説明

液晶高分子組成物及びその成形体

【課題】比重の上昇や耐熱性の低下が抑制され、機械物性に優れる成形体を安定して与えうる液晶高分子組成物を提供する。
【解決手段】液晶高分子と、芳香族ポリスルホン樹脂とを混合して、液晶高分子組成物とする。芳香族ポリスルホン樹脂としては、ヒドロキシル基及び/又はその塩を、前記芳香族ポリスルホン樹脂1gあたり、6×10-5個以上有するものを用いる。液晶高分子組成物において、芳香族ポリスルホン樹脂の含有量は、液晶高分子の含有量100重量部に対して、0.5〜100重量部であるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶高分子組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶高分子、とりわけ、溶融液晶性を有する液晶高分子は、剛直な分子骨格を有し、溶融時に液晶性を発現し、せん断流動時や伸張流動時に分子鎖が配向する特徴を有している。このような特徴から、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形等の溶融加工を施す際には優れた流動性を示すと共に、機械物性に優れた成形体を与える。特に芳香族系液晶高分子は、成形時の優れた流動性に加えて、化学的な安定性と剛直な分子骨格に由来した、高耐熱性や高強度、高剛性を有する成形体を与えることから、軽薄短小化が求められる電気・電子用途をはじめとするエンジニアリングプラスチックとして有用である。
【0003】
しかし、液晶高分子は、優れた性能とは裏腹に成形条件、とりわけ、金型温度が物性の振れに強く影響し、物性の安定した成形品が得られないという問題があった。それは、液晶高分子は、成形時のせん断流動や伸張流動による液晶性ゆえの分子鎖の配向が機械物性の発現に寄与していることから、成形体における分子鎖配向の形成状況、すなわち、成形時の流動による分子鎖の配向状況と冷却固化過程における配向状態の維持状況とによって、機械物性に変動を生じるためである。すなわち、分子鎖の配向の発生やその固定に影響する成形条件が成形体の機械物性に強く影響する。分子鎖の配向は、せん断流動や伸長流動により生起し、せん断流動や伸張流動から解放されると緩和することから、形状賦与(せん断や伸長が加えられる)と固化(緩和と競争)とが同時進行する冷却工程が、物性に大きく影響する。射出成形や押出成形の場合には、金型に充填する工程が、可塑化させた樹脂の流動・形状賦与と冷却固化とが同時に行われる工程であり、極めて動的な環境下で進行することから、その工程の条件、とりわけ金型温度の影響が大きく、得られる成形体の物性が不安定になるという問題があった。また、成形条件が物性に影響を与える中、必要な形状と物性を得るための適正な成形条件幅は限られ、複雑な形状や微細な形状を有する成形体への成形が困難になったり、成形サイクルが伸びて生産性が低下したりするという問題があった。
【0004】
そのため、通常は強度や耐熱性の向上を目的に強化フィラーとして用いられるガラス繊維や無機フィラーの添加が、液晶高分子においては、強化フィラーとしての一面だけではなく、流動時の分子鎖配向を乱すことで成形条件が成形体の機械物性に与える影響を弱め、物性面で安定化させる方法として重要となっている。
【0005】
一方、液晶高分子に他の高分子を配合することも検討されており、例えば、特許文献1には、サーモトロピック液晶ポリマーにポリエステル系熱可塑性エラストマーを配合することで異方性を低減し、反りやウエルド強度が改善された成形体が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−53849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラス繊維や無機フィラーの配合は、成形条件が成形体の機械物性に与える影響を弱めるだけの量を加えると、比重を高めるため、軽薄短小化の一端である軽量化とは相反するものであった。また、ガラス繊維や無機フィラーの配合は、液晶高分子が配向することで発現する優れた特性の一部(引張強度や耐衝撃強度)を低減させるデメリットもあった。
【0008】
一方、特許文献3に開示の技術では、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを配合することにより、液晶高分子自身が有している耐熱性等の特性が低下し易いという問題がある。また、異方性の低減効果は認められても、成形条件の成形体物性への影響は取り除かれていない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、比重の上昇や耐熱性の低下が抑制され、機械物性に優れる成形体を、成形条件、特に金型温度の影響を軽減し、安定して与えうる液晶高分子組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、液晶高分子と芳香族ポリスルホン樹脂とを含む液晶高分子組成物であって、前記芳香族ポリスルホン樹脂が、ヒドロキシル基及び/又はその塩を、前記芳香族ポリスルホン樹脂1gあたり、6×10-5個以上有することを特徴とする液晶高分子組成物を提供する。また、本発明によれば、この液晶高分子組成物を成形してなる成形体も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶高分子組成物によれば、比重の上昇や耐熱性の低下が抑制され、機械物性に優れる成形体を、安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〈液晶高分子〉
液晶高分子は、溶融時に光学異方性を示し、500℃以下の温度で異方性溶融体を形成する高分子である。この光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって確認することができる。液晶高分子は、その分子内に、分子形状が細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(以下、剛性が高い分子鎖を「メソゲン基」と呼ぶことがある)を有する。液晶高分子は、このようなメソゲン基を主鎖又は側鎖のいずれか一方又は両方に有する高分子であるが、より高耐熱性の成形体を求めるならば、高分子主鎖にメソゲン基を有するものが好ましい。
【0013】
液晶高分子の例としては、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、液晶ポリエステルイミド、液晶ポリアミドが挙げられる。中でも、高強度の成形体が得られる点で、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリアミドが好ましい。
【0014】
好適な液晶高分子としては、下記の(a)〜(c)が挙げられ、それらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
(a):下記構造単位(I)及び/又は下記構造単位(II)からなる液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミド。
(b):下記構造単位(I)及び下記構造単位(II)から選ばれる構造単位と、下記構造単位(III)と、下記構造単位(IV)とからなる液晶ポリエステル又は液晶ポリエステルアミド。
(c):下記構造単位(I)及び下記構造単位(II)から選ばれる構造単位と、下記構造単位(III)と、下記構造単位(IV)、下記構造単位(V)及び下記構造単位(VI)から選ばれる構造単位とからなる液晶ポリエステル又は液晶ポリエステルアミド。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、Ar1、Ar2、Ar5及びAr6は、それぞれ独立に、2価の芳香族基を表し、Ar3及びAr4は、それぞれ独立に、芳香族基、脂環基及び脂肪族基から選ばれる2価の基を表す。なお、前記芳香族基にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基で置換されていてもよい。なお、ここで脂環基とは脂環式化合物から水素原子を2つ取り去って得られる基を意味し、脂肪族基とは脂肪族化合物から水素原子を2個取り去って得られる基を意味する。
【0018】
前記の構造単位において、Ar1、Ar2、Ar5又はAr6で表される芳香族基としては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニレン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルケトン、ジフェニルスルフィド、ジフェニルメタン等の、単環芳香族化合物、縮合環芳香族化合物及び複数の芳香環が2価の連結基(単結合を含む)で連結された芳香族化合物からなる群から選ばれる芳香族化合物の芳香環に結合している水素原子を2つ取り去って得られる基であり、好適には、2,2−ジフェニルプロパン、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基及び4,4’−ビフェニレン基から選ばれる2価の芳香族基であり、該芳香族基がこのような基である液晶高分子は、より機械強度に優れる傾向にあるため好ましい。
【0019】
構造単位(I)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位であり、該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸、又はこれらの芳香族ヒドロキシカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。なお、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などの炭素数1〜6の直鎖、分岐又は脂環状のアルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などの、直鎖、分岐又は脂環状のアルコキシ基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基やナフチル基が挙げられる。また、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子から選ばれる。
【0020】
構造単位(II)は、芳香族アミノカルボン酸から誘導される構造単位であり、該芳香族アミノカルボン酸としては、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−12−ナフトエ酸、又はこれら芳香族アミノカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸が挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同じである。
【0021】
構造単位(V)は、芳香族ヒドロキシアミンから誘導される構造単位であり、該芳香族ヒドロキシアミンとしては、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニル、又はこれら芳香族ヒドロキシアミンにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同じである。
【0022】
構造単位(VI)は、芳香族ジアミンから誘導される構造単位であり、該芳香族ジアミンとしては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルスルフィド(チオジアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(オキシジアニリン)、又はこれらの芳香族ジアミンにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸、前記に例示した芳香族ジアミンの1級アミノ基に結合している水素原子がアルキル基に置換されてなる芳香族ジアミンが挙げられる。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同じである。
【0023】
前記の構造単位(III)におけるAr3と、構造単位(IV)におけるAr4は、Ar1、Ar2、Ar5又はAr6で説明した芳香族基に加えて、炭素数1〜9の飽和脂肪族化合物から水素原子を2つ取り去って得られる2価の脂肪族基や2価の脂環基から選ばれる基である。
【0024】
構造単位(III)は、芳香族ジカルボン酸あるいは脂肪族ジカルボン酸から誘導される基であり、該芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’’−トリフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、又はこれら芳香族ジカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0025】
該脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;及びトランス−1,4−(1−メチル)シクロヘキサンジカルボン酸、トラシス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸あるいはこれらの脂肪族ジカルボン酸にある脂肪族基又は脂環基の水素原子の一部又は全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同等である。
【0026】
構造単位(IV)は、芳香族ジオールあるいは脂肪族ジオールから誘導される基であり、該芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレン−2,6−ジオール、4,4’−ビフェニレンジオール、3,3’−ビフェニレンジオール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン又はこれら芳香族ジオールにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジオールが挙げられる。
【0027】
該脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジオール、シス−1,4−シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、トランス−1,3−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、トランス−1,3−シクロヘキサンジメタノール又はこれらの脂肪族ジオールにある脂肪族基又は脂環基の水素原子の一部又は全部がアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる脂肪族ジオールが挙げられる。
【0028】
なお、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子の例示は、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸で例示したものと同じである。
【0029】
前記の好適な液晶高分子において、(b)又は(c)は、構造単位(III)と構造単位(IV)に脂肪族基を有する場合もあるが、かかる脂肪族基の液晶高分子に対する導入量は、該液晶高分子が液晶性を発現し得る範囲で選択され、さらには該液晶高分子の耐熱性を著しく損なわない範囲で選択される。本発明に適用する液晶高分子において、Ar1〜Ar6の総和を100モル%としたとき、2価の芳香族基の総和が60モル%以上であると好ましく、75モル%以上であるとより好ましく、90モル%以上であるとさらに好ましく、2価の芳香族基の総和が100モル%である全芳香族液晶高分子が特に好ましい。
【0030】
好適な全芳香族液晶高分子の中でも、前記(a)の液晶ポリエステル又は前記(b)の液晶ポリエステルが好ましく、特に前記(b)の液晶ポリエステルが好ましい。前記(b)の液晶ポリエステルの中でも、下記の(I−1)及び/又は(I−2)の芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(III−1)、(III−2)及び(III−3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位と、下記の(IV−1)、(IV−2)、(IV−3)及び(IV−4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジオールから誘導される構造単位とからなる液晶ポリエステルは、成形性、耐熱性、高機械強度および難燃性といった特性がいずれも高水準となる成形体が得られやすいといった利点がある。
【0031】
【化2】

【0032】
液晶高分子は、前記(a)においては芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又は芳香族アミノカルボン酸を原料モノマーとし、前記(b)においては、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又は芳香族アミノカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸と、芳香族ジオール及び/又は脂肪族ジオールとを原料モノマーとし、前記(c)においては、芳香族カルボン酸及び/又は芳香族アミノカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、脂肪族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを原料モノマーとし、これらの原料モノマーを公知の重合方法で重合させることにより製造できる。
【0033】
より好適な液晶高分子である液晶高分子である前記(b)の液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオールとを原料モノマーとして用いて重合させることで得ることができる。
【0034】
上述のように、液晶高分子を製造するには、前記に示した原料モノマーを直接重合してもよいが、より重合を容易にするためには、原料モノマーの一部をエステル形成性誘導体・アミド形成性誘導体(以下、まとめてエステル・アミド形成性誘導体ということがある)に転換してから重合させることが好ましい。該エステル・アミド形成性誘導体とは、エステル生成反応又はアミド生成反応を促進するような基を有する化合物を意味し、具体的に例示すると、モノマー分子内のカルボキシル基を、ハロホルミル基、酸無水物、エステルに転換したエステル・アミド形成性誘導体、モノマー分子内のフェノール性水酸基、フェノール性アミノ基を、それぞれエステル基、アミド基にしたエステル・アミド形成性誘導体などが挙げられる。
【0035】
以下、原料モノマーの一部をエステル・アミド形成性誘導体に転換して重合を行い、前記(b)の液晶ポリエステルを製造する方法について簡単に説明する。該液晶ポリエステルの製造としては、例えば、特開2002−146003号公報に記載の方法等によって実施できる。まず、酸無水物、好ましくは無水酢酸を用いて、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのフェノール性水酸基をアシル基に転換したアシル化物を製造する。次いで、このようにして得られたアシル化物のアシル基と、アシル化芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とがエステル交換を生じるようにして脱酢酸重縮合させることによって、液晶ポリエステルが生成する。このような脱酢酸重縮合は、反応温度150〜400℃、反応時間0.5〜8時間という条件での溶融重合で実施できる。該溶融重合では、比較的低分子量の液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」という)が得られる。液晶ポリエステル自身のさらなる特性向上のためには、該プレポリマーをさらに高分子量化させることが好ましく、この高分子量化には固相重合を行うことが好ましい。該固相重合とは、該プレポリマーを粉砕して粉末状にし、得られた粉末状プレポリマーを固相状態のまま加熱する重合方法である。このような固相重合を用いると、重合がより進行して、液晶ポリエステルの高分子量化を図ることができる。
【0036】
〈芳香族ポリスルホン樹脂〉
芳香族ポリスルホン樹脂は、主鎖骨格内に芳香族基及びスルホニル基を有するものである。そして、本発明では、芳香族ポリスルホン樹脂として、ヒドロキシル基及び/又はその塩(以下、合わせて「ヒドロキシル基類」とうことがある。)を、前記芳香族ポリスルホン樹脂1gあたり、6×10-5個以上有するものを用いる。かかる所定の芳香族ポリスルホン樹脂を液晶高分子に配合することにより、比重の上昇や耐熱性の低下が抑制され、機械物性に優れる成形体を安定して与えうる液晶高分子組成物を得ることができる。前記ヒドロキシル基類の含有量は、前記芳香族ポリスルホン樹脂1gあたり、好ましくは8×10-5個以上であり、また、強度低下抑制の観点から、通常20×10-5個以下、好ましくは17×10-5個以下である。
【0037】
液晶高分子組成物の溶融加工時における安定性向上の観点からは、ヒドロキシル基類の全てがヒドロキシル基であることが好ましい。また、芳香族ポリスルホン樹脂は、ヒドロキシル基類を、芳香環に結合した状態で、すなわちフェノール性ヒドロキシル基及び/又はその塩として有していることが好ましく、また、主鎖の末端に有していることが好ましい。
【0038】
ヒドロキシル基の塩は、ヒドロキシル基からプロトンが解離してなるオキシアニオン基と、対カチオンとから構成され、対カチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンの等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、アンモニアや1〜3級アミンがプロトン化されてなるアンモニウムイオン、4級アンモニウムイオンが挙げられる。なお、対カチオンが、アルカリ土類金属イオン等の多価カチオンである場合、対アニオンは、複数のオキシアニオン基から構成されていてもよいし、オキシアニオン基と、塩化物イオン、水酸化物イオン等の他のアニオンとから構成されていてもよい。
【0039】
芳香族ポリスルホン樹脂は、下記式(1)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(1)」ということがある)を有するものであることが、耐熱性、高機械強度、難燃性、耐薬品性、低発生ガスの成形体が得られ易くて、好ましい。この芳香族ポリスルホン樹脂は、さらに、下記式(2)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(2)」ということがある)及び/又は下記式(3)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(3)」ということがある)を有していてもよい。芳香族ポリスルホン樹脂において、繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは80モル%以上である。
【0040】
−Ph1−SO2−Ph2−O− (1)
【0041】
(Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、下記式(4)で表される基を表す。)
【0042】
−Ph3−R−Ph4−O− (2)
【0043】
(Ph3及びPh4は、それぞれ独立に、下記式(4)で表される基を表し、Rは、炭素数1〜3のアルキリデン基若しくはアルキレン基、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0044】
−(Ph5)n−O− (3)
【0045】
(Ph5は、下記式(4)で表される基を表し、nは、1〜5の整数を表す。nが2以上である場合、複数存在するPh5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0046】
【化3】

【0047】
(R1は、炭素数1〜3のアルキル基、ハロゲノ基、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、フェニル基、又はヒドロキシル基若しくはその塩を表す。n1は、0〜2の整数を表し、n1が2である場合、2つのR1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0048】
また、芳香族ポリスルホン樹脂は、その還元粘度が0.25〜0.60dl/gのであることが好ましい。還元粘度があまり小さいと、液晶高分子組成物を成形した際に成形体の機械的強度や耐薬品性が低くなったり、発生ガス成分が増加したりするために好ましくない。一方、還元粘度があまり大きいと、前記所定量以上のヒドロキシル基類を有し難くなり、成形条件によって液晶高分子組成物の物性が大きく振れ、物性面で安定した成形体が得られなくなったり、芳香族ポリスルホン樹脂の溶融粘度が上昇して、成形時の流動性が損なわれたりするため、好ましくない。機械的強度や耐薬品性、発生ガス等の成形体物性、及び成形体物性の安定性と加工性のバランスを考慮すると、より好ましくは0.30〜0.55dl/gであり、さらに好ましくは0.36〜0.55dl/gである。
【0049】
芳香族ポリスルホン樹脂は、対応する2価フェノールとジハロゲノベンゼノイド化合物とうぃ、炭酸のアルカリ金属塩を用いて、有機高極性溶媒中で重合させることにより、製造することができる。その際、原材料のモル比や反応温度を、副生する水酸化アルカリによる芳香族ポリスルホン樹脂の解重合やハロゲノ基のヒドロキシル基類への置換反応等の副反応も考慮して、調整することにより、得られる芳香族ポリスルホン樹脂に前記所定量以上のヒドロキシル基類を導入することができる。
【0050】
2価フェノールの例としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホン、4,4’−スルホニル−2,2’−ジフェニルビスフェノール、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、フェニルヒドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,2’−ジヒドロキシジフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシじフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ビスフェノール、4,4’’’−ジヒドロキシ−p−クオターフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、4,4’−オキシジフェノールが挙げられる。
【0051】
ジハロゲノベンゼノイド化合物の例としては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4−クロロフェニル−3’,4’−ジクロロフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ジフェニルが挙げられる。ジハロゲノベンゼノイド化合物としては、そのハロゲン原子が、それに対しパラ位に結合したスルホニル基で活性化されているものが好ましい。
【0052】
また、2価フェノール及びジハロゲノベンゼノイド化合物の全部又は一部に代えて、フェノール性ヒドロキシル基及びハロゲン原子を有する化合物、例えば4−ヒドロキシ−4’−(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニルを用いることもできる。
【0053】
ジハロゲノベンゼノイド化合物の使用量は、ヒドロキシル基類を主鎖骨格中に形成するために、2価フェノールに対して、80〜105モル%であることが好ましく、高分子量の芳香族ポリスルホン樹脂を得るためには、98〜105モル%であることが好ましい。
【0054】
有機高極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホンが挙げられる。
【0055】
炭酸のアルカリ金属塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の正塩であってもよいし、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等の酸性塩であってもよく、両者を併用してもよい。その使用量は、芳香族ポリスルホン樹脂を高分子量化させ、かつ、ヒドロキシル基類を主鎖骨格中に形成するためには、2価フェノールのフェノール性ヒドロキシル基に対して、アルカリ金属として、0.95モル倍以上であることが好ましく、ジハロゲノベンゼノイド化合物の使用量が2価フェノールに対して80〜98モル%である場合は、2価フェノールのフェノール性ヒドロキシル基に対して、アルカリ金属として、0.95〜1.005モル倍であることが好ましく、ジハロゲノベンゼノイド化合物の使用量が2価フェノールに対して98〜105モル%である場合は、2価フェノールのフェノール性ヒドロキシル基に対して、アルカリ金属として、1.005〜1.40モル倍であることが好ましい。炭酸のアルカリ金属塩の使用量があまり多いと、生成する芳香族ポリスルホン樹脂の開裂や分解が生じ易くて低分子量化し易く、あまり少ないと、重縮合反応が十分に進行せず、低分子量の芳香族ポリスルホン樹脂しか得られなかったり、ヒドロキシル基類の量が少なくなるため、好ましくない。
【0056】
典型的な製造方法では、第1段階として、2価フェノールとジハロゲノベンゼノイド化合物とを有機極性溶媒に溶解させ、第2段階として、得られた溶液に炭酸のアルカリ金属塩を加え、2価フェノールとジハロゲノベンゼノイド化合物とを重縮合させ、第3段階として、得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩と、副生したアルカリ金属ハロゲン化物等のアルカリ金属塩と、有機極性溶媒とを除去して、芳香族ポリスルホンを得る。
【0057】
ここで、第1段階の溶解温度は、通常40〜180℃であり、第2段階の重縮合温度は、通常180〜400℃である。重縮合温度が高いほど、高分子量の芳香族ポリスルホンが得られる傾向にあることから好ましいが、あまり高いと、分解等の副反応が生じ易くなるため好ましくない。また、あまり低いと、反応が遅くなり、好ましくない。通常、副生する水を除去しながら徐々に昇温し、有機極性溶媒の還流温度に達した後、さらに1〜50時間、好ましくは10〜30時間攪拌するのがよい。
【0058】
また、前記第1段階及び第2段階に代えて、まず、炭酸のアルカリ金属塩と2価フェノール類と有機極性溶媒とを、予め混合、反応させ、副生する水を予め取り出してもよいが、この方法は、ジハロゲノベンゼノイド化合物の使用量が2価フェノールに対して、80〜98モル%である場合に主に採用される。ジハロゲノベンゼノイド化合物の使用量が2価フェノールに対して98〜105モル%である場合にこの方法を採用すると、ヒドロキシル基類の量が少なくなるために好ましくない。本法では、水を反応溶液から取り出すために、水と共沸する有機溶媒を反応溶液に混合させ、共沸脱水させてもよい。水と共沸する有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、シクロヘキサンが挙げられる。共沸脱水を実施する温度は、共沸溶媒と水が共沸する温度によるが、通常70〜200℃である。
【0059】
次いで、水が共沸しなくなるまで反応させたのち、ジハロゲノベンゼノイド化合物を混合し、前記と同様に通常180〜400℃で重縮合させる。この場合も、重縮合温度が高いほど、高分子量の芳香族ポリスルホン樹脂が得られる傾向にあることから好ましいが、あまり高いと、分解等の副反応が生じ易くなるため好ましくない。またあまり低いと、反応が遅くなり、好ましくない。
【0060】
第3段階においては、炭酸のアルカリ金属塩と、副生したアルカリ金属ハロゲン化物等のアルカリ金属塩とを、濾過器や遠心分離器等で除去することにより、芳香族ポリスルホン樹脂が有機極性溶媒に溶解してなる溶液を得ることができる。その溶液から有機極性溶媒を除去することで、芳香族ポリスルホン樹脂が得られる。有機極性溶媒の除去には、芳香族ポリスルホン樹脂の溶液から、直接、有機極性溶媒を留去する方法や、芳香族ポリスルホン樹脂の溶液を一旦、芳香族ポリスルホン樹脂の貧溶媒におとして、芳香族ポリスルホン樹脂を析出させ、濾過や遠心分離等で分離して得る方法がとられる。
【0061】
または、比較的高融点の有機極性溶媒が重合溶媒として用いられる場合には、第2段階の後、反応混合物を冷却固化させ、その固溶体を粉砕させた後、水と、芳香族ポリスルホン樹脂に対して溶解力を持たず、かつ、有機極性溶媒に対して溶解力をもつ溶媒とを用いて、炭酸のアルカリ金属塩と、副生したアルカリ金属ハロゲン化物等のアルカリ金属塩と、有機極性溶媒とを抽出除去する方法も可能である。
【0062】
粉砕粒径は、抽出効率や抽出時の作業性から、中心粒径として50〜2000μmであることが好ましい。粉砕粒径があまり大きいと、抽出効率が悪く、あまり小さいと、溶液抽出の際に固結したり、抽出後に濾過や乾燥を行う際に目詰まりを起こしたりするため、好ましくない。粉砕粒径は、100〜1500μmであることがより好ましく、200〜1000μmであることがさらに好ましい。
【0063】
抽出溶媒としては、例えば重合溶媒にジフェニルスルホンを使用した場合、アセトンとメタノールとの混合溶媒を用いることができる。ここで、アセトンとメタノールとの混合比は、抽出効率や、芳香族ポリスルホン樹脂粉体の固着性から決めるのがよい。
【0064】
ヒドロキシル基類を有する芳香族ポリスルホン樹脂の市販品の例としては、住友化学株式会社製「スミカエクセル5003P」が挙げられる。
【0065】
〈液晶高分子組成物〉
本発明の液晶高分子組成物は、前記液晶高分子と、前記芳香族ポリスルホン樹脂を含み、この組成物中、芳香族ポリスルホン樹脂の含有量は、液晶高分子の含有量100重量部に対して、0.50〜100重量部であることが好ましい。芳香族ポリスルホン樹脂の含有量があまり少ないと、成形条件による成形体の物性の振れが大きくなり、物性面で安定した成形体が得られないため、好ましくない。一方、芳香族ポリスルホン樹脂の含有量があまり多いと、液晶高分子の特徴である成形時の流動性、成形体の耐熱性や強度が損なわれたり、組成物の溶融安定性が低下し、組成物を溶融加工により製造するプロセスや、成形体に成形するプロセスにおいて、組成物全体が増粘したり、組成物中に極度に高粘度化した塊を生じ、加工装置のノズルを閉塞したりして、成形加工が困難となるため、好ましくない。成形体物性の安定性、成形時の流動性や加工安定性、成形体の耐熱性のバランスを考慮すると、芳香族ポリスルホン樹脂の含有量は、液晶高分子の含有量100重量部に対して、より好ましくは2〜50重量部であり、さらに好ましくは5.25〜12重量部である。
【0066】
本発明の液晶高分子組成物には、必要に応じて、例えば機械強度や耐熱性の向上を求めて、前記液晶高分子及び前記芳香族ポリスルホン樹脂以外の成分が含まれていてもよい。その例としては、繊維状フィラー、板状フィラー、球状フィラー、粉状フィラー、異形フィラー、ウイスカー等のフィラーの他、着色成分、潤滑剤、各種界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、その他各種安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤が挙げられる。
【0067】
繊維状フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、その他セラミック繊維、液晶高分子(LCP)繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維が挙げられる。また、ウオラストナイト、、チタン酸カリウム繊維等のウイスカも挙げられる。板状フィラーとしては、例えば、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイトが挙げられる。球状フィラーとしては、例えば、ガラスビース、ガラスバルーンが挙げられる。粉状フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ硫酸バリウム、酸化チタン、カーボンブラック、導電カーボン、微粒シリカが挙げられる。異形フィラーとしては、例えば、ガラスフレーク、異形断面ガラス繊維が挙げられる。また、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、オキシベンゾイルポリエステル、ポリイミド等の耐熱性樹脂粒子、染料、顔料等の着色材も挙げられる。これら任意成分は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これら任意成分の使用量は、液晶高分子組成物100重量部に対して、通常0〜250重量部、好ましくは0〜70重量部、より好ましくは0〜50重量部、さらに好ましくは0〜25重量部である。
【0068】
また、本発明の液晶高分子組成物には、必要に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ホリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド等の熱硬化性樹脂が、1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0069】
〈液晶高分子組成物の製造方法〉
本発明の液晶高分子組成物は、例えば、液晶高分子と芳香族ポリスルホン樹脂、さらに必要に応じて用いられる他の成分を、ヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いて混合した後、その混合物を押出機を用いて溶融混練し、組成物ペレットとすることで得られる。また、液晶高分子と芳香族ポリスルホン樹脂、さらに必要に応じて用いられる他の成分を、異なるフィーダーから段階的に押出機に導き、溶融混練することで得られる。後者の場合、押出機に導く順序は任意であり、通常は熱可塑性成分をあらかじめ加熱溶融させてから不融成分を導く方法がとられる。また、前記方法の組み合わせ、すなわち、あらかじめ一部の成分を混合分散化しておき、それを、押出機で加熱溶融させた残りの熱可塑性樹脂に投入して混練することにより、組成物ペレットにしてもよい。また、溶融混練は必ずしも押出機である必要はなく、バンバリーミキサーやロールを用いることもできる。組成物はペレットとすることが、後の射出成形や押出成形において取り扱いが容易になるため好ましい。なお、押出機としては、2軸の混練押出機を用いることが、各成分の分散性を向上させることができて、好ましい。
【0070】
〈液晶高分子組成物の成形方法〉
本発明の液晶高分子組成物は、従来公知の溶融成形、好ましくは、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、プレス成形に適用可能である。また、Tダイを用いたシート成形、フィルム成形、インフレーション成形等のフィルム製膜、溶融紡糸にも適用可能である。
【0071】
特に、様々な形状の成形品を製造でき、高生産性が達成可能であることから、射出成形が有利に適用される。
【0072】
好適な射出成形では、まず、組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)を求める。ここで、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用いて、9.81MPa(100kgf/cm2)の荷重下、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体を昇温しながらノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度である。本発明においては、流動開始温度を測定する装置として、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いる。
【0073】
次いで、組成物ペレットの流動開始温度FT(℃)に対して、[FT]℃以上[FT+250]℃以下の温度で組成物ペレットを溶融させ、0℃以上の温度に設定された金型に射出成形する。なお、組成物ペレットは、射出成形する前に乾燥させておくことが好ましい。
【0074】
樹脂溶融温度があまり低いと、流動性が低く微細な形状において完全に充填することができなかったり、金型面への転写性が低く成形体表面が荒れる傾向があったりして、好ましくない。一方、樹脂溶融温度があまり高いと、成形機内で滞留する熱可塑性樹脂の分解が生じて、その結果、得られる樹脂成形体に成形時に膨れを生じて表面が荒れたり、ガス等が発生し易くなり、成形品を組み込んだ下流の製品、システムでそのガスが悪影響を及ぼすために様々な用途に適用し難くなったりする。また、射出成形後、金型を開いて樹脂成形体を取り出す際にノズル側から溶融樹脂が流れ出るような弊害(一般的に洟垂れと称する現象)が生じ易いことから、樹脂成形体の生産性が低下するといった問題も生じる。さらには分解ガスが金型等の装置を腐食する問題もあるため、好ましくない。樹脂成形体の安定性と成形性を考慮すると、樹脂溶融温度は[FT+10]℃以上[FT+200]℃以下であることが好ましく、[FT+15]以上[FT+180]℃以下であることがより好ましい。
【0075】
また、金型温度は前記のとおり、通常0℃以上に設定されるが、必ずしも限定されるものではなく、得られる成形体の外観、寸法、機械物性に加え、加工性や成形サイクルといった生産性を加味して決定される。一般的には40℃以上が好適である。該金型温度があまり低いと、連続成形した際の金型温度のコントロールが難しくなり、その温度ばらつきが成形品に悪影響を及ぼすことがあるため、好ましくない。また、金型温度は、より好ましくは金型温度は50℃以上である。該金型温度があまり低いと、得られる樹脂成形体の表面平滑性が損なわれる。表面平滑性を上げる観点からは、金型温度は高いほど有利であるが、高すぎると冷却効果が低下して、冷却工程に要する時間が長くなるために生産性が低下したり、離型性の低下により成形体が変形したりする等の問題が生じるため、好ましくない。さらにいえば、金型温度を上げすぎると金型どうしの噛み合いが悪くなり、金型開閉時に破損する危険性も増加する傾向もある。該金型温度の上限も、前記組成物ペレットに含まれる溶融成形加工用樹脂組成物の分解を防止するために、適用する組成物ペレットの種類に応じて適宜最適化することが好ましい。なお、金型温度は、50℃以上220℃以下であることが好ましく、70℃以上200℃以下であることがより好ましい。
【0076】
本発明の液晶高分子組成物は優れた加工流動性や耐熱性、機械物性、難燃性等を活かし、電気・電子部品、光学部品等の構造部材、機械や機構部品に好適である。当該電気・電子部品、光学部品としては、例えば、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップレンズホルダー、光ピックアップベース、発振子、プリント配線板、 回路基板、半導体パッケージ、コンピュータ関連部品、カメラ鏡筒、光学センサー筐体、コンパクトカメラモジュール筐体(パッケージや鏡筒)、プロジェクター光学エンジン構成部材、ICトレー、ウエハーキャリヤー、等の半導体製造プロセス関連部品;VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、電気ポット、照明器具、等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー等照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク、スピーカー、等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム等の通信機器部品;分離爪、ヒータホルダー、等の複写機、印刷機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース、等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品等の自動車部品、マイクロ波調理用鍋、耐熱食器、等の調理用器具;床材、壁材などの断熱、防音用材料、梁、柱などの支持材料、屋根材等の建築資材、または土木建築用材料;航空機、宇宙機、宇宙機器用部品;原子炉等の放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。例中、液晶高分子組成物の評価方法は以下のとおりである。
【0078】
〈比重〉
射出成形機にてASTM4号ダンベルに成形し、ASTM D792に準拠して測定した(23℃)。なお、ASTM4号ダンベルの代わりに64×64×3mm厚みの試験片や長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片を用いても、同等の結果となった。
【0079】
〈荷重たわみ温度〉
射出成形機にて6.4mm厚みの試験片(127mm長×12.7mm幅×6.4mm厚み)に成形し、ASTM D648に準拠して測定した。
【0080】
〈引張強度、引張伸び〉
射出成形機にてASTM4号ダンベルに成形し、ASTM D638に準拠して測定した(23℃)。
【0081】
〈曲げ強度、曲げ弾性率〉
射出成形にて6.4mm厚みの試験片(127mm長×12.7mm幅×6.4mm厚み)に成形し、ASTM D790に準拠して測定した(23℃)。
【0082】
〈Izod衝撃強度〉
射出成形にて6.4mm厚みの試験片(127mm長×12.7mm幅×6.4mm厚み)に成形し、ASTM D256に準拠して測定した(23℃)。
【0083】
〈液晶高分子の製造〉
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)及び触媒として1−メチルイミダゾール0.194gを添加し、室温で15分間攪拌して反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。プレポリマーの流動開始温度は261℃であった。得られたプレポリマーは室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持し、固層で重合反応を進めた。得られたポリエステルの流動開始温度は327℃であった。このようにして得られたポリエステルを、液晶高分子として用いた(以下「LCP1」と略記する。)。
【0084】
〈芳香族ポリスルホン樹脂〉
芳香族ポリスルホン樹脂として、前記式(1)においてPh1及びPh2がそれぞれp−フェニレン基である繰返し単位を有する以下のものを用いた。
住友化学(株)製「スミカエクセル3600P」:ヒドロキシル基類を有しない。還元粘度0.36dl/g(以下「PES1」と略記する。)。
住友化学(株)製「スミカエクセル4100P」:ヒドロキシル基類を有しない。還元粘度0.41dl/g(以下「PES2」と略記する。)。
住友化学(株)製「スミカエクセル4800P」:ヒドロキシル基類を有しない。還元粘度0.48dl/g(以下「PES3」と略記する。)。
住友化学(株)製「スミカエクセル5200P」:ヒドロキシル基類を有しない。還元粘度0.52dl/g(以下「PES4」と略記する。)。
住友化学(株)製「スミカエクセル5003P」:ヒドロキシル基類を8.6×10-5個/g有する。還元粘度0.51dl/g(以下「PES5」と略記する。)。
【0085】
なお、芳香族ポリスルホン樹脂中のヒドロキシル基類の含有量は、所定量の芳香族ポリスルホン樹脂をジメチルホルムアミドに溶解させ、過剰量のパラトルエンスルホン酸を加えた後、電位差滴定装置を用いて、0.05モル/Lのカリウムメトキシド/トルエン・メタノール溶液で滴定し、残存パラトルエンスルホン酸を中和した後、ヒドロキシル基を中和し、このヒドロキシル基の中和に要したカリウムメトキシドの量(モル→個数)を、芳香族ポリスルホン樹脂の前記所定量(g)で割ることにより、求めた。
【0086】
また、芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度は、芳香族ポリスルホン樹脂約1gをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dlとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定し、また、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドの粘度(η0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定し、比粘性率((η−η0)/η0)を、前記溶液の濃度(約1g/dl)で割ることにより、求めた。
【0087】
〈ガラス繊維〉
ガラス繊維として、セントラル硝子(株)製「ミルドガラスファイバー EFH75−01」を用いた(以下「GF1」と略記する。)。
【0088】
実施例1〜4、比較例1〜6
表1に示す成分を、表1に示す割合で、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、その混合物を、二軸押出機(池貝鉄工(株)製「PCM−30」)を用いて、シリンダー温度360℃で造粒し、液晶高分子組成物ペレットを得た。この組成物ペレットを、温風循環式乾燥器を用いて、180℃で12時間乾燥後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製「PS40E−5ASE型」)を用いて、シリンダー温度360℃、表1に示す金型温度にて射出成形し、前記各試験片を得、前記各評価を行い、結果を表1に示した。
【0089】
比較例7、8
LCP1を、二軸押出機(池貝鉄工(株)製「PCM−30」)を用いて、シリンダー温度360℃で造粒し、LCP1のペレットを得た。このペレットを、温風循環式乾燥器を用いて、180℃で12時間乾燥後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製「PS40E−5ASE型」)を用いて、シリンダー温度360℃、表1に示す金型温度にて射出成形し、前記各試験片を得、前記各評価を行い、結果を表1に示した。
【0090】
【表1】

【0091】
比較例7、8より、液晶高分子単体では、射出成形時の金型温度により荷重たわみ温度や引張強度が大きく変動しており、物性面で安定した成形体を得ることが困難であることがわかる。
【0092】
比較例5、6より、液晶高分子にガラス繊維を配合することで、射出成形時の金型温度による荷重たわみ温度や引張強度の変動はなくなり、物性面で安定した成形体を得ることが可能であるが、比重の大幅な増加、引張強度の低下、Izod衝撃強度の大幅な低下など、液晶高分子の本来の性能が犠牲になっていることがわかる。
【0093】
一方、実施例1、2より、液晶高分子にヒドロキシル基類を所定量有する芳香族ポリスルホン樹脂を配合することで、金型温度による荷重たわみ温度や引張強度の変動がなくなり、物性面で安定した成形体を得ることが可能であると共に、実施例1〜4と比較例1〜4との比較で明らかなように、ヒドロキシル基類を有しない芳香族ポリスルホン樹脂を用いると、荷重たわみ温度や引張強度に著しい低下が見られることがわかる。
【0094】
このように、液晶高分子にヒドロキシル基類を所定量有する芳香族ポリスルホン樹脂を配合することで、荷重たわみ温度の低下を抑制しつつ、引張強度やIzod衝撃強度の向上した優れた成形体物性が安定して得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶高分子と芳香族ポリスルホン樹脂とを含む液晶高分子組成物であって、前記芳香族ポリスルホン樹脂が、ヒドロキシル基及び/又はその塩を、前記芳香族ポリスルホン樹脂1gあたり、6×10-5個以上有することを特徴とする液晶高分子組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリスルホン樹脂の含有量が、前記液晶高分子の含有量100重量部に対して、0.5〜100重量部である請求項1に記載の液晶高分子組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリスルホン樹脂が、下記式(1)で表される繰返し単位を有するものである請求項1又は2に記載の液晶高分子組成物。
−Ph1−SO2−Ph2−O− (1)
(Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、下記式(4)で表される基を表す。)
【化1】

(R1は、炭素数1〜3のアルキル基、ハロゲノ基、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、フェニル基、又はヒドロキシル基若しくはその塩を表す。n1は、0〜2の整数を表し、n1が2である場合、2つのR1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度が、0.25〜0.60dl/gである請求項1〜3のいずれかに記載の液晶高分子組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液晶高分子組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2011−178829(P2011−178829A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41899(P2010−41899)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】