紫外線8,000J/m、10,000J/m、又は50,000J/mを、基板法線方向から照射し、液晶配向膜を形成した。次に、上記光照射処理を行った一対の基板について、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した後、光照射方向が反平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、一対の基板間に液晶注入口よりネマティック型液晶(メルク社製、ZLI−1565)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを150℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の偏光紫外線の光軸の基板面への射影方向と一方は直交し、もう一方は平行となるように貼り合わせて液晶表示素子を作製した。
【0158】
上記それぞれの液晶表示素子について、下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0159】
<評価>
[液晶配向性]
液晶表示素子において、電圧をオン・オフ(印加・解除)したときの異常ドメインの有無を偏光顕微鏡で観察し、異常ドメインのない場合を「良好」、異常ドメインがひとつでもある場合を「不良」と判定した。
【0160】
[電圧保持率]
偏光紫外線照射量8,000J/mで作製した液晶表示素子に5Vの電圧を60マイクロ秒の印加、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置は東陽テクニカ社製VHR−1を使用した。電圧保持率が90%以上の場合を「良好」、それ以外の場合を「不良」と判断した。
【0161】
【表1】

【0162】
表1に示すように、実施例の液晶配向剤は、放射線に対する感度が高く、8,000J/mの低照射量でも、得られる液晶配向膜を備える液晶表示素子の液晶配向性は良好となった。また、電圧保持率も良好であった。それと比較して、比較例では8,000J/mの低照射量では異常ドメインが観察され、液晶配向性は不良となった。以上より本発明の液晶配向剤は、放射線感度に優れ、低照射量の放射線照射で、優れた液晶配向性を有する液晶配向膜を形成することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の液晶配向剤は、放射線感度が高く、低照射量の放射線照射で、優れた液晶配向性を有する液晶配向膜を形成することができるため、その生産効率がよく、生産コストを削減することができる。さらに、本発明の液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜を備える液晶表示素子は、電気的特性等の諸性能にも優れる。従って、本発明の液晶配向剤、液晶配向膜、この液晶配向膜の形成方法及び液晶表示素子は、IPS型、FFS型等の液晶表示素子に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]下記式(1)で表される基を含む構造単位(I)を有する重合体
を含有する液晶配向剤。
【化1】

(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は1価の有機基である。)
【請求項2】
[A]重合体が、ポリアミック酸、ポリイミド又はポリエステルである請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
上記構造単位(I)が、下記式(2)、式(3)又は式(4)で表される請求項2に記載の液晶配向剤。
【化2】

(式(2)〜(4)中、R及びRは、上記式(1)と同義である。R〜Rは、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基である。X及びYは、それぞれ独立して、4価の有機基である。Zは、2価の有機基である。)
【請求項4】
光配向用である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
(1)請求項4に記載の液晶配向剤を用い、基板上に塗膜を形成する工程、及び
(2)上記塗膜に偏光した紫外線を照射し、液晶配向能を付与する工程
を含む液晶配向膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜。
【請求項7】
請求項6に記載の液晶配向膜を備える液晶表示素子。
【請求項8】
下記式(5)で表される化合物。
【化3】

(式(5)中、R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、又は1価の有機基である。R11及びR12は、それぞれ独立して、水酸基、アミノ基、又は1価の有機基である。)
【請求項9】
上記式(5)におけるR11及びR12が、それぞれ独立して、下記式(6)又は式(7)で表される請求項8に記載の化合物。
【化4】

(式(6)中、R13は、単結合又は2価の有機基である。式(7)中、R14は、単結合又は2価の有機基である。)

【公開番号】特開2013−113935(P2013−113935A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258201(P2011−258201)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】