説明

液晶配向剤およびそれを用いた液晶配向膜

塗布後の乾燥温度によらず良好な塗膜均一性を与える液晶配向剤、および良好な塗膜均一性を有する液晶配向膜を提供する。 ポリアミック酸または可溶性ポリイミドから選ばれる少なくとも一種類のポリマーと、ジエチレングリコールジエチルエーテルと、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルとを含有することを特徴とする液晶配向剤、この液晶配向剤をフレキソ印刷法によって印刷して得られる液晶配向膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は液晶表示素子に用いる液晶配向剤およびそれを用いた液晶配向膜に関する。さらに詳しくは、塗膜形成時の乾燥温度が変化した場合でも良好な塗膜均一性を与える液晶配向剤およびそれを用いた液晶配向膜に関する。
【背景技術】
現在、液晶表示素子は、薄型・軽量を実現する表示デバイスとして、パソコンのディスプレイやテレビなどに広く使用されており、通常このような液晶表示素子には、ポリアミック酸やポリイミドの液晶配向膜が多く使用されている。
一般的に、これらの液晶配向膜は、ポリアミック酸やポリイミドを有機溶媒に溶解させた液晶配向剤を、フレキソ印刷などにより基板に塗布した後、仮乾燥、焼成を行うことによって形成される。この際、液晶配向剤の塗膜に部分的な膜厚ムラがあると、液晶表示素子の表示特性に悪影響を与える場合があるので好ましくない。
液晶配向膜を形成する上で、塗膜をムラなく均一に形成するためには、液晶配向剤に用いる溶媒の選択が重要となる。通常、溶媒は、ポリアミック酸やポリイミドの溶解性に優れる溶媒に、ブチルセロソルブなどの溶媒を混合して用いられている。また、ブチルセロソルブに代えてジプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いた場合にも、凹凸のない平滑な塗膜が得られることは知られている(特開平7−109438号公報参照)。同様に、ジエチレングリコールジエチルエーテルを混合させた場合にもハジキや膜厚ムラが改善されることは知られている(特開平8−208983号公報参照)。
このような液晶配向剤は、基板に塗布した後、通常、80℃以上の温度で仮乾燥されるが、近年の液晶表示素子の大型化、低コスト化に伴い、液晶配向剤の仮乾燥が従来よりも低い温度で行われる状況が発生している。しかしながら、従来の液晶配向剤では、低温乾燥すると均一な塗膜が形成されない場合があり、仮乾燥温度によらず均一な塗膜が得られる液晶配向剤が望まれていた。
【発明の開示】
本発明はかかる現状に鑑みなされたものであり、塗布後の乾燥温度によらず良好な塗膜均一性を与える液晶配向剤、および良好な塗膜均一性を有する液晶配向膜を提供することにある。
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリアミック酸あるいは可溶性ポリイミドから選ばれる少なくとも一種類のポリマーと、特定の2種類以上の溶媒とを含有してなる液晶配向剤を用いると、液晶配向膜を形成した際に乾燥温度によらず均一な塗膜を形成できることを見出した。
かくして、本発明は、下記の特徴を要旨とするものである。
(1)ポリアミック酸および可溶性ポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも一種頬のポリマーと、ジエチレングリコールジエチルエーテルと、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルとを含有することを特徴とする液晶配向剤。
(2)液晶配向剤における前記ポリマーの濃度が、2〜15重量%である上記(1)に記載の液晶配向剤。
(3)液晶配向剤におけるジエチレングリコールジエチルエーテルの濃度が、1〜70重量%である上記(1)又は(2)に記載の液晶配向剤。
(4)液晶配向剤におけるジプロピレングルコールモノメチルエーテルの濃度が、0.1〜70重量%である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の液晶配向剤。
(5)さらに、ピロリドン類およびラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の溶媒を含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の液晶配向剤。
(6)液晶配向剤における、ピロリドン類およびラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の溶媒の含有量が30〜90重量%である上記(5)に記載の液晶配向剤。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の液晶配向剤をフレキソ印刷法によって印刷して得られる液晶配向膜。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、液晶配向剤にポリアミック酸あるいは可溶性ポリイミドから選ばれる少なくとも一種類のポリマーと、ジエチレングリコールジエチルエーテルと、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルとを含有したことにある。ここで本発明で用いるポリアミック酸とはジアミンと酸二無水物とを反応させて得られるポリマーであり、可溶性ポリイミドとは得られたポリアミック酸を全部あるいは部分的に脱水閉環(イミド化)して得られる溶剤可溶性のポリイミドを示す。このようなポリアミック酸や可溶性ポリイミドであれば構造は特に制限されない。
ポリアミック酸を合成する際に用いるジアミン化合物としては以下のものが挙げられる。脂環式ジアミンの例として、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどが挙げられる。また炭素環式芳香族ジアミン類の例として、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ジアミノトルエン類(例えば、2,4−ジアミノトルエン)、1,4−ジアミノ−2−メトキシベンゼン、ジアミノキシレン類(例えば、1,3−ジアミノ−2,4−ジメチルベンゼン)、1,3−ジアミノ−4−クロロベンゼン、1,4−ジアミノ−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジアミノ−4−イソプロピルベンゼン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジアミノスチルベン、4,4’−ジアミノスチルベン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ安息香酸フェニルエステル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンジル、ビス(4−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、ビス(3−アミノフェニル)スルホン、ビス(4−アミノフェニル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキシルホスフィンオキシド、N,N−ビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミン、N,N−ビス(4−アミンフェニル)−N−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、1,8−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノアントラキノン、ジアミノフルオレン類(例えば2,6−ジアミノフルオレン)、ビス(4−アミノフェニル)ジエチルシラン、ビス(4−アミノフェニル)ジメチルシラン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
さらに複素環式ジアミン類としては、2,6−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノ−s−トリアジン、2,5−ジアミノジベンゾフラン、2,7−ジアミノカルバゾール、3,6−ジアミノカルバゾール、3,7−ジアミノフェノチアジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−チアジアゾール、2,4−ジアミノ−6−フェニル−s−トリアジンなどが、脂肪族ジアミンの例として、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,3−ジアミノ−2,2−ジメチルプロパン、1,6−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサン、1,5−ジアミノ−2,4−ジメチルヘプタン、1,7−ジアミノ−3−メチルヘプタン、1,9−ジアミノ−5−メチルノナン、2,11−ジアミノドデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)エタン等が挙げられる。さらには下記一般式(1)の構造で表される長鎖アルキルもしくはパーフルオロ基を有する芳香族ジアミンなどが挙げられる。

(Rは炭素数5以上、好ましくは5以上20以下の、長鎖アルキル基もしくは長鎖アルキル基もしくはパーフルオロアルキル基を含む1価有機基を示す)
これらのジアミンはそれぞれ単独で、あるいは組み合わせて用いることが出来ることは当然であるが、高いプレチルト角を発現させるために一般式(1)で示される長鎖アルキルもしくはパーフルオロ基を有する芳香族ジアミンの少なくともどちらか一方を含有すると好ましい。中でも1,3−ジアミノ−4−(trans−4−ヘプチルシクロヘキシル)フェノキシベンゼンを含有すると液晶配向膜とした際の耐熱性にも優れるためとりわけ好ましい。
ポリアミック酸を合成する際に原料として用いる酸二無水物は、芳香族酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また脂環式酸二無水物としては1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物などが例示される。これらの酸二無水物は単独でも組み合わせても用いることが出来るが、ポリマーの透明性の観点から、脂環式酸二無水物を含んでいることが好ましい。中でも1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物は液晶配向膜とした場合の特性バランスにも優れるためにとりわけ好ましい。
本発明に用いられるポリアミック酸は、前述のジアミンと酸二無水物とを有機溶剤の存在下で−20℃〜150℃、好ましくは0℃〜80℃において30分〜24時間、好ましくは1〜10時間反応させることによって合成する事が出来る。反応の際に用いるジアミンと酸二無水物のモル比は、ジアミンが多くなりすぎると分子量が上がらず、また少なすぎると酸無水物が残存して保存安定性が悪くなるために、ジアミン/酸二無水物=0.5〜3.0/1.0(モル比)であると好ましく、ジアミン/酸二無水物=0.8〜2.0/1.0(モル比)であるとより好ましく、中でもジアミン/酸二無水物=1.0〜1.2/1.0(モル比)であるととりわけ好ましい。
また、ポリアミック酸の合成の際に用いる溶媒と濃度については特に限定されないが、溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホキシド、またはブチロラクトン類を用いると生成したポリマーの溶解性が高いので好ましい。また、ポリアミック酸の重合時の濃度は高すぎるとワニスの取扱い性が悪くなり、低すぎると分子量が上がらないので、好ましくは1〜50重量%が、より好ましくは5〜30重量%が、とりわけ好ましくは8〜20重量%がよい。また、ポリマーが溶解する範囲内でブチルセルソルブやトルエン、メタノールなどの貧溶媒を加えても構わないことは言うまでもない。
さらには、反応系内の水分はポリマーの高分子量化の妨げになるので、反応系内を窒素雰囲気下としておくことが好ましく、反応系中の溶媒に窒素をバブリングしながら反応を行うと更に好ましい。
本発明で用いられるポリアミック酸の粘度は、高いと液晶配向剤の取り扱いが難しく、低いと配向膜とした際に特性が安定しないので、還元粘度で0.05〜3.0dl/gが好ましく、0.1〜2.5dl/gがより好ましい(温度30℃のN−メチル−2−ピロリドン中、濃度0.5g/dlで測定)。
本発明では、上記のようにして得られたポリアミック酸をそのまま用いても構わないが、加熱もしくは触媒によって全部あるいは部分的に脱水閉環(イミド化)させ、可溶性ポリイミドとして用いると保存安定性に優れるため好ましい。
ポリアミック酸を可溶性ポリイミドとするためのイミド化反応を行う方法としては、ポリアミック酸溶液をそのまま加熱する熱イミド化、ポリアミック酸の溶液に触媒を添加してイミド化を行う化学的イミド化などが挙げられる。中でも、比較的低温でイミド化反応が進行する化学的イミド化の方が、得られる可溶性ポリイミドの分子量低下が起こりにくく好ましい。
化学的イミド化反応は、ポリアミック酸を有機溶媒中において、アミック酸基の0.5〜30モル倍、好ましくは1〜20モル倍の塩基触媒と、アミック酸基の0.5〜50モル倍、好ましくは1〜30モル倍の酸無水物の存在下で、−20〜250℃、好ましくは0〜200℃の温度において、1〜100時間反応させると好ましい。塩基触媒や酸無水物の量が少ないと反応が十分に進行せず、また多すぎると反応終了後に完全に除去することが困難となる。この時に用いる塩基触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等が例示できる。中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つために好ましい。また、酸無水物としては無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などが例示できる。中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるために好ましい。イミド化反応を行う際の有機溶媒としては前述したポリアミック酸合成時に用いる溶媒を使用することができる。化学的イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度を調節することにより制御することができるが、イミド化率は低すぎると液晶配向剤とした場合の保存安定性が悪くなり、高すぎると溶解性が悪く析出してしまう場合があるため、全ポリアミック酸のモル数の0.1〜99%が好ましく、5〜90%がより好ましく、30〜70%がとりわけ好ましい。
以上のようにして得られたポリアミック酸あるいは可溶性ポリイミドは、よく攪拌させながら貧溶媒に注入し、再沈殿させることによって精製することが出来る。この際に用いる貧溶媒としては特に限定されないが、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼンなどが例示できる。再沈殿によって得られたポリアミック酸あるいは可溶性ポリイミドは濾過して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱乾燥してパウダーとすることが出来る。こうして得られたポリアミック酸あるいは可溶性ポリイミドのパウダーは良溶媒を含む溶媒に再度溶かしてワニスとすることが出来る。
本発明の液晶配向剤は、上記の方法で得られたポリアミック酸および可溶性ポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種類のポリマーと、ジエチレングリコールジエチルエーテルと、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルとを含有する必要がある。これらの液晶配向剤の成分を配合する方法、及び順序については特に制限されないが、ポリマー成分を良溶媒に溶解した後、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルを少しずつ投入していくと、ポリマーの溶解が速く作業効率がよいために好ましい。また、ポリアミック酸あるいは可溶性ポリイミドを良溶媒に溶解する際には0〜150℃、好ましくは室温〜100℃において1〜100時間攪拌することで、均一な溶液とすることができる。
本発明の液晶配向剤において、ポリアミック酸または可溶性ポリイミドを溶解させるために用いる良溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等が例示できる。これら溶媒は、本発明の液晶配向剤中好ましくは30〜90重量%、特に好ましくは50〜80重量%含有される。かかる溶媒としては、ピロリドン類およびラクトン類がらなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有するとポリマーの溶解性が高くなるために好ましく、ピロリドン類とラクトン類の両方を含有すると、液晶配向剤を塗布する際の濡れ性が良く、かつ塗布液の吸湿性を抑えることができるのでとりわけ好ましい。このピロリドン類としてはN−メチル−2−ピロリドンが好ましく、ラクトン類としてはγ−ブチロラクトンが好ましい。
本発明の液晶配向剤におけるポリアミック酸や可溶性ポリイミドなどのポリマーの濃度は、高すぎると基板に塗布して液晶配向膜とした際の膜厚の調整が困難になり、低すぎると液晶配向膜とした際に十分な膜厚が得られないことから、2〜15重量%が好ましく、3〜8重量%がより好ましい。
本発明の液晶配向剤は、乾燥温度が変化した場合にも均一な塗膜を得るために、さらにジエチレングリコールジエチルエーテルとジプロピレングリコールモノメチルエーテルの2種類の溶媒を含有する必要がある。ジエチレングリコールジエチルエーテルの配合量は少なすぎると液晶配向膜とした場合の塗膜の均一性が低下し、多すぎるとポリアミック酸や可溶性ポリイミドが析出することから、液晶配向剤全体の0.1〜70重量%が好ましく、1〜50重量%がより好ましく、5〜40重量%がとりわけ好ましい。また、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルについても、少なすぎると液晶配向膜とした場合の塗膜の均一性が低下し、多すぎるとポリアミック酸や可溶性ポリイミドが析出することから、液晶配向剤全体の0.1〜70重量%が好ましく、1〜50重量%がより好ましく、5〜40重量%がとりわけ好ましい。
また、液晶配向剤に、さらに架橋剤やカップリング剤などの各種添加剤を加えることもできる。
このようして得られた液晶配向剤は濾過した後、基板に塗布して液晶配向膜を形成するために用いることが出来る。基板に塗布する方法としては、スピンコート法、フレキソ印刷法、インクジェット法などが挙げられる。なかでもフレキソ印刷法は形成した塗膜の均一性に優れ、大型化が容易であるために好ましい。用いる基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、アクリル基板やポリカーボネート基板などのプラスチック基板などを用いることが出来る。さらに液晶駆動のためのITO電極などが形成された基板を用いることがプロセスの簡素化の観点から好ましいことは言うまでもない。
本発明の液晶配向剤は、塗膜の均一性を高めるために、基板に均一に塗布した後、好ましくは室温〜200℃、より好ましくは30〜150℃、さらに好ましくは50〜120℃で1〜100分間仮乾燥を行うことが好ましい。これによって、液晶配向剤の各成分の揮発度を調整し、均一でムラのない塗膜を得ることができる。この後、さらに100〜300℃、好ましくは150〜260℃の温度において10〜300分間焼成を行うことによって、完全に溶剤分を蒸発させ、液晶配向膜を形成することが出来る。このようにして形成された液晶配向膜は、ラビングや偏光紫外線照射による一軸配向処理をして、または垂直配向膜などの一部用途では一軸配向処理はしないで、液晶表示素子に用いられる。
以上のようにして、本発明を用いて作製した液晶配向膜は均一性が高いため、大型基板を用いた場合においても歩留まりよく液晶表示素子を作製することができる。
続いて以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
(合成例1)
窒素雰囲気中、500mlの4つ口フラスコに1,3−ジアミノ−4−(trans−4−ヘプチルシクロヘキシル)フェノキシベンゼン1.42g(0.03mol)とパラフェニレンジアミン7.57g(0.07mol)を、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)170gに溶解させた後、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物4.90g(0.075mol)とビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物18.77g(0.025mol)を加え、室温で5時間重合してポリアミック酸溶液を得た。
このポリアミック酸溶液100.0gを300mlの4つ口フラスコに取り、イミド化触媒として無水酢酸21.0g、ピリジン16.3gを加え、90℃で2時間反応させて可溶性ポリイミド溶液を得た。この溶液を2400mlのメタノール中に投入し、得られた白色沈殿をろ別し、乾燥し、白色のポリイミドパウダー(PI)を得た。得られたポリイミドパウダーはNMRにより50%イミド化されていることが確認された。
(合成例2)
窒素雰囲気中、500mlの4つ口フラスコに1,3−ジアミノ−4−(trans−4−ヘプチルシクロヘキシル)フェノキシベンゼン11.42g(0.03mol)とパラフェニレンジアミン7.57g(0.07mol)を、NMP170gに溶解させた後、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物4.90g(0.075mol)とビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物18.77g(0.025mol)を加え、室温で5時間重合してポリアミック酸溶液を得た。この溶液を1000mlのメタノール中に投入し、得られた白色沈殿をろ別し、乾燥し、白色のポリアミック酸パウダー(PAA)を得た。
【実施例1】
100mlのナスフラスコに、合成例1で得られたポリイミドパウダー2.75g、NMP5.50g、及びγ−ブチロラクトン(以下、BLと略す)19.25gを加え、70℃で24時間攪拌し、溶解させた。得られる溶解液を、その後NMP3.75g、BL5.75g、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、DPMと略す)6.50g、ジエチレングリコールジエチルエーテル(以下、DEDEと略す)6.50gで希釈し液晶配向剤を得た。
この液晶配向剤を、洗浄したITO付きガラス基板上に、配向膜印刷機(日本写真製版社製「オングストローマー」)を用いてフレキソ印刷した。印刷後の基板はそれぞれ50℃、65℃、80℃のホットプレート上に5分間放置して、塗膜の仮乾燥を行った。
上記仮乾燥後の膜面を目視により良く観察した結果、いずれの仮乾燥温度でも塗膜の膜厚変化によるムラは生じておらず、均一な塗膜が形成されていた。さらに、この基板を200℃のオーブン中で60分間焼成し、液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜に膜厚変化によるムラは生じておらず、いずれの仮乾燥温度であっても、均一な液晶配向膜を得ることが出来た。
【実施例2】
100mlのナスフラスコに合成例1で得られたポリイミドパウダー3.00g、NMP6.00g、及びBL21.00gを加え、70℃で24時間攪拌し、溶解させた。得られる溶解液を、その後NMP3.00g、BL4.00g、DPM5.00g、DEDE8.00gで希釈し液晶配向剤を得た。
この液晶配向剤を、実施例1と同様にして基板に印刷、仮乾燥させた後に観察した。その結果、いずれの仮乾燥温度でも塗膜の膜厚変化によるムラは生じておらず、均一な塗膜が形成されていた。さらに、実施例1と同様に焼成して得られた液晶配向膜に、膜厚変化によるムラは生じておらず、いずれの仮乾燥温度であっても、均一な液晶配向膜を得ることが出来た。
【実施例3】
100mlのナスフラスコに合成例1で得られたポリイミドパウダー3.25g、NMP6.50g、及びBL22.75gを加え、70℃で24時間攪拌し、溶解させた。得られる溶解液を、その後NMP2.25g、BL6.25g、DPM3.00g、DEDE6.00gで希釈し液晶配向剤を得た。
この液晶配向剤を、実施例1と同様にして基板に印刷、仮乾燥させた後に観察した。その結果、いずれの仮乾燥温度でも塗膜の膜厚変化によるムラは生じておらず、均一な塗膜が形成されていた。さらに、実施例1と同様に焼成して得られた液晶配向膜に、膜厚変化によるムラは生じておらず、いずれの仮乾燥温度であっても、均一な液晶配向膜を得ることが出来た。
【実施例4】
100mlのナスフラスコに合成例2で得られたポリアミック酸パウダー3.25g、NMP8.75g、及びBL25.00gを加え、室温で24時間攪拌し、溶解させた。得られる溶解液を、その後DPM6.50g、DEDE6.50gで希釈し、液晶配向剤を得た。
この液晶配向剤を、実施例1と同様にして基板に印刷、仮乾燥させた後に観察した。その結果、いずれの仮乾燥温度でも塗膜の膜厚変化によるムラは生じておらず、均一な塗膜が形成されていた。さらに、実施例1と同様に焼成して得られた液晶配向膜に、膜厚変化によるムラは生じておらず、いずれの仮乾燥温度であっても、均一な液晶配向膜を得ることが出来た。
【実施例5】
100mlのナスフラスコに合成例1で得られたポリイミドパウダー2.75g、NMP24.75gを加え、70℃で24時間攪拌し、溶解させた。得られる溶解液を、その後NMP9.50g、DPM6.50g、DEDE6.50gで希釈し液晶配向剤を得た。
この液晶配向剤を、実施例1と同様にして基板に印刷、仮乾燥させた後に観察した。その結果、いずれの仮乾燥温度でも塗膜の膜厚変化によるムラは生じておらず、均一な塗膜が形成されていた。さらに、実施例1と同様に焼成して得られた液晶配向膜に、膜厚変化によるムラは生じておらず、いずれの仮乾燥温度であっても、均一な液晶配向膜を得ることが出来た。
(比較例1)
100mlのナスフラスコに合成例1で得られたポリイミドパウダー2.75g、NMP5.50g、及びBL19.25gを加え、70℃で24時間攪拌し、溶解させた。得られる溶解液を、その後NMP3.75g、BL5.75g、DPM13.00gで希釈し液晶配向剤を得た。
この液晶配向剤を、実施例1と同様にして基板に印刷、仮乾燥させた後に観察した。その結果、50℃、65℃で乾燥した場合は膜厚変化によるムラが観測され、均一な塗膜を得ることが出来なかった。さらに、実施例1と同様に焼成して得られた液晶配向膜においても、膜厚変化によるムラは解消されておらず、仮乾燥温度が低い場合には、均一な液晶配向膜を得ることが出来なかった。
(比較例2)
100mlのナスフラスコに合成例1で得られたポリイミドパウダー2.75g、NMP5.50g、及びBL19.25gを加え、70℃で24時間攪拌し、溶解させた。得られる溶解液を、その後NMP3.75g、BL5.75g、DEDE13.00gで希釈し液晶配向剤を得た。
この液晶配向剤を、実施例1と同様にして基板に印刷、仮乾燥させた後に観察した。その結果、50℃、65℃で乾燥した場合は膜厚変化によるムラが観測され、均一な塗膜を得ることが出来なかった。さらに、実施例1と同様に焼成して得られた液晶配向膜においても、膜厚変化によるムラは解消されておらず、仮乾燥温度が低い場合には、均一な液晶配向膜を得ることが出来なかった。

【産業上の利用可能性】
本発明の液晶配向剤によれば、仮乾燥の温度が低温であっても均一な塗膜を形成することが可能となり、エネルギーコストの低減、プロセスマージンの向上、歩留まりの向上が可能となる。さらに形成した液晶配向膜は均一性が高く、特に大型液晶表示素子を作製した場合にムラのない良好な画像を表示することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸および可溶性ポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも一種類のポリマーと、ジエチレングリコールジエチルエーテルと、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルとを含有することを特徴とする液晶配向剤。
【請求項2】
液晶配向剤における前記ポリマーの濃度が、2〜15重量%である請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
液晶配向剤におけるジエチレングリコールジエチルエーテルの濃度が、1〜70重量%である請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
液晶配向剤におけるジプロピレングルコールモノメチルエーテルの濃度が、0.1〜70重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の液晶配向剤。
【請求項5】
さらに、ピロリドン類およびラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の溶媒を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の液晶配向剤。
【請求項6】
液晶配向剤における、ピロリドン類およびラクトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の溶媒の含有量が30〜90重量%である請求項5に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の液晶配向剤をフレキソ印刷法によって印刷して得られる液晶配向膜。

【国際公開番号】WO2004/072719
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504963(P2005−504963)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001362
【国際出願日】平成16年2月10日(2004.2.10)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】