説明

液晶配向膜用真空蒸着装置およびその成膜方法

【課題】基板角度を自動調整し、かつ同時蒸着を行う基板毎に成膜条件出し可能な真空蒸着装置および方法を提供する。
【解決手段】排気手段を有する真空槽内に、蒸着源、蒸着される基板を保持する基板保持機構、及び各基板に対して蒸着粒子の入射状態を調整するスリット開口を有する少なくとも1つのスリット機構を備え、基板面に液晶配向膜を形成する液晶配向膜用真空蒸着装置において、各基板保持機構について、スリット機構に取り付けられ、スリットに対する基板の相対位置を調整するために基板保持機構を移動させる可動機構を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着により無機配向膜を作製するための液晶配向膜用真空蒸着装置およびその成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶配向膜の形成法の1つとして、ポリイミドまたはポリアミドのような樹脂膜にラビング処理を施すラビング法が挙げられる。ラビング法は、例えば図8に示すように樹脂膜81を塗布した基板80上でラビング用ローラ82を移動させることにより樹脂膜81を一定方向に配向させるものである。従来ラビング法による有機配向膜が主流であったが、配向膜に要求される微細加工、低パーティクル、耐久性、耐熱性等の性能を満足させるため、近年無機配向膜によりプレチルト角を確保する手法に移行しつつある。
【0003】
無機配向膜の形成には、蒸着源に対して基板を傾斜させて配置し、基板面に所定の入射角で配向膜を形成する真空蒸着法が用いられる。図9に入射角の説明図を示す。図において、91は蒸着源、90は基板を示す。93は基板90の中心位置における垂線を示し、94は基板90と蒸着源91とを結ぶ蒸着源距離を示している。入射角は基板面に対する蒸着粒子の入射方向と基板垂線とがなす角とし、基板90の中心位置における入射角を92にて示す。配向膜として使用する為には、基板90に入射する蒸着粒子を一定の入射角度に均一に蒸着させる事が必要となる。基板サイズ95が大きくなれば幾何学的に基板蒸着源間距離94が長く必要になり装置が大型化してしまうため、基板と蒸着源との間にスリットを設けスリットを通過可能な蒸着方向の粒子のみを基板上に堆積させ、基板蒸着源間距離を小さくするものが一般的に用いられている。例えば、特許文献1は液晶表示パネルの製造法であって、基板と蒸着源の間にスリットを設け、蒸着源とスリットのなす角度で傾き角を決定し、基板に対して斜め方向から無機物質を蒸着するものである。
【特許文献1】特開昭63−172121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の第1図に開示されるようなスリット位置により入射角を決定する従来装置は、インライン式装置として連続処理することが可能であるが、スリット位置により一義的に入射角が決定するため、入射角を変更するためには装置構成を変更しなくてはならないという不都合があった。
【0005】
これに対し、蒸着源に対して基板を傾斜させて配置するバッチ式装置は入射角を自由に変更可能であるが、基板配置を手動で行うため基板角度の再現性に問題があった。基板角度の再現性が悪いと製品にバラツキが生じてしまうばかりでなく、蒸着角度に敏感な配向膜の要求性能を満たすことが出来ないという問題が生じてしまう。また、真空状態を維持したまま基板角度を変更することが出来ないため、インライン式の装置に接続して連続処理することができず効率面での課題もあった。
【0006】
また、基板に対する蒸着粒子の入射方向は、入射角のみでなく方位角も制御することが求められる。図10に方位角の説明図を示す。図は蒸着源を視点とする基板90の平面図を示し、蒸着粒子の入射方向を矢印100にて表す。方位角101は基板面に垂直な軸を中心に基板90を回転させることにより可変させ、0〜360°の範囲から所定の角度に設定される。しかし従来装置では方位角を精度良く確保する手段がなく、基板配置を手動で行うバッチ式装置では入射角同様再現性に問題があり、インライン式装置では方位角を変化させることができなかった。更に、成膜中に成膜条件を変更することができず、基板毎の条件出しも不可能であるという不都合もあった。
【0007】
本発明は、基板角度を自動調整し、かつ同時蒸着を行う基板毎に成膜条件出し可能な装置および方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面は、排気手段を有する真空槽内に、蒸着源、蒸着される基板を保持する基板保持機構、及び各基板に対して蒸着粒子の入射状態を調整するスリット開口を有する少なくとも1つのスリット機構を備え、基板面に液晶配向膜を形成する液晶配向膜用真空蒸着装置であって、各基板保持機構について、スリット機構に取り付けられ、スリットに対する基板の相対位置を調整するために基板保持機構を移動させる可動機構を設けた液晶配向膜用真空蒸着装置である。さらに、各スリット機構について、スリット機構をスリット開口に関して回転させ、スリット開口面と蒸着源とのなす角を調整する基板入射角可変機構を設けた。ここで、可動機構は、少なくとも、基板を基板面に対して水平に回転調整する基板方位角可変機構で構成されるようにした。また、可動機構が、少なくとも、スリットにより入射方向を規制された蒸着粒子を横切るように基板を移動させる基板スライド機構で構成されるようにした。
【0009】
上記第1の側面において、基板入射角可変機構が、スリット開口と蒸着源とを結ぶ直線と基板垂線とがなす入射角を0〜90°の範囲から選択した任意の角度に設定するようにした。基板入射角可変機構が、固定軸と、直線駆動源に連結する可動軸により基板を支持し、直線駆動源を駆動することにより固定軸を支点として基板を傾斜させる構成にした。
また、基板方位角可変機構が、基板が配置される平面内で基板の方位角を0〜360°の範囲から選択した任意の角度に設定する構成にした。さらに、基板方位角可変機構が、基板を搭載するためのθステージであって基板面に対して水平に回転自在なθステージ、およびθステージの駆動源により構成した。
またさらに、基板スライド機構が、可動テーブルおよび可動テーブルの駆動源により構成され、可動テーブルに基板が搭載される構成とした。
また、基板保持機構が、基板押さえであって基板保持機構との間に基板の少なくとも一部分を挟むように構成された基板押さえ、及び基板押さえの開閉機構を備える構成とした。
【0010】
上記第1の側面において、各スリット機構において、所望の開口形状を有するスリットが脱着可能な構成とした。また、スリット開口を開閉する治具シャッターを備える構成とした。
また、開口領域及び遮蔽領域からなりスリット開口面に平行に配置される1枚の冶具シャッター、及び冶具シャッターを移動制御する移動手段を備え、スリットが装着される場合にはスリットの開口形状、装着されない場合にはスリット開口によって画定される領域をスリット領域とした場合、開口領域はスリット領域よりも大きく、基板のスライド動作に際し、移動手段によって、スリット領域とスライドされる基板とがオーバーラップしない領域を遮蔽領域が遮蔽し、かつ、スリット領域、スライドされる基板及び開口領域がオーバーラップするように冶具シャッターが移動制御されるようにした。
他の構成として、スリット開口面に平行に配置される2枚の冶具シャッター、及び冶具シャッターを移動制御する移動手段を備え、スリットが装着される場合にはスリットの開口形状、装着されない場合にはスリット開口によって画定される領域をスリット領域とした場合、基板のスライド動作に際し、移動手段によって、スリット領域とスライドされる基板とがオーバーラップしない領域をいずれか一方の冶具シャッターが遮蔽し、かつ、スリット領域、スライドされる基板及び2枚の冶具シャッターの隙間がオーバーラップするように冶具シャッターが移動制御されるようにした。
【0011】
上記第1の側面において、可動機構及び基板方位角可変機構を自動制御する制御装置を設けた。さらに、制御装置は、蒸着源、基板保持機構、基板スライド機構、基板入射角可変機構、および基板方位角可変機構に接続される構成とした。なお、装置は、インライン式であることが望ましい。
【0012】
本発明の第2の側面は、排気手段を有する真空槽内に、蒸着源、蒸着される基板を保持する基板保持機構、各基板に対して蒸着粒子の入射状態を調整するスリット開口を有する少なくとも1つのスリット機構、並びにスリット機構及び基板を動作させる制御装置を備えた液晶配向膜用真空蒸着装置において、基板面に配向膜を作製する方法であって、各スリット機構について、スリット機構をスリット開口に関して回転させてスリット開口面と蒸着源とのなす角を制御し、各基板保持機構について、基板を基板面に対して水平に回転させスリット開口とのなす角を制御し、基板をスリット開口面の上を通過するようにスライド制御する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は基板の入射角および方位角を基板毎に自動で設定可能であるため、真空状態を維持したまま成膜条件を種々変更することが可能である。これにより、所望の配向膜を効率良く生産することが可能となる。また、各機構によって個々に条件設定が可能であるため、生産タクトの向上および品質の向上に貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は装置の全体構成を示す水平面図であり、成膜室1、仕込室2、取出室3、およびバッファー室4を備えるロードロック式の装置に対応している。仕込室2および取出室3は複数枚の基板6を収納可能であり、バッファー室4には成膜室1に対して基板6のロード及びアンロードを行うロボット5が備えられる。
【0015】
図2は図1に示す成膜室1の概略垂直面図であり、成膜室1底面には蒸着源7が配置される。蒸着源7は、蒸着材料13、蒸着材料13に電子ビーム14を照射する電子銃12、および蒸着材料13を遮蔽する開閉自在のシャッター15を具備する。蒸着源7は蒸着材料13を蒸発または昇華させるものであればよく、電子ビームに限らず、抵抗加熱、レーザー等他の加熱機構を用いてもよい。蒸着材料13には所望の成膜材料を用いればよく、図示はしないが複数の蒸着材料を備える蒸着材料供給機構を用いて蒸着源に蒸着材料を自動供給してもよい。
【0016】
成膜室1天井面には公転機構10が回転自在に配置され、公転機構10には基板入射角可変機構11を介して基板治具ユニット8が取付けられる。基板入射角可変機構11は駆動源を備え、基板治具ユニット8との連結部を駆動することにより蒸着源7に対して基板治具ユニット8を所定の角度に傾斜させる機構である。基板治具ユニット8は蒸着源7の鉛直線を中心とする円周上に配置され、その内部には基板6が保持される。図3は基板治具ユニット8の内部を示す概略図であり、基板スライド機構20、基板方位角可変機構21、および、基板着脱機構22に基板6が搭載され、基板6に対面する位置にスリット機構23が備えられる。実施例は成膜室1内に4つの基板治具ユニット8を配置し、4枚の基板6を同時蒸着するものとするが、基板治具ユニット8の数は同時処理しようとする基板の枚数に合わせて適宜選択すればよい。また、図2では説明のため基板治具ユニット8を2つのみ図示している。
【0017】
公転機構10、蒸着源7、基板入射角可変機構11、基板スライド機構20、基板方位角可変機構21、基板着脱機構22、およびスリット機構23は制御装置16に接続される。
【0018】
図4を参照に基板入射角可変機構11を説明する。図4(a)は基板入射角可変機構11の一例を示す概略図であり、図中AA´における概略断面図を図4(b)に、動作説明図を図4(c)に示す。
【0019】
基板入射角可変機構11は、基板治具ユニット8に連結するカムフォロア31、カムフォロア31の駆動源である真空モータ32およびボールねじ33、基板治具ユニット8に連結し回転の支点となる支軸34、公転機構10に固定される支持板30により構成される。説明のため、図4(a)においては支持板30を省略するが、支軸34、真空モータ32およびボールネジ32は支持板30に固定される。基板治具ユニット8にはカムガイド板35が取付けられ、カムガイド板35に設けられた長穴状のカム孔36にはカムフォロア31が係合される。カムフォロア31はカム孔36の短軸方向に直線移動するボールねじ33に取付けられ、ボールねじ33は真空モータ32に接続される。真空モータ32が駆動すると、ボールねじ33に連動してカムフォロア31がカムガイド板35を案内し、基板治具ユニット8を誘導する。
【0020】
図4(c)にカムフォロア34を直線動作させることにより支軸34を支点とする回転動作が誘導される様子を示す。基板角度可変機構11は制御装置16に接続され、基板治具ユニット8が所望の傾斜角度となる位置でカムフォロア31が停止するよう真空モータ32が制御されている。基板治具ユニット8の傾斜角度は制御装置16を用いて自動で設定すればよい。カムガイド板35はカムフォロア31を案内することにより基板治具ユニット8を回転動作させるものであればよく、カム孔36の形状は図示に限られるものではない。
【0021】
図4(d)に基板入射角可変機構11の他の例を示す。図4(d)に示す基板入射角可変機構11は、基板治具ユニット8に連結するアーム39、アーム39に連結する可動部38、可動部38の駆動源である真空モータ41およびボールねじ40、基板治具ユニット8に連結し回転の支点となる支軸42、支軸42の支持板37により構成される。支持板37、ボールねじ40および真空モータ41は公転機構10に対して固定される。同図は、ボールねじ40によりアーム39を連動させることにより基板治具ユニット8が支軸42を支点に回転動作する様子を示す。回転角度は図4(a)同様に制御装置16を用いて自動で設定すればよい。
【0022】
回転の支点は自由に設定可能であるが、支点は基板6の成膜位置に等しいことが望ましい。図3に示すように、基板治具ユニット8はその中心に成膜位置であるスリット開口61を備えるが、図4(a)〜(c)では基板治具ユニット8のスリット開口61位置に支軸34を設けるため、成膜位置における入射角を制御し易い。実施例は、真空モータを駆動源とするボールねじにカムフォロアを連動させるが、駆動源はこれに限られるものではない。直線動作を回転動作に変換するものに限らず、回転駆動源を用いて直接回転動作させてもよい。
【0023】
次に、図3を参照に基板スライド機構20の一例を説明する。図中網掛けにて示す基板スライド機構20は可動テーブル26、および、可動テーブル26の駆動源により構成される。実施例は、駆動源に真空モータ24を使用し、真空モータ24に接続したボールねじ25に可動テーブル26を連結し、真空モータ24を駆動させる事により可動テーブル26をスライドさせるものであるが、可動テーブルの26駆動源は適宜選択すればよい。可動テーブル26には基板方位角可変機構21と基板着脱機構22が搭載され、可動テーブル26を駆動すると、基板着脱機構22に固定された基板6が可動テーブル26と一体となってスライドする構成である。基板6に対面するスリット機構23によりスリット開口61から基板6の一部のみを蒸着源7に露出し、スリット開口61に対して基板6を平行移動させることにより所定入射角度の蒸発粒子のみを成膜し、基板6の全面に均一な配向膜を得ることを可能とするものである。また、基板スライド機構20は制御装置16に接続され、可動テーブル26が所望の速度で移動し、所定の位置で停止するよう真空モータ24が制御されている。制御装置16により、基板毎にスライド速度を可変することで、基板6の槽内でのバラツキを抑えることが可能となる。
【0024】
図5に基板方位角可変機構21の一例を示す。基板方位角可変機構21は基板スライド機構20の可動テーブル26に対して回転自在に配置されるθステージ50、および、θステージ50の駆動源51により構成される。θステージ50には基板着脱機構22が搭載され、θステージ50を駆動すると、基板着脱機構22に固定された基板6がθステージ50と一体となって回転する構成である。
【0025】
図5(a)に網掛けにて示す部分が駆動源51による回転部分である。図5(b)は基板6の水平面図を示し、基板方位角可変機構21により基板6は例えば図中破線にて示す角度に回転する。実施例は、可動テーブル26に真空モータを固定し、真空モータを駆動源51としてθステージ50を回転させ基板6の方位角を可変するものとするが、θステージ50の駆動源は適宜選択すればよい。真空モータからθステージ50への回転伝達には例えばギアを用いてもよく、また真空モータの回転軸をθステージ50に直接固定してもよい。基板方位角可変機構21は制御装置16に接続され、θステージ50が所定の回転角度で停止するよう駆動源51が制御されている。また、図5(c)に示すように基板治具ユニット8´に回転位置52を設ければ、基板治具ユニット8を小型化することが可能となる。
【0026】
図6にスリット機構23の一例を示す。図は水平面図を示し、スリット機構23は取外し自在に配置され開口61を有するスリット60、開閉自在に配置される治具シャッター63、治具シャッター63をガイドするVローラ62、および治具シャッター63を開閉する図示しない駆動源により構成される。治具シャッター63はスリット開口61を開閉する機構であり、図6(a)に開時の状態を、図6(b)に閉時の状態を示す。実施例は治具シャッター63を図示しない真空モータとボールねじにより駆動するものとするが駆動源はこれに限られるものではない。またVローラに限らずLMガイド等を用いてもよい。
【0027】
スリット60について、開口61のサイズは交換可能であり、例えば開口幅の狭いスリット60´や開口幅の広いスリット60″等を準備しておけばよい。スリット60は製品の仕様に合わせて交換すればよく、スリット60を交換可能とすることで効率のよい成膜を行うことが可能となる。治具シャッター63は制御装置16に接続され、所望のタイミングで治具シャッター63がスリット開口61を遮蔽するよう駆動源が制御されている。蒸着源7と基板6の間にスリット機構23を設け、基板スライド機構20により基板6をスライドさせることにより必要な粒子のみを基板上に堆積させ、基板蒸着源間距離を小さくすることが可能となる。
【0028】
図6(c)〜(f)にスリット機構23の他の例を示す。紙面左側に水平面図を、紙面右側にスリット開口61位置における断面図を示し、断面図には水平面図には省略した基板6および蒸着源7を概略的に示す。スリット機構23に備えられた治具シャッター64は、開口65および遮蔽部66を有し、図示しない駆動源に接続され、Vローラ62に沿って移動可能に配置される。開口65はスリット開口61に等しい開口幅とし、遮蔽部66はスリット開口61を完全に覆う遮蔽面を有するものとする。
【0029】
以下、基板6を図の矢印a方向にスライドさせる場合の動作を説明する。成膜開始前、治具シャッター64は、遮蔽部66がスリット開口61を完全に覆う位置に停止させておく。この様子を図6(c)に示す。成膜開始後、基板6を矢印a方向にスライドさせ、基板6が図6(d)に示す位置まで移動した時点で、治具シャッター64のスライドを開始させる。図6(d)には基板6の一端cと開口65の一端eとが一致する様子を示す。治具シャッター64は、基板6の一端cと開口65の一端eとが一致した状態を維持するよう、図の矢印a方向に基板6と同速でスライドさせるものとし、基板6および治具シャッター64が図6(e)に示す位置まで移動した時点で、治具シャッター64を停止させる。
【0030】
図6(e)には、開口65がスライド開口61に完全に一致した状態を示す。基板6は図の矢印a方向へのスライドを継続し、基板6が図6(f)に示す位置まで移動した時点で、再度治具シャッター64のスライドを開始させる。図6(f)には基板6の他端bと開口65の他端dとが一致する様子を示す。治具シャッター64は図の矢印a方向に基板6と同速でスライドさせ、基板6の他端bと開口65の他端dとが一致した状態を維持する。基板6の他端がスリット開口61を完全に通過し終えた際、遮蔽部66がスリット開口61を完全に覆い、基板面への成膜が終了する。図6(c)〜(f)では基板6を図の矢印a方向にスライドさせる例を説明したが、基板を矢印aと逆方向にスライドさせる場合は、同図を反転させた動作をするよう治具シャッター64を操作すればよい。
【0031】
基板6の一端cがスリット開口61を通過する際、および基板6の他端bがスリット開口位置を通過する際、スリット開口61全開であると蒸着材料が基板治具ユニット8に入りこみ内部を汚染してしまうが、治具シャッター64の開口65を基板6の一端cもしくは他端bに合わせた状態で基板6と同速でスライドさせることにより、治具ユニット8内部に蒸着材料が入り込むことを防ぐことが可能となる。図6(a)に示すようにスリット開口61の形状を変更する場合は治具シャッター64も開口形状に合わせて交換すればよい。
【0032】
また、図6(g)に示すように、治具シャッター67、68をスリット開口61の両端に設けてもよい。基板6の一端cと治具シャッター67の一端fとが一致するように、基板6の他端bと治具シャッター68の一端gとが一致するように治具シャッター67,68を基板6と同速でスライドさせることにより、上記と同様の効果を得ることができる。
なお、実施例においては冶具シャッター64、67及び68をスリット機構23と基板6との間に配置したが、スリット機構23の蒸着源7側の面に配置してもよい。
【0033】
図7を参照に基板着脱機構22を説明する。図7(a)は基板着脱機構22の一例を示す概略図であり、図中BB´における概略断面図を図7(b)に、動作説明図を図7(c)に示す。基板着脱機構22は、基板6を固定する基板押さえ72、基板押さえ72を固定しカム孔74を有する基板押さえ板73、カム孔74に係合されるカムフォロア76、カムフォロア76に連結するアーム75、アーム75を回転駆動するステッピングモータ71により構成され、基板治具ユニット8内部に配置されたベース70上に取付けられる。実施例は基板押さえ72が基板6を搭載する図示しない基板ホルダを押さえて基板6を固定するものとするが、基板押さえ72が直接基板を押さえる構成としてもよい。
【0034】
図7(a)および(b)は基板6の固定時の様子を示す。ステッピングモータ71を駆動するとアーム75が回転動作し、アーム75に連動するカムフォロア76がカム孔74に案内されて基板押さえ板73を持ち上げ、基板押さえ72が基板6の固定を解除する。
【0035】
図7(c)は基板押さえ板73を持ち上げた際の様子を示し、この状態で基板6の装着または脱着が行われる。装着時は基板6を矢印方向に破線にて示す位置まで移動させ、ステッピングモータ71を前記と反対方向に回転させればよい。基板押さえ板73のカム孔74はカムフォロア76を案内すると同時に基板着脱時のストッパーの役割も担う。実施例では回転駆動源にステッピングモータを用いるが、駆動源はこれに限られるものではない。基板着脱機構22は制御装置16に接続され、ステッピングモータ71を制御し基板6を着脱すればよい。
【0036】
図7(d)に基板着脱機構22の他の例を示す。同図は、基板押さえ板73の持ち上げにクランプ77を用いることを特徴とする。クランプ77は、駆動源78により図の矢印方向に直線動作させる。クランプ77を解除した際に基板6を受渡し、再度クランプすることにより基板6を固定すればよい。実施例は駆動源78に圧空シリンダを用いるものとするが、駆動源はこれに限られるものではない。クランプ77は成膜室1の所定位置に取付け、基板6を所定位置まで搬送して基板の脱着を行ってもよい。また、駆動源78は制御装置16に接続し制御すればよい。
【0037】
以下、図1乃至図7に示す装置を用いた成膜動作を説明する。
まず、仕込室2に格納された未処理基板6をバッファー室4のロボット5が成膜室1に搬入する。成膜室1への基板6の搬出入は真空状態を維持したまま行われるものとし、成膜室1、バッファー室4、および仕込室3は図示しない排気系統により所定の真空度に設定されている。基板6の搬出入時は公転機構10を操作し、搬出入を行う基板治具ユニット8をバッファー室4に対面させる。ロボット5をもちいて基板6を基板着脱機構22に受渡した後、ベース70と基板押さえ72により基板6を固定させればよい。ロボット5、公転機構10、および基板着脱機構22を操作し、全ての基板治具ユニット8に基板6を取付けた後、予め制御装置16に入力された成膜条件に基づいて、真空中にて基板入射角可変機構11および基板方位角可変機構21を操作する。
【0038】
基板入射角可変機構11は、スリット開口61位置における蒸着粒子の入射角が所定の角度となるよう操作すればよい。基板方位角可変機構21は、基板6の方位角が所定の位置となるようθステージ50を回転させればよい。任意の基板に対して、0〜90°の範囲から任意の入射角度に自動可変し、0〜360°の範囲から任意の方位角度に自動可変することにより、基板6を蒸着源7に対して所望の角度に配置して成膜を施すことが可能となる。
【0039】
各諸条件確定後、スリット開口61を塞いでいる治具シャッター63をオープンし、溶かし込み、レート等の諸条件が整った時点で蒸着源7のシャッター15をオープンし成膜を開始する。スリット機構23には予め成膜条件に適合する開口形状のスリット60が装備されているものとする。成膜開始後、基板6がスリット開口61を通過するよう基板スライド機構20を操作し、基板6全面に成膜を施す。成膜終了後は、処理済基板6を成膜室1から搬出して取出室3に収納する。処理済基板6の搬出は、搬入と同様に、ロボット5、公転機構10、および、基板着脱機構22を操作すればよい。成膜レシピにより上記動作を繰返し行えば、成膜室1において所望の入射角、所望の方位角の配向膜を順次形成処理することが可能である。
【0040】
実施例はロードロック式装置を用いるが本発明を実施可能な装置はこれに限らずロードロックではないインライン式装置やバッチ式装置でもよい。本発明の各機構は制御装置16を用いた自動操作が可能であるため、インライン式の装置において特に有効である。また、実施例は液晶配向膜を作製するものであるが、液晶に限らず基板上に斜方蒸着するものであれば本発明を実施可能である。
【0041】
各機構は個々に条件出しが可能であり、真空槽を開放することなく、入射角、方位角を可変することが出来る。また本装置は、蒸着源に対する基板の入射角および方位角を基板毎に自動で設定できるため、所望の配向膜を効率良く生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明装置概略平面図
【図2】成膜室概略断面図
【図3】基板治具ユニット内部概略図
【図4】基板入射角可変機構説明図
【図5】基板方位角可変機構説明図
【図6(a)】スリット機構説明図
【図6(b)】スリット機構説明図
【図6(c)】スリット機構説明図
【図6(d)】スリット機構説明図
【図6(e)】スリット機構説明図
【図6(f)】スリット機構説明図
【図6(g)】スリット機構説明図
【図7】基板着脱機構説明図
【図8】従来のラビング法による配向膜作製例の説明図。
【図9】入射角説明図
【図10】方位角説明図
【符号の説明】
【0043】
1 成膜室
2 仕込室
3 取出室
4 バッファー室
5 ロボット
6 基板
7 蒸着源
8 基板治具ユニット
10 公転機構
11 基板入射角可変機構
12 電子銃
13 蒸着材料
14 電子ビーム
15 シャッター
16 制御装置
20 基板スライド機構
21 基板方位角可変機構
22 基板着脱機構
23 スリット機構
24 真空モータ
25 ボールねじ
26 可動テーブル
30 支持板
31 カムフォロア
32 真空モータ
33 ボールねじ
34 支軸
35 カムガイド板
36 カム孔
37 支持板
38 可動部
39 アーム
40 ボールねじ
41 真空モータ
50 θステージ
51 駆動源
52 回転位置
60 スリット
61 スリット開口
62 Vローラ
63 治具シャッター
64 治具シャッター
65 開口
66 遮蔽部
67 治具シャッター
68 治具シャッター
70 ベース
71 ステッピングモータ
72 基板押さえ
73 基板押さえ板
74 カム孔
75 アーム
76 カムフォロア
77 クランプ
78 駆動源
80 基板
81 樹脂膜
82 ラビング用ローラ
90 基板
91 蒸着源
92 入射角
93 基板垂線
94 基板蒸着源間距離
95 基板サイズ
100 蒸着粒子の入射方向
101 方位角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気手段を有する真空槽内に、蒸着源、蒸着される基板を保持する基板保持機構、及び各基板に対して蒸着粒子の入射状態を調整するスリット開口を有する少なくとも1つのスリット機構を備え、該基板面に液晶配向膜を形成する液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
各基板保持機構について、
該スリット機構に取り付けられ、該スリットに対する該基板の相対位置を調整するために該基板保持機構を移動させる可動機構を設けたことを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項2】
請求項1記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
各スリット機構について、
該スリット機構を該スリット開口に関して回転させ、該スリット開口面と該蒸着源とのなす角を調整する基板入射角可変機構を設けたことを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該可動機構が、少なくとも、該基板を該基板面に対して水平に回転調整する基板方位角可変機構からなることを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3いずれか一項に記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該可動機構が、少なくとも、該スリットにより入射方向を規制された蒸着粒子を横切るように該基板を移動させる基板スライド機構からなることを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項5】
請求項2記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該基板入射角可変機構が、該スリット開口と該蒸着源とを結ぶ直線と該基板垂線とがなす入射角を0〜90°の範囲から選択した任意の角度に設定することを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項6】
請求項5記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該基板入射角可変機構が、固定軸と、直線駆動源に連結する可動軸により該基板を支持し、該直線駆動源を駆動することにより該固定軸を支点として該基板を傾斜させることを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項7】
請求項3記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該基板方位角可変機構が、該基板が配置される平面内で該基板の方位角を0〜360°の範囲から選択した任意の角度に設定することを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項8】
請求項7記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該基板方位角可変機構が、該基板を搭載するためのθステージであって該基板面に対して水平に回転自在なθステージ、および該θステージの駆動源により構成されることを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項9】
請求項4記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該基板スライド機構が、可動テーブルおよび該可動テーブルの駆動源により構成され、該可動テーブルに該基板が搭載されることを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項10】
請求項1記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該基板保持機構が、基板押さえであって該基板保持機構との間に該基板の少なくとも一部分を挟むように構成された基板押さえ、及び該基板押さえの開閉機構を備えたことを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項11】
請求項4記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
各スリット機構において、所望の開口形状を有するスリットが脱着可能であることを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項12】
請求項4記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該スリット開口を開閉する治具シャッターを備えたことを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項13】
請求項4記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
開口領域及び遮蔽領域からなり該スリット開口面に平行に配置される1枚の冶具シャッター、及び該冶具シャッターを移動制御する移動手段を備え、
前記スリットが装着される場合には該スリットの開口形状、装着されない場合には前記スリット開口によって画定される領域をスリット領域とした場合、
該開口領域は該スリット領域よりも大きく、
該基板のスライド動作に際し、該移動手段によって、該スリット領域とスライドされる該基板とがオーバーラップしない領域を該遮蔽領域が遮蔽し、かつ、該スリット領域、スライドされる該基板及び該開口領域がオーバーラップするように該冶具シャッターが移動制御されることを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項14】
請求項4記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該スリット開口面に平行に配置される2枚の冶具シャッター、及び該冶具シャッターを移動制御する移動手段を備え、
前記スリットが装着される場合には該スリットの開口形状、装着されない場合には前記スリット開口によって画定される領域をスリット領域とした場合、
該基板のスライド動作に際し、該移動手段によって、該スリット領域とスライドされる該基板とがオーバーラップしない領域をいずれか一方の該冶具シャッターが遮蔽し、かつ、該スリット領域、スライドされる該基板及び該2枚の冶具シャッターの隙間がオーバーラップするように該冶具シャッターが移動制御されることを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項15】
請求項2記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該可動機構及び該基板方位角可変機構を自動制御する制御装置を設けたことを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項16】
請求項15記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
該制御装置は、該蒸着源、該基板保持機構、該基板スライド機構、該基板入射角可変機構、および該基板方位角可変機構に接続されたことを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項17】
請求項1乃至16記載の液晶配向膜用真空蒸着装置であって、
インライン式であることを特徴とする液晶配向膜用真空蒸着装置。
【請求項18】
排気手段を有する真空槽内に、蒸着源、蒸着される基板を保持する基板保持機構、各基板に対して蒸着粒子の入射状態を調整するスリット開口を有する少なくとも1つのスリット機構、並びに該スリット機構及び該基板を動作させる制御装置を備えた液晶配向膜用真空蒸着装置において、該基板面に配向膜を作製する方法であって、
各スリット機構について、該スリット機構を該スリット開口に関して回転させて該スリット開口面と該蒸着源とのなす角を制御し、
各基板保持機構について、該基板を該基板面に対して水平に回転させ該スリット開口とのなす角を制御し、該基板を該スリット開口面の上を通過するようにスライド制御することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図6(d)】
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【図6(e)】
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【図6(f)】
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【図6(g)】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−330411(P2006−330411A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154892(P2005−154892)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】