説明

液晶配向剤および液晶表示素子

【課題】液晶配向性および耐熱性に優れる液晶配向膜を与えることができるとともに印刷性にも優れる液晶配向剤を提供すること、および長期にわたって表示品位に優れる信頼性を有する液晶表示素子を提供すること。
【解決手段】上記液晶配向剤は、下記式(1−3)


で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環して得られるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有し、上記液晶表示素子は上記液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤および液晶表示素子に関する。さらに詳しくは、液晶配向性および耐熱性に優れる液晶配向膜を与えることができるとともに印刷性にも優れる液晶配向剤ならびに長期にわたって表示品位に優れる信頼性を有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶表示素子としては、透明導電膜が設けられている基板表面に液晶配向膜を形成して液晶表示素子用基板とし、その2枚を対向配置してその間隙内に正の誘電異方性を有するネマチック液晶の層を形成してサンドイッチ構造のセルとし、液晶分子の長軸が一方の基板から他方の基板に向かって連続的に90°捻れるようにした、いわゆるTN型(Twisted Nematic)液晶セルを有するTN型液晶表示素子が知られている(特許文献1)。また、TN型液晶表示素子に比して高いコントラスト比を実現できるSTN(Super Twisted Nematic)型液晶表示素子や視角依存性の少ないIPS(In−Plane Switching)型液晶表示素子、視角依存性が少ないとともに映像画面の高速応答性に優れた光学補償ベンド(OCB)型液晶表示素子、負の誘電異方性を有するネマチック液晶を用いるVA(Vertical Alignment)型液晶表示素子などが開発されている(特許文献2〜5)。
これらの液晶表示素子における液晶配向膜の材料としては、従来ポリイミド、ポリアミドおよびポリエステルなどが知られているが、特にポリイミドは、耐熱性、液晶との親和性、機械的強度などに優れており、多くの液晶表示素子に使用されている(特許文献6)。
ところで近年、液晶表示素子の適用範囲が広がっており、特に液晶テレビの普及が進んでいる。液晶テレビ用途においては、最近の動画の精細化、動画固定技術の進歩と相俟って、高速応答性液晶が用いられている。しかし、高速応答性液晶を用いた液晶表示素子を長時間(例えば1,000時間以上)連続駆動すると、素子の明暗のコントラストが低下するとの問題点があった。この不具合は、長時間駆動による熱ストレスのために液晶配向膜が熱劣化し、その結果液晶の電圧保持率が低下することに起因するものと考えられている。そのため、液晶表示素子を長時間駆動した場合でも安定した電圧保持率を示す、耐熱性に優れる液晶配向膜が要求されているが、かかる液晶配向膜を与える液晶配向剤は未だ知られていない。
さらに、液晶配向剤を有効に利用するため、印刷時に使用する液晶配向剤の液量を低減する試みがなされており、少ない液量でも優れた印刷性を示す液晶配向剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−153622号公報
【特許文献2】特開昭60−107020号公報
【特許文献3】特開昭56−91277号公報
【特許文献4】米国特許第5,928,733号明細書
【特許文献5】特開平11−258605号公報
【特許文献6】特開昭62−165628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、少ない液量を採用した場合であっても優れた印刷性を示し、且つ液晶配向性および長期耐熱性に優れる液晶配向剤を与える液晶配向剤を提供することにある。
本発明の別の目的は、長期にわたって表示品位に優れる信頼性を有する液晶表示素子を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第一に、
下記式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立にメチレン基またはエチレン基であり、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、aおよびbはそれぞれ独立に0または1であり、c、d及びeはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、fは0または1である。)
で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環させて得られるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する液晶配向剤によって達成される。
本発明の上記目的および利点は、第二に、
上記液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備する液晶表示素子によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液晶配向剤は、液晶配向性および耐熱性に優れる液晶配向膜を与えることができるとともに印刷性にも優れる。かかる本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備する本発明の液晶表示素子は、長期にわたって表示品位に優れる信頼性を有するものである。
本発明の液晶配向剤は、TN型、STN型、IPS型、VA型、PSA(Polymer Sustained Alignment)型などの種々の液晶表示素子に好適に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の液晶配向剤は、上記式(1)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環して得られるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する。
<ポリアミック酸>
本発明におけるポリアミック酸は、上記式(1)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより合成することができる。
[テトラカルボン酸二無水物]
上記式(1)で表される化合物のRおよびRは、それぞれ独立にメチレン基またはエチレン基であり、メチレン基であることが好ましい。
、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基である。
aおよびbはそれぞれ独立に0または1であり、1であることが好ましい。aまたはbが0の時はそこに結合が存在していないことを意味する。
c、d及びeはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、0であることが好ましい。
fは0または1であり、0であることが好ましい。
【0010】
上記式(1)で表される化合物としては、具体的には下記式(1−1)〜(1−4)で表される化合物を挙げることができ、(1−1)または(1−3)で表される化合物が好ましく、特に(1−3)で表される化合物が好ましい。
【0011】
【化2】

上記式(1)で表される化合物を用いて得られたポリアミック酸およびポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体は後述する有機溶媒に対する溶解性に優れる利点を有する。この利点は、前記重合体としてイミド化率の高いポリイミドを適用した場合であっても損なわれることはないため、本発明の液晶配向剤は、高度の印刷性と得られる配向膜の高い耐熱性とを両立することができるのである。
本発明においては、テトラカルボン酸二無水物として上記式(1)で表される化合物のみを用いてもよく、あるいは上記式(1)で表される化合物と他のテトラカルボン酸二無水物とを併用してもよい。
【0012】
ここで使用することのできる他のテトラカルボン酸二無水物としては、例えば上記(1)で表される化合物以外の脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0013】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物等
が挙げられる。
【0014】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,3,4−シクロブタンテト
ラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,
3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−
フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9
b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル
)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]
オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジ
オン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シク
ロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキ
シメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシ
ビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシ
クロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン等が挙げられ
る。
【0015】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物等が挙げら
れるほか特願2010−97188号に記載のテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0016】
これらのテトラカルボン酸二無水物のうち、上記(1)で表される化合物以外の脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましく、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物又は1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がより好ましく、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物又は2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物が特に好ましい。
本発明におけるテトラカルボン酸二無水物は、上記式(1)で表される化合物を、全テトラカルボン酸二無水物に対して、20モル%以上含むものであることが好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましく、特に80モル%以上含むものであることが好ましい。かかる割合で上記式(1)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物を用いることにより、耐熱性により優れる液晶配向膜を与えることができるとともに印刷性により優れる液晶配向剤とすることができることとなり、好ましい。
【0017】
ジアミン化合物としては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、ジアミノオルガノ
シロキサン、芳香族ジアミン等が挙げられる。これらジアミン化合物は、単独で又は2種
以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
脂肪族ジアミンとしては、例えばメタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン
、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げ
られる。
【0019】
脂環式ジアミンとしては、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレ
ンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が挙
げられる。
【0020】
ジアミノオルガノシロキサンとしては、例えば1,3−ビス(3−アミノプロピル)−
テトラメチルジシロキサン等が挙げられるほか、特願2009−97188号に記載のジ
アミンが挙げられる。
【0021】
芳香族ジアミンとしては、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェ
ニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、
2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−
ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジア
ミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロ
パン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミ
ノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル
)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニ
リン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(
4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル
、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン
、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−
ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3
,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N
,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−
(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸、ドデカノキシ−2,
4−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキ
シ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタ
デカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ドデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、テ
トラデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,5−ジアミノベン
ゼン、ヘキサデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジア
ミノベンゼン、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−
3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステ
ニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,
5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−
ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ
)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3
,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロ
ヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メ
チル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル
)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフ
ェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((
アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキ
サン、2,4−ジアミノーN,N−ジアリルアニリン、4−アミノベンジルアミン、3−
アミノベンジルアミン及び下記式(A−1)で表されるジアミン化合物等が挙げられる。
【0022】
【化3】

(式(A−1)中、Xは炭素数1〜3のアルキル基、*−O−、*−COO−又は*−
OCO−である。但し、*を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。rは0又は
1である。sは0〜2の整数である。tは1〜20の整数である。)
【0023】
ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の使
用割合としては、ジアミン化合物に含まれるアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸
二無水物の酸無水物基が0.2当量〜2当量が好ましく、0.3当量〜1.2当量がより
好ましい。
【0024】
合成反応は、有機溶媒中において行うことが好ましい。反応温度としては、−20℃〜
150℃が好ましく、0℃〜100℃がより好ましい。反応時間としては、0.5時間〜
24時間が好ましく、2時間〜12時間がより好ましい。
【0025】
有機溶媒としては、合成されるポリアミック酸を溶解できるものであれば特に制限はな
く、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド、N
,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシ
ド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド等の非プ
ロトン系極性溶媒;m−クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノール
等のフェノール系溶媒が挙げられる。
【0026】
有機溶媒の使用量(a)としては、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の総
量(b)と有機溶媒の使用量(a)の合計(a+b)に対して、0.1質量%〜50質量
%が好ましく、5質量%〜30質量%がより好ましい。
【0027】
反応後に得られるポリアミック酸溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、
反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離した上で液晶配向剤の調製に供してもよく、
単離したポリアミック酸を精製した上で液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック
酸の単離方法としては、例えば反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで得られる析出物を減圧
下乾燥する方法、反応溶液をエバポレーターで減圧留去する方法等が挙げられる。ポリア
ミック酸の精製方法としては、単離したポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解し、貧溶媒
で析出させる方法、エバポレーターで有機溶媒等を減圧留去する工程を1回若しくは複数
回行う方法が挙げられる。
【0028】
[ポリイミド]
ポリイミドは、上記ポリアミック酸の有するアミック酸構造を脱水閉環してイミド化す
ることにより製造できる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有している
アミック酸構造の全てを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の
一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存している部分イミド化物
であってもよい。
【0029】
ポリイミドの合成方法としては、例えば(i)ポリアミック酸を加熱する方法(以下、
「方法(i)」と称することがある)、(ii)ポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、こ
の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法(以下、「方法
(ii)」と称することがある)等のポリアミック酸の脱水閉環反応による方法が挙げら
れる。
【0030】
方法(i)における反応温度としては、50℃〜200℃が好ましく、60℃〜170
℃がより好ましい。反応温度が50℃未満では、脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温
度が200℃を超えると得られるポリイミドの分子量が低下することがある。反応時間と
しては、0.5時間〜48時間が好ましく、2時間〜20時間がより好ましい。
【0031】
方法(i)において得られるポリイミドはそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、
ポリイミドを単離した上で液晶配向剤の調製に供してもよく又は単離したポリイミドを精
製した上で又は得られるポリイミドを精製した上で液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0032】
方法(ii)における脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリ
フルオロ酢酸等の酸無水物が挙げられる。
【0033】
脱水剤の使用量としては、所望のイミド化率により適宜選択されるが、ポリアミック酸
のアミック酸構造1モルに対して0.01モル〜20モルが好ましい。
【0034】
方法(ii)における脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、
トリエチルアミン等が挙げられる。
【0035】
脱水閉環触媒の使用量としては、含有する脱水剤1モルに対して0.01モル〜10モ
ルが好ましい。なお、イミド化率は上記脱水剤及び脱水閉環剤の含有量が多いほど高くで
きる。
[溶液粘度]
本発明におけるポリアミック酸およびポリイミドは、それぞれ濃度10重量%の溶液としたときに、20〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、30〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。
上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10重量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0036】
<その他の添加剤>
本発明の液晶配向膜は、上記の如きポリアミック酸およびこれを脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」という。)、官能性シラン化合物などを挙げることができる。
上記エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6−テトラグリシジル−2,4−ヘキサンジオール、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサンなどを好ましいものとして挙げることができる。これらエポキシ化合物の配合割合は、重合体の合計(液晶配向剤に含有されるポリアミック酸およびポリイミドの合計量をいう。以下同じ。)100重量部に対して、好ましくは40重量部以下、より好ましくは0.1〜30重量部である。
【0037】
上記官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
これら官能性シラン含有化合物の配合割合は、重合体の合計100重量部に対して、好ましくは40重量部以下である。
【0038】
本発明の液晶配向剤は、上記の如きポリアミック酸およびポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体ならびに必要に応じて任意的に配合されるその他の添加剤が、好ましくは有機溶媒中に溶解含有されて構成される。
本発明の液晶配向剤に使用できる有機溶媒としては、例えばポリアミック酸の合成反応に用いられるものとして例示した溶媒を挙げることができる。かかる有機溶媒の好ましい例としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテルなどを挙げることができる。これらは単独で使用することができ、または2種以上を混合して使用することができる。
【0039】
本発明の液晶配向剤の固形分濃度(液晶配向剤のうち有機溶媒を除いた成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、これを基板表面に塗布し、有機溶媒を除去することにより液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得難くなる場合があり、一方固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって同様に良好な液晶配向膜を得難くなる場合があり、また液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣るものとなる場合がある。
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えば、スピンナー法による場合には1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
【0040】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、上記の如き本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備するものであり、好ましくは垂直配向型の液晶表示素子である。
本発明の液晶表示素子は、例えば下記の方法により製造することができる。
(1)パターニングされた透明導電膜が設けられている基板の一面に、本発明の液晶配向剤を、例えばロールコーター法、スピンナー法、印刷法、インクジェット法などの方法によって塗布し、次いで、塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。本発明の液晶配向剤は、塗布法として特にオフセット印刷を採用した場合、従来必要とされていた液量よりも少ない液量で印刷を行っても良好な塗膜を形成することができるとの利点を有するので、液晶表示素子の製造コストの削減に資する。
ここに、基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィンなどのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。パターニングされた透明導電膜を得るには、例えば基板上にパターンなしの透明導電膜を形成した後フォト・エッチングにより所望のパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いてパターニングされた透明導電膜を直接形成する方法などを用いることができる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面と樹脂膜との接着性をさらに良好にするために、例えば官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布しておいてもよい。
【0041】
液晶配向剤塗布後塗布した配向剤の液垂れ防止などの目的で、塗布後に好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、より好ましくは40〜150℃であり、特に好ましくは40〜100℃である。プレベーク時間は好ましくは0.1〜10分であり、より好ましくは0.5〜3分である。その後、溶剤を完全に除去することなどを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このポストベーク温度は、好ましくは80〜300℃であり、より好ましくは120〜250℃である。ポストベーク時間は好ましくは1〜180分であり、より好ましくは10〜120分である。
本発明の液晶配向剤は、これを塗布した後に有機溶媒を除去することによって配向膜である塗膜となるが、本発明の液晶配向剤に含有される重合体がポリアミック酸またはイミド環構造とアミック酸構造とを併有するポリイミドである場合には、塗膜形成後にさらに加熱することによって脱水閉環反応を進行させ、よりイミド化された塗膜としてもよい。
ここで形成される塗膜(液晶配向膜)の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0042】
(2)上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、この2枚の基板間に液晶を配置することにより、液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。
第一の方法は、従来から知られている方法である。先ず、それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面およびシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止することにより、液晶セルを製造することができる。
第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に例えば紫外光硬化性のシール材を塗布し、さらに液晶配向膜面上に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより、液晶セルを製造することができる。本発明の液晶配向剤は、垂直配向性に優れた液晶配向膜を形成することができるため、ODF法によりVA型液晶表示素子を製造したときでもODFムラが発生しない液晶表示素子を得ることができる利点を有する。
いずれの方法による場合でも、次いで、液晶セルを、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、注入時の流動配向を除去することが望ましい。
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより、本発明の液晶表示素子を得ることができる。
【0043】
ここに、シール剤としては、例えば硬化剤およびスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
液晶としては、ネマティック型液晶およびスメクティック型液晶を挙げることができる。その中でもネマティック型液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などを用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック型液晶;商品名「C−15」、「CB−15」(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などをさらに添加して使用してもよい。
液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながら、ヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板またはH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【実施例】
【0044】
合成例1(ポリイミドの合成例)
テトラカルボン酸二無水物として上記式(1−3)で表される化合物13.5gおよび、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物7.9gならびにジアミンとしてp−フェニレンジアミン6.1gおよび3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル7.4gをN−メチル−2−ピロリドン140gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。このポリアミック酸溶液の溶液粘度は2,060mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン300gを追加し、ピリジン32gおよび無水酢酸25gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶剤を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶剤置換(本操作にて脱水閉環反応に使用したピリジンおよび無水酢酸を系外に除去した。以下同じ。)することにより、イミド化率約90%のポリイミド(PI−1)を20重量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンで希釈して重合体濃度6.0重量%の溶液として測定した溶液粘度は23mPa・sであった。
【0045】
合成例2(ポリイミドの合成例)
テトラカルボン酸二無水物として上記式(1−3)で表される化合物23.4gならびにジアミンとしてp−フェニレンジアミン5.3gおよび3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル6.4gをN−メチル−2−ピロリドン140gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。このポリアミック酸溶液の溶液粘度は1,910mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン300gを追加し、ピリジン32gおよび無水酢酸25gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶剤を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶剤置換することにより、イミド化率約90%のポリイミド(PI−2)を20重量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンで希釈して重合体濃度6.0重量%の溶液として測定した溶液粘度は20mPa・sであった。
【0046】
比較合成例1(ポリイミドの比較合成例)
テトラカルボン酸二無水物として下記式(t−1)
【0047】
【化4】

【0048】
で表される化合物(3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン))19gならびにジアミンとしてp−フェニレンジアミン7.4gおよび3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル8.9gをN−メチル−2−ピロリドン140gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。このポリアミック酸溶液の溶液粘度は900mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン325gを追加し、ピリジン33gおよび無水酢酸26gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶剤を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶剤置換することにより、イミド化率約90%のポリイミド(RPI−1)を20重量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンで希釈して重合体濃度6.0重量%の溶液として測定した溶液粘度は13mPa・sであった。
【0049】
<液晶配向剤の調製および評価>
実施例1
[印刷性評価用液晶配向剤の調製]
上記合成例1で得たポリイミド(PI−1)を含有する溶液に、エポキシ化合物としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミンを、上記溶液に含有されるポリイミド(PI−1)100重量部に対して20重量部加え、さらにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)およびブチルセロソルブ(BC)を加えて溶媒組成がNMP:BC=40:60(重量比)、固形分濃度6.0重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、印刷性評価用液晶配向剤を調製した。
この液晶配向剤につき、25℃で測定した溶液粘度は20mPa・sであった。
[印刷性の評価]
上記で調製した印刷性評価用液晶配向剤につき、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製、型式「オングストローマーS40L−532」)を用い、アニロックスロールへの液晶配向剤滴下量を往復20滴(約0.2g)の条件にてITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に塗布した。なお、この液晶配向剤の滴下量は、同型の印刷機について通常採用される滴下量(往復30滴(約0.3g))と比較して液量が少なく、より厳しい印刷条件である。
塗布後の基板につき、80℃で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、180℃で10分間加熱(ポストベーク)することにより、膜厚約80nmの塗膜を形成した。この塗膜を目視で観察してハジキおよび塗布ムラの有無を調べたところ、塗膜の全領域について印刷ムラおよびピンホールとも観察されず、上記液晶配向剤の印刷性は「良好」であった。
【0050】
[液晶表示素子製造用液晶配向剤の調製]
上記「印刷性評価用液晶配向剤の調製」において、溶液の固形分濃度を4.0重量%とした以外は「印刷性評価用液晶配向剤の調製」と同様にして、液晶表示素子製造用液晶配向剤を調製した。
[垂直配向型液晶表示素子の製造]
厚さ1mmのガラス基板の片面に設けられたITO膜からなる透明導電膜上に、上記で調製した液晶表示素子製造用液晶配向剤をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレート上で1分間プレベークし、次いで200℃のオーブン中で60分間ポストベークすることにより、膜厚0.08μmの塗膜(液晶配向膜)を形成した。この操作を繰り返し、透明導電膜上に液晶配向膜を有するガラス基板を一対(2枚)得た。
上記一対の液晶配向膜を有するガラス基板につき、液晶配向膜を有する面のそれぞれの外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、基板の間隙に、ネガ型液晶(メルク社製、MLC−6608)を液晶注入口より注入して充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることにより、垂直配向型液晶表示素子を製造した。
【0051】
[液晶配向性の評価]
(1)液晶配向性の評価
上記で製造した垂直配向型液晶表示素子につき、クロスニコル下で電圧をオン・オフしたときの異常ドメインの有無を、顕微鏡により観察し、異常ドメインが観察されなかった場合を液晶配向性「良好」、異常ドメインが観察された場合を液晶配向性「不良」として評価したところ、この垂直配向型液晶表示素子の液晶配向性は「良好」であった。
(2)耐熱性の評価
上記で製造した垂直配向型液晶表示素子につき、先ず5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。このときの数値を初期電圧保持率(VHRBF)とした。
VHRBF測定後の液晶表示素子を100℃のオーブンに入れ、1,000時間熱ストレスを印加した。次いで該液晶表示素子を室温下に静置して室温まで冷却した後、上記初期電圧保持率の測定と同じ条件で熱ストレス印加後の電圧保持率(VHRAF)を測定した。
下記数式(2)
△VHR(%)=((VHRBF−VHRAF)÷VHRBF)×100 (2)により、熱ストレス印加前後の電圧保持率の変化率(△VHR)を求め、この変化率が5%未満であった場合を耐熱性「良好」、5%以上であった場合を耐熱性「不良」として評価したところ、上記垂直配向型液晶表示素子の耐熱性は「良好」であった。
【0052】
実施例2
ポリイミド(PI−1)を含有する溶液の代わりに上記合成例2で得たポリイミド(PI−2)を含有する溶液を用いたほかは上記実施例1と同様にして印刷性評価用液晶配向剤を調製して印刷性を評価し、さらに液晶表示素子製造用液晶配向剤を調製し、これを用いて垂直配向型液晶表示素子を製造して評価した。
その結果、印刷性および垂直配向型液晶表示素子の液晶配向性は良好であり、耐熱性も良好であった。
比較例1
ポリイミド(PI−1)を含有する溶液の代わりに上記比較合成例1で得たポリイミド(RPI−1)を含有する溶液を用いたほかは上記実施例1と同様にして印刷性評価用液晶配向剤を調製して印刷性を評価し、さらに液晶表示素子製造用液晶配向剤を調製し、これを用いて垂直配向型液晶表示素子を製造して評価した。
その結果、印刷性および垂直配向型液晶表示素子の液晶配向性は良好であったが、耐熱性は不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立にメチレン基またはエチレン基であり、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、aおよびbはそれぞれ独立に0または1であり、c、d及びeはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、fは0または1である。)
で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環して得られるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有することを特徴とする液晶配向剤。
【請求項2】
前記テトラカルボン酸二無水物として、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物のうちの少なくともいずれかをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項4】
請求項3に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。

【公開番号】特開2013−105063(P2013−105063A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249429(P2011−249429)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】